電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 ...

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電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査 平成21年度 平成22年3月

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電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び調査

平成21年度 研 究 報 告 書

平成22年3月

総 務 省

目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

1. ヒトへの影響に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

1.1 携帯電話端末からの電波によるヒトの眼球運動への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

1.2 携帯電話からの電波の睡眠に対する影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

2. 疫学調査 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 63

2.1 小児・若年期における携帯電話端末使用と健康に関する疫学調査

【小児脳腫瘍の症例対照研究】 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 65

3. 動物実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 95

3.1 2GHz帯電波の多世代ばく露の脳の発達及び脳機能への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・ 97

3.2 ミリ波、準ミリ波帯電波の眼部ばく露による影響の指針値妥当性の再評価 ・・139

3.3 頭部局所電波ばく露の及ぼす生体影響評価とその閾値の検索 ・・・・・・・・・・・・・・165

3.4 脳内免疫細胞に及ぼす電波ばく露の影響評価 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・213

3.5 複数の電波ばく露による電波複合ばく露の生体への影響 ・・・・・・・・・・・・・・・・・247

4. 細胞実験 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・263

4.1 電波の細胞生物学的影響評価と機構解析 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・265

4.2 ミリ波帯細胞用ばく露装置と物理的環境の検索 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・283

4.3 免疫細胞及び神経膠細胞を対象とした

マイクロ波照射影響に関する実験評価 ・・・361

5. ドシメトリ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・377

5.1 小児に対する人体全身平均SARと体内深部温度上昇の特性評価 ・・・・・・・・・・・・379

5.2 実験に基づく電磁界強度指針の妥当性評価及び確認 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・409

1

はじめに

携帯電話の急速な普及等による電波利用が身近なものとなっていることに伴い、電波の人体

への安全性に関する社会的関心が高まっている。携帯電話で使用されている2GHz前後のマイ

クロ波は、電波の強度が極めて強いと熱作用により生体に影響を及ぼすことが知られている。一

方熱作用を有しないような弱い電波であっても、生体に影響があるのではないかとの関心も寄せ

られ、また、無線技術の発展に伴いより人体の近くで使用される無線機器の開発が進むことが考

えられており、電波のばく露による生体への影響は、安心して電波を利用するという観点から解

明が必要とされているところである。

そこで、総務省では、電波による人体への影響を科学的に解明するために、生体の安全性に

関する研究を推進することを目的として生体電磁環境研究推進委員会を設置し、平成9年度か

ら平成18年度にわたり、血液-脳関門に及ぼす影響、記憶や睡眠に及ぼす影響、脳微小循環

動態に及ぼす影響、脳への長期間ばく露による脳腫瘍発生に関する試験、眼への影響に関す

る試験等の動物実験、細胞による生物学的影響評価と機構の解析、ヒトの運動機能に及ぼす

影響、脳腫瘍の症例-対照研究による疫学調査等を行ってきた。平成19年3月には、この10年間の研究成果が取りまとめられるとともに、なお究明すべき課題が多く残されているとのWHOの

見解から、今後も科学的データの信頼性の向上を図り、電波の安全性評価に関する研究を進め

ていく必要があるとして、今後に取り組むべき研究課題等の提言がなされた。

これを受けて平成19年度においては、同報告書の今後の研究課題として掲げられた研究のう

ち、携帯電話の電波ばく露にかかわるヒトの症状に関する研究、ヒト眼球運動への影響評価、

小児・若年期における健康に関する疫学調査、多世代にわたる電波ばく露による脳の発達と機

能への影響、ミリ波・準ミリ波帯電波の眼部ばく露による影響、頭部局所電波ばく露の及ぼす生

体影響と閾値の検索、脳内免疫細胞に及ぼす電波ばく露の影響評価、電波の細胞生物学的影

響評価と機構解析、ミリ波帯細胞用ばく露の開発と物理環境の検索、さらに、人体の電波吸収特

性の理論的解析では、子供に対する人体全身平均SARの特性評価、実験に基づく電磁界強度

指針の妥当性評価等を行うこととし、研究課題要件に基づく具体的な研究計画については公募

による提案を受けて研究を実施した。

さらに、平成20年度においては、平成19年度に公募提案により採択された研究の継続と、新

たに携帯電話からの電波の睡眠に対する影響評価、成人の携帯電話使用者の追跡調査、複数

の電波ばく露による電波複合ばく露の生体への影響評価、免疫細胞及び神経膠細胞を対象とし

たマイクロ波照射影響に関する実験評価の4課題についての公募を実施し、研究を開始した。

平成21年度は、平成19年度、平成20年度に採択した研究のうち、平成20年度に終了した携

帯電話の電波ばく露にかかわるヒトの症状に関する研究と成人の携帯電話使用者の追跡調査

研究を除き、継続して研究を実施した。 本報告書は、平成21年度に実施した上記研究結果について取りまとめたものである。

3

1. ヒトへの影響に関する研究

5

1.1 携帯電話端末からの電波によるヒトの眼球運動への影響

7

Ⅰ 要 旨

われわれのこれまでの研究で携帯電話端末の 30 分間通話により発生する電波が、基

本的な眼球運動課題である視覚誘導性サッカード(visually guided saccade:VGS)、

ギャップサッカード(gap saccade:GS)、記憶誘導性サッカード(memory guided

saccade:MGS)、さらに、より高次の認知機能が関与する眼球運動課題であるアンチ

サッカード(antisaccade:AS)、キュー付きサッカード(CUED)、及び二種類のオー

バーラップサッカード(overlap saccade:OL1、OL2)の各課題において影響を与え

ないことがわかった。 本研究を行う以前に、携帯電話端末から発生する電波が、脳の認知機能に影響を与え

るとする報告[12]があった。そこで本研究では、現在の生じている状況を判断し、それ

に対してある運動を随意的に開始したり抑制したりするという、脳の基本的な認知機能

の一つに注目した。具体的には、上で述べた眼球運動課題を用いることにより、ターゲ

ットに対する反射的な眼球運動の抑制と、随意的な眼球運動の開始という二つの認知的

側面を調べることを行った。 衝動性眼球運動(サッカード)を調べるための眼球運動課題では、初め中心の固視点

を被験者に固視させておき、しばらくして固視点が消えると同時にターゲットが提示さ

れるので、それに対してなんらかのサッカードをすることが求められる(VGS)。AS課題は、ターゲットが中心固視点から左右いずれかの方向に動くので、これと反対方向

に眼球を動かしてもらう眼球運動課題である。CUED 課題では、ターゲットが提示す

る前に、ターゲットと同じ位置に手がかり刺激(cue)が短時間提示されるが、この時

点では cue の方向を見ない。ターゲットがその後しばらく経ってから提示されるので、

この時点で初めてターゲットの方向を見るという課題である。これら二つの課題ではい

ずれも、ターゲットの位置に無意識に反射的に動いてしまう眼球運動を抑制し、随意的

に指示された眼球運動を行うことが求められる。さらに、OL 課題は、ターゲットが中

心固視点から左右いずれかの方向に点灯するが、中心の固視点はすぐには消えず、しば

らくそのまま点灯し続けているような課題である。被験者にはターゲットの方にサッカ

ードして視線を動かしてもらうが、ターゲットが点灯したら中心固視点の点灯の如何に

かかわらず、すばやくターゲットのほうを見てもらう場合(OL1)と、その時は視線を

動かさず、その後で中心固視点が消えたら初めてターゲットの方向をみてもらう場合

(OL2)の二つがある。前者の課題では、固視点がまだ点灯しているにもかかわらず、

そこから眼を離してターゲットの方を見なければならないという意味で、随意性の高い

眼球運動課題である。後者の課題ではターゲットの位置に無意識に反射的に動いてしま

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う眼球運動を抑制し、随意的に指示された眼球運動を行うことが求められる。従って、

この二つの課題を用いることによって、ターゲットに対する反射的な眼球運動の抑制と、

随意的な眼球運動の開始という二つの認知的側面を調べることが可能である。

これらの課題を用いて電波ばく露前後での眼球運動の潜時、振幅、速度、サッカード

の方向の誤り(AS 課題)、固視点が消えていないのにもかかわらずターゲットの方向を

みてしまう誤り(OL2 課題)など全ての眼球運動のパラメータに関して、シャム(偽)

ばく露の前後のデータと比較して有意な差を認めなかった。

以上すべての結果から、30 分間の携帯電話端末からの電波ばく露は、反射的な眼球

運動の抑制と、随意的な眼球運動の開始に関わる神経機構に有意な影響を与えないと考

えた。より具体的に言うと、AS 課題、CUED 課題、二種類の OL 課題に関わりをもち、

なおかつ携帯電話端末から距離的に近いことからばく露量も多いと予想される頭頂

葉・前頭葉の機能は、これらの課題で見る限り、携帯電話端末からの電波のばく露によ

って影響されないと結論した。

表現の統一「二

つ」しました。

9

Ⅱ 研究目的 携帯電話は近年急速に社会に普及浸透しているが、それに伴い携帯電話端末から出る

高周波電波の生体への影響を検討することは社会的急務となっている。とりわけ電波が

脳機能に与える影響に関する研究は最も重要な領域の一つであり、様々な手法を用いた

研究がなされている。(Reiser ら、1995 [16] ; Freude ら、1998 [6] ; Eulitz ら、1998 [4] ; Preece ら、1999 [14] ; Borbely ら、1999 [2] ; Koivisto ら、2000 [10] ; Huber ら、

2000 [9] ; Krause ら、2000 [11] ; Sandstrom ら、2001 [17] ; Croft ら、2002 [3] ; Arai

ら、2003 [1] ; Lee ら、2001 [12] ; Hamblin ら、2004 [8] ; Yuasa ら、2006 [25] ; Sienkiewicz ら、2005 [18])。今回注目したのは脳の認知機能に対する電波の影響であ

る。

われわれは眼球運動に注目し、電波の脳機能に対する影響を眼球運動課題により検討

してきた。各種の眼球運動課題の遂行に前頭葉・頭頂葉・視覚野などの皮質領域や大脳

基底核を含む多数の領域が関与していることがヒトや動物の実験でわかっている

(Gaymard & Pierrot-Deseilligny、2000 [7] )。これらの脳領域はヒトの注意

(attention)にも非常に強く関与しているとされる。実際に、これまで電波はヒトの

注意に影響を与えるという報告がある(Preeceら 1999 [14] 、Koivistoら 2000 [10] 、

Lee ら 2001 [12] 、Sienkiewicz ら 2005 [18] )。携帯電話端末のアンテナと脳の位置

関係から考えて、ヒトの注意や眼球運動課題に関わっている様々な脳領域は携帯電話端

末の電波により影響されやすい部位にあると思われる。われわれのグループは、まず携

帯電話端末の 30 分間通話により発生する電波が、基本的な眼球運動課題である VGS課題、GS 課題及び MGS 課題に影響を与えないことを示した(Terao ら、2007 [21] )。

このことから、携帯電話端末からの電波ばく露は、視覚野・頭頂連合野・前頭眼野等の

皮質領域が関与し、眼球運動に伴う注意の移動や、自発的な眼球運動を司る神経機構に

影響を与えないと結論した。

しかしながらこの結果は、用いた課題が比較的認知機能を必要としない単純な課題で

あったため、影響が示せなかったとも考えられる。ヒトの日常生活で認知に基づく行動

のうちでも、状況を判断し、それに対して適切な反応を随意的に開始したり、目的とし

ない運動を抑制したりする能力は最も基本的な脳の機能の一つである。このように、よ

り認知能力を必要とするような課題を用いることによって、電波の脳機能に対する微妙

な影響をより鋭敏に検出できる可能性がある。

そのために、さらなる研究として、認知的な要素の強い眼球運動課題、すなわち AS

課題、CUED 課題及び OL 課題を用いて、携帯電話の影響を解析した。AS 課題は、提

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示されたターゲットと左右対称の位置に視線を向けなくてはならない課題である。その

ため、被験者は反射的にターゲットに向けて眼球を動かしてしまう自然の傾向を抑制し

て、ターゲットの提示されていない位置に随意的に眼球運動を行わなくてはならない。

また CUED 課題では、ターゲットが提示される前に、同じ位置に手がかり刺激(cue)

が短時間提示されるが、この時点では cue の方向を見ない。ターゲットがその後しばら

く経ってから提示されるので、この時点で初めてターゲットの方向を見るという課題で

ある。OL 課題は、ターゲットが中心固視点から左右いずれかの方向に点灯するが、中

心の固視点はすぐには消えず、しばらくそのまま点灯し続けている課題である。被験者

にはターゲットの方にサッカードして視線をうごかしてもらうが、ターゲットが点灯し

たら中心固視点の点灯の如何にかかわらず、すばやくターゲットの方を見てもらう場合

(OL1)と、そのまま中心固視を続けてもらい、中心固視点が消えてから初めてターゲ

ットの方向をみてもらう場合(OL2)の両方を行った。AS 課題、OL1 課題では固視点

やターゲットが点灯しているにもかかわらず、そこから眼を離して別の方をみなければ

ならないという意味で、随意性の高い眼球運動課題である。CUED 課題、OL2 課題で

は、提示されたターゲットの方向を反射的に思わず見てしまうことを抑制し、中心固視

点が消えたのを待って、初めて指示された随意的な眼球運動を行わなければならない点

が、単純で反射的な眼球運動課題とは異なる。 いずれも提示された光の方向を反射的に思わず見てしまうことを抑制し(反応の抑

制)、指示された随意的な眼球運動を行わなければならない点が、単純で反射的な眼球

運動課題と異なる。すなわち反射的な眼球運動課題に比較して、これらの課題は認知的

操作を必要とした遂行が難しいため、電波による小さな影響であっても、より影響され

やすい可能性があると考えた。

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Ⅲ 試験方法 3.1 対象

10 人の右利きの健常者ボランティア(男性 3 名、女性 7 名、年齢 34.8±8.6 歳[平均

±標準偏差]、24-47 歳)が研究に参加した。

3.2 電波ばく露条件

図1に電波ばく露システムの概略図を示す。本ばく露システムは人体頭部に 2GHz

帯 W-CDMA 方式の携帯電話端末からの電波を照射するためのものである。ばく露は

電波吸収体で覆われた専用のシールドルームで行った。携帯電話端末(シャープ社製

SH905i)を布とプラスチック製のヘッドギアに固定し、被験者の側頭部に配置した。

携帯電話端末の出力はシールドルーム内に置かれた通信用のアンテナ(アンリツ社製

Z0516)を介して、別室に置かれたラジオコミュニケーションアナライザ(アンリツ社

製 MT8815B)を用いて制御した。本実験ではアップリンク(端末から基地局への電波)

周波数とダウンリンク(基地局から顛末への電波)周波数をそれぞれ 1.95GHz 及び

2.14GHz とした。ばく露時の携帯電話端末の出力は規格(ARIB STD-T63)で定めら

れた最大値 250mW となるように設定した。時刻、通信状態、通信用アンテナを介して

ラジオコミュニケータで受信した電力強度等は別室のPCでモニターするとともに記録

した。ばく露装置端末を図 2 に示す。

図 1 ばく露システムの概略図 図 2 携帯電話端末ばく露装置と固定器具

この電波ばく露の前後で以下の眼球運動課題を被検者に行ってもらった。シャムばく

露の前後でも眼球運動課題を行い、両者での差異を検討した。

シャムばく露では、全く同じ受話器を耳にあて、30 分間実ばく露の時と同じように

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維持するが、端末からは電波を発生しないようにした。また実ばく露、シャムばく露が

被検者にわからないように、発泡スチロールで携帯電話端末を囲み、端末から発生する

熱や光が被検者に知られないようにした。どの実験のセッションについても、ばく露が

実ばく露、シャムばく露いずれであるかは、ばく露装置を操作する実験者のみが知って

いるように実験をデザインした(double blind design)。

3.3 眼球運動課題

左右両眼角に貼った銀-塩化銀電極により水平の眼球運動を記録した。眼電図の信号

は DC 増幅器(日本光電 AN-601G)に取り込み、20Hz の high-cut filter をかけた

後、5000Hzのサンプリング・レートで取り込んだ。実験中、被検者は径 90cm で、多

数の LED(light emitting diode)が埋め込まれた黒いドームの前に座った(図 3)。下

記のように眼球運動課題は、被験者がスイッチボタンを押すと始まり、ボタンを放すこ

とによって終了した。

図 3 眼球運動計測に用いた実験装置 眼球運動課題としては、AS 課題、CUED 課題及び二種類の OL 課題の4つの眼球運

動課題を用いた。

AS 課題(図 4)では被検者がボタンを押すと、まずドーム中央の LED が点灯するの

で、被検者にそこを注視してもらう。その後 2-3 秒後のランダムな時間の後に、この

注視点が消える。それと同時に、その左右 5、10、20、30 度のいずれかの位置にター

Central spotTarget spots

Video Camera

DC amplifier

AD converter

Microcomputer

Controller

Switch button

TV monitor

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ゲットが点灯するので、被検者にはその位置と左右対称の位置を注視してもらう。

CUED 課題(図 5)では、被験者がボタンを押した中心固視点に LED が点灯するが、

その後まもなく(500-800ms:ミリ秒後)手掛り刺激(cue)が左右 5、10、20、30

度のいずれかの位置に 50ms の間だけターゲットの位置に点灯する。被験者にはその位

置を見ないで、中心固視点を見続けるように指示した。その後ランダムな時間(1.2-2.0 秒)の後に、中心の固視点が消えると同時にターゲット刺激が cue の現われた位置

に点灯するので、この時点で被験者にはできるだけ速くターゲットを注視するよう指示

した。OL1 課題(図 6)では被検者がボタンを押すと、まずドーム中央の LED が点灯

するので、被検者にはそこを注視してもらう。その後 2-3 秒後のランダムな時間の後

に、その左右 5、10、20、30 度のいずれかの位置にターゲットが点灯する。しかし中

心の固視点はすぐには消えず、しばらくの間点灯している。 OL1 課題(図 6)では、被験者にはターゲットが点灯したら、中心固視点がまだ点灯

していてもできるだけはやくターゲットの方を注視するように指示した。OL2 課題(図

7)では、中心固視点が消えてから、ターゲットの方向を見るように指示した。

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図 4 AS 課題 図 5 CUED 課題

図 6 OL1 課題 図 7 OL2 課題

15

3.4 反応時間課題

上記のいずれの眼球運動課題も、手元のボタンを押すと開始され、ボタンを離すこと

によって終了する。従って眼球運動のみならず、ボタンを押したり離したりする手の反

応時間そのものが、携帯電話端末からの電波のばく露によってどのように影響されるか

を検討することも重要であると考えた。そこで我々は反応時間課題を用いて、手指の反

応時間が電波のばく露によって変化するかどうかを検討した。

この課題では被検者がボタンを押すと、まずドーム中央の LED が点灯するので、被

検者にそこを注視してもらう。その後 2-2.5 秒後のランダムな時間の後に、その左右

5、10、20、30 度いずれかの位置にターゲットが点灯する。被験者にはターゲットの

LED が点灯したら、できるだけ早くボタンを離すように指示した。その際、被験者に

は中心の固視点を見続けるように指示した。LED が点灯してからボタンを離すタイミ

ングはモーションキャプチャーシステム(QUALYSIS, Qualysis AB, Sweden)により

モニターした。

3.5 データ解析(生体影響の評価方法)

記録した眼電図のトレースより、眼球運動の潜時、振幅、速度を計測した。AS 課題

では、被検者はときに、ターゲットの動いたのと逆の方向ではなく、同じ方向を見てし

まう方向の誤りをする(プロサッカード prosaccade)ことがあり、その頻度も計測し

た。CUED 課題では、cue に対して眼を動かしてしまう頻度(saccade to cue)を計測

した。また OL2 課題では、被検者はときにまだ中心の固視点が消えないうちにターゲ

ットの方向を見てしまう誤りをする(prematurely initiated saccades)ことがあり、

そのようなサッカードの誤りの頻度も計測した。これらのサッカードの頻度は実際には

少なかったので、すべてのターゲット位置の結果をあわせて集計を行った。電波ばく

露・シャムばく露の前後で、これらの眼球運動のパラメータに変化が見られるかどうか

を検討した。統計処理には SPSS 10 を用い、分散分析法(repeated measures analysis

of variance:ANOVA)により解析した。被験者間の要因として、ばく露の有無(mode:

実あるいはシャムばく露)、及びターゲットの位置(eccentricity:左右 5、10、20、30度)、被験者内の要因として時間(time:ばく露の前後)を用いた。有意水準は P < 0.05

に設定した。

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Ⅳ 試験結果 4.1 サッカードのパラメータに対する電波ばく露の影響

実ばく露あるいはシャムばく露の前後の、それぞれの課題でのサッカードの重ね書き

のトレースを図 8、9 に示す。ばく露の前後において明らかな変化を認めなかった。

図 8 実ばく露前後の AS、CUED、OL1、OL2 課題の眼球運動トレース

図 9 シャムばく露前後の AS、CUED、OL1、OL2 課題の眼球運動トレース

ばく露前 ばく露後

30°

20° 10°

ばく露後

ばく露前

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4.2 サッカードのパラメータに対する電波ばく露の影響

4.2.1 アンチサッカード課題

AS 課題の潜時はばく露前(304.3±3.6ms;平均±標準誤差;図 10,11、表 1)とば

く露後(300.6±3.0ms)で有意に変化しなかった[F(1,9) = 1.394、p= 0.2394]。time と

eccentricity [F(7,63) = 1.286、p= 0.2614]の間にも有意の交互作用がなかった。さらに、

ばく露の mode(実ばく露・シャムばく露)を含む他のあらゆる交互作用も有意に達し

なかった[mode X eccentricity F(1、9) = 0.519、p= 0.4726];eccentricity X time X mode:

F(7、63) = 1.887、 p= 0.0758]。従って、実ばく露・シャムばく露ともに、潜時はばく露

前後で有意に変化しなかった。

AS 課題の振幅はわずかではあるが、ばく露前に比べてばく露後に有意に減少した[図

10、11、表2; F(1、9) = 11.324、p= 0.0010]。しかし、ばく露の mode(実・シャムばく

露)を含む交互作用は有意ではなかった[mode X time: F(1、9) = 0.578、p= 0.4482;

mode X eccentricity: F(7、63) = 0.321、p= 0.9437; mode X eccentricity X time: F(7、63)

= 0.053、p= 0.9998]。従って、AS の振幅は実ばく露・シャムばく露で同様に減少した

が、携帯電話の有無により差は生じないと結論した。

同様に、AS 課題のピーク速度はばく露前に比してばく露後に、わずかではあるが有

意に減少した[図 10、11; F(1、9) = 14.372、p < 0.0002]。同様に、ばく露の mode に関す

る交互作用は有意にならなかった[mode X time: F(1、9) = 0.00001、p= 0.9976; mode X

eccentricity: F(7、63) = 0.179、p= 0.9893; mode X eccentricity X time: F(7、63) = 0.244、

p= 0.9734]。以上をまとめると、AS 課題の振幅と速度はばく露後にわずかに減少した

が、これらの変化は実ばく露・シャムばく露で同程度にみられた。

4.2.2 キュー付きサッカード課題

CUED 課題の潜時は、(図 10、表 1)ばく露前(234.2±3.3ms)よりばく露後

(226.5±2.6ms)にわずかに減少した[図 10、11、表1; F(1,9) = 5.765、 p= 0.0176]。

ばく露の時間と mode(実・シャムばく露)の間の交互作用[F(7、63) = 0.194、 p= 0.6600]、

その他 mode を含んでいる交互作用はすべて有意ではなかった[mode X eccentricity: F(7、63) = 0.174、 p= 0.9901; mode X eccentricity X time: F(7、63) = 0.696、p= 0.6751]。

従って、CUED 課題の潜時はばく露後わずかながら有意に減少したものの、この変化

は実ばく露・シャムばく露で差がなかった。 CUED 課題の振幅はばく露前後で有意に変化しなかった[図 10、11、表2; F(1,9) =

0.252、 p= 0.6166]。時間と mode との間の交互作用[F(7,63) = 0.622、 p= 0.4317]は、

18

他の mode を含む交互作用と同様、有意に達しなかった[mode X eccentricity: F(7,63) =

0.161、 p= 0.9922、mode X eccentricity X time: F(7,63) = 0.223、 p= 0.9793]。従って、

CUED 課題の振幅は実ばく露・シャムばく露前後とも変化しなかった。

同様に、CUED 課題の速度はばく露の前後で有意に変化しなかった[図 10、11; F(1,9) =

1.842、p= 0.1769]。またばく露の mode は他の要因と有意な交互作用を示さなかった

[mode X time: F(7、63) = 3.633、p= 0.0586; mode X eccentricity: F(7、63) = 0.269、p=

0.9650; mode X eccentricity X time: F(7、63) = 0.405、p= 0.8982]。従って、CUED 課

題の速度は実ばく露・シャムばく露とも、ばく露の前後で有意に変化しなかった。

4.2.3 オーバーラップ課題

OL1 課題では、潜時はばく露前(298.6±5.0ms)、ばく露後(302.6±5.2ms)[F(1,

9)=0.542, p =0.4629]で有意に変化しなかった。 要因としてばく露の有無、mode を

含むすべての相互作用は有意に達しなかった[mode X time: F(1, 9)=0.593, p= 0.4424,

mode X eccentricity: F(7, 63)=0.560, p =0.7873, mode X eccentricity X time: F(7,

63)=0.851, p=0.5471]。 これは、潜時が実ばく露・シャムばく露の前後で同じように

変化したことを意味する。同様にサッカードの振幅はばく露前後で、実ばく露、シャム

ばく露ともに有意に変化しなかった。要因として mode を含む全ての相互作用はいずれ

も有意に達しなかった[mode X time: F(7,63) = 1.231, p = 0.2691, mode X eccentricity: F(7,63)=0.343, p =0.9328, mode X eccentricity X time: F(7, 63)=0.329,

p=0.9399]。サッカード速度は、ばく露後にわずかに減少したが[F(1, 9) = 18.327,

p<0.0001]、この減少も mode(電波ばく露、シャムばく露)に影響を受けなかった[mode X time: F(7,63) = 0.009, p = 0.9241, mode X eccentricity: F(7,63)=0.603, p=0.7526,

mode X eccentricity X time: F(7,63)=0.435, p=0.8792]。

OL2 課題では、潜時はばく露後(259.5±3.7ms)にばく露前(271.5±4.7ms)と比

較してわずかに早くなった[F(1,9)=6.410, p=0.0124]。しかし、要因として mode を含

む交互作用はいずれも有意に達しなかった[mode X time: F(7,63)=0.007, p=0.9334,

mode X eccentricity: F(7,63)=0.122, p=0.9967, mode X eccentricity X time: F(7,63) = 0.540, p = 0.8031]。このことは、潜時が実ばく露・シャムばく露の前後で同じように

変化したことを意味する。同様に、サッカード振幅は電波ばく露・シャムばく露にかか

わらず、ばく露前後で変化しなかった[time: F(1,9)=0.627, p =0.4297, mode X time: F(7,63)=0.266, p =0.6068, mode X eccentricity: F(7, 63)=0.755, p=0.6260, mode X

eccentricity X time: F(7,63)=1.648, p= 0.1266]。 同様な結果がサッカード速度につい

ても得られた[effect of time; F(1,9)=0.719, p=0.3979; mode X time: F(7,63)=0.054,

19

p=0.8164, mode X eccentricity: F(7,63)=0.708, p=0.6655, mode X eccentricity X time:

F(7,63)=0.102, p=0.9988]。

図 10 実ばく露前後の AS、CUED、OL1、OL2 課題のパラメータ

横軸がターゲットの提示位置、縦軸が眼球運動の角度である。各図で青いカー

ブが電話前、赤いカーブが電話後を表す。エラーバーは標準誤差を表す。

図 11 シャムばく露前後の AS、CUED、OL1、OL2 課題のパラメータ

20

4.3 反応時間課題に対する電波ばく露の影響)

光の信号に対する手指の反応時間は、ばく露前 (330.5±4.4ms) に比較してばく露後

に(310.5±4.1ms) 有意に短くなった[effect of time: F(1, 9) = 12.49, p = 0.0004]。時間

とターゲットの位置の間に有意な交互作用は認めなかった[F(7, 63) = 0.18, p = 0.99]。

他方, ばく露の有無(実ばく露、シャムばく露)で、反応時間に有意の差を認めなかっ

た[F(1, 9) = 0.009, p = 0.93]。また時間とばく露の有無の交互作用も有意に達しなかっ

た[F(1, 9) = 0.0002, p = 0.99]。その他の二要因ないし三要因の交互作用も有意ではなか

った[F(7, 63) = 0.21, p = 0.98]。これらのことから、反応時間はばく露の有無に関わら

ず、どのターゲットの位置においても影響されなかったことが示された [mode X hand:

F(1, 9) = 0.91, p = 0.34, time X hand: F(1, 9) = 0.29, p = 0.51, eccentricity X hand: F(7,

63) = 0.17, p = 0.99, time X mode X hand: F(1, 9) = 3.26, p = 0.07 , mode X eccentricity X hand: F(7, 63) = 0.25, p = 0.97, time X eccentricity X hand: F(7, 63) =

0.34, p = 0.56, time X mode · eccentricity X hand: F(7, 63) = 0.57, p = 0.78]。すべて

のターゲットの位置に関するデータを一緒にプールして解析した場合にも同様の結果

が得られた [mode: F(1, 9) = 0.003, p = 0.95, mode X time: F(1, 9) = 0.0003, p = 0.98,

mode X hand: F(1, 9) = 0.19, p = 0.67, time X mode X hand: F(1, 9) = 66, p = 0.42]。

4.4 サッカードの抑制に対する電波ばく露の影響

AS 課題での prosaccade の頻度は平均して 9.1±1.4%であった(表 3a)。その頻度は

ばく露前後で有意差はなかった[F(1,9) = 1.514、 p= 0.2344]。また刺激の mode(実ば

く露、シャムばく露)による差もなかった[F(1,9) = 0.35、 p= 0.56]。Mode X time の

交互作用も有意ではなかった[F(1,9) = 0.1381、 p= 0.2551]。従って AS 課題での

prosaccade の頻度は実ばく露・シャムばく露とも、ばく露の前後で有意に変化しなか

った。 CUED 課題での saccade to cue の頻度は平均して 3.9±0.9%であった(表 3b)。その

頻度はばく露後にやや減少したが、ばく露前と有意差はなかった[F(1,9) = 4.152、 p=

0.0566]。刺激の mode による差もなかった[F(1, 9) = 0.099, p = 0.7571]。Mode X timeの交互作用も有意に達しなかった[F(1, 9) = 1.246, p = 0.2791]。

OL2 課題において、中心固視点が消える前に誤ってターゲットの方を見てしまう頻

度(9.0 ± 1.8%)はばく露の前後で変化しなかった[F(1,9) = 1.514, p=0.2344]。こ

のことは、実ばく露・シャムばく露について同様だった[F(1,9) = 0.35, p=0.56] (実

ばく露: 前:8.3±2.0%、後:8.2± 2.4%;シャムばく露: 前:11.8±3.9%、後:8.0±

21

2.8%)。

以上の結果をまとめると、OL2 課題ではばく露後に潜時がわずかに短縮した。また

サッカード速度もわずかに低下した。しかし、これらの変化はいずれも有意であったが、

実ばく露・シャムばく露の前後で同じような変化が見られた。他のパラメータは、OL1

課題、OL2 課題とも、実ばく露・シャムばく露の前後で有意に変化しなかった。

22

Ⅴ 考 察 AS 課題について、実ばく露・シャムばく露の前後で潜時、振幅、速度、方向の誤り

の頻度などといった眼球運動のパラメータに有意な変化を認めず、AS 課題の遂行能力

からみる限り、電波のばく露の影響はないと考えられた。

また CUED 課題、二種類の OL 課題についても、実ばく露・シャムばく露の前後で

潜時、振幅、速度、saccade to cue の頻度などといった眼球運動のパラメータについて

有意の変化を認めなかった。これらの結果をあわせると、AS、CUED、OL 課題など各

種の眼球運動課題から判断する限り、電波ばく露は眼球運動の遂行能力に影響を与えな

かった。

さらに、AS、CUED、OL2 課題における不適切なサッカードの抑制能力も、電波ば

く露・シャムばく露の前後で有意に影響を受けなかった。

従ってこれら4つの眼球運動課題の結果から、電波ばく露は眼球運動の遂行能力に影

響を与えなかったと結論できる。これらの課題は基本的な眼球運動課題より前頭前野の

ような前頭葉の機能をより必要とすると考えられるため、携帯電話端末からの電波は前

頭葉の機能に影響を与えないと考えられる。

23

Ⅵ まとめ 30 分間の携帯電話端末からの電波ばく露は、AS、CUED、OL 課題の遂行能力に影

響しないと結論した。従って、電波はこれらの課題の遂行に必要となる、目的としない

反射的な眼球運動の抑制、及び自発的な眼球運動の開始に関わる神経機構のいずれにも

影響を与えないと結論された。さらに、携帯電話端末からの電波ばく露は、必要に応じ

た眼球運動の開始と抑制に関わる皮質領域の機能に有意な影響を与えないと考えられ

る。

これまでわれわれは、基本的な眼球運動課題である VGS、GS、MGS 課題に影響を

与えないことを示してきた。さらに AS、CUED、OL 課題などの、より複雑な認知能

力を必要とする眼球運動課題にも影響を与えないことを示した。これまでの結果すべて

をまとめると、30 分間の携帯電話端末からの電波ばく露は、眼球運動の抑制と、随意

的な眼球運動の開始に関わる神経機構、とりわけ前頭葉の機能に有意な影響を与えない

ことがわかった。以前よりわれわれは手指の運動準備課題を用いて、携帯電話端末から

の電波が、種々の眼球運動、手の反応時間課題に関わる頭頂葉・前頭葉の機能に影響を

与えないことを示してきた(Terao ら, 2005, 2006, 2007)。今回の結果はこれと合致す

るものであり、携帯電話端末からの電波のばく露が脳の認知機能に影響を与えない事を

示唆すると考える。

24

表 1 各課題における潜時(ms)

課題 ばく露 時間 ‐30 度 ‐20 度 ‐10 度 ‐5 度 5 度 10 度 20 度 30 度

AS

実ばく露 前 302.1±10.7 292.3±9.8 274.3±9.1 275.5±10.5 311.9±12.7 314.9±15.8 295.0±12.3 315.0±15.6 後 293.0±10.5 290.5±8.4 289.2±12.4 296.7±11.9 302.2±11.8 289.1±12.9 300.2±12.1 308.3±13.4

シャム

ばく露

前 322.4±17.1 300.3±14.8 297.8±11.1 306.8±17.0 317.5±15.2 300±16.8 307.9±14.5 334.8±22.6 後 289.6±9.9 290.8±10.7 285.8±14.0 306.6±12.6 328.3±9.2 315.7±13.4 308.8±8.0 314.7±14.7

Cued

実ばく露 前 229.1±9.8 231.2±10.6 222.0±15.8 225.2±12.5 237.8±18.4 240±16.8 243.3±14.1 252.2±18.2 後 233.5±8.5 225.2±11.4 221.0±7.5 218.6±12.3 234.7±14.9 222.4±6.9 233.0±7.5 241.9±9.7

シャム

ばく露

前 251.3±13.6 227.6±10.3 210.6±10.5 223.6±13.3 234.7±14.9 242.2±14.8 232.8±7.1 245.0±12.4 後 223.8±9.6 218.0±6.0 215.2±11.0 216.8±10.6 214.5±9.5 229.4±11.6 239.8±15.9 237.3±12.6

OL1

実ばく露 前 350.2±21.1 321.1±14.0 292.1±27.3 304.4±22.4 273.5±15.7 287.6±19.3 307.3±14.8 331.9±18.6 後 331.1±25.3 297.1±14.4 282.3±18.7 293±15.9 313.5±21.9 298.8±17.6 320.9±26.8 330.1±19.1

シャム

ばく露

前 314.5±23.8 305.4±10.6 268.9±23.8 258.7±19.3 292.4±18.9 288.0±18.0 280.4±14.3 301.4±22.3 後 332.3±26.9 308.2±19.8 264.5±18.8 262.1±18.0 278.4±14.9 294.8±22.3 312.6±24.7 321.8±16.8

OL2

実ばく露 前 268.1±10.1 275.2±22.2 282.7±33.9 284.7±20.1 293.3±13.4 277.4±26.4 282.6±25.1 266.8±16.6 後 268.7±11.5 265.6±21.4 260.4±17.3 265.0±6.5 270.4±17.6 263.9±15.9 273.7±19.4 270.2±20.4

シャム

ばく露

前 251.9±10.5 245.4±12.8 265.7±18.5 287.6±13.7 265.6±21.3 266.1±19.9 283.2±18.1 248.1±11.4 後 258.9±20.4 276.1±16.8 247.5±11.0 248.9±10.5 237.9±8.3 246.9±13.6 249.7±10.3 248.5±12.9

25

表 2 各課題における振幅(度)

課題 ばく露 時間 ‐30 度 ‐20 度 ‐10 度 ‐5 度 5 度 10 度 20 度 30 度

AS

実ばく露 前 18.0.±2.5 13.4±1.3 11.3±1.5 9.8±1.1 10.8±1.0 10.8±1.1 15.9±1.9 19.9±2.6

後 19.3±3.1 12.2±1.2 8.8±1.2 8.3±0.9 7.4±1.0 9.4±0.9 15.8±2.1 20.2±2.5

シャム

ばく露 前 17.2±2.3 14.9±1.5 10.5±1.6 8.0±1.1 9.9±2.0 10.2±1.9 13.8±1.8 17.8±2.8

後 17.5±2.2 12.9±1.1 8.4±0.7 6.2±1.1 6.0±0.5 8.4±0.6 12.5±0.7 17.3±2.1

Cued

実ばく露 前 27.3±1.1 17.6±0.8 8.3±0.5 3.8±0.2 3.4±0.2 7.6±0.6 16.7±0.8 26.6±1.5

後 26.8±0.5 17.9±0.4 8.2±0.3 3.6±0.2 3.7±0.2 8.2±0.3 17.2±0.4 25.9±0.7

シャム

ばく露 前 27.4±1.1 18.6±0.7 8.3±0.5 3.7±0.3 4.0±0.4 7.9±0.6 17.6±0.8 27.6±1.1

後 26.7±0.6 17.9±0.5 8.4±0.3 4.0±0.2 3.9±0.2 8.4±0.4 17.3±0.5 26.7±0.5

OL1

実ばく露 前 27.9±0.8 19.0±1.0 9.4±0.6 4.9±0.3 4.8±0.6 8.8±0.6 18.4±1.1 27.9±1.8

後 27.5±0.5 18.6±0.3 8.8±0.3 4.3±0.2 4.2±0.1 9.0±0.2 17.9±0.3 27.2±0.6

シャム

ばく露 前 26.8±0.8 18.6±0.5 8.8±0.4 4.3±0.2 4.1±0.2 9.0±0.3 18.1±0.4 26.9±0.6

後 27.8±0.7 18.0±0.6 8.9±0.4 4.4±0.1 4.1±0.2 8.7±0.4 17.7±0.5 26.3±0.8

OL2

実ばく露 前 28.6±0.6 19.0±0.5 9.4±0.4 4.5±0.3 4.2±0.3 9.0±0.4 18.5±0.7 27.9±0.7

後 28.5±0.6 18.7±0.5 9.2±0.3 4.4±0.3 4.4±0.3 9.3±0.3 18.6±0.5 27.8±0.6

シャム

ばく露 前 29.3±0.8 19.1±0.5 9.4±0.4 4.5±0.2 4.9±0.2 9.4±0.4 16.3±1.4 28.4±0.5

後 28.5±0.5 18.7±0.4 7.6±1.1 4.4±0.1 4.0±0.5 9.1±0.2 19.0±0.3 28.1±0.4

26

表 3 誤反応の頻度

a) prosaccades の頻度(AS 課題) b) saccades to cue の頻度(CUED 課題)

ばく露 時間 頻度 ばく露 時間 頻度

実ばく露 前 8.3±2.0%

実ばく露 前 7.6±2.6%

後 8.2±2.4% 後 11.5±3.0%

シャムばく露 前 11.8±3.9%

シャムばく露 前 7.6±2.6%

後 8.0±2.8% 後 9.1±2.6%

27

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31

1.2 携帯電話からの電波の睡眠に対する影響

33

Ⅰ 要 旨

昨今の携帯電話端末や PHS 端末の普及はめざましく、両者を合わせると全国で 1 億

1500 万台にも及び、1 人 1 台を超す勢いである。それとともに、これらによる電波が

生体に何らかの影響を及ぼすのではないかという懸念が、国民の関心事となっている。

携帯電話の睡眠活動に対する影響の有無もそのひとつである。本研究は、(1)電波ばく

露試験の実施、脳波、生理データの解析と、(2)被験者抽出条件の設定と抽出結果分析

評価の 2 つのサブテーマに分けて実施した。 (1) 電波ばく露試験の実施、脳波、生理データの解析 本研究の目的は、携帯電話の電波が睡眠にどのような影響を及ぼすのかという点を、

自覚的・他覚的な面から検証することである。平成 20 年度には、予備実験として、電

波ばく露環境に関する検証と、睡眠環境並びに脳波計測システムに関する検証を行い、

安定した電波ばく露システム及び睡眠に関する設備と測定系を確立した。本年度は、一

般公募で選出された 6 人の被検者に対して、3 時間の携帯電話端末使用と同等の電波ば

く露を行い、睡眠に影響を与えるか否かを検証した。その結果、電波ばく露は、自覚的・

他覚的睡眠状態に変化を与えなかった。 (2) 被験者抽出条件の設定と抽出結果分析評価 本研究の目的は、上記実験の被験者を選定するにあたり、集団における被験者の特徴

を明らかにすることである。そのために、被験者を含む大規模な集団(n=10,220)に

対するアンケート調査により、携帯電話端末での通話時間の統計学的な分布を調査した。

その結果、適切な回答を得ることのできた集団全体(n=9,639、20 歳代~50 歳代、男

女比=1.01)における1日あたりの携帯電話・PHS 端末の通話時間の中央値は 10 分間

であった。25%タイルは 3 分間、75%タイルは 30 分間であり、通話時間の分布は短い

時間帯側に偏っていた。通話時間の四分位を用いて、第 1 群(3 分以下)、第 2 群(3分間より大かつ 10 分間以下)、第 3 群(10 分間より大かつ 30 分間以下)、第 4 群(30分間より大)の 4 群に分割した。この通話時間群ごとの実験説明会参加候補者数は、第

1 群 8 人(25%)、第 2 群 12 人(37.5%)、第 3 群 3 人(9.4%)、第 4 群 9 人(28.1%)

であり、4 群の何れからも実験説明会参加者を得た。 この大規模集団において、Pittsburgh Sleep Quality Index (PSQI)を用いて睡眠の

質を評価した結果、携帯電話・PHS 端末の通話時間が長い群ほど睡眠の質が低下して

いる可能性が示された。この関連性は性別、年齢、及び職業による潜在的な交絡を調整

しても残ったが、携帯電話・PHS使用時間が睡眠に及ぼす影響の原因を検索するため

には、今後、他のライフスタイル要因による交絡並びに縦断的な研究が必要であると考

えられた。

34

Ⅱ 研究目的

今や携帯電話やPHSの普及はめざましく、電気通信事業者協会の発表によると、2010

年 1 月現在での携帯電話端末の契約数は、1 億 1100 万台、PHS は 420 万台であり、1人 1 台を超す勢いで普及していることになる。そして、携帯端末に由来する電波が生体

