Progress of Geological Sequestration of CO2 (in Japanese)

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CO 2 地中貯留 地中貯留 地中貯留 地中貯留技術 技術 技術 技術の歩み Progress of Geological Sequestration of CO 2 小出 小出 小出 小出 仁 Hitoshi Koide Climate Control Geosystem Laboratory, Japan 温暖化防止 温暖化防止 温暖化防止 温暖化防止地球システム 地球システム 地球システム 地球システム株式会社 株式会社 株式会社 株式会社 2011

Transcript of Progress of Geological Sequestration of CO2 (in Japanese)

CO2 地中貯留地中貯留地中貯留地中貯留技術技術技術技術のののの歩歩歩歩みみみみ

Progress of Geological Sequestration of CO2

小出小出小出小出 仁仁仁仁

Hitoshi Koide

Climate Control Geosystem Laboratory, Japan

温暖化防止温暖化防止温暖化防止温暖化防止地球システム地球システム地球システム地球システム株式会社株式会社株式会社株式会社

2011

Koide
タイプライターテキスト
Hitoshi Koide (2011) Progress of Geological Sequestration of CO2, C.C. Geosystem Lab., Tokyo, Japan, 55p. [小出 仁 (2011) CO2地中貯留技術の歩み,温暖化防止地球システム(株),東京,55p.]

Reprints ofReprints ofReprints ofReprints of

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地 中 隔 離 技 術地 中 隔 離 技 術地 中 隔 離 技 術地 中 隔 離 技 術 (3(3(3(3)))),,,, 月 刊 エ コ イ ン ダ ス ト リ月 刊 エ コ イ ン ダ ス ト リ月 刊 エ コ イ ン ダ ス ト リ月 刊 エ コ イ ン ダ ス ト リ

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地中固定-地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解地中固定-地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解地中固定-地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解地中固定-地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解

決へ-、決へ-、決へ-、決へ-、未来材料、第未来材料、第未来材料、第未来材料、第 2222 巻第巻第巻第巻第 8888 号号号号,p,p,p,p....39393939----45454545

(5)(5)(5)(5) 小出小出小出小出 仁仁仁仁 (2003) 地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクルの提案、の提案、の提案、の提案、

地圏長期評価研究協会会報、第地圏長期評価研究協会会報、第地圏長期評価研究協会会報、第地圏長期評価研究協会会報、第4号号号号,p.26-34

(6)(6)(6)(6) 小出小出小出小出 仁、篠田淳二仁、篠田淳二仁、篠田淳二仁、篠田淳二 (2007) 微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)CO2注入による非構注入による非構注入による非構注入による非構

造性帯水層隔離法の提案造性帯水層隔離法の提案造性帯水層隔離法の提案造性帯水層隔離法の提案, (社社社社)資源・素材学会資源・素材学会資源・素材学会資源・素材学会 平成平成平成平成19年度春季大会講演集年度春季大会講演集年度春季大会講演集年度春季大会講演集,p.151

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(7)(7)(7)(7) 小出小出小出小出 仁仁仁仁 (2010) 大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの

試み試み試み試み, 資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集 , p.1-4

(8)(8)(8)(8) 小出小出小出小出 仁仁仁仁 (2011) 大気大気大気大気 CCS:カウンター・ジオエンジニアリングの考え方:カウンター・ジオエンジニアリングの考え方:カウンター・ジオエンジニアリングの考え方:カウンター・ジオエンジニアリングの考え方,

資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集 , p.1-4

Z蕊:ECO・r•,,.邑司‘Engineering

唖「副噌官、~v

C02地中隔離技術(1)

小出仁*

1996年からノルウェーで C02地中隔離の実操業が開始された。また,原油増進回収法

などでも C02を地中に大規模に圧入している例は多数あり, C02地中隔離はすでに実用

技術になっているといえる。しかし,新しい技術であるだけに,地中における C02の挙

動がよくわかっていないなど,今後に残されている重要な研究課題も多い。

世界全体では少なくとも 3兆トンの C02地中隔離が可能で,深海底下の堆積層を利用

すれば,ハイドレート化による自己封入作用により地質構造にかかわらず隔離できるので,

事実上無尽蔵といえる。安全性は高く,コストやエネルギーロスも比較的小さい。

水溶性ガス・メタンハイドレート・炭層ガスなどの単独では商業生産の困難な天然ガス

をC02地中圧入により回収し,未利用のエネルギー資源を活用できるようにすることに

より,エネルギーロスというマイナス面を補う試みが最近進んでいる。さらに,帯水層中

の嫌気性メタン細菌などの作用により, C02をCH4に変え,メタン鉱床として再生させ

られる可能性がある。地盤沈下防止,凍土層やハイドレート層の補強などの副次的な効果

も期待できる。

1. C02地中隔離の意義

1996年からノルウェーで C02地中隔離の実操

業が開始された1)。また,カナダでも C02を含む

酸性ガスの地中圧入が数カ所で実施されている九

米国などの産油国で原油増進回収のために C02

を地中に大規模に圧入している例は多数ある。

C02地中隔離はすでに実用技術になっているとい

える。しかし,新しい技術であるだけに,地中に

おける C02の挙動がよくわかっていないなど,

重要な研究開発課題が多く残されている。安全性

を高め,効率を高め,コストを低下させ,さらに

隔離だけではない C02地中圧入の積極的な利益

を高めようとする研究が開始されている九

C02地中隔離は安全性が高く,世界全体では 3

兆トン以上の C02隔離が可能で, コストやエネ

ルギーロスも比較的小さい九 C02地中隔離の実

用化により,世界の温室効果ガス排出を大幅に削

減する能力をもち,真に即効性のある巨大技術が

誕生したと評価されている。温室効果ガスの排出

量,特に C02の排出量は膨大なので,地球全体

での地球温暖化ガスの排出削減に貢献することは

至難の業である。地球温暖化防止は,エネルギ一

利用効率の向上や省エネルギーや再生可能エネル

ギーの利用などのいわゆる Noregret policyに

よる C02排出削減によって達成するのが理想的

* Hitoshi Koide 通商産業省工業技術院地質調査所主任研究官

Vol.5 No.2 2000 21

Koide
タイプライターテキスト
Hitoshi Koide (2000) Geological sequestration of CO2, ECO INDUSTRY, (1) Vol.5-No.2,p.21-28, (2) Vol.5-No.3,p.14-23, (3) Vol.5-No.4,p.19-27 [小出 仁 (2000) CO2地中隔離技術,月刊エコインダストリー, (1) Vol.5-No.2,p.21-28,(2) Vol.5-No.3,p.14-23,(3) Vol.5-No.4,p.19-27]

である。しかし,非常に大量の C02排出削減を

実現しなければ地球温暖化防止策として有効でな

いため,痛みを伴うような生活スタイルの変更や

産業構造の抜本的改革が求められている。

現在,化石燃料は悪者扱いされているが,近代

文明が発達したのは効率のよいエネルギー源であ

る化石燃料の,恩恵である。現在および将来も当分

は化石燃料が世界の主要エネルギー源であること

は変わりそうもなL、。 C02回収一隔離技術は化石

燃料を使いながら C02排出をほとんどゼロにで

きるので,産業構造をあまり変えずに地球温暖化

防止が可能になるという長所がある。実際には,

エネルギ一利用効率の向上や省エネルギーや再生

可能エネルギーの利用を最大限に推進したうえで,

原子力や C02回収一隔離技術を組み合わせて,

必要な大幅な温室効果ガス排出削減を実現するベ

ストミ yクスを選択することになると思われる。

化石燃料を利用しながら C02を大気中に放出

しないようにするためには,大気以外のところに

隔離しなければならなし、省エネルギーやリサイ

クルは,処分しなければならない C02の量を減

らしたり,処分の時期を遅らせることはできる。

しかし,エネルギー源として化石燃料を利用する

以上は,発生する C02の落ち着き場所を大気外

に用意しなければならない。世界中で大量に地下

から掘り出される石油・石炭・天然、ガスの燃焼に

よって,年間約200億トン, 1気圧での容積にし

て約 10兆 m3のC02が地上にもたらされる。全

地球表面を毎年 2cmの厚さで覆うことができる

量の C02が毎年増え続けるので,それを地表に

置くことができないのは明らかである。

化石燃料の大量使用による C02の大気中への

大量な人為的排出が地球温暖化の主要な原因とさ

れている。将来の大気中のC02含有量の増加とそ

の影響については,必ずしも明らかではなし、。し

かし,自然、のバランスをあまり大きくはずれない

ように早く対策をとる必要がある。化石燃料の中

でも特に石炭は燃やすと大量の C02を排出する

が,世界的には資源量が大きいので貴重なエネル

ギー源として欠かすことはできない。石炭などの

22

化石燃料を使用しながら,大気の C02含有量の

増加を抑制するには, C02大量回収・固定技術を

実用化する必要がある。

C02回収・固定技術には,大気から直接回収す

る方法と,火力発電所や工場などの大量固定発生

源から C02を回収して大気中への放出を抑制す

る方法がある。大気中の低濃度のC02を回収する

には,エネルギーロスの大きな物理・化学的な回

収法よりも,植林や藻類・珊瑚の増殖のような生

物処理が有望である。他方,火力発電所や工場な

どで化石燃料を燃やした後に発生する廃ガス中に

高濃度に含まれる C02の回収には物理・化学的

な方法が有望であり,研究が進んでいる。生物処

理には速効性は期待できず,広大な面積を必要と

し,エネルギー効率もよくないという欠点があり,

環境保護の観点や食料・原料生産なども考慮した

長期かっ永続的な取り組みに適している。物理・

化学的な回収法は濃度が高いほうが回収の効率が

よくエネルギーロスが少ないので,火力発電所や

製鉄所などの廃ガスから C02を回収する方法に

効果的である。大量固定発生源からの C02回収

法の研究は盛んに進められているが,回収した大

量の C02を貯蔵または隔離する方法の開発が遅

れていた。

毒性は低い代わりに大量処理が必要であること

がC02対策の特質である。大量処理のためには

エネルギー消費が極力少なく,コストの安い方法

でなければ実用化できない。温室効果を別にすれ

ば,空気中に 0.5%以内の濃度であれば C02は無

害である。 C02を溶解した炭酸水やそれを加工し

た炭酸飲料は,晴好品として日常に飲まれているO

低毒性の C02でも高濃度で集中すると有害にな

る。炭酸は弱酸であるが,高圧下で多量に溶解さ

せると強い酸性になり深海生物に有害になる。し

かし,圧力が下がると余分な C02は遊離して,

低濃度になった炭酸水は弱酸性なので,地表の水

はほぼ無害になる。

C02による災害としてはニオス湖事件が知られ

ている。 1986年アフリカ西部カメルーンのニオ

ス湖で,急に炭酸ガスが突出し,大量に谷へ流入

ECO INDUSTRY 2月号

したため,多くの死者が出た特異な事件であるO

火山地帯では,地下深部のマグAマから遊離してき

たC02が地表に徐々に浸出していることがしば

しばある。この C02が炭酸鉱泉を作ることもあ

るが,希薄なので気づかないことが多L、。しかし,

熱帯の火山地帯にあるニオス湖では,対流がなく

停滞した底層水に地下から浸出してきた C02が

徐々に溜まり,飽和状態になっていて,何かのきっ

かけで発泡して急激な対流が起こり一気に放出さ

れたと考えられている5〕。 C02は空気より比重が

重いため,大量に低地に流れ込むと空気を排除し

てしまい,高濃度になったと考えられる。日本の

火山地域でも比重の重い C02が窪みや井戸など

に静かに滞留して高濃度化していることに気づか

ないで入ったために中毒死するケースもときたま

起こるO

沸騰や発泡などによる突出や窪みへの滞留に注

意すれば, C02が低濃度で混入した空気や地表に

おける C02溶解水は人体には無害である。この

ような C02の特質に適した方法で,十分長期に

わたって安全確実に, しかも経済的に C02を隔

離する技術を開発する必要がある。

2. C02の地下空洞への貯蔵・隔離

分離・回収した C02が炭酸カルシウムのよう

な安定な固体になっていれば,地表での埋立てや

ごく浅い半地下の埋設も可能であるし,土壌改良

やセメントなどの半永久的な利用法も期待できる。

炭酸カルシウムも酸には弱いので,酸性雨が降る

ような状況ではある程度の深度に埋設する必要が

出てくる。

同じ固体でも C02 ドライアイスの場合は,低

温に保つ必要があるので,貯蔵はかなり困難にな

る。直径約 200mもの巨大なドライアイスの球を

作り,半地下式の貯蔵所に置くという方式も提案

されている九 C02は徐々に昇華し大気中に放出

されるが,全部昇華するのには数千年を要するの

で,排出を遅らせることができ,その聞に抜本的

対策を立てることができるとし寸。地上や半地下

式の貯蔵所に C02 ドライアイスを長期貯蔵する

Vol.5 No.2 2000

のは,発生源の近くで貯蔵できるので輸送コスト

が掛からない利点はあるが,断熱・防水の設備が

必要であるうえに,安全性に問題があり,監視も

必要と思われるので,安全対策や土地代まで考え

ると実質的なコストは高くなる。

比較的短期間であれば,頑丈なタンクやサイロ

に貯蔵することができるが,人造物は長期の耐久

性は保証できないので,数百年・数千年の長期に

わたる場合は地下空洞などに収容するほうが安全

といえる。南極地域の極低温を利用して,半地下

空洞や氷床に C02ードライアイスを貯蔵するとい

う提案もされているが7),輸送や気候変化が問題

になる。

C02ーハイドレート(クラスレート,シャーベッ

ト状の水和物)の場合は,圧力は必要であるが,

安定な温度条件がドライアイスより高くなり,流

体ではないが変形しやすいので複雑な形状の地下

空洞でも隔離できる。ゼオライトに吸着させるな

ど,固体に吸収させた場合は,その安定度に応じ

た深度の地下空洞に貯蔵できると思われる。 C02

ドライアイスを深部の地下空洞内に低温貯蔵す

る方式は,地上方式より安全性は高いが,天然の

洞窟や鉱山などの既存の空洞が利用できないと掘

削コストの負担が大きい。金属鉱山の空洞は岩盤

が比較的丈夫であるが空洞の容積が小さし、。炭鉱

は岩盤の強度が比較的低く,空洞がつぶれている

ことが多いが,その場合でも完全に空洞が閉じて

いるわけではないので流体やシャーベット状のC

02ーハイドレートであれば相当量の隔離ができ

ると思われる。また, C02を圧入して,炭層ガス

を回収できれば,資源の有効利用にもなる。炭鉱

空洞への C02-ハイドレート貯蔵は,シベリアの

ような極寒地では検討する価値がある。

天然、の空洞としては,石灰岩層中の鍾乳洞が適

しているが,地下の鍾乳洞の位置や規模を知るの

はかなり困難な作業である。天然空洞も形状が不

規則なので,流体やシャーベット状でないと搬入

が困難であろう。天然空洞や旧鉱山の空洞はコス

トの安い貯蔵場所として期待できるが,日本の膨

大な C02排出量に比較すれは、収容能力はごく小

23

さし、。

日本には溶解によって安価に空洞を作れる岩塩

層もないので,人工空洞への貯蔵のためには経済

的な無人掘削技術の開発が必要である。軟岩中の

無人掘削技術は比較的コストが安いが,大規模な

C02地中隔離に利用するには,コスト・安全性共

にまだ改善が必要と思われる。

3.枯渇油田・ガス田および閉塞帯水

層への C02地中隔離

石油や天然、ガスは,地下の岩層中の微

細な空隙に,数百万年・数千万年の長期にわた

り蓄えられていたものを,現在採取して使用して

いる。石油や天然ガスが地下の巨大空洞にプール

のように貯まっていると誤解している人が多いが,

地下では岩圧が大きいため,巨大空洞は長期間安

定に存在できない。実際は,石油や天然ガスは岩

石中の顕微鏡でも見えないくらいの微細な無数の

空隙中に分散して含まれている。地下の岩石中の

空隙には水が満たされていて,スポンジに吸収さ

れているのと同じ状態になっている。天然ガスな

どの炭化水素も地下の岩石の微細な空隙中に含ま

れていることがある。炭化水素分が異常に多く含

まれている地層がまれにあり,石油鉱床や天然ガ

ス鉱床になる。

堆積岩は,海岸付近や川底に堆積した砂や,海

底や湖底に堆積した泥が,長年にわたって押し固

められて岩石化したものである。乾いた砂をバケ

ツに入れて水を注ぐと,多量に吸い込んでしまう。

堆積したばかりの砂は,見かけの容積の半分以上

最唱惨 ., .... 畠

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が空隙になっている。たとえは句,数百万年後になっ

て,数百mの地下深部に埋もれると,砂の閣の

空隙が押し潰されて小さくなるうえに,腰結物質

が砂粒の聞を埋めて砂岩になるが,それでも空隙

の合計容積は全岩体容積の数%から 30%以上も

あるものがある(図 1)。このような微細な空隙

の多い砂岩やもっと粒子の大きい礁の集まった蝶

岩は,水やガスが透過しやすいので,透水層とよ

ばれる。空隙の多い砂岩層や喋岩層は,地下深部

では地下水を多量に蓄えていることが多く,その

ため帯水層とよばれることがある。きわめて粒子

の細かい泥が堆積し,圧密されてできた泥岩や頁

岩も,実は空隙率としては結構大きいことが多い

が,空隙がきわめて微細なため水やガスをほとん

ど透さない。このため不透水層あるいは難透水層

とよばれる。

堆積岩中には,砂や泥と一緒に生物の遺骸など

の有機物が閉じ込められ,石油や天然ガスの元に

なる。堆積岩中で有機物からできた炭化水素は

(成因には諸説あり,地中の熱が重要であるが,

最近は地中微生物の貢献が注目されている),水

より軽いため帯水層中を浅い方に移行し,通常は

散逸する。しかし,炭化水素を含んだ帯水層の周

固または上方を難浸透性の泥岩などのキャップロッ

ク(帽岩)が覆った封塞構造(トラップ)がある

と, トラップの下に炭化水素が溜まり,条件のよ

い場合には石油や天然ガスの鉱床になる(図 2)。

ガス田や油田は,天然ガスや油田ガスを数百万

年以上もの長期にわたって隔離してきた。すでに

天然ガスの貯蔵に大規模に利用されているよう

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-I 石英などの粒子 |

咽鴫瞬 l 膝桔物質 I

|地下水、ガス、原油|

図1 堆積岩の空隙

24 ECO INDUSTRY 2月号

図2 帯水層と油・ガス鉱床の模式図

堆積盆地のもっとも浅い堆積層中の微細な空隙には,地表から天水が浸透し,常に水が循環している開放帯

水層になる。循環水は淡水で,飲用や農業用などの貴重な水資源として利用される。しかし,海岸付近では

海水が入り込み,塩水になる。堆積盆地の深部は,完全に閉塞されてはいないが,浸透し難し循環に時間

がかかるため古い水が残り,一部は準化石塩水を含む帯水層がある。さらに深部には不透水層で閉じ込めら

れた閉塞帯水層があり,微細な空隙中に古い化石塩水が閉じ込められている。化石塩水や準化石塩水は, し

ばしばメタンで飽和しており,水溶性天然力引ス鉱床になることがある。さらに炭化水素分に富むと,帯水層

中のもっとも浅い背斜部に集中し,含ガス層や含原油層になり,天然ガス鉱床や石油鉱床として採取される。

に8〕,ガス回や油田のトラップには気体や液体を

長期隔離する能力が元来備わっている。粘度や比

重が高く不燃’性で毒性も小さい C02は, メタン

を主成分とする天然ガスよりむしろ容易に長期隔

離ができる。枯渇したガス田や油田に C02を流

体状(気体,液体,超臨界流体,または水溶液)