に及ぼす影響への懸念は、国民の関心事となっている。携帯電話の睡眠活動に対する影

響の有無もそのひとつである。特に、睡眠活動は人間の生活時間の約 30%を占めるも

ので、睡眠が携帯端末に影響を受けるとすれば重大な問題となる。しかし、携帯端末に

よる電波が睡眠に影響を及ぼすか否かについての明確な結論は出ていない。睡眠時脳波

記録を用いた研究でも、まったく影響がないとする報告[1,2]が存在する一方、REM 睡

眠の量が減少する[3]、REM 潜時が短縮する[3,4]、睡眠導入が遅れる[5]あるいは逆に早

まる[3]、深睡眠の時間が短縮する[6]など、睡眠構築に変化が生じるという報告が存在

している。また、睡眠構築には影響しないが、パワースペクトラム解析の結果には影響

するという報告[7]もあり、一定の見解を得ていない。このような国際的な状況の中で、

日本人を対象とした携帯端末の睡眠に対する影響を、睡眠時脳波により客観的に解析し

た研究が今までにはなく、日本で研究を行う必要性が高まっている。 (1) 電波ばく露試験の実施、脳波、生理データの解析

本研究の目的は、携帯電話端末を使用した際の電波ばく露が、自覚的・他覚的に睡眠

状態に対してどのような影響を与えるかを、一般の若年健康成人を対象として検証する

ことである。平成 20 年度には、予備実験として、電波ばく露環境並びにばく露システ

ムに関する検証と、睡眠環境並びに脳波計測システムに関する検証を行った。この結果

をふまえて本年度は、研究に適した環境整備と、公募で選出された一般正常被検者を対

象とした本実験を行った。

(2) 被験者抽出条件の設定と抽出結果分析評価

本研究の目的は、同検証実験に際し被験者を得るために、あらかじめ携帯電話の使用

状況に関するアンケート調査を大規模な集団で行い、その集団内で一般公募する被験者

の携帯電話端末の通話時間を明らかにするとともに、本実験への参加候補者の日本人全

体における位置づけを明らかにすることである。

35

1.2 携帯電話からの電波の睡眠に対する影響

(1) 電波ばく露試験の実施、脳波、生理データの解析

37

Ⅲ 試験方法

1 被験者の適合性評価

サブテーマ 2 の「被験者抽出条件の設定と抽出結果分析評価」にて抽出され、実験説

明会に参加した候補者のうち、実験に応じると協力を申し出た被験者に対して、さらに

心理士による心理面接を行い、被験者としての適合性を評価する。

2 携帯電話端末機を用いた電波ばく露システムの概要

電波ばく露は、専用のシールドルーム内で施行した。基地局相当の電波はシールドル

ーム内に設置されている通信用アンテナを介して出力され、室外のラジオコミュニケー

ションアナライザ(MT8815B、アンリツ社製)によって制御される。アップリンク周

波数(端末から基地局への電波)とダウンリンク周波数(基地局から端末への電波)は、

それぞれ 1.95GHz 及び 2.14GHz、ばく露時の携帯電話端末機の出力は規格(ARIB STD

-T63)の最大 250mW となるように設定された。これらの通信状態は、シールドルー

ム外に設置されたパソコンで常時監視され記録された。

電波ばく露は 1 セッション 1 時間ずつ 3 回連続して行い、各セッションの間に 5 分

間の休憩時間を設け、その間に携帯電話端末機の電池交換や装着状態の確認を行った。

ばく露室内は摂氏 25 度前後に維持され、読書灯が設置された。被検者の疲労をなるべ

く避けるために、読書机及び椅子のほかに安楽椅子を設置し、ばく露中であっても室内

を自由に動けるようにした。被検者には、ラグビーのヘッドギア(SD9510、スズキス

ポーツ社製)にマジックテープで携帯電話端末機を取り付けたものを装着してもらい、

電波ばく露の実験中は携帯電話端末機に触れることのないよう依頼した。

図 3 電波ばく露室の状態 図 2 電波ばく露用携帯電話端末機を

装着した状態

38

3 睡眠環境並びに脳波計測システムの概要

被検者は脳波測定室内に設置されたベッドで就寝し、就寝中の室内温度は摂氏 20 度

に維持され、被検者の希望にそって掛け物による調節を行った。被検者本人の申告に基

づき、平均的な就寝及び起床時間と同様の時間帯での就寝とした。

左右の頭皮上の 6 か所(F3,F4,C3,C4,O1,O2:10/20 法)より対側耳朶を基準電極と

して単極誘導で脳波を導出するとともに、眼球運動の導出のために 2 か所、頤筋筋電図

導出のために 3 か所(1 か所は予備電極として)に電極を装着した。脳波電極には Ag-Cl

皿電極を用い、Ten20(ウィーバー社製)をペーストに用いて装着し、ガーゼ、ネット、

伸包帯、テープにて固定し、皮膚抵抗は 3 キロオーム以下になるように電極を設置した。

さらに、示指に装着したパルスオキシメーターにより経皮的動脈血酸素飽和度(以下、

「SpO2」という。)を測定し、両肩には心電図電極を装着した。被検者の睡眠状態を、

暗視カメラにて常時確認・記録した。また、被検者の安全確保のため、これらのデータ

のうち SpO2と心拍数をアラームシステムに接続して、リアルタイムで監視した。これ

らの計測する生体情報を、携帯型多用途生体アンプ Polymate AP1000(デジテックス

社製)を介し、Bio Trend Video Monitor(のるぷろライトシステムズ社製)により、

コンピュータに収集した。

図 4 脳波測定の状態 ベッド脇に脳波計とインターホンを設置

39

4 電波ばく露と睡眠脳波計測実験の手順

本研究は、平成 20 年度に行った予備実験と同様に、3 日間の連続睡眠実験である。

被験者公募の際に行われた説明会で実験の概要は説明済みであるが、本実験開始前にも

研究目的及び実験内容を文書に沿って説明し、文書による同意を取得した。実験に係る

同意書のほかに、表 3 のような外部との連絡方法に関する同意書(検査室に入室後は携

帯電話の使用が認められないため)、ビデオ撮像に関する同意書(睡眠状態の確認のた

め)の 3 種類の同意書を取得した。電波ばく露前には毎回アンケートを行い、健康状態

や日中仮眠・日中眠気の有無・服薬の有無などを確認するとともに、2、3 日目には研

究参加継続の意思確認を行い、文章による同意を得た。

電波ばく露室に入室後は、睡眠に影響を及ぼす嗜好品(カフェイン及びアルコール含

有物)の摂取を禁止した。被験者所有の携帯電話や PHS の端末は、検者がばく露試験

前に預かり、実験による電波ばく露以外のばく露は受けないように設定した。研究開始

時間は被検者の睡眠リズムに合わせて個別に設定され、平均的な就寝開始時間より遡っ

て 5 時間 30 分前より電波ばく露を開始した。ばく露中は、読書をして過ごしていただ

き、この状態はシールド外から常時確認され、被検者が眠り込んだ場合には、検者が声

をかける方法で覚醒してもらう方法をとった。

first night effect(第 1 夜効果)が生じるため、初日にはシャムばく露(電波出力な

し)を行い、2 日目と 3 日目のいずれかを実ばく露(電波出力あり)、実ばく露ではな

い日にシャムばく露となるように設定した。被検者には実ばく露・シャムばく露のどち

らなのかは知らせなかった。また、電波ばく露用の携帯電話端末機が実ばく露中は発熱

するため、どの試験中でも携帯電話端末機に触れないように依頼した。

図 5 一連の実験の流れ

40

図 6 一日の実験の流れ

図 7 平均的睡眠が 0 時から 7 時までとした場合の実験スケジュール

実験 2 日目と 3 日目は、実験説明が必要ないため、入室時間は 1 時間遅い

41

私は、研究に際し、研究中は携帯電話や PHS およびコンピューターや電化製品を

室外のロッカー内に保管するか、検査担当者に預けることに同意します。 私は、研究中の、外部との連絡方法にについて、次のように希望します。

・私の携帯電話に電話がかかってきた場合には、私に代わって検査担当者が呼び出しに

応じることを( 希望する 一切希望しない )。 ・ 希望する場合、検査担当者には、次のように応対するよう希望する。

<例> さんは、現在研究中のため電話をとることができません、

お急ぎでしたら、代わりにお話を承って、ご本人にお伝えいたします。

<そのほか : 具体的に、記載ください>

・ 私がどうしても電話をかけなければならない事情がある場合には、施設内に設置さ

れている固定電話を使用するものとし、手短に(5 分以内)済ませることに同意し

ます。

4 調査、測定項目

4.1 電波ばく露による睡眠状態の自覚的変化

被検者に対してアンケート調査を行い、起床時の主観的眠気を Stanford Sleepiness Scale(SSS、7 段階評価)で、起床時の気分や眠気及び熟眠感を 100 点満点の visual

analogue scale(VAS)で回答してもらった。また、電波ばく露開始前に、日中の気分

不快の有無や、仮眠の有無とその時間を調べた。

4.2 電波ばく露による睡眠状態の他覚的変化

他覚的データとして、睡眠時の脳波、眼球運動、頤筋筋電図の測定と、暗視カメラに

よる映像の記録を行った。

5 解析方法

自覚的な眠気、熟眠感に関しては、実ばく露とシャムばく露の間で、有意な差がある

か、対応のある t 検定により比較した。 睡眠時脳波・眼球運動記録・頤筋筋電図記録の他覚的データ全体から、睡眠ステージ・

表 3 外部との連絡に関する同意書の一部

42

呼吸自動解析支援プログラム NightOwl Professional(のるぷろライトシステムズ社製)

により、オフラインで睡眠ステージの自動解析をまず施行した。その自動解析の結果を、

同一の検者が、目視により修正して、最終結果とした。国際基準に従い、1 エポック 30

秒として睡眠段階を決定し、睡眠パラメータを算出した。

43

Ⅳ 試験結果 1 電波ばく露が眠気・熟眠感に与える影響

本実験期間中に、頭痛や気分不快・体調不良などを訴えた者及び実験中断を希望した

者はおらず、全員が 3 日間実験に参加した。また、いずれの被検者においても、トイレ

中断などによる睡眠の分断はなかった。さらに、携帯電話端末機の電源の ON/OFF が

明確に判断できた者はいなかった。6 人中 3 人が、ばく露 3 日目の日中に仮眠をとって

いるが、1 名が 2 日目(実ばく露)の翌日で 5 分程度、2 名が 2 日目(シャムばく露)

の翌日で、それぞれ、30 分程度と 60 分程度であった。

睡眠翌日の眠気や熟眠感及び気分について施行したアンケート結果(表 5)について、

t 検定を行った。SSS は実ばく露翌日で 2.7±0.5、ジャムばく露翌日で 2.5±0.8

(p=0.687)、VAS 眠気は実ばく露翌日で 29.2±15.3、ジャムばく露翌日で 36.7±18.9

(p=0.467)、VAS 気分は実ばく露翌日で 27.5±16.0、ジャムばく露翌日で 36.7±18.9(p=0.386)であり、いずれも有意差を認めなかった。おのおのの数値は被検者間で差

が大きいが、同一の人の間では、ばく露による有意な差はで認めなかった。被検者間で

の差異に関しては、一般の人でも熟眠感、眠気などは個人差が大きいものであり、その

個人間の差異を反映した結果と考えた。

表 5 起床時の自覚的状態

実ばく露 シャムばく露

SSS VAS 眠気 VAS 気分 SSS VAS 眠気 VAS 気分

No1 2 15 15 3 40 40

No2 3 35 35 2 35 35

No3 2 10 5 1 5 5

No4 3 40 35 3 50 50

No5 3 50 50 3 60 60

No6 3 25 25 3 30 30

平均±SD 2.7±0.5 29.2±15.3 27.5±16.0 2.5±0.8 35.8±20.6 35.8±20.6

SSS:点数が低いほど覚醒感が高い(7 段階)

VAS:点数が低いほど眠気が少なく熟眠感があり、気分がよい(100 点満点)

44

2 電波ばく露が睡眠脳波に与える影響

実ばく露とシャムばく露後の睡眠パラメータの解析結果を表 6 に示す。軽微な脳波異

常が認められた 1 名については、解析対象から除外した。入眠潜時及び REM 潜時と

arousals については、t 検定で解析した。入眠潜時は実ばく露翌日で 21.2±11.0 分、

シャムばく露翌日で 24.6±15.6 分(p=0.701)、REM 潜時は実ばく露翌日で 77.2±39.3分、シャムばく露翌日で 70.2±16.1 分(p=0.722)、arousals は実ばく露翌日で

89.2±32.7 回、シャムばく露翌日で 83.0±14.6 回(p=0.709)であり、有意な差を認

めなかった。睡眠ステージ(覚醒段階から REM 睡眠までの 5 段階)については、2 元

配置 ANOVA 解析を行った。ばく露条件と睡眠ステージの間に交互作用は存在せず

F(1,4)=0.197, p=0.938 であり、被検者内効果を認めなかった。F(1,8)=0.232、p=0.643

で、被検者間効果も認めなかった。個体間の差が大きく、全体的に深睡眠が短めではあ

るが、不慣れな環境での 3 日間の実験が影響したものと考えられる。しかし、実ばく露

かシャムばく露かというばく露条件は、睡眠構築への有意な影響を与えないことが示さ

れた。

45

表 6 睡眠パラメータ

実ばく露 シャムばく露

入眠潜時 REM 潜時 arousals 入眠潜時 REM 潜時 arousals

No1 データ不良のため解析せず データ不良のため解析せず

No2 24 65.5 100 11 71 98

No3 23.5 51.5 62 49.5 59 60

No4 28 50.5 89 17 49.5 82

No5 28.5 145.5 57 15.5 85.5 82

No6 2 73 138 30 86 93

平均±SD 21.2±11.0 77.2±39.3 89.2±32.7 24.6±15.6 70.2±16.1 83.0±14.6

実ばく露 覚醒段階 (%SPT)

睡眠段階 1 (%SPT)

睡眠段階 2 (%SPT)

睡眠段階 3+4 (%SPT)

REM 睡眠 (%SPT)

No1 データ不良のため解析せず

No2 3.8 4 40.5 23.1 29.5

No3 0 6.3 64 4.5 24.6

No4 2.4 6.9 45.4 19.3 25.3

No5 22.5 6.6 42.3 5.8 20.2

No6 0.5 4.2 61.1 3.6 30.5

平均±SD 5.8±9.4 5.6±1.4 50.7±11.0 11.3±9.2 26.0±4.1

シャムばく露

覚醒段階

(%SPT)

睡眠段階 1

(%SPT)

睡眠段階 2

(%SPT)

睡眠段階 3+4

(%SPT)

REM 睡眠

(%SPT)

No1 データ不良のため解析せず

No2 4.4 8 35.5 15.3 36.7

No3 1.9 14.6 50.9 10 21.9

No4 0.4 5.1 47.5 17.5 28.3

No5 11 4.9 44.3 12.5 27.3

No6 5.1 6.5 59.4 1.3 24.7

平均±SD 4.6±4.1 7.8±4.0 47.5±8.8 11.3±6.3 27.8±5.6

SPT:sleep period time

46

Ⅴ 考察及び結論

本実験期間中に、気分不快や体調不良を訴えた者はおらず、全員が 3 日間の実験を終

了している。 実際に電波ばく露後の睡眠について実験的に検討した。自覚的な評価として、電波ば

く露の翌朝に、眠気や熟眠感及び気分を数値化して回答してもらったが、電波ばく露が

悪影響を及ぼしたという結果は認められなかった。他覚的には睡眠時脳波記録から国際

基準に基づき睡眠パラメータを算出したが、実ばく露日とシャムばく露日とで差はなく、

電波ばく露が睡眠構築に影響を与えたという結果は、得られなかった。これまでに、携

帯電話端末が睡眠構築に影響を与えるという報告[3-6]と、逆に与えないという報告

[1,2]とが存在するが、我々の結果では、携帯電話端末からの電波が睡眠に影響するとい

う証拠は得られなかった。ただし、検査数が平成 22 年 2 月 10 日現在で 6 件と少なく、

今後、更なるデータの蓄積が必要である。最終的には 20 名程度の実験が必要と判断し

ている。

47

Ⅵ 参考文献

[1] Wagner P, Röschke J, Mann K et al., Human sleep under the influence of pulsed radiofrequency electromagnetic fields: A polysomnographic study using standardized conditions. Bioelectromagnetics 19: 199-202, 1998

[2] Fritzer G, Göder R, Friege L et al. Effects of short- and long-term pulsed radiofrequency electromagnetic fields on night sleep and cognitive functions in healthy subjects. Bioelectromagnetics. 28: 316-325, 2007

[3] Mann K, Röschke J. Effects of pulsed high-frequency electromagnetic fields on human sleep. Neuropsychobiology. 33: 41-47, 1996

[4] Loughran SP, Wood AW, Barton JM et al., The effect of electromagnetic fields emitted by mobile phones on human sleep. Neuroreport 16: 1973-1976, 2005

[5] Hung CS, Anderson C, Horne JA et al., Mobile phone 'talk-mode' signal delays EEG-determined sleep onset. Neurosci Lett. 421: 82-86, 2007

[6] Arnetz B, Akerstedt T, Hillert L et al. The effects of 884MHz GMS wireless communication signals on self-reported symptoms and sleep - An experimental provocation study. PIERS Online 3 : 1148-1150, 2007

[7] Huber R, Graf T, Cote KA et al., Exposure to pulsed high-frequency electromagnetic field during aking affects human sleep EEG. Neuroreport 15: 3321-3325, 2000

[8] 総務省 電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び研究 平成 18 年度

疫学研究報告書, 平成 19 年 3 月

49

1.2 携帯電話からの電波の睡眠に対する影響

(2)被験者抽出条件の設定と抽出結果分析評価

51

Ⅲ 試験方法

1 横断研究の流れ

本年度は、平成 20 年度に開発したインターネット(ウェブ)上での質問票による調

査方法に基づき、調査機関にて首都圏在住の 20 歳から 59 歳の男女を対象とするアン

ケート調査を実施した。詳細は、研究結果の中で併記した。

2 電波ばく露後睡眠脳波実験被検者の選定要件

横断調査の結果を受けて、表 2 に示す健康状態、睡眠状態、生活習慣についてのスク

リーニングを行い、実験説明会の案内を送付した。

表 1 被検者の要件

3 統計的解析方法

統計的解析方法は、研究結果の中で適宜、併記した。なお、解析には統計パッケージ

PASW Statistics 18.0 for Windows(IBM SPSS Statistics 18)を用いた。

・研究の意義を理解できる若年成人(20-39 歳)

・循環器系及び呼吸器系の既往疾患を有さず、そのほか治療中の病気を有さない ・既往に精神神経疾患及び頭部外傷や頭部手術を有さない

・研究日より遡って 2 週間以内にサプリメントを含めて服薬歴がない

・生活・睡眠リズムが安定している ・睡眠覚醒障害を有さない(ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)による:切断点 5/6)

・活動性のある皮膚疾患を有さない

・著しい肥満を有さない(Body-mass index < 30) ・閉所恐怖症を有さない

・補聴器を使用していない

52

Ⅳ 試験結果

1 横断研究における集団の特性

調査対象者選抜から本調査終了までの各ステップにおける参加者数を図 2 に示す。 調査対象者数は 86,857 人(1 回目の調査 85,924 人、追加調査 933 人)であり、ここ

から 61,411 人を抽出して予備調査を実施した(図 2)。その内訳は、予備調査対象者が

60,478 人(層化無作為抽出)、追加予備調査が 933 人であった。予備調査に対する回答

者は、18,143 人(1 回目の予備調査 17,975 人、追加予備調査 168 人)であり、本調査

参加承諾者は、17,084 人(1 回目の予備調査 16,935 人、追加予備調査 149 人)であっ

た。本調査参加承諾者から、男女比 1:1 かつ年代別均等割付による層化無作為抽出を行

い、14,288 人を本調査対象者とした。本調査の回答者は、10,385 人(72.7%)であり、

本調査で回答された性別・年齢・居住地の属性が、調査機関に登録されている属性と一

致した 10,220 人(71.5%)を有効回答者とし、この後の実験の被験者候補者の抽出並

びに横断研究の対象者とした。

この有効回答者数 10,220 人(71.5%)の内訳は、男性 5,122 人(20 代:1,276 人、

30 代:1,281 人、40 代:1,278 人、50 代:1,287 人)、女性 5,098 人(20 代:1,257人、30 代:1,279 人、40 代:1,285 人、50 代:1,277 人)であった。

53

図 2 アンケート調査から被験者募集への流れ

54

2 携帯電話または PHS 端末の使用時間と睡眠の質との関係

2.1 調査対象集団の人口学的特性

調査対象集団の人口学的な特徴は表 2 の通りであった。男女ないし各年齢階級の標本

数がほぼ等しいがこれは標本抽出の設計による。有業者の割合は 70%であり、残る無

業者の約 3 分の 2 は主婦が占めていた。

表 2 本調査の対象集団の人口学的特徴

標本数 10,220

性別

男 5,122 (50.1)

女 5,098 (49.9)

年齢

20 歳 ~ 29 歳 2,533 (24.8)

30 歳 ~ 39 歳 2,560 (25.0)

40 歳 ~ 49 歳 2,563 (25.1)

50 歳 ~ 59 歳 2,564 (25.1)

職業

有業 7,114 (69.6)

無業 3,104 (30.4)

主婦 2,033 (19.9)

学生 588 ( 5.8)

ボランティア活動 34 ( 0.3)

その他 447 ( 4.4)

※1:表中の括弧内は対象集団全体に対する百分率を示す。

55

2.2 調査対象集団における携帯電話・PHS 通話時間の分布

調査対象集団で携帯電話・PHS 通話時間の回答が得られたのは 9,639 人(94.3%)

であり、その分布は図 3 の通りである。通話時間の分布が左方に偏っていたのでヒスト

グラムを通話時間の対数尺度を用いて示した。1 日当たりの通話時間の中央値は 10 分

間(25%タイル 3 分間、75%タイル 30 分間)であった。中央値を含む四分位の値に性

差が認められなかった。通話時間の平均は 38.9 分間(95%信頼区間 36.5, 41.4)であ

った。

なお、図表に示さなかったが、1 日当たりの通話時間の中央値を年齢階級別にみると、

40 歳代が 5 分間、他の年齢階級ではいずれも 10 分間であり 40 歳代で小さくなる傾向

が示唆された

図3 PHSを含む携帯電話の通話時間数の分布

56

2.3 実験被験者候補グループと大規模集団との携帯電話・PHS 端末の通話時間

の比較

携帯電話・PHS 端末の通話時間によって、対象者を第 1 群(3 分以下)、第 2 群(3

分より大かつ 10 分以下)、第 3 群(10 分より大かつ 30 分以下)、第 4 群(30 分より

大)に分割すると、平成 21 年度末時点での被験者候補 32 人は、第 1 群に 8 人(25%)、

第 2 群に 12 人(37.5%)、第 3 群に 3 人(9.4%)、第 4 群に 9 人(28.1%)がそれぞ

れ属していた。

2.4 調査対象集団における睡眠の質の分布

本調査では、個々の対象の睡眠の質をPittsburgh Sleep Quality Index(PSQI)を用

いて評価し、そのスコアとPHSを含む携帯電話の通話時間数との関連性を検討した

[11,12]。PSQIの各サブドメインのスコア及び総合スコアと通話時間の四分位カテゴリ

ー別の分布並びに通話時間との関連性を表3に示した。各スコアが大きくなるほど睡眠

の質は低い。表に示したように、「睡眠効率」(寝床の中で実際に睡眠を取った割合)、

「睡眠剤の使用」、及び、7つの睡眠の質のサブドメインのスコアの総和からなる「総

合的睡眠の質」は、携帯電話・PHSの通話時間と関連して変化していた。すなわち、携

帯電話・PHSの通話時間が長いカテゴリーほど睡眠の質が低下している可能性が示され

た。

これらの関連性が睡眠の質及び携帯電話・PHS端末の通話時間に同時に関連する性別

や年齢による見かけの関係、すなわち交絡による可能性もある。表4は性別や年齢によ

る交絡を統計学的に調整した上で通話時間の四分位カテゴリーに伴う睡眠の質の変化

をロジスティック回帰によるオッズ比よって示している。オッズ比が高くなるほど睡眠

の質が低下していることを示す。「睡眠効率」、「睡眠剤の使用」、並びに、「総合的

睡眠の質」は性別・年齢による潜在的な交絡を調整してもやはり携帯電話・PHS端末の

通話時間と関連していた。また、結果を図表に示していないが職業の有無による調整を

加えても同様であった。

57

表 3 携帯電話・PHS の通話時間と PSQI 平均スコア:一元配置分散分析

PHS を含む携帯電話の1日当たりの通話時間(分)

PSQI 0-3≥

(第 1 群) >3-10

(第 2 群) >10-30

(第 3 群) >30

(第 4 群) P

主観的睡眠の質

Subjective Sleep Quality

1.25

(1.22, 1.27)

1.24

(1,22, 1,27)

1.24

(1.21, 1.27)

1.27

(1.24, 1.31) 0.4

入眠潜時

Sleep Latency

0.77

(0.74, 0.81)

0.78

(0.75, 0.81)

0.81

(0.77,0.84)

0.84

(0.79,0.88) 0.09

睡眠時間

Sleep duration

1.34

(1.31, 1.37)

1.36

(1.33, 1.39)

1.38

(1.34, 1.42)

1.39

(1.35, 1.44) 0.2

睡眠効率

Sleep Efficacy

0.25

(0.22, 0.28)

0.28

(0.25, 0.30)

0.27

(0.24, 0.31)

0.36

(0.32, 0.40) <0.001

睡眠障害

Sleep Disturbance

0.66

(0.64, 0.68)

0.65

(0.64, 0.67)

0.67

(0.65, 0.69)

0.70

(0.67, 0.72) 0.05

睡眠剤の使用

Use of Sleep Medicine

0.15

(0.13, 0.17)

0.15

(0.13, 0.17)

0.16

(0.13, 0.19)

0.20

(0.17, 0.24) <0.05

日常生活における障害

Daytime Dysfunction

0.63

(0.60, 0.66)

0.62

(0.59, 0.64)

0.63

(0.59, 0.66)

0.68

(0.64, 0.71) 0.06

総合的睡眠の質

Global PSQI Score

5.04

(4.95, 5.15)

5.07

(4.99, 5.17)

5.15

(5.03, 5.27)

5.45

(5.30, 5.58) <0.0001

※1:本調査対象者 10,220人中、PSQIのスコアが全て計算可能で、かつ、PHSを含む携帯

電話の1日当たり通話時間についての回答が得られた対象9,594人(全対象の93.9%)について解析した。

※2:表中の数字は各睡眠の質の平均スコアと95パーセント信頼区間(括弧内)である。 p値はF統計量による。

58

表 4 PHS を含む携帯電話の通話時間に関連する睡眠の質の低下リスク :性別・年齢調整済み二項ロジステッィクモデル

PHS を含む携帯電話の 1 日当たりの通話時間(分)

PSQI 0-3≥

(第 1 群) >3-10

(第 2 群) >10-30

(第 3 群) >30

(第 4 群) p

p for trend

主観的睡眠の質

Subjective Sleep Quality

1 0.97

(0.87, 1,09)

0.98

(0.86, 1.11)

1.08

(0.95, 1.24)

0.4

0.3

入眠潜時

Sleep Latency

1 0.93

(0.84, 1.04)

1.01

(0.90, 1.14)

1.00

(0.89, 1.14)

0.4

0.7

睡眠時間

Sleep duration

1 1.05

(0.95, 1.16)

1.09

(0.97, 1.22)

1.18

(1.05, 1.34)

0.06

<0.01

睡眠効率

Sleep Efficacy

1 1.01

(0.87, 1.18)

1.02

(0.86, 1.23)

1.49

(1.26, 1.76)

<0.00001

<0.0001

睡眠障害

Sleep Disturbance

1 0.98

(0.88, 1.09)

1.04

(0.92, 1.18)

1.08

(0.95, 1.23)

0.4

0.2

睡眠剤の使用

Use of Sleep Medicine

1 0.98

(0.80, 1.20)

1.13

(0.90, 1.42)

1.44

(1.15, 1.80)

<0.01

<0.01

日常生活における障害

Daytime Dysfunction

1 0.96

(0.86, 1.06)

0.94

(0.84, 1.06)

0.97

(0.86, 1.10)

0.7

0.99

総合的睡眠の質

Global PSQI Score

1 1.05

(0.94, 1.17)

1.10

(0.97, 1.24)

1.23

(1.09, 1.40)

<0.05

<0.01

※1:解析対象者は表3と同様である。 ※2:各睡眠の質についてのロジステッィクモデルの説明変数の参照カテゴリーはいずれも

第1群を用いた。被説明変数の域値は、平均スコアの大きさから、「主観的睡眠の質」

及び「睡眠の質」については2とし、「総合的睡眠の質」については5とした。左記の

3つの睡眠の質以外は域値を1として解析した。

※3:性別及び年齢調整はいずれも表3の該当変数による。

※4:表中の数字は、PHS を含む携帯電話の1日当たりの通話時間が3分間以下(第1群)

を参照カテゴリーとするオッズ比とその95パーセント信頼区間(括弧内)である。 p値及び p for trend の値はWald統計量による。

59

3 電波ばく露と睡眠脳波測定実験に参加した被検者の内訳

電波ばく露と睡眠脳波測定実験(本実験)の被検者選定のために、本調査において健

康状態・睡眠状態・生活習慣に関するスクリーニングが行われ、本研究の被験者要件を

満たし、かつ、実験についての説明会に関する案内書の送付に同意した被検者候補者を

421 人選抜した(図 2)。これらの候補者には説明会案内書を郵送し、実験説明会に参

加意思を表明した 87 人のなかから、年齢及び性別が均等になるように無作為に 32 人

を選び、個別に説明会と心理士による心理面接を行った。心理面接の結果に問題がなく、

かつ、実験に参加の意思を表明した方に、本実験に参加いただいた。 被検者は、男性 5 名、女性 1 名、年齢 22-36(28.2±5.71)歳。自己申告に基づく

日常生活における平均睡眠時間は 6 時間 54 分±33 分。生活リズムは規則的で、概ね一

定の時間に就寝しており、シフト制の仕事に従事している勤労者は含まれなかった。事

前に行った睡眠状態に関するスクリーニングでは、Epworth Sleepiness Scale 4.5±1.1

点、ピッツバーグ睡眠質問票 4.5±0.5 点で、いずれも正常であった。

60

Ⅴ 考察及び結論

今回の大規模集団でのアンケートで示されたように、対象集団においては、1日あた

りの携帯電話・PHS 端末の通話時間の中央値は 10 分間、25%タイルは 3 分間、75%タ

イルは 30 分間であった。これらの数値によって集団を 4 群(四分位)に分けて、抽出

された被験者の通話時間の分布をみると、特定の群に偏るような傾向はなかった(被験

者候補 32 人中、第 1 四分位の群に 8 人(25%)、第 2 四分位の群に 12 人(37.5%)、

第 3 四分位の群に 3 人(9.4%)、第 4 四分位の群に 9 人(28.1%))。

また、大規模集団における共通のアンケート調査への回答が利用できるので、今後、

携帯電話・PHS 端末と睡眠に関する実験結果を集団との間で比較することが期待でき

る。今回のアンケート調査の結果、携帯電話・PHS 端末の通話と質問票による睡眠の

質のスコアとの間に関連性があることが示唆されたが、これから明らかになる実験での

結果と比較検討できることは意義深い。実験とアンケート調査との間で関連性の有無に

相違がある場合は、アンケート調査で収集した情報から携帯電話端末と睡眠との間にあ

るライフスタイル等を介する潜在的な交絡による偏りを調整して検討することも必要

であろう。携帯電話・PHS 端末の通話時間と睡眠の質との関連性は、性別・年齢や職

業以外のライフスタイルによって説明される可能性が残されている。

ところで、過去に首都圏在住の 15-69 歳の男女に対して行われた大規模調査 [13]

によると、1 日あたりの平均通話時間は 21.2 分間、中央値 5.70 分間であり、その 25%タイルは 1.43 分間(過去 1 ヶ月平均 43.5 分間より算出)、75%タイルは 22.0 分間(1

ヶ月平均 670.1 分間より算出)であった。この研究では、調査対象の年代幅が本研究に

比して広いという差異があるものの、調査時点から 6 ヶ月以上にわたって 1 週間に少な

くとも 1 回以上の通話をしたと回答した人に対象が絞られているが、平均通話時間及び

中央値は本研究が携帯電話・PHS 端末で通話していない対象を含むにもかかわらず長

いようである。携帯電話の普及が年々高まっている社会環境において、携帯電話・PHS端末による通話時間が長くなる傾向にあるのかもしれない。

携帯電話の利用は性別・年齢や職業などによる社会環境の変化によって大きく変わる。

このような観点からも、今後、ますます、携帯電話と健康との関連性について探索的な

調査や縦断的な研究を進める社会的な意義は大きいと考えられる。ここで、重要なのは

調査対象が一般集団をどれだけ代表しているかを常に念頭におく必要性である。

61

Ⅵ 参考文献

[11] Buysse DJ, Reynolds CF, Monk TH, Berman SR, Kupfer DJ: The Pittsburgh

Sleep Quality Index: A new instrument for psychiatric practice and research. Psychiatry Research 28:193-213, 1989.

[12] 土井由利子 簔輪眞澄 内山真 他.ピッツバーグ睡眠質問票日本語版の作成.精神

科治療学 1998;13:755-763.

[13] 総務省 電波ばく露による生物学的影響に関する評価試験及び研究 平成18年度疫

学研究報告書、平成19年3月

63

2. 疫学調査

65

2.1 小児・若年期における携帯電話端末使用と健康に関する

疫学調査【小児脳腫瘍の症例対照研究】

67

疫学調査

69

Ⅰ 要 旨

小児・若年期に携帯電話端末を使用することが、その後の健康に影響を与える可能性

について疫学的手法で検討し、携帯電話端末使用の健康への影響を確認することを本研

究の目的とする。可能性のある健康影響としては、腫瘍性疾患、特に脳腫瘍の発症リス

クが携帯電話端末の利用で増加しないかを中心に検討する。

研究デザインはコホート内症例対照研究(nested case-control study)を採用した。

通常の症例対照研究では、携帯電話端末の使用歴についての情報を過去にさかのぼって

聴取することから、思い出しの偏り(recall bias)の影響を免れない。さらに、通常の

症例対照研究では、基礎となっている対象集団(コホート)が特定できないことから、

参加の偏り(selection bias)の評価も困難である。そこで、本研究では前向きコホー

ト研究(prospective cohort study)の中で症例対照研究を実施する手法(コホート内

症例対照研究)を実施することとした。この手法では、研究開始時点で前向きコホート

を設定し、追跡調査を実施する。追跡調査の開始前のベースライン調査、その後の追跡

調査としてのフォローアップ調査において、コホートメンバーの携帯電話端末使用の状

況と健康状態を継続的に調査して行き、コホートメンバーに疾患罹患者が見いだされた

場合に、患者を症例、コホートメンバーから抽出された健常者を対照として症例対照研

究を実施する。

本コホート研究の対象者は全国の小学校に通学する 4~6 年生とした。疾患罹患状況

としては、入院が必要となったすべての傷病を把握することとした。そして、脳腫瘍を

はじめとした腫瘍性疾患については症例対照研究の対象とする。追跡調査は最低 5 年間

とした。追跡調査の期間中には、4 ヶ月に一度、電子メールで継続調査への回答を依頼

する。調査への参加者はインターネット上の参加者専用ページにおいて、追跡調査のア

ンケートに回答する。なお、本専用ページは、保護者への調査概要の説明と参加依頼、

調査への参加の承諾、ベースライン調査を含め、すべてインターネット上で実施できる

ように構築した。

全国の市町村教育委員会 1,802 委員会に調査の説明と協力の依頼を行った結果、平成

22年 2月 9日時点で 555委員会から返信を得た。途中経過であるが、184委員会(34%)

から協力を得ることが出来た。これらの教育委員会の傘下の 2,444 校の小学校に協力依

頼を行ったところ、2 月 9 日時点で 158 校(6.5%)から返事を得て、その中の 145 校

(92%)から協力を得ることが出来た。これらの小学校には、説明資料として、パンフ

レット、DVD、チラシを送付した。送付に際しては、保護者に説明用ビデオ、パンフ

70

レット等を回覧して欲しい、保護者会などで調査用ビデオを上映して欲しいなど、具体

的に依頼内容を明示して協力を要請した。 参加児童 2,068 名の中で、平成 22 年 1 月末日までにベースライン調査への回答が完

了したのは 1,958 名である。自分専用の携帯電話端末を持っている児童は 1,958 名中

493 名(25.2%)であった。児童が携帯電話端末を使い始めるきっかけとなったのは、

保護者の希望によるという回答が 367 名(74.4%)で最も多かった。携帯電話端末の使

用を料金によって制限していると回答したのは、使用者 493 名の中で 242 名(49.1%)

であった。 ベースライン調査への回答が完了した後は、4 ヶ月ごとに追跡調査を実施しているが、

平成 22 年 1 月末日時点で、第 1 回追跡調査に回答したのは 1473 名、第 2 回追跡調査

に回答したのは 1118 名、第 3 回追跡調査に回答したのは 748 名、第 4 回追跡調査に回

答したのは 319 名であった。

追跡調査期間中に児童が入院したことがあったかという質問に対し、平成 21 年 3 月

から平成 22 年 1 月までの 11 ヶ月間で、24 例の入院事例の報告を受けた。24 例の中に

虚偽の申告を疑わせる例はなかった。腫瘍性疾患と思われた 3 例について、保護者への

インタビュー調査を実施して、インタビュー調査の実施可能性を確認した

小児脳腫瘍の疫学分析については、協力を依頼した 51 医療施設の中で、平成 22 年 1月末時点で 15 施設が参加を承諾した。承諾施設からの症例数は計 110 症例である。保

護者に対して参加施設から協力依頼の文書を郵送して、文書で同意が得られた場合には

調査事務局から自記式の質問票を送付する。50%程度の同意率を見込んでおり、今後

50~100 症例について分析を行う予定である。

71

Ⅱ 研究目的

小児・若年期に携帯電話端末を使用することが、その後の健康に影響を与える可能性

について疫学的手法で検討し、携帯電話端末使用の健康への影響を確認することを本研

究の目的とする。可能性のある健康影響としては、腫瘍性疾患、特に脳腫瘍の発症リス

クが携帯電話端末の利用で増加しないかを中心に検討する。

世界保健機関(WHO)によれば、子供の携帯電話端末使用による影響の可能性を扱

った疫学または実験的研究はほとんどなく、子供及び若年層による携帯電話端末の広範

な使用と、脳へのばく露が比較的高いことから、小児の脳腫瘍の発症に及ぼす潜在的影

響の調査が推奨されるとしており、本研究は WHO の勧告にも答えるものである。

72

Ⅲ 研究方法

1 研究デザイン

1.1 コホート内症例対照研究

研究デザインは症例対照研究を採用した。ただし、通常の症例対照研究では、携帯電

話端末の使用歴についての情報を過去にさかのぼって聴取することから、思い出しの偏

り(recall bias)の影響を免れない。さらに、通常の症例対照研究では、ベースとなる

コホートが特定できないことから、参加の偏り(selection bias)の評価も困難である。

また、成人の携帯電話端末使用と脳腫瘍について実施された INTERPHONE 研究では、

過去の携帯電話端末使用を聴取した場合の情報の信頼性と思い出しの偏り(recall bias)の可能性が問題となっている。これらの問題を解決すべく、本研究では前向きコホート

研究の中で症例対照研究を実施する手法であるコホート内症例対照研究(nested

case-control study)を実施することとした。この手法は、研究開始時点で前向きコホ

ートを設定し、追跡調査を実施する。追跡調査の開始前のベースライン調査、その後の

追跡調査のフォローアップ調査において、コホートメンバーの携帯電話端末使用の状況

と健康状態を継続的に調査して行く。そして、コホートメンバーに疾患罹患者が見いだ

された場合には、患者を症例、コホートメンバーから抽出された健常者を対照として症

例対照研究を実施する。コホート内症例対照研究では、携帯電話端末使用の情報を継続

的に収集するために、思い出しの偏り(recall bias)を低減できることが大きな長所で

ある。また、症例群、対照群に対しては詳細な面接調査を実施することで、携帯電話端

末使用以外の交絡因子に関する情報が収集できるので、交絡因子を調整した解析ができ

る点も本研究手法の長所である。さらに、疾患罹患者の中で症例群として症例対照研究

に参加しない患者、またはコホートメンバーの中で対照群に選出されても対照群に参加

しない健常者も出ることが考えられるが、本手法ではこのような非参加者についても携

帯電話端末使用の情報は事前に収集してあるので、参加の偏り(selection bias)の影

響を最小限にとどめることが可能である。

本コホート研究の対象者は全国の小学校に通学する 4~6 年生とした。小学校低学年

では携帯電話使用率が低く、また、中学生以降には携帯電話使用率が急速に上昇するこ

とを考え、小学校高学年をコホート対象とした。調査への参加募集は継続的に行う予定

である。

疾患罹患状況としては、入院が必要となったすべての傷病を把握する。そして、脳腫

73

瘍をはじめとした腫瘍性疾患については症例対照研究の対象とすることとした。

追跡調査は最低 5 年間とした。追跡調査はインターネット上のホームページを用いた

アンケート調達により実施する。保護者に対して、ベースライン調達後 4 ヶ月ごとに電

子メールで追跡調査のアンケート調査への回答を依頼する。回答は、過去 4 ヶ月におけ

る携帯電話端末使用状況、入院が必要となった疾患罹患の有無を、インターネットを通

じて保護者が行う。

1.2 小児脳腫瘍症例の疫学的分析

本年度から、小児脳腫瘍の症例情報の蓄積も別途開始した。小児脳腫瘍症例における

携帯電話端末使用と臨床情報の相関関係の有無を分析することが主な目的である。収集

する症例は 2006~2009 年に脳腫瘍と診断された症例で、初診時の年齢が 6~18 歳の患

者の保護者に協力を要請することにした。平成 21 年度中に、小児脳腫瘍の治療を実施

している全国の 51 医療施設に協力を依頼した。

2 研究実施体制

本研究の実施体制としては「疫学調査ワーキンググループ」を組織して推進する。ワー

キンググループには工学専門家、臨床専門家、疫学専門家が参画し、研究の企画、実施、

分析の実際を行う。調査の実務は東京女子医科大学医学部衛生学公衆衛生学第二講座内

に設置した調査事務局で行う。また、本研究は、WHO の研究機関である国際がん研究

機関(IARC)が中心となって実施した INTERPHONE study に参加した各国との連絡

調整、連携を図りながら進める。

74

3 調査システム

調査システムの中のフロントエンドシステムは、インターネット上で、調査の概要説

明、参加者の募集、参加の同意を行う部分、ベースライン調査に回答する部分、参加者

が継続的に追跡調査に回答する部分により構成されている。また、インターネットにア

クセスする方法として、パーソナルコンピュータによるアクセスを想定したシステムと、

携帯電話端末によるアクセスを想定したシステムが稼働中である。システム開発は平成

19 年度に行い、平成 20 年度には必要な改善を行った。図 1 に、現在公開中のシステム

を示す。さらに、平成 21 年度の変更点としては、調査を説明するビデオを作成してホ

ームページに掲載した。

75

http://keitai.twmu.net/

図 1 パーソナルコンピュータからの利用を想定した調査システム

調査のバックエンドシステムは、調査の進捗を管理する事務局用の管理システム、調

査結果を継続的に集計する統計システム、参加者へのメール発信を行うシステム等から

なる。

4 調査への参加依頼

調査への参加依頼は、平成 20 年度に引き続き、小学校を経由して保護者に調査概要

を説明して参加を呼びかける方法を用いた。

平成 20 年度は、全国の全小学校約 23,000 校にパンフレットの配布を依頼した結果、

協力に同意した小学校は 914 校(3%)であった。小学校から得られた回答から、同意率

が極めて低かった理由として、「学校への携帯端末持ち込みを禁止する措置を実施中あ

るいは実施を検討している中で、協力しにくい」、「市町村教育委員会の了承がない調査

には協力できない」という理由が多かった。小学校に依頼した内容は、4~6 年生の児

童に保護者宛の依頼状、パンフレットを配布することであり、155,000 枚を配布した。

76

その結果、インターネット経由で参加した保護者は、児童数で 2,100 名のみであった。

本年度は、市町村教育委員会への依頼を行い、可能であれば、市町村教育委員会の同

意を得て、小学校に協力の依頼を行うこととした。依頼内容もパンフレットの配布のみ

でなく、保護者に説明用ビデオの回覧をお願いするなどして、保護者のネットワークを

利用して直接、保護者に参加を依頼する方法を採用した。

77

Ⅳ 研究結果

1 市町村教育委員会及び小学校の協力状況

全国の市町村教育委員会 1,802 委員会に調査の説明と協力の依頼を行った。その結果、

平成 22 年 2 月 9 日時点で 555 委員会から返信を得た。途中経過であるが、(a)「市町村

教育委員会から小学校へ調査についての通達が行える」と回答したのは 86 委員会

(16%)、(b)「小学校に協力を依頼する際に、『市町村教育委員会の了承を得た』と記

載しても良い」と回答したのは 98 委員会(18%)であった。(c)「小学校へ個別に問合

わせして欲しい」と回答したのは 161 委員会(29%)、(d)「調査に協力できない」と回

答したのは 210 委員会(38%)であった。 (a)、(b)の回答が得られた場合には市町村教育委員会の協力を得ながら、小学校への

協力依頼を行った。(a)に該当した小学校は 893 校、(b)に該当した小学校は 1,551 校で、

計 2,444 校の校長に依頼状を送付した。2 月 9 日時点では、158 校(6.5%)から返事を

得、その中で 145 校(92%)から協力を得ることが出来た。これらの小学校には、説

明資料として、パンフレット、DVD、チラシを送付した。送付に際しては、保護者に

説明用ビデオ、パンフレット等を回覧して欲しい、保護者会などで調査用ビデオを上映

して欲しいなど、具体的に依頼内容を明示して協力を要請した。

2 ベースライン調査の実施結果

参加児童 2,068 名の中で、平成 22 年 1 月末日までにベースライン調査への回答が完

了したのは 1,958 名であった。

自分専用の携帯電話端末を持っている児童は 1,958 名中 493 名(25.2%)であった。

携帯電話を持つ 493 名の使用開始時期は、平成 19 年が 140 名と最も多く、平成 18 年

111 名、平成 20 年 101 名の順であった。

児童が携帯電話端末を使い始めるきっかけとなったのは、保護者の希望によるという

回答が 367名(74.4%)で最も多かった。本人の希望によるという回答は 102名(20.7%)

であった。その他の理由の中で最も多かったのは、「塾・習い事時の連絡のため」48 名、

「GPS で居場所を知る」21 名、「家族との連絡用」19 名、「防犯(ブザー)」17 名とし

た回答が多かった。 携帯電話端末の使用を料金によって制限していると回答したのは、使用者 493 名の

中で 242 名(49.1%)であった。

78

2.1 通話による使用状況

携帯電話端末を持つ 493 名の中で、通話で使用すると回答したのは 432 名(87.6%)