で圧入する方法は,コストと確実性から有望な貯

蔵法と考えられる(図 3)。

原油は地下深部の岩石の微細な空隙に含有され

ているので,完全に採取するのは困難である。そ

のため一見枯渇したように見える油田でも,実は

地下の岩層中にはまだ多量の原油が残されてし唱。

このため,枯渇しかけた含油層に水などを圧入し,

岩石の微細な空隙中に残された原油を追い出して

回収する原油増進回収法(EOR)が開発されてい

る。 C02を含油層に圧入すると原油の粘度を低下

させるため,効果的な原油増進回収法になる。

C02を含油層に圧入するC02-EORはすでに産

Vo/ .5 No.2 2000

油国などで多くの実績があり,日本でも実証実験

が行われている。 C02を地中に圧入して,石油や

天然ガスを回収することができれば,温室効果ガ

ス排出削減とエネルギー資源の回収の双方に貢献

できる一石二鳥の技術になりうる。

地下深部に存在する流体には,通常,地下水面

からの深さに応じた水柱の荷重=水頭圧が加わっ

ている(以後,静水圧とよぶ)。水の密度はほぼ1

g/cm3として,地下水面はほぼ地表に近いので深

度 lOOOmで約 lOMPa,深度2000mで約 20MPa

の静水圧が地下の岩盤中の流体に加わっていると

近似的には考えられる(図的。ただし,閉塞帯

水層中の流体には深度から単純に計算されるより

静水圧より大きな圧力が加わっていることがある

(異常高圧)。

C02を地下に圧入するには,帯水層内の間隙流

体圧力以上の圧力を加えないと圧入できなし、。気

体の場合は,同一温度であれば圧力にほぼ反比例

25

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図3 co,を閉塞帯水層中に圧入し,石油や天然ガスを押し出して採取することが可能

石油や天然ガスが貯留されていた帯水層は,長期間ガスを閉じ込めておけるので, co,を気体または超臨界

流体状で完全に隔離できる。半閉塞の帯水層でも co,を準化石塩水に溶解させて,長期に隔離できる。

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1000

Depth(m)

1500

Hyd

2000

2500

3000 0.8kg/l 。H

V’3 1

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k

ζ0

00

l.Okg/I

した容積に圧縮される。したがって,高圧で圧入

したほうが貯蔵量が多くなる。しかし, C02を貯

留するリザーパー(貯留層)より上部に流体の移

動を妨げる難浸透性のキャップロックがなければ

静水圧以上にあまり圧力を上げることはできない。

油田や天然ガス田ではしっかりしたキャップロッ

クがあるので,静水圧以上に流体圧を上げること

26

5 g/l

IO

Pressure

15

(MPa) 図4 地下の温度・圧力条件における C02の状態

(単体で存在する場合)

圧力(MPa)は静水圧(水頭圧)に等しいと

する。貴CPは臨界点(温度 31.l。C,圧力 7.39

MP a),太い曲線が沸騰線,細直線がco,密度を示す。点分布域がハイドレート(水和物)の

生成領域。太い直線A~Dは堆積盆地の典型的

な地温分布を示す。

20

25

ができる。

しかし,流体の圧力がキャップロックの最小応

力以上になるとキャップロックにヲ|っ張り割れ目

を生じて,流体の漏れ口ができる可能性が出てく

る。岩体の最小応力は上載岩庄(静岩圧という)

と同じか,やや低い程度であるので,静水圧の約

2倍から 2.5倍程度である。しかし,キャップロッ

ECO INDUSTRY 2月号

クの最小応力以下でも,流体圧が増加すると有効

応力が低下するために,キャップロックの応力状

態によっては破壊の可能性が出てくる。有効応力

の低下は誘発地震の原因にもなるO 石油や天然ガ

スの良好なリザーパーを含むような孔隙率の大き

い堆積岩は軟質なので,方向による応力の違い

(応力偏差)は小さいことが多いので,有効応力

が低下しでも誘発地震は発生し難く,また発生し

でも大きな地震にはならないと思われる。しかし,

流体圧の上昇が基盤岩中にも及ぶと,誘発地震の

可能性が増す。また,流体圧の上昇は地盤隆起を

起こす可能性があり,逆に流体圧を低下させると

地盤沈下につながる恐れがある。

地下 lOOOmもの深部にある貯留層内部の流体

圧変化により地表に顕著な局部変動が生じる可能

性は小さいが,地下の流体圧は元の自然状態での

圧力(初生圧)からあまり変えないことが望まし

い。通常の初生圧は静水圧に等しいか,少し高い

程度である。 C02の圧入により,地下の間隙流体

圧があまり上昇しないようにするためには,地下

水や天然ガスの汲み上げを必要に応じて実施し,

貯留圧をコントロールすることが重要になる。

C02の臨界温度は 31.1°C,臨界圧は 7.39MPa,

臨界点における密度は 0.468kg/lである。地下の

Density( kg/I)

0 0.10.20.3 0.40.5 0.60.7 0.8 0.9 1

0

500

\ h『-』町旬、

トート』~-』』ト『『ll.... -‘旬』ー

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1000

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E)王己日{]

2500

3000

深度800m以深では静水圧だけで 8MPa以上に

なるので, C02は超臨界流体になっている(図4)。

超臨界流体の性質は液体に似ているが,圧縮性が

液体より高く気体より低い。地下の岩石およびそ

れに含まれる地下水の温度は深度とともに上昇す

る。日本の堆積盆地では,地温勾配は lOOmにつ

き1°Cから 4°C程度の上昇であり 9〕, lOOOmない

し1500m以深で超臨界温度もほぼ越える(図4)。

超臨界温度を越えれば急激な圧力低下があっても

沸騰現象は起こらない。 C02が超臨界状態になる

地下 lOOOm以深への隔離が望ましいといえる。

図4をみると,堆積盆地の高めの地温分布(例

A:温度勾配4°C/lOOm,地表温度 20°C)や平均

的な地温分布(例B:温度勾配3。'C/lOOm,地表

温度 15°C)では C02は液化しないが,やや低い

地温分布(例 C:温度勾配2。'C/lOOm,地表温度

10°C)では沸騰線を横切り液相が存在しうること

がわかる。温度勾配が低い非常な寒冷地(例 D:

温度勾配2。'C/lOOm,地表温度0。'C)では,深度

300~500m付近で C02ーハイドレートができる。

地層中にハイドレートが生じると,岩石の孔隙や

割れ目を塞ぎ, C02の漏洩を効果的に防ぎ,地中

隔離の環境安全性が高められる。

図5には,地温分布の例 A, C, Dの各場合に

一・- Case 1

-・- Case 2

ー金一 Case3

Density of carbon dioxide

Case 1 :surface temperature= 0℃

thermal gradient=Z℃/lOOm

Case2 :surface temperature= 1 0℃

thermal gradient=Z℃/lOOm

Case3 :surface temperature=20℃

thermal gradient=4℃/lOOm

図5 地温分布

A 温度勾配4°C/lOOm,地表温度20°C, c:温度勾配2℃/lOOm,地表温度 lO°C,

D 温度勾配2℃/lOOm,地表温度O。C,による COz単体密度の違いを示す。

Vol.5 No.2 2000 27

応じた静水圧下における C02単体のおおよその

密度の深度による変化を示した。隔離層の孔隙の

総容積が同じであれば,密度が高いほうが多く隔

離できるので,温度勾配の低い堆積盆地のほうが

一般に効率的であることがわかる。

(以下次号)

文献

1) Korbゆ1,R. and A. Kaddour (1995) Energy

Conuers. Mgmt, 36, 509-512

28

2) Chakma, A. (1997) Energy Conuers. Mgmt,

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3) Koide, H. (1999) Intern. J. Soc.of Mαteriαls

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4)小出仁 (1998)環境管理, 34,750 754

5)久保寺章 (1991)火山噴火のしくみと予知,古今書

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6) Seifritz, W. (1993) Energy Conuers. Mgmt, 36,

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7)本圧孝子,佐野寛 (1993)化学工学会講演要旨集,

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8)石油技術協会 (1983)石油鉱業便覧, 779

9)大久保泰邦〔1993)日本地熱学会誌, 15, 1 12

ECO INDUSTRY 2月号

Z蕊:ECO••'i•阿国hEngineering

量r••噌官、~v

C02地中隔離技術(2)

小出

地下水の流れがきわめて遅いために,堆積当時の

海水が十分に希釈されていないので塩分を含んで

いる。また,化石水とは異なるが,海岸近くや海

底下では海水が侵入して地下水が塩水化している

ことが多L、。したがって,塩水化した帯水層は地

表や水資源として利用される循環地下水から隔離

されている。帯塩水層は,天然ガスや石油のリザー

ノtーのように気体を封入できるような撤密な難浸

透性のキャップロックに守られているとは限らな

70.00

40.00

10.00

00-O

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図6

. . ...., L .... - . v

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.

co,の淡水および塩水への溶解度の

圧力変化

溶解度30.00kg/ton

20.00

60.00

50.00

天然ガスや石油鉱床の下方や周辺には,油田水

やガス回水の層が広がっている。油田水やガス田

水は通常は塩水であり,主に母岩堆積当時の海水

が閉じ込められた化石水である(長い間に岩石と

反応して成分が変わり,麟水とよばれる海水より

塩濃度の高い地下水になっていることがある)。

化石水を含む帯水層は,油田地帯以外の沿海堆積

盆地の地下にも広く存在するが,塩水であるため,

通常の水資源として利用できない。このような化

石水には,堆積物や海水に含まれていた有機物に

由来するメタンが含まれており,水溶性天然ガス

として採取されることがある。商業的に稼行され

ている水溶性ガス田は,千葉県・新潟県・宮崎県

に限られているが,メ夕ンに富む化石水は日本だ

けでなく世界の堆積盆地に膨大に存在する 10)

C02はメ夕ンに比較して*に溶解しやすく,同じ

温度圧力条件下では数十倍溶け込む。したがって,

地下水中にメタンの代わりに C02を大量に溶解

させられる。圧力が高いほど気体は水に溶解しや

すい(図 6)。

一般に水資源として利用される地下水は,地表

からの天水が侵入して,常に循環し,そのため淡

水に保たれている循環水である。化石水は,難透

水性の層などに遮られて古い水が停滞していて

(図2, 2月号p.25),岩石から塩分が溶出したり,

非閉塞帯水層への C02地中隔離4.

3月号ECO INDUSTRY

主任研究官地質調査所工業技術院通産省Hitoshi Koide *

14

Temperature("C) to 20 30 40 50 60 70 80 90

Om

Depth

2

4

6 Pres sun

8 (MPa)

to

12

14

16

20

図7 淡水中の二酸化炭素溶解度(kg/m3)

A, B, Cはそれぞれ地温勾配0.04K/m,0.03

Kim and 0.02K/mの場合の地温分布。

いので,気体または超臨界流体を長期間封入でき

るという保証はない。しかし,水に溶解した CO,

は,地下水が帯塩水層からほとんど動かないか,

動いたとしても流れがきわめて遅いため,長期間

地下に封入されうる(図3,2月号p.26)。

図7に,地下の温度・圧力条件下での co,の淡水 1kgへの溶解度(g)を等高線で示した。実

験は 30~100。Cに限られ,測定データも密では

なし、。 co,が溶解した水の密度が明らかになって

いないし,塩水では若干溶解度が低下するので,

貯留層の孔隙 lJあたりの co,貯留量(g/l) は

図7より少なくなるが,だいたいの傾向を知るこ

とはできる。低温の堆積盆地のほうが貯留能力が

大きいことがわかる(図 8)。水への溶解による

貯留能力はco,単体で貯留するより当然低く,

おおよそ 1/10程度であり,またある程度以上の

深度になれば,それ以上深くしても貯留能力は大

きくならない傾向がある。しかし帯水層は全体の

容積がガス田や油田よりはるかに大きいので,全

体の貯留総能力は大きくなる。

水への溶解による隔離は安全度が高いので,

実際の隔離に際しては,まず地下水に溶解する程

度までの量のco,を圧入し,貯留層ごとに遊離

co,の閉じ込め能力を確かめながら,圧入量をど

Vol.5 No.3 2000

。200

400

600 Depth (m) 800

1000

1200

1400

1600

1800

2000

Solubility(kg!rri')

0 10 20 30 40 50 60

l『『司・・.. 』

. ー』『.司‘司・.同::::...~ c p |、、 \

~

B

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l _j_ . . . 』

図8 淡水中の溶解度深度分布

曲線 A, Band Cはそれぞれ地温勾配

0.04, 0.03 and 0.02K/mの場合。

の程度増やせるかを求めるべきであろう。 図 9

からも明らかなように,寒冷地や海底では地中浅

所でも比較的低温になっているので, co,ハイ

ドレートを形成する可能性が高く, co,の漏洩を

防ぐ効果が期待される。寒冷地や海底下で地温勾

配の低い堆積盆地は,貯留可能量も大きく,漏洩

の恐れの少ない良好な隔離サイトとして期待され

る(図 10)。

炭酸は弱酸であるが, co,を高圧下で多量に溶

解させると, pH3~4程度の酸性になる。酸性

では, co,-イオンが岩石中の炭酸塩鉱物やケイ

酸塩鉱物と中和反応して,炭酸水素イオン化しや

すい。天然、現象としても,大気中の co,が雨水

に溶けて,地下水に入り込み,石灰岩を溶解させ

て鍾乳洞を作ることが知られている。しかし,鍾

乳洞はきわめて長期間に形成されるものである。

co,の溶解度から考えても,短期間に溶解させら

れるのは,岩体の重量のたかだか 1~2%程度

であるので,地盤沈下を引き起こす恐れは少ない

と思われる。また,当面,地中隔離の対象となり

そうな日本の第三紀堆積盆地中には石灰岩などの

炭酸塩岩は少ないので,炭酸塩岩の溶解が地盤沈

下の原因になる恐れはあまりない。しかし,貯留

岩になりそうな砂岩層の中には,炭酸塩鉱物が腰

15

100 Depth

(m)