であった。携帯電話端末を持つ 493 名の中で、通話を制限していると回答した保護者

は 356 名で、「場所や相手により禁止・許可している」との回答が 354 名(71.8%)、「す

べての通話を禁止している」と回答したのは 2 名のみであった。 使用頻度は表 1 に示すとおりであり、1 日 1 回未満との回答が 66%であった。最高は

1 日 10 回という回答で 3 名であった。

表 1 通話による携帯電話端末使用の頻度

頻度 人数 %

週に 1 回未満 100 23%

週 1 回~1 日 1 回未満 186 43%

1 日 1 回~2 回 106 25%

1 日 3 回~ 36 8%

無回答 4 1%

合計 432 100%

また、1 回の通話時間についての質問に対する回答を表 2 に示す。最も多かったのは

31~60 秒で 32%、3 分以内が 88%であった。最も大きな時間は 1 回あたり 30 分とい

う回答で 1 名であった。

表 2 1 回あたりの通話時間

1 回の通話時間 人数 %

0~30 秒 101 23%

31~60 秒 137 32%

61~120 秒 74 17%

121~180 秒 68 16%

181 秒~ 51 12%

無回答 1 0%

合計 432 100%

通話時によく使う耳側については、100%右耳を使うとした回答が 122 名(28.2%)、

79

100%ではないが右耳の方が多いとした回答が 114 名(26.4%)、左右均等とした回答が

43 名(10.0%)、100%ではないが左耳の方が多いとした回答が 81 名(18.8%)、100%左耳を使うとした回答が 72 名(16.7%)であった。

通話時にハンズフリー装置を使うと回答した児童数は 26 名(6.0%)であった。

2.2 電子メールの使用状況

携帯電話端末を持つ 493名の中で電子メール機能を使うと回答したのは 390名(79%)

であった。電子メールの受信頻度を表 3 に示す。受信回数は 1 日に 2 回から 5 回が 28%

で最多であった。受信回数が最も多かったのは 1 日に 50 回で 1 名、30 回の 3 名、20回の 3 名、15 回の 2 名、10 回の 19 名と続く。

表 3 携帯電話端末での電子メール機能の使用頻度(受信)

受信回数 人数 %

~1 週に 1 回 70 18%

~3 日に 1 回 79 20%

~1 日に 1 回 91 23%

~1 日に 5 回 111 28%

1 日 6 回以上 31 8%

無効回答 8 2%

合計 390 100%

電子メールによる送信回数の頻度を表 4 に示す。受信回数の頻度とほぼ同じであった。

送信回数が最多の回答は 1 日に 50 回が 1 名、30 回が 3 名、20 回が 3 名と受信頻度と

同じであった。

表 4 携帯電話端末での電子メール機能の使用頻度(送信)

送信回数 人数 %

~1 週に 1 回 72 18%

~3 日に 1 回 79 20%

~1 日に 1 回 95 24%

~1 日に 5 回 107 27%

1 日 6 回以上 30 8%

無効回答 7 2%

合計 390 100%

80

2.3 インターネットの使用状況

携帯電話端末を持つ 493 名の中でインターネット機能を使っていると回答した児童

数は 81 名(16.4%)であった。使っている 81 名の使用頻度は表 5 の通りである。

表 5 携帯電話端末によるインターネット機能の使用頻度

使用回数 人数 %

~1 週に 1 回 37 46%

~1 日に 1 回 29 36%

1 日に 2 回以上 13 16%

無回答 2 2%

合計 81 100%

週に 1回までの使用頻度が 46%と最も多く、週に2回以上 1日に1回までが 36%で、

両者で 80%を超えた。最多は 1 日に 15 回で 1 名、10 回 2 名が続いた。

3 追跡調査の実施結果

ベースライン調査への回答が完了した後は、4 ヶ月ごとに追跡調査を実施している。

平成 22 年 1 月末日時点で、第 1 回追跡調査に回答したのは 1473 名、第 2 回追跡調査

に回答したのは 1118 名、第 3 回追跡調査に回答したのは 748 名、第 4 回追跡調査に回

答したのは 319 名であった。

3.1 携帯電話端末の使用状況

第 1 回追跡調査において、ベースライン調査と同様に第 1 回追跡調査時点でも携帯電

話端末を持っていると回答したのは 345 名(23.4%)、ベースライン調査と同様に第 1

回追跡調査時点でも携帯電話端末を持っていないと回答したのは 1105 名(75.0%)、ベ

ースライン調査時点では持っていなかったが第 1 回追跡調査時点では持っていると回

答したのは 19 名(1.3%)、逆にベースライン調査時点では持っていたが第 1 回追跡調

査時点では持っていないと回答したのは 4 名(0.3%)であった。ベースライン調査と

第 1 回追跡調査の両時点で携帯電話端末を持っている場合、機種が変わったと回答した

のは 345 名中 23 名(6.7%)であった。

第 2 回追跡調査において、第 1 回追跡調査と同様に第 2 回追跡調査時点でも携帯電

話端末を持っていると回答したのは 268 名(24.0%)、第 1 回追跡調査と同様に第 2 回

81

追跡調査時点でも携帯電話端末を持っていないと回答したのは 806 名(72.1%)、第 1

回追跡調査時点では持っていなかったが第 2 回追跡調査時点では持っていると回答し

たのは 37 名(3.3%)、逆に第 1 回追跡調査時点では持っていたが第 2 回追跡調査時点

では持っていないと回答したのは 7 名(0.6%)であった。第 1 回追跡調査と第 2 回追

跡調査の両時点で携帯電話端末を持っている場合、機種が変わったと回答したのは 268名中 32 名(11.9%)であった。

第 3 回追跡調査において、第 2 回追跡調査と同様に第 3 回追跡調査時点でも携帯電

話端末を持っていると回答したのは 179 名(23.9%)、第 2 回追跡調査と同様に第 3 回

追跡調査時点でも携帯電話端末を持っていないと回答したのは 538 名(71.9%)、第 2

回追跡調査時点では持っていなかったが第 3 回追跡調査時点では持っていると回答し

たのは 21 名(2.8%)、逆に第 2 回追跡調査時点では持っていたが第 3 回追跡調査時点

では持っていないと回答したのは 10 名(1.3%)であった。第 2 回追跡調査と第 3 回追

跡調査の両時点で携帯電話端末を持っている場合、機種が変わったと回答したのは 179

名中 21 名(11.7%)であった。

第 4 回追跡調査において、第 3 回追跡調査と同様に第 4 回追跡調査時点でも携帯電

話端末を持っていると回答したのは 94 名(29.5%)、第 3 回追跡調査と同様に第 4 回追

跡調査時点でも携帯電話端末を持っていないと回答したのは 221 名(69.3%)、第 3 回

追跡調査時点では持っていなかったが第 4 回追跡調査時点では持っていると回答した

のは 3 名(0.9%)、逆に第 3 回追跡調査時点では持っていたが第 4 回追跡調査時点では

持っていないと回答したのは 1 名(0.3%)であった。第 3 回追跡調査と第 4 回追跡調

査の両時点で携帯電話端末を持っている場合、機種が変わったと回答したのは 94 名中

9 名(9.6%)であった。

3.2 追跡期間の健康状態

追跡調査期間中に児童が入院したことがあったかという質問に対し、平成 21 年 3 月

から平成 22 年 1 月までの 11 ヶ月間で、24 例の入院事例の報告を受けた。24 例の中に

虚偽の申告を疑わせる例はなかった。腫瘍性疾患と思われた 3 例について、保護者への

インタビュー調査を実施して、症例に対するインタビュー調査の実施可能性を確認した。

また、これまでの調査(最大追跡期間 592 日、観察人日 592,531 人日(1,622 人年)

において、子供が自分専用携帯電話を持っている場合と持っていない場合での入院率

(10 万人日あたりの入院数)を比較した結果を表 6 に示す。

暫定的な解析ではあるが、両者の間で入院率には違いが認められなかった。

82

表 6 携帯電話所有の有無別の入院率の比較

観察人日 入院数 10 万人日あたり入院数

携帯電話持っている 137,948 5 3.62

携帯電話持っていない 454,583 19 4.18 合計 592,531 24 4.05

4 小児脳腫瘍症例の疫学的分析

協力を依頼した 51 の医療施設の中で、平成 22 年 1 月末時点で 15 施設が参加を承諾

した。16 施設は検討中または未回答で、20 施設は辞退した。

これまで、承諾施設からの症例数は計 110 症例である。今後、保護者に対して参加施

設から協力依頼の文書を郵送して、文書で同意が得られた場合には調査事務局から自記

式の質問票を送付する。

83

Ⅴ 考 察

平成 21 年度は市町村教育委員会に協力を要請したが、協力が得られた委員会傘下の

小学校からは良好な協力を得ることが出来た。現在、教育委員会、小学校と交渉を継続

しているところであり、徐々に参加数が増加すると予想される。さらに、各小学校にお

ける保護者への呼びかけについては保護者会などの場で参加を呼びかけるなどの方法

を依頼しており、最終的に保護者の参加数の増加に結びつくには数ヶ月の時間差を見込

んでいる。 追跡調査による携帯電話端末の使用状況の確認、入院を要した疾病罹患の確認は、問

題なく実施できている。この中で、携帯電話端末の使用状況については、児童が中学校

に進むにつれて、保護者が把握しきれない場合が発生することが想定される。そのため

の対策として、保護者が希望する場合には児童本人にアクセスをして、情報を収集する

システムを開発した。 パーソナルコンピュータ、携帯電話のインターネット機能を活用した疫学調査は、我

が国では初めての試みであり、試行錯誤は避けられないが、実施可能性については実証

できたと考えられる。今後、成人のコホート調査等への応用が考えられる。 最も大きな問題は調査を知ってもらい参加を募集する過程であり、全国規模での調査

を行うにはさらなる工夫が求められる。これまで、市町村教育委員会に調査依頼を行い、

様々な形での協力を得て、それを基に小学校に協力を依頼してきた。しかしながら、こ

れらのプロセスは、郵便と電話で行っており、きめの細かさという点では改善の余地が

あると考えている。例えば、大都市の教育委員会に対しては、訪問して研究の目的や具

体的な依頼事項を詳細に伝えるなど、さらなる努力を行うことによって協力を得る。ま

た、保護者に対する参加の呼びかけについても、パンフレットやインターネット上での

説明文が主であったが、本年度には説明用のビデオを制作して配付するとともに、ホー

ムページに組み込みわかりやすい説明に努めてきた。今後はさらに、一部の小学校には

直接訪問して調査の概要説明を行い、保護者が参加をためらう理由などについても詳細

に把握して協力率を上げる努力をしていきたい。 全国の小児脳腫瘍症例の臨床情報を収集して、その疫学的な特徴を分析する調査を本

年度から開始した。平成 22 年度中には 50~100 症例について、各症例の臨床情報と携

帯電話端末使用状況に関する情報収集を完了して、疫学的な分析を実施する予定である。

また、この調査の過程で全国の小児科医、脳外科医とのネットワークを確立して継続的な

症例情報の収集を実施して行く。最低 5 年間の追跡期間を通じて 200 症例程度の集積を

目指す。

84

Ⅵ まとめ

平成 19 年度に準備を開始し、平成 20 年度に全国の小学校を通じて本調査への依頼

を行った。平成 21 年度はさらに、全国の市町村教育委員会に協力を依頼して、その上

で小学校への協力依頼を行った。その結果、184 の教育委員会から協力を得ることがで

き、その傘下の約 2,500 の小学校に対して、協力の依頼を行うことができた。本年度の

活動を通じて、市町村教育委員会及び小学校との連携を確立しつつあり、それをもとに

継続的に保護者に参加を依頼する方法が確立できた。さらにこの連携を一層強化するた

めに、主要都市の教育委員会を中心として、一部の教育委員会及び小学校に対しては訪

問した上で、より詳細に保護者への参加依頼のプロセスを改善して行く予定である。 平成 22 年 2 月末までの参加児童の追跡調査は、最大追跡期間 592 日、観察人日

592,531 人日(1,622 人年)であった。追跡調査の結果、対象児童の中で 24 名の入院

が確認された。自分専用の携帯電話の所有の有無別では、携帯電話を所有している児童

での入院者は 5 名、持っていない児童での入院者は 19 名であった。観察期間を分母と

した入院率は、持っている児童で 10 万人日あたり 3.62 人、持っていない児童で 4.18

人であって、両者に違いは認められなかった。今後、追跡調査を継続してデータを蓄積

し、腫瘍疾病ごとの入院率を算出する予定である。

小児脳腫瘍の診療を担当する全国の小児科医、脳神経外科医とのネットワークを形成

して、小児脳腫瘍の症例の情報を収集する体制を構築できた。平成 22 年度には、50~100 症例の情報の収集を終えて解析を実施できる予定である。また、追跡調査の期間中、

継続的に症例の情報収集を実施して、最終的には 200 症例の情報収集を完了して、疫

学的な分析を行う予定である。

85

ばく露評価

87

Ⅰ 要 旨

携帯電話利用と脳腫瘍の疫学研究を行うためには、携帯電話端末使用による頭部内へ

の電波ばく露についての情報、特に脳腫瘍が発生した部位でのばく露量をできるだけ正

確に知る必要がある。ここでばく露とは、生物へのばく露実験の指標としてもしばしば

用いられている比吸収率(Specific Absorption Rate, SAR)が用いられることが多い。

SAR は電波ばく露による温度上昇と密接に関係しており、携帯電話端末からのばく露

のような近傍界ばく露においては、生体内部の電界や磁界の強度と相関が高いことが示

されている。携帯電話端末によるばく露は、様々な要因に左右される。例えば、ばく時

間(使用時間)、パワーや通信方式などのシステムの違い、頭部内での SAR の空間分布、

携帯電話端末機による SAR 分布の違いなどがあげられる。

H20 年度までに、小児頭部と成人頭部といった形状の異なる頭部モデルで携帯電話

端末による頭部内 SAR 分布が異なることを明らかとした。携帯電話端末による頭部内

SAR 分布は、頭部形状だけでなく端末そのものの構造に影響されると考えられる。そ

こで、日本で用いられている端末形状やアンテナ位置などの外部から分かる端末の情報

について調査するとともに、疫学研究内で実際に小児に利用されている端末の傾向を調

査した。さらに、実験的に取得された端末の簡易 SAR 分布をもとに、SAR 分布にもと

づく端末の分類について検討を行った。

88

Ⅱ 研究目的

携帯電話使用時の頭部内 SAR 分布は、小児や成人といった頭部形状の違いだけでな

く、端末そのものの構造に影響される。そこで本研究では、疫学研究内で小児に利用さ

れている端末の傾向や端末の簡易 SAR 分布を調査することにより、小児における携帯

電話利用時の頭部内 SAR 分布を推計する方法を確立することを目的とする。

Ⅲ 研究結果

1 携帯電話端末の構造の変化

図 1 に携帯電話端末の形状についての分類を、図 2 にアンテナ位置についての分類を

示す。これらより、2000 年以降に折りたたみ形状の端末が増えている様子がわかる。

また、2000 年頃はほとんどの機種で外観でアンテナが目視できたにも関わらず、その

後内蔵タイプのアンテナが増え、外観からはアンテナが見えない端末が増えたことがわ

かる。2006 年以降はほとんどの端末が内蔵アンテナとなっている。このように形状や

アンテナ位置などの端末の構造が変化しているため、その特徴の違いが端末使用時の人

体頭部内 SAR にどのような影響を及ぼすかを検討することが重要であると考えられる。

表1に 2009 年 3 月 31 日現在での本疫学調査研究に参加された小児が利用している

端末の発売年度をまとめた。表 1 から、2006、2007 年発売端末の利用率が高く、必ず

しも最新の端末が利用されているわけではないことがわかる。次に所持率の高い端末の

発売年、形状の特徴をまとめた表 2 から、折りたたみ形状で内蔵アンテナのタイプがほ

とんどであることがわかる。なお、表 2 に示す端末で本疫学調査研究に参加している小

児が使用している端末の 6 割を占めていることがわかった。

89

表 1 利用端末の発売年度

表 2 携帯電話モデル

順位 SAR 公表値 発売日 形状 アンテナ 所持率

A 社

1 0.420 2007/3/9 fold no 0.10

2 0.589 2006/9/2 fold no 0.05

3 0.589 2006/2/25 fold no 0.04

4 0.705 2007/2/24 fold no 0.03

5 0.852 2008/1/9 fold no 0.02

B 社

1 0.953 2006/3/4 fold no 0.21

2 1.030 2007/12/20 fold no 0.07

3 0.504 2007/6/1 fold no 0.01

C 社

1 1.080 2008/2/9 fold no 0.04

2 1.090 2007/2/23 fold no 0.03

3 0.318 2007/8/8 fold no 0.02

A社 B社 C社 D社2000 0 0 0 02001 0 0 0 02002 0 0 1 02003 0 0 0 02004 0 4 3 02005 12 3 1 02006 33 72 7 02007 53 49 23 02008 18 13 13 12009 0 2 0

90

図 1 携帯電話端末の形状に関する分類

図 2 携帯電話端末のアンテナ位置に関する分類

91

2 携帯電話端末の簡易 SAR 分布取得

携帯電話端末からのばく露はアンテナ近傍に集中することが知られている。しかし、

前章で示したとおり、近年主流となっている携帯電話端末はアンテナが内蔵されており、

アンテナ位置が分からない。そこで、実験的に取得した携帯電話端末の簡易 SAR 分布

を取得し、アンテナ位置等のばく露に影響する情報を得られるか検討した。具体的には、

簡易 SAR 分布測定器(SPEAG, iSAR)を用いて、携帯電話端末を載せた平面状の SAR

分布を取得する。図 3 に簡易 SAR 分布測定の実験系を示す。実験手順は以下のとおり

であり、実験は専用の電波暗室内で行う。 1. 測定面が水平となる位置に iSAR を配置する。

2. 基地局シミュレータ(Anritsu, MT8820A)と周波数帯のあったダイポール

アンテナを用いて、被評価携帯電話端末からそれぞれの規格における最大

出力の電波を放射する。

3. 被評価携帯電話端末を iSAR 評価面に配置し、評価面における SAR 分布

を取得する。 これまでに、のべ 72 機種の簡易 SAR 分布が取得されている。図 4 から図 6 に携帯

電話端末の簡易 SAR 分布測定例を示す。それぞれ、上部、中央部、下部で SAR 分布が

大きくなっている例である。測定結果より、SAR が大きくなる位置は端末によって様々

であることがわかり、これはアンテナ位置がそれぞれ異なるためと考えられる。これら

の結果から、上部、中央部、下部といったアンテナ位置による分類が行える可能性が示

された。これまでに得た分布からは、下部で SAR が大きくなる端末が比較的多かった。

なお、簡易 SAR 分布が測定された端末の内、27 機種が本疫学調査研究で実際に利用さ

れている端末であった。

92

図 3 携帯電話端末の簡易 SAR 分布測定系

図 4 上部で SAR が大きい簡易 SAR 分布測定例

93

図 5 中央部で SAR が大きい簡易 SAR 分布測定例

図 6 下部で SAR が大きい簡易 SAR 分布測定例

94

Ⅳ まとめ

本研究では、日本で用いられている端末形状やアンテナ位置などの外部から分かる端

末の情報について調査するとともに、疫学研究内で実際に小児に利用されている端末の

傾向を調査した。その結果、近年では内蔵アンテナでアンテナ位置が外部からわからな

い端末がほとんどであり、疫学調査研究でも利用が報告されている端末は折りたたみ形

状で内蔵アンテナのものが主流であることがわかった。さらに、実験的に取得された端

末の簡易 SAR 分布をもとに、SAR 分布にもとづく端末の分類について検討を行った。

その結果、簡易 SAR 分布をもとにアンテナが上部、中央部、下部にあると推測して端

末の分類を行える可能性を示した。 今後、本疫学調査研究で利用が報告されている端末の SAR 分布を重点的に取得する

ことが必要であろう。それにより、より正確な端末の分類や代表的な小児頭部への SAR

分布の推定が可能になると考えられる。

95

3. 動物実験

97

3.1 2GHz帯電波の多世代ばく露の脳の発達及び脳機能への影響

99

母動物(P)の妊娠期間中から児動物の生後 6 週齢にいたるまで、多世代に電波を照

射し、子のF

Ⅰ 要 旨

1、F1の子のF2及びF2の子のF3

実験は母動物に妊娠 7 日から分娩後 21 日(離乳)まで、また児動物については生後

0 日から 6 週齢に達するまで 2.14GHz高周波電波の全身ばく露を行った。ばく露群とし

て胎児及び児の全身平均SARが 0.08W/kgを超えないように設定する群(低ばく露群)

及び胎児及びの児全身平均SARが 0.24W/kgを超えないように設定する群(高ばく露群)

を設けた。対照群としてばく露箱に入れるのみで、実際にばく露を行わない偽ばく露群

を設けた。ばく露は、ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテナで行い、ラット

はばく露期間中を通してばく露箱内で飼育した。また、ばく露箱内は昼夜環境をつける

ため 1 日 12 時間サイクルで照明により明暗をコントロールした。出生児(F

の行動機能(オープンフィールド検査)及

び学習・記憶テスト(モーリス水迷路検査)を実施することにより、電波ばく露の多世

代にわたる脳の発達及び機能への影響を検討する目的で実施した。

1)につい

てばく露期間中及びばく露期間終了後に各種検査を実施し、11 週齢より同じばく露群

内で交配を行った。妊娠確認後、妊娠 7 日より再度電波ばく露を開始した。同様の検査

を実施した後、同じ方法でF2及びF3

その結果、母動物(P)の一般状態、体重及び摂餌量いずれにおいても異常は認めら

れず、分娩後の母動物の肉眼的病理学検査及び器官重量においても電波ばく露の影響は

認められなかった。さらに、母動物(P)の妊娠期間、着床痕数、出産率、出生率、産

児数、出産生児数、死亡児数、性比及び外表異常率のいずれにおいても電波ばく露の影

響は認められなかった。

についても検査を行った。

F1、F2及びF3動物では、体重及び摂餌量、反応性検査、オープンフィールド検査、

モーリス水迷路検査、生殖機能検査(F1及びF2)、肉眼的病理学検査、器官重量及び脳

の病理組織学的検査(F3

以上、2.14GHz 高周波電波を妊娠・授乳期から生後 6 週齢に至るまで全身ばく露する

ことによる、児動物の多世代にわたる脳の発達・機能への影響について検討した結果、

発育、行動、学習・記憶及び生殖機能のいずれに対しても、電波ばく露の影響はみられ

ないと結論した。

)のいずれにおいても、電波ばく露の影響はみられなかった。

100

Ⅱ 研究目的 母動物の妊娠期間中から児動物の生後 6 週齢にいたるまで、多世代に電波を照射し、

F1、F2及びF3の行動機能(オープンフィールド検査)及び学習・記憶テスト(モーリス

水迷路検査)を実施することにより、電波ばく露の多世代にわたる脳の発達及び機能へ

の影響を検討した。

101

Ⅲ 試験方法 1 実験実施施設

この研究は電波ばく露装置を完備したDIMS 医科学研究所(以下、「DIMS」とい

う。)にて行った。

2 実験計画

母動物は妊娠 7 日から分娩後 21 日まで、出生児は生後 0 日より 6 週齢までは母動物

とともに、離乳後は雌雄別に第 13 飼育室内の電波ばく露箱にセットした照射用ケージ

で飼育した。電波ばく露は照射用ケージ内で飼育中に 1 日 20 時間行った。なお、セッ

トするばく露箱番号が群ごとに偏らないように、ばく露箱は毎日変更して使用した。ま

た、ばく露箱内は昼夜を付けるために 1 日 12 時間サイクルで照明をコントロールし、

電波ばく露箱内の温湿度については、温湿度ロガーSP-2000を用いて記録した。なお、

実験は 1 度にばく露できる動物数が限られていることから、実験を 0801A 及び 0801B

の 2 回に分け、同じ条件で実施した。

3 試験日程

第 1 回目(0801A) 動物入荷日 : 2008 年 1 月 24 日

群分け実施日 : 2008 年 1 月 28 日

電波照射期間(F1 : 出生児) 2008 年 1 月 29 日~ 3 月 26 日 (F2 : 出生児) 2008 年 5 月 9 日~ 7 月 6 日

(F3 : 出生児) 2008 年 8 月 19 日~10 月 16 日

剖検日 : 2008 年 11 月 25 日(F3

第 2 回目(0801B) 最終屠殺)

動物入荷日 : 2009 年 1 月 15 日

群分け実施日 : 2009 年 1 月 19 日 電波照射期間(F1 : 出生児) 2009 年 1 月 25 日~ 3 月 17 日

(F2 : 出生児) 2009 年 4 月 30 日~ 6 月 30 日

(F3 : 出生児) 2009 年 8 月 13 日~10 月 11 日 剖検日 : 2009 年 11 月 17 日(F3最終屠殺)

102

4 電波照射条件

周波数 : 2.14GHz デジタル方式 : W-CDMA 方式

照射レベル : 全期間を通して胎児及び児ラットの全身平均 SAR(Specific

absorption rate 比吸収率)が 0.08 及び 0.24[W/kg]以下 アンテナ入力 : 2 ダイポールアンテナ入力合計

0.97 W(児全身平均<0.08[W/kg])

2.9 W(児全身平均<0.24[W/kg])

5 ばく露装置

全身ばく露実験システムを使用した。ばく露箱内上部に直交させたダイポールアンテ

ナを設置し、ばく露箱は昼夜を付けるため 1 日 12 時間サイクルで照明をコントロール

した。一つのばく露箱内には 4 つの飼育ケージ(扇型)を配置した。

6 供試動物

動物種 : ラット 系統 : Crl:CD(SD)(SPF 動物)

性 : 雌

入荷時週齢 : 10 週齢で交配を確認し、入荷時妊娠 2 日 購入(使用)匹数 : 各 15 匹(12 匹) 合計 30 匹(24 匹)

供給源 : 日本チャールス・リバー

検疫・馴化期間 : 5 日間 検疫・馴化期間中の検査 : 体重測定(2 回、群分け体重を含む)

一般状態の観察(1 日 2 回)

実験開始時体重範囲 : 242g~303g 群分け後の余剰動物の処置 : 試験系から除外した。

試験系選択理由 : Crl:CD(SD)系ラットは、生殖毒性試験に一般に使用

されていることから本試験に適しており、微生物学的に

統御され、遺伝的に安定であることから選択した。

103

7 動物管理

7.1 飼育条件

飼育室 : 第 12 飼育室(検疫及び馴化期間も第 12 飼育室で飼育)

照射期間中は第 13 飼育室

温度 : 設定温度;22±3 相対湿度 : 設定範囲;55±15%

照明時間 : 12 時間/日(7:00~19:00)

換気回数 : 10 回以上/時間 飼育 : 妊娠期間 1 匹/ケージ(検疫・馴化期間中も同様)

授乳期間 1 匹/ケージ(出生児と同居)

ケージ(床敷)交換頻度 : 1 回/日 給餌器交換頻度 : 1~2 回/週

給水瓶交換頻度 : 1 回/日

7.2 収容ケージ及び床敷

[照射期間]

[上記以外の期間]

ケージ

: プラスチック製ケージ(W257×D426×H200mm ト

キワ科学器械)

ケージ蓋 : ステンレス製(トキワ科学器械)

消毒方法 : プラスチック製ケージは常圧蒸気殺菌 ケージ蓋は高圧蒸気滅菌

ケージ(蓋つき)

: 照射用ケージ(H200×D210×W外周 82.5πの扇型、床

面積 538.5cm2

消毒方法

: ソフト酸化水消毒

床敷 : ベータチップ(Northeastern Products Co., NY, USA)

消毒方法 : 高圧蒸気滅菌

床敷中の環境汚染物質 : オリエンタル酵母工業より分析値を入手し、DIMS で

定める最大許容濃度以下であることを確認した。

104

床敷 : ソフトチップ(有限会社 原商店)

消毒方法 : 高圧蒸気滅菌 床敷中の環境汚染物質 : 中部科学資材より分析値を入手し、DIMS で定める最

大許容濃度以下であることを確認した。

7.3 飼料及び給餌方法

[検疫・馴化期間及び照射期間]

飼料 : オリエンタル酵母工業製粉末飼料 MF 給餌方法 : ケージ内に設置した給餌器(CL-0921:日本クレア

製)に入れて、自由摂取

給餌器の消毒方法 : 給餌器蓋はソフト酸化水消毒、給餌器の容器は高圧蒸気

滅菌

飼料中の汚染物質 : オリエンタル酵母工業よりロットごとに分析値を入

手し、DIMS における最大許容濃度以下であることを確

認した。

[上記以外の期間]

飼料 : オリエンタル酵母工業製固形飼料 MF 給餌方法 : ケージ蓋に設置したステンレス製給餌器に入れて、自由

摂取

給餌器の消毒方法 : 高圧蒸気滅菌 飼料中の汚染物質 : オリエンタル酵母工業よりロットごとに分析値を入

手し、DIMS における最大許容濃度以下であることを確

認した。

7.4 飲料水及び給水方法

飲料水 : 一宮市上水道水

給水方法 : 透明な給水瓶を用いて自由摂取 給水瓶の消毒方法 : 給水瓶及び給水栓ともにソフト酸化水消毒

飲料水中の汚染物質 : 下記の分析機関に分析を依頼し、DIMS における水質基準

に適合していることを定期的(年 2 回)に確認した。 株式会社 環境科学研究所

105

8 動物の個体識別法

[ケージの識別] 検疫及び馴化期間中 : ケージラベルに試験番号、仮ケージ番号、仮動物番号及び動

物管理責任者名を明記した。

群分け後 照射期間中(離乳まで) : ばく露箱に試験番号、群番号、照射レベル(照射レベルごと

に異なった色を用いて識別した)、親動物番号、照射開始及

び終了予定年月日、試験責任者名を表示した。 照射期間中(離乳後) : ばく露箱に試験番号、群番号、照射レベル(照射レベルごと

に異なった色を用いて識別した)、動物番号、照射開始及び

終了予定年月日、試験責任者名を表示した。 照射終了後(検査期間) : ケージラベルに試験番号、性別、群番号、ケージ番号、照射

レベル(照射レベルごとに異なった色を用いて識別した)、

動物番号、試験責任者名を明記した。 [個体識別]

検疫及び馴化期間中 : ケージラベルの仮動物番号にて個体識別を行った。

群分け後 照射期間中(母動物) : 動物の被毛にはマジックインキにより群ごとの色をつけた。

尾及び右耳介に 1-4 の群内番号をつけ、左耳介には群番号

をつけた(マジックインキ法及びイヤーパンチ法)。 照射期間中(児動物) : F1~F3

照射終了後(検査期間)

出生児は、生後 4 日の調整後にマジックインキで個

体識別した。それ以前については個体識別を行わなかった。

離乳後は、動物の被毛には群ごとの色をつけ、さらに尾に赤

マジックインキでケージ内動物番号をつけた(マジックイン

キ法)。

: 動物の被毛には群毎の色をつけ、さらに尾に黒マジックイン

キでケージ内動物番号をつけた(マジックインキ法)。

9 群構成及び電波ばく露レベル

妊娠ラット 15 匹をコンピュータによる体重を基にした乱塊法を用いて次表の如く 3群に群分けし、群分け時の体重が各群間に統計学的な有意差のないことを確認した。

106

群 ばく露レベル 第 1 群 電波照射を行わない群(偽ばく露群) Sham 第 2 群 胎児及び児全身平均 SAR が 0.08 W/kg を越えないように設定する群 Low 第 3 群 胎児及び児全身平均 SAR が 0.24 W/kg を越えないように設定する群 High

10 波ばく露量設定の理由

ICNIRP(International Commission on Non-Ionizing Radiation Protection)にお

いて公衆の全身平均 SAR が 0.08 W/kg(職業ばく露は 0.4 W/kg)以下に制限されてい

ることに基づき、胎児及び児全身平均 SAR が全期間を通して 0.08W/kg を超えない群

を設定した。また、胎児及び児全身平均 SAR が全期間を通して 0.08W/kg の 3 倍であ

る 0.24W/kg を超えない群も設けた。

11 検査項目

11.1 一般状態

[母動物及びF1、F2、F3

1 日 1 回(朝)、全ての動物について一般行動、生死等について観察し、個体別に記

録した。

動物(離乳後)]

[F1、F2、F3

1 日 1 回(朝)、全ての動物について一般行動、生死等について観察し、記録した。

生後 0 日(分娩後 0 日)には出産児数、死産児数、性別及び外表異常について観察し、

個体別に記録した。

出生児(離乳まで)]

11.2 体重

[母動物及びF1、F2

妊娠 7、14、17、20 日、また分娩後 0、4、7、14、21 日に電子天秤(LA4200 ザル

トリウス)を用いて個体別に測定した。

妊娠動物]

[F1、F2、F3

生後 0(雌雄別に腹単位で測定)、4(匹数調整後)、7、14 及び 21 日に電子天秤を用

いて測定した。

出生児(離乳まで)]

[F1、F2、F3

毎週 1 回、全動物について電子天秤を用いて個体別に測定した。また、剖検時にも一

晩絶食後の体重(剖検日体重)を測定した。

動物(離乳後)]

107

11.3 摂餌量

[母動物及びF1、F2

妊娠 7-8、13-14、16-17、19-20 日、また分娩後 3-4、6-7、13-14、20-21

日の摂餌量を電子天秤を用いて個体別に測定し、1 匹 1 日あたりの飼料摂取量を算出し

た。

妊娠動物]

[F1、F2、F3

毎週 1 回、ケージ毎に電子天秤を用いて 2 日間の摂餌量を測定し、1 匹あたりの 1 日

平均摂取量を算出した。

動物(離乳後)]

11. 4 反応性検査

検査名 評価方法

痛覚反応 : 圧迫により尾部を刺激し、発現する嫌悪反応や刺激部位への指向

反応を持って体の局部の表在性及び深部疼痛を評価した。 耳介反射 : 耳の内側を軽く撫でることにより生じる耳介の攣縮で評価した。 聴覚反射 : 突発的な音刺激に対する耳介の不随意的反射運動で聴覚を評価し

た。 瞳孔反射 : あらかじめ動物の目を暗順応させておき、瞳孔に光を当てて瞳孔

反応の有無を確認した。 角膜反射 : 角膜に硬い毛などを軽く接触させた時、眼瞼を閉鎖(瞬目)する

反射を確認した。 平面正向反射 : 動物を背臥位に置いた時自ら四肢で正常の立位に立ち直る反応で

中枢神経系(小脳及び脳幹を含む前庭系)と筋との統合運動の発

達を評価した。 背地走性 : 傾斜板の中央部に頭部を下にしてラットを置いた時、ラットが顔

を上方に向ける反応で運動協調性のほか、平衡感覚、筋力などを

総合的に評価した。 空中正向反射 : 背面位の姿勢で自由落下させた時、空中において立ち直り、正常

の立位で着地する反応で前庭系の機能を評価した。

[F1、F2、F3

痛覚反応(生後 5 日)、耳介反射(生後 14 日)、聴覚反射(生後 14 日)、瞳孔反射(生

後 21 日)角膜反射(生後 21 日)、平面正向反射(生後 6、7、8、9、10 日)、背地走性

(生後 6、7、8、9、10、11、12 日)、空中正向反射(生後 13、14、15、16、17、18、19 日)について全ての生存出生児について検査した。痛覚反応、耳介反射、聴覚反射、

瞳孔反射及び角膜反射については反応が確認できるまで検査を行った。

動物]

108

11.5 オープンフィールド検査

探索行動を自発運動量及び立ち上がり回数で、中枢興奮、交感神経興奮を身づくろい

の回数で、情動性を脱糞個数及び排尿回数で検査した。 [F1、F2、F3

(1) オープンフィールド検査まで、動物を作業従事者に慣れさせる目的で、1 日 1 回、5日間連続して軽くハンドリングした。

動物(7 週齢)]

(2) 測定環境は室内を暗くし、測定する黒色の立方体フィールド(60cm×60cm×30cm)

から人の姿が見えないように周囲を暗幕で覆った状態で、箱の上から 40w の白熱

球(2 個)で全体を照射(フィールド床面の中央 200~300lux)した。また、フィ

ールド中央で約 60dB となるようにノイズ音を流した。 (3) 測定方法はフィールドの中央上部にビデオカメラを設置し、ビデオトラッキングシ

ステム(CompACT vas/dv)で動物の中央潜時、区画移動数(自発運動量)、立ち

上がり回数、身づくろい回数、脱糞個数及び排尿回数について検査し、記録した。 (4) 測定は、1 日 1 回(10 分間)、3 日間連続して行った。

11.6 モーリス水迷路検査

動物に水を避難するために周囲の環境条件を手がかりにして、自分の存在場所を認識

し、回避できる目的地を探し出す認知地図を脳内に形成させた。この方法を用いること

によって、動物の認知地図の能力をみた。 [F1、F2、F3

(1) 測定環境は円形プール(内径 147cm、壁の高さ 43cm、水深 30cm)に墨汁で黒く

した水(23~27)を張り、プール内に動物が水から非難する台(目標台)を設置

した。また、プールの周囲には目標台を認識するための目印を設置した。

動物(9 週齢)]

(2) プールを概念的に 4 分割し、その 4 分円の 1 つの中央部に目標台(直径 12cm)を

設置した。動物は目標台を設置していない 4 分円より遊泳させた。 (3) 測定はビデオカメラをプールの中央上部に設置し、ビデオトラッキングシステム

(CompACT vas/dv)で下記検査(訓練試行及びテスト試行)を実施した。

11.6.1 訓練試行

動物に周囲の環境条件を手がかりにして、目標台の位置を記憶させた。 (1) 測定は 1 日 3 回(120 秒間)、5 日間連続して行った。 (2) 方法は動物をプール内の壁面に向けてラットを放し、遊泳させ、目標台に乗るまで

の時間を測定する。出発点は 1 回ごとに変えた。

109

(3) 遊泳時間は最大 120 秒とし、120 秒以内に目標台に到達しない場合は観察者がラッ

トを目標台上に移動させた。目標台に 30 秒間とどめ、周囲の環境条件を記憶させ

た。 (4) 試行間隔は約 30 秒~60 秒とした。

11.6.2 テスト試行

動物が周囲の環境条件を手がかりにして、目標台の位置を記憶しているかどうかを検

査した。

(1) 5 日目の訓練試行終了約 30 分後に 1 回(60 秒間)行った。

(2) 方法は目標台を取り除き、動物をプール内の壁面に向けてラットを放し、60 秒間遊

泳させた。

(3) 目標台が設置されていた位置に相当する直径 12cm 円形領域に、ラットの頭部が進

入する回数(横断回数)を測定した。また、4 分円内それぞれの動物の滞在時間を

測定した。

11.7 生殖能力検査 [F1、F2

オープンフィールド検査及び水迷路検査に使用しなかった動物を 9 週齢から交尾成

立まで毎日、膣垢塗抹標本を作製し、発情周期の観察及び交尾確認を行った。11 週齢

より、同一群内で(可能な限り兄妹交配を避けた)雄と雌を、同一の組み合わせで 14

日間を限度として同居させて交配させた。交配は各腹 2 匹ずつ行って交尾所要日数、交

尾率及び受胎率を算出したが、そのうち妊娠日の近い動物、各腹 1 匹を選んで分娩させ

た。妊娠確認後除外された動物については、その後の生殖能力検査には使用せず屠殺し

た。

動物]

11.8 肉眼的病理学検査 [F1、F2、F3

生殖能力検査を行った妊娠動物のうち、分娩させた動物は離乳後(19 週齢)にエー

テル麻酔下で腹部大動脈より採血して安楽死させ、肉眼的病理学検査及び子宮内着床痕

数の観察を行った。分娩させなかった動物は 13 週齢時に屠殺した。生殖能力検査を行

わなかった動物は 12 週齢時にエーテル麻酔下で腹部大動脈より採血して安楽死させ、

全身諸器官の詳細な肉眼的病理学検査を行った。ただし、交配に使用する動物が各腹 2匹確保できなかったF

動物]

1の低ばく露群雌及びF2の低ばく露群雄については、肉眼的病理

学検査及び器官重量の測定に供すべき各 1 匹を交配用に使用した。

110

11.9 器官重量

[F1、F2、F3

脳、下垂体、甲状腺、胸腺、副腎、心臓、肺、肝臓、腎臓、脾臓、精巣、精巣上体、

前立腺(腹葉)、卵巣、子宮について重量を測定し、剖検日体重を用いて器官重量体重

比を算出した。下垂体、甲状腺及び前立腺(腹葉)については 10%緩衝ホルマリン液

で固定後測定した。

動物]

11.10 病理組織学的検査

F3のオープンフィールド検査及び水迷路検査を行った動物について、脳を常法に従い、

パラフィン包埋、薄切し、ヘマトキシリン・エオジン染色標本を作製して、病理組織学

的検査を実施した。なお、F2の高ばく露群の 1 例で脳の奇形がみられた動物について

も同様に病理組織学的検査を実施した。

111

Ⅳ 試験結果

1 0801A 及び B ロット間の比較[Table P-1,2,3 (Control)]

0801A 及び 0801B 間におけるロットの違いによる差を確認する目的で、0801A 及び

0801B 間それぞれの偽ばく露群における母動物の体重、摂餌量、着床痕数及び産児数

について、F 検定により、等分散の場合は Student の t-検定を用い、等分散でない場合

には Welch の方法を用いて統計解析を行った。 その結果、母動物の体重、摂餌量、着床痕数及び産児数のいずれにおいてもロット間

に有意差が認められなかったことから 0801A及び 0801Bにおける実験ロットの違いは

ないと判断した。従って、結果の評価は 0801A 及び 0801B を合わせて行った。

2 母動物

2.1 一般状態[Table P-1]

母動物の妊娠期間及び授乳期間中の一般状態に、著変はみられなかった。

2.2 体重[Table P-2] 母動物の体重では、妊娠期間中から授乳期間中を通して、偽ばく露群と電波ばく露群

との間に統計学的な差異はみられなかった。

2.3 摂餌量[Table P-3]

母動物の摂餌量では、偽ばく露群と電波ばく露群との間に統計学的な差異はみられ

なかった。

2.4 生殖能力検査[Table P-4]

妊娠期間、着床痕数、出産率、出生率、産児数、出産生児数、死亡児数、性比及び外

表異常率のいずれにおいても、偽ばく露群と電波ばく露群との間に統計学的な差異はみ

られなかった。

2.5 肉眼的病理学検査[Table P-5]

水腎症及び子宮角の拡張が各群の少数例にみられたが、いずれの所見も偽ばく露群と

電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられなかった。

2.6 器官重量及び器官重量体重比[Table P-6, 7]

いずれの組織・器官においても偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみ

られなかった。

112

3 F1

3.1 一般状態[Table F

動物

1

生後 5 及び 6 日に雌の高ばく露群の 1 例に後肢(右)の腫脹がみられたが、7 日には

回復した。

-1, 2]

授乳期間中に、低ばく露群の一腹の児(雌雄各 4 匹)に削痩がみられ、その後回復が

みられなかったことから、生後 4 週にこれらの動物を試験系から除外した。これは、こ

れらの児動物の母から生まれた児が 2 匹であったため、他の母動物から計 8 匹(雌雄各

4 匹)となるように里子を出したが、哺育ができず、児動物が育たなかったものと考え

られた。

また離乳後からF1

3.2 体重[Table F

の実験終了まで、いずれの動物においても一般状態に著変はみられ

なかった。

1

F

-3, 4]

1

3.3 摂餌量[Table F

動物の体重では、妊娠期間中から授乳期間中、偽ばく露群と電波ばく露群との間に

統計学的な差異はみられなかった。離乳後から生後 11 週(実験終了時)までの体重で

は、雌雄いずれの群においても統計学的な差異はみられなかったが、雌雄の高ばく露群

で生後 8 週以降、高値傾向がみられた。

1

F

-5]

1

3.4 4 日生存率[Table F

動物の摂餌量では、偽ばく露群と電波ばく露群との間に統計学的な差異はみられな

かった。

1

F

-6]

1

3.5 反応性検査[Table F

動物の 4 日生存率は、偽ばく露群、低ばく露群及び高ばく露群でそれぞれ 100%、

97.3%及び 99.1%で群間に統計学的な差異はみられなかった。また離乳率は各群いずれ

も 100%であった。

1

生後 14 日に実施した耳介反射で、低ばく露群の 1 匹に反射がみられなかったため、

検査を継続した。その結果、翌日(生後 15 日)には反射が確認された。

-7]

生後 21 日に実施した角膜反射で、高ばく露群の 1 匹に反射がみられなかったため、

検査を継続した。その結果、翌々日(生後 23 日)には反射が確認された。

低ばく露群において、生後 15 日の空中正向反射が有意な高値を示した。

113

この変動は低ばく露群のみの変化であり、高ばく露群にはみられていないことから、

偶発的な変化と考えられた。 その他の検査項目では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的差異はみられなかっ

た。

3.6 オープンフィールド検査[Table F1

3 日間の検査の区画移動数、中央潜時、立ち上がり回数、身づくろい回数、脱糞個数

及び排尿回数のいずれにおいても、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異は

認められなかった。

-8]