200

300

Temperature(。 C)10 J 20 30 40

30

!!日II議機種議灘糊闘機機種1mmm1

図9 海底下帯水層の温度・圧力と二酸化炭素地中隔離

B-Q-Tは二酸化炭素の沸騰線, Tは臨界点31.1℃, 7.39MPa,P Q Rは二酸化炭素ーハ

イドレートの分解条件,打点域は帯水層中で二酸化炭素ーハイドレートが形成される可能性

のある領域, JF Kは海水温度曲線(北太平洋), SSDは浅海底下帯水層の模式的温度分

布, DSDは深海底下帯水層の模式的温度分布,図中の数字は二酸化炭素の密度。

図10 二酸化炭素深海底下堆積層隔離

結物質になっているものがあり,腰結物質の溶解

による強度低下について研究する必要がある。

期封じ込めの有効性は立証されている。キャップ

ロックの気密性が最重要ファクターであるが,岩

石の自荷重による静岩圧も封じ込めの重要ファク

ターである。封入される物が気体・液体・超臨界

流体・水溶液・固体のいずれの場合にも有効な封

じ込め機構であるが,流体の場合には静水圧も封

じ込めに重要な役割を果たす。岩盤の強度は,封

入される流体の圧力が静水圧程度であれば重要な

ファクターではないが,流体圧が増すと重要にな

5. C02の地中封じ込め機構

C02地中隔離にあたって, co,を長期かっ安全

に封じ込める機構がもっとも重要である。以下の

ような地中隔離のメカニズムがある。

16

(1) キャップロック(岩盤)による力学的封じ

込め

天然、ガス鉱床によってキャップロックによる長 る。

ECO INDUSTRY 3月号

(2) 水封効果

見逃されているが,実は天然ガスや石油の長期

封じ込めになくてはならないのが,水封効果であ

る。岩石は空隙を必ず含むので, ドライな岩石は

流体を長期に封じ込めておくことはできない。し

かし,地下の岩石は多かれ少なかれ水分を含んで

いて,微細な空隙中で水の界面張力により流体の

動きを妨げる。地下水面より下の深部の岩石中の

空隙には,上方の岩石の空隙中の地下水による水

圧(静水圧)が加わる。地震などのために一時的

に上方の岩石中に帝国し、間隙が生じても,地下水が

すぐに間隙を封じ,水圧により深部のガスなどの

漏洩を防ぐ。水封の効果が長期かっ安全に石油や

天然ガスを封じ込め, また co,の長期封じ込め

にも重要である。

(3) 水への溶解

co,は, co,,H,co,あるいは CO:l-イオンの

形で水に溶解する。特に圧力が高くなるとよく溶

解するので,帯水層において主要な封じ込め機構

になる。

(4)炭酸水素イオン(HCO:l)化による水への

溶解

co,は炭酸塩鉱物と,

caco,+co,十日,o→ Ca→+2HCO:lで表される反応をし,炭酸水素イオン化して水に

さらに溶解しやすくなる。この反応により co,が溶解した地下水は中和される。また,ケイ酸塩

鉱物とも,簡単化すれば下記のような化学式で表

される反応をして炭酸水素イオン化する。

CaSiO,+ 2co,+ H,O → Ca++十2HCO:l+Si02

これらの反応は,石灰岩の溶解や,ケイ酸塩岩の

風化として自然、に進行している反応であるが,

co,の圧入による促進効果の影響を研究する必要

がある。

(5) co,ーハイドレートの生成による自己封入

作用

だいたい 3MPa以上の高圧下で, 5~10℃以

下の低温では岩石の空隙中に co,ハイドレート

が形成され(図的,効果的に流体の透過を妨げ

Vol.5 No.3 2000

る。 co,が水と反応して, co,自身を岩層中に閉

じ込めるので自己封入作用とよばれる(図 10)。

封じ込めている岩層に地震なと、の原因で、亀裂が入っ

たとしても, co,が亀裂を通過する途中でハイド

レート化して亀裂を修復するので,自己封入され

ているときわめて安全である。シベリアやカナダ

などの寒冷地の地下や,水深 300mを越える深海

底下の堆積層はco,ーハイドレートが形成される

温度圧力条件が存在する。

(6) 炭酸塩化(CaCO,など)による沈澱

アルカリ性の水溶液では,水に溶解した co,が,金属イオンなどの陽イオン特にカルシウムイ

オンと反応して沈澱する。

Ca←+2HC03→ caco,+co,+ H,o この反応も天然、にしばしば観察され,岩盤の割

れ目などを閉塞しているので,漏洩防止の効果が

期待できる。

(7) 吸着

石炭はほとんど炭素からなり,良好な吸着材で

ある。地下の炭層はメタンを多量に吸着していて,

最近天然、ガス資源として注目されている。 co,はメタンより石炭に吸着されやすいので,地下の炭

層に co,を圧入すると,メタンを追い出してco,が代わりに吸着される。一石二鳥の効果がある。

ゼオライトなと・への co,吸着はまだあまり研究

されていないが,条件によっては重要な役割をす

る可能性がある。

(8) 地中微生物固定

最近, lOOOmを越える深地中にも多数の微生

物が生きていることが明らかにされている。地中

は酸素がほとんどない還元環境にあるが,嫌気性

の微生物が活動している。化学合成独立栄養微生

物は,太陽光の入らない地中でも, co,を有機物

に変換できる。また,古細菌の一種であるメタン

生成細菌は,還元環境下で co,をメタンに変換

することによりエネルギーをf尋ている。

6. C02の地中隔離システム

co,地中隔離を行う処理システムについて検討

してみよう。火力発電所の排ガスから分離回収し

17

量5000トンのco,が得られる。

火力発電所から lOkm離れた場所にある帯水層

に, co,をパイプラインで送って,複数の圧入井

から地中に 20年間にわたり圧入するとする(図

11)。地下深部の帯水層には天然ガス(主にメタ

ン〕が溶存していることが多いれ、わゆる水溶性

た日量5000トン(年間約 200万トン弱,炭素換

算では年間約50万トンーC)のco,を地下に圧入

するシステムを想定する 11,l九出力 30万 kWの

石炭火力発電所または出力 60万 kWのLNG火

力発電所の排ガスから, アミン法などにより

90%の回収率でco,を分離回収すると,

I I I I 雲I I I I 急I I I I 這

: : : 空I I I I す十

I I I I

I I I I

|監視制御センタート一一一一

r

r

r

クク

骨折

ほぼ日

水・

30km

再巴

10km

10km

二酸化炭素地中隔離システムのフロー図

==炭酸カoス, *・ データ伝送。

Bkm

図 11

3月号ECO INDUSTRY 18

天然ガス)ので,圧入井とは別に揚水井を掘って 地盤沈下や隆起を防ぐことができる。

地下水を揚水し,溶解している天然ガスを回収す 隔離する帯水層の中央深度を 2500m,層厚を

る。圧入井と揚水井の圧力を制御することにより, 300mと仮定し,隔離圧を 25MPa,帯水層温度

地下の帯水層中の地下水圧の変化を小さくして, は90°C,帯水層の空隙率は 20%,置換効率を

20%とする。この圧力温度での co,地中隔離の

目 園 園 自 自 〒 水への溶解度は 0.041トンーCO,/m'であるので,

。 。 。 。 堆積盆地 1km'あたりの co,地中隔離能力は 49

回 固 回

ー目

万2000トン-co,になる。日量 5000トンの co,を20年間圧入すると,総量は 3650万トンになる

。 。 Q 。ので,少なくとも 74km'の面積の堆積盆地が必

回 a 回 冒 自要になる。そのため隔離サイトは 8×lOkmの矩.....

匂 。 司F 。 I~ 形で,面積は 80km'とする。ヨ

司 回 回 冒 回 co,圧入レートを, 1圧入井あたり 1日250ト

。 。 可 匂ンーco,とすると,圧入井が 20本必要になる。

自 園

ー ー ー

8×lOkmの領域に 5 spot pattern (圧入井と

揚水井を四角形の頂点と中心に交互に配置)で配

‘3 。 Q 司ヨ

置すると,揚水井は 30本になる(図 12)。圧入回 a 回 回 a 基地 10基地を設置,各圧入基地で圧入井 2本と

Bkm 揚水井3本をコントロールする。すべてのシステ

。圧入井田揖水井 ムを監視制御センターで集中制御する。

図12 圧入井と揚水井の配置図 揚水井で揚水した地下水から各圧入基地で天然

ガス(ほとんどメタン)と co,を分離する。天

天然ガス

コンプレッサー

圧入井C02

揚水井パイプライン

図13 co,地中圧入基地フロー図

Vol.5 No.3 2000 19

表 1 co,地中隔離設備建設費

(処理容量5000トンーco,/day)

設備名単価

数量費用

(億円) (億円)

高圧コンプレッサー 70 I台 70 ノfイプライン

主要ライン 1 0 10km 10 分岐ライン 0.5 70km 35

圧入設備

水処理設備 2.0 10組 20

水圧入ポンプ 1.5 10台 15

圧入井 8.0 20本 160

揚水井 3.5 30本 105

排水管 1 0 30km 30 遠隔監視制御装置 15 i l式 15

Zに』J 計 460

然ガスは回収利用し, co,は再圧入する(図 13)。

一部の地下水は圧入井から再圧入し,残る廃水は

30kmの排水管で海に排水する(図 11)。

co,回収設備までの部分は除外し,パイプライ

ンに C02を送り込む高圧コンプレッサー以降の

費用を試算する。パイプライン,圧入基地,圧入

井,揚水井などを含めた, 日量 5000トンの co,を隔離するための設備費の総額は約460億円にな

る(表 1)。設備の償却費,金利,補修費に,運

転のための人件費や消耗品を加えると, co,の隔

離コストは 3010円/トンーco,(炭素換算 1万

1000円/トンー C)になる(表 2)。ただし, これ

には C02を火力発電所排ガスから回収するため

のコストは含んでいなし、。また,高圧コンプレッ

サーにより co,を加圧して,パイプラインによ

り圧送し,地下2000から 3000mの深さに圧入す

るために,消費する電力は, 73kWh/トンー CO,

(炭素換算269kWh/トン C)になる。これが C02

地中貯留のエネルギーロスになる(ただし, co,回収のためのエネルギーロスは含んでいない)。

7. C02の地中隔離能力

石油や天然ガスの資源量予測に使われる面積法

を用いて,世界の帯水層の co,地中隔離能力の

推定してみよう 11.l九面積法とは,探鉱によって

20

表 2 co,地中隔離コスト

設備償却費

金利(年 10%)

補修費

人件費

消耗品費

j co, 1トンあたりの地中隔離コスト

1,260円/トンーCO,

530円/トンーco,340円/トンーco,270円/トン co,610円/トン co,

合計地中隔離コスト I3,010円/トン co,

資源の原始埋蔵量が把握されている地域のデータ

をもとに,未探鉱の地域の資源量を予測する簡易

法である。 co,を単体の超臨界流体として貯留す

る方式は,地質構造に依存するため隔離能力の推

定が難しいので避け,地質構造にあまり依存せず

に隔離できる co,を地下水に溶解させる非閉塞

帯水層への co,地中隔離方式をすべて採用する

として,隔離能力を推定した。隔離する帯水層の

中央深度を 2500m,層厚を 300mと仮定し,隔離

圧を 25MPa,帯水層温度は 90°C,帯水層の空隙

率は 20%,置換効率を 20%とする。この圧力温

度での co,地中隔離の水への溶解度は 0.041トン

CO,/m3であるので,堆積盆地 lkm'あたりの

co,地中隔離能力は 49万2000トンーco,になる。Koideら11)は,実際に地中隔離に利用できるのは

世界の堆積盆地(図 14)の 1%と仮定して,世

界全体の co,地中隔離能力を 3200億トンーco,と見積もった。その後,世界の多くの人がさまざ

まな推計をしているが, 3200億トンーco,という

見積もりはコンザーパティブな推定としてしばし

ば利用されている。

しかし,地質構造にあまり左右されない溶解型

のCO,地中隔離として見積もっているので,技

術的には堆積盆地のほとんどで co,地中隔離が

可能であり,社会条件を考慮しでももっと広い範

囲で隔離ができると考えられる。また,地質構造

が適していればco,を超臨界流体状態で地中隔

離できる。したがって,堆積盆地の 1%しか利用

できないとするのは明らかに過小評価で、ある。そ

こで,世界の堆積盆地の 10%の地下帯水層で溶

解型のco,地中隔離が実施できるとして評価す

ECO INDUSTRY 3月号

""

~~ユ弓〆二二て曳h噛V 由F 憎.,,--唱F

局 l,・泊・ガス田

-縫績盆地

図14 世界の堆積盆地分布図(鈴木字耕原図)

表 3 世界における co,地中隔離可能量

フロック堆積盆地面積 co,貯留可能量(万 km') (億トン)

東アジア 358 1, 770

東南アジア 286 1,360

中東/西アジア 500 2,470

旧ソ連 971 4,800

ヨーロッノf 271 1,360

南アメリカ 907 4,480

:H;アメリカ 921 4,550

アフリカ 1 523 7,530

豪州/オセアニア i 747 3 690

世界計 6,479 32,010

ると,世界で約 3兆トン以上の co,を隔離でき

ると見積もられる(表 3)。

上記の見積もりには海底下の堆積層は含まれて

いなし、。しかし,シベリアやカナダなどの寒冷地

の地下や,水深300mを越える深海底下の堆積層

Vol.5 No.3 2000

はco,ーハイドレートが形成され,地質構造に関

係なくきわめて安全に co,地中隔離ができるの

で,深海底下の堆積層を含めれば, co,地中隔離

可能量は事実上無尽蔵といえる。

日本国内および近海における co,地中隔離可

能量については,エンジニアリング振興協会石油

開発環境安全センターゅによる綿密な調査結果が

ある。この調査は既存の公開データによって, co,地中隔離可能量を推定したもので,以下のように

まとめられる。

カテゴリー 1:大規模な油・ガス田にある油・

ガス層およひ‘帯水層 約 20億トン (19億 8700

万トン)

カテゴリ- 2:国による基礎試錐により,背斜

構造が確認されている帯水層 約 15億トン(15

億 4100万トン)

*確認されているトラップ構造内への隔離可能

21

量(カテゴリー 1+ 2)小計約35億トン(35

億 2800万トン)

カテゴリー 3:陸域堆積盆地内の一般帯水層

約 160億トン (158億4700万トン)

カテゴリー 4:海域堆積盆地内の一般帯水層

約 720億トン(720億4200万トン)

*通常の帯水層への隔離可能量(カテゴリ- 3

+ 4)小計約880億トン(878億8900万トン)

*日本国内および近海における隔離可能量(カ

テゴリー 1十2十3十4)総計約910億トン(914

億 17万トン)

以上のように, 日本および近海における C02

地中隔離可能量は,約900億トンと試算されたが,

その内容はカテゴリーにより大きく異なることに

留意する必要がある。カテゴリ- 1および2は,

地質構造などのデータが整っており,精度の高い

隔離可能量が得られているが,カテゴリ- 3およ

び4はおおよその推定値である。

初期の本格隔離の対象になる帯水層は,地質構

造が解明されていて, しかも石油や天然、ガスを商

業規模で腔胎していない帯水層であろう。国の基

礎試錐調査のデータからエンジニアリング振興協

会は約 15億4000万トンのco,地中隔離能力があ

ると推定した。対象となる帯水層を 20年間使用

する予定でco,地中圧入を実施するとすれば,

当面年間約 7700万トン程度の co,地中隔離能力

があると見積もられる。油ガス田は貴重な資源の

保護のため,慎重に使用しなければならないが,

日本全体では EORなどで年間 1000万トン程度

のco,圧入は可能であろう。合計するとおおよ

そ年間約9000万トン弱のco,地中隔離能力があ

ると見積もられる。

さらに,多くの co,地中隔離を実施するため

には,大型の帯水層を探査・確保する必要があり,

そのための地質構造調査や用地確保などの準備期

聞が長くなることも配慮する必要がある。

8. C02地中隔離の経済性

近距離でパイプラインで輸送できる範囲で地中

22

貯留サイトが存在する場合,液化しなくて済むの

でコストが安く,地中隔離がもっとも低コストの

co,排出削減技術であるO 6章にコスト試算例の

一つを示したが,その後世界でいくつかの試算が

行われている。それぞれの条件に合わせて前提が

異なっているので,比較は難しい。 6章の例は天

然、ガス採取のための揚水井などの設備を含めてい

るので, もっとも高いほうの試算例になっている。

しかし,天然ガス資源回収による利益があるので,

相殺されることになろう。古い天然ガス生産井や

油井を利用できるとして,きわめて安いコストを

示している例もあるが,これは特殊例である。

エネルギー総合工学研究所川は火力発電所排ガ

スから co,を回収するプロセスを含めた地中隔

離のコストの試算を行っている。それによれば,

微粉炭焚き発電ーアミン吸収法co,回収ーパイ

プライン輸送地中圧入の場合,コストの内訳は,

回収コストが4220円/トンーco,で,輸送・圧入

コストが輸送 lOOkmの場合に 1790円/トン co,,輸送500kmの場合が2910円/トン co,となる。合計して,輸送lOOkmの場合が6010円/トンーCO,,

輸送500kmの場合が 7130円/トンーco,である。この試算では,揚水システムが含められていない

ので, 6章の例より割安になっている。

微粉炭焚き発電ーアミン吸収法co,回収一液

化 タンカー輸送地中圧入の場合,コストの内

訳は,回収コストが4246円/トンーco,であるが,パイプライン輸送の場合と異なり,タンカー輸送

の前に液化する必要があるため,液化・貯蔵コス

トが2280円/トンーco,余分に掛かる。さらに,

輸送・圧入コストが輸送500kmの場合に 1045円

/トンーco,,輸送5000kmの場合が2445円/トン

ーco,,輸送I万2000kmの場合に 6005円/トンー

co,となる。合計して,輸送500kmの場合に 7571

円/トン co,,輸送5000kmの場合が 8971円/ト

ンーco,,輸送1万2000kmの場合に 1万 2531円

/トンーco,となる。タンカー輸送の場合,液化の

ためにパイプライン輸送に比してやや割高になる。

海外のコスト試算も大きなバラツキがあるが,

火力発電所の排ガスから co,を回収するプロセ

ECO INDUSTRY 3月号

スのコストや輸送コストに比較して,地中圧入の

部分のコストのほうがずっと安いという点で一致

している。また,コストについては海洋隔離と地

中隔離はあまり差がなく,ほぼ同等である。輸送

コストの比重が大きいので,距離が遠いとコスト

が高くなる。また,液化のコストも大きく,エネ

ルギーロスも大きし、。したがって,輸送距離と液

化しなければならなし、か否かによってコストが大

きく変わる。そのため,パイプライン輸送ができ,

液化の必要がない co,発生源から近距離の地中

隔離のコストがもっとも安くなり,エネルギーロ

スも小さい。 (以下次号)

Vol.5 No.3 2000

文献

10)天然ガス鉱業会 (1980)水溶性天然ガス総覧, 1-

24

11) Koide, H., et al. (1992) Energy Convers.

Mgmt, 33, 619 626

12)田崎義行,小出仁 (1993)ベトロテック, 16,108

112

13)エンジニアリング振興協会 (1994)平成 5年度報

告書, p.283

14)エネルギー総合工学研究所 (1993)平成4年度調

査報告書, NEDO,p. 198

23

Z罷:ECO••,’四国hEngineering ., ..••.

、~v

C02地中隔離技術(3)

9. C02地中隔離の実績

地中には大量の炭酸ガスが天然、に存在してし、る。

たとえば,群馬県安中市の磯部ガス田は過去に炭

酸ガスの生産を行っていたことで知られており,

生産ガス中の 99%がC02であった 15〕。また,地

下水中にも C02は炭酸ガスや炭酸イオンあるい

は重炭酸イオンなどの形で含まれており,温泉や

ミネラノレウォーターとして広く利用されている。

天然ガス田や油田は,地層中の微細な空隙に数百

万年~数千万年の長期間にわたって揮発性成分を

貯蔵しており, C02を安全かっ長期的に隔離する

ことが可能であるが,不浸透牲のキャップロック

をもっている構造性帯水層についても同様のこと

がいえる。実際に,欧米では天然ガスの地下貯蔵

に帯水層が用いられており,米国ガス協会による

と1976年の米国における天然ガス地下貯蔵量の

うち,約22%が帯水層に貯蔵されている。

C02地中貯留のアイデアは古いが,本格的な技

術的検討が行われるようになったのは最近である。

92年の第 1回二酸化炭素除去 (ICCDR)国際会

議以後,急速に世界的に検討されるようになり,

もっとも実用的な地球温暖化対策技術として評価

されるようになった。

96年 10月よりノルウェ一国営石油ガス会社で

あるスタットオイル社は北海の海底帯水層に 100

万トン/年規模の C02地中圧入を開始した九こ

小出仁*

れによりノルウェーの C02排出量を 3%削減し

ている。スレイプナー西ガス田から生産される天

然、ガス中に 9%含まれる C02をアミン吸収法で

分離し,海底下の深度 lOOOmの砂岩帯水層に地

中貯留している。このため,高さ 20mで 240ト

ンの吸収塔2基を備えた重量8000トンの新プラッ

トフォームを設置した。ノルウェーでは C02lト

ンあたり 350クローネ(55米ドル程度〕の炭素

税がかけられているので,炭素税を払うより地中

隔離するほうが経済的である。

カナダのアルパータ州では,産出される天然ガ

ス中に不純物として含まれる H2SとC02を含む

酸性ガスを分離して,帯水層あるいは枯渇油ガス

層に再圧入するプロジェクトが, この数年間で

12件以上進められている九たとえば, 89年以来

深度 1231mの枯渇油層 Acheson層に H2Sが 15%

とC02が83%の廃ガスを圧入している。また,

94年から,深度 1427mのProvost帯水層に日28

が9%とC02が91%の廃ガスを,深度 2865mの

Pembina帯水層に H2Sが68%とC02が31%の廃

ガスを地中圧入している。

C02隔離を目的として行われたのではないが,

アメリカ合衆国の枯渇油田の中への C02の大規

模な隔離は,石油の回収増進 (EOR)のために

すでに商業的に実施されている 16)。 98年中ごろ

に純粋な C02およそ 6000万m3/dayが,主に西

テキサスにおける 67の商業 EORプロジェクト

* Hitoshi Koide 通商産業省工業技術院地質調査所主任研究官

Vol .5 No.4 2000 19

で地中注入されている。 C02EORによりおよそ

2万4000トンIday (18万バーレル/day)の石油

が増収され, 3100万m3/dayの C02が地中に隔

離されていると見積もられる。

C02 EORに用いられた C02の大部分はコロ

ラド介|などの天然 C02ガス鉱床から産出したも

のである。しかし,約 20%にあたる 500万 m3/

day以上は天然、ガス精製工場で分離回収された

C02であり,回収していなければ大気中に放出さ

れていたはずなので,その分人為的に C02排出

を削減したと考えることができる。

近い将来に予定されている大規模計画としては,

まずインドネシアのナツナ計画がある 17)。ナツナ

の巨大天然ガス田から産出される C02を多量に

含む天然ガスから不要な C02を分離し,その co2をガス田の付近にあるさらにずっと巨大な帯水

層に再圧入する計画である。 C02地中圧入計画は

2003年から,第 1フェーズでは年間 4000万トン

の規模で実施される予定である。ナツナでは将来

は年間 l億トン程度の C02地中圧入が計画され

ており,単独で約8700億トンもの C02地中貯留

が可能な巨大な帯水層構造が存在することが地質

構造調査で判明しているので,年間数億トン以上

でも処理可能である。 lプラットフォームあたり

でも 3650万トン/年以上の C02を圧入できる。

米国ノースダコタ州BeulahにあるGreatPlains

石炭ガス化工場の廃ガスから精製した 1万 3000

トン/dayの C02を, 3300kmのノfイプラインを

建設して,カナダのサスカチュワン州 Weyburn

油田に運び, EORに用いる計画になっている 18)。

この C02-EOR計画には 11億カナダドルを要す

るが,現在の Weyburn油田の日産 1万 8000バー

レルから 2008年には日産 3万バーレルに増産さ

れるとともに,油田の寿命が 25年伸びる。油田

では,最初は 150井で C02地中注入を行い,後

に600井以上に拡張する。

Great Plains石炭ガス化工場は, 日量 1万

8000トンの褐炭から,ルルギ法によって日産 345

万m3の合成天然ガス(SNG)を生産している。

合成ガスをメタノール洗浄したときに出た 96%

20

C02の廃ガスを精製して, l万 3000トン/dayの

C02を得る。

10. C02排出目標と地中貯留の役割

日本の新鋭および大型火力発電所の排ガスから

C02を回収し,日本および周辺の帯水層に地中隔

離することを考えてみよう。 1990年レベルの 6%

相当の年間6800万トンの C02排出削減をすると

すれば,削減の効率を考慮すると,年間 7800万

トンの C02排出をする火力発電所群から C02を

回収して,年間 7000万トンの C02地中隔離を実

施する必要がある。 7節で述べたように,日本お

よび周辺の帯水層で年間 7700万トンまでは地中

隔離が十分可能である。年間 7000万トンの C02

回収運搬貯留にかかる全コストは年4200億

円程度である(表4)。 C02は火力発電所の排カ

スから分離回収したものであるが,この削減費用

を排出元の火力発電所のコストに上乗せすると 3

0%から 50%以上も排出元の火力発電所の発電コ

ストが上昇することになる。しかし,日本全体の

C02排出削減に貢献するので,排出元の発電所の

みに削減コストを負担させるべきではない。もっ

とC02排出源全体に公平に負担させる方法を選

ぶべきであろう。たとえば炭素税でまかなうとす

ると,炭素1トンあたり 1200円程度の低率の炭

素税でまかなえる。日本の発電全体の平均では,

1 kWhの発電におおよそ炭素換算 107gのC02排

出があるから,炭素 1トンあたり 1200円の炭素

税は,電気代としては lkWhあたり 13銭の増で

すむ。 ガソリン 1lあたりにすれば0.8円くらい

になる。

11. C02の海洋底下隔離

C02地中隔離の安全性をさらに高めるために,

海洋底下の堆積層に地中隔離する技術が考えられ

る19)。

図9( 3月号p.16)からも明らかなように,深

海底では地中浅所でも比較的高圧かっ低温になっ

ているので,堆積層中で C02ーハイドレートを形

成すると考えられる。岩石層中でハイドレートが

ECO INDUSTRY 4月号

表4 削減効果とコスト試算

(1990年日本の co,排出量3億 700万トン C,11億 2600万トン co,)

1990年レベ! 削減量 削減量 処理する火力発 発電量 地中 co,圧コスト(年間)

ルからの削 (炭素換算) cco,換算) 電所co,排出量 (石炭火力) 入量(年間)億円

減率(%) 万トンーC 万トンーco, 万トンーco, 億 kWh 万トンーco,

実験 0.26 0.96 1.1 0.14 1

307 1,126 1.305

2 614 2,252 2,610

4 1,228 4,504 5,219

;J 1 535 5,630 6,524

6 1,842 6, 756 7 829

7.7 2、354 8,630 10,000

形成されると,きわめて効果的に流体の透過を妨

げるため, C02の漏洩を防ぐ効果が期待される

(図10, 3月号 p16)。寒冷地や海底下で地温勾

配の低い堆積盆地は,貯蔵可能量も大きく,漏洩

の恐れのない良好な隔離サイトとして期待される

深海底下の帯水層に圧入された C02は,地下

水に溶解し,海底近くに上昇してきても,低温で

あるためにハイドレート化する。堆積層中でハイ

ドレート化すると流体を透過しなくなり,自己封

入することになる。海水中に C02が溶け出しで

もきわめてわずかずつゆっくりであるので, C02

は海水にほぼ完全に溶解し,海上には漏洩しなL、。

すなわち,地層と海水と二重に守られ,地中隔離

と海洋処分双方の安全機構を兼ね備え,さらにそ

のうえハイドレートに守られる。また,地震など

によりハイドレート層に亀裂ができるようなこと

があっても,ハイドレート化によりすぐに修復さ

れる。自己封入機構により,約300m以深の深海

底下の堆積層では,地質構造に関わりなく隔離が

可能なので,隔離容量は事実上無限に大きいとみ

ることができる。ただし,深海底下の堆積層への

隔離は,陸地や浅海底下の帯水層隔離に比較して

コストが高L、。このため,深海底下堆積層隔離は

次世代の技術として検討するべきであろう。

C02は圧縮率が高いため, 3500m以上の超深

海では, C02は海水や C02飽和水より重くなる

(図15)。このため,約 3500m以上の超深海では

Vol.5 No.4 2000

165.4 1 174 706

330.8 2 349 1,412

661.5 4 697 2,823

826.9 5,871 3,528

992.3 7,046 4 235

1 267.4 9,000 5 409

C02は海底にj留まる傾向がある。海底に堆積して

問もない未回結堆積物は,圧密されていないため

密度が小さく, 1.lkg/l程度であることが多い。

したがって, 4000m以深の超深海では, C02に

フライアッシュや粘土などを混入すれば容易に未

固結堆積物より見かけの密度を大きくすることが

できる。

深海底の未回結堆積物は極端に軟弱であるため,

海面からパイプを投入すれば容易に数mから数

十m も貫入させることができる。貫入したノfイ

プによって,フライアッシュなどで見かけ密度を

重くした C02を,未固結堆積物の数十m下部に

圧入すれば, C02は重いため上昇せず,横ないし

下方に広がる(図 16)。堆積物下の貫入体の表面

にはハイドレート膜が形成されるので,なかなか

海水に溶解しなし、。したがって,超深海底の未固

結堆積物下に比較的容易かっ安全に隔離すること

ができる。超深海未固結堆積物下への C02圧入

は,地中隔離の高度化技術として検討の価値があ

ると思われる。

炭酸は弱酸であるが, C02を高圧下で多量に溶

解させると, pH3ないし 4程度の酸性になる。

地中では岩石中の炭酸塩鉱物やケイ酸塩鉱物と中

和反応して,炭酸水素イオン化しやすい。炭酸水

素イオンになると,安定かっ多量に溶解するが,

他方鉱物を溶解することにもなる。天然、現象とし

ても,大気中の C02が雨水に溶けて,地下水に

入り込み,石灰岩を溶解させて鍾乳洞を作ること

21

100

0.9 0

500

Density(kg/l) 1 1.1

が知られている。しかし,鍾乳洞はきわめて長期

間に形成されるものである。 C02の溶解度から考

えても,短期間に溶解させられるのは,岩体の重

量のたかだか 1~2%程度であるので,地盤沈下

を引き起こす恐れは少なL、。また,当面,地中隔

離の対象となりそうな日本の第三紀堆積盆地中に

は石灰岩などの炭酸塩岩は少ないので,炭酸塩岩

の溶解が地盤沈下の原因になる恐れはあまりなし、。

しかし,隔離岩になりそうな砂岩層の中には,炭

酸塩鉱物が腰結物質になっているものがあり,腰

結物質の溶解による強度低下についても研究する

必要がある。

天然、の地下水は弱アルカリ性であることが多い。

C02を溶解した水も周囲の岩石と反応して中和さ

れ,アルカリ性になると,炭酸イオンがカルシウ

ムイオンなどと結びついて,炭酸カルシウムなど

として沈澱し,固定化される。この反応は,天然

22

1.2

5

10

15

20

25..,.

液体 C02

;毎水

一一 C02飽和水

rressure

30(MPa)

35

40 図15 海水圧下での温度 30℃におけ

45 るco,.海水. co,飽和水の

so 密度関係

図16 二酸化炭素超深海底凹地内

未固結堆積層貯留

にも観察されるように断層などの割れ目を炭酸塩

鉱物でふさぎ, C02の漏洩を防ぐ。このような

C02の地中および海洋底下における挙動の研究は,

C02地中隔離の安全性高度化に必須である。

12. C02圧入による未利用天然ガス

回収(C02-EGR)

Koideら20)は, C02を地中圧入して,地盤沈下

を防止しつつ水溶性天然ヵースを回収する方法を提

案した。また,凍土層・メタンハイドレート層中

またはその下の地層に封じ込められているメタン

をC02地中圧入により追い出して回収するとと

もに, C02ハイドレート化により凍土層・メタン

ハイドレート層を強化する方法を提案した。 C02

ハイドレートは, 300m程度より深部では氷やメ

タンハイドレートより高温でも安定なため,地球

温暖化によっても溶けないので,封じ込められた

ECO INDUSTRY 4月号

C02圧入↓

図17 メタンハイドレート層・凍土層下へのC02庄入によるメタン回収と

C02ハイドレート化によるハイドレート層補強・安定化

メタンや C02を大気中に放出しない(図17)。こ

のため,凍土層・メタンハイドレート層の C02

ハイドレート化によって,懸念されている地球温

暖化の爆発的進行を防ぐことができる。

炭田地域では炭層に吸着されたり,炭層付近に

メタンを主とする多量のガスが存在する。石炭層

は内表面積が大きいために,通常の天然ガスのリ

ザーパー岩石の 6倍から 7倍のガスを貯蔵できる。

米国のコールマインガス資源量は 20兆 m3以上

であるが,経済的に回収可能な量は 2.8兆 m3以

下である 16〕。 USGSによれば,世界のコールマイ

ンガス資源量は 212兆m3とされる。アメリカ合

衆国は, 1996年には6000以上のコールマインガ

ス生産井から年間 284億m3のコールマインガ、ス

を生産するまでになり,アメリカ合衆国天然ガス

生産の 6%を占めるに至った。

米国のニューメキシコ州 SanJuan Basinで

Burlington IndustriesとAmoco社は世界最初の

C02地中圧入によるコールマインガス増進回収法

(C02-ECGR,図18)のパイロットテストを実施

し, 3年間で 75~100%生産を増加させることに

成功したヘ 96年以来6000万m3(約 12万トン)

のC02を圧入したが, C02漏出(Breakthrough)

はほとんどなかった。技術的かっ経済的に

feasibleであると結論された。

San Juan Basinでは, 3700億 m3のメタンを

C02 ECGRにより新たに回収でき,千立方フィー

トあたり 0.5ドルの C02供給代を払っても利益が

あがるとしている。また, Uintaおよび Raton

Basinsでも 850億 m3のECBM生産能力があり,

Vol.5 No.4 2000

3億トンの C02地中隔離能力がある。

カナダ、のAlb巴rtaResearch Councilと米国エ

ネルギー省は, C02地中隔離技術を地球温暖化防

止の本命技術として位置づけ,気候変動技術イニ

シアチブ(CTI)における国際共同研究を行って

いる。その最初のプロジェクトとして 97年から

費用 400万ドルの C02地中圧入一炭層ガス回収

技術の実用化試験をカナダのアルパータ州 Fenn

Big Valley地区で GulfCanada所有のガス井を

使って実施する。

日本の炭層は,構造が複雑であるが,コールマ

インガス(メタン)の量は比較的多いことが知ら

れている。経済的に採掘の対象にならない炭層や

採掘跡の旧鉱でも,コールマインガスを採取でき

る可能性は大きし、。 2010年ころには,温室効果

ガス排出削減のため火力発電所などから C02が

大量に回収され,それを地中に隔離しなければな

らなくなると予想される。そうなると, C02がき

わめて安く,あるいは隔離費負担付きで利用でき,

コールマインガスを経済的に回収できるようにな

る。

コールマインガス増進回収技術(C02 ECGR,

図18)は,地球温暖化防止と未利用の非在来型天

然ガス資源の開発ができる一石二鳥の技術である

が,複雑な地質構造などわが国の特殊性も考慮し

た技術高度化を行う必要がある。

13.地中メタン生成細菌によるメタン

再生

水溶性天然ガス,コールマインガス,メタンハ

23

ピ/日己

Em

図18 co,庄入によるコールマインガス増進回収の概念図

イドレートなどの地下の堆積層中に膨大な量のメ

タン資源が世界的に存在する。これらの地下の比

較的浅所に存在するメタンを主成分とする天然ガ

スの多くが,メタン生成細菌によって生成された

ことが,炭素同位体比の研究などから明らかにさ

れている。最近,地下 lOOOm級の深部や海底下

の玄武岩層からもメタン生成細菌の活動が報告さ

れている 21)。メタン生成細菌は古細菌の一種で,

酸素があると活動できない偏性嫌気性微生物であ

る。 C02と水素からメタンを合成することにより

エネルギーを得る。太陽光なしで, co,を有機物

に固定化する化学合成独立栄養生物である。高温・

高圧・酸性といった極限環境に適応するので,無

酸素の地下環境での活動に適している。地下の高

温高圧下で活動する嫌気性微生物,特に古細菌は,

大気中に酸素が充満する前の地球で活動していた

原始生命に近く,科学的にも興味深い。

水田土壌中でメタン生成細菌が活動し,大気中

にメタンを放出することが,地球温暖化の要因の

ーっとされている。半地下式のメタン発酵槽は,

メタン生成細菌と有機物を分解する嫌気性微生物

の共生により有機廃棄物から効率的にメタンを発

生,利用できる仕組みとして用いられている。天

然ガスを回収した後の帯水層に C02を隔離して

24

おくと,残存するメタン生成細菌の活動により,

C02がメタンに変換されうるO トラッフ。構造を伴

う帯水層であれば,再生されたメタンは帯水層中

に集積され,大気中に逃げなし、。このメタンを回

収すれば,炭素リサイクルが実現する(図19)22)。

また,化学合成独立栄養微生物は,地中でco,を有機物に固定化する。

生物による C02のリサイクルはこれまでも研

究されているが,従来はすべて光合成によるもの

で,変換の速度や効率に問題があった。地中微生

物によるメタン増殖技術は,光合成によらずに

C02を固定する嫌気性の微生物を利用する。化学

合成による C02固定化は光合成より変換速度が

遅いが,地中隔離の聞に C02をメタンに変換す

るので,速度はあまり問題にならない。しかし,

地下は通常は高温度なので, Methαnobαcterium

thermoautotrophicumや Methanococcusjanna-

schiiのような好熱性のメタン生成細菌が変換速

度の点でも有望である。冬季にメタンの生成が停

まるのがメタン発酵槽の難点であったが,地下深

部では温度はほぼ一定であるので,季節による問

題はない。

メタン発酵槽の場合と同様に,有機物を分解し

て水素と C02を発生する嫌気性微生物との共生

ECO INDUSTRY 4月号

雇m:J地中圧入 COzモ一一燃焼←- c同採取

図19 C02-CH,地中リサイクル(地中微生物によるメタン鉱床再生)

も活用できる。微生物を利用してガス化するので

環境にやさしいだけでなく,褐炭・亜炭・炭質物・

タール・その他有機物を広く利用できるので地中

の炭素資源を有効に活用できる。

しかし,実際の地下深部の帯水層で,どの程度

の速さと効率で C02がメタンに変換されるかが

問題である。類似現象である水田土壌からのメタ

ン発生は,温度・還元性・有機物の量や状態によ

り発生量は異なるが, lm2あたり 1日最大 l.39g

に達する場合がある。地下深部での水素の供給に

鍵があり,有機物の嫌気性微生物による分解や地

熱(熱水一岩石反応)によりエネルギーが供給さ

れる。したがって,地熱と化石太陽エネルギーを

利用していることになる。

地下深部の,酸素に欠乏し太陽光の入らない環

境下で, C02を有機物に固定する嫌気性の化学栄

養独立合成微生物は,多数の種類が存在する(表

5)。日本の油田から, C02より石油成分になる

炭化水素を合成する嫌気性細菌が採取されたこと

は特に注目される23〕。 C02を地中に圧入すると,

高温・高圧下で酸素に乏しく, C02に富む生命創

Vol.5 No.4 2000

成期の原始大気/海水環境に似た世界が地中にっ

くり出される。 C02の固定に生命創成期の原始環

境を利用できる可能性は大きく,今後の研究の進

展が期待される。

地中徴生物により天然ガス鉱床が再生されれば,

真の炭素リサイクルや栽培鉱業が実現する可能性

がある。しかし,地中におけるメタン再生により,

採取できるほどにメタンが集積するには, もし成

功したとしてもかなりの年数を要するであろう。

いわば植林事業に匹敵する長期的視野が必要と思

われる。

14. C02地中隔離技術の高度化

C02地中隔離技術は現状の技術レベルで十分実

用段階に達していると考えられるが,安全性向上

や未利用エネルギー資源回収などの付加価値を高

めるために,今後研究すべき課題は多い。

特に,日本における実用化のために調査・研究

を急ぐべき主要な課題は,以下の 4項目であるO

①地質データの収集

②地中での C02挙動把握

25

表 5 二酸化炭素固定をする生物

(1) 光をエネルギー源とし,二酸化炭素を炭素源として利用する生物

。光合成独立栄養生物(Photosyntheticautotroph)

好気性真核生物

・植物(plants)

・(藍藻類・原核緑藻類以外の)藻類(algae):緑藻類,紅藻類など

好気性真正細菌

・シアノバクテリア(藍藻類)

嫌気性真正細菌

-緑色硫黄細菌, ・紅色硫黄細菌

(2) 無機化合物の酸化をエネルギ←源とし,二酸化炭素を炭素源として利用する生物

-化学合成独立栄養生物(Chemoautotroph)

好気性真正細菌

・一酸化炭素酸化菌, -硫黄酸化細菌, ・硝化細菌, -水素酸化細菌

・鉄細菌, ・アンモニア酸化菌, ・マンガン酸化菌

好気性古細菌

-高度好塩古細菌, ・好熱好酸硫黄酸化古細菌

嫌気性真正細菌

・酢酸生成菌

嫌気性古細菌

・(硫黄依存)超好熱性古細菌

(3) 二酸化炭素呼吸をエネルギー源とする生物

.メタン生成古細菌methanebacteria

・硫酸還元好熱性古細菌Archαeoglobus

(枠内は地下でco,固定可能)