3.7 モーリス水迷路検査

3.7.1 訓練試行[Table F1

F

-9]

1

3.7.2 テスト試行[Table F

動物の目標台までの到達時間は、動物が目標台を認識し、日を追うごとに到達時間

が短縮される傾向が確認された。

1

F

-10]

1

その他の群では雌雄とも偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられ

なかった。

動物雄の高ばく露群で、目標台の設置されていた 4 分円での滞在時間が偽ばく露

群と比較して有意な高値を示した。

3.8 肉眼的病理学検査[Table F1

F

-11]

1

3.9 器官重量及び器官重量体重比(相対重量)[Table F

動物の雌雄各群で水腎症及び子宮角の拡張が少数例にみられたが、いずれの所見も

偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられなかった。

1

雄の高ばく露群で脳の相対重量が有意な低値を示したが、この変動は同群の体重の高

値を反映した結果と考えられた。低ばく露群及び高ばく露群で腎臓の相対重量の有意な

高値がみられたが、用量との関連がないことから、電波ばく露の影響ではないと判断し

た。その他の組織・器官では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的差異はみられ

なかった。

-12, 13]

114

3.10 生殖能力検査

高ばく露群の 1 例が分娩しなかったため、この動物の一般状態、体重及び摂餌量のデ

ータは集計から除外した。 3.10.1 妊娠動物の一般状態[Table F1

F

-14] 1

3.10.2 妊娠期間及び授乳期間中の体重[Table F

動物の妊娠期間中及び授乳期間中の一般状態に、著変はみられなかった。

1

F

-15]

1

3.10.3 妊娠期間及び授乳期間中の摂餌量[Table F

動物の妊娠期間中及び授乳期間中を通して、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計

学的な差異はみられなかった。

1

F

-16]

1

3.10.4 性周期検査[Table F

動物の妊娠期間中及び授乳期間中を通して、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計

学的な差異はみられなかった。

1

性周期の異常を示した動物が、偽ばく露群で 1 例、低ばく露群で 3 例、高ばく露群で

4 例みられたが、統計学的な差異はみられなかった。

-17]

3.10.5 受胎能力検査[Table F1

偽ばく露群及び電波ばく露群の交尾率はいずれも 100%であったが、高ばく露群の 1

例が分娩しなかったことから、受胎率は偽ばく露群及び低ばく露群で 100%であったの

に対し、高ばく露群では 94%であった。交尾所要日数では、群間に差異はみられなか

った。

-18]

3.10.6 生殖能力検査[Table F1

妊娠期間、着床痕数、出産率、出生率、産児数、出産生児数、死亡児数、性比及び外

表異常率のいずれにおいても、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的差異はみられ

なかった。

-19]

3.10.7 肉眼的病理学検査[Table F1

偽ばく露群及び電波ばく露群の動物のいずれにおいても、著変はみられなかった。

-20]

3.10.8 器官重量及び器官重量体重比(相対重量)[Table F1

いずれの組織・器官においても、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみら

れなかった。

-21, 22]

115

4 F2

4.1 一般状態[Table F

動物

2

F

-1, 2]

1

雌の低ばく露群で、生後 4 日の間引き前に児動物 1 匹が死亡したが、里子を得ること

ができなかったため、同群の動物数は 31 匹となった。

の高ばく露群の 1 匹が分娩しなかったため、同群の児動物数は雌雄とも 28 匹とな

った。

離乳後からF2

4.2 体重[Table F

の実験終了まで、いずれの動物においても一般状態に著変はみられなか

った。

2

授乳期間中の体重では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられな

かった。離乳後から生後 11 週(実験終了時)までは、雌雄の高ばく露群で、偽ばく露

と比較して統計学的に有意な高値がみられた。これは雌雄のF

-3, 4]

1動物の体重が若干高値傾

向を示していたことにより、F2

4.3 摂餌量[Table F

の体重に影響を及ぼしたものであり、電波ばく露の直接

的な影響ではないと考えられた。

2

高ばく露群の雄で生後 8から 11週、雌では生後 7及び 8週に偽ばく露群と比較して、

統計学的に有意な高値がみられた。しかしながらこの変動は、同群における体重の高値

に起因した変化であり、電波ばく露による影響ではないと考えられた。

-5]

4.4 4 日生存率[Table F2

F

-6]

2

4.5 反応性検査[Table F

動物の 4 日生存率は、偽ばく露群、低ばく露群及び高ばく露群でそれぞれ 98.3%、

96.8%及び 100%で群間に差異はみられなかった。また離乳率は各群いずれも 100%で

あった。

2

高ばく露群において、生後 9 日の平面正向反射が偽ばく露群と比較して有意な低値を

示した。また、生後 12 日の背地走性が低ばく露群で有意な高値を示した。

-7]

これらの変動はいずれも 1 日のみの変動であるか、あるいは低ばく露群のみの変化で高

ばく露群にはみられていないことから、偶発的な変化と考えられた。

その他の検査項目では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられな

かった。

116

4.6 オープンフィールド検査[Table F2

3 日間の検査で、区画移動数、中央潜時、立ち上がり回数、身づくろい回数、脱糞個

数及び排尿回数のいずれにおいても、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異

は認められなかった。

-8]

4.7 モーリス水迷路検査

4.7.1 訓練試行[Table F2

雌の高ばく露群の 1 例が 5 日間の訓練試行の間に、目標台を認識することができず、

規定の 120 秒以内で目標台に到達できたのは 5 日目の 3 回中 1 回のみであった。この

動物の屠殺時の肉眼的病理学検査では、脳の奇形が確認され、病理組織学的検査を実施

したところ、大脳皮質の欠損を認めた。従って、この動物は同群の集計から除外した。

-9]

その他のF2

4.7.2 テスト試行[Table F

動物の目標台までの到達時間は、動物が目標台を認識し、いずれの群にお

いても日を追うごとに到達時間が短縮される傾向が確認された。

2

雌雄とも横断回数及び 4 分円内の滞在時間に統計学的な差異はみられなかった。

-10]

4.8 肉眼的病理学検査[Table F2

F

-11]

2

4.9 器官重量及び器官重量体重比(相対重量)[Table F

動物の雌雄各群で副脾、胃、小腸及び大腸の暗色化、水腎症、精巣及び精巣上体の

小型化、子宮角の拡張、膣の結節が少数例にみられたが、いずれの所見も偽ばく露群と

電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられなかった。また脳の奇形が雌の高ばく露群

で 1 例にみられた(4.7 モーリス水迷路検査の項参照)。

2

F

-12, 13]

2

4.10 生殖能力検査

動物雄の低ばく露群で、甲状腺の絶対重量及び相対重量の有意な低値がみられたが、

高ばく露群では同様の傾向がみられていないことから、偶発的な変化と判断した。また

肝臓では高ばく露群で絶対重量の有意な高値がみられたが、同群における体重の高値を

反映した結果と考えられた。その他の組織・器官では統計学的に有意な変化はみられな

かった。

偽ばく露群の 1 例が分娩しなかったため、この動物の一般状態、体重及び摂餌量のデ

ータは集計から除外した。

117

4.10.1 妊娠動物の一般状態[Table F2

F

-14]

2

4.10.2 妊娠期間及び授乳期間中の体重[Table F

動物の妊娠期間中及び授乳期間中の一般状態に、著変はみられなかった。

2

F

-15]

2

4.10.3 妊娠期間及び授乳期間中の摂餌量[Table F

動物の妊娠期間中及び授乳期間中を通して、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計

学的な差異はみられなかった。

2

F

-16]

2

4.10.4 性周期検査[Table F

動物の妊娠期間中及び授乳期間中を通して、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計

学的な差異はみられなかった。

2

F

-17]

2

4.10.5 受胎能力検査[Table F

動物の性周期検査では、異常を認めた動物は偽ばく露群を除く各群に 1 ないしは 2

例で、各群間に統計学的な差異はみられなかった。

2

偽ばく露群及び電波ばく露群の交尾率はいずれも 100%であったが、偽ばく露群の 1

例が分娩しなかったことから、受胎率は偽ばく露群で 94%、低ばく露群及び高ばく露

群では 100%であった。交尾所要日数では、群間に差異はみられなかった。

-18]

4.10.6 生殖能力検査[Table F2

妊娠期間、着床痕数、出産率、出生率、産児数、出産生児数、死亡児数、性比及び外

表異常率のいずれにおいても、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的差異はみられ

なかった。

-19]

4.10.7 肉眼的病理学検査[Table F2

肝臓の横隔膜結節が雌の低ばく露群で 1 例、子宮角の拡張が低ばく露群で 1 例と高ば

く露群で 3 例にみられたが、いずれの所見も偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的

な差異はみられなかった。その他の群では著変はみられなかった。

-20]

4.10.8 器官重量及び器官重量体重比(相対重量)[Table F2

いずれの組織・器官においても、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異は

みられなかった。

-21, 22]

118

5 F3

5.1 一般状態[Table F

動物

3

F

-1, 2]

2

雄の低ばく露群の1匹が生後9日に死亡したため、同群の児動物数は31匹となった。

の偽ばく露群の 1 匹が分娩しなかったため、同群の児動物数は雌雄とも 28 匹とな

った。

雌の高ばく露群の 1 匹に、生後 6 日から 19 日まで尾の外傷がみられた。

その他の群では、授乳期間から実験終了までいずれの動物においても著変はみられな

かった。

5.2 体重[Table F3

F

-3, 4]

3

雌の低ばく露群では、生後 14 日に有意な高値がみられたが、離乳後は偽ばく露群と

の間に統計学的な差異はみられなかった。

動物雌の高ばく露群では、生後 4 日から生後 11 週(実験終了時)まで、また雄で

は生後 5 週から 11 週(実験終了時)まで、偽ばく露群と比較して統計学的に有意な高

値もしくは高値傾向がみられた。

雌雄の高ばく露群でみられた変動は、雌雄のF1~F2

5.3 摂餌量[Table F

動物の体重が高値もしくは高値

傾向を示していたことによるものであり、電波ばく露の直接的な影響ではないと考えら

れた。また、雌の低ばく露群でみられた変動は、その後同様の変化がみられないことか

ら偶発的な変化と考えられた。

3

雄の高ばく露群で、生後 10 及び 11 週に偽ばく露群と比較して統計学的に有意な高

値がみられた。しかしながらこの変動は、同群における体重の高値に起因した変化であ

り、電波ばく露による影響ではないと考えられた。

-5]

5.4 4 日生存率[Table F3

F

-6]

3

5.5 反応性検査[Table F

動物の 4 日生存率は、偽ばく露群、低ばく露群及び高ばく露群でそれぞれ 99.0%、

98.3%及び 100%で群間に差異はみられなかった。また離乳率は各群いずれも 100%で

あった。

3

生後 14 日に実施した耳介反射で、偽ばく露群の 1 匹に反射がみられなかったため、

検査を継続した。その結果、翌日(生後 15 日)には反射が確認された。

-7]

119

低ばく露群において、生後 12 日の背地走性が偽ばく露群と比較して統計学的に有意

な高値を示した。この変動は低ばく露群のみの変化で高ばく露群にはみられていないこ

とから、偶発的な変化と考えられた。

その他の検査項目では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられな

かった。

5.6 オープンフィールド検査[Table F3

雌の高ばく露群において、情動行動の指標となる脱糞個数が、1 回目の検査で偽ばく

露群と比較して有意な高値を、また、3 日目の検査では排尿回数が低ばく露群及び高ば

く露群で偽ばく露群と比較して有意な高値を示した。

-8]

その他の測定項目では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられな

かった。

5.7 モーリス水迷路検査

5.7.1 訓練試行[Table F3

雌の低ばく露群における 2 日目の目標台への到達時間は、偽ばく露群と比較して有意

に延長した。また雌の高ばく露群では 3 日目の目標台への到達時間が偽ばく露群と比較

して有意に短縮した。しかしながら、F

-9]

3

5.7.2 テスト試行[Table F

動物の目標台までの到達時間を各群ごとにみた

場合には、動物が目標台を認識し、日を追うごとに、到達時間が短縮される傾向が確認

された。

3

雌の高ばく露群で、横断回数が偽ばく露群と比較して有意な低値を示した。

-10]

4 分円内の滞在時間では、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられ

なかった。

5.8 肉眼的病理学検査[Table F3

F

-11]

3

雄の低ばく露群で生後 9 日に死亡した動物では、肝臓の変色(淡色)、腰椎の暗赤色

化及び腹腔内の黄色液貯留及び黄色物(多数)が観察された

動物の雌雄各群で、肺の変色点、肝臓の横隔膜結節及び子宮角の拡張がみられたが、

少数例であり、偽ばく露群と電波ばく露群の間に統計学的な差異はみられなかった。

120

5.9 器官重量及び器官重量体重比(相対重量)[Table F3

F

-12, 13]

3

5.10 病理組織学的検査[Table F

動物雄の高ばく露群で、心臓及び肝臓の絶対重量が有意な高値、また、脳の相対重

量が有意な低値を示したが、同群における体重の高値を反映した結果と考えられた。腎

臓では高ばく露群で絶対重量の有意な高値、低ばく露群及び高ばく露群で相対重量の有

意な高値がみられたが、相対重量には用量との関連がないことから、偶発的な変化と考

えられた。また、絶対重量の変動は同群における体重の低値を反映したものと考えられ

た。精巣では、低ばく露群で絶対重量及び相対重量の有意な高値、また高ばく露群では

絶対重量の有意な高値がみられ、精巣上体では、低ばく露群で相対重量の有意な高値が

みられたが、いずれも用量との関連がないことから、偶発的な変化と考えられた。雌で

は、下垂体及び腎臓の絶対重量の有意な高値がみられたが、いずれも同群における体重

の高値を反映した結果と考えられた。

3

F

-14]

3動物の脳について病理組織学的検査を実施したが、偽ばく露群、低ばく露群及び高

ばく露群のいずれにおいても著変はみられなかった。

121

Ⅴ 考察

母動物の妊娠期間中から児動物の生後 6 週齢にいたるまで、多世代に電波を照射し、

F1、F2及びF3

実験は妊娠確認動物(妊娠 2 日)を購入し、妊娠 7 日から分娩後 21 日(離乳)まで、

また児動物については生後 0 日から 6 週齢に達するまで 2.14GHz高周波電波の全身ば

く露を行った。ばく露群として胎児及び児全身平均SARが 0.08W/kgを超えないように

設定する群(低ばく露群)及び、胎児及び児全身平均SARが 0.24W/kgを超えないよう

に設定する群(高ばく露群)を設けた。対照群としてばく露箱に入れるのみで、実際に

ばく露を行わない偽ばく露群を設けた。ばく露は、ばく露箱内上部に直交させたダイポ

ールアンテナで行い、ラットはばく露期間中を通してばく露箱内で飼育した。また、ば

く露箱内は昼夜環境をつけるため 1 日 12 時間サイクルで照明により明暗をコントロー

ルした。出生児(F

の行動機能(オープンフィールド検査)及び学習・記憶テスト(モーリス

水迷路検査)を実施することにより、電波ばく露の多世代にわたる脳の発達及び機能へ

の影響を検討する目的で実験を行った。

1)については、ばく露期間中及びばく露期間終了後に各種検査を実

施し、11 週齢より同じばく露群内で交配を行った。妊娠確認後、妊娠 7 日より再度電

波ばく露を開始し、同様の検査を実施した後、同じ方法でF2及びF3(F3

[母動物に及ぼす影響]

は交配、生殖

能力検査を除く)についても検査を行った。

母動物には妊娠 7 日から分娩後 21 日(離乳)までばく露を行ったが、ばく露期間中、

母動物の一般状態、体重及び摂餌量いずれにおいて異常は認められず、分娩後の母動物

の肉眼的病理学検査及び器官重量においても電波ばく露の影響は認められなかった。さ

らに、母動物の妊娠期間、着床痕数、出産率、出生率、産児数、出産生児数、死亡児数、

性比及び外表異常率のいずれにおいても電波ばく露の影響は認められなかった。

[F1、F2及びF3

各児動物出生後から 6 週齢にいたるまでばく露を行ったが、ばく露期間中の摂餌量及

び反応性検査のいずれにおいても異常は認められなかった。

動物に及ぼす影響]

体重ではF1からF3

探索行動、中枢興奮、交感神経興奮及び情動性を調べるオープンフィールド検査では、

F

に至るまで、雌雄の高ばく露群で高値もしくは高値傾向がみられ

たが、用量との関連は明らかでないことから、電波ばく露の影響ではなく偶発的な変化

と考えられた。

3雌の高ばく露群において、情動行動の指標となる脱糞個数が、1 回目の検査で有意な

高値を、また、3 回目の検査では排尿回数が低ばく露群及び高ばく露群で偽ばく露群と

122

比較して有意な高値を示した。しかしながら、3 日間の検査での区画移動数は、いずれ

の群においても着実に減少しており、また、立ち上がり回数の減少、身づくろい回数の

増加がみられ、次第に周囲の環境に順応していることが示されていることから、脱糞回

数及び排尿回数の変動は、電波ばく露の影響ではなく偶発的な変動と判断した。

学習能力検査として、空間認知の記憶学習を調べる方法とされているモーリス水迷路

検査では、訓練試行においてF1、F2及びF3動物ともに目標台までの到達時間は日ごと

に短縮される傾向が確認され、F1及びF2動物では 1 日目から 5 日目まで電波ばく露の

影響はみられなかった。F3雌動物の 2 日目の目標台への到達時間が偽ばく露群と比較

して有意に延長する結果が得られたが、3 日目には他の群と同程度の時間になっている

ことから、電波ばく露の影響ではなく偶発的な変化と判断した。また高ばく露群の雌で

は 3 日目の到達時間が偽ばく露群と比較して有意に短い結果が得られたが、4 日及び 5日目の到達時間に明らかな差がみられなかったことから、3 日目の有意差は偶発的な変

化と考えられた。テスト試行では、F1動物雄の高ばく露群で、目標台の設置してあった

4 分円での滞在時間が有意な高値を示したが、電波ばく露による悪影響を示す変動では

ないと考えられた。また、F3

F

動物雌の高ばく露群で、横断回数が偽ばく露群と比較して

有意な低値を示したが、目標台区画での滞在時間は他の群と同程度であることから、電

波ばく露の影響ではないと判断した。

1及びF2

剖検時に実施した肉眼的病理学検査では、F

動物で実施した生殖能力検査では、いずれにおいても電波ばく露の影響は

みられなかった。

1、F2及びF3

その他、器官重量及びF

とも種々の変化がみられた

がいずれも低頻度であり、この種の動物では通常みられる変化であることから、電波ば

く露の影響ではないと判断した。

3

以上の結果から、2.14GHz 高周波電波を妊娠・授乳期から生後 6 週齢に至るまで全身

ばく露することによる、児動物の多世代にわたる脳の発達・機能への影響について検討

した結果、発育、行動、学習・記憶及び生殖機能のいずれに対しても、電波ばく露の影

響はみられないと結論した。

動物で実施した脳の病理組織学的検査では、雌雄ともに電波

ばく露の影響はみられなかった。

123

TABLE P-3 (CONTROL)MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENTAND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSREPRODUCTIVE FINDINGS DATA OF DAMS (MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801 (GROUP 1)

GROUP NO. ---- A BTREATMENT -- Sham ShamLEVEL(W/kg) -- 0 0

No. of dams 4 4No. of implantations 14.0 ± 1.6 13.3 ± 0.5No. of delivered per litter 12.3 ± 1.7 13.0 ± 0.0

TABLE P-1 (CONTROL)MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF DAMS (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801 (GROUP 1)

GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 7 14 17 20A Sham 0 280.0 ± 16.3 319.8 ± 34.0 350.5 ± 39.5 391.0 ± 41.3

B Sham 0 273.0 ± 8.5 317.8 ± 9.4 342.5 ± 11.1 385.8 ± 11.6

GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 0 4 7 14 21A Sham 0 294.0 ± 47.8 330.8 ± 38.9 339.5 ± 41.3 342.8 ± 46.9 319.0 ± 38.9

B Sham 0 290.0 ± 16.3 326.8 ± 15.2 327.8 ± 8.0 338.8 ± 12.0 309.0 ± 9.9

TABLE P-2 (CONTROL)MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF DAMS (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801 (GROUP 1)

GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 7-8 13-14 16-17 19-20A Sham 0 20.25 ± 2.50 21.75 ± 3.59 22.25 ± 4.72 20.75 ± 3.77

B Sham 0 21.50 ± 2.08 21.00 ± 2.83 23.25 ± 2.63 21.75 ± 2.50

GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 3-4 6-7 13-14 20-21A Sham 0 43.75 ± 7.09 45.75 ± 6.18 54.75 ± 3.59 89.25 ± 10.69

B Sham 0 44.25 ± 4.11 47.00 ± 1.83 59.75 ± 5.80 95.00 ± 10.17

Days of pregnancy

Days of lactation

Days of pregnancy

Days of lactation

124

TABLE P-1MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF DAMSSTUDY NO. 0801DURATION (DAYS) : GESTATION PERIOD (7-24)

GROUP TREATMENT LEVEL SIGNSNO. (W/kg) AND SYMPTOMS 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

1 Sham 0 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8

2 Low <0.08 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 1 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 1

3 High <0.24 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 1 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 7 1

GESTATION PERIOD (DAYS)

TABLE P-2MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF DAMS (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 7 14 17 20

1 Sham 0 8 276.5 ± 12.6 318.8 ± 23.2 346.5 ± 27.2 388.4 ± 28.22 Low <0.08 8 283.1 ± 11.9 321.4 ± 20.5 349.4 ± 21.6 392.3 ± 29.23 High <0.24 8 273.3 ± 18.2 321.1 ± 16.3 351.5 ± 20.9 398.1 ± 23.7

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 0 4 7 14 21

1 Sham 0 8 292.0 ± 33.1 328.8 ± 27.4 333.6 ± 28.2 340.8 ± 31.8 314.0 ± 26.82 Low <0.08 8 300.3 ± 23.3 327.8 ± 19.7 333.8 ± 21.8 338.5 ± 20.9 312.9 ± 12.53 High <0.24 8 290.3 ± 15.5 324.3 ± 14.8 329.8 ± 17.0 339.8 ± 17.3 312.6 ± 20.6

Days of lactation

Days of gestation

TABLE P-3MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENTAND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF DAMS (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ------ 1 2 3TREATMENT ---- Sham Low HighLEVEL (W/kg) --- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 8 8 8Days of gestation

7-8 20.88 ± 2.23 20.38 ± 4.10 19.63 ± 2.1313-14 21.38 ± 3.02 22.13 ± 4.12 21.50 ± 2.8316-17 22.75 ± 3.58 24.13 ± 4.22 23.75 ± 4.5319-20 21.25 ± 3.01 27.38 ± 12.57 21.38 ± 3.54

Days of lactation3-4 44.00 ± 5.37 42.75 ± 15.79 40.88 ± 4.646-7 46.38 ± 4.27 45.25 ± 16.02 43.25 ± 4.68

13-14 57.25 ± 5.20 55.00 ± 11.19 57.25 ± 5.6820-21 92.13 ± 10.13 89.25 ± 10.40 86.13 ± 9.17

TABLE P-5MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGROSS PATHOLOGY DATA OF DAMSSTUDY NO. 0801ORGAN GROUP NO. ---------- 1 2 3 AND TREATMENT -------- Sham Low High FINDINGS LEVEL(W/kg) -------- 0 <0.08 <0.24

No. of examined ----- 8 8 8

Not remarkable 6 7 5

Kidney : Hydronephrosis/Unilateral 0 0 1

Uterus : Dilatation/Horn 2 1 2

TABLE P-4MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSREPRODUCTIVE FINDINGS DATA OF DAMS (MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 8 8 8Gestation period 22.0 ± 0.0 22.1 ± 0.4 22.1 ± 0.4No. of implantations 13.6 ± 1.2 12.3 ± 4.5 14.5 ± 2.1Delivery indexa (%) 100 100 100Live birth indexb 93.6 ± 12.8 95.0 ± 8.5 94.0 ± 4.3No. of delivered per litter 12.6 ± 1.2 11.5 ± 4.0 13.6 ± 2.0No. of live offsprings per litter 12.6 ± 1.2 11.5 ± 4.0 13.6 ± 2.0No. of dead offsprings per litter 0.0 ± 0.0 0.0 ± 0.0 0.0 ± 0.0Sex ratioc 46.9 ± 9.6 65.1 ± 18.7 50.1 ± 23.8No. of live offsprings with external abnormalities (%) 0(0.0 ± 0.0) 0(0.0 ± 0.0) 0(0.0 ± 0.0)

a : (No. of dams / No. of pregnancies) × 100b : (No. of live offsprings / No. of implantation site) × 100c : (No. of live male offsprings / No. of live offsprings) × 100

TABLE P-6MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN WEIGHT DATA OF DAMS (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Body Brain Pituitary ThyroidsNO. (W/kg) EXAMINED weight

1 Sham 0 8 308.6 ± 27.5 1.9489 ± 0.0511 0.0160 ± 0.0031 0.0189 ± 0.00522 Low <0.08 8 314.4 ± 15.8 1.9646 ± 0.0882 0.0173 ± 0.0020 0.0181 ± 0.00213 High <0.24 8 313.6 ± 14.3 1.9583 ± 0.0907 0.0161 ± 0.0022 0.0220 ± 0.0022

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 1.2043 ± 0.0835 1.1043 ± 0.0791 0.2270 ± 0.06482 Low <0.08 8 1.1623 ± 0.0484 1.1213 ± 0.0947 0.2696 ± 0.10033 High <0.24 8 1.2113 ± 0.0709 1.1563 ± 0.1023 0.2446 ± 0.0677

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 13.1306 ± 1.5435 1.9781 ± 0.1366 0.5744 ± 0.08242 Low <0.08 8 14.4044 ± 1.3125 2.0879 ± 0.0904 0.5673 ± 0.06633 High <0.24 8 14.1656 ± 1.4728 2.0336 ± 0.1169 0.5704 ± 0.0822

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.0663 ± 0.0123 0.1333 ± 0.0246 0.5484 ± 0.09882 Low <0.08 8 0.0673 ± 0.0061 0.1304 ± 0.0150 0.4671 ± 0.19863 High <0.24 8 0.0634 ± 0.0077 0.1326 ± 0.0158 0.5370 ± 0.1117

TABLE P-7MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN TO BODY WEIGHT RATIO DATA OF DAMS (G/100G BW, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Brain Pituitary ThyroidsNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.6360 ± 0.0566 0.0051 ± 0.0010 0.0063 ± 0.00212 Low <0.08 8 0.6256 ± 0.0294 0.0058 ± 0.0007 0.0058 ± 0.00093 High <0.24 8 0.6256 ± 0.0416 0.0051 ± 0.0006 0.0069 ± 0.0010

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.3915 ± 0.0289 0.3590 ± 0.0270 0.0735 ± 0.02092 Low <0.08 8 0.3701 ± 0.0155 0.3565 ± 0.0203 0.0850 ± 0.02903 High <0.24 8 0.3868 ± 0.0256 0.3693 ± 0.0346 0.0778 ± 0.0198

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 4.2528 ± 0.3064 0.6433 ± 0.0454 0.1856 ± 0.01302 Low <0.08 8 4.5938 ± 0.4944 0.6645 ± 0.0181 0.1801 ± 0.01833 High <0.24 8 4.5070 ± 0.2837 0.6493 ± 0.0411 0.1820 ± 0.0276

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.0215 ± 0.0033 0.0431 ± 0.0066 0.1789 ± 0.03632 Low <0.08 8 0.0213 ± 0.0018 0.0416 ± 0.0062 0.1476 ± 0.05853 High <0.24 8 0.0204 ± 0.0027 0.0423 ± 0.0041 0.1715 ± 0.0362

125

TABLE F1-1MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF OFFSPRING DURING LACTATION PERIOD (F1)STUDY NO. 0801DURATION (DAYS) : LACTATION PERIOD (4-21)SEX GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS AND SYMPTOMS

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21MALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32

2 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 28 28 28 28 28 28 28 28Emaciation 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 4 4 4 4 4 4 4

3 High <0.24 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32

FEMALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 322 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 28 28 28 28 28 28 28 28

Emaciation 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 4 4 4 4 4 4 43 High <0.24 Normal 32 31 31 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32

Swelling/Hindlimb (R) 0 1 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

POSTNATAL DAY

TABLE F1-2MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F1)STUDY NO. 0801DURATION (WEEKS) : 4-18SEX GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS AND SYMPTOMS

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18MALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 16 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 16 162 Low <0.08 Normal 28 28 28 28 28 28 28 28 14 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 14 14Except 4a 0 0 0 0 0 0 0 0 0

3 High <0.24 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 16 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 16 16

FEMALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 16 8 8 8 8 8 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 16 8 0 0 0 0 8

2 Low <0.08 Normal 28 28 28 28 28 28 28 28 14 8 8 8 8 8 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 13 6 0 0 0 0 8Except 4a 0 0 0 0 0 0 0 1b 0 0 0 0 0 0

3 High <0.24 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 15 7 7 7 7 7 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 16 8 0 0 0 0 7Except 0 0 0 0 0 0 0 0 1c 0 0 0 0 0 0

a : Four offsprings were excepted due to underdevelopment.b : One animal used for the mating.c : A dam was not delivered of offsprings.

WEEKS

TABLE F1-3MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF OFFSPRING DURING LACTATION PERIOD (F1) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL

NO. (W/kg) 0 4 7 14 21MALE 1 Sham 0 6.72 ± 0.48 11.31 ± 0.44 18.53 ± 0.82 37.85 ± 1.03 63.14 ± 1.05

(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)2 Low <0.08 6.68 ± 0.50 11.80 ± 0.29 19.27 ± 0.34 38.56 ± 0.66 64.59 ± 0.62

(n=7) (n=7) (n=7) (n=7) (n=7)3 High <0.24 6.74 ± 0.85 11.18 ± 0.33 18.62 ± 1.96 38.68 ± 0.61 63.40 ± 1.51

(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)

FEMALE 1 Sham 0 6.27 ± 0.63 10.88 ± 0.34 17.78 ± 0.45 37.12 ± 0.51 61.72 ± 1.01(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)

2 Low <0.08 6.12 ± 0.53 11.14 ± 0.26 18.18 ± 0.47 37.40 ± 0.85 62.28 ± 1.37(n=7) (n=7) (n=7) (n=7) (n=7)

3 High <0.24 6.25 ± 0.75 10.97 ± 0.36 17.83 ± 0.43 37.28 ± 0.65 60.40 ± 1.21(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)

n = No. of litter

Postnatal day

TABLE F1-4MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F1) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF

NO. (W/kg) EXAMINED 4 5 6 7 8MALE 1 Sham 0 32 110.6 ± 10.9 171.1 ± 16.7 231.7 ± 20.9 305.8 ± 24.0 372.8 ± 29.1

2 Low <0.08 28 113.4 ± 6.9 175.8 ± 10.0 236.9 ± 13.7 312.3 ± 18.6 374.5 ± 23.73 High <0.24 32 109.0 ± 10.1 171.0 ± 15.3 236.5 ± 19.0 308.7 ± 23.8 380.0 ± 29.0

FEMALE 1 Sham 0 32 100.8 ± 7.5 145.0 ± 12.5 176.9 ± 13.9 211.8 ± 18.6 237.0 ± 19.52 Low <0.08 28 102.3 ± 6.0 147.0 ± 8.7 177.8 ± 9.6 212.3 ± 12.0 240.1 ± 13.23 High <0.24 32 100.1 ± 10.0 147.1 ± 12.5 183.0 ± 13.0 219.1 ± 13.0 244.7 ± 15.9

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 9 10 11

MALE 1 Sham 0 32 422.8 ± 37.2 461.9 ± 43.7 488.6 ± 46.22 Low <0.08 28 419.0 ± 27.5 455.8 ± 36.7 479.1 ± 39.53 High <0.24 32 434.1 ± 34.2 477.7 ± 42.5 508.6 ± 44.7

FEMALE 1 Sham 0 32 257.8 ± 21.9 273.3 ± 24.7 284.8 ± 28.22 Low <0.08 28 261.6 ± 17.3 279.6 ± 19.6 292.4 ± 22.33 High <0.24 32 266.9 ± 18.6 285.8 ± 19.6 298.4 ± 20.6

Weeks

Weeks

TABLE F1-5MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F1) (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8MALE 1 Sham 0 17.15 ± 2.06 20.56 ± 2.55 22.64 ± 1.88 27.64 ± 2.19 29.46 ± 2.59

2 Low <0.08 16.31 ± 1.66 19.44 ± 1.09 22.50 ± 1.50 28.36 ± 2.32 29.86 ± 2.493 High <0.24 18.21 ± 3.58 19.78 ± 1.30 21.96 ± 1.18 28.16 ± 2.39 30.61 ± 2.66

FEMALE 1 Sham 0 20.63 ± 4.12 20.94 ± 3.52 20.86 ± 3.21 17.98 ± 1.68 18.26 ± 1.142 Low <0.08 19.01 ± 2.73 19.91 ± 2.64 19.63 ± 2.49 18.32 ± 2.00 18.64 ± 1.453 High <0.24 19.41 ± 4.53 19.45 ± 3.74 19.35 ± 3.20 18.96 ± 1.81 18.53 ± 1.67

SEX GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 9 10 11

MALE 1 Sham 0 29.06 ± 3.06 28.41 ± 2.76 27.53 ± 2.642 Low <0.08 29.16 ± 2.40 28.58 ± 2.38 27.42 ± 2.323 High <0.24 30.56 ± 2.67 30.24 ± 2.45 29.08 ± 2.41

FEMALE 1 Sham 0 19.06 ± 1.89 18.64 ± 2.46 18.19 ± 2.302 Low <0.08 19.69 ± 1.79 19.31 ± 1.94 19.68 ± 1.993 High <0.24 19.17 ± 1.31 19.95 ± 1.25 19.29 ± 1.35

Weeks

Weeks

126

TABLE F1-6MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSVIABILITY INDEX OF OFFSPRING (F1)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 8 8 8Before culling

No. of live offsprings on day 0 101 92 109 (Mean ± S.D.) 12.6 ± 1.2 11.5 ± 4.0 13.6 ± 2.0No. of live offsprings on day 4 101 89 108 (Mean ± S.D.) 12.6 ± 1.2 11.1 ± 3.9 13.5 ± 2.0Viability index (%, Mean ± S.D.)a 100.0 ± 0.0 97.3 ± 5.5 99.1 ± 2.5

After cullingNo. of live offsprings on day 4 64 64 64 (Mean ± S.D.) 8.0 ± 0.0 8.0 ± 0.0 8.0 ± 0.0No. of live offsprings on day 21 64 64 64 (Mean ± S.D.) 8.0 ± 0.0 8.0 ± 0.0 8.0 ± 0.0Weaning index (%, Mean ± S.D.)b 100.0 ± 0.0 100.0 ± 0.0 100.0 ± 0.0

a : (No. of live offsprings on day 4 / No. of offsprings on day 0) × 100b : (No. of live offsprings on day 21 / No. of offsprings on day 4) × 100

TABLE F1-7MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFUNCTIONAL DEVELOPMENT OF OFFSPRING (F1)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of offspring examined (litter) --- 64(8) 56(7)b 64(8)

Response to paina PND 5 100 100 100Pinna reflexa 14 100 98 100

15 - 100 -Preyer's reflexa 14 100 100 100Corneal reflexa 21 100 100 100Pupillary reflexa 21 100 100 99

22 - - 9923 - - 100

Mid-air righting reflexa 13 63 72 6014 74 80 8815 91  100* 9616 97 90 8817 100 100 9918 99 98 9719 100 100 100

Righting reflex on surfacea 6 89 81 837 95 88 968 97 90 949 99 98 97

10 99 100 94Negative geotaxis (sec) 6 25.9±2.0 25.9±2.5 24.9±1.6

7 20.4±3.7 25.0±4.0 21.1±4.68 15.9±3.9 19.6±5.7 18.3±5.19 12.9±3.7 16.0±2.8 15.3±5.3

10 12.9±3.0 12.6±4.9 12.8±4.311 12.6±3.5 13.6±2.4 12.5±3.912 12.7±4.8 12.7±4.8 11.9±3.2

PND : Postnatal daya : Each valve shows mean percentage offspring exhibiting positive response.b : Eight offspring were omitted from the evaluation due to underdevelopment.* : Significantly different from control group at P<0.05.

TABLE F1-9MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSWATER MAZE TEST OF OFFSPRING - HIDDEN PLATFORM TEST (F1)STUDY NO. 0801

SEX --------------GROUP NO. ---- 1 2 3 1 2 3

TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined 16 14 16 16 14 16

Latency (sec)a

Day 1 49.49 ± 21.53 44.03 ± 12.29 53.04 ± 14.19 48.38 ± 25.27 54.31 ± 26.48 53.11 ± 16.30Day 2 25.68 ± 15.94 15.99 ± 10.67 25.75 ± 18.78 26.15 ± 13.44 32.49 ± 29.81 24.35 ± 11.35Day 3 18.44 ± 15.03 9.16 ± 5.36 12.43 ± 7.64 18.30 ± 11.21 15.80 ± 6.30 14.60 ± 8.00Day 4 9.39 ± 8.24 10.04 ± 7.74 10.03 ± 5.78 12.00 ± 9.52 13.66 ± 6.78 12.62 ± 8.29Day 5 9.59 ± 7.83 8.93 ± 3.91 11.61 ± 15.34 9.45 ± 5.19 9.59 ± 4.79 10.18 ± 9.57

a : The time required to reach the hidden platform.

FEMALEMALE

TABLE F1-10MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSWATER MAZE TEST OF OFFSPRING - PROVE TEST (F1)STUDY NO. 0801

SEX --------------GROUP NO. ---- 1 2 3 1 2 3

TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined 16 14 16 16 14 16

Crossings of target (number)a

training 3.06 ± 0.77 3.00 ± 1.57 2.75 ± 1.57 3.00 ± 2.03 3.21 ± 2.04 2.63 ± 1.15Time in quadrant (sec)b

Training 22.92 ± 3.80 25.12 ± 4.27 26.75 ± 3.74 ** 27.45 ± 6.55 27.77 ± 5.39 24.99 ± 6.54 Opposite 13.79 ± 3.15 14.18 ± 3.21 13.59 ± 3.38 13.44 ± 3.99 13.59 ± 3.56 14.52 ± 4.52 Adjacent left 12.31 ± 3.54 10.09 ± 5.44 10.10 ± 3.92 9.68 ± 5.07 11.79 ± 3.08 10.14 ± 3.40 Adjacent right 10.98 ± 3.19 10.61 ± 3.36 9.56 ± 3.91 9.43 ± 5.63 6.85 ± 3.12 10.35 ± 4.44a : The number of crossings to the previous goal area.b : Times spent in each quadrant of the water pool.** : Significantly different from control group at P<0.01.

FEMALEMALE

TABLE F1-8MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSOPEN FIELD TEST OF OFFSPRING STUDY NO. 0801 1ST DAY (F1)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 16 305.7 ± 55.3 2.75 ± 3.19 39.8 ± 8.2 2.8 ± 2.0 2.2 ± 2.3 1.7 ± 1.2

2 Low <0.08 14 334.1 ± 42.7 2.93 ± 2.84 43.1 ± 15.0 1.4 ± 1.0 1.6 ± 2.3 1.9 ± 1.23 High <0.24 16 324.3 ± 66.4 1.60 ± 1.86 38.8 ± 10.1 2.4 ± 1.3 2.2 ± 1.9 1.9 ± 1.0

FEMALE 1 Sham 0 16 344.9 ± 47.3 1.64 ± 1.42 51.9 ± 10.2 3.5 ± 2.4 0.3 ± 0.6 1.2 ± 1.32 Low <0.08 14 318.5 ± 51.4 2.11 ± 2.30 48.8 ± 16.2 2.7 ± 1.8 0.6 ± 1.9 1.1 ± 1.03 High <0.24 16 344.1 ± 44.8 1.47 ± 1.53 51.5 ± 12.8 1.9 ± 2.2 0.8 ± 2.5 1.0 ± 1.1

STUDY NO. 0801 2ND DAY (F1)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 16 244.4 ± 62.5 0.76 ± 0.57 26.0 ± 11.6 2.8 ± 1.9 1.8 ± 1.3 1.3 ± 1.1

2 Low <0.08 14 269.8 ± 79.3 0.73 ± 0.41 32.1 ± 15.2 3.0 ± 2.3 1.4 ± 1.6 1.0 ± 1.23 High <0.24 16 245.9 ± 69.2 0.80 ± 0.63 23.0 ± 6.8 2.6 ± 1.2 2.6 ± 1.8 1.2 ± 1.1

FEMALE 1 Sham 0 16 277.9 ± 57.7 0.98 ± 0.83 35.3 ± 10.0 4.1 ± 2.8 1.2 ± 1.6 0.8 ± 0.92 Low <0.08 14 275.3 ± 51.5 1.19 ± 1.22 33.6 ± 11.3 2.8 ± 2.3 0.4 ± 1.1 0.5 ± 0.53 High <0.24 16 291.4 ± 54.9 0.98 ± 0.90 39.0 ± 13.2 2.9 ± 1.8 1.2 ± 2.1 0.9 ± 0.8

STUDY NO. 0801 3RD DAY (F1)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 16 187.3 ± 69.7 0.90 ± 0.44 17.8 ± 8.7 3.3 ± 2.1 2.1 ± 1.6 1.3 ± 1.1

2 Low <0.08 14 215.8 ± 79.2 0.76 ± 0.37 22.3 ± 12.5 2.6 ± 2.1 2.2 ± 2.2 0.8 ± 0.93 High <0.24 16 205.4 ± 64.7 0.69 ± 0.25 17.3 ± 7.8 4.0 ± 2.1 2.6 ± 2.2 1.1 ± 1.1

FEMALE 1 Sham 0 16 240.1 ± 72.8 0.84 ± 0.50 26.3 ± 11.3 3.8 ± 2.8 1.6 ± 2.8 0.9 ± 1.02 Low <0.08 14 269.3 ± 67.9 1.07 ± 0.67 28.9 ± 10.1 2.6 ± 1.9 0.6 ± 1.7 0.2 ± 0.43 High <0.24 16 269.8 ± 63.2 0.96 ± 0.59 30.0 ± 13.5 3.4 ± 1.9 1.4 ± 2.2 0.8 ± 1.1

a : Number of squares crossed for 10 minutes.

127

TABLE F1-11MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGROSS PATHOLOGY DATA OF OFFSPRING (F1)STUDY NO. 0801ORGAN SEX --------------------- AND GROUP NO. ----------- 1 2 3 1 2 3 FINDINGS TREATMENT -------- Sham Low High Sham Low High

LEVEL (W/kg) ------- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined ----- 16 14 16 16 13a 16

Not remarkable 16 13 16 15 10 14

Kidney : Hydronephrosis/Unilateral 0 1 0 0 0 0

Uterus : Dilatation/Horn - - - 1 3 2

a : One animal was used for the mating.

FEMALEMALE

TABLE F1-12MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN WEIGHT DATA OF OFFSPRING ( F1) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Body Brain Pituitary Thyroids

NO. (W/kg) EXAMINED weightMALE 1 Sham 0 16 498.2 ± 50.4 2.1266 ± 0.1190 0.0143 ± 0.0025 0.0341 ± 0.0067

2 Low <0.08 14 471.1 ± 37.0 2.1061 ± 0.1431 0.0144 ± 0.0013 0.0309 ± 0.00783 High <0.24 16 510.4 ± 49.1 2.0765 ± 0.0718 0.0145 ± 0.0012 0.0324 ± 0.0059

FEMALE 1 Sham 0 16 293.9 ± 32.1 1.9699 ± 0.1174 0.0164 ± 0.0029 0.0263 ± 0.00642 Low <0.08 13a 298.2 ± 17.0 1.9692 ± 0.0839 0.0178 ± 0.0029 0.0253 ± 0.00533 High <0.24 16 300.7 ± 22.5 1.9726 ± 0.0720 0.0167 ± 0.0025 0.0246 ± 0.0055

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 1.4473 ± 0.1057 1.4573 ± 0.1079 0.4496 ± 0.09002 Low <0.08 14 1.3871 ± 0.0906 1.4808 ± 0.1401 0.4851 ± 0.07733 High <0.24 16 1.4816 ± 0.1415 1.5344 ± 0.1655 0.4519 ± 0.0982

FEMALE 1 Sham 0 16 1.1203 ± 0.1195 0.9734 ± 0.0974 0.4381 ± 0.08492 Low <0.08 13a 1.1021 ± 0.0670 1.0376 ± 0.0739 0.4750 ± 0.07123 High <0.24 16 1.1303 ± 0.0746 1.0271 ± 0.0783 0.4167 ± 0.0895

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 18.9193 ± 3.3677 3.0321 ± 0.2614 0.7691 ± 0.06242 Low <0.08 14 17.7799 ± 2.3039 3.1961 ± 0.2291 0.7666 ± 0.11153 High <0.24 16 20.2776 ± 3.7172 3.2136 ± 0.4929 0.7993 ± 0.1299

FEMALE 1 Sham 0 16 10.2893 ± 1.5733 1.9095 ± 0.2335 0.5546 ± 0.06522 Low <0.08 13a 10.6690 ± 1.1171 1.9722 ± 0.1906 0.5565 ± 0.06123 High <0.24 16 10.5394 ± 1.4927 1.9154 ± 0.1447 0.5228 ± 0.0756

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Testes EpididymidesNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 0.0626 ± 0.0101 3.4309 ± 0.2907 1.0892 ± 0.10182 Low <0.08 14 0.0631 ± 0.0123 3.5147 ± 0.2049 1.1239 ± 0.13023 High <0.24 16 0.0604 ± 0.0110 3.5569 ± 0.2555 1.0953 ± 0.0584

FEMALE 1 Sham 0 16 0.0706 ± 0.0067 - -2 Low <0.08 13a 0.0751 ± 0.0089 - -3 High <0.24 16 0.0696 ± 0.0080 - -

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ventral Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED prostate

MALE 1 Sham 0 16 0.9335 ± 0.1381 - -2 Low <0.08 14 0.8779 ± 0.2032 - -3 High <0.24 16 0.8450 ± 0.1695 - -

FEMALE 1 Sham 0 16 - 0.1304 ± 0.0172 0.4401 ± 0.10542 Low <0.08 13a - 0.1375 ± 0.0304 0.4824 ± 0.13943 High <0.24 16 - 0.1349 ± 0.0259 0.4486 ± 0.1257

a : One animal was used for the mating.