③処理システムの最適化およびコスト低減

④ 周辺への環境影響評価およびその対策

効利用できないことも考えられる。このため,地

中での C02挙動について検討を行う必要がある。

C02隔離可能量の試算や最適な C02圧入方法

を検討するためには,地質データの収集が不可欠

である。これまでの地質調査は,主に油・ガス田

の調査を目的にしているため,今後は帯水層に焦

点を当てた調査が望まれる。

C02地中隔離を実施するにあたっては,効率よ

くC02を地中に処分し,隔離量を最大限にする

必要がある。地中に圧入されたC02の挙動は,地

質特性・流体特性・圧入特性などによって支配さ

れるため,圧入井の個数および配置,圧入方法

(圧力・レート・パターン)などの圧入条件を最

適化する必要がある。また,隔離層内の圧力制御

のために,揚水井の有無など、についても検討する

必要がある。一方,非構造性帯水層に C02を処

分する場合,地層水に C02を溶解させる必要が

あるが,この方法としては地上での溶解,チュー

ビング内における溶解,帯水層内における溶解な

どが考えられ,最適な溶解技術の確立が必要であ

地中に圧入された C02は岩石と化学反応して,

隔離層に何らかの影響を与える可能性がある。た

とえば,化学反応により生成した物質が隔離層の

空隙を埋めて流動を妨げるかもしれなし、。逆に,

岩石の一部を溶解することにより,隔離層内の流

動性が向上する可能性もある。また,フィンガー

リング(地層の不均一性のために圧入流体が局所

的に浸透する現象)などにより,十分隔離層を有

26 ECO INDUSTRY 4月号

る。さらに,坑井を構成している金属材料やセメ

ントの劣化および、腐食についても考慮する必要が

ある。

安全性を向上させて環境への二次的な影響を最

小限にし, C02の流動状況の把握・キャップロッ

クのシール健全性,地質構造自体の変形・地盤の

安定性などを観測するためのモニタリング技術を

確立する必要がある。

C02地中隔離の高度化技術として,寒冷地地中

隔離・深海底下地中隔離・超深海未固結堆積凹地

中隔離などの方法が提唱されている山九これら

の技術は,地中で C02ハイドレートが形成され

自己封入をするために,ほぼ完全に漏洩が防げる。

これにより安全性を高めるだけでなく,処理可能

量を飛躍的に増大させるが,経済性などの問題が

あり,今後の研究課題である。

C02地中隔離を低コストあるいは大容量で安全

かっ円滑に実施できるようにするために,重要と

考えられるやや詳細な技術高度化研究課題を示す。

① 環境影響評価(小規模な現場実験を伴う)

② 全国的(周辺海底も含む)な地質構造調査

による隔離可能帯水層の探査

③ 帯水層(特に塩水層)や閉塞構造などの地

質構造調査技術の高度化

④ 圧入・処理システムの最適化とコスト低減

の技術開発

⑤ C02圧入・溶解技術の高度化

⑤ C02流動状況・シール健全性・地盤安定性

などのモニタリング技術開発(AE観測,四

次元地震探査など)

⑦ C02と地下水・岩石との反応・地下の挙動

解明

⑧ 帯水層中の C02の移動に関するシミュレー

ションの高度化

⑨ 耐腐食性材料開発

⑩ 帯水層中の C02のハイドレート化の研究

⑪ 海底ボーリング・パイプライン建設技術の

高度化

Vol.5 No目4 2000

⑫地震時の帯水層中の C02の挙動と断層中

の移行の解明

⑬ 深海盆地堆積物中への C02の注入技術

⑭地中微生物による C02固定, メタン再生

の研究

15.おわりに

火力発電所などの排ガスから C02を回収して

地中隔離することにより,地球温暖化ガス京都会

議(COP3)で決められた程度の地球温暖化ガス

の排出削減を実現することは,技術的・経済的に

可能である。しかし,きわめて大規模な設備とコ

ストを要するので,本格実施には社会的合意が必

要である。コスト削減や安全性向上にさらに努力

するべきであるし, C02の圧入に伴う天然ガス回

収やメタン鉱床を再生させ,地中リサイクルを実

現することも視野に入れた研究開発が必要である。

文献

15)福田理 (1973)日本鉱床誌「関東地方」,朝倉書店,

449-460

16) Stevens, S.H., etαl. (1999) Greenhouse Gαs

Control Technologies, Elsevier, 175-180

17)小出仁 (1998)地球環境研究会資料,システム総合

研究所, p14

18) Hattenbach, R. P., etαl. (1999) Greenhouse

Gαs Control Technologies, Elsevier, 217-221

19) Koide, H., et αl. (1997) Energy Convers.

Mgmt., 38, Suppl.253-258

20) Koide, H., etαl. (1997) Energy-The Inter-

nαtioηαJ Jo urnαl ' 22, 279-283

21) Stevens, T. 0., & J.P. McKinley (1995)

Science, 270, 450-454

22) Koide, H. (1999) Greenhouse Gαs Control

Technologies, Elsevier, 201 205

23)今中忠行,森川正章 (1995)燃料及燃焼, 62,323-

330

27

小出仁 HitoshiKo帥

早稲田大学客員教授

明)地球環境産業技術研究機構(略称RITE)主席研究員

略歴 1962年東京大学工学部卒業、 1968年東京大学大学院博士

課程修了、工学博士。 1969年通商産業省工業技術院地質

調査所入所、地震物性課長、環境地質部長を歴任。 2000

年より現職。

専門:環境地質学、地球工学、岩石・地殻力学

受賞歴:エネルギ 資源学会劃立20周年記念懸賞論文優秀賞、日本鉱山地質学会論文賞

著書:『地震と活断層の本』(国際地学協会)

火力発電所などの燃焼排ガスからC02を回収し、地下深部に貯留する技術の開発が\世界中で進められている。 C02の

地下圧入を利用して、石炭層に吸着されているメタンやメタンハイドレート、水溶メタンを回収したり、超臨界C02iこよ

り深部石炭や重質油を抽出回収することも提案されている。地下の強い還元環境と最近続々と発見されている地中微生物

を利用すれば\非光合成カーボンリサイクルにより、地球温暖化防止とエネルギー問題を同時に解決できる可能性もある。

1. 地球温暖化防止技術

Eヨ‘大の温室効果ガス排出国である米国が離脱するな

珂又ど、京都議定書の批准が難航しているのは、社会

的・経済的負担が大きいためである。地球温暖化防止へ

の国際的な取り組みが始まる意義は大きいが、京都議定

書は地球温暖化防止の第一歩にすぎない。地球温暖化は

化石燃料の大量消費の結果であるが、化石燃料は産業革

命以後の高度な工業社会発達の原動力であるだけに、そ

の消費抑制は容易ではない。生活スタイルを変えてエネ

ルギー浪費を抑制する必要があるのは言うまでもない

が、温室効果ガス排出の少ないエネルギー利用技術に画

期的なブレークスルーがない限り、地球温暖化問題の根

本的解決は難しい。

気候変動対策技術は、

① ノーリグレット方策(noregret measures)、

②最小リグレット方策(minimumregret measures)、

③ 温暖化特化方策(GWspecific measures)

に分けられる 1)。①ノーリグレツト方策とは、温暖化を

考慮しなくても、経済的な観点から見て開発意義の高い

方策で、その例として省エネルギー技術などがある。ノー

リグレット方策は、すでに積極的に推進されている。②

最小リグレット方策とは、温暖化を考慮しなくても、別

の意味で長期的に開発意義のある方策で、その例として

大規模緑化技術などがある。最小リグレット方策の技術

開発は盛んに行われているが、経済的メリットが少ない

ため、実施はなかなか進んでいない。公的な支援策が期

待される分野である。③温暖化特化方策とは、温暖化の

緩和を唯一の目的とする方策で、温暖化を考慮しなけれ

ば開発意義のない方策と言える。そのため実施例はごく

少なく、固などによる研究開発も始まったばかりである。

温暖化特化方策の典型が、火力発電所や製鉄・セメント

などの大規模工場で化石燃料の燃焼によって排出される

廃ガスから、温室効果ガスであるC02を回収し、海洋水に

溶解させたり(C02海洋隔離)、地下の枯渇油田やガス田、

あるいは帯水層に貯留する(C02地中貯留と総称する。

帯水層貯留とも言う)技術である。

2. C02地中貯留技術の世界的展開

C02海洋隔離やC02地中貯留は、地球温暖化防止の切

り札と言われている。その理由は、世界中で排出される

C02を収容できる十分な収容能力があり、大量のC02圧

入が技術的にも可能なためである。また、化石燃料中心

の現在のエネルギー供給体制をほとんど変えずに、即効

的かっ確実に温室効果ガスの排出を削減できるので、緊

急に大規模実施しでも社会・経済への影響が少ないという

来畢材料事2巷 第8号 I39 I

Koide
ノート注釈
Hitoshi Koide (2002): CO2 geosequestration -- solving the global warming and energy issue in unison. Expected Materials for the Future, vol.2,No.8, p.39-45.( in Japanese) [小出 仁 (2002): CO2地中固定―地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解決へ―, 未来材料 第2巻第8号p.39-45.]

解説記事 6I C02:I也中固定 地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解決へ

火力発電所

二酸化炭素

分離回収

プラント

研究されている。

C02地中貯留についても、 2000年度に経済産業省の

国家プロジェクトとして「二酸化炭素地中貯留技術研究

開発」が開始され、地球環境産業技術研究機構(RITE)と

エンジニアリング振興協会(ENAA)が中心となって技術

開発が進められている。 C02地中貯留技術とは、地下深

部の岩層にある微細な間隙(帯水層)にC02を圧入して浸

透させるもので、安全性が高く、環境への影響が小さい

ことから、実用化も近いと言われている。しかし、地中

貯留はサイトへの依存d|生が高く、適用地域の地質条件に

よって、経済性、安全性、最適技術システムが大きく異

なってくる。好適な帯水層をC02の大規模発生源から近

い距離に発見することが、経済性の面から見ても安全性

の面から見ても重要である(図 1)。 C02地中貯留に最適

な帯水層として当面想定されるのは、海岸から lOkmく

らい沖で、海面から約l,OOOm前後の深度にあり、十分

な空隙率と浸透性と有効層厚を有する地層である。地層

上部が連続性のよい難浸透性の岩層などで覆われ、十分

な期間C02を大気から隔離できる地質構造が望ましい。

塩水化のため水資源として利用できない沿海地域の帯水

層の有効利用にもなる。

近海の地中帯水層へのC02貯留技術は、最も可能性が

高いと思われるが、技術をより最適化し、経済性を向上

させ、長期安全性を確認する必要がある。そのためには、

沿海底下構造性帯水層へのC02地中貯留

利点もある。しかし、地球温暖化防止だけを目的にしてい

るため、他のメリットがなく、安全性や環境への影響も十

分検討されていないため、「切り札」とし寸言葉には、本

格実施には慎重であるべきだとし¥う意味も込められている。

図 1

しかし、ノルウェーの国営石油会社Statoil社で、は、

1996年から、北海のSleipnerガス田で、海底下800mの砂

質帯水層に年間100万t規模のC02地中貯留を実施してい

る2)。ガス田から産出される天然ガスに含まれるC02を、

天然ガス貯留層より浅い帯水層に貯留することにより、

C02の大気への排出を削減している。 Statoil社によれば、

ノルウェーでは炭素税が導入されているため、 C02地中

貯留によって温室効果ガスの排出を削減した方が、炭素

税を払うより経済的にも有利とのことである。

C02海洋隔離技術が最も盛んに研究されているのは、

日本である。経済産業省が1997年から「二酸化炭素の海

洋隔離に伴う環境影響予測技術研究開発」を実施してい

日本を中心として米国、ノルウェー、カナダ、

オーストラリア、および民間組織も加わったC02海洋隔

離に関する国際共同研究が、国際エネルギー機関(IEA)

の気候変動技術イニシアチブ(ClimateTechnology

Initiative : CTI)の枠組みの下で行われている。国際的

に海洋環境保全への関心が高まっており、原則として廃

棄物の海洋投棄もなるべく禁止される方向にあるため、

C02を海洋に投入することによる環境への影響が慎重に

るほか、

40 I Expec七ed Ms七erislsfor乞heFu乞ure Vol.2 No. 日

地中でのC02の挙動を解明して地中貯留技術の科学的基

盤を確立すると共に、実際的データに基づいて技術シス

テムを構想し、環境への影響、安全性、全体的な経済性、

総合的環境負荷、社会的合意の形成について検討しなく

てはならない。日本列島は地震が多く、活断層も密に分

布しているので、大規模な地中貯留を実施するには、地

震と活断層の評価も必要で、ある。地震時、あるいは断層

からの長期のC02漏洩や、地中への流体圧入に伴う流体

破砕と誘発地震について、十分検討する必要があり、安

全性に関しては外国以上に慎重で、なくてはならない。

C02地中貯留の研究は、海外でも盛んに行われている3)。

ヨーロッパで、は、 1996年まで実施されたJOULEE研究

で、ヨーロッパ北西部の地下にはEUの全発電所の800

年分の排出量に当たる8,000億tの貯留容量があると見積

もっており、 EU各国の地質調査所が参加してGESTCOプ

ログラムが開始されたほか、安全性を検討するNASCENT

プロジェクトやヨーロッパ諸国の研究開発のネットワー

クを作るC02NET計画もスタートした。また、カナダの

ワイパーン油田では、大規模なC02圧入による原油増進

回収(C02-EOR)を実施し、これを利用してワイパーン

C02モニタリング計画という国際共同研究が実施されて

いる。オーストラリアでもC02地中貯留に適した帯水層

を探すための堆積盆地の調査が、 GEODISC計画という

研究プロジェクトによって行われている。

米国エネルギー省(DOE)ではBush政権の方針を受け

て、カーボン固定技術を最重要課題とし、化石燃料の燃

焼による廃ガスからC02を回収して地中貯留する技術を

エネルギー企業9社( 4ヵ国にまたがる)と共同で開発す

るなど、民間、国立研究所、大学を動員した多様な研究

計画が次々と立ち上げられている。米国のカーボン固

定は、 C02の燃焼廃ガスからの回収と貯蔵(海洋貯留、地

中貯留)、および土壌処理、鉱物処理に加えて、森林や藻

類による大気からのC02固定までを含む広い概念である。

3. C02炭層固定一メタン回収と

C02 EOR(原油増進回収法)

C02地中貯留やC02海洋隔離は、「温暖化特化方策」の

典型、つまり地球温暖化防止以外の利益をもたらさない

技術とされている。しかし、 C02地中貯留技術の原型は、

原油増進回収(EOR:Enhanced Oil Recoverγ)である。

原油増進回収技術とは、枯渇しかけて原油が出にくくなっ

た油層に温水やガスを圧入し、岩石の細かい間隙に潜ん

でいる原油を押し出して回収する技術で、ある。 C02は、

原油に溶解してその粘度を低下させるため回収効果が高

いので、米国の油田ではよく使われている。 C02を使っ

た原油増進回収(C02-EOR)の目的は原油生産であるが、

油層にC02iJ1かなり残るので、温室効果ガス排出の削減

にも貢献しうる。米国テキサス州の油田では、 1998年

には3,100万m3/日のC02地中圧入を行なっているが、

そのC02のほとんどはコロラド州の天然C02ガス鉱床か

ら採取したものなので、温室効果ガス排出の削減にはあ

まり貢献していない。しかし、年間360万t以上は天然ガ

ス精製工場で分離回収されたものを使っているので、こ

の分はC02排i出の削減に貢献している。

テキサスの油田などで、のC02EORは、 C02を市場価

格で購入して使っても利益が出ているので、地球温暖化

防止技術として見れば、ノーリグレット方策と言える。

だが、「+古渇油田」の多くでは、地下深部の岩層中の微細

な空隙に原油が含浸されて、まだ半分以kが残されてい

る。温室効果ガス削減の推進政策が採られ、 C02の貯留

に若干のプレミアが提供されれば、こうした多くの「枯

渇油田」で原油増進回収が実施できるであろう。その場

合のC02EORは、最小リグレツト方策と言える。

米国では石炭層に吸着されているメタン、すなわち炭

層メタンの回収が大規模に実施されており、重要な天然

ガス資源になっている。ニューメキシコ州サンファン盆

地でC02地中圧入による炭層メタン増進回収法(COr

ECBM)のパイロットテストが実施され、 3年間で生産

量の75~100%増加に成功している 4)。 1996年以来

6,000万m3(約12万t)のC02が圧入されたが、採取井側

からの漏出はほとんどなかった。

石炭層およびその周辺の地層に多量のメタンガスが埋

蔵されていることはよく知られている。しかし、メタン

は石炭の微細な空隙に吸着されているため、その採取は

容易ではない。石炭層の坑道掘進現場や採掘切羽からの

ガス突出は、しばしば大事故の原因になる。ガスの多い

炭鉱ではガス抜きボーリングが行われるが、ガスを完全

に抜くのは難しい。しかし、 C02はメタンよりも石炭に

吸着されやすいので、 C02を石炭層に圧入すると、石炭

中のメタンを追い出して、代わりにC02が石炭に吸着さ

未来材料第2巻第8号 I41 1

解説記事 6I C02地中固定 地球温暖化防止と工ネルギー問題の同時解決へ

抗道・採掘跡空洞

ボーリング干し

炭層ガス生産 ヘヘヘメタン

ヘ ヘヘ\ ヘヘヘ- 深部炭層

図2 C02圧入による炭層メタンの置換回収(C02ECBM)

れる。そのため、 C02は漏洩することなく、効果的に地

中固定される。石炭層は内表面積が大きいため、通常の

天然ガス貯留岩の 6~7倍のガスを貯蔵できる。しかも

石炭層は、脱着されるメタンの 2倍の分子量のC02を吸

着するので、 C02の貯留能力はさらに高くなる(図 2)。

ニューメキシコ州のCOrECBMパイロットテストで

は、コロラド州にある天然C02貯留層から採取したC02

を、テキサス州のC02EORサイトまで圧送するC02パ

イプラインから途中分岐して、サンファン盆地のテスト

現場に供給している。サンファン盆地では、 l,000ft3当

たり0.5ドルのC02{共産合代を払っても、 C02ECBMによっ

て新たに3,700億m3のメタンが商業的に回収できる4)。

つまりこの場合のC02-ECBMはノーリグレット方策と

して実施される。

C02が無料で、供給されれば、 C02-ECBMによって利

益が出る世界中の石炭層を考えると、 180億tものC02固

定が可能なのである4)。さらに、 C02の固定費用として

1 t当たり 50ドルの補助が出れば、世界中で600億tもの

C02を石炭層に固定できる。すなわち、温室効果ガス排

出の削減を目的とした削減費用が別途支給されれば、大

量のC02固定と未利用天然ガス資源の回収も可能になる

ので、 C02ECBMは最小リグレット方策として活用で

きるのである。

42 I Expected Mate門alsfor七heFu七ure Vol.2 No.8

日本の石炭層は、構造が複雑であるが、炭層メタンの

含有量は多いことが知られている。経済的に採掘対象に

ならない深部の石炭層や採掘跡の旧鉱でも、炭層メタン

を採取できる可能性は大きい。また、褐炭、亜炭、泥炭

などの低品位炭も利用できる。山口、山崎5)は、日本の

石炭の可採埋蔵量分だけを見ても、炭層メタン資源量は

少なくとも2,540億m3あり、石炭はメタンの 2倍のC02

を吸収できるので、約5,000億m3(約10億t)のC02が固

定できると見積もっている。不可採埋蔵量が採掘可能埋

蔵量の約10倍あるとすると、不可採とされている深部

などの石炭層も利用すれば、約 5兆m3(約100億t)の

C02が圧入で、き、約2.5兆m3の炭層メタンが回収できる

と推定される。

米国のパイロットテストの成功を受けて、 C02炭層固

定とそれを利用したメタン回収に関する技術開発が盛ん

に行われている。カナダのアルパータ州では、米国、英

国、オーストラリア、オランダなどの政府機関に加え、

多数の企業も参加して、 C02ECBMの現場実証試験や

モニタリング、シミュレータの開発などの国際共同研究

が進行中である(ARC-C02-ECBMRフ。ロジェクト)。ま

た、ヨーロッパでーは、オランダ地質調査所(TNO-NITG)

が中心になって、ポーランドの石炭層で℃02炭層固定の

実証実験が行われ、地質モデル、モニタリング、シミュ

,..

レーション、室内実験も実施されている(RECOPOLプロ

ジェクト)。日本でも2001年5月に、側)石炭エネルギー

センター (JCOAL)を中心に20の企業、機関が参加して

「C02炭層固定研究会」が発足しており、カナダとポーラ

ンドで実施されている上記の国際共同研究にも参加して

いる。さらに2002年には経済産業省によるC02炭層固

定技術開発の国家プロジェクトが開始される。

北海道の赤平炭鉱は1994年2月に閉山し、坑口はすで

に密閉されているが、 1996年5月からの 3年間に3,879

万m3のメタンガスが湧出した。その後ガス湧出量はし

だし〉に減衰しているが、 1999年4月時点、でも毎分l7. lm3

が湧出している。そこで、湧出量の少ない l本の立坑か

らC02を注入して、他の立坑からメタンを回収し、その

メタンを使ってマイクロガスタービン発電を行なってお

り、排ガスは立坑に注入して、ゼ、ロエミッション発電を

実現している。このような旧炭鉱を利用したC02-ECBM

は、規模は小さいながらも地球温暖化防止と未利用の非

在来型天然ガス資源開発を同時に実現しており、今後の

進展が期待される。日本では、全ての炭鉱がすでに商業

生産をやめているが、採掘コストが高いなどの経済的理

由で閉山したものが多く、未採掘の石炭が多量に残って

いる。また、従来の坑内採炭方式では採掘が困難だった

l,200mより深い石炭層は探査もされていない。日本近

海の海底下にも石炭層が広範に分布していると推定され

る。 C02-ECBMは深部石炭層にも適用できるので、そ

のために深部石炭層を探索する必要がある。

4. 未来に向けて

小出は、化石水を含む帯水層lこC02を圧入して溶解さ

せ、水溶性天然ガスを回収する技術を提案している6)。

さらに、メタンハイドレート層やその下のフリーガス層

にC02を圧入してガスを採取する技術も提案している

(図 3)7)。地中にC02を圧入して、包蔵されているメタ

ンなどの天然ガスを回収する技術を、 C02-ガス増進回

収法(EGR)と総称する。メタンは地殻中に、従来考えら

れていた以上に広範に含有されていることがわかってき

た。しかし、その多くは地下水中などに希薄に含まれて

いるため、採取は経済的に困難である。メタンはC02の

約20倍も温室効果が高いので、地下浅所のメタンは温

C02圧入4 t CH.回収

図3 C02ハイドレート天盤形成によるメタンハイドレートと

深部メタンの置換回収

暖化の伏兵である。 C02固定と天然ガス採取を組み合わ

せたC02EGRは、地球温暖化防止とエネルギー資源獲

得を同時に実現する一石二鳥の技術として期待が高まっ

ている。

石炭層周辺の地層には有機物が多いので、地中微生物

にとって活動しやすい場である。 C02を有機物に変換で、

きる生物には多くの種類があるが、地下深部で、C02を有

機物に固定できる生物は、嫌気性化学合成独立栄養微生

物である。最近、 l,OOOm以上の地下深部の玄武岩層で、

メタン生成菌の活動が報告されている8)。メタン生成菌

は、深部の玄武岩層で熱水と玄武岩とが反応してできた

水素と、地下深部由来のC02からメタンを合成し、エネ

ルギーを得て生きていると考えられる(図 4)。

空気中に遊離酸素が豊富に存在する酸化環境にある地

表では、 C02が炭素化合物の終局的な形態で、あり、メタ

ンを酸化してC02に変換することでエネルギーが得られ

る。しかし、無酸素の還元環境にある地下深部では、メ

タンが炭素化合物の終局的形態であり、 C02をメタンに

変換することでエネルギーが得られる。そのため、地下

深部の還元環境を上手に使えば、メタン生成菌など嫌気

性地中微生物の活動により、非光合成カーボンリサイク

ルが実現する(図 5)9)。

一般に地下深部では反応速度が遅いので、 C02からメ

タンへの変換も遅いことが予想される。しかし、強力な

還元剤や触媒になる鉱物が存在すれば、変換が促進され、

無機的な化学反応によるカーボンリサイクルが実現する

可能性がある 10)。地殻ガスサイクルに有利な岩体の候

補としては、蛇紋岩、かんらん岩、玄武岩などが考えら

れる。地中微生物にも強力な還元反応促進機能を持つも

のが存在する。地中微生物の持つ酵素は、地下深部の高

温・高圧下でも強力な触媒作用を持つ。地熱と無機的な

来構材料第2巻第s-ll-I 43 1

解説記事 6I C02地中固定 地球温暖化防止とエネルギー問題の同時解決へ

五福亙1地中圧入 C02 4一一一燃焼 4一一一一 CH4 採取

天然:

再生

再生CH4

直面一一一一 C02一一一一- iメタン生成菌.I...,ト一一一一一- H2 川豊性水i - …一一一一一一

同証副首1

ー通事日有機物/ E 耐

図4 帯水層中のメタン生成菌などの嫌気性微生物による非光合成カーボンリサイクル

光合成カーボンリサイクル

地表の広大な面積を専有

他の用途と競合

太陽エネルギー

光合成生物

シアノJ\クテリアなど

植物

事竺非光合成カーボンリサイフル

来事j周の地下の広大主空間を

利用できる

図5 地下の還元性を利用する非光合成カーボンリサイクル

触媒、微生物の酵素により変換が促進されれば、 非光

合成カーボンリサイクルの弱点である変換速度もかなり

改善される可能性がある。地下には広大な空間があり、

また地球環境という長期の問題に関わることなので、変

換速度は必ず、しも重要でないことも指摘しておきたい。

天然ガスや石油の無機起源説で有名なゴールドは、地

44 I Expec回 d Ma七e門sisfor七heFu℃ure Vol.2 No. 日

下の膨大な微生物活動圏の存在も指摘している 11)。地

下には、多種多様なC02固定経路を持つ様々な非光合成

微生物が存在する 12)。地中微生物は、地下深部で無機

のC02からメタンや酢酸など様々な有機物を生成する。

C02固定のエネルギー源は、直接的には水素である。水

素は、鉄などの岩石中の還元剤と熱水との無機的反応に

よっても発生しうるが、岩石中に化石有機物が含まれて

いれば、地中微生物も嫌気発酵によって水素を生産する。

地中微生物によるC02固定メタン・有機物生成の量は、

全地球規模で見れば膨大なものになるだろう。

水溶性天然ガス、コールマインガス、メタンハイドレー

トなど、メタンを主成分とする、比較的浅所にある天然

ガスの多くが、メタン生成菌によって生成されたことが、

炭素同位体比の研究などから明らかになっている。石炭

層周辺の地層には有機物が多く含まれており、メタン発

酵の起こる条件が整っているので、石炭層付近に豊富に

見出されるメタンも、メタン生成菌によるものなのである。

C02 ECBMによりメタンを置換して石炭層に吸着され

たC02が、メタン生成菌によって再びメタンに変換され

れば、地殻カーボンサイクルが実現する。 C02と地中微

生物の利用により、地下深部の石炭、低品位の炭質物、

採取困難な深部の重質油、タールサンドやオイルシエー

ルなども回収できるようになるかもしれない。

C02地中固定は、従来は典型的な温暖化特化方策と考

えられていたが、未利用天然ガスの回収に利用でき、さ

らに非光合成カーボンリサイクルによりエネルギー資源

再生の可能性も持つ、新しい最小リグレット方策に発展

しつつある。

最後に、問題点と将来展望の要点をまとめると、以下

のようになる。

(1)問題点

①通常のC02地中貯留やC02海洋隔離は、地球温暖化

防止以外にメリットがない。地球温暖化防止のため

の特別な施策がなければ、経済的なモチベーション

がない。

②地下には未知の部分が多く、 C02地中貯留の安全性

や環境影響についても研究され始めたばかりである。

③ 日本は先進工業国の中で突出して地震活動の活発な

国であるため、地震や活断層に対するC02地中貯留

の安全性を独自に研究する必要がある。

(2)将来展望

①従来のC02地中貯留から、地殻岩石との結合性を高

めて安定にしたC02地中固定へと、技術開発が進む。

② C02地中圧入を利用して、炭層メタンやメタンハイ

ドレート、水溶性メタンなどが回収される。

用語解説

③ 石炭や枯渇油田の残存石油、オイルシエールなどの

抽出・ガス化回収が、超臨界C02の地中圧入によっ

て実現する。

④ 地下の還元環境を利用して、天然の触媒や地中微生

物によるC02-メタン変換や固定が行われ、非光合

成カーボンリサイクルが実現する。

要約すれば、生命創成期の原始環境に近い地中環境を

利用して、 C02固定とメタンや石油の再生を実現し、地

球温暖化問題とエネルギー問題を同時に解決するのが、

将来の夢である。

引用・参考文献)

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[隔離] isolation。廃棄物在大気圏や生物園から遮断すること。海洋隔離と地中隔離がある。処分とほぼ同義。

[地中貯留] underground sequestration。地中貯蔵(undergroundstorage。将来再び取り出して利用することを前提に地下空間などに一時保管すること)と

地中処分(undergrounddisposal。廃棄物として地下に永久に埋設すること。原則として再取り出しはしない)の中間の意昧。再取り出しの可能性を一部残

して、地下に貯留すること。

[JOULE Il]ヨ 口ッパで実施されていた非原子力工ネルギー共同研究開発プログラムの名称。

[GESTCO]ヨーロッパのC02地中貯留能力を研究するプログラム「EuropeanPotential for Geologic Storage of C02 from Fossil Fuel Combustion」の略称。

[NASCENT】地中に天然にあるC021留まりを研究するヨーロッパの共同研究「NaturalAnalogues for the Storage of C02 in the Geological Enviro円mentJの

略称。

[GEODISC]オーストラリアのC02地中貯留研究計画「GeologicalDisposal of Carbon Dioxide」の略称。

[炭層メタン}メタンガスが石炭に多量に吸着されたもので、炭鉱事故の原因になる迷惑物であったが、最近は天然ガス資源として見直されている。

[地中固定] underground fixation。石炭層や岩石に吸着させたり、ハイドレート化したり、化学反応や微生物の働きにより地中に安定に隔離すること。

来来材料第2巻 第8号 I45 I

1

地圏長期評価研究協会会報, 2003 年 1 月

地中メタン生成古細菌による地中メタン生成古細菌による地中メタン生成古細菌による地中メタン生成古細菌による

カーボン・リサイクルの提案カーボン・リサイクルの提案カーボン・リサイクルの提案カーボン・リサイクルの提案

Carbon recycling by subsurface microbial methanogenesisCarbon recycling by subsurface microbial methanogenesisCarbon recycling by subsurface microbial methanogenesisCarbon recycling by subsurface microbial methanogenesis

早稲田大学/(財)地球環境産業技術研究機構 小出 仁

Waseda University / Waseda University / Waseda University / Waseda University / Research Institute of Innovative Technology Research Institute of Innovative Technology Research Institute of Innovative Technology Research Institute of Innovative Technology for thefor thefor thefor the EarthEarthEarthEarth

Hitoshi KoideHitoshi KoideHitoshi KoideHitoshi Koide

ABSTRACT:

There is an enormous amount of methane in subsurface formations in the world.

Most of the natural gas resources, however, is hardly economically

recoverable as the methane is adsorbed in coal seams, trapped in hydrate

clathrate or dissolved in saline groundwater. Shallow accumulation of

methane is even a hidden threat of explosive global warming. Enhanced gas

recovery by subsurface CO2 injection (CO

2-EGR) is a practicable solution

for the greenhouse gas control with efficient use of potential energy

resources.

Extremely light isotopic compositions of carbon in methane suggest that

methanogens formed many subsurface accumulations of methane-rich natural

gas in the world. Chemolithotrophic methanogens, that belong to Archaea,

form methane from CO2 and gain energy without sunlight in anoxic

circumstances. Methanogens are often blamed for greenhouse gas emission

as they produce methane in bowels of cows and termites and in rice paddy.

However, reapplication of CO2-EGR for subsurface biogenic methane that is

converted from disposed CO2 makes the carbon recycling possible.

Subsurface ecosystem is somewhat similar to archaic ecosystem that is

Hitoshi Koide (2003) Carbon recycling by subsurface microbial methanogenesis, IGA

Letters, No.4, p.26-34 [小出小出小出小出 仁仁仁仁 (2003)地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル地中メタン生成古細菌によるカーボン・リサイクル

の提案、地圏長期評価研究協会会報、第の提案、地圏長期評価研究協会会報、第の提案、地圏長期評価研究協会会報、第の提案、地圏長期評価研究協会会報、第4号号号号 ,p26-34]

2

adapted to anoxic CO2-rich atmosphere under high pressure and temperature.

Bionic methanogenesis is active even in deep basaltic aquifers.

Subsurface biogeochemical carbon recycling may realize greenhouse gas

control with restoration of energy resources.