TABLE F1-13MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN TO BODY WEIGHT RATIO DATA OF OFFSPRING ( F1) (G/100G BW, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Brain Pituitary Thyroids

NO. (W/kg) EXAMINEDMALE 1 Sham 0 16 0.4295 ± 0.0334 0.0029 ± 0.0003 0.0068 ± 0.0013

2 Low <0.08 14 0.4486 ± 0.0377 0.0031 ± 0.0005 0.0066 ± 0.00193 High <0.24 16 0.4099 ± 0.0388 * 0.0028 ± 0.0004 0.0064 ± 0.0010

FEMALE 1 Sham 0 16 0.6754 ± 0.0601 0.0056 ± 0.0010 0.0091 ± 0.00212 Low <0.08 13a 0.6621 ± 0.0435 0.0060 ± 0.0012 0.0086 ± 0.00193 High <0.24 16 0.6593 ± 0.0538 0.0056 ± 0.0010 0.0080 ± 0.0019

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 0.2922 ± 0.0240 0.2946 ± 0.0305 0.0915 ± 0.02212 Low <0.08 14 0.2951 ± 0.0164 0.3148 ± 0.0256 0.1033 ± 0.01593 High <0.24 16 0.2908 ± 0.0162 0.3017 ± 0.0295 0.0899 ± 0.0253

FEMALE 1 Sham 0 16 0.3826 ± 0.0325 0.3322 ± 0.0219 0.1499 ± 0.02902 Low <0.08 13a 0.3700 ± 0.0198 0.3483 ± 0.0225 0.1592 ± 0.02053 High <0.24 16 0.3766 ± 0.0163 0.3423 ± 0.0218 0.1394 ± 0.0325

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 3.7758 ± 0.3075 0.6104 ± 0.0358 0.1552 ± 0.01392 Low <0.08 14 3.7649 ± 0.2937 0.6800 ± 0.0444 ** 0.1628 ± 0.01903 High <0.24 16 3.9451 ± 0.4114 0.6280 ± 0.0555 * 0.1571 ± 0.0244

FEMALE 1 Sham 0 16 3.4891 ± 0.1967 0.6501 ± 0.0428 0.1893 ± 0.01672 Low <0.08 13a 3.5738 ± 0.2613 0.6608 ± 0.0427 0.1870 ± 0.01993 High <0.24 16 3.4916 ± 0.3035 0.6391 ± 0.0524 0.1744 ± 0.0255

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Testes EpididymidesNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 0.0125 ± 0.0018 0.6936 ± 0.0769 0.2201 ± 0.02482 Low <0.08 14 0.0134 ± 0.0027 0.7490 ± 0.0552 0.2394 ± 0.02943 High <0.24 16 0.0120 ± 0.0017 0.7007 ± 0.0598 0.2162 ± 0.0211

FEMALE 1 Sham 0 16 0.0242 ± 0.0030 - -2 Low <0.08 13a 0.0252 ± 0.0026 - -3 High <0.24 16 0.0233 ± 0.0031 - -

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ventral Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED prostate

MALE 1 Sham 0 16 0.1886 ± 0.0311 - -2 Low <0.08 14 0.1854 ± 0.0347 - -3 High <0.24 16 0.1648 ± 0.0235 - -

FEMALE 1 Sham 0 16 - 0.0446 ± 0.0064 0.1529 ± 0.04992 Low <0.08 13a - 0.0462 ± 0.0104 0.1625 ± 0.04943 High <0.24 16 - 0.0451 ± 0.0097 0.1502 ± 0.0431

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.a : One animal was used for the mating.

128

TABLE F1-14MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF DAMS (F1)STUDY NO. 0801DURATION (DAYS) : GESTATION PERIOD (7-23)

GROUP TREATMENT LEVEL SIGNSNO. (W/kg) AND SYMPTOMS 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

1 Sham 0 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 2 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6 2

2 Low <0.08 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 2 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 6 2

3 High <0.24 Normal 7a 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 2 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 2

a : A dam was excepted since delivery was not confirmed.

DURATION (DAYS) : LACTATION PERIOD (0-21)GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS

NO. (W/kg) AND SYMPTOMS 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 181 Sham 0 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 82 Low <0.08 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 83 High <0.24 Normal 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7

GESTATION PERIOD (DAYS)

LACTATION PERIOD (DAYS)

TABLE F1-15MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF DAMS (F1) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 0 7 14 17 20

1 Sham 0 8 290.1 ± 28.4 332.1 ± 33.6 366.6 ± 32.4 398.1 ± 34.1 441.9 ± 38.62 Low <0.08 8 281.4 ± 12.6 319.9 ± 16.7 356.5 ± 20.0 387.6 ± 22.6 434.9 ± 25.33 High <0.24 7 295.7 ± 16.0 333.4 ± 16.9 363.9 ± 17.4 388.3 ± 18.6 431.7 ± 20.5

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 0 4 7 14 21

1 Sham 0 8 341.5 ± 42.2 364.1 ± 37.8 370.0 ± 33.7 372.9 ± 35.0 343.4 ± 23.72 Low <0.08 8 328.1 ± 25.5 349.6 ± 24.5 355.0 ± 21.6 355.3 ± 20.2 332.8 ± 17.63 High <0.24 7 339.3 ± 28.7 360.6 ± 19.1 365.7 ± 23.7 367.7 ± 20.2 339.4 ± 11.7

Days of lactation

Days of gestation

TABLE F1-16MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENTAND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF DAMS (F1) (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ------ 1 2 3TREATMENT ---- Sham Low HighLEVEL (W/kg) --- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 8 8 7Days of gestation

7-8 33.25 ± 5.95 31.50 ± 6.78 25.50 ± 3.0213-14 31.75 ± 13.33 28.63 ± 8.67 24.33 ± 5.5416-17 28.25 ± 6.88 27.63 ± 5.76 24.71 ± 4.2319-20 27.63 ± 12.22 23.88 ± 2.95 21.57 ± 3.36

Days of lactation3-4 43.29 ± 7.25 42.00 ± 6.19 45.00 ± 12.236-7 48.63 ± 15.12 40.71 ± 3.15 40.86 ± 6.23

13-14 59.88 ± 9.76 56.38 ± 6.70 60.43 ± 9.9020-21 87.25 ± 11.79 87.63 ± 7.74 91.57 ± 7.70

TABLE F1-17MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSESTRUS CYCLE DATA OF DAMS (F1)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF No. of animals

NO. (W/kg) EXAMINED with normal Total Persistent Prolongationc Othersd

estrus cyclea No. estrusb

FEMALE 1 Sham 0 16 15 1 0 0 12 Low <0.08 14 11 3 1 1 13 High <0.24 16 12 4 0 2 2

a: Estrus cycles showed regularly at 4 or 5 days interval.b: Estrus showed persistently for over 3 days.c: Estrus cycles showed at 6 day or longer interval.d: Estrus cycles showed abnormalities other than b and c.

No. of animals with abnormal estrus cycle

TABLE F1-18MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENTAND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSMALE AND FEMALE FERTILITY DATA OF DAMS (F1)

STUDY NO. 0801SEX ----------------GROUP NO. ------ 1 2 3

TREATMENT ---- Sham Low HighLEVEL (W/kg) --- 0 <0.08 <0.24

No. of males examined 16 14 16No. of males with successful copulation 16 14 16Copulation index (%)a 100 100 100

No. of females examined 16 14 16No. of females with successful copulation 16 14 16Copulation index (%)a 100 100 100Fertility index (%)b, c 100 100 94

No. of days for copulation 2.9 ± 1.1 2.3 ± 1.2 2.3 ± 1.2a : No. of offspring with successful copulation / No. of mated offspring × 100b : No. of pregnant offspring / No. of offspring with successful copulation × 100c : Data was calculated using exposured rats (n=8).

FEMALE

TABLE F1-19MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSREPRODUCTIVE FINDINGS DATA OF DAMS (F1) (MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 8 8 7Gestation period 22.3 ± 0.5 22.3 ± 0.5 22.3 ± 0.5No. of implantations 14.1 ± 1.6 14.8 ± 2.8 13.7 ± 3.6Delivery indexa (%) 100 100 100Live birth indexb (%) 95.1 ± 6.3 88.4 ± 16.2 90.7 ± 8.7No. of delivered per litter 13.5 ± 2.1 13.5 ± 3.1 12.6 ± 3.3No. of live offsprings per litter 13.5 ± 2.1 13.0 ± 3.4 12.3 ± 3.1No. of dead offsprings per litter 0.0 ± 0.0 0.5 ± 1.1 0.3 ± 0.8Sex ratioc 55.5 ± 12.0 54.1 ± 19.9 52.7 ± 14.3No. of live offsprings with external abnormalities (%) 0(0.0 ± 0.0) 0(0.0 ± 0.0) 0(0.0 ± 0.0)

a : (No. of dams / No. of pregnancies) × 100b : (No. of live offsprings / No. of implantation site) × 100c : (No. of live male offsprings / No. of live offsprings) × 100

129

TABLE F1-20MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGROSS PATHOLOGY DATA OF DAMS FOR MATING (F1)STUDY NO. 0801ORGAN SEX --------------------- AND GROUP NO. ----------- 1 2 3 1 2 3 FINDINGS TREATMENT -------- Sham Low High Sham Low High

LEVEL (W/kg) ------- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined ----- 16 14 16 16 14 16

Not remarkable 16 14 16 16 14 16

FEMALEMALE

TABLE F1-21MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN WEIGHT DATA OF DAMS (F1) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Body Brain Pituitary ThyroidsNO. (W/kg) EXAMINED weight

1 Sham 0 8 340.8 ± 32.7 2.0645 ± 0.0795 0.0188 ± 0.0019 0.0256 ± 0.00272 Low <0.08 8 324.6 ± 18.1 2.0698 ± 0.1217 0.0194 ± 0.0007 0.0230 ± 0.00193 High <0.24 7 335.0 ± 12.7 2.0280 ± 0.1028 0.0171 ± 0.0024 0.0243 ± 0.0045

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 1.2540 ± 0.0674 1.2164 ± 0.0589 0.2759 ± 0.08472 Low <0.08 8 1.2209 ± 0.0794 1.1949 ± 0.0922 0.2930 ± 0.08093 High <0.24 7 1.2176 ± 0.0679 1.2020 ± 0.0897 0.2749 ± 0.0778

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 13.8115 ± 1.2717 2.2269 ± 0.1734 0.5756 ± 0.06022 Low <0.08 8 13.5304 ± 1.7549 2.2395 ± 0.1829 0.5948 ± 0.11903 High <0.24 7 13.3984 ± 2.4507 2.1317 ± 0.1314 0.5639 ± 0.0910

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.0676 ± 0.0110 0.1505 ± 0.0160 0.5365 ± 0.13902 Low <0.08 8 0.0708 ± 0.0147 0.1539 ± 0.0264 0.5365 ± 0.13583 High <0.24 7 0.0617 ± 0.0078 0.1487 ± 0.0229 0.5066 ± 0.1724

TABLE F1-22MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN TO BODY WEIGHT RATIO DATA OF DAMS (F1) (G/100G BW, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Brain Pituitary ThyroidsNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.6091 ± 0.0435 0.0056 ± 0.0007 0.0076 ± 0.00112 Low <0.08 8 0.6388 ± 0.0430 0.0059 ± 0.0004 0.0073 ± 0.00073 High <0.24 7 0.6060 ± 0.0397 0.0051 ± 0.0007 0.0071 ± 0.0013

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.3708 ± 0.0361 0.3588 ± 0.0239 0.0804 ± 0.02002 Low <0.08 8 0.3766 ± 0.0266 0.3680 ± 0.0139 0.0901 ± 0.02423 High <0.24 7 0.3636 ± 0.0138 0.3594 ± 0.0317 0.0829 ± 0.0264

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 4.0664 ± 0.3473 0.6549 ± 0.0267 0.1693 ± 0.01042 Low <0.08 8 4.1701 ± 0.5116 0.6919 ± 0.0686 0.1826 ± 0.03023 High <0.24 7 3.9816 ± 0.5793 0.6366 ± 0.0384 0.1691 ± 0.0313

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 8 0.0199 ± 0.0030 0.0444 ± 0.0038 0.1601 ± 0.04872 Low <0.08 8 0.0218 ± 0.0042 0.0474 ± 0.0078 0.1656 ± 0.04133 High <0.24 7 0.0186 ± 0.0024 0.0444 ± 0.0079 0.1520 ± 0.0540

130

TABLE F2-1MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF OFFSPRING DURING LACTATION PERIOD (F2)STUDY NO. 0801DURATION (DAYS) : LACTATION PERIOD (4-21)SEX GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS AND SYMPTOMS

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21MALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32

2 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 323 High <0.24 Normal 28a 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28

FEMALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 322 Low <0.08 Normal 31b 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 313 High <0.24 Normal 28a 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28

a : A dam was not delivered of offspring.b : A offspring died before culling.

POSTNATAL DAY

TABLE F2-2MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F2)STUDY NO. 0801DURATION (WEEKS) : 4-19SEX GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS AND SYMPTOMS

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19MALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 16 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 16 162 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 16 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 15 16Except 0 0 0 0 0 0 0 0 1a 0

3 High <0.24 Normal 28 28 28 28 28 28 28 28 14 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 14 14

FEMALE 1 Sham 0 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 15 7 7 7 7 7 7 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 16 8 0 0 0 0 0 7Except 0 0 0 0 0 0 0 0 1b 0 0 0 0 0 0 0

2 Low <0.08 Normal 31 31 31 31 31 31 31 31 16 8 8 8 8 8 8 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 15 8 0 0 0 0 0 8

3 High <0.24 Normal 28 28 28 28 28 28 28 28 14 8 8 8 8 8 8 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 14 6 0 0 0 0 0 8

a : One animal used for the mating.b : A dam was not delivered of offsprings.

WEEKS

TABLE F2-3MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF OFFSPRING DURING LACTATION PERIOD (F2) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL

NO. (W/kg) 0 4 7 14 21MALE 1 Sham 0 6.84 ± 0.72 11.06 ± 2.12 17.20 ± 3.41 36.37 ± 5.11 61.09 ± 8.09

(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=4)2 Low <0.08 6.70 ± 0.59 11.22 ± 1.79 17.89 ± 2.48 36.95 ± 2.52 62.21 ± 3.95

(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=4)3 High <0.24 6.88 ± 1.29 12.27 ± 2.46 18.88 ± 1.99 38.90 ± 2.53 66.32 ± 5.96

(n=7) (n=7) (n=7) (n=7) (n=4)

FEMALE 1 Sham 0 6.49 ± 0.84 10.88 ± 1.72 17.12 ± 2.65 36.13 ± 3.09 59.93 ± 5.67(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=4)

2 Low <0.08 6.22 ± 0.67 9.92 ± 0.70 16.23 ± 1.63 35.02 ± 1.92 58.50 ± 2.38(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=4)

3 High <0.24 6.30 ± 1.47 11.48 ± 2.52 18.16 ± 2.72 37.18 ± 3.51 62.35 ± 6.34(n=7) (n=7) (n=7) (n=7) (n=4)

n = No. of litter

Postnatal day

TABLE F2-4MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F2) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF

NO. (W/kg) EXAMINED 4 5 6 7 8MALE 1 Sham 0 32 117.8 ± 21.8 178.3 ± 28.1 238.8 ± 33.1 313.3 ± 42.2 378.9 ± 49.5

2 Low <0.08 32 120.7 ± 15.3 181.8 ± 18.2 242.3 ± 21.2 310.6 ± 23.4 371.7 ± 26.43 High <0.24 28a 132.6 ± 9.5 ** 198.9 ± 10.8 ** 260.6 ± 15.0 ** 336.1 ± 17.4 ** 405.3 ± 23.0

FEMALE 1 Sham 0 32 106.3 ± 14.9 148.2 ± 17.2 177.1 ± 20.0 209.8 ± 20.4 232.8 ± 24.22 Low <0.08 31b 106.2 ± 12.6 146.1 ± 13.2 179.3 ± 14.8 208.6 ± 18.3 235.2 ± 22.03 High <0.24 28a 116.9 ± 10.8 ** 162.2 ± 13.0 ** 195.3 ± 17.1 ** 229.4 ± 17.6 ** 254.0 ± 19.3

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 9 10 11

MALE 1 Sham 0 32 427.3 ± 55.0 459.7 ± 58.5 488.9 ± 59.32 Low <0.08 32 414.4 ± 32.4 443.4 ± 36.3 469.1 ± 41.33 High <0.24 28a 455.2 ± 27.2 ** 489.6 ± 29.1 ** 520.5 ± 32.0 **

FEMALE 1 Sham 0 32 252.0 ± 24.8 264.9 ± 26.4 276.7 ± 25.82 Low <0.08 31b 254.9 ± 23.1 270.8 ± 24.4 283.0 ± 26.93 High <0.24 28a 273.0 ± 20.4 ** 287.7 ± 21.5 ** 301.0 ± 21.9 **

** : Significantly different from control group at P<0.01.a : A dam was not delivered of offspring.b : A offspring died before culling.

Weeks

Weeks

TABLE F2-5MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F2) (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8MALE 1 Sham 0 18.78 ± 3.15 20.69 ± 3.98 22.21 ± 2.60 28.34 ± 2.83 30.51 ± 3.14

2 Low <0.08 17.65 ± 2.44 20.13 ± 1.85 21.48 ± 1.18 27.58 ± 1.62 29.24 ± 1.913 High <0.24 20.04 ± 4.48 22.17 ± 1.03 22.50 ± 1.13 29.23 ± 1.67 32.86 ± 2.33 *

FEMALE 1 Sham 0 19.28 ± 3.02 20.38 ± 4.17 21.35 ± 3.78 17.22 ± 1.13 17.85 ± 1.542 Low <0.08 17.01 ± 3.37 18.34 ± 2.83 20.45 ± 4.81 17.21 ± 1.42 18.44 ± 1.893 High <0.24 20.94 ± 4.93 19.79 ± 1.61 21.43 ± 2.43 19.07 ± 1.56 ** 19.62 ± 2.15 *

SEX GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 9 10 11

MALE 1 Sham 0 30.32 ± 3.82 29.53 ± 3.38 28.59 ± 2.552 Low <0.08 28.63 ± 1.77 28.16 ± 1.73 27.97 ± 2.163 High <0.24 32.79 ± 2.28 ** 31.33 ± 2.02 * 31.48 ± 2.23 **

FEMALE 1 Sham 0 18.81 ± 1.99 18.44 ± 1.75 18.46 ± 1.282 Low <0.08 19.44 ± 1.81 19.56 ± 1.44 18.75 ± 2.213 High <0.24 19.41 ± 2.05 19.78 ± 1.97 19.66 ± 1.68

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

Weeks

Weeks

131

TABLE F2-6MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSVIABILITY INDEX OF OFFSPRING (F2)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 8 8 7Before culling

No. of live offsprings on day 0 108 104 86 (Mean ± S.D.) 13.5 ± 2.1 13.0 ± 3.4 12.3 ± 3.1No. of live offsprings on day 4 106 100 86 (Mean ± S.D.) 13.3 ± 2.1 12.5 ± 3.1 12.3 ± 3.1Viability index (%, Mean ± S.D.)a 98.3 ± 3.3 96.8 ± 4.9 100.0 ± 0.0

After cullingNo. of live offsprings on day 4 64 63 56 (Mean ± S.D.) 8.0 ± 0.0 7.9 ± 0.4 8.0 ± 0.0No. of live offsprings on day 21 64 63 56 (Mean ± S.D.) 8.0 ± 0.0 7.9 ± 0.4 8.0 ± 0.0Weaning index (%, Mean ± S.D.)b 100.0 ± 0.0 100.0 ± 0.0 100.0 ± 0.0

a : (No. of live offsprings on day 4 / No. of offsprings on day 0) × 100b : (No. of live offsprings on day 21 / No. of offsprings on day 4) × 100

TABLE F2-7MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFUNCTIONAL DEVELOPMENT OF OFFSPRING (F2)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of offspring examined (litter) --- 64(8) 63(8) 56(7)

Response to paina PND 5 100 100 100Pinna reflexa 14 100 100 100Preyer's reflexa 14 100 100 100Corneal reflexa 21 100 100 100Pupillary reflexa 21 100 100 100Mid-air righting reflexa 13 83 53 66

14 75 80 8815 95 83 9816 94 94 9517 100 99 9518 100 100 10019 100 100 100

Righting reflex on surfacea 6 85 89 867 91 85 918 100 94 959 100 97 90*

10 99 99 97Negative geotaxis (sec) 6 22.2±3.7 24.6±5.4 24.2±2.9

7 18.6±4.6 21.6±5.4 17.9±3.78 13.5±3.9 16.2±3.9 15.6±4.99 12.2±5.3 16.1±7.2 11.6±3.1

10 12.2±1.9 15.2±3.3 13.0±4.611 11.1±2.6 13.2±4.8 11.0±3.412 10.6±3.4 14.8±3.3* 9.8±0.7

PND : Postnatal daya : Each valve shows mean percentage offspring exhibiting positive response.* : Significantly different from control group at P<0.05.

TABLE F2-8MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSOPEN FIELD TEST OF OFFSPRING STUDY NO. 0801 1ST DAY (F2)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 16 290.4 ± 55.5 2.29 ± 2.00 32.6 ± 11.8 1.3 ± 1.3 2.1 ± 3.0 1.1 ± 1.2

2 Low <0.08 16 273.4 ± 40.8 2.17 ± 2.21 32.6 ± 13.3 0.9 ± 1.3 1.5 ± 1.8 1.1 ± 1.23 High <0.24 14 284.4 ± 49.8 2.39 ± 2.52 34.4 ± 10.5 1.0 ± 1.5 1.7 ± 1.7 1.1 ± 1.2

FEMALE 1 Sham 0 16 325.4 ± 57.9 2.14 ± 2.29 49.1 ± 17.3 1.4 ± 1.9 0.1 ± 0.3 0.8 ± 0.92 Low <0.08 16 288.9 ± 41.0 2.51 ± 2.86 45.8 ± 13.8 1.4 ± 1.7 0.0 ± 0.0 0.3 ± 0.63 High <0.24 14 315.7 ± 50.9 2.82 ± 3.98 45.8 ± 9.3 0.9 ± 1.1 0.2 ± 0.8 1.1 ± 1.1

STUDY NO. 0801 2ND DAY (F2)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 16 226.9 ± 85.7 1.08 ± 0.62 24.6 ± 12.7 1.8 ± 1.8 2.8 ± 3.2 0.9 ± 1.3

2 Low <0.08 16 223.5 ± 54.4 1.69 ± 1.70 23.9 ± 9.3 1.2 ± 1.2 3.1 ± 2.5 0.9 ± 1.03 High <0.24 14 238.0 ± 79.7 1.61 ± 2.08 25.6 ± 9.1 1.2 ± 1.7 4.2 ± 3.2 1.1 ± 0.9

FEMALE 1 Sham 0 16 284.1 ± 65.8 0.83 ± 0.50 31.0 ± 8.8 1.5 ± 1.9 0.4 ± 1.1 0.8 ± 0.92 Low <0.08 16 269.8 ± 44.5 0.74 ± 0.42 33.9 ± 10.2 1.2 ± 1.3 0.2 ± 0.8 0.3 ± 0.63 High <0.24 14 279.6 ± 80.8 0.90 ± 0.80 37.8 ± 9.3 1.0 ± 1.0 0.1 ± 0.3 0.9 ± 1.1

STUDY NO. 0801 3RD DAY (F2)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 16 187.3 ± 89.4 0.86 ± 0.93 17.8 ± 11.8 2.4 ± 2.3 2.3 ± 2.3 0.8 ± 0.7

2 Low <0.08 16 204.7 ± 76.5 1.31 ± 1.45 18.4 ± 10.0 1.7 ± 2.1 3.7 ± 3.4 0.8 ± 0.83 High <0.24 14 213.7 ± 100.2 0.78 ± 0.48 19.3 ± 10.0 1.1 ± 1.6 4.6 ± 2.3 0.9 ± 1.1

FEMALE 1 Sham 0 16 266.6 ± 82.7 0.67 ± 0.48 29.5 ± 12.5 2.4 ± 1.9 0.6 ± 1.4 0.7 ± 0.72 Low <0.08 16 238.4 ± 69.6 0.78 ± 0.40 29.3 ± 14.3 1.7 ± 1.3 0.1 ± 0.3 0.4 ± 0.63 High <0.24 14 258.4 ± 86.4 0.61 ± 0.36 34.1 ± 12.5 1.9 ± 1.6 0.7 ± 1.3 1.1 ± 1.0

a : Number of squares crossed for 10 minutes.

TABLE F2-9MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSWATER MAZE TEST OF OFFSPRING - HIDDEN PLATFORM TEST (F2)STUDY NO. 0801

SEX --------------GROUP NO. ---- 1 2 3 1 2 3

TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24

No. of offspring examined 16 16 14 16 16 13b

Latency (sec)a

Day 1 60.18 ± 34.45 48.09 ± 14.75 59.05 ± 15.44 47.84 ± 15.94 69.66 ± 35.46 51.25 ± 11.07Day 2 33.15 ± 18.17 22.81 ± 10.92 31.29 ± 19.71 28.94 ± 20.76 31.78 ± 22.17 23.69 ± 21.98Day 3 17.92 ± 10.99 13.84 ± 10.72 14.80 ± 12.30 15.39 ± 10.93 13.43 ± 6.60 14.45 ± 11.89Day 4 9.69 ± 6.86 12.14 ± 9.70 10.24 ± 7.32 16.00 ± 11.50 14.43 ± 14.41 10.62 ± 5.45Day 5 11.15 ± 7.94 10.43 ± 7.16 8.94 ± 8.31 8.64 ± 7.41 10.78 ± 6.02 12.86 ± 10.40

a : The time required to reach the hidden platform.b : One data was omitted due to malformation.

TABLE F2-10MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSWATER MAZE TEST OF OFFSPRING - PROVE TEST (F2)STUDY NO. 0801

SEX --------------GROUP NO. ---- 1 2 3 1 2 3

TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24

No. of offspring examined 16 16 14 16 16 13c

Crossings of target (number)a

training 3.06 ± 1.81 2.44 ± 2.06 2.29 ± 1.59 2.44 ± 1.46 2.50 ± 1.32 3.46 ± 2.26Time in quadrant (sec)b

Training 23.92 ± 6.27 24.89 ± 7.82 23.68 ± 6.25 24.03 ± 5.94 24.73 ± 5.04 26.64 ± 7.31 Opposite 14.38 ± 4.75 14.28 ± 4.87 14.49 ± 4.58 14.83 ± 5.70 13.97 ± 4.62 14.78 ± 5.92 Adjacent left 10.33 ± 3.61 10.53 ± 4.94 11.11 ± 5.29 10.56 ± 3.71 11.41 ± 3.57 10.86 ± 3.48 Adjacent right 11.38 ± 2.76 10.30 ± 4.34 10.71 ± 3.43 10.58 ± 3.58 9.89 ± 3.31 7.72 ± 3.17a : The number of crossing to the previous goal area.b : Times spent in each quadrant of the water pool.c : One data was omitted due to malformation.

MALE FEMALE

MALE FEMALE

132

TABLE F2-11MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGROSS PATHOLOGY DATA OF OFFSPRING (F2)STUDY NO. 0801ORGAN SEX --------------------- AND GROUP NO. ----------- 1 2 3 1 2 3 FINDINGS TREATMENT -------- Sham Low High Sham Low High

LEVEL (W/kg) ------- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined ----- 16 15a 14 16 15a 14

Not remarkable 14 15 14 15 14 9Spleen : Accessory spleen 1 0 0 0 0 0Stomach : Dark 1 0 0 0 0 0Small intestine : Dark 1 0 0 0 0 0Large intestine : Dark 1 0 0 0 0 0Kidney : Hydronephrosis/Unilateral 0 0 0 0 1 0Testis : Small/Unilateral 1 0 0 - - -Epididymis : Small/Bilateral 1 0 0 - - -Uterus : Dilatation/Horn - - - 1 0 3Vagina : Nodule/Single - - - 0 0 1Brain : Malformation 0 0 0 0 0 1a : One animal was used for the mating.

FEMALEMALE

TABLE F2-12MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN WEIGHT DATA OF OFFSPRING ( F2) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Body Brain Pituitary Thyroids

NO. (W/kg) EXAMINED weightMALE 1 Sham 0 16 483.1 ± 59.3 2.0736 ± 0.1634 0.0138 ± 0.0025 0.0291 ± 0.0064

2 Low <0.08 15a 468.6 ± 32.3 2.1176 ± 0.1428 0.0134 ± 0.0021 0.0238 ± 0.0056 *3 High <0.24 14 515.0 ± 34.0 2.1543 ± 0.0927 0.0140 ± 0.0016 0.0299 ± 0.0063

FEMALE 1 Sham 0 16 284.9 ± 27.0 1.9510 ± 0.0701 0.0145 ± 0.0027 0.0221 ± 0.00422 Low <0.08 15a 288.8 ± 30.4 1.9387 ± 0.1455 0.0141 ± 0.0024 0.0223 ± 0.00263 High <0.24 14 300.1 ± 16.4 1.9281 ± 0.0952 0.0150 ± 0.0020 0.0241 ± 0.0034

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 1.4206 ± 0.1067 1.4458 ± 0.1490 0.4123 ± 0.08412 Low <0.08 15a 1.3696 ± 0.1010 1.4290 ± 0.1036 0.4307 ± 0.11653 High <0.24 14 1.4431 ± 0.0895 1.5135 ± 0.1073 0.4070 ± 0.0732

FEMALE 1 Sham 0 16 1.0763 ± 0.0792 0.9302 ± 0.0887 0.3861 ± 0.07282 Low <0.08 15a 1.0461 ± 0.1085 0.9709 ± 0.0894 0.4421 ± 0.06173 High <0.24 14 1.0706 ± 0.0505 0.9761 ± 0.0721 0.4032 ± 0.1152

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 17.6417 ± 2.0851 3.0668 ± 0.3333 0.8020 ± 0.12712 Low <0.08 15a 17.1240 ± 1.8060 3.1123 ± 0.3117 0.7787 ± 0.08023 High <0.24 14 19.8166 ± 2.5420 ** 3.2976 ± 0.4002 0.8357 ± 0.1292

FEMALE 1 Sham 0 16 9.8673 ± 1.3302 1.8451 ± 0.1764 0.5359 ± 0.08902 Low <0.08 15a 10.1410 ± 1.5878 1.9457 ± 0.2505 0.5471 ± 0.08453 High <0.24 14 10.5174 ± 0.9965 1.9067 ± 0.1401 0.5474 ± 0.0583

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Testes EpididymidesNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 0.0636 ± 0.0127 3.3368 ± 0.3615 1.0888 ± 0.14242 Low <0.08 15a 0.0599 ± 0.0143 3.4461 ± 0.1450 1.1280 ± 0.09933 High <0.24 14 0.0610 ± 0.0070 3.4424 ± 0.2233 1.1463 ± 0.1061

FEMALE 1 Sham 0 16 0.0703 ± 0.0096 - -2 Low <0.08 15a 0.0739 ± 0.0116 - -3 High <0.24 14 0.0698 ± 0.0100 - -

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ventral Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED prostate

MALE 1 Sham 0 16 0.8637 ± 0.2351 - -2 Low <0.08 15a 0.7947 ± 0.1184 - -3 High <0.24 14 0.9174 ± 0.1363 - -

FEMALE 1 Sham 0 16 - 0.1266 ± 0.0195 0.4190 ± 0.10282 Low <0.08 15a - 0.1341 ± 0.0225 0.4281 ± 0.08483 High <0.24 14 - 0.1275 ± 0.0135 0.4845 ± 0.1653

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.a : One animal was used for the mating.

TABLE F2-13MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN TO BODY WEIGHT RATIO DATA OF OFFSPRING ( F2) (G/100G BW, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Brain Pituitary Thyroids

NO. (W/kg) EXAMINEDMALE 1 Sham 0 16 0.4320 ± 0.0292 0.0029 ± 0.0004 0.0061 ± 0.0013

2 Low <0.08 15a 0.4527 ± 0.0273 0.0027 ± 0.0005 0.0049 ± 0.0012 *3 High <0.24 14 0.4200 ± 0.0323 0.0028 ± 0.0004 0.0059 ± 0.0013

FEMALE 1 Sham 0 16 0.6892 ± 0.0515 0.0052 ± 0.0010 0.0079 ± 0.00212 Low <0.08 15a 0.6776 ± 0.0811 0.0050 ± 0.0010 0.0078 ± 0.00093 High <0.24 14 0.6441 ± 0.0434 0.0050 ± 0.0006 0.0080 ± 0.0010

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 0.2961 ± 0.0187 0.3006 ± 0.0200 0.0863 ± 0.01932 Low <0.08 15a 0.2929 ± 0.0215 0.3051 ± 0.0146 0.0914 ± 0.02213 High <0.24 14 0.2809 ± 0.0188 0.2944 ± 0.0200 0.0792 ± 0.0143

FEMALE 1 Sham 0 16 0.3796 ± 0.0293 0.3276 ± 0.0286 0.1363 ± 0.02432 Low <0.08 15a 0.3631 ± 0.0251 0.3374 ± 0.0234 0.1539 ± 0.02123 High <0.24 14 0.3573 ± 0.0193 0.3261 ± 0.0296 0.1349 ± 0.0396

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 3.6606 ± 0.2444 0.6368 ± 0.0330 0.1668 ± 0.02432 Low <0.08 15a 3.6508 ± 0.2435 0.6643 ± 0.0499 0.1667 ± 0.01793 High <0.24 14 3.8366 ± 0.2888 0.6404 ± 0.0652 0.1621 ± 0.0200

FEMALE 1 Sham 0 16 3.4563 ± 0.2537 0.6489 ± 0.0440 0.1886 ± 0.02762 Low <0.08 15a 3.4960 ± 0.2591 0.6745 ± 0.0579 0.1891 ± 0.02003 High <0.24 14 3.5008 ± 0.2248 0.6365 ± 0.0500 0.1827 ± 0.0188

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Testes EpididymidesNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 16 0.0132 ± 0.0019 0.6951 ± 0.0708 0.2259 ± 0.02122 Low <0.08 15a 0.0129 ± 0.0031 0.7383 ± 0.0557 0.2415 ± 0.02233 High <0.24 14 0.0119 ± 0.0018 0.6721 ± 0.0732 0.2239 ± 0.0292

FEMALE 1 Sham 0 16 0.0247 ± 0.0031 - -2 Low <0.08 15a 0.0255 ± 0.0039 - -3 High <0.24 14 0.0233 ± 0.0034 - -

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ventral Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED prostate

MALE 1 Sham 0 16 0.1788 ± 0.0445 - -2 Low <0.08 15a 0.1695 ± 0.0219 - -3 High <0.24 14 0.1791 ± 0.0299 - -

FEMALE 1 Sham 0 16 - 0.0449 ± 0.0071 0.1508 ± 0.05152 Low <0.08 15a - 0.0465 ± 0.0068 0.1497 ± 0.03513 High <0.24 14 - 0.0426 ± 0.0039 0.1626 ± 0.0594

* : Significantly different from control group at P<0.05.a : One animal was used for the mating.

133

TABLE F2-14MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF DAMS (F2)STUDY NO. 0801DURATION (DAYS) : GESTATION PERIOD (7-23)

GROUP TREATMENT LEVEL SIGNSNO. (W/kg) AND SYMPTOMS 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

1 Sham 0 Normal 7a 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 2 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 2

2 Low <0.08 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 3 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 5 3

3 High <0.24 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 4 0Delivery 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 4 4

a : A dam was excepted since delivery was not confirmed.

DURATION (DAYS) : LACTATION PERIOD (0-21)GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS

NO. (W/kg) AND SYMPTOMS 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 181 Sham 0 Normal 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 7 72 Low <0.08 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 83 High <0.24 Normal 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8 8

GESTATION PERIOD (DAYS)

LACTATION PERIOD (DAYS)

TABLE F2-15MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF DAMS (F2) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 0 7 14 17 20

1 Sham 0 7 270.3 ± 24.1 309.4 ± 26.8 345.1 ± 28.2 375.0 ± 29.4 423.3 ± 31.32 Low <0.08 8 291.9 ± 25.9 329.5 ± 26.4 368.3 ± 28.1 395.5 ± 28.2 441.5 ± 27.53 High <0.24 8 298.4 ± 23.4 338.1 ± 25.6 369.4 ± 28.2 398.8 ± 29.3 443.6 ± 30.9

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 0 4 7 14 21

1 Sham 0 7 305.4 ± 32.3 342.6 ± 30.1 344.1 ± 27.2 348.4 ± 23.5 316.4 ± 17.02 Low <0.08 8 325.3 ± 19.2 352.6 ± 23.9 358.3 ± 27.6 360.3 ± 19.6 331.5 ± 21.13 High <0.24 8 341.1 ± 31.6 366.1 ± 27.7 368.4 ± 24.0 368.6 ± 21.3 337.5 ± 20.8

Days of lactation

Days of gestation

TABLE F2-16MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENTAND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF DAMS (F2) (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ------ 1 2 3TREATMENT ---- Sham Low HighLEVEL (W/kg) --- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 7 8 8Days of gestation

7-8 26.14 ± 2.48 33.25 ± 9.50 26.88 ± 2.4213-14 25.29 ± 4.89 27.63 ± 2.45 24.29 ± 8.2416-17 26.43 ± 9.38 24.86 ± 8.97 22.63 ± 4.6019-20 22.86 ± 4.88 24.88 ± 4.61 21.75 ± 1.83

Days of lactation3-4 40.71 ± 5.85 42.00 ± 9.29 36.25 ± 8.176-7 42.71 ± 2.50 44.14 ± 6.44 39.57 ± 3.41

13-14 57.29 ± 7.87 58.63 ± 6.12 54.63 ± 4.2720-21 89.29 ± 14.02 93.38 ± 8.73 92.63 ± 6.25

TABLE F2-17MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSESTRUS CYCLE DATA OF DAMS (F2)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF No. of animals

NO. (W/kg) EXAMINED with normal Total Persistent Prolongationc Othersd

estrus cyclea No. estrusb

FEMALE 1 Sham 0 16 16 0 0 0 02 Low <0.08 15 14 1 0 0 13 High <0.24 14 12 2 1 1 0

a: Estrus cycles showed regularly at 4 or 5 days interval.b: Estrus showed persistently for over 3 days.c: Estrus cycles showed at 6 day or longer interval.d: Estrus cycles showed abnormalities other than b and c.

No. of animals with abnormal estrus cycle

TABLE F2-18MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENTAND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSMALE AND FEMALE FERTILITY DATA OF DAMS (F2)

STUDY NO. 0801SEX ----------------GROUP NO. ------ 1 2 3

TREATMENT ---- Sham Low HighLEVEL (W/kg) --- 0 <0.08 <0.24

No. of males examined 16 15 14No. of males with successful copulation 16 15 14Copulation index (%)a 100 100 100

No. of females examined 16 15 14No. of females with successful copulation 16 15 14Copulation index (%)a 100 100 100Fertility index (%)b,c 94 100 100

No. of days for copulation 2.3 ± 1.1 2.7 ± 1.3 2.8 ± 1.4a : No. of offspring with successful copulation / No. of mated offspring × 100b : No. of pregnant offspring / No. of offspring with successful copulation × 100c : Data was calculated using exposured rats (n=8).

FEMALE

TABLE F2-19MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSREPRODUCTIVE FINDINGS DATA OF DAMS (F2) (MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 7 8 8Gestation period 22.3 ± 0.5 22.4 ± 0.5 22.5 ± 0.5No. of implantations 14.9 ± 1.1 15.4 ± 1.6 14.3 ± 1.3Delivery indexa (%) 100 100 100Live birth indexb (%) 98.0 ± 3.4 88.9 ± 9.7 92.4 ± 5.6No. of delivered per litter 14.6 ± 1.3 14.1 ± 0.8 13.1 ± 1.2No. of live offsprings per litter 14.6 ± 1.3 13.6 ± 1.5 13.1 ± 1.2No. of dead offsprings per litter 0.0 ± 0.0 0.5 ± 0.9 0.0 ± 0.0Sex ratioc 53.7 ± 12.7 48.0 ± 11.5 57.0 ± 11.4No. of live offsprings with external abnormalities (%) 0(0.0 ± 0.0) 0(0.0 ± 0.0) 2(1.9 ± 3.4)

a : (No. of dams / No. of pregnancies) × 100b : (No. of live offsprings / No. of implantation site) × 100c : (No. of live male offsprings / No. of live offsprings) × 100

134

TABLE F2-20MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGROSS PATHOLOGY DATA OF DAMS FOR MATING (F2)STUDY NO. 0801ORGAN SEX --------------------- AND GROUP NO. ----------- 1 2 3 1 2 3 FINDINGS TREATMENT -------- Sham Low High Sham Low High

LEVEL (W/kg) ------- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined ----- 16 16 14 16 15 14

Not remarkable 16 16 14 16 13 11

Liver : Diaphragmatic nodule 0 0 0 0 1 0

Uterus : Dilatation/Horn - - - 0 1 3

FEMALEMALE

TABLE F2-21MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN WEIGHT DATA OF DAMS (F2) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Body Brain Pituitary ThyroidsNO. (W/kg) EXAMINED weight

1 Sham 0 7 316.4 ± 17.8 1.9826 ± 0.0942 0.0166 ± 0.0024 0.0209 ± 0.00342 Low <0.08 8 331.8 ± 24.1 1.9825 ± 0.1380 0.0164 ± 0.0018 0.0226 ± 0.00443 High <0.24 8 331.8 ± 19.3 1.9966 ± 0.1107 0.0173 ± 0.0010 0.0229 ± 0.0043

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 1.1891 ± 0.0731 1.1340 ± 0.0836 0.2413 ± 0.05942 Low <0.08 8 1.2465 ± 0.0806 1.2518 ± 0.1199 0.2853 ± 0.06013 High <0.24 8 1.2191 ± 0.0698 1.1728 ± 0.0889 0.2850 ± 0.0342

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 11.7749 ± 0.8383 2.0153 ± 0.1303 0.5320 ± 0.05422 Low <0.08 8 13.3250 ± 1.0724 2.2140 ± 0.2387 0.5679 ± 0.06373 High <0.24 8 12.9345 ± 1.6037 2.1903 ± 0.1576 0.5476 ± 0.0572

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 0.0627 ± 0.0101 0.1414 ± 0.0144 0.4219 ± 0.05952 Low <0.08 8 0.0685 ± 0.0101 0.1570 ± 0.0169 0.5303 ± 0.22683 High <0.24 8 0.0633 ± 0.0072 0.1478 ± 0.0157 0.5579 ± 0.1748

TABLE F2-22MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN TO BODY WEIGHT RATIO DATA OF DAMS (F2) (G/100G BW, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Brain Pituitary ThyroidsNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 0.6274 ± 0.0319 0.0051 ± 0.0007 0.0064 ± 0.00112 Low <0.08 8 0.5999 ± 0.0544 0.0050 ± 0.0008 0.0068 ± 0.00153 High <0.24 8 0.6031 ± 0.0398 0.0053 ± 0.0005 0.0069 ± 0.0015

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 0.3761 ± 0.0184 0.3587 ± 0.0255 0.0759 ± 0.01652 Low <0.08 8 0.3766 ± 0.0202 0.3770 ± 0.0173 0.0854 ± 0.01273 High <0.24 8 0.3678 ± 0.0127 0.3541 ± 0.0281 0.0863 ± 0.0113

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 3.7230 ± 0.2112 0.6376 ± 0.0390 0.1680 ± 0.01382 Low <0.08 8 4.0224 ± 0.2607 0.6678 ± 0.0604 0.1716 ± 0.01943 High <0.24 8 3.8876 ± 0.2825 0.6605 ± 0.0350 0.1653 ± 0.0168

GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED

1 Sham 0 7 0.0196 ± 0.0029 0.0449 ± 0.0047 0.1334 ± 0.01842 Low <0.08 8 0.0208 ± 0.0034 0.0474 ± 0.0069 0.1599 ± 0.06723 High <0.24 8 0.0189 ± 0.0021 0.0446 ± 0.0056 0.1704 ± 0.0593

135

TABLE F3-1MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF OFFSPRING DURING LACTATION PERIOD (F3)STUDY NO. 0801DURATION (DAYS) : LACTATION PERIOD (4-21)SEX GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS AND SYMPTOMS

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21MALE 1 Sham 0 Normal 28a 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28

2 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31Found dead 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

3 High <0.24 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32

FEMALE 1 Sham 0 Normal 28a 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 28 282 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 32 323 High <0.24 Normal 32 32 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 31 32 32

Skin,subcutis/Wound/Tail 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 0 0a : A dam was not delivered of offspring.