1.1.1.1. はじめにはじめにはじめにはじめに

将来、20 世紀は「石油バブルの世紀」として記憶されることになるであろう。20

世紀初頭に石油を燃料として実現した航空機や自動車の発達による交通革命が世界

を小さくし、さらに石油化学の発達など産業技術の爆発的発展を石油が支えた。しか

し、その一方で便利な石油資源の浪費と環境問題という負の遺産を残したことの方が

後世の人類への影響が大きい。20 世紀に続く 21 世紀は、石油資源の枯渇と地球環境

問題により「バブル崩壊の世紀」になる恐れがある。破局を避けるために、省エネル

ギーや代替エネルギー開発など数多くの努力が進められている。しかし、石油は日本

のエネルギー消費の 55%、世界の 39%を占めている中心のエネルギー源 (1996年 )1)で

あるだけに、抜本的な改善は難しい。

様々な廃棄物問題が深刻になっていることから、リサイクルによってゴミの量を減

らす努力がいろいろな分野でなされている。化石燃料の燃焼によって排出される CO2

もリサイクルすることが出来れば、温室効果ガス排出削減の決め手になると期待され

る。しかし、炭化水素からなる化石燃料をカーボン・リサイクルすれば、化石燃料の

内蔵するエネルギーのうち炭素の担っている分のエネルギーは理論的には利用出来

ないことになる。ほとんど炭素からなる石炭の場合は、リサイクルすればエネルギー

源としては利用していないことになる。したがって、カーボン・リサイクルを実現す

るには、化石燃料以外のエネルギー源を利用する必要がある。例えば、太陽電池や水

力発電により得た電気で水を電解して水素を製造し、水素によって CO2 もを化学的に

還元して、メタンやメタノールを再生産する

2)。あるいは、微細藻類等による光合成

で有機物や水素を生産する生物的固定・有効利用する方法が研究されている

3)。これ

らのカーボン・リサイクルの多くは、根本的には太陽エネルギーを利用しているため、

広い面積の地表あるいは水面を必要とし、他の土地利用や水面利用と競合しやすい。

3

そこで太陽光を必要としない、地中嫌気性化学合成独立栄養微生物生態系を活用し

た、地表面や水面を用いない新しい生物的カーボン・リサイクルの方法を提案する。

2. CO2 地中圧入と未利用天然ガス回収地中圧入と未利用天然ガス回収地中圧入と未利用天然ガス回収地中圧入と未利用天然ガス回収

1996年からノルウェーで CO2 地中貯留の実操業が開始された

4)。また、米国などの

産油国では原油増進回収のために CO2 を地中に大規模に圧入している。CO2 地中貯留

は既に実用技術になっていると言える。しかし、新しい技術であるだけに、地中にお

ける CO2 の挙動がよく判っていないなど、重要な研究開発課題が多く残されている。

安全性を高め、効率を高め、コストを低下させ、さらに貯留だけではない CO2 地中圧

入による積極的な利益を高めようとする研究が開始されている。

Koide ら

5 )は、CO2 を地中圧入して、地盤沈下を防止しつつ水溶性天然ガスを回収

する方法を提案した(図1)。また、凍土層・メタンハイドレート層の下の帯水層に

CO2 を圧入して、凍土層・メタンハイドレート層の直下の岩層中に溜まっているフリ

ーガスを回収する。凍土層・メタンハイドレート層の下には圧入した CO2 が溜まるた

め、メタンハイドレート中のメタンを一部置換しつつ、メタンハイドレートの下に

CO2 ハイドレート層を形成する。CO2 ハイドレートは、地下 300m程度より深部では

4

氷やメタンハイドレートより高温でも安定なため、地球温暖化によっても解けないの

で、封じ込められたメタンや CO2 を大気中に放出しない(図2 )。このため凍土層・

メタンハイドレート層の CO2 ハイドレート化補強によって、懸念されている地球温暖

化の爆発的進行を防ぐことができる。

米国のニューメキシコ州 San Juan Basin で世界最初の CO2 地中圧入によるコール

マインガス増進回収法 (CO2-ECGR、図3 )のパイロットテストが実施され、3 年間で

75-100%生産を増加させることに成功した

7 )。1996年以来 12 万トンの CO2 を圧入し

たが、炭層に吸着されて CO2 漏出はほとんどなかった。San Juan Basin では、3700

億立方メートルの メタンを CO2-ECGRにより新たに回収でき、千立方フィートあた

り 0.5 ドルの CO2 供給代を払っても利益が上がるとしている。

日本の炭層は、構造が複雑であるが、コールマインガス(メタン)の量は比較的に

多いことが知られている。経済的に採掘の対象にならない深部の炭層や採掘跡の旧鉱

でも、コールマインガスを採取できる可能性は大きい。コールマインガス増進回収技

術(CO2-ECGR)は、地球温暖化防止と未利用の非在来型天然ガス資源の開発が出来

る一石二鳥の技術である。

3. 地中メタン生成細菌によるメタン再生地中メタン生成細菌によるメタン再生地中メタン生成細菌によるメタン再生地中メタン生成細菌によるメタン再生

水溶性天然ガス、コールマインガス、メタンハイドレート等の膨大な量のメタン

5

資源が世界的に存在する。これらの地下の比較的浅所に存在するメタンを主成分とす

る天然ガスの多くが、メタン生成細菌によって生成されたことが、炭素同位体比の研

究などから明らかにされている

8)。最近、1000m以上の地下深部の玄武岩層からメタ

ン生成細菌の活動が報告されている

9)。メタン生成細菌は古細菌の一種で、酸素があ

ると活動できない偏性嫌気性微生物で、CO2 と水素からメタンを合成することにより

エネルギーを得る。太陽光なしで、CO2 を有機物に固定化する化学合成独立栄養微生

物である。深部の玄武岩層中では、熱水と玄武岩の反応で生成された水素とやはり地

下深部に由来する CO2 という無機起源の材料から、メタン生成細菌はメタンを合成し

てエネルギーを得て、生きていると考えられる。すなわち、地熱をエネルギー源とし

て CO2 からメタンを生成する(表 1)。

玄武岩層は海洋底下に広範に広がっているので、メタン生成細菌の活動の場は膨

6

7

大に存在する。生命が誕生して間もない頃の、高温高圧で CO2 に富み酸素に乏しい原

始地球大気下にメタン生成古細菌は適応していたと考えられる。地下深部の塩水帯水

層に CO2 を圧入すると、原始地球の海洋に近い条件が成立し、メタン生成細菌が活動

しやすい環境になり、CO2 からメタンが再生され、カーボン・リサイクルが実現する

可能性がある。

堆積岩中には、砂や泥と共に多量の有機物が一緒に堆積している。したがって、堆

積岩の帯水層中では有機物の嫌気性微生物による発酵によっても水素と CO2 が供給

される。水田土壌中でメタン生成細菌が活動して、大気中にメタンを放出することが、

地球温暖化の要因の一つとされている。半地下式のメタン発酵槽は、メタン生成細菌

8

と有機物を分解する嫌気性微生物の共生により有機廃棄物から効率的にメタンを発

生、利用できる仕組みとして用いられている。堆積盆地の地下深部では、天然に有機

物のメタン発酵が起こり、水溶性天然ガスや炭層ガスやメタンハイドレートのメタン

を生成したと考えられる。

メタン生成細菌によって形成された天然ガスを回収した後の帯水層に CO2 を貯留

しておくと、残存するメタン生成細菌の活動により、CO2 がメタンに変換されうる。

トラップ構造を伴う帯水層であれば、再生されたメタンは帯水層中に集積され、大気

中に逃げない。このメタンを回収すれば、カーボン・リサイクルが実現する(図4)。

地下深部の酸素に欠乏し、太陽光の入らない環境下で CO2 を有機物に固定する嫌気

性の化学栄養独立合成微生物は多数の種類が存在する。日本の油田から、CO2 から石

油成分になる炭化水素を合成する嫌気性細菌が採取されたことは特に注目される

10,11)。CO2 を地中に圧入して、石油を再生することも夢ではないかもしれない。最近

では、メタン生成細菌と、それに水素を供給する通性嫌気性細菌の共生により真核生

物が生じたとする説が有力になっている

12)。地中微生物は嫌気性好熱性の古細菌お

よび真性細菌であり、原始生命に近く、生化学的に極めて多様である

13,14)。未知の機

能を持った微生物がなお地中に潜んでいる可能性は大きい。地下深部の石炭、低品位

の炭質物、採取困難な深部の重質油、タールサンドやオイルシェールなども CO2 と地

中微生物の利用により回収可能になるかもしれない。CO2 の固定に生命創成期の原始

環境を利用できる可能性は大きく、今後の研究進展が期待される。

地中微生物により天然ガス鉱床が再生されれば、真のカーボン・リサイクルや栽培

鉱業が実現し、資源問題と地球温暖化問題を一挙に解決できる可能性がある。しかし、

地中の微生物探査は、多くの労力と費用を要するフロンティア探検に匹敵する事業で

あろう。地中微生物によるカーボン・リサイクルは、植林事業に匹敵する長期的視野

による取り組みが必要と思われる。

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(社)資源・素材学会 平成 19 年度春季大会 講演資料 2007 年3月 31 日

微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)COCOCOCO2222

注入による非構造性帯水層隔離法の提案注入による非構造性帯水層隔離法の提案注入による非構造性帯水層隔離法の提案注入による非構造性帯水層隔離法の提案

早大早大早大早大 小出小出小出小出 仁仁仁仁、みずほ情報総研、みずほ情報総研、みずほ情報総研、みずほ情報総研 篠田淳二篠田淳二篠田淳二篠田淳二

1. COCOCOCO2222

の地下安定封入の地下安定封入の地下安定封入の地下安定封入

CO2 地中貯留は、地下深部の岩石の微細な間隙中に

CO2 を分散貯蔵するので、本来安全な技術である。既に

実績もかなり在り、実用的でもある。しかし、地球温暖

化防止のためには膨大な量の CO2を貯留するため、安全

性の高度化と効率化―コスト削減の努力が重要である。

世界最初の大規模CO2地中貯留事業であるノルウェー

のスレイプナー・プロジェクトでは、1996 年から年約 100

万トンの規模で北海海底下の帯水層にCO2を注入してい

る。その国際共同モニタリング(SACS プロジェクト)が実

施され、地下における CO2の重要な挙動が明らかにされ

た(SACS Best Practice Manual, 2003, CO2STORE Best

Practice Manual, 2007)。地下深部に CO2を急速に大量注

入すると、注入口付近の帯水層中の地下水を排除して、

岩石間隙中がほぼ CO2で満たされた領域(CO2バブルと

呼ぶ)が生じる。CO2 バブル領域は、地下の温度・圧力

条件により気体または超臨界流体状のCO2で岩石の間隙

が満たされているため弾性波伝播速度が遅くなり、弾性

波探査によって検出できる。気体または超臨界流体状の

CO2 は水より軽いため、CO2 バブルは厚い砂層からなる

帯水層中を上昇し、砂層中に挟まる薄い頁岩層に達する

と一旦上昇を停めて頁岩層の下面に沿って広がるが、頁

岩層に小さな隙間があると、それを抜けて上部の砂層に

至り,砂層中を更に上の頁岩層に達するまで上昇する。

隙間(欠陥)の無い頁岩層に到達すると、その頁岩層が

真のキャップロックになる。CO2 バブルは,キャップロ

ックの下を上方に向かって広がるため、CO2 流の方向の

予測にキャップロック下面の「地形」が重要である。CO2

溶解水は溶解していない水より重くなるため、CO2 が溶

解すれば帯水層の下方に流れるので、地下に長年月留ま

ると予測される。しかし、大きな CO2バブルが帯水層中

に形成されると、CO2 と水の接触が岩石の間隙中に制約

されるので、地下の高圧下で CO2溶解度が高いにも係わ

らず、大きなCO2バブルの溶解縮小には長年月を要する。

以上の知見から、以下の方策が CO2を地下に安定に封

入するために有効である事が判る。

(1)キャップロック(難浸透性の頁岩層・泥層・粘

土層など)は薄くても有効であるが、隙間(欠

陥)が無いことが重要である。隙間(欠陥)は、

割れ目や不整合や砂脈や封塞の不完全な坑井で

あるが、その検出・探査技術の開発が必要であ

る。また、検出した欠陥を補修する技術の開発

も必要である。欠陥検出—補修技術については前

に論じているので省略する(Koide,2001)が、キャ

ップロックが十分に厚ければ小さな欠陥は問題

にならない。

(2)地下に大きな CO2 バブルを形成しないような

CO2 地下注入方法を用いれば、キャップロック

に不完全な部分があっても安定に地下封入がで

きる。たとえば、CO2のみを圧入するのでなく、

CO2 溶解水として圧入すれば,帯水層中で注入

口よりさらに下方に流れるので,安定性が高い。

しかし,この方法は多量の水を圧入する事にな

るので,効率が悪い。このため WAG 法と呼ば

れる CO2 と水 を交互に圧入する方法が

CO2-EOR などで実用化されている。

著者らは、CO2溶液注入や WAG 法より効率よく、大

きな CO2バブル形成を防げる CO2地下注入法として、

新しく微細泡(マイクロバブル)CO2 注入法を提案す

る。

2. 微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)CO2地下注入地下注入地下注入地下注入

径数十ミクロン程度以下のいわゆるマイクロバブルは、

合体して大きなバブルを形成するより、むしろ縮小して

急速に溶解消滅する傾向がある。マイクロバブルの性質

塩水循環塩水循環塩水循環塩水循環 COCOCOCO2222注入注入注入注入

マイクロバブル化マイクロバブル化マイクロバブル化マイクロバブル化

難浸透層難浸透層難浸透層難浸透層

塩水帯水層塩水帯水層塩水帯水層塩水帯水層

COCOCOCO2222

図図図図 1111.微細泡.微細泡.微細泡.微細泡 COCOCOCO2222地下注入概念地下注入概念地下注入概念地下注入概念

Hitoshi Koide,Jyunji Shinoda (2007) Microbubble CO2 sequestration into unconfined aquifers, Proc. MMIJ Annual Meeting (2007), p.151-152. [小出小出小出小出 仁、篠田淳二仁、篠田淳二仁、篠田淳二仁、篠田淳二 (2007)(2007)(2007)(2007)::::微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)微細泡(マイクロバブル)COCOCOCO

2222注入による非構注入による非構注入による非構注入による非構

造性帯水層隔離法の提案造性帯水層隔離法の提案造性帯水層隔離法の提案造性帯水層隔離法の提案, , , , ((((社社社社))))資源・素材学会資源・素材学会資源・素材学会資源・素材学会 平成平成平成平成 19191919 年度春季大会講演集年度春季大会講演集年度春季大会講演集年度春季大会講演集,,,,HHHH----4444、企画、企画、企画、企画 151151151151----152152152152 ページページページページ ]

はまだよく解明されていないが、縮小する際に内部は高

圧になるので、表面積が大きいこともあって、溶解が速

くなる。地下ではマイクロバブル内の CO2注入法は超臨

界状態になる可能性が高い。マイクロバブルは、大きな

バブルに比べて浮力がごく小さいため、水中でほとんど

上昇しない。このようなマイクロバブルの特性は、前項

で述べたように CO2の地中隔離に理想的な性質である。

注入井の坑口ないし注入井内部にマイクロバブル発生

装置を設置し、水中に CO2を噴出して CO2マイクロバブ

ル乳状水を作り、貯留層に注入する(図1)。水は、帯水

層からくみ上げた塩水地下水を用いて、それを地下に再

圧入するのが望ましい。塩水地下水に含まれているメタ

ンを回収し、代わりに CO2を混入する。マイクロバブル

を発生させる深度が効率上重要であるが、今後の主要な

研究課題の一つである。

微細泡(マイクロバブル)の岩石への浸透性について

は、測定データが少なく、結果にも大きな変動がある。

微細泡の径の分布と岩石の間隙径の分布の相互関係が複

雑なためであろう。注意深い実験を多数行う必要がある

が、岩石の間隙径より微細泡の径が十分に小さければ、

マイクロバブル水の浸透性は良いが、間隙径より大きい

微細泡が混入すると浸透性が著しく低下すると考えられ

る。微細泡の径は貯留層になる砂岩等の間隙より小さく、

キャップロックとして期待される頁岩層・粘土層等の間

隙より大きいことが望ましい。

微細泡(マイクロバブル)CO2 注入法をすれば、海洋

隔離のようなフリーウォーター中でも安定にCO2隔離が

できると考えられるが、多孔質の岩石中では、界面効果

などによるマイクロ・トラップ・メカニズムが作用し、

「残留ガス」が生じる。残留ガスとして岩石間隙中に留

まっている間に、さらに溶解・イオン化・炭酸塩化など

の固定メカニズムが進行し、長期安定化すると期待され

る。微細泡(マイクロバブル)CO2 注入法は、残留ガス

化から溶解への固定プロセスを促進するほうほうであり、

苦鉄質岩などへの地化学固定や微生物固定などの高度固

定法を効率的に実現できる地下 CO2注入技術である。ま

た、極微細なマイクロバブルの注入により、岩石の微細

な間隙の奥に CO2 注入が可能であるので、CO2-EOR(原

油増進回収法)としても微細泡(マイクロバブル)CO2注

入法は有望である。特に、原油増進回収が技術的に難し

い水押型の油層に適している。

微細泡(マイクロバブル)CO2 地中隔離技術は安全性

が高く、高度固定化を促進できる可能性を有している。

図2.マイクロ・トラップ図2.マイクロ・トラップ図2.マイクロ・トラップ図2.マイクロ・トラップ

構造トラップ構造トラップ構造トラップ構造トラップ

吸着吸着吸着吸着

残残残残留ガス留ガス留ガス留ガス

溶解溶解溶解溶解

(帯水層)(帯水層)(帯水層)(帯水層)

ハイドレートハイドレートハイドレートハイドレート

化化化化

炭酸塩化炭酸塩化炭酸塩化炭酸塩化

イオン化イオン化イオン化イオン化

(岩石風化)(岩石風化)(岩石風化)(岩石風化)

微生物固定微生物固定微生物固定微生物固定

時間時間時間時間

図3.図3.図3.図3.CO2 地中固定の深化過程地中固定の深化過程地中固定の深化過程地中固定の深化過程

大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの試み大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの試み大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの試み大気中二酸化炭素の直接削減ージオエンジニアリングの試み

早大早大早大早大・・・・理工研理工研理工研理工研 小出小出小出小出 仁仁仁仁 http://homepage3.nifty.com/zeroemission/

1. 温暖化防止ジオエンジニアリング温暖化防止ジオエンジニアリング温暖化防止ジオエンジニアリング温暖化防止ジオエンジニアリング

地球温暖化防止のための緊急手段として、大規模

な温暖化防止ジオエンジニアリング(環境地球工

学)技術が最近注目されている。コペンハーゲン会

議では、すべての大排出国が地球温暖化防止の必要

性は認めたことに大きな意義があった

1)。しかし、

米国や中国等の新興国が温室効果ガス排出削減の

義務を負うことを拒否したのは、環境より経済開発

を優先した結果であるが、化石燃料にまだ当分は頼

らざるをえないことの現れでもある。比較的小幅な

温室効果ガス削減ですら合意できないようでは、温

暖化対策が手遅れになることが既に避けられなく

なっているとさえ思える

2)。このような情勢から、

より直接的で顕著な効果のある温暖化防止技術が

求められるようになってきて、大規模な温暖化防止

ジオエンジニアリングが、にわかに注目されている

3-6)。

温暖化防止ジオエンジニアリングは、地球に傘を

さすとか、雲を増やすとか、海洋に鉄などの養分を

散布して藻類を増殖させるなど様々な提案がされ

ているが、中には火山活動を活性化させる等のよう

な過激な案も真面目に提案されている状況である。

巨大規模火山噴火が世界的な大規模な世界的な寒

冷化をもたらすことはよく知られているが、火山の

コントロールは未だ困難で、災害をもたらす危険が

ある。

地球の巨大で複雑な天然のシステムを十分に理

解できていない現状で、大規模なジオエンジニアリ

ングを余儀なくされた場合には、自然の状態を変え

ないーまたは既に自然の状態から既に変わってし

まっている場合には、自然の状態に戻す方向でジオ

エンジニアリング技術を用いるべきであろう

7)。大

気CO2濃度をコントロールするジオエンジニアリン

グとしては、自然の状態を変えないための技術が

CO2回収・貯留(CCS)であり、自然の状態に戻すため

の技術が大気CO2直接削減技術である。

2. CO2回収・貯留回収・貯留回収・貯留回収・貯留(CCS)ジオエンジニアリングジオエンジニアリングジオエンジニアリングジオエンジニアリング

CO2回収・貯留(CCS)は、CO2排出を大幅に削減し

て、大気中のCO2濃度増加を抑制するため、自然の

状態を変えないことを目指すジオエンジニアリン

グ技術である。CO2回収・貯留(CCS)は、年100万ト

ン以上の規模のCO2地中貯留が世界で5箇所になり、

北海海底下の帯水層には既に1,000万トン以上の

CO2が貯留されている。しかし、コスト低減や長期

安全性など課題は多く、日本など世界各国で最重点

研究課題になっている

8,9)。

2010年2月3日オバマ米大統領が包括的CO2回収・

貯 留 (CCS)連 邦 戦 略 大 統 領 覚 書 (Presidential

Memorandum—A Comprehensive Federal Strategy on

Carbon Capture and Storage)10)を発表し、新省際CO2

回収・貯留(CCS)タスクフォース(Interagency Task

Force on Carbon Capture and Storage)を作り、10年以

内に経済効率の良いCO2回収・貯留(CCS)の広範な実

施を目指すことを宣言した。やはり、コスト低減と

安全性の確保が主な課題になると考えられる。

塩水循環塩水循環塩水循環塩水循環 COCOCOCO2222注入注入注入注入

マイクロバブル化マイクロバブル化マイクロバブル化マイクロバブル化

難浸透層難浸透層難浸透層難浸透層

塩水帯水層塩水帯水層塩水帯水層塩水帯水層

COCOCOCO2222

図図図図 1....CO2マイクロバブル帯水層注入マイクロバブル帯水層注入マイクロバブル帯水層注入マイクロバブル帯水層注入

Hitoshi Koide (2010): Air capture – An attempt at climate geoengineering, Proc. MMIJ

Annual Meeting (2010 ), p. 1-4. [小出小出小出小出 仁仁仁仁 (2010): 大気中二酸化炭素の直接削減ージオエン大気中二酸化炭素の直接削減ージオエン大気中二酸化炭素の直接削減ージオエン大気中二酸化炭素の直接削減ージオエン

ジニアリングの試みジニアリングの試みジニアリングの試みジニアリングの試み, 資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集 , 1-4 ]

3. マイクロバブル法マイクロバブル法マイクロバブル法マイクロバブル法 CO2固定固定固定固定(CCS) 11)

CO2は地下浅所までは気体であるが、800m程度よ

り深い地下では通常超臨界流体状態になるが、ごく

低温の地下では液体状になる。さらに、水に溶解し、

ハイドレートや炭酸塩を形成して固体状になる場

合がある。地下の空隙は、通常地下水で満たされて

いるが、気体状や超臨界流体状のCO2は水より軽い

ため、地表に向かって浮上する性質がある。そのた

め、CO2を気体状や超臨界流体状で大量に地下に注

入するためには、ドーム状のキャップロックなどの

封じ込めのための特殊な地質構造が必要になる。こ

のような封じ込めのための地質構造があるのは、産

油・産ガス地帯など一部の地質地域に限られる。

温室効果ガスは世界中で大量に発生しているので、

地球温暖化防止に貢献するためには多様な地質構

造地域で利用できる汎用のCO2地中貯留・固定(CCS)