POSTNATAL DAY

TABLE F3-2MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGENERAL CONDITION DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F3)STUDY NO. 0801DURATION (WEEKS) : 4-12SEX GROUP TREATMENT LEVEL SIGNS AND SYMPTOMS

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8 9 10 11 12MALE 1 Sham 0 Normal 28 28 28 28 28 28 28 28 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 282 Low <0.08 Normal 31 31 31 31 31 31 31 31 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 313 High <0.24 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 0

Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 32

FEMALE 1 Sham 0 Normal 28 28 28 28 28 28 28 28 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 28

2 Low <0.08 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 32

3 High <0.24 Normal 32 32 32 32 32 32 32 32 0Terminal sacrifice 0 0 0 0 0 0 0 0 32

WEEKS

TABLE F3-3MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF OFFSPRING DURING LACTATION PERIOD (F3) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL

NO. (W/kg) 0 4 7 14 21MALE 1 Sham 0 6.51 ± 0.47 11.08 ± 0.47 18.13 ± 1.03 37.49 ± 1.59 63.11 ± 3.45

(n=7) (n=7) (n=7) (n=7) (n=7)2 Low <0.08 6.87 ± 0.55 11.58 ± 0.94 19.05 ± 1.57 39.57 ± 3.18 65.41 ± 5.15

(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)3 High <0.24 7.16 ± 0.74 12.00 ± 1.29 19.69 ± 1.73 40.15 ± 2.70 68.27 ± 4.50

(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)

FEMALE 1 Sham 0 6.30 ± 0.39 10.16 ± 0.55 16.92 ± 0.98 35.71 ± 1.80 59.21 ± 3.02(n=7) (n=7) (n=7) (n=7) (n=7)

2 Low <0.08 6.49 ± 0.33 10.99 ± 0.85 18.19 ± 1.26 38.16 ± 2.38 * 62.73 ± 3.97(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)

3 High <0.24 6.70 ± 0.62 11.67 ± 1.23 ** 19.43 ± 1.68 ** 39.15 ± 2.48 ** 64.68 ± 4.04 **(n=8) (n=8) (n=8) (n=8) (n=8)

n = No. of litter*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

Postnatal day

TABLE F3-4MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSBODY WEIGHT DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F3) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF

NO. (W/kg) EXAMINED 4 5 6 7 8MALE 1 Sham 0 28a 128.5 ± 9.9 192.1 ± 12.7 253.8 ± 14.6 324.9 ± 18.9 384.8 ± 26.8

2 Low <0.08 31b 127.2 ± 16.6 189.6 ± 19.1 249.6 ± 17.9 317.1 ± 19.2 376.5 ± 21.83 High <0.24 32 134.3 ± 15.6 201.3 ± 15.6 * 263.1 ± 15.5 * 336.0 ± 16.3 * 400.4 ± 16.6

FEMALE 1 Sham 0 28a 111.2 ± 9.6 150.7 ± 11.4 178.8 ± 15.4 208.5 ± 15.7 235.4 ± 18.72 Low <0.08 32 110.6 ± 13.5 151.2 ± 11.9 180.4 ± 11.5 211.9 ± 15.0 239.9 ± 18.23 High <0.24 32 116.5 ± 12.2 159.4 ± 10.4 ** 189.7 ± 12.4 ** 223.7 ± 13.2 ** 250.5 ± 16.9

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OFNO. (W/kg) EXAMINED 9 10 11

MALE 1 Sham 0 28a 435.8 ± 32.6 462.5 ± 37.9 493.0 ± 43.22 Low <0.08 31b 423.1 ± 29.7 453.0 ± 35.5 481.4 ± 40.53 High <0.24 32 457.7 ± 20.6 ** 493.6 ± 27.5 ** 528.4 ± 29.8 **

FEMALE 1 Sham 0 28a 258.3 ± 19.2 271.9 ± 20.7 284.0 ± 21.92 Low <0.08 32 263.0 ± 18.9 276.8 ± 20.6 291.7 ± 19.63 High <0.24 32 272.6 ± 22.5 ** 289.9 ± 28.7 ** 303.8 ± 27.7 **

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.a : A dam was not delivered of offspring.b : A offspring died at postnatal day 9.

Weeks

Weeks

TABLE F3-5MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFOOD CONSUMPTION DATA OF OFFSPRING AFTER WEANING (F3) (G/ANIMAL/DAY, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL

NO. (W/kg) 4 5 6 7 8MALE 1 Sham 0 17.43 ± 1.59 20.86 ± 2.08 22.63 ± 1.79 28.24 ± 1.78 30.16 ± 3.60

2 Low <0.08 16.26 ± 3.31 19.08 ± 2.61 21.45 ± 2.60 27.98 ± 1.84 30.23 ± 2.243 High <0.24 18.39 ± 2.48 21.01 ± 1.60 22.79 ± 1.38 29.31 ± 1.79 31.66 ± 2.52

FEMALE 1 Sham 0 19.47 ± 3.73 18.07 ± 2.03 19.87 ± 2.60 17.15 ± 1.54 18.96 ± 1.612 Low <0.08 17.94 ± 2.02 19.63 ± 2.67 20.26 ± 3.37 18.02 ± 1.76 19.25 ± 1.663 High <0.24 21.49 ± 4.06 23.35 ± 5.71 21.49 ± 3.86 18.11 ± 1.85 19.72 ± 2.56

SEX GROUP TREATMENT LEVELNO. (W/kg) 9 10 11

MALE 1 Sham 0 29.45 ± 2.81 28.84 ± 3.07 29.00 ± 2.442 Low <0.08 29.07 ± 2.64 28.87 ± 2.75 28.86 ± 1.873 High <0.24 30.80 ± 2.22 31.22 ± 2.65 * 31.34 ± 2.29 **

FEMALE 1 Sham 0 18.63 ± 1.68 18.74 ± 1.46 18.69 ± 1.562 Low <0.08 19.16 ± 1.82 19.21 ± 1.59 19.29 ± 1.643 High <0.24 19.39 ± 2.60 20.31 ± 2.65 20.16 ± 2.95

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

Weeks

Weeks

136

TABLE F3-6MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSVIABILITY INDEX OF OFFSPRING (F3)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of examined 7 8 8Before culling

No. of live offsprings on day 0 102 109 105 (Mean ± S.D.) 14.6 ± 1.3 13.6 ± 1.5 13.1 ± 1.2No. of live offsprings on day 4 101 107 105 (Mean ± S.D.) 14.4 ± 1.4 13.4 ± 1.3 13.1 ± 1.2Viability index (%, Mean ± S.D.)a 99.0 ± 2.6 98.3 ± 3.2 100.0 ± 0.0

After cullingNo. of live offsprings on day 4 56 63 64 (Mean ± S.D.) 8.0 ± 0.0 7.9 ± 0.4 8.0 ± 0.0No. of live offsprings on day 21 56 63 64 (Mean ± S.D.) 8.0 ± 0.0 7.9 ± 0.4 8.0 ± 0.0Weaning index (%, Mean ± S.D.)b 100.0 ± 0.0 100.0 ± 0.0 100.0 ± 0.0

a : (No. of live offsprings on day 4 / No. of offsprings on day 0) × 100b : (No. of live offsprings on day 21 / No. of offsprings on day 4) × 100

TABLE F3-7MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSFUNCTIONAL DEVELOPMENT OF OFFSPRING (F3)STUDY NO. 0801

GROUP NO. ---- 1 2 3TREATMENT -- Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24

No. of offspring examined (litter) --- 56(7) 63(8) 64(8)

Response to paina PND 5 100 100 100Pinna reflexa 14 98 100 100

15 100 - -Preyer's reflexa 14 100 100 100Corneal reflexa 21 100 100 100Pupillary reflexa 21 100 100 100Mid-air righting reflexa 13 79 87 88

14 93 93 9615 98 93 10016 100 100 9917 100 100 10018 100 100 10019 100 100 100

Righting reflex on surfacea 6 89 89 927 97 97 1008 98 99 1009 100 100 95

10 100 99 97Negative geotaxis (sec) 6 24.2±3.4 24.8±3.6 22.6±4.5

7 19.7±5.2 18.7±3.5 18.5±5.78 16.0±4.0 15.8±5.4 16.6±3.99 12.6±5.0 14.7±3.5 16.9±3.2

10 12.3±3.6 15.6±2.5 14.9±3.011 11.4±3.7 15.3±4.0 12.7±3.112 10.5±3.5 14.3±2.4* 10.5±2.7

PND : Postnatal daya : Each valve shows mean percentage offspring exhibiting positive response.* : Significantly different from control group at P<0.05.

TABLE F3-8MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSOPEN FIELD TEST OF OFFSPRINGSTUDY NO. 0801 1ST DAY (F3)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 14 309.6 ± 46.5 1.30 ± 1.23 36.1 ± 11.3 1.8 ± 1.5 1.9 ± 2.4 1.5 ± 0.8

2 Low <0.08 16 294.3 ± 66.2 2.82 ± 2.49 31.4 ± 11.7 1.5 ± 2.3 2.5 ± 3.0 1.2 ± 0.93 High <0.24 16 293.3 ± 37.9 1.83 ± 1.58 31.6 ± 9.1 0.9 ± 1.1 2.8 ± 1.8 1.8 ± 0.8

FEMALE 1 Sham 0 14 343.0 ± 44.2 2.66 ± 2.55 51.6 ± 12.9 2.6 ± 2.1 0.1 ± 0.3 0.9 ± 0.82 Low <0.08 16 329.6 ± 56.8 3.84 ± 2.88 50.3 ± 12.6 2.2 ± 1.9 0.0 ± 0.0 0.8 ± 0.83 High <0.24 16 336.9 ± 57.4 1.64 ± 1.75 50.6 ± 17.1 1.6 ± 1.3 0.8 ± 1.2 * 1.2 ± 0.7

STUDY NO. 0801 2ND DAY (F3)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 14 259.1 ± 68.2 0.98 ± 0.47 34.5 ± 15.2 2.3 ± 2.9 2.8 ± 2.8 1.1 ± 0.9

2 Low <0.08 16 246.3 ± 67.2 1.01 ± 0.77 27.0 ± 13.6 1.4 ± 2.0 3.4 ± 3.1 1.3 ± 1.13 High <0.24 16 219.5 ± 53.6 1.14 ± 0.85 23.4 ± 10.7 1.3 ± 1.3 4.3 ± 2.8 1.4 ± 0.9

FEMALE 1 Sham 0 14 283.6 ± 56.8 0.95 ± 0.64 34.9 ± 10.0 3.1 ± 2.5 0.8 ± 1.9 0.8 ± 0.82 Low <0.08 16 251.5 ± 106.5 1.26 ± 0.69 28.1 ± 14.4 3.3 ± 3.0 0.9 ± 2.5 0.9 ± 0.73 High <0.24 16 296.4 ± 93.8 0.91 ± 0.43 36.4 ± 14.6 2.6 ± 3.1 1.8 ± 2.0 1.1 ± 0.7

STUDY NO. 0801 3RD DAY (F3)SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ambulationa Latency Rearing Grooming Defecation Urination

NO. (W/kg) EXAMINED (sec) (times) (times) (number) (number)MALE 1 Sham 0 14 213.4 ± 99.1 0.94 ± 0.43 24.2 ± 12.9 1.2 ± 1.7 3.3 ± 2.8 0.9 ± 0.7

2 Low <0.08 16 203.9 ± 76.8 1.98 ± 2.85 19.9 ± 8.3 1.5 ± 1.8 3.8 ± 2.8 1.3 ± 1.13 High <0.24 16 197.4 ± 56.8 0.84 ± 0.35 20.5 ± 10.3 0.8 ± 1.2 5.1 ± 2.4 1.4 ± 1.0

FEMALE 1 Sham 0 14 248.5 ± 94.8 1.02 ± 0.43 23.9 ± 12.4 4.5 ± 3.7 0.8 ± 1.5 0.4 ± 0.52 Low <0.08 16 250.6 ± 102.4 1.03 ± 0.57 24.8 ± 12.4 4.3 ± 3.3 2.0 ± 2.3 0.9 ± 0.7 *3 High <0.24 16 270.8 ± 91.7 0.90 ± 0.42 26.9 ± 11.9 4.1 ± 3.8 2.2 ± 2.2 1.2 ± 0.8 **

a : Number of squares crossed for 10 minutes.*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

TABLE F3-9MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSWATER MAZE TEST OF OFFSPRING - HIDDEN PLATFORM TEST (F3)STUDY NO. 0801

SEX --------------GROUP NO. ---- 1 2 3 1 2 3

TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined 14 16 16 14 16 16

Latency (sec)a

Day 1 63.41 ± 27.84 56.17 ± 21.43 66.68 ± 20.77 56.77 ± 24.78 71.44 ± 25.49 57.98 ± 20.24Day 2 24.53 ± 12.69 21.05 ± 13.66 21.01 ± 8.81 16.10 ± 10.02 31.01 ± 13.30 ** 21.12 ± 12.11Day 3 13.16 ± 9.79 11.19 ± 6.74 13.91 ± 8.88 20.69 ± 11.36 14.68 ± 9.96 11.43 ± 8.10 *Day 4 11.18 ± 9.39 7.71 ± 2.54 10.76 ± 8.02 10.04 ± 4.41 13.14 ± 9.33 13.27 ± 9.91Day 5 10.32 ± 7.45 8.97 ± 6.20 10.37 ± 12.95 10.02 ± 7.05 9.44 ± 5.52 16.70 ± 13.43

a : The time required to reach the hidden platform.*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

TABLE F3-10MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSWATER MAZE TEST OF OFFSPRING - PROVE TEST (F3)STUDY NO. 0801

SEX --------------GROUP NO. ---- 1 2 3 1 2 3

TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined 14 16 16 14 16 16

Crossings of target (number)a

training 2.57 ± 1.83 2.06 ± 1.29 2.88 ± 1.86 3.64 ± 1.65 3.19 ± 1.38 2.31 ± 1.25 *Time in quadrant (sec)b

Training 24.04 ± 6.97 25.03 ± 4.72 25.01 ± 4.59 25.84 ± 4.58 23.17 ± 4.47 22.71 ± 5.50 Opposite 13.71 ± 5.29 13.48 ± 3.16 13.27 ± 4.58 13.89 ± 4.78 14.86 ± 4.45 17.83 ± 6.19 Adjacent left 11.78 ± 4.74 11.81 ± 4.05 10.88 ± 4.31 9.39 ± 3.87 10.68 ± 3.50 7.93 ± 2.19 Adjacent right 10.46 ± 3.45 9.68 ± 3.84 10.84 ± 5.41 10.89 ± 3.76 11.30 ± 3.89 11.54 ± 4.81a : The number of crossings to the previous goal area.b : Times spent in each quadrant of the water pool.* : Significantly different from control group at P<0.05.

MALE FEMALE

MALE FEMALE

137

TABLE F3-11MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSGROSS PATHOLOGY DATA OF OFFSPRING (F3)STUDY NO. 0801ORGAN SEX --------------------- AND GROUP NO. ----------- 1 2 3 1 2 3 FINDINGS TREATMENT -------- Sham Low High Sham Low High

LEVEL (W/kg) ------- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24No. of examined ----- 14 17[1]a 16 14 16 16

Not remarkable 14 15 16 11 16 14Lung : Discolored spot/Single 0 1 0 0 0 0Liver : Diaphragmatic nodule 0 0 0 1 0 0 : Discolored/Pale 0 1[1] 0 0 0 0Uterus : Dilatation/Horn - - - 2 0 2Lumber, vertebla : Discolored/Dark red 0 1[1] 0 0 0 0Abdominal cavity : Contained yellow fluid 0 1[1] 0 0 0 0 : Yellow material/Multiple 0 1[1] 0 0 0 0

a : Numbers in brackets refer to dead animals.

FEMALEMALE

TABLE F3-12MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN WEIGHT DATA OF OFFSPRING ( F3) (G, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Body Brain Pituitary Thyroids

NO. (W/kg) EXAMINED weightMALE 1 Sham 0 14 495.1 ± 37.3 2.1188 ± 0.1296 0.0141 ± 0.0030 0.0279 ± 0.0068

2 Low <0.08 16 477.0 ± 45.6 2.1018 ± 0.1079 0.0129 ± 0.0013 0.0249 ± 0.00523 High <0.24 16 526.3 ± 28.3 * 2.1026 ± 0.0640 0.0133 ± 0.0007 0.0276 ± 0.0038

FEMALE 1 Sham 0 14 288.5 ± 22.8 1.9359 ± 0.0727 0.0141 ± 0.0022 0.0197 ± 0.00252 Low <0.08 16 296.8 ± 22.3 1.9781 ± 0.1339 0.0154 ± 0.0018 0.0201 ± 0.00293 High <0.24 16 306.2 ± 30.1 1.9578 ± 0.0856 0.0158 ± 0.0013 * 0.0221 ± 0.0033

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 14 1.4186 ± 0.0826 1.4596 ± 0.0871 0.4009 ± 0.06282 Low <0.08 16 1.3531 ± 0.1014 1.4563 ± 0.1394 0.4381 ± 0.11333 High <0.24 16 1.4620 ± 0.1046 1.5629 ± 0.1448 * 0.4894 ± 0.1087

FEMALE 1 Sham 0 14 1.0503 ± 0.0778 0.9495 ± 0.0728 0.3944 ± 0.09532 Low <0.08 16 1.0639 ± 0.0838 1.0031 ± 0.0832 0.4545 ± 0.08133 High <0.24 16 1.0757 ± 0.0751 1.0178 ± 0.0992 0.4361 ± 0.0780

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 14 18.6288 ± 2.2171 3.0134 ± 0.2166 0.7574 ± 0.13622 Low <0.08 16 17.2914 ± 2.7408 3.1140 ± 0.3045 0.7322 ± 0.11113 High <0.24 16 20.7936 ± 2.3222 * 3.3844 ± 0.1596 ** 0.7575 ± 0.0892

FEMALE 1 Sham 0 14 10.2624 ± 1.0871 1.7809 ± 0.1431 0.5029 ± 0.08272 Low <0.08 16 10.1444 ± 1.2188 1.8968 ± 0.1748 0.5159 ± 0.05423 High <0.24 16 10.6629 ± 1.4213 2.0058 ± 0.2358 ** 0.4854 ± 0.0679

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Testes EpididymidesNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 14 0.0608 ± 0.0085 3.2948 ± 0.2055 1.0937 ± 0.06552 Low <0.08 16 0.0598 ± 0.0108 3.5014 ± 0.2139 * 1.1504 ± 0.11613 High <0.24 16 0.0611 ± 0.0081 3.4977 ± 0.2458 * 1.1409 ± 0.0888

FEMALE 1 Sham 0 14 0.0657 ± 0.0047 - -2 Low <0.08 16 0.0688 ± 0.0105 - -3 High <0.24 16 0.0656 ± 0.0107 - -

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ventral Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED prostate

MALE 1 Sham 0 14 0.8749 ± 0.1742 - -2 Low <0.08 16 0.8323 ± 0.1092 - -3 High <0.24 16 0.8867 ± 0.1122 - -

FEMALE 1 Sham 0 14 - 0.1185 ± 0.0137 0.4498 ± 0.13042 Low <0.08 16 - 0.1279 ± 0.0192 0.4376 ± 0.08893 High <0.24 16 - 0.1272 ± 0.0168 0.4793 ± 0.1642

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

TABLE F3-13MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSORGAN TO BODY WEIGHT RATIO DATA OF OFFSPRING ( F3) (G/100G BW, MEAN ± S.D.)STUDY NO. 0801SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Brain Pituitary Thyroids

NO. (W/kg) EXAMINEDMALE 1 Sham 0 14 0.4291 ± 0.0276 0.0029 ± 0.0007 0.0057 ± 0.0013

2 Low <0.08 16 0.4431 ± 0.0340 0.0028 ± 0.0004 0.0052 ± 0.00103 High <0.24 16 0.4007 ± 0.0261 * 0.0026 ± 0.0005 0.0053 ± 0.0008

FEMALE 1 Sham 0 14 0.6754 ± 0.0636 0.0049 ± 0.0010 0.0070 ± 0.00102 Low <0.08 16 0.6703 ± 0.0709 0.0051 ± 0.0006 0.0067 ± 0.00123 High <0.24 16 0.6441 ± 0.0577 0.0053 ± 0.0006 0.0073 ± 0.0011

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Lungs Heart ThymusNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 14 0.2871 ± 0.0104 0.2956 ± 0.0205 0.0809 ± 0.01042 Low <0.08 16 0.2848 ± 0.0179 0.3057 ± 0.0165 0.0913 ± 0.02043 High <0.24 16 0.2779 ± 0.0149 0.2966 ± 0.0173 0.0925 ± 0.0172

FEMALE 1 Sham 0 14 0.3651 ± 0.0263 0.3296 ± 0.0184 0.1374 ± 0.03372 Low <0.08 16 0.3591 ± 0.0227 0.3381 ± 0.0184 0.1544 ± 0.03193 High <0.24 16 0.3524 ± 0.0155 0.3329 ± 0.0208 0.1429 ± 0.0249

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Liver Kidneys SpleenNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 14 3.7544 ± 0.2277 0.6096 ± 0.0366 0.1532 ± 0.02642 Low <0.08 16 3.6111 ± 0.3002 0.6538 ± 0.0367 ** 0.1534 ± 0.01543 High <0.24 16 3.9444 ± 0.3070 0.6439 ± 0.0296 ** 0.1438 ± 0.0128

FEMALE 1 Sham 0 14 3.5564 ± 0.2502 0.6182 ± 0.0340 0.1746 ± 0.02712 Low <0.08 16 3.4116 ± 0.2536 0.6408 ± 0.0579 0.1744 ± 0.01933 High <0.24 16 3.4750 ± 0.2155 0.6558 ± 0.0535 0.1589 ± 0.0180

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Adrenals Testes EpididymidesNO. (W/kg) EXAMINED

MALE 1 Sham 0 14 0.0123 ± 0.0018 0.6682 ± 0.0556 0.2216 ± 0.01572 Low <0.08 16 0.0126 ± 0.0027 0.7383 ± 0.0635 ** 0.2424 ± 0.0258 *3 High <0.24 16 0.0116 ± 0.0016 0.6670 ± 0.0678 0.2175 ± 0.0217

FEMALE 1 Sham 0 14 0.0229 ± 0.0023 - -2 Low <0.08 16 0.0233 ± 0.0037 - -3 High <0.24 16 0.0216 ± 0.0042 - -

SEX GROUP TREATMENT LEVEL NO. OF Ventral Ovaries UterusNO. (W/kg) EXAMINED prostate

MALE 1 Sham 0 14 0.1774 ± 0.0365 - -2 Low <0.08 16 0.1763 ± 0.0305 - -3 High <0.24 16 0.1683 ± 0.0194 - -

FEMALE 1 Sham 0 14 - 0.0412 ± 0.0050 0.1561 ± 0.04392 Low <0.08 16 - 0.0431 ± 0.0064 0.1479 ± 0.03013 High <0.24 16 - 0.0417 ± 0.0059 0.1584 ± 0.0587

*, ** : Significantly different from control group at P<0.05, 0.01, respectively.

TABLE F3-14MULTIGENERATIONAL EFFECTS OF SYSTEMIC EXPOSURE OF EMF (2 GHz) ON THE DEVELOPMENT AND FUNCTION OF THE BRAIN OF RATSSUMMARY OF HISTOPATHOLOGICAL FINDINGS - ALL ANIMALSSTUDY NO. 0801

ORGAN SEX ---------------AND GROUP NO. ----- 1 2 3 1 2 3

FINDINGS TREATMENT -- Sham Low High Sham Low HighLEVEL(W/kg) -- 0 <0.08 <0.24 0 <0.08 <0.24

No. of animals/group 14 16 16 14 16 16

BrainNormal 14 16 16 14 16 16

MALE FEMALE

139

3.2 ミリ波、準ミリ波帯電波の眼部ばく露による影響の指針値

妥当性の再評価

141

Ⅰ 要 旨

本研究は、ミリ波、準ミリ波帯電波を家兎眼部にばく露し、眼部組織内障害を指標に

防護指針値の妥当性の検討を行った。

(1) 60GHz 帯ばく露による眼障害発生閾値検索において、100mW/cm2以下では明ら

かな眼障害はみられなかった。電波防護指針の根拠となるデータが得られた。

(2) 76GHz 帯ばく露装置検討の結果、本装置を使用して眼障害発生閾値検索が可能で

あることが確認できた。

(3) 眼表面用サーモグラフィーの仕様を検討し、電波による眼表面への微細な影響評

価における本装置の有用性が確認できた。

142

Ⅱ 研究目的

ミリ波帯は、その特性である直線性と水蒸気等の水分吸収により、比較的短距離での

無線アクセス通信や画像伝送システム、簡易無線、レーダー等に利用されている。

前述のミリ波帯の中でも 60GHz 帯はテレビチューナーとモニター間の通信、76GHz

帯は自動車衝突防止装置や空港での保安検査に使用され始めており、今後、これらのミ

リ波帯の日常でのばく露が予想される。

本研究は以下の検討項目を明らかにすることを目的とした。

1.眼球表面の乾燥現象による角膜上皮障害と電波ばく露特有の所見を明確に区別する

ほか、角膜以外の眼組織障害発現の有無を解明する。

2.60GHz 帯の電波ばく露による眼障害発生レベル、障害の程度、ばく露時間への依存

性を検証し、電波防護指針の根拠となる閾値を検索する。 3.76GHz 帯電波の眼部ばく露によるデータを取得し、電波防護指針の根拠となる閾値

のスクリーニングを行う。

4.人眼用に開発された眼部専用サーモグラフィーカメラの仕様を検討する。

143

Ⅲ 試験方法

1 実験動物 Specific Pathogen Free(特定の病原菌がいない環境で飼育された動物)の有色家兎

(Dutch 種(ダッチ:家兎の種類)、体重:1.84-2.08kg(平均体重:1.96kg)、週令:

13-15 週令)55 羽を実験に供した。 実験は金沢医科大学(以下、「金沢医大」という。)動物実験施設(基礎研究棟地下 1

階 実験室 104、105)または独立行政法人情報通信研究機構(以下、「NICT」という。)

で行った。金沢医大の実験では、実験開始の少なくとも 3 日前に家兎を搬入し、実験開

始日まで飼育環境(温度:24±2、湿度:50±10%)に順化させた。家兎にはγ線滅

菌した飼料及び紫外線 C 波で滅菌した飲料水を自由に摂取させた(図 1(a))。また、一

部の実験は、金沢医大 総合医学研究所 環境原性視覚病態学研究部門から機材を

NICT に搬入して行った。この場合、実験動物は実験開始日の 3 日前に動物専門業者(三

協ラボサービス)が NICT に搬入し、実験開始日まで環境順化させた。家兎にはγ線滅

菌した飼料及び飲料水を自由に摂取させた(図 1(b))。 家兎は実験開始前に細隙灯顕微鏡(SL-130、ツァイス社製、図 2(a)(金沢医大での

実験))または手術顕微鏡(DECA-21、イナミ社製、図 2(b)(NICT での実験))で眼

部に異常がないことを観察した後に実験に供した。 なお、動物実験は金沢医大動物実験指針を順守して行った。

(a) 金沢医大 (b) NICT

図 1 実験家兎の飼育ケージ

144

(a) 細隙灯顕微鏡(金沢医大) (b) 手術顕微鏡(NICT)

図 2 観察用顕微鏡装置の外観

2 ばく露装置

2.1 60GHz 帯眼障害発生閾値検索

5W 級インパット発振器(QBY-603400、QUINSTAR Technology Inc.)に焦点距

離 150mm のレンズアンテナ(半値幅直径 6mm)を介して、Kojima らの方法[1]に準

じてばく露を行った(図 3)。

2.2 76GHz 帯電波の眼部ばく露による閾値検索スクリーニング

76GHz 信号発振器(QBO-7633WSOG、QUINSTAR Technology Inc.)の電波はレ

ンズアンテナ(半値幅直径 6mm)を介して照射した(図 4)。

図 3 60GHz 帯ばく露装置

145

図 4 76GHz 帯ばく露装置

3 眼球表面の乾燥現象による角膜上皮障害と点眼薬による乾燥予防効果

本研究における電波ばく露試験は、全身麻酔とテープによる強制開眼状態で行われる

ため、眼球表面の乾燥現象による角膜上皮障害が発生する。そこで、電波ばく露に起因

する障害と区別するために、乾燥現象による角膜上皮障害の発現及びその症状を確認す

る。また、点眼薬による乾燥予防効果を確認するために、以下の実験を行った。

全身麻酔下の家兎の両眼を生理食塩水による洗浄後に以下の措置を行った。片眼にコ

ンタクトレンズ装着液(マイティア®ハードレンズ装着液(防腐剤含有)、千寿製薬)、

角膜上皮障害治療用点眼液(ヒアレイン®0.1%点眼液(防腐剤含有)、参天製薬)、前述

と同様の製品であるが防腐剤を含まない角膜上皮障害治療用点眼液(ヒアレイン®ミニ

0.1%点眼液(防腐剤非含有)、参天製薬)、防腐剤を含まない生理食塩水の 4 種類につ

いて、1 回 40μl を 5 分毎に 5 回点眼(最も薬剤が眼内に移行する方法)し、点眼開始

30 分後に細隙灯顕微鏡観察及び蛍光色素染色による観察を行った。なお、対照として

反対側眼は実験開始前の洗浄のみで点眼は行わなかった。

4 60GHz 帯電波ばく露による眼障害発生と閾値検索

4.1 眼障害発生とばく露時間への依存性の検討

家兎はキシラジン 2mg/kg 及びケタミン 20mg/kg の混液を筋肉内に注射することに

より全身麻酔を行い、プラスチック製の固定器(本実験用にデザインした特注品)で保

持して XYZ ステージに搭載した。電波ばく露時には全ての家兎に、眼部局所麻酔とし

て 2%塩酸リドカイン液(キシロカイン®注射液 2%、アストラゼネカ)を点眼した。

レンズアンテナの焦点距離 150mm に家兎角膜中心を合わせるには Kojima らの方法

[1]に準じた。すなわち、(1)レンズアンテナの焦点距離の位置に標的を置き、この位置

に 2 か所に設置したレーザーポインターの交差する点を合わせた(図 5A)。(2)標的を

除去し、レーザーポインターが交差する位置(図 5B)に家兎角膜中心がくるように、

146

家兎固定器を XYZ ステージ(図 5C)により位置合わせを行った。

入射電力密度 100mW/cm2の 60GHz 帯電波を家兎の片眼にばく露し、サーモグラフ

ィーカメラ(Advanced thermo TVS-500EX、日本アビオニクス社製)にてばく露開

始時より 30 分間の角膜表面温度を連続して測定・記録した。

図 5 家兎眼のばく露位置の設定

4.2 眼障害発生閾値及び角膜以外の眼障害発生の有無

4.1 項と同様に麻酔下の家兎をばく露装置に設置し、入射電力密度 400、200、

100mW/cm2の 60GHz 帯電波を家兎角膜中心に 6 分間(防護指針値の平均時間)照射

した。各ばく露条件に 6-7 羽の家兎を用いたが、400mW/cm2 のばく露群は動物実験

の倫理的観点より 3 羽のみの実験に止めた(金沢医大動物実験委員会からの勧告)。

電波照射後の家兎の眼部障害の観察と写真撮影は、ばく露直後、ばく露 1 日後、ばく

露 2 日後に細隙灯顕微鏡で行った。蛍光染色所見観察には、家兎の眼球を充分量の生理

食塩水で洗浄後、0.05%フルオレセイン溶液(蛍光色素の名称)30μl を結膜嚢内にマイ

クロピペットで点眼、一回閉瞼を行って蛍光色素を眼球表面に拡散後、充分な生理食塩

水で余剰のフルオレセインを洗浄除去してから同様の観察と画像記録を行った。蛍光色

素観察の蛍光励起フィルターは従来のものと同様であるが、励起光カットフィルターを

挿入することにより、蛍光沈着部位をより明確にした(図 6)。

400mW/cm2ばく露群は、ばく露による眼障害の経時変化を観察する目的で、ばく露

直後、ばく露 1 日後、ばく露 2 日後に加えて、ばく露 15 日後にも観察、画像記録を行

147

った。 眼内炎症の程度の定量には、レーザーフレアセルメーター(FC-2000、コーワ社製、

図 7)を用い、ばく露直後、ばく露 1 日後、ばく露 2 日後に前房フレア値(眼内炎症発

症時に前房内の散乱光強度が上昇する)を測定した。前房フレア値を 10 回測定し、最

低及び最高値を削除した 8 つのデータの平均値を眼炎症の程度として記録した。

図 6 蛍光観察方法

角膜内皮細胞の障害の有無の観察には、スペキュラーマイクロスコープ(角膜内皮細

胞撮影装置、CSP-580、コーナン社製、図 8)を用いて、正常家兎角膜内皮細胞でも

観察される巨細胞、dark cell(黒く観察される細胞で異常所見とされる)等の所見を瞳

孔領周辺の内皮細胞の状態を写真記録し、ばく露前後及び非ばく露の反対側眼の所見を

比較検討した。

A 蛍光励起フィルターのみ (従来の観察方法)

B 蛍光励起フィルター+励起光カッ

トフィルター(今回使用方法)

148

5 76GHz 帯電波の眼部ばく露による閾値検索スクリーニング

5.1 ばく露装置の家兎眼部ばく露実験への適応の可否

全身麻酔下の家兎を 4.1 項と同様の方法により 76GHz 帯電波をばく露し、本ばく露

装置による実験の可否、眼障害のスクリーニング及び装置の操作性について検討した。

5.2 眼表面温度測定

全身麻酔下の家兎に 4.1 項と同様の方法により 76GHz 帯電波を 6 分間ばく露し、ば

く露中の角膜表面温度をサーモグラフィーカメラ(Advanced thermo TVS-500EX、

日本アビオニクス社製)で測定した。電波は片眼のみに入射電力密度 200、100、50、

10mW/cm2を照射した。

眼障害発生の有無の検討には 4.2 項と同様の手法を用いた。

6 眼部専用サーモグラフィーカメラの仕様の検討

人眼用に開発された眼部専用サーモグラフィーカメラ(TG-1000、トーメー社製)

の家兎眼での利用の可否について、正常家兎の眼部瞳孔領中心への自動アライメントシ

ステム(眼球の動きを光線追跡により自動的に追従する方式)の稼動の有無、測定の可

否について検討を行った。

7 統計処理

有意差検定は、Student-t 検定を行い、有意水準は p<0.05 とした。

図 7 レーザーフレア セルメーター

図 8 スペキュラー マイクロスコープ

149

Ⅳ 試験結果

1 眼球表面の乾燥現象による角膜上皮障害と点眼薬による乾燥予防効果

マイティア®ハードレンズ装着液(防腐剤含有)、ヒアレイン®0.1%点眼液(防腐剤含

有)、ヒアレイン®ミニ 0.1%点眼液(防腐剤非含有)、生理食塩水を 5 分毎 5 回点眼後の

角膜上皮の蛍光染色所見を図 9 に示した。点眼開始 30 分後の角膜は点眼側、無処置側

ともにいずれの群でも何らかの上皮障害を認めた。上皮障害が最も強かったのは、マイ

ティア®ハードレンズ装着液の点眼群で、続いて防腐剤含有のヒアレイン®0.1%点眼液、

生理食塩水、無処置、防腐剤非含有のヒアレイン®ミニ 0.1%点眼液の順であった(図 9)。

マイティア®ハードレンズ装着液、ヒアレイン®0.1%点眼液投与群の角膜上皮障害は

瞳孔領に楕円形に集合する点状の障害であった。生理食塩水点眼群の角膜上皮障害の形

状は前述の 2 群と大差はなかったが、障害がみられた範囲は狭かった。無処置及び防腐

剤非含有のヒアレイン®ミニ 0.1%点眼液投与群の角膜上皮障害は点状のものが散見さ

れた。

以上の結果より、眼球表面の乾燥による角膜上皮障害は点状のものが主体であった。

点眼による角膜表面の乾燥防止効果は、防腐剤非含有のヒアレイン®ミニ 0.1%点眼液以

外では、無処置群より角膜上皮障害は強い結果が得られた。

150

図 9 点眼液または生理食塩水の頻回(5 分毎 5 回)点眼後の角膜上皮変化

2 60GHz 帯電波ばく露による眼障害発生と閾値検索

2.1 眼障害発生とばく露時間への依存性の検討

図 10 に電波ばく露中の角膜表面温度の推移を示した。角膜表面温度は電波ばく露開

始直後から急速に上昇し、ばく露開始 2 分程度でほぼ定常状態に達し(図 10)、以降ば

く露開始 30 分後までほぼ一定であった(図 11)。

マイティア®ハードレンズ装着液 (防腐剤含有)

ヒアレイン®0.1% 点眼液

(防腐剤含有)

生理食塩水 (防腐剤非含有)

ヒアレイン®ミニ0.1%点眼液

(防腐剤非含有)

実験開始前 点眼側 無処置側

頻回点眼後 点眼側 無処置側

151

図 10 電波ばく露による角膜表面温度変化(開始~10 分間)

図 11 電波ばく露による角膜表面温度変化(開始~30 分間)

152

2.2 眼障害発生閾値及び角膜以外の眼障害発生の有無

2.2.1 眼障害発生閾値

(1) 400mW/cm2ばく露による眼障害

60GHz 400mW/cm2 6 分間ばく露による代表的な眼障害の推移を図 12 に示す。ばく

露直後に角膜の障害として、瀰漫性の蛍光染色所見(角膜上皮障害を示す、図 12 矢印)

が見られた。角膜以外の眼障害所見として、前房内の細胞遊出及び虹彩の縮瞳(眼炎症

の発症を示す、図 12 矢頭[ ])をばく露直後に認めた。前房のフレア測定では、ばく

露眼 30.9±10.2 フォトンカウント、非ばく露眼 6.0±0.3 フォトンカウントとばく露眼

で虹彩炎を生じていた。

ばく露 1 日後には角膜混濁及び角膜上皮の円形の欠損部分が見られた。前房のフレア

測定は、ばく露眼 557.5±5.9 フォトンカウント、非ばく露眼 4.7±0.5 フォトンカウン

トとばく露眼での著しい眼内炎症を生じていた。

ばく露 2 日後には角膜混濁はさらに増強したが、角膜上皮の円形の欠損部位は面積が

縮小し、前房フレア値も 70.2±74.3 フォトンカウント(非ばく露眼 8.8±1.1 フォトン

カウント)と減少し、治癒傾向を認めた。

角膜混濁は個体差があるものの、ばく露 15 日後でも残存していた(図 13)。 本条件で再現性ある眼障害が誘発されたので、ここで見られた障害を眼障害発生閾値

検索の指標(ばく露量を下げたときに発現しない障害)とした。

153

図 12 60GHz 400mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移

図 13 60GHz 400mW/cm2 6 分間ばく露による 15 日後の眼所見

(a) 前眼部像 (b) 蛍光染色像 (c) 前眼部像 (d) 蛍光染色像

ばく露眼 非ばく露眼

家兎番号 ばく露眼 非ばく露眼

154

(2) 200mW/cm2ばく露による眼障害

60GHz 200mW/cm2 6 分間ばく露による代表的な眼障害の推移を図 14 に示す。ばく

露直後に、ばく露部位と一致した場所に蛍光染色所見を認めた(図 14 矢印)。前眼部の

細隙灯顕微鏡所見では、縮瞳等の眼内炎症惹起を示す所見はなく、前房フレア測定でも

ばく露眼が 10.6±0.6 フォトンカウント、非ばく露眼は 6.5±1.2 フォトンカウントと大

差はなかった。ばく露 1 日後、ばく露 2 日後の観察では明らかな異常所見は認めなかっ

た。

図 14 60GHz 200mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移

(a) 前眼部像 (b) 蛍光染色像 (c) 前眼部像 (d) 蛍光染色像

非ばく露眼 ばく露眼

155

(3) 100mW/cm2ばく露による眼障害

60GHz 100mW/cm2 6 分間ばく露による代表的な眼障害の推移を図 15 に示す。

400、200mW/cm2 6 分間ばく露群に認められた眼異常所見は、100mW/cm2 6 分間ば

く露群には観察されなかった。

図 15 60GHz 100mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移

(a) 前眼部像 (b) 蛍光染色像 (c) 前眼部像 (d) 蛍光染色像

ばく露眼 非ばく露眼

156

2.2.2 角膜以外の眼障害発生の有無

角膜内皮細胞への電波ばく露の影響をスペキュラーマイクロスコープで観察を行っ

たが、正常家兎でも散見される巨細胞や dark cell は、ばく露前後及びばく露、非ばく

露眼との比較においても差を認めなかった。 ばく露量の相違による前房フレア値のグラフを図 16 に示した。前房フレア値は 200、

100mW/cm2ばく露群はほぼ正常範囲であった。

図 16 60GHz 帯電波のばく露量の相違による前房フレア値

2.2.3 電波ばく露以外の角膜上皮障害の検討

蛍光染色による角膜上皮障害の検討では、電波ばく露による障害以外に、全身麻酔に

よる瞬目の抑制が原因の乾燥による角膜障害や、家兎の体毛が眼内に入ることによる角

膜上皮障害が生じる。これら電波ばく露以外の原因による角膜上皮障害を除去するため

以下の除外基準を設けた。

乾燥が原因の角膜上皮障害は瀰漫性に散在する点状障害(図 17A)で、試験方法 3

項の無処置側の角膜上皮障害の結果(図 9)とほぼ同一と考えて良い。ばく露直後に認

める点状障害は、乾燥によるものに比べ密度が高く、瞳孔領周辺でばく露領域に一致し

て局所に観察された(図 12、14 矢印)。一方、体毛等による擦過が原因と思われる障

害は線状の障害痕で出現部位は一定ではなかった(図 17B)。

157

図 17 電波ばく露以外が原因の角膜上皮障害所見

3 76GHz 帯電波の眼部ばく露による閾値検索スクリーニング

3.1 眼表面温度測定の高精度化

ミリ波帯は表面に吸収されるため、眼部では角膜表面の障害が危惧されている。角膜

表面を保護している涙液層は 3 層構造(油層、水層、ムチン層)を持ち、最表面の油層

の状態が角膜の乾燥に影響する。眼表面のわずかな温度変化が乾燥に影響することは十

分に予想される。これら角膜の非常に微細な状態を観察する目的で開発された眼科専用

サーモグラフィーを導入することとした。 眼部専用サーモグラフィーカメラ(図 18)は人眼用に開発された機器であるため、

眼部の検査部位の特定のために非検者は機器の顔面を保持する部分(図 18 矢印)に顔

面を固定し、視線を固定する固視灯が装備されている。動物実験では固視灯が利用でき

ないため、ヒトの顔面を保持する部分(図 18 矢印)を除去し、固定器に保定した家兎

ごとに位置を調節する装置を考案し、製作した(図 19)。

図 20 に本装置を使用して測定した家兎眼部表面の温度分布を示す。角膜部分の温度

分布において、瞳孔領の水晶体表面部(水晶体には血管がない)の角膜表面温度に比べ

虹彩部(虹彩には脳の白質部分の 2.5 倍の血液循環量がある)の角膜表面温度が高いこ

とがわかる(温度精度:±0.1 度、温度対象:20.0~30.0 度)。本装置を用いることに

より、これまで不明であった角膜表面の微細な温度分布の測定が可能になると考えられ

る。

158

図 18 眼部専用サーモグラフィー 図 19 実験動物用ステージ

図 20 眼部専用サーモグラフィーによる家兎眼表面の温度分布

(b) ワイヤーフレーム表示

(a) 3D 表示

159

3.2 ばく露装置の家兎眼部ばく露実験の適応の可否

図 21 に 76GHz 200mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移を示す。ばく露直後の

角膜の障害として、瀰漫性の蛍光染色所見(角膜上皮障害を示す、図 21 矢印)が見ら

れた。角膜以外の眼障害として、虹彩の縮瞳(眼炎症の発症を示す、図 21 矢頭[ ])を認めた。

ばく露 1日後には角膜混濁及び角膜上皮の円形の欠損部分が見られた(図 21 星印[*])。

ばく露 2 日後には角膜混濁はほぼ同様の状態であったが、角膜上皮の円形の欠損部位

は面積が縮小し、治癒傾向を認めた。

図 21 76GHz 200mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移

ばく露眼 非ばく露眼

(a) 前眼部像 (b) 蛍光染色像 (c) 前眼部像 (d) 蛍光染色像

*

*

160

図 22 に 76GHz 100mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移を示す。ばく露直後に