技術が必要である。径数十ミクロン程度以下のいわ

ゆるマイクロバブルは、合体して大きなバブルを形

成するより、むしろ縮小して急速に溶解消滅する傾

向がある。マイクロバブルの性質はまだよく解明さ

れていないが、大きな気体または超臨界流体のバブ

ルに比べて、浮力が小さいので、地下に注入しても、

地表に浮上する心配が少ない(図1)。さらに、地

下岩石の微細な空隙中に入り込んで、吸着や界面張

力などにより閉じ込められ、残留ガスとして留まり

易い。微細泡(マイクロバブル)の岩石への浸透性

については、注意深い実験を行う必要があるが、岩

石の間隙径より微細泡の径が十分に小さければ、マ

イクロバブル水の浸透性は良いが、間隙径より大き

い微細泡が混入すると浸透性が著しく低下すると

考えられる。微細泡の径は貯留層になる砂岩等の間

隙より小さく、キャップロックとして期待される頁

岩層・粘土層等の間隙より大きいことが望ましい。

残留ガスとして岩石間隙中に留まっている間に、さ

らに溶解・イオン化・炭酸塩化、ハイドレート化、

微生物による有機物化やメタン化などの固定メカ

ニズムが進行し、長期安定化すると期待される。マ

イクロバブル法CO2固定(CCS)は、残留ガス化から溶

図2、図2、図2、図2、CO2マイクロバブル地下注入とマイクロバブル地下注入とマイクロバブル地下注入とマイクロバブル地下注入と CO2セルフシーリングセルフシーリングセルフシーリングセルフシーリング

CO2(発電所等より回収発電所等より回収発電所等より回収発電所等より回収)

水水水水

溶脱溶脱溶脱溶脱 溶脱溶脱溶脱溶脱

中和沈殿中和沈殿中和沈殿中和沈殿 中和沈殿中和沈殿中和沈殿中和沈殿

セルフシーリングセルフシーリングセルフシーリングセルフシーリング セルフシーリングセルフシーリングセルフシーリングセルフシーリング

高高高高pH 高高高高pHpHpHpH

苦鉄質(塩基性)岩苦鉄質(塩基性)岩苦鉄質(塩基性)岩苦鉄質(塩基性)岩 苦鉄質(塩基性)岩苦鉄質(塩基性)岩苦鉄質(塩基性)岩苦鉄質(塩基性)岩

CO2マイクロバブルマイクロバブルマイクロバブルマイクロバブル

酸性酸性酸性酸性

解への固定プロセスを促進し、苦鉄質岩などへの地

化学固定や微生物固定などの高度固定法を効率的

に実現できる(図2)。また、極微細なマイクロバ

ブルの注入により、岩石の微細な間隙の奥にCO2注

入が可能であるので、CO2-EOR(原油増進回収法)と

しても微細泡(マイクロバブル)CO2注入法は有望

である。特に、原油増進回収が技術的に難しい水押

型の油層に適している。

マイクロバブル法CO2地中固定技術は安全性が高く、

非構造性帯水層や玄武岩や蛇紋岩・カンラン岩や海

洋性地殻などへの高度CO2地中固定化を迅速かつ安

全に実行できる温暖化防止ジオエンジニアリング

技術として有望である。

4. 大気大気大気大気 CO2直接削減技術直接削減技術直接削減技術直接削減技術

大気中のCO2濃度増加を抑制するだけでなく、す

でに自然状態の三分の一増になっている大気CO2濃

度を低下させようとするのが大気CO2直接削減技術

である。地球温暖化防止が手遅れになりそうな情勢

から、従来荒唐無稽なトンデモ技術と思われて来た

大気CO2直接削減技術が真剣に取り上げられるよう

になってきた。大気は何処でも存在しているために、

場所を選ばずに実施できる。発電所や大工場から遠

い、いかなる遠隔地でも実施できる。排出源とは関

係がないので、排出責任と直結せず、国や企業の思

惑や国際政治上の争いに巻き込まれ難いという隠

れた利点もある。

これまでに提案されている様々な物理化学的大

気CO2直接削減技術はいずれもエネルギー消費が

大きすぎる。大気中のCO2濃度は増加したとは言

っても、空気の分子1万個中にCO2分子は4個以

下しか含まれていないため,いかなる方法をとる

にしても抽出にはエネルギーを浪費する。しかし、

植物は太陽光エネルギーを利用して,巧妙に大気

CO2直接削減を実現している。エネルギー利用を

効率化するか、未利用の自然エネルギーを活用す

る工夫が必要になる。CO2を石灰すなわち酸化カ

ルシウムや水酸化カルシウムに吸収させ、炭酸カ

ルシウムとして固定する方法が大気CO2直接削減

技術として提案されているが、炭酸カルシウムは

元のCO2の倍以上の重量の固体であるため,運搬

が困難になり、運搬や取り扱いに大きなエネルギ

ーを浪費する。これまでに提案されている物理化

学的大気CO2直接削減技術は、大気からのCO2回

収に大量のエネルギーを消費するだけでなく、運搬

や大気からの長期隔離がほとんど考慮されていな

いケースもあり、実用化は困難である。森林固定や

藻類・サンゴ増殖などの生物利用は大気CO2直接削

減を実現しているが、太陽光と生態系を利用してい

るので、長期的視野のCO2削減に適しているが、大

規模—急速なCO2削減に用いるには制約がある。

地球温暖化防止が手遅れになりつつあるにも関わ

らず、国際的協力による有効な防止策を採れない世

界情勢から、現在の国際政治・経済にあまり影響を

与えずに緊急の大規模工学的実施ができるジオエ

ンジニアリングに適した大気CO2直接削減技術の開

発が喫緊の課題になっている。このため、物理化学

的方法と生物学的方法の長所を兼ね備えた大気CO2

直接削減技術を提案する。

5. マイクロバブル法大気マイクロバブル法大気マイクロバブル法大気マイクロバブル法大気 CO2直接削減直接削減直接削減直接削減

新しく提案するマイクロバブル法大気 CO2 直接

削減技術は、マイクロバブル法 CO2地中固定技術の

大気への応用である。マイクロバブル法 CO2地中固

定技術では、発電所等の燃焼排ガスから回収した

CO2 をマイクロバブル状にして地中に注入したが、

マイクロバブル法大気 CO2 直接削減技術は大気そ

のまま、あるいは大気から膜分離法や吸着法で CO2

濃度を高めた空気を用いる。大気は廃棄物ではない。

また、CO2は低濃度であれば、植物には有益で、人

間・動物の健康にも害は無い。数%以下の低濃度の

CO2を含む空気は、浅い海中や地中に注入しても安

図3.海洋自然エネルギー活用による

浮体式大気 CO2削減基地案

全であるだけでなく、植物や藻類や植物プランクト

ンには有益である。

しかし、温室効果ガス削減のためには CO2が大気

中に湧出することは、できるだけ抑制したい。その

ためには、浅い海中や地中でも長期的に CO2を大気

から隔離するメカニズムが必要になる。

このため、未利用の海洋自然エネルギーを活用して、

大気から膜分離や吸着法により CO2 濃度を高めた

空気を取り込み、遠洋海面下数メートルないし十数

メートルの深さにマイクロバブル状で注入する浮

体式大気 CO2削減基地を提案する。CO2と酸素を含

む空気を数メートル以上の深さの海水中にマイク

ロバブル状で注入すれば、高圧の水への溶解度の高

い CO2が海水に多く溶解し、酸素もかなり溶解する。

海水中に CO2 と酸素の濃度が高まることにより藻

類・植物プランクトンを増殖し、CO2固定をするこ

とが期待されるが、養分の添加や石灰等による中和

の必要性と海洋環境への影響についても検討が必

要である。

マイクロバブル法大気 CO2直接削減技術は、未利

用の海洋自然エネルギーを活用して、大規模かつ経

済的に温室効果ガス削減ができる可能性がある新

しい温暖化防止ジオエンジニアリング技術になる

可能性がある。海洋生物の増殖効果も期待されるが、

海洋環境への長期的影響を検討する必要がある。

参考文献参考文献参考文献参考文献

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(24 December 2009)

2)Jackson,E.:TheCoalNightmare,http://www.abc.net.au/

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3) Jones,N.: Sucking it up, Nature 458, 1094-1097 (30

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document 10/09 (2009)

5) Keith,D.W.: Why Capture CO2 from the Atmosphere?

Science 325 , 1654-1655 (2009)

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811 (2009)

7)小出 仁: 二酸化炭素地中貯留(CCS)の認知・社会

受容について、、、、資源素材学会春季大会 A-9 (2009)

8) Chu,S.: Carbon capture and sequestration, Science

325 , 1599 (2009)

9) IEA: Technology Roadmaps Carbon capture and

storage, 52p. (2009)

10) Obama,B: Presidential Memorandum -- A

Comprehensive Federal Strategy on Carbon Capture and

Storage, Whitehouse (2010)

11)小出 仁、篠田淳二: 微細泡(マイクロバブル)

CO2注入による非構造性帯水層隔離法の提案 ,資

源・素材学会 春季大会(2007)

図4.海洋自然エネルギー活用による浮体

式大気 CO2削減基地断面図

大気大気大気大気 CCSCCSCCSCCS:カウンター・:カウンター・:カウンター・:カウンター・ジオエンジニアリングのジオエンジニアリングのジオエンジニアリングのジオエンジニアリングの考え方考え方考え方考え方

産総研/温暖化防止地球システム産総研/温暖化防止地球システム産総研/温暖化防止地球システム産総研/温暖化防止地球システム 小出小出小出小出 仁仁仁仁 http://co2.eco.coocan.jp/

1. ジオエンジニアリング(地球工学)の役割ジオエンジニアリング(地球工学)の役割ジオエンジニアリング(地球工学)の役割ジオエンジニアリング(地球工学)の役割

地球にマクロな影響を与える可能性のあるよう

な大規模工学技術を広くジオエンジニアリング(地

球工学)と呼んでいる。多種多様な技術を含み,体

系化はされていない。SF(Scientific Fiction)と言うべ

きものも多く、「とんでも技術」などと言われ、物

笑いの種にさえなっていた。しかし、好むと好まざ

るに関わらず、ジオエンジニアリングはしだいに重

要な分野になりつつある。「世界は神様が造りたも

うたが、オランダはオランダ人が造った」と言われ

るオランダはジオエンジニアリングの元祖といっ

ても良いであろう。旧ソ連の「自然改造計画」は、

おそらく初めて意識して実施されたジオエンジニ

アリングと思われるが、中央アジアでの大規模な灌

漑事業はアラル海の縮小と沙漠化を招いた。安易な

ジオエンジニアリングの悪影響の格好の例である。

現在提案されているジオエンジニアリング案で

も、実用不可能な技術や目的外の悪影響の危険があ

る技術が多い。しかし、反対する人が多くても、実

は人類は意図せずにジオエンジニアリングの壮大

な実験を既に実施している(表1)。産業革命以来、

CO2やメタンのような温室効果ガスを大量に排出し、

地球を温暖化しつつあるのが、「意図しないジオエ

ンジニアリング」の好例である。世界中で、森林を

破壊して、耕地や放牧地を作り、都市を建設するこ

とも、意図しないジオエンジニアリングと言える

(表1)。人類最古の物語「ギルガメシュ叙事詩」では、

「都市の神」が「森の神」を征伐するが、5,000年前

に既に「意図しないジオエンジニアリング」とその

恐ろしい結末を物語っている。

Hitoshi Koide (2011) Air-CCS as a secure counter-geoengineering, Proceedings of MMIJ

Annual Meeting (2011 ), 1-4. [小出小出小出小出 仁仁仁仁 (2011) 大気大気大気大気 CCS:カウンター・ジオエンジニアリン:カウンター・ジオエンジニアリン:カウンター・ジオエンジニアリン:カウンター・ジオエンジニアリン

グの考え方グの考え方グの考え方グの考え方, 資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集資源・素材学会春季大会講演集, 1-4 ]

人類にとって、地球は小さくなりつつあるとはい

っても、やはり地球は大きく複雑である。ジオエン

ジニアリングの基盤になるのは、地球科学であるが、

地球については未知の部分が多く残っている。未知

の自然を不用意に変えないように注意すべきであ

るが、世界で70億人近い人類にとって自然を変えな

いようにすることが困難になっているのが現実で

ある。自然の状態を守るためには、意図しないジオ

エンジニアリングは止めるべきであるが、実際には

止める事が難しい場合が多い。ご承知のように産業

革命以後、自然状態の280ppmから36%も増えている

CO2濃度のさらなる増加をくい止めることすら、世

界の首脳達が集まっても難しいのが現実である。

意図しない誤ったジオエンジニアリングに対抗

するためのジオエンジニアリングが必要になって

いる。地球規模の破壊には、地球規模の対策が必要

である。人類が無意識に破壊した地球を修復するた

めの新しいジオエンジニアリングを「カウンター・

ジオエンジニアリング」と呼ぶことにする。大気中

のCO2濃度増加を止めるためのカウンター・ジオエ

ンジニアリングの候補として、CO2回収・貯留(CCS)

がクローズアップされている。CO2回収・貯留(CCS)

は、大気中に増えすぎたCO2をこれ以上増やさない

ようにしようとする技術であるが、さらに、大気中

のCO2濃度を減らして産業革命前の自然の濃度

(280ppm)に向けて」少しでも戻そうとするカウンタ

ー・ジオエンジニアリングがCO2除去(Carbon

Dioxide Removal:CDR)ジオエンジニアリングであ

る(表1)。

しかし、かけがえの無い地球にマクロな影響を与

えるだけに,ジオエンジニアリングの実施には細心

の慎重さが必要である。「石橋を叩いて渡らない」

のが原則である。それでもジオエンジニアリングを

実施するには、厳格な原則を守る必要がある

(Commons Science and Technology committee,2010)。

ジオエンジニアリングの原則案を表2に示す(小出、

2009を増補)。この原則案はたたき台であり,詳し

い説明は省略するが、自然からの逸脱を小さくし、

逸脱した場合は自然状態に戻す努力をし、自然を利

用あるいは模倣することがジオエンジニアリング

に特に重要である。ジオエンジニアリングを実施す

るには、地球を良く理解していなければならないが、

地球について未知の部分が多く残っている科学の

現状でのジオエンジニアリングは、自然状態の保全

が原則になる。ジオエンジニアリングは、原則に沿

った事業でなければならないが、また、ジオエンジ

ニアリングの原則に沿っていることを住民に周知

し、情報を共有する必要がある。

典型的なカウンター・ジオエンジニアリングと言

える CO2除去(Carbon Dioxide Removal:CDR)ジオ

エンジニアリングは現在利用しうる可能性のある

唯一の温暖化防止ジオエンジニアリングであると

思われる。ただし、予期しない副作用が無い事を、

ナチュラル・アナログ(類似天然現象)や現場実験

で確かめなければならない。それに対し、太陽光放

射管理(SRM)ジオエンジニアリング(表1)は、安

価な温暖化防止技術と言

う期待があるが、自然の

状態を変える方向になる

場合が多く、予期しない

影響を招くという研究報

告も示されている (Ricke

et al.,2010)。CO2除去ジオ

エンジニアリングは海洋

酸性化の防止にも役立つ

が、 太陽光放射管理ジオ

エンジニアリングは海洋

酸性化防止には無効であ

る。太陽光放射管理ジオ

エンジニアリングは研究

の対象としては重要であ

るが、大規模実施は現時

点では控えるべきであろ

う (Royal Society,2009; 杉

山,2010)。

2. 大気大気大気大気 CCS

化石燃料の燃焼排ガス

のCO2濃度は 10%程度以

上であるが、大気は0.04%

弱と極めて薄い(図1)。

このため大気CCS(CO2回

収・貯留)は、大量の窒

素ガスや酸素ガスに邪魔

されて、化石燃料燃焼排

ガスからのCO2回収・貯留

に比較しても、エネルギーロスが大きい欠点がある。

その代わり、大気は無害で、貯留の安全性が高い利

点がある。

大気から膜分離法や吸着法でCO2濃度を若干高め

ても、数%程度の濃度までは人間の健康に悪影響は

ほとんど無い(図1)。若干CO2濃度を高めた空気を

微細泡化して比較的浅い地下や海中に注入する大

気マイクロバブル地中貯留・海洋貯留やCO2マイク

ロバブル地中貯留は、CO2の高度固定へ導く導入技

術として期待される(図2、小出、2010)。

現代世界の問題の一つである都市への人口・経済

活動集中のため、エネルギー需要が都市域近くに集

中し、したがってCO2排出源も都市域近くに集中し

ている。エネルギー需要が都市域近くに集中するた

図1.図1.図1.図1.CO2濃度とリスク及びベネフィットの関係、濃度とリスク及びベネフィットの関係、濃度とリスク及びベネフィットの関係、濃度とリスク及びベネフィットの関係、低濃度

の CO2濃度は、生命に不可欠であるが、高濃度では有害に

なる。気候にも適度の CO2濃度が必要である。

めに、都市域から遠い遠隔

地(僻地)の自然エネルギ

ーは利用されずに残される。

遠隔地(僻地)の大部分は、

海洋や極地・高緯度地域・

高標高地域や沙漠で、CO2

シンクとして適した地域で

あるが、人口は少なく、産

業もほとんど無いので、エ

ネルギー需要は無く、CO2

排出源もほとんど無い。CO2

排出源が無ければ、通常の

CO2回収・貯留(CCS)技術は

成り立たない。遠方の大規

模 CO2排出源から大量の

CO2を遠隔地に運ぶには、長

大な CO2パイプラインや

CO2タンカーに巨額のイン

フラストラクチャー投資が

必要で、輸送エネルギー・

ロスも大きくなる。しかし、

遠隔地にも大気があるので、

大気中からCO2を回収すれ

ば、大気CO2回収・貯留(大

気CCS)が成り立つ。

大気中のCO2濃度が現在

でも約390ppmと薄いために

必要な、CO2濃縮のためのエ

ネルギーは、遠隔地に残さ

れている未利用の自然エネ

ルギー(風力、太陽光、太

陽熱、地熱、天然ガスなど)

を利用する。大気CCS実施によるエネルギー・ペナ

ルティの実質的な補填になる。

極地(南極など)・高緯度地域(シベリア・カナ

ダ・アラスカなど)・高標高地域(チベット高原な

ど)の地下約300mより深い帯水層や、約300mより

深い海洋底の下の岩石層にCO2を貯留すれば、CO2

ハイドレートによるシール層が形成される(“自己

シーリング”)ため、CO2漏洩がほとんど無く、また

余剰CO2をすべて収容するに十分な容量が、カナダ

やシベリアの地下に広く賦存している(図3)。

3.まとめ3.まとめ3.まとめ3.まとめ

CCSおよび大気CCSが温暖化防止カウンター・ジ

オエンジニアリングとして役立つためには、世界各

地で膨大な量のCO2を安定に処理でき、しかも厳し

くコスト低減や長期安全性を求められる。大気CCS

は、CO2排出源に関係なく、大気のCO2濃度を直接

に低減できるので、産業構造や経済にほとんど影響

なく温暖化防止が可能になる。大気は地球上にほぼ

一様に存在するので、大気CCSはCO2地中貯留に最

適な地域で実施できる。大気CCSは、国際政治・経

済のしがらみに関係なく実施できる温室効果ガス

削減オプションである。