ばく露部位と一致した場所に瀰漫性の蛍光染色所見を認めた(図 22 矢印)。角膜以外の

前眼部組織の異常所見は、球結膜の充血所見は認めたが、眼内の炎症惹起を示す虹彩の

縮瞳所見は認めなかった。ばく露 1 日後及びばく露 2 日後には眼障害を示す異常所見は

認めなかった(図 22)。

図 22 76GHz 100mW/cm2 6 分間ばく露による眼障害の推移

ばく露眼 非ばく露眼

(a) 前眼部像 (b) 蛍光染色像 (c) 前眼部像 (d) 蛍光染色像

161

Ⅴ 考 察 ミリ波帯電波ばく露による眼障害の検討を行った報告は少ない。Kues らは家兎眼ま

たはサル眼に 60GHz 10mW/cm2の電波を単回または 5日間を超えて繰り返しばく露し

た際の角膜の内皮細胞障害、虹彩血管の浸透性の変化、水晶体混濁の有無を検討し、本

条件のばく露により眼障害は生じないことを報告している。ばく露直後の角膜内皮細胞

には異常を認めていないが、ばく露 1 日後の観察では角膜内皮細胞の異常所見があった

と報告し、これは角膜内皮細胞観察時の機械的な障害(具体的な記載はなし)によるも

のと結論付けている[2]。

本研究では、上述のような障害判定における「あいまいさ」を少なくする目的で、再

現性の高い明らかな眼障害が惹起されるレベルの電波をばく露し、その眼障害の経過観

察を詳細に行うことにより眼障害の指標を設定した。ついで、ばく露量を下げていき、

指標の眼障害が発現しないばく露量を眼障害発現の閾値とした。

Rosenthal らは 35、107GHz の 2 つの周波数を家兎眼にばく露し、照射 24 時間後

の角膜の急性障害を蛍光染色による角膜上皮障害のスコア評価及び角膜実質の散乱光

のグレード分類を用いて評価している[3]。

報告者らの検討では、閾値レベルのばく露条件において、ばく露直後の角膜上皮障害

は観察されるが、明らかな角膜実質の混濁は観察されていない。本研究では蛍光物質を

用いた角膜上皮細胞障害判定の除外基準を設け、蛍光染色所見をより明確にする目的で

蛍光励起光のカットフィルターを導入し、電波ばく露による角膜上皮障害を従来の方法

に比べ鮮明に描出した。

蛍光色素染色による角膜上皮障害は、眼部に炎症がない場合でも生じる[3]。報告者

らの施設では、実験動物は購入後 1 週間の順化期間後に蛍光色素染色法で角膜上皮細胞

の障害の有無を観察するが、約半数に染色陽性所見を認める。そこで、実験開始前に角

膜上皮障害の有無をチェックし、障害を認めた場合にはその家兎の使用を中止し、治療

により障害が治癒したことを確認した後に実験に使用している。

角膜上皮障害の原因として、家兎体毛の眼結膜嚢内への混入による擦過や全身麻酔

による瞬目抑制が原因での角膜の乾燥による障害等が考えられる。報告者らはこれまで、

全身麻酔下の家兎の瞬目抑制による角膜の乾燥を軽減する目的で、マイティア®ハード

レンズ装着液(防腐剤含有)(2%ポリビニールアルコール)等の粘調性の点眼液を使用

してきた[1]。本検討では角膜保護剤または角膜上皮障害治療薬として市販されている

薬剤の効果と瞬目減少による角膜乾燥との関連を検討した。その結果、角膜上皮障害が

最も少なかったのが防腐剤非含有の角膜上皮障害治療薬投与眼と無処置眼で、ついで防

162

腐剤非含有の生理食塩水の点眼であった。最も強い角膜上皮細胞障害を認めたのは防腐

剤含有の角膜保護剤と角膜上皮細胞障害治療薬であった。塩化ベンザルコニウム等の防

腐剤による角膜上皮障害はよく知られた事実であるが、角膜上皮障害治療薬であっても

防腐剤の影響は考慮すべきであり、本研究のような微細な角膜障害を検討する場合は注

意する必要がある。また、防腐剤非含有の生理食塩水の頻回点眼でも、無処置眼より角

膜上皮障害が重篤であったことは予想外であった。頻回点眼による正常涙液層、特に洗

浄による油層の減少が涙液層を不安定化させ眼表面の乾燥を助長させた可能性がある。

全身麻酔による瞬目抑制が眼表面に及ぼす影響については、今後も詳細に検討する必要

がある。

防護指針値程度の眼部ばく露で明らかな角膜障害を生じない場合でも、角膜温度がわ

ずかに上昇し涙液層に影響を生じている可能性は否定できない。日本人ではドライアイ

罹患率がきわめて高く、ヒトでは軽度の温度上昇であっても涙液蒸発が重篤な角膜上皮

障害に繋がる可能性も十分に考えられる。防護指針の評価において、今後はこの分野の

研究が必要であると考える。今回仕様を検討した眼部専用サーモグラフィーの機能の一

つに角膜形状解析による涙液層の解析があり、今後の検討課題としたい。

60GHz 帯眼障害発生閾値検索と同様の手法を用いた 76GHz 帯電波ばく露の検討に

おいて、60GHz 200mW/cm2と類似した眼障害が、76GHz 100mW/cm2で観察された。

報告者らは前年度までに 18GHz、22GHz、26.5GHz、35GHz、40GHz の 200mW/cm2

ばく露による眼組織内温度上昇の比較検討を行っている。40>35>26.5≥22>18GHz と周

波数が高くなるに従って、眼内の温度上昇幅が有意に大きく、40GHz での温度上昇は

18GHz の約 2 倍であった[4]。40GHz と 60GHz の眼内温度を比較すると、60GHz の

眼内温度が 40GHz に比べ 1.5 倍高いことを昨年の研究で報告しており、眼組織への影

響は 60GHz が 40GHz 以下のミリ波帯に比べ強い可能性があることを指摘している。

本年度の検討結果から 76GHz 帯ばく露は 60GHz 帯ばく露より強い眼障害を生じてお

り、76GHz ではさらに強い生物学的影響が出る可能性を示唆するものと考えることか

ら今後詳細な検討が必要である。

163

Ⅵ まとめ

(1) 60GHz 帯ばく露による眼障害は 400mW/cm2を超える高強度では虹彩炎等の眼

内の炎症が惹起されるが、200mW/cm2では角膜障害、特に角膜上皮障害が主体

であった。

(2) 眼球表面の乾燥現象による角膜上皮障害と電波ばく露特有の所見を明確に区別

するため、電波ばく露以外の要因による角膜上皮障害の蛍光染色所見の除外基準

(角膜乾燥による点状障害、擦過等の外傷による線状障害)を設けた。

(3) 眼障害発現とばく露時間の依存性の検討の結果(角膜表面の温度上昇測定では 3分間程度で定常状態に達した)、6 分間ばく露による障害発生の根拠となるデー

タが得られた。

(4) 60GHz 帯ばく露による眼障害発生閾値検索において、100mW/cm2 以下では明

らかな眼障害は見られなかった。電波防護指針の根拠となるデータと考える。

(5) 76GHz 帯ばく露装置検討の結果、本装置を使用して行う閾値検索が可能である

ことが確認できた。 (6) 眼表面用サーモグラフィーの仕様を検討し、電波ばく露による眼表面への微細な

影響評価において、本装置を動物実験に導入できることが確認できた。

164

Ⅶ 文 献 [1] M. Kojima, M. Hanazawa, Y. Yamashiro, H. Sasaki, S. Watanabe, M. Taki, Y.

Suzuki, A. Hirata, Y. Kamimura, K. Sasaki: Acute ocular injuries caused by 60-GHz millimeter -wave exposure. Health Physics 97:212-218, 2009

[2] H.A. Kues, S.A. D’Anna, R. Osiander, W.R. Green, J.C. Monahan: Absence of ocular effects to 10mW/cm2 from a 60GHz CW source. Bioelectromagnetics 20: 463-473, 1999

[3] S.W. Rosenthal, L. Birenbaum, I. T. Kaplan, W. Metlay, W. Z. Snyder, M. Zaret: Effects of 35 and 107GHz CW microwaves on the rabbit eye. In. Biological effects of electromagnetic waves. HEW Publication (FDA), Rockvill, MD, pp

110-128, 1976

[4] M. Kojima, T. Sakai, Y. Yamashiro, T. Matsuda, S. Watanabe, H. Shirai, K.

Sasaki, H. Sasaki: Characteristics of ocular temperature rise under exposure to frequency (18-40GHz). BIOEM 2009 DAVOS, 16-3, 2009

165

3.3 頭部局所電波ばく露の及ぼす生体影響評価と

その閾値の検索

167

要 旨 本調査研究では、携帯電話端末に使用されている周波数帯の高出力局所電波ばく露

が局部または全身の生体影響を及ぼすかどうかについてラットを用いて検討し、生体

影響を惹起するばく露量の閾値及びその作用機序について工学的解析手法も取り入れ

解明することを目的とした。

まず、実験動物を用いた生体データ取得と生物学的検討では、実験対象としてラッ

トを用いた18分間の高出力の電波ばく露において、脳表及び直腸温度、脳表血流、血

液脳関門透過性に電波強度に依存する影響を及ぼすことを確認した。次に、電波強度・

各部温度上昇・脳表血流増加のそれぞれの関係から、脳表血流増加は電波ばく露によ

り惹起された各部温度上昇に起因するという仮説を立て、実測データを用いて検証す

ると共にこの変化を惹起するばく露強度を予測した。

一方、物理・工学的解析手法を用いた検討においては、まず上記の生物実験結果か

ら血流モデルを新たに構築した。次に、局所SARとこのモデルを組み込んだ体内温度

上昇の計算機シミュレーションを実施し、仮説に基づくモデルが実測データに充分一

致する結果を示すことを確認した。 なお、本報告書では、生物学的側面及び工学的側面の双方から検討しているため、そ

れぞれの結果について以下の 2 つに大別し報告する。

サブテーマ 1:実験動物を用いた生体データ取得と生物学的検討 サブテーマ 2:物理・工学的解析手法を用いた検討

168

目 的 ユビキタスネットワーク社会の到来により、電波が一般生活の至る所で利用される一

方、電波の健康への影響に関する関心が高まっている。携帯電話端末等に使用されるマ

イクロ波帯の電波による人体への影響は、主に電力吸収により生ずる熱作用とされ、そ

の評価量として単位質量あたりの電力吸収量、即ち SAR(Specific Absorption Rate(比

吸収率))[W/kg]が用いられている。 これをベースとした電波ばく露に対する安全指針が世界各国において構築されてい

る。我が国の電波防護指針では、平成 9 年に局所吸収指針が追加され、100kHz から

3GHz までの周波数の電波に対し、全身平均 SAR と局所 SAR で指針値が設けられてい

る。全身平均 SAR と体内深部温度上昇の相関性については、1980 年代よりばく露実験

が行われてきており、近年では数値計算による検証も行われている。一方、電波を全身

に浴びた場合の局所ピーク SAR は、全身平均 SAR の 20 倍を超えないとされている根

拠があるものの、過去の報告において再現性のある生物学的知見が乏しく、用量反応関

係についても不明確なこともあり、さらには工学的解析も含め十分な検証が行われてき

たとは言い難い。 そこで、本研究では、携帯電話端末に使用されている周波数帯の高出力局所電波ばく

露が、局所または全身の生体影響を及ぼすかどうかについてラットを用いて検討し、生

体影響を惹起するばく露量の閾値及びその作用機序について、工学的解析手法も取り入

れ解明することを目的とした。

なお、本年度は、昨今の携帯電話端末の電波周波数の移行を考慮し、1.5GHz 帯電波

を用いて得られた前年度までの結果に基づき、生物学的解析手法では 2GHz 帯電波の生

体影響を、工学的解析手法では 2GHz 帯にも応用可能なモデルの構築を検討した。

169

結 論

本研究では、携帯電話端末に使用されている周波数帯の高出力局所電波ばく露が、

局所または全身の生体影響を及ぼすかどうかについてラットを用いて検討し、生体影

響を惹起するばく露量の閾値及びその作用機序について工学的解析手法も取り入れ解

明した。

生物学的解析手法を用いた研究の結果、2GHz帯電波のラット脳に対する高出力局所

ばく露において、脳表温度、直腸温度、脳表血流、そして血液脳関門透過性に影響を

及ぼすことを検出した。また、これらの中で各部温度上昇及び脳表血流増加には電波

強度との間に直線回帰の関係が認められ、回帰モデルを仮定することにより生体影響

を惹起しうるばく露強度の推測を可能とした。さらに、検出した生体影響の関係性か

ら、脳表血流増加は電波ばく露により惹起された各部温度上昇に起因しているという

仮説を立て、実測データを用いて検証した。 一方、並列して実施した工学的解析手法を用いた研究では、上記実験結果及び昨年度

までに得られた結果を基に、幼若ラットの麻酔下における脳血流の温度依存性について

モデル化を行った。解析手法を用いて幼若ラット頭部に電波をばく露した結果、脳血流

量は直腸温度のみならず脳組織の温度上昇に依存することが示唆された。さらに、局所

ばく露時の局所 SAR と上記血流モデルを組み込んだ体内温度上昇の計算機シミュレー

ションを行った結果と実測値との比較においては、脳表の温度上昇について 4, 8 週齢

のラットはともに、測定位置による不確定性の考慮を含め十分一致した結果を得た。

局所電波ばく露強度に対する生体影響に関してその存在や用量反応関係を明確に示

した知見は多くない。このため局所ばく露指針値の根拠となり得る新たな知見が求めら

れていた。今回、我々の研究で得られた結果は局所ばく露指針値根拠を補強する一助と

なるであろう。今後、生体影響惹起の作用機序をさらに解明していくと共に、低出力ば

く露領域に対する生体影響の可能性についても検討を進める必要がある。

171

3.3 頭部局所電波ばく露の及ぼす生体影響評価とその閾値

の検索

サブテーマ1

実験動物を用いた生体データ取得と生物学的検討

173

Ⅰ 要 旨 局所電波ばく露による生体影響及びこの変化を惹起するばく露強度を検索するため、

周波数2GHz帯の電波及びラットを用いて検討した。その結果、まず、18分間の高出力

局所電波ばく露により脳表及び直腸温度、脳表血流、血液脳関門透過性が変化するこ

とを確認した。次に、電波強度に対する各部温度上昇及び脳表血流増加の用量反応関

係に直線回帰関係があることを明らかにし、この回帰モデルを用いると生体影響を惹

起するばく露強度が予測できることを確認した。さらに、脳表温度上昇と脳表血流増

加との相関関係から、生物学的及び工学的解析を進める上で重要となる生体影響惹起

に対する脳局所電波ばく露の作用機序を提案した。

174

Ⅱ 研究目的

本研究の目的は、実験動物を用いて局所吸収指針値の根拠になり得る再現性のある

生体影響を検索し、加えてばく露量との関係を明らかにすることにある。 電波ばく露による生体影響、とりわけ低出力電波に対する影響については再現性の

ある知見が乏しい上、用量反応関係についても明確になっていないため、生体影響の

有無を含めた調査の必要がある。携帯電話端末で使用されている周波数帯の電波によ

る生体影響は熱作用と非熱作用の2つに大別される。熱作用は、生体組織に温度上昇を

もたらす高出力ばく露に起因する影響のことで、既に多くの再現性のある知見が報告

されている。一方、非熱作用は、組織温度上昇を惹起しない低出力ばく露に起因する

影響のことで、これまでにもいくつかの報告はあるが再現性の検証に耐えうる知見は

少ない。例えば、Huberらのグループ[1,2]がヒトボランティアを用いた実験において、

頭部への局所電波ばく露(SAR 1.0W/kg)が大脳皮質に血流量増加をもたらすと報告

した。しかし、我々が行ったラットを用いた実験においては、ICNIRP(国際非電離放

射線防護委員会)が定める局所吸収指針値の2.4倍に相当する局所平均SAR 4.8W/kgの

電波ばく露を施しても、血流変化を含む脳微小循環動態に影響は認められなかった

[3,4]。対象の種差やばく露条件の違いはあるが、非熱作用がヒトでしか見られないと

いうのは考えにくい。また、報告されている非熱作用については、生理学的変化に見

られる用量反応関係が示されていない場合が多い[5]。こういった背景があること、さ

らには利用者が急増している携帯電話端末が低出力電波を使用していることから、諸

外国においても非熱作用の存在について調査が進められている。

熱ストレス影響に関しては1980年代より研究が進められ再現性のある知見が多数存

在している[8,9]。一方、局所吸収指針値については「局所組織において1以上の温度

上昇を避ける」が根拠となっており、眼球への局所ばく露時の白内障発生等が考慮さ

れてはいるものの、これ以外の明確な生物学的指標(熱作用領域を含む)は少ない。

そのため、新たな生体影響を検索し、知見として加えることが必要とされている[6]。

そこで本研究では、その必要性に応えるために次の項目についてラットを対象とし

て検討する。まず、熱作用のない低出力から熱作用が生じる高出力までの領域の電波

を用いて、再現性が認められる生体影響をスクリーニングする。次に、検出できた生

体影響について、電波ばく露量との間に用量反応関係が成立するかどうかを検討する。

最後に、生体反応変化が非熱作用と熱作用のどちらに依存するのかを各部位の温度デ

ータに照らし合わせ、その作用機序について考察を加える。

なお、本年度は新たな取り組みとして2GHz帯の電波に対する生体影響を評価する。

175

2GHz帯の電波は、第三世代携帯電話の無線アクセス方式の一つであるW-CDMAとし

て既に国内で広く普及している。欧米でもUMTS方式と呼ばれて普及しており、この

普及にあわせて2GHz帯電波が及ぼす生体影響に関する研究が精力的に進められてい

る。これに対し日本国内においては、2GHz帯の生体影響に関する研究はまだ始まった

ばかりでデータ蓄積が乏しい状態である。また、欧米を始めとする関係諸国と生体影

響に関する協議を進める上でも、独自のデータを取得し提示することが必要である。

そこで、前年度までに1.5GHz帯の電波を用いて得られた結果を参考に、2GHz帯電波

に対する影響についての基礎データを収集する。

176

Ⅲ 試験方法 3.1 実験動物

実験動物として 8 週齢の雄性 Sprague Dawley ラットを用いた(32 匹、320-400g)。全てのラットは、室温 23±1、湿度 50±10%、明暗が 12 時間ごとに切り替わる室内

にて飼育し、固形飼料は自由給餌、水は自由給水とした。

3.2 クラニアルウィンドウ装着

ラットの脳軟膜微小循環動態を直視的に観察するため、電波ばく露実験 1 週間前にラ

ット頭部に長期埋込型クラニアルウィンドウ(頭窓、4mmφ)[3]を装着した。麻酔(ケ

タミン:キシラジン、100:10mg/kg、i.m.)を処した 7 週齢のラットを脳定位装置に固

定した。電動ドリルを用いて左大脳半球側頭頂部の頭蓋骨を直径 4.5mm の円形に切除

し、開口部の脳硬膜を切除した。最後に、開口部にクラニアルウィンドウを挿入しシア

ノアクリレート系接着剤にて固定した。

図 1 埋込型クラニアルウィンドウ

ラット左大脳半球頭頂部に埋め込まれているウィンドウを介して、 細動脈、細静脈、毛細血管を含む脳軟膜微小血管床が観察できる。

177

3.3 生体影響観察

ラットは、麻酔処置(ケタミン:キシラジン、100:10mg/kg、i.m. + ペントバルビタ

ール、12.5mg/kg、s.c.)したのち、アクリル製脳定位装置にて保持し、後述するアン

テナ下に配置した。腹部には 42に維持した温水灌流型プレートを敷き、室温は 23±

1に保った。

図 2 電波ばく露及び生体影響観察システム

3.3.1 各部温度計測

光ファイバー温度計(m600、LUXTRON、Canada)を用いて血流計測中の脳表標

的組織(以下、「脳表」または「Dura」という。)、直腸(以下、「Rectal」という。)の

各温度を同時計測した(図 2)。脳表温度計測用の光ファイバープローブは、標的組織

直上の頭頂部右頭蓋骨にあけた直径約 0.5mm の穴から挿入し、硬膜上に留置した。直

腸用のプローブは挿入カテーテルを介して直腸内に留置した。また、温度変化について

は 1 分間の平均値により示した。なお、温度計用プローブは光ファイバー製のため電波

による干渉を受けない。

178

3.3.2 脳表標的組織血流計測

レーザードップラー血流計(FLO-C1、OMEGAWAVE、Japan)を用いてラット右

大脳半球頭頂部の脳表標的組織血流量(以下、「脳表血流」という。)を計測した(図 2)。

標的組織直上の頭頂部右頭蓋骨に直径約 0.5mm の穴を 1mm 間隔で 2 つあけ、2 本あ

る血流計測用光ファイバープローブをそれぞれに挿入し硬膜上に留置した。脳表血流変

化は 200Hz でサンプリングしたが、平均の血流変化を示すために計測値の 1 分間平均

を用いた。また、取得された脳表血流変化を個体間で比較するため、昇圧剤であるノル

エピネフリン(NE: 1.0µg/kg i.v.)を実験終了時に投与し、得られた血流増加パターン

を校正用波形(最大値を 100%)とした。なお、血流計測用光ファイバープローブは電

波による干渉を受けない。

3.3.3 生体顕微鏡的観察

脳表(埋込型クラニアルウィンドウ下)の脳軟膜微小循環動態は蛍光実態顕微鏡を用

いて生体顕微鏡的に観察した(図 2)。アンテナ下にセットしたラットを蛍光実体顕微

鏡(MVX10、OLYMPUS、Japan)下の電動ステージ(LEP5、Ludl Electronic Products

Ltd.、USA)上に配置した。実体顕微鏡により観察された蛍光像はフィルターを介した

のち高感度 CCD カメラ(C7190、HAMAMATSU、Japan)により撮影した。

3.3.4 血液脳関門透過性観察

脳表血管の血液脳関門透過性は、静脈内投与した蛍光色素の脳軟膜血管外漏出を指標

に評価した。2 種類の蛍光色素 FITC-Dx(2000kDa、25mg/ml/kg)及び Sodium

fluorescein(MW: 376、2%、100µl/kg)をそれぞればく露前及びばく露後にラット尾

静脈から投与した。蛍光色素投与後、細静脈を含む脳軟膜血管床を励起光 490nm の蛍

光顕微鏡下で観察し、蛍光色素の血管外漏出及び蓄積がスポット状に認められた場合を

透過性亢進有りと判定した。

3.4 頭部局所電波ばく露

8 の字ループアンテナを用いてラット頭部に電波を局所ばく露した。アンテナは、ラ

ット頭頂部頭蓋骨から 4mm、アンテナの中心がラット頭蓋骨の bregma-lambda 軸上

に位置するように配置した(図 2)。シグナルジェネレータ(MG3700A、Anritus、Japan)

179

より周波数 1950MHz の W-CDMA 方式の信号を発生させ、パワーアンプ

(A1822-5050-R、R&K、Japan)により増幅した後にパワーリフレクションメーター

(NRT、ROHDE & SCHWARZ、Germany)及び L 型コネクタを介してアンテナに入

力した。電波ばく露は、各計測プローブ留置後、6 分間の前値を取得してから開始した。

ばく露時間は麻酔からの覚醒影響を避けるため 18 分間とし、ばく露強度は脳平均 SAR(または「BASAR」と呼ぶ。)を指標に 22.5、75、150W/kg の 3 条件を設けた。また

合わせて偽ばく露群(0W/kg)も設け Sham 群とした。各ばく露強度に対し 7~9 匹の

ラットを使用し、ラットはそれぞれ 1 回だけばく露した。表 1 に脳平均 SAR と各平均

SAR との関係を示す。

表 1 脳平均 SAR に対する各平均 SAR 値(W/kg)

脳 全身平均 左大脳半球脳表

(温度・血流計測)

右大脳半球脳表

(脳軟膜観察側)

22.5 1.2 39.0 66.6

75 3.9 129 222

150 7.5 258 444

3.5 解析

数値は平均値±標準誤差(Mean±SEM、各群 n=7-9)で示した。統計学的有意差

はクラスカルウォリス及びマンウィトニーU検定を用いた。

180

Ⅳ 試験結果 4.1 電波ばく露時に検出された生体影響

本実験条件において電波ばく露中に脳表温度、直腸温度、脳表血流、そして血液脳関

門透過性に変化が生じることを確認した。電波ばく露中生体影響の典型例として図 3 に、

ラット頭部を脳平均SAR 150W/kgでばく露したときの各部温度及び脳表血流変化を示

す。ばく露開始後、各部温度及び脳表血流は上昇した。脳表温度はばく露開始直後から

急激に上昇し、約 4 分間で 42に達した。その後の上昇はこれより緩やかとなり、ば

く露開始 18 分後は 46であった。これに対し直腸温度はばく露開始から緩やかに上昇

し、18 分後に約+2となるまで直線的に変化した。ばく露開始前の脳表温度(33)

は直腸温度(36.6)に比べ 3.6程度低かったが、ばく露 18 分後にはこの関係は反

転し脳表温度が直腸温度に比べ 7.6高くなった。脳表血流はばく露開始 30 秒後から

増加し始め、ばく露開始 17 分後までほぼ直線的に増加した。しかし、この血流増加は

その後はほぼ一定に保たれた。また、後述するがこの血流安定期に血液脳関門透過性が

亢進した。

32

34

36

38

40

42

44

46

48

0 360 720 1080 1440Time (sec)

Tem

pera

ture

(

) Dura

Rectal

(a)各部温度

-5

0

5

10

15

20

0 360 720 1080 1440

Time (sec)

Blo

od

flow

(b)脳表血流

図 3 BASAR 150W/kg の電波ばく露中の生体影響

(b ではノイズ除去のために脳表血流を 20sec 間隔の移動平均で示している。)

181

4.2 電波ばく露時の温度上昇

図 4 に 18 分間の電波ばく露により上昇した脳表及び直腸温度を示す。 脳表温度はいずれのばく露強度においても有意に上昇した。脳表温度上昇は

22.5W/kg、75W/kg、150W/kg の各ばく露条件においてそれぞれ 2.4、6.4、12.9

であった。また、これら温度上昇は電波強度に依存していた。Sham 群でも 0.3の脳

表温度上昇が認められたが麻酔からの覚醒影響の可能性がある。

直腸においても全てのばく露強度において有意な温度上昇が認められた。Sham 群の

0.2に対し、22.5W/kg、75W/kg、150W/kg の各ばく露群においては 0.5、0.8、

1.9の温度上昇がそれぞれ認められ、脳表と同じくこれら温度上昇は電波強度に依存

していた。

Dura

0

2

4

6

8

10

12

14

0 22.5 75 150

BASAR (W/kg)

Tem

pera

ture

incr

ease

(

)

**

**

**

Rectal

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

0 22.5 75 150

BASAR (W/kg)

Tem

pera

ture

incr

ease

(

)

**

**

**

(a) 脳表 (b) 直腸

図 4 18 分間の電波ばく露による温度上昇

(Mean±SEM、n=7-9、**:P<0.01 v.s 0W/kg)

4.3 電波ばく露時の脳表血流増加

図 5 に 18 分間の電波ばく露により増加した脳表血流を示す。脳表血流はいずれのば

く露強度においても有意に増加した。22.5W/kg、75W/kg、150W/kg の各ばく露条件に

おいてそれぞれ 23.5%、45.3%、69.2%の血流増加が認められ、さらにこの増加は電波

強度に依存していた。Sham 群でも 8.5%の血流増加が認められたが麻酔からの覚醒に

起因する可能性がある。

182

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

0 22.5 75 150

BASAR (W/kg)

Blo

od f

low

(% o

f m

axi

mal i

ncre

ase

)

*

**

**

図 5 18 分間の電波ばく露による脳表血流増加

(Mean±SEM、n=7、*:P<0.05 v.s 0W/kg 、**:P<0.01 v.s 0W/kg、)

4.4 電波ばく露時の血液脳関門透過性亢進

血液脳関門透過性亢進は 150W/kg の電波ばく露条件でのみ認められた。透過性亢進

の指標とした静脈内投与蛍光色素の脳軟膜血管外漏出の有無は、18 分間のばく露中に

おいて直視下かつリアルタイムで観察した。しかし、蛍光色素のスポット状の血管外漏

出は 150W/kg でしか観察されず(図 6)、Sham を含む 75W/kg 以下のばく露条件では

認められなかった(表 2)。また、変化の見られた 150W/kg 群においても、ばく露後

15 分以上経過してから蛍光色素の漏出が現れた。

血液脳関門透過性には分子量依存性があることから、本実験では大小 2 種類の分子量

の蛍光色素を用いて評価した。いずれの蛍光色素についても 150W/kg 以外の条件では

血管外漏出は観察されなかった。

183

(a) ばく露開始前 (b) ばく露開始 18 分後

図 6 150W/kg 電波ばく露による血液脳関門透過性亢進

クラニアルウィンドウを介して観察された脳軟膜血管床蛍光顕微鏡像

b では蛍光色素の漏出が認められた。

表 2 18 分間の電波ばく露が血液脳関門透過性に及ぼす影響

BASAR (W/kg) 透過性亢進 / 観察個体数

0 0 / 4

22.5 0 / 5 75 0 / 5

150 5 / 5

184

Ⅴ 考 察

5.1 電波強度と温度上昇の関係

本実験では 18 分間の電波ばく露に対し、全ばく露強度で各部温度が有意に上昇した。

そこで、電波強度と各部温度上昇との用量反応関係を調べた(図 7)。その結果、電波

強度と脳表温度、電波強度と直腸温度の関係において、いずれも有意な直線回帰が認め

られた(脳表:P<0.01、直腸:P<0.01)。また、この直線回帰について R2を求めると、

脳表温度上昇との関係、直腸温度上昇との関係は 0.984、0.896 であり、直線の傾きに

対する 95%信頼区間は脳表で 0.083±0.004、直腸は 0.011±0.001 であった。したがっ

て、今回の実験系に限定されるが、この回帰モデルに電波強度を与えることで各部の温

度上昇がおおよそ予測できると言える。

得られた直線回帰を用いることにより、既知の生体影響を生じさせる可能性のある電

波ばく露量の閾値を予測した。まず、ラット脳に対する生体影響として血液脳関門透過

性について検討した。ラットでは脳内温度が 42を越えると血液脳関門の透過性が生

じることが報告されている[7]。本実験におけるラット脳表の初期温度はおおよそ 34であった。そこで、8の脳表温度上昇を想定し直線回帰により 18 分のばく露で透過

性亢進を惹起させる BASAR を予測したところ 92W/kg であった。次に、一般に健康へ

の障害が生じるとされる 1の直腸温度上昇を 18 分間で惹起させるばく露量を予測し

た。その結果、77W/kg であった。これらいずれの BASAR 値も局所防護指針値の

2.0W/kg と比較すると約 40 倍かそれ以上に高い。

局所防護指針値は人体に対して定められたもので、本実験で得られたラットの結果と

単純比較することはできない。一般に小動物では、局所ばく露でさえも全身平均 SAR

が上昇すること、また、熱調整系が十分発達していないことを考慮すると、ラットは人

体に比べ電波ばく露に対する熱上昇が生じやすいと考えられる。したがって、防護指針

値レベルのばく露量が、ここで取り上げた生体影響を人体に生じさせる可能性は極めて

低いことが示唆される。

185

y = 0.0833x + 0.3357

R2 = 0.9837

0

2

4

6

8

10

12

14

16

0 25 50 75 100 125 150 175

BASAR (W/kg)

Tem

pera

ture

incre

ase (

)

y = 0.0109x + 0.1584

R2 = 0.896

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 25 50 75 100 125 150 175

BASAR (W/kg)

Tem

pera

ture

incre

ase (

)

(a) 脳表 (b) 直腸

図 7 電波ばく露強度と各部温度上昇との関係 (各プロットは 18 分間の電波ばく露による温度上昇を示す。)

5.2 電波強度と脳表血流増加の関係

本実験では 18 分間の電波ばく露に対し、全ばく露強度で脳表血流が有意に増加した。

そこで、各部温度評価と同様に電波強度と血流増加との関係を調べた(図 8)。その結

果、電波強度と血流増加の関係において有意な直線回帰が認められた(P<0.01)。また、

この直線回帰について R2を求めると、血流増加との関係は 0.718 であり、直線の傾き

に対する 95%信頼区間は 0.394±0.099 であった。この信頼区間は電波強度と温度上昇

に見られたそれと比較すると広い。しかし、脳表血流変化がノルエピネフリン投与時の

最大血流増加に対する割合で算出されていることを考慮すると、今回の実験系に限定さ

れるが、得られた回帰モデルに電波強度を与えることで脳表における血流増加がおおよ

そ予測できる。 この回帰モデルを用いて 18 分間の脳局所ばく露により脳表血流増加を惹起するばく

露強度を予測した。残念ながら、本実験結果に適用できるラット脳血流変化に関する知

見が過去の報告に見あたらないため、本実験で用いたノルエピネフリン反応に対する

50%血流増加で検討した。その結果、BASAR 96W/kg の 18 分間のばく露がこの変化を

惹起する可能性が示された。この値は先の脳表温度を 42以上にするため、または、

直腸温度を 1上昇するために必要だと予測されたばく露量に近い。この「50%」とい

う数値の意味については今後考える必要があるが、これだけの血流増加を脳表で惹起す

るには局所ばく露指針値の 40 倍以上の出力が必要であることが示唆される。

186

y = 0.3936x + 12.28

R2 = 0.7182

-20

0

20

40

60

80

100

120

0 25 50 75 100 125 150 175

BASAR (W/kg)

Blo

od

flow

(% o

f m

axim

al incre

ase)

図 8 電波ばく露強度と脳表血流増加との関係

(各プロットは 18 分間の電波ばく露による脳表血流増加を示す。)

5.3 回帰モデル適用における制約と課題

ばく露強度に対する各部温度上昇及び脳表血流増加の関係から今回得られた回帰モ

デルには制約があり、以下のことを考慮する必要がある。

まず、今回の回帰モデルにはばく露時間長に関する要素が組み込まれていない。この

回帰モデルは 18 分間のばく露によって得られたデータに基づくものである。つまり、

それ以外のばく露時間に対して同様に適用できるとは限らない。本実験において各部温

度の時間変化を観察したところ、脳表温度上昇はばく露 6 分以降で安定してきたのに対

し、直腸温度についてはばく露時間に比例して直線的に上昇した。工学的解析結果でも

示されている通り、全身平均 SAR が無視できないことが一要因である。したがって、

ばく露時間を延長した場合、温度、血流ともにさらに上昇する可能性がある。サイズが

小さく心拍数の多いラット脳における熱輸送の時定数は人体のそれ(6 分間と見積もら

れている)に比べ短いと考えられる。しかし、本実験のような局所ばく露の場合は、対

象とする組織によって時定数に大きな差が生まれ、6 分以上の時定数を持つ可能性も否

定できない。局所ばく露の及ぼす生体影響を予測する上ではこの点にも気をつけなけれ

ばならない。

187

次に、今回の回帰モデルでは、局所ばく露指針値に近い低強度のばく露領域における

生体影響を予測することは難しい。本モデルが局所吸収指針値に比べ数十倍も高い出力

領域で得られた結果に基づいているからである。確かに 0W/kg のばく露強度を含めた

直線回帰は有意であり、計算上では 0W/kg までの低ばく露領域でも生体影響を推測で

きる。しかし、実際には 22.5W/kg 以下のばく露強度に対する計測値は得ていない。さ

らに、局所吸収指針値に近い強度のばく露では熱作用や生体反応を生じないというデー

タが多数存在する。したがって、このばく露領域での生体反応の予測はまだできない。

今後さらにデータを取得して関係を明らかにすると共に、工学モデルによる数値解析の

更なる高精度化を進める必要がある。

5.4 脳表温度上昇と脳表血流増加の関係

電波ばく露時の脳表血流増加と脳表温度上昇は類似した用量反応関係を有していた。

本実験において、脳表血流増加は電波強度と直線回帰の関係にあった。また、同様の関

係が脳表温度上昇と電波強度との間にも認められた。生体組織の温度上昇が組織血流を

増加するとの報告がある[8]ことから、本実験で観察された脳表血流増加と脳表温度上

昇についてその関係を調べた。その結果、ばく露開始直後には両者の間に相関が認めら

れなかったが(図 9 ( a))、18 分間後には有意な正の相関が現れた(図 9 (b))。このこと

から脳表局所の温度上昇が何かしらの作用機序を介して脳表局所の血流増加に関与し

ていることが示唆される。ただし、この関係は両者の因果関係を示すものではなく、し

たがって、回帰モデルのように血流増加を温度上昇でもって推し量ることは出来ない。 脳表血流増加に対しては、脳表温度上昇だけでなく直腸温度上昇も影響を及ぼしてい

る可能性がある。ばく露 18 分後の脳表血流増加に対する正の相関は脳表温度上昇だけ

ではなく直腸温度上昇においても認められた(図 9 ( d))。したがって、脳表血流増加に

対しては直腸温度上昇の影響も否定できない。直腸温度上昇もまた何らかの機序を介し

て脳表血流を修飾していることが示唆される。

188

-4

-2

0

2

4

6

8

0 1 2 3 4

Tempererature increase ()

Blo

od f

low

(% o

f m

axi

mal in

cre

ase

)

-20

0

20

40

60

80

100

120

0 5 10 15

Tempererature increase ()

Blo

od f

low

(% o

f m

axi

mal in

cre

ase

)

(a)脳表 電波ばく露 1 分時 (b)脳表 電波ばく露 18 分時

-4.0

-2.0

0.0

2.0

4.0

6.0

8.0

-0.05 0.00 0.05 0.10

Tempererature increase ()

Blo

od f

low

(% o

f m

axi

mal i

ncre

ase

)

-20

0

20

40

60

80

100

120

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5

Tempererature increase ()

Blo

od f

low

(% o

f m

axi

mal in

cre

ase

)

(c)直腸 電波ばく露 1 分時 (d)直腸 電波ばく露 18 分時

図 9 各部温度と脳表血流との関係

5.5 脳表血流増加の作用機序

脳局所電波ばく露により惹起される脳表血流増加は、同じくこのばく露により惹起さ

れる各部温度上昇が一要因であると示唆された。そこで、これまでに報告されている知

見[9]と合わせ、我々は図 10 に示す作用機序を仮定した。頭部局所ばく露は脳表局所温

度を上昇し脳微小循環系変化を介して脳局所血流を増加する。一方、これとは別に、脳

深部視床下部及び直腸温度(深部体温)の上昇が、神経・ホルモン系を介して心血管系

に影響を与え全身性血流を増加すると考えた。今回用いた電波ばく露は局所性が高く、

ラット体部を直接加熱し直腸温度を上昇する可能性は低い。しかし、生体では血流が存

189

在するため、血液循環により容易に熱伝搬が起こりうる。したがって、局所ばく露によ

り脳に生じた熱は同時に体部へと伝搬され、これが引き金となる血流増加もある程度の

遅延をもって現れると考えた。

図 10 電波ばく露による脳表血流増加の作用機序仮説

各部温度上昇と脳表血流増加の相関はこの仮説を一部裏付けてくれる。脳表温度上昇

と脳表血流増加、直腸温度上昇と脳表血流増加の相関関係はばく露開始より時間と共に

変化した。この相関係数の時間変化を脳表温度と直腸温度とで比較するとそれぞれの推

移に差異が認められた(図 11)。脳表血流増加に対する相関の強さは、ばく露開始から

7 分間は脳表血流上昇の方が優位だが、時間経過とともに直腸温度上昇のそれも同程度

となった。局所ばく露により生じた局所血流増加に対し、時間経過とともに全身性血流

増加が加わっていくことをこの変化が示している可能性がある。

190

-0.1

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

Period

相関

係数

Dura-Blood flow

Rectal-Blood flow

図 11 各部温度-脳表血流相関の電波ばく露開始後の推移

(図 9 から得られる相関係数をばく露開始後から 1 分毎に求めプロットしている。)

5.6 血液脳関門透過性亢進の閾値

高出力の電波ばく露が血液脳関門透過性を亢進することは既に多数報告されている。

本実験では BASAR 150W/kg で透過性亢進が観察された。この時の観察対象としたク

ラニアルウィンドウ下の組織平均 SAR は 444W/kg であり、脳表温度は 44以上であ

った。これに対し過去の報告で示されているラット血液脳関門透過性亢進時の閾値は、

BASAR で 7.5W/kg、脳内温度では 42とされている。つまり、我々が得た閾値はこ

れらより明らかに高く、大きな乖離が認められた。これについては、おそらくばく露時

間や評価方法の違いなどの問題が考えられる。今後さらに検討が必要である。

5.7 課題と工学的アプローチ

局所電波ばく露の及ぼす脳表血流増加のばく露強度閾値を明らかにするためには、本

実験の結果から考えた仮説をもとに生物学的及び工学的側面からさらに作用機序を解

明していく必要がある。本実験では、脳表血流増加と各部温度上昇との間に相関が認め

られた。しかし、これら二つの生体影響を結ぶ作用機序や因果関係が明らかでないため、

関係性のモデル化や閾値の推測が現時点ではできない。したがって、生物学的検討によ

る作用機序の解明を進め、この血流増加に対しては熱上昇が支配的であることを立証し、

熱上昇制御に基づくデータを取得しなくてはならない。一方、生物学的検討が困難な場

191

合がある。例えば、局所ばく露時の頭部から体部への熱伝搬、全身の主要組織・器官に

おける温度上昇は計測そのものが難しい。さらに、電波ばく露実験には、電波強度の他

にばく露時間のパラメータがあり、各生体反応の閾値を調査するためのばく露条件は無

数にあると言ってよい。したがって、このような検討は現在並列に進めている数値モデ

ルによる工学的解析の方が適している。今後も、二つの側面から得られた結果を照らし

合わせながら閾値を解明していくことが重要と言える。

192

Ⅵ まとめ 局所電波ばく露による生体影響及びこの変化を惹起するばく露強度を検索するため、

2GHz 帯電波及びラットを用いて検討した。その結果、脳表温度、直腸温度、脳表血流、

そして血液脳関門透過性に、ばく露に起因する有意な生体影響を認めた。また、これら

の中で各部温度上昇及び脳表血流増加には電波強度との間に直線回帰の関係が認めら

れ、回帰モデルを仮定することにより生体影響を惹起しうるばく露強度を推測できた。

さらに、脳表温度上昇と脳表血流増加との間には強い正相関が存在していることから、

脳局所ばく露から脳表血流増加に至るまでの機序を仮定し、工学的解析を進める上に必

要な情報を提供した。実験動物を用いたこれまでの報告には、局所電波ばく露強度に対

する生体反応に関して用量反応関係を明確に示した知見は多くない。そのため局所ばく

露指針値の根拠となる再現性のある知見が求められていた。今回、本実験で得られた結

果は局所ばく露指針値根拠を補強する上で重要であると思われる。

193

Ⅶ 参考文献

[1] Huber R, Treyer V, Borbely AA, Schuderer J, Gottselig JM, Landolt HP, Werth

E, Berthold T, Kuster N, Buck A, Achermann P. Electromagnetic fields, such as those from mobile phones, alter regional cerebral blood flow and sleep and

waking EEG. J Sleep Res. 2002 11:289-95.

[2] Huber R, Treyer V, Schuderer J, Berthold T, Buck A, Kuster N, Landolt HP, Achermann P. Exposure to pulse-modulated radio frequency electromagnetic

fields affects regional cerebral blood flow. Eur J Neurosci. 2005 21:1000-6.

[3] Masuda H, Ushiyama A, Hirota S, Wake K, Watanabe S, Yamanaka Y, Taki M and Ohkubo C. Effects of acute exposure to a 1439 MHz electromagnetic field on

the microcirculatory parameters in rat brain. In Vivo. 2007 21:555-62.

[4] Masuda H, Ushiyama A, Hirota S, Wake K, Watanabe S, Yamanaka Y, Taki M and Ohkubo C. Effects of subchronic exposure to a 1439 MHz electromagnetic

field on the microcirculatory parameters in rat brain. In Vivo. 2007 11:563-70.

[5] ICNIRP. Exposure to High frequency electromagnetic fields, Biological effects and health consequences (100kHz-300GHz). 16/2009.

[6] Adair E.R, Adams B.V. and Akel G.M. Minimal changes in hypothalamic

temperature accompany microwave-induced alteration of thermoregulatory behavior. Bioelectromagnetics. 1984 5:13-30.

[7] Lin J.C. and Lin M.F. Microwave hyperthermia-induced blood-brain barrier

alterations. Radiat Res. 1982 89:77-87.

[8] Jia F, Ushiyama A, Masuda H, Lawlor GF, Ohkubo C. Role of blood flow on RF

exposure induced skin temperature elevations in rabbit ears.

Bioelectromagnetics. 2007 28:163-72.

[9] Gordon C.J. Temperature regulation in laboratory rodents. Cambridge

university press.

195

3.3 頭部局所電波ばく露の及ぼす生体影響評価とその閾値

の検索

サブテーマ2

物理・工学的解析手法を用いた検討

197

Ⅰ 要 旨 サブテーマ(生物学的検討、以下「サブテーマ」は生物学的検討のことを指す。)に

おいて 1.5 GHz の局所電波ばく露の及ぼす 4、8 週齢ラットへの生物学的影響について

脳表血流量を指標として検討を行った(平成 19-20 年度)。サブテーマの結果より、

いずれの週齢のラットにおいても脳表標的組織、咽頭部皮下、直腸の温度上昇を伴うレ

ベルの電波ばく露により脳表血流の増加が認められた。また、電波ばく露量、脳表血流

量、各部位温度の関係から、本実験条件における脳表血流増加は電波ばく露により惹起

された直腸温度上昇に起因していることなどが示唆された。これらの結果の考察には工

学的見地から定量評価することが望まれる。本調査研究では、サブテーマに対応する数

値シミュレーションモデルを構築し、実験より得られた結果の考察の一助とすることを

目的としている。

198

Ⅱ 研究目的

ユビキタスネットワーク社会の到来により、電波が一般生活の至る所で利用される一

方、電波の健康への影響に関する関心が高まっている。携帯電話端末等に使用されるマ

イクロ波帯の電波による人体への影響は、主に電力吸収により生ずる熱作用とされ、そ

の評価量として単位質量あたりの電力吸収量、即ち SAR(Specific Absorption Rate(比

吸収率))[W/kg]が用いられている。これをベースとした電波ばく露に対する安全指針

が世界各国において構築されている。我が国の電波防護指針[1]では、平成 9 年に局所

吸収指針が追加され、100kHz から 3GHz までの周波数の電波に対し、全身平均 SARと局所SARで指針値が設けられている。ここで、全身平均SARは全身の熱ストレスを、

局所 SAR は過度の局所加熱を防ぐための指標とされる。全身平均 SAR と体内深部温度

上昇の相関性については、1980 年代よりばく露実験が行われてきたが、近年では数値

計算による検証も行われている。一方、電波を全身に浴びた場合の局所ピーク SAR は、

全身平均 SAR の 20 倍を超えないとされている根拠があるものの、生理学的に十分な

検証が行われてきたとは言い難い。また、動物実験を行う際は倫理上の観点から麻酔下

で行われるが(例えば[2])、その一方で生体組織の温度上昇に対する麻酔の影響につい

ては熱生理学的な観点からの検証が十分とは言い難い。

本研究は、まず、平成 20 年度のサブテーマの結果に基づき、麻酔下における脳血流

の温度依存性についてモデル化を行った。次に、局所ばく露時の局所 SAR と上記血流

モデルを組み込んだ体内温度上昇の計算機シミュレーションを実施し、その考察を行っ

た。

199

Ⅲ 試験方法 3.1 ラット数値モデル

本研究では文献[3]で構築された 4、8 週齢の幼若ラット数値モデルを用いる。図 1 に

各モデルの概観を示す。本モデルは、独立行政法人 情報通信研究機構にて CT 画像を

もとに構築されたものであり、皮膚(Skin)、筋肉(Muscle)、脂肪(Fat)、骨(Bone)、脳(Brain)、目(Eye)の 6 種類の組織で構成されている。また、モデルの分解能は

0.25mm であるが、本研究の計算で用いる際には、計算負荷の軽減のために、分解能を

0.25mm から 0.5mm になるようにモデルを再構成した。

3.2 電磁界解析手法

電磁界解析手法としては、FDTD 法[4]を用いた。FDTD(Finite Difference Time Domain)法では空間を微小領域に分割する必要があるが、モデルの解像度と一致する

ように 0.5mm とした。計算領域とモデル配置図を図 2 に示す。また、解析領域の終端

には境界条件が必要となるが、本研究においては、完全整合条件を用いた。また、FDTD法において、SAR は正弦的に変化する電界に対して以下の式で表される。

図 1 幼若ラット数値モデル

(a) (b)(a)4 週齢 (b)8 週齢

200

2||

2E

ρσ

=SAR (1)

ここで、 || E [V/m]は正弦的に変化する電界の最大値、ρ [kg/m3] は組織の密度、σ [S/m]

は組織の導電率である。

アンテナへの入力電力は、サブテーマの実験と同等となるように 1.47 GHz の正弦波と

した。アンテナモデルは同実験で用いられたものを数値モデル化したものであり、共振

周波数が 1.47GHz となるように作られている。また、SAR 分布を計算する際は、アン

テナへの出力電力が 1W となるように規格化を行った。

(b) Front view

(c) Side view

47 [cell]

40 [cell]

103 [cell]

4 weeks52 [cell]

8 weeks45 [cell]

(a) Bird’s-eye view

319 [cell]

259 [cell]

494[cell]

図 2 電磁界解析時のモデル配置図

201

3.3 体内熱輸送方程式

本研究では、式(2)にて表される SAR による発熱の項が追加された生体熱輸送方程式

[5]を、FDTD 法を用いて計算することで、生体内の温度分布を計算する。また、外気

と接する組織には式(3)にて表される境界条件を適用する。

( ) ( ) ( ) ( )( ) ( )

( ) ( ) ( ) ( ) ( )( )tTtTtBSAR

tATKt

tTC

b−⋅−⋅+

+∇⋅⋅∇=∂

∂⋅

,,

,,

rrrr

rrrrr

ρ

ρ

(2)

( ) ( )( ) ( ) ( )

nrrrr

∂∂

−=−⋅tTKTtTH a

,, (3)

ここで、r は組織の座標を表す位置ベクトル、t は時刻、C は比熱[W/kg/]、ρ は密

度 [kg/m3]、T は温度[]、K は熱伝導率[W/m/]、SAR は SAR[W/kg]、B は血流

定数[W/m3 /]、Tb は血液温度[]を表す。また、H は生体表面の熱伝達率[W/m2/]、

Taは外気の温度[]、n は生体表面の法線ベクトルを表す。なお、境界条件は、身体表

面の組織温度を考える際に身体表面に垂直な方向には熱の流れが継続しているとし、外

気と表面組織の温度差を、表面組織と身体表面に垂直な方向に隣接する組織の間の温度

勾配で近似したものである。各組織の熱定数を表 1、2 に、熱伝達率を表 3 に示す。熱

定数である熱伝導率 K [W/m/]、比熱 C [J/kg/]、血流定数 B [W/m3/]については

文献[6]から引用している。

血液温度を示す Tb (t)は、熱保存則を満たすように式(4)に従い変化するようにした[7]。

( ) ( )( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( ) ( )( )( ) [

( ) ( )( ) ]dtdSTtTH

dVttTtTCSARtACV

TtT

S a

t

Vbbb

bb

∫∫ ∫

−⋅−

∆−−⋅⋅−⋅+⋅⋅+

=−

,

,,,

0

0

1

rr

rrrrrrr ρρρ

(4) ここで、Vb、Cb、ρb はそれぞれ血液の体積、比熱、密度であり、2.21×10-6 [m3]、3900[J/kg/]、1058[kg/m3]という値をとる。また、血液は人間の場合でも1分以内に

循環し、ラットは人間に比べて心拍数が約 3~5 倍、かつ寸法も小さいため、循環に要

する時間は数秒オーダーであると考える。このため、血液の循環に要する時間は、体内

温度変化の時定数(数分)に比べて十分小さいため、全身で一定と近似した。幼若ラッ

トへばく露実験を行う際、実験では倫理的な観点から麻酔が施されている。麻酔による

202

体温の低下を防ぐために温水パッドで加熱されるため、ラット下部へ温水パッドを模擬

するための媒質を作成した。温水パッドの温度は 42で固定した。また、外気温は 23あり、肺内の気温は外気温と血液温度の平均値とした。

3.4 熱調整系のモデル化

血流による放熱を示す ( )tB ,r は、皮膚とそれ以外の組織では異なる変化をし、その変

化は皮膚では式(4)に、それ以外の組織では式(5)に従う[8, 9]。

( ) ( ) ( )( )[ ] ( ) ( )( )

( ) ( )( )

⋅−

=∆

⋅∆+−+=

∫−

S

dsTtTT

TFTtTFBtB

SS

TtTSSBHHHB

rrrr rr

0

6/,00

,2, 0

(5)

( ) ( ) ( )( )( ) ( ) ( )( )[ ] ( )( )( ) ( ) ( ) ( )( )

<⋅+⋅=≤<−+⋅=

≤=

tTSBtBtTtTSBtB

tTBtB

B

B

,C4451,C44,C3939,1,

C39,,

o0

oo0

o0

rrrrrrr

rrr

(6) ここで、B 0は各組織の基準となる血流量、 ST∆ は皮膚における平均温度上昇、TH 、 TH0

はそれぞれ視床下部の温度と基準温度である。SB [-1]、FHB [W/m3/2]、FSB [W/m3/2]は血流変化の特性を決める係数であり、それぞれ 0.8-1、17500 W/m3/2、1100

W/m3/2という値をとる[10]。 次に、脳組織における血流量については、実測値に基づくモデル化を行った。ここで、

脳組織における血流量は文献[8]との類似性より直腸と脳組織の温度に依存するとみな

せるものとして取り扱うこととする。血液量は今回用いられている測定法では、その変

化の大きさが相対値として示される。そこで、ばく露実験終了後にノルアドレナリンを

投与することによって生ずる血流量の上昇を用いて規格化することとした。そのため、

式(7)のように安静時の血流量 B(r,0)に対して相対的な変化を与える定式化を行った。

( ) ( ) ( ) ( )( )( ) ( ) ( )( ), ,0 /, ,0 1 0 2 DBT t T F

RB b bB t B F T t T −= ⋅ + ⋅ − ⋅ r rr r (7)

ここで、FRB[W/m3/2]と FDB[-1]はそれぞれ直腸及び脳表の温度変化に伴う血流量変

化に関する係数である。これらの値は、次節で詳細に議論するものとする。

203

表 1 ラットの熱定数(4 週齢・麻酔時)

Tissues K [W/m/] C [J/kg/] B [W/m3/] ρ [kg/m]

Air 0.32 2900 0 0

Skin 0.42 3600 11605 10008

Muscle 0.50 3800 380 2484

Fat 0.25 3000 6299 5432

Bone 0.37 3100 12317 10622

Brain 0.57 3800 15000 12936

Eye 0.58 4000 0 0

表 2 ラットの熱定数(8 週齢・麻酔時)

Tissues K [W/m/] C [J/kg/] B [W/m3/] ρ [kg/m]

Air 0.32 2900 0 0

Skin 0.42 3600 11605 7486

Muscle 0.50 3800 380 1858

Fat 0.25 3000 6299 4063

Bone 0.37 3100 12317 7945

Brain 0.57 3800 16800 10837

Eye 0.58 4000 0 0

表 3 ラットに対する熱伝達率

Tissues H [W/m2/]

Skin-Air or Pad 0.5

Skin-Air(Lungs) 8.1

204

Ⅳ 試験結果と考察 4.1 脳血流のフィッティング

式(7)において FRB及び FDBを決定する必要がある。平成 20 年度サブテーマで実施し

た 4 週齢と 8 週齢のラットに対して測定した結果と対比し、差異が最小となる値を最小

二乗法により求めた。その結果、4 週齢は FRB = 0.054 W/m3/2、FDB = 19-1、8 週齢

は FRB = 0.050 W/m3/2、FDB = 31-1と各係数の値を決定した。この結果より、1.5GHz

のばく露については、8 週齢のラットよりも 4 週齢のラットの方が脳血流の変化が脳組

織の温度上昇に依存する傾向にあるが、今回のモデル化に用いた式(7)では、血流量が

直腸温及び脳表温度の上昇のみに依存すると仮定したことによるものであろう。これら

の係数より、脳血流を2倍に増加するのに必要な温度上昇は、直腸温については 18 か

ら 20 度、脳表温度については、20 から 30 度程度と見積もることができる。この知見

は、脳血流量が、脳内温度に依存することを示唆するものであり、例えば、局所温度に

のみ依存すると仮定したモデル化である式(6)[8, 9]には限界があることを示唆する。更

に、脳血流量の初期値については実測値に基づき、表 1、2 に示すように 4 週齢は

15000[W/m3 /]、8 週齢は 16800[W/m3 /]としたが、差異は1割程度であり、ばらつ

きの範囲内にあると考える。

4.2 温度上昇解析結果

実験を模擬するよう、4 週齢のラットでは脳平均 SAR を 167 W/kg、8 週齢のラット

では脳平均 SAR を 300 W/kg と設定した。ばく露時間は、6 分間とした。直腸(Rectal)

及び脳表(Dura)における温度上昇の解析結果及び脳表における血流量の変化と実測値

[2]の比較を 4 週齢(N=6)については図 4、5 に、8 週齢(N=3)については図 6、7に示す。ここで、脳表における温度上昇と血流量については、測定位置の不確定性を調

べるために、図 3 のように前後左右に合計で約 1 cm の幅で変化させた。その際の変動

幅を図 4、5、6、7 中で破線にて示している。また、解析モデル[3]では直腸組織が詳細

にモデル化されていないため、解析結果では直腸温を血液温度で代替した。なお、直腸

では血液量が十分大きいため、妥当な近似であることが報告されている[11]。

図 4、6 より 4 週齢及び 8 週齢のラットの直腸での温度上昇について、実測値と比較

する。4 週齢では 20%程度、8 週齢では 10%程度、実測値よりも解析結果の方が高くな

っているもののおおむね一致している。実測値よりも解析結果の温度上昇が大きくなる

理由については、麻酔による代謝の低下に時間変動があり、計算機シミュレーションで

205

はその効果について考慮していないことが一因であると考える。但し、このことは本調

査で着目している脳周辺の血流量には大きな影響はない。 次に、図4より4週齢のラットにおける脳表の温度上昇について、実測値と比較する。

脳表の温度上昇の実測値には個体によるばらつきが最大 2程度あるが、このばらつき

は解析結果において測定位置による不確定性を考慮したことによる値の変化の範囲内

にある。図 5 に 4 週齢のラットにおける脳表での血流量の変化について、実測値と比較

を示す。血流量の実測値は時間的なばらつきが温度上昇と比べると大きいが、解析結果

は実測値全体のほぼ中央値を取っていることから、十分に血流の変化を模擬できている

と考える。更に、図 6 より 8 週齢のラットにおける脳表の温度上昇について、実測値と

比較する。脳表の温度上昇は、測定位置による不確定性を考慮した際の最も温度上昇の

大きい部分では、実測値と同様の傾向を示している。しかしながら、平均的な値におい

ては解析結果が実測値より低い値となった。これは実測例数が 3 個体と少なく、それに

起因する不確かさによるものと考える。図 7 に 8 週齢のラットにおける脳表での血流量

の変化について、実測値と比較を示す。解析結果は血流量の実測値のばらつきの範囲内

にあるが、実測値の中には解析結果より直線的な上昇傾向にあるものもあり、8 週齢の

ラットでは血流量の個体差が 4 週齢と比べて大きいものと考える。

図 3 脳表での測定点の定義

SkinBoneBrain

Reference point Reference point

(a) (b) 1 cm(a) 4 週齢 (b) 8 週齢

206

図 4 脳表温度上昇の解析結果と実測値の比較(4 週齢)

0

2

4

6

8

10

12

0 100 200 300

Calculated Measured

Time [s]

Tem

pera

ture

rise

[o C]

Dura Rectal

207

図 5 脳血流量の解析結果と実測値の比較(4 週齢)

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

0 100 200 300

Calculated Measured

Time [s]

Nor

mal

ized

blo

od p

erfu

sion

208

図 6 脳表温度上昇の解析結果と実測値の比較(8 週齢)

0

2

4

6

8

10

12

0 100 200 300

Time [s]

Tem

pera

ture

rise

[o C]

Calculated Measured

Dura Rectal

209

図 7 脳血流量の解析結果と実測値の比較(8 週齢)

0.8

1

1.2

1.4

1.6

1.8

0 100 200 300Time [s]

Nor

mal

ized

blo

od p

erfu

sion

Calculated Measured

210

Ⅴ まとめ 幼若ラットの麻酔下における脳血流の温度依存性についてモデル化を行い、解析手法

を用いて幼若ラット頭部に電波をばく露した。脳血流のモデル化を行う際、脳血流量は

直腸温度のみならず脳組織の温度上昇に依存することが示唆された。次に、局所ばく露

時の局所 SAR と上記血流モデルを組み込んだ体内温度上昇の計算機シミュレーション

を行った結果を実測値と比較したところ、脳表の温度上昇について 4, 8 週齢のラット

ともに、測定位置による不確定性の考慮を含め十分一致した結果を得た。

211

Ⅵ 参考文献 [1] 郵政省電気通信技術審議会答申,諮問第 38 号,“電波利用における人体の防護指

針”,1900.

[2] H. Masuda, A. Ushiyama, M. Takahashi, S. Hirota, S. Tanaka, H. Kawai, K. Wake, S. Watanabe, M. Taki, and C. Ohkubo "Effects of local exposure to 1,457 MHz electromagnetic field under high intensity conditions on cerebral blood flow in the rat brain", Bioelectromagnetics Society 29th Annual Meeting, P-105, pp.439-440, Jun. 2007.

[3] S. Tanaka,K. Wake,H. Kawai,S. Watanabe,H. Masuda,A. Ushiyama,M. Taki and T. Uno, “SAR calculation in immature rats exposed by an 8-shaped loop antenna in 1.5 GHz band,” Progress In Electromagnetics Research Symposium 2006, p. 550, Aug. 2006.

[4] 宇野 享, “FDTD 法による電磁界およびアンテナ解析,” コロナ社, 1998.

[5] H. H. Pennes, “Analysis of tissue and arterial blood temperatures in resting forearm,”,J. Appl. Physiol, vol.1,pp.93-122, 1948.

[6] K. R. Holmes, “Thermal Properties” <http://users.ece.utexas.edu/~valvano/research/Thermal.pdf>

[7] A. Hirata, T. Asano, O. Fujiwara, “FDTD analysis of body-core temperature elevation in children and adults for whole-body exposure,” Phys. Med. Biol., vol.52, pp.5013-5023, 2008.

[8] M. Hoque and O. P. Gandhi, “Temperature distribution in the human leg for VLF-VHF exposure at the ANSI recommended safety levels,” IEEE Trans. Biomed. Eng., vol.35, pp.442-449, 1988.

[9] R. J. Spiegel, “A review of numerical models for predicting the energy deposition and resultant thermal response of humans exposed to electromagnetic fields,” IEEE Trans. Microwave Theory Tech., vol.32, pp.730-746, 1984.

[10] P. Bernardi,M. Cavagnaro,S. Pisa,E. Piuzzi, “Specific absorption rate and temperature elevation in a subject exposed in the far-field of radio-frequency sources operating in the 10-900-MHz range,” IEEE Trans. Biomed. Eng., vol.50, no.3, pp.295-304, 2003.

[11] A. Hirata, H. Sugiyama, and O. Fujiwara, “Estimation of core temperature elevation in humans and animals for whole-body averaged SAR,” Prog. In Electromagnet. Res., vol.99, pp.221-237, 2009

213

3.4 脳内免疫細胞に及ぼす電波ばく露の影響評価

215

Ⅰ 要 旨 本研究の目的は、携帯電話端末から発せられる電波がグリア細胞に影響を及ぼすかを

明らかにすることである。昨年度までの検討で、1439MHz TDMA 方式の電波への単回

ばく露及び長期ばく露にてグリア細胞への明らかな影響は認められなかった。今年度は、

現在の主に使用されている第三世代の携帯電話で使用されている周波数に相当する

1.95GHz W-CDMA 方式の電波にて同様の実験を行った。雄の Sprague-Dawley(SD)

ラットに脳平均 SAR 2W/kg、6W/kg で 1 回 120 分間のばく露を、4 日/週×4 週間の合

計 16 回行った。ばく露後 3 日目、7 日目で環流固定によりラット脳を摘出し、アスト

ロサイトは GFAP 抗体、ミクログリアは Iba1 抗体で免疫染色し、グリア細胞の活性や

発現の変化を観察した。評価は、大脳皮質・海馬(CA3 領域)・線条体・視床下部で行

った。いずれの部位においても、SAR 2W/kg 及び SAR 6W/kg の電波ばく露により、

アストロサイト及びミクログリアへの明らかな変化は認められなかった。

以上により、「電磁波防護指針」の一般環境規制値である局所 SAR 2W/kg を上回る

値の長期ばく露においても、今回の条件下ではアストロサイト及びミクログリアは影響

を受けないことが示された。

216

Ⅱ 研究目的

生体は生活環境から影響を常に受けており、時に疾病の発生因子となることもあるた

め、健康に与える環境因子の評価の重要性が唱えられている。

社会技術の進歩とともに変容してきた生活環境に応じて、これら評価対象となる環境

因子は多岐にわたってきた。電力がライフラインとして確立された時代には、極低周波

の電波を発する送電線による人体への影響が懸念され、また、テレビやパソコンが浸透

した時代には、それらが発する低周波電波の健康への影響が懸念され、評価対象となっ

ている。さらに、近年目覚ましい普及を果たした携帯電話においては、そこから発せら

れる高周波電波の生体への影響が関心の的となっている。携帯電話端末は、現在のとこ

ろ最も人体に近接して用いられる電波発生装置であり、その生体、特に脳への影響の評

価は急務であると考えられる。そこで、これまで携帯電話端末の高周波電波が生体へ与

える影響として、遺伝子の損傷[1]、悪性腫瘍の発生[2, 3]、中枢神経内分泌系への影響

[4, 5]、高次機能としての学習への影響[6]などが評価されてきた。 脳の機能は、ニューロンに代表される神経伝達をつかさどる神経細胞が中枢を担って

いるため、ニューロンの機能こそがこれまで研究対象の中心であった。しかし、それら

神経細胞の微小循環環境を整え、その支持組織となり、また脳内の免疫機能をつかさど

ると考えられているグリア細胞は、神経細胞が機能を発揮するにあたり重要な役割を果

たしていることが、近年明らかとなってきている。これまで、Alexander 病などの変性

疾患ではグリア細胞に特異的な構成蛋白であるグリア繊維酸性蛋白質(Glial Fibrillary Acidic Protein(以下、「GFAP」という。))遺伝子に異常をきたしていることが分かっ

ており、また、脳梗塞などの脳組織への障害が起きた際には、グリア細胞の一つである

ミクログリアの活性が変化するとの報告がある。 電波のグリア細胞に対する影響は、グリア細胞を主に構成しているミクログリア及び

アストロサイトに注目して研究が進められているが、いまだ報告数は少なく、一定の結

論に至っていない。前者のミクログリアへの影響については、2007 年に工藤[7]らが報

告しおり、全身平均の電力比吸収率(Specific Absorption Rate (以下、「SAR」とい

う。))0.2W/kg の 915MHz 電波の 120 分ばく露において、ミクログリア形態に変化を

認めたと報告している。電波ばく露によるグリア細胞の変化を形態変化としてとらえた

数少ない研究であるが、TEM cell 内で行った実験のため、全身平均 SAR しか設定され

ておらず、脳平均 SAR での評価がされていない。また、後者のアストロサイトについ

ては、Brillaud[8]や Mausset[9]らの報告がある。彼らは、脳平均 SAR 6W/kg・900MHz

217

電波の 15 分間ばく露により、アストロサイトは活性化されたが、SAR 2W/kg では変

化が見られなかったと報告している。彼らは、電波ばく露による、アストロサイトの

GFAP 発現増加を、形態学のみならず発現面積でも定量的に評価している点で、非常に

客観的な評価を行い得た。しかしながら、ばく露時間が 15 分と短く、長時間使用しう

る携帯電話端末の影響評価としては不十分な可能性が考えられる。 我々は、昨年度の検討において、過去の報告で評価された局所 SAR 6W/kg に加え、

一般環境の防護指針である局所 SAR 2W/kg の出力で 1439MHz TDMA 方式の電波ば

く露を 1 回 120 分間、4 日/週×4 週間の計 16 回行い、グリア細胞の変化を、形態学的

変化及び定量的変化の観察にて行った。その結果、1 ヶ月間の長期ばく露において、ア

ストロサイト及びグリア細胞への変化は見られないとの結論を得た。

そこで今年度の実験では、現在主に使用されている第三世代の携帯電話で使用されて

いる 1.95GHz W-CDMA 方式の電波にて同様の実験を行い、電波の長期ばく露による

グリア細胞への影響について検討することを目的とした。

218

Ⅲ 試験方法

1 実験動物

実験動物は 4 週齢の Sprague-Dawley(SD)ラット(日本チャールス・リバー株式

会社)を用いた。このラットを用いた理由は、性格がおとなしいため、取扱いが容易で、

ばく露中にも装置の中で定位置を保ちやすいこと、また、過去の報告でも使用されてお

り、研究結果の比較検討を行いやすいことがあげられる。1ケージあたり 2匹で飼育し、

食餌制限及び水分制限を行わずに飼育した。また、飼育環境の変化による影響をできる

だけ排除する目的で、ラット購入後実験開始まで 3 日間の期間をおいた。

ラットは,電波ばく露条件により、以下の様に 3 群に分けられた。 (1) Sham 群:ばく露装置に 120 分固定するが、実際に電波ばく露は行わない群。

(2) 2W 群:脳平均 SAR 2W/kg の条件で 120 分ばく露を行う群。

(3) 6W 群:脳平均 SAR 6W/kg の条件で 120 分ばく露を行う群。 それぞれの群について、1 週間当たり 4 日間ばく露を行い、これを 4 週間続けた。さら

に、検体採取に際して、ばく露から屠殺までの期間で 2 群に分類した。すなわち、

(a) 最終ばく露から 3 日目に屠殺 (b) 最終ばく露から 7 日目に屠殺

の 2 群である。

また、同じ飼育室にてケージ内で飼育のみ行い、ばく露の操作をせずに同様のスケジ

ュールで屠殺する Cage Control 群も設定した。

次の項でも述べるが、10 匹同時にばく露するため、Sham、2W、6W の各群に 10 匹

ずつ割り当て、屠殺までの期間で 5 匹ずつ分類した。Cage Control 群には 12 匹を割り

当て、屠殺日により 6 匹ずつ分類した。以上、合計 42 匹で実験を行った。

なお、全実験期間を通じ「研究機関等における動物実験等の実施に関する基本指針(平

成 18 年 6 月 1 日文部科学省告示第七十一条)」に則り取り扱った。

2 電波ばく露

2.1 ばく露装置

ばく露装置はWakeら[10]が開発したモノポールアンテナ近傍に放射状にラットを配

置して頭部を局所的にばく露するシステムを、2 GHz 帯 W-CDMA 信号ばく露用に改

良修正を加えたものである。電波の外部への漏えいを防ぐために、図 1 のシールドルー

ム内に図 2 のばく露箱を設置してばく露実験を行った。

今回我々は、4 週齢の雄ラットを用い、電波ばく露時は専用のアクリル筒にラットを

219

挿入して実験を行った。このアクリル筒は、先端が細くなっており、その部位にラット

の顔面が固定される構造となっている。先端部には鼻先のみが出せるように穴が開いて

おり、呼吸を妨げない構造となっている。また、ラット尾側からは、注射筒のピストン

状の固定装置を挿入し、筒内でのラットの前後移動や頭部の反転を抑制した。

このアクリル筒を 10 個用意し、ラットの頭部が中心に向くように放射状のカルーセ

ルの上に配置した。そのカルーセルを小型電波暗室内に挿入し、その中心に 1/4λのモ

ノポールアンテナを設置した。ラット鼻先は、アンテナから 30mm の位置に設定され

た。ラットの体温上昇を防止するため、カルーセルの中心にはファンにより新鮮な空気

が送られた(図 3a)。また、これにより、ラットは新鮮な空気で呼吸が可能となった。

この装置は、上下に同等な電波暗室を重ねたものであり、下の暗室を Sham 群の実験

として使用した(図 2)。 電波は、シールドルーム外に設置された信号発生器(図 4)により、後述の周波数・

変調方式の信号を発生させ、ケーブルによりシールドルーム内の増幅器に接続した。増

幅器からは、ケーブルで小型電波暗室内のモノポールアンテナに接続し、電波ばく露を

行った。

図 1 実験室内シールドルーム 図 2 シールドルーム内のばく露箱

220

中央の筒からファンにより新鮮な空気が供給される。 天井にモノポールアンテナが設置されている。

また、内部は電波吸収材(青色)でおおわれている。

図 3b 実際のばく露箱の内部 図 3c ばく露箱にセットされたラット

図 4 シールドルーム脇の信号発生器

図 3a ばく露装置内部

221

2.2 電波周波数

国内の第三世代携帯電話通信で用いられている 1.95GHz W-CDMA 方式の電波に

て実験を行った。

2.3 ばく露出力の設定

本研究の実験期間において、ラットは 100g 程度から 360g 程度まで成長に伴い体重

が変化すると想定される。ラットの体重が変化することにより同じアンテナ入力電力で

はラット内に生じる SAR が変化する。そこで、脳平均 SAR が目標値の±15%以内に収

まるよう、ばく露時のラットの体重により 5 段階に分けてアンテナ入力電力を設定した。

アンテナ入力の設定値を表1に示す。このとき全身平均 SAR は、脳平均 SAR 2W/kg

の群で 0.22 から 0.44W/kg、脳平均 SAR 6W/kg の群で 0.66 から 1.34W/kg の範囲とな

った。 表 1 アンテナ入力電力の設定値 [W]

脳平均SAR 2W/kg 脳平均SAR 6W/kg

90g以上160g未満 0.406 1.22

160g以上230g未満 0.570 1.71

230g以上290g未満 0.823 2.47

290g以上340g未満 1.170 3.51

340g以上 1.570 4.71

222

2.4 電波ばく露スケジュール

ラットは購入から 3 日間飼育室で飼育したのち、ばく露を開始した。ばく露は、すべ

て午前中より開始し、ばく露後は速やかに飼育ケージに戻した。ばく露条件は前述のと

おり、脳平均 SAR 2W/kg 及び 6W/kg で、120 分間行った。同様に Sham 群も 120 分

間小型電波暗室に固定した。ばく露後の確認では、すべてのラットは筒の中で固定され

ており、頭部の移動は認められなかった。

このばく露を、1 週間当たり 4 日間、4 週間にわたって行った。

3 体重測定

ばく露開始日(day1)から最終ばく露後の day29 まで週に 2 回の頻度で体重測定を

行った。この測定された体重により、表1のとおり最適の脳平均 SAR 値を得られるよ

うに出力を調整した。

4 検体の採取

ばく露後、検体採取のためにラットを屠殺した。屠殺までの期間は、(a)最終ばく露

から 3 日目、(b)最終ばく露から 7 日目と、2 つの群に分けた。これは、電波ばく露後

のグリア細胞における経時的な変化を評価することを目的としている。

まず、ラットをデシケーター内でエーテル吸入麻酔し、動きが鈍くなってからペント

バルビタール 50mg/kg を腹腔内投与した。十分に麻酔深度を得た後、開腹・開胸し、

左心室内に鈍針を挿入、生理食塩水で全身還流したのち、4%パラホルムアルデヒド・

リン酸緩衝液 300ml で還流固定を施した。四肢及び頚部の筋硬直が得られた時点で還

流十分と判断し、30 分程度経過ののちに開頭し脳を摘出した。脳重量を測定したのち、

4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液で保存した。検体は、その抗原性を失わない

ために、できるだけ短期間にパラフィン包埋とした。

5 免疫染色

5.1 一次抗体

ラット脳のグリア細胞(ミクログリア・アストロサイト)の変化を観察するにあたり、

昨年度と同様に免疫染色の手技を用いた。 1996 年に今井ら[11]は、MHC classⅢ領域にコードされている 17kDa のたんぱくを

同定し、Ionized calcium binding adapter molecule 1(以下、「Iba1」という。)と命

名し、脳内のミクログリアに特異的に発現していることを報告した。その後、さまざま

な研究において、Iba1 は脳内のミクログリアのマーカーとして用いられてきた。これ

223

までの報告で、脳梗塞などの損傷により活性化されたミクログリアは、Iba1 蛋白の発

現増加を認め[12]、同時に、突起が太くなり、しなやかさを失うといった形態学上の変

化も認めることが報告されている[7]。今回、我々は、Iba1 を一次抗体として免疫染色

を行い、電波ばく露により、ミクログリアにこの様な染色増加や形態変化が観察される

かを検討した。 また、アストロサイトのマーカーとして、GFAP を用いた。この蛋白は、脳の変性疾

患において発現増加が認められているものであり、また、これまでのラット脳の実験に

おいても、脳損傷時に染色が増加するとされているものである。

5.2 免疫染色手技

5.2.1 アストロサイトの染色

検体は脱パラフィン後に流水洗浄し、クエン酸緩衝液(10mM(モル)、pH=6.0)内

で 9515 分間加熱処理し、抗原の賦活化を行った。常温で 20 分冷却ののち、3%過酸

化水素水に 5 分間浸置、0.01M の PBS で洗浄の後、抗 GFAP マウスモノクローナル抗

体(CHEMICON、MAB360、希釈倍率 1:1600、室温で 30 分間)を一次抗体として反

応させた。その後 0.01M の PBS で洗浄の後、二次抗体(Nichirei Corp, MAX-PO(M)、

常温で 30 分)を反応させ、0.01M の PBS で洗浄、DAB で 10 分間発色させた。流水

洗浄後、マイヤーのヘマトキシリン液で核染色を行い、流水洗浄後、脱水・透徹・封入

を行った。

図 5 の如く、Cage Control の検体において、良好な染色が得られた。

図 5 Cage Control ラット脳における GFAP 染色の一例(大脳皮質)

224

5.2.2 ミクログリアの染色

検体は脱パラフィン後に流水洗浄し、クエン酸緩衝液(10mM、pH=6.0)内で 9520 分間加熱処理し、抗原の賦活化を行った。常温で 20 分冷却ののち、3%過酸化水素

水に 5 分間浸置、0.01M の PBS で洗浄の抗 Iba1 ウサギポリクローナル抗体(和光純

薬工業、019-19741、希釈倍率 1:5000、室温で 60 分間)を一次抗体として反応させた。

その後 0.01M の PBS で洗浄の後、二次抗体(Nichirei Corp, MAX-PO(M)、常温で 30

分)を反応させ、0.01M の PBS で洗浄、DAB で 10 分間発色させた。流水洗浄後、マ

イヤーのヘマトキシリン液で核染色を行い、流水洗浄後、脱水・透徹・封入を行った。

図 6 の如く、Cage Control の検体において、良好な染色が得られた。

図 6 Cage Control ラットにおける Iba1 染色の一例(大脳皮質)

6 評価方法

6.1 観察部位

電波の脳の機能への影響についてのこれまでの報告では、判断力、記憶、内分泌機能

など、さまざまな側面から観察されている。昨年度同様、グリア細胞への影響を観察す

るにあたり、これらの機能と対応も念頭に入れながら、観察部位決定を行う必要がある

と考えた。また、それとともに、脳自体、表面から部位の目印となるものが少なく、サ

イズの小さなラット脳での観察でもあり、切り出しの際に目標を間違わずに安定して切

り出せる部位である必要がある。 以上のことから昨年度と同様に、以下の 4 か所の部位での観察を行った。すなわち

(1)大脳皮質、(2)海馬、(3)線条体、(4)視床下部である。

大脳皮質は、知覚・判断・思考・随意運動などの脳の高次機能に関与する部位である。

大脳皮質の領域は広いが、今回は観察のため、当該切り出し部位の頭頂部の大脳皮質で

225

の観察を行った。海馬は記憶にかかわる部位であり、評価に加えた。海馬は、主に CA1、

CA2、CA3 と三つの部位に分かれている。今回も、CA3 領域での評価を行った。線条

体は、運動への関与が示唆されている大脳基底核の主要な構成要素である。また、視床

下部は、自律神経系及び内分泌機能を調節している部分であり検討に入れた。

切り出しは、「The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates」[13]を参考に行った。こ

の書は、ラット脳を前額断で 161 スライスしたチャートで構成されるアトラスである。

このアトラスによると、ラット脳を視交叉の背側縁で前額断スライスすると大脳皮質・

海馬(CA3)・線条体・視床下部(Anterior-hypothalamus nucleus(以下、「AHC」と

いう。))をちょうど切り出すことが可能であった(図 7)。

(1)大脳皮質 (2)海馬(CA3) (3)線条体 (4)視床下部(AHC)

図 7 各観察部位。「The Rat Brain in Stereotaxic Coordinates」より転載。

226

6.2 形態学的変化 ミクログリア及びアストロサイトを免疫染色し、形態学変化が認められるかを観察し

た。

アストロサイトは、脳虚血後に、突起内に GFAP 陽性の中間径フィラメントの集積

が認められるとともに、染色サイズが増大する、いわゆる「活性型」に変化するとされ

ている。また、脳虚血後には、GFAP 陽性のアストロサイトの数自体も増加すると報告

されている[14]。よって我々は、電波ばく露後のアストロサイトについて、これらの形

態学的変化が認められるかも観察した。

また、工藤らの検討によると、電波ばく露により、ミクログリアは静止型から活性型

へと変化したとされている。すなわち、ばく露前は「線香花火状に四方八方に屈曲進展

するしなやか感のある、全長がほぼ均等な太さの基幹突起と、その突起表面に根毛用突

起を有する」静止型であったとしている。それに対し、ばく露後では、「基幹突起はし

なやかさを失い、太くなると共に径の不均一さ」が見られ、「偏在化あるいか双極化し

た突起」を有し、「細胞突起の分布に不均一さ」が認められる活性型へと変化したとし

ている。また、Ito らは、脳梗塞後に Iba1 染色陽性のミクログリアの出現を報告してい

る[12]。今回も昨年度と同様に、ミクログリアについては、ばく露後の発現の増加及び

基幹突起の形の変化・偏在性に注目して観察を行った。

6.3 染色面積変化

電波ばく露によるグリア細胞の形態学的変化は、「主観的」な要素が介入することを

避けられないと考える。そのため、研究をより客観的にするために、実験結果を「定量

化」する必要があると考えた。アストロサイト及びミクログリアは、活性化されるとそ

れぞれ GFAP 及び Iba1 の染色性が増加するため、その増加面積を計測することとした。

まず、顕微鏡(Olympus 製、DP70)に接続された PC(パーソナルコンピュータ)

画面上で、観察部位を決定し画像取り込みを行う。次に、取り込んだ画像の中で染色面

積を測定する。これには、三谷商事株式会社ビジュアルシステム部から発売されている

画像解析ソフト「WinROOF Ver.5.7」を用いた。 まず、取り込んだ画像のなかで染色域が抽出されるように抽出部分の色情報を決定し

た。次に、画像取り込み領域内に、脈管組織がどうしても入ってしまう場合があるが、

脈管周囲は非常に染色が濃くなっており、結果に影響を及ぼす可能性がある。また、脳

表面も同様に濃く染色される傾向にある。これは、グリア細胞は本来、脳の支持組織や

微小循環維持としての役割があるため、脈管や脳表面の組織にその突起を伸ばしている

ためと考えられる。そのため、脳表面はできるだけ撮影範囲に入らないように留意し、

227

また、脈管周囲は染色選択領域から除外した。そのうえで、「二値化」を行い、染色部

分とその他の分を分割した(図 8)。あとは、ソフト上で染色面積を計算し、統計処理

へとまわした。この手技は、昨年度の検討において、すでに確立されたものである。

取り込み部位の決定に関しては、ばく露条件及び屠殺までの期間を知りえずして行っ

た。

228

(i)取り込み画像 (ii)RGB 信号で染色領域を選択 (iii)血管や脳表面を選択範囲から除外 (iv)二値化画像

(左下の脳表面構造や視野下半分の脈管が除外)

(v)計測データ

面積単位はμm2 面積率の単位は%

図 8 画像処理解析の一例

7 統計処理

染色面積の統計は、JMP ver.8(SAS Institute Inc.)により、要因分散分析(analysis of variance(ANOVA))で行った。

総面積 面積率 計測範囲の面積 8469.37986 5.79432168 146166.891

229

Ⅳ 試験結果

1 体重変化及び脳重量

各群のラットの体重変化を以下に示す。ばく露箱での処置が行われた Sham、2W、

6W 群の間には体重変化に有意な差を認めなかった。しかし、これら 3 群とも Cage

Control 群と比較すると day18 以降で有意に体重が少なくなっていた(p<0.05)。

脳摘出時に計測したラット脳重量において、各屠殺時期において Sham、2W、6W 群

で差を認めなかった。

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

0 5 10 15 20 25 30

体重

(g)

day

Cage Control

Sham

2W

6W

図 9 各群のラットの体重変化

データは各測定日における各群の平均値を示す。

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

Cage Control

Sham 2W 6W

脳重

量(g

)

3日目

0.00

0.50

1.00

1.50

2.00

2.50

Cage Control

Sham 2W 6W

脳重

量(g

)

7日目

図 10 摘出時のラット脳重量

データは脳重量、エラーバーは標準誤差を示す。

3 日目に屠殺したラット脳重量

gram gram

gram gram gram 2 週間目の体重

4 週間目の体重

gram

gram

230

2 アストロサイトへの影響

2.1 形態学的変化

昨年度までの検討で、アストロサイトは障害時(脳局所 SAR 25W/kg ばく露)に突

起のしなやかさが失われ、また、GFAP の集積であるサイズの増大が認められることが

明らかとなっている。本検討では、実験群である Sham 群、2W 群、6W 群において、

このような変化が認められるかを検討した。

大脳皮質、海馬(CA3)、線条体、視床下部(AHC)について形態変化を検討した。

以下に、大脳皮質、CA3、線条体、AHC における GFAP の染色顕微鏡像を掲載する。

Sham 群、2W 群、6W 群において、しなやかさの喪失や GFAP の集積などの変化を認

めなかった。また、最終ばく露から 3 日目、7 日目と時間経過を追っても変化を認めな

かった。すなわち、電波長期ばく露によるミクログリアの形態変化は観察されなかった。

231

図 11 最終ばく露から 3 日目の GFAP 染色

Sham 6W 2W

大脳皮質 視床下部

線状体

海馬

232

図 12 最終ばく露から 7 日目の GFAP 染色

Sham 6W 2W

大脳皮質 視床下部

線状体

海馬

233

2.2 染色面積変化

電波ばく露により、アストロサイトにおける GFAP 染色面積が変化するかを検討し

た。計測値は、前出のとおり視野全体に対する面積率(百分率)で算出され、各群での

Cage Control の平均値に対する相対値として図 13 に示した。4 か所全ての観察部位に

おいて Sham、2W、6W の各群とも Cage Control と比較して染色面積に有意な増加を

認めなかった。

0

0.5

1

1.5

2

Cage Control Sham 2W 6W

AHC-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

Cage Control Sham 2W 6W

AHC-day7

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

Cage Control Sham 2W 6W

CA3-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

Cage Control Sham 2W 6W

CA3-day7

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

Cage Control Sham 2W 6W

CPu-day3

00.20.40.60.8

11.21.41.61.8

Cage Control Sham 2W 6W

CPu-day7

00.20.40.60.8

11.21.41.61.8

Cage Control Sham 2W 6W

M-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

1.6

Cage Control Sham 2W 6W

M-day7

図 13 観察部位における GFAP 染色面積

視床下部(AHC)、海馬(CA3)、線状体(CPu)、大脳皮質(M)

棒グラフは染色面積の平均値及び標準誤差を、

day3、day7 は最終ばく露からの日数を示す。

234

3 ミクログリアへの影響

3.1 形態変化

大脳皮質、海馬(CA3)、線条体、視床下部(AHC)において、ミクログリアの形態

変化を検討した。すなわち、ミクログリアの突起の太さの変化、しなやかさの変化を検

討することで、電波ばく露の影響を検討した。 図 14 に、day3、day7 での大脳皮質・海馬・線条体・視床下部におけるミクログリ

アの染色結果を示す。Sham 群、2W 群、6W 群の全ての検体において、ミクログリア

の突起のしなやかさや太さに変化を認めなかった。すなわち、電波長期ばく露によるミ

クログリアの形態変化は観察されなかった。

Sham 6W 2W

大脳皮質

視床下部

線状体

海馬

235

図 14 最終ばく露から 3 日目の Iba1 染色

図 15 最終ばく露から 7 日目の Iba1 染色

Sham 6W 2W

大脳皮質 視床下部

線状体

海馬

236

3.2 染色面積変化

電波ばく露により、ミクログリアにおける Iba1 染色面積が変化するかを検討した。

計測値は、前出のとおり視野全体に対する面積率(百分率)で算出され、各群での Cage

Control の平均値に対する相対値として図 16 に示した。4 か所全ての観察部位において

Sham、2W、6W の各群とも Cage Control と比較して染色面積に有意な増加を認めな

かった。

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

Cage Control Sham 2W 6W

AHC-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Cage Control Sham 2W 6W

AHC-day7

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Cage Control Sham 2W 6W

CA3-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Cage Control Sham 2W 6W

CA3-day7

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Cage Control Sham 2W 6W

CPu-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

Cage Control Sham 2W 6W

CPu-day7

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

Cage Control Sham 2W 6W

M-day3

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

1.4

Cage Control Sham 2W 6W

M-day7

図 16 観察部位における Iba1 染色面積

視床下部(AHC)、海馬(CA3)、線状体(CPu)、大脳皮質(M)

棒グラフは染色面積の平均値及び標準誤差を、

day3、day7 は最終ばく露からの日数を示す。

237

Cage Control day1 day4 day8 day11 day15 day18 day22 day25 day29No.1 115 143 182 206 236 262 294 318 359No.2 119 144 176 204 234 258 288 312 341No.3 129 163 205 238 279 309 357 387 425No.4 126 158 204 231 270 296 335 364 397No.5 126 154 200 230 271 309 350 377 420No.6 122 153 196 228 265 294 331 354 387No.7 117 145 175 199 230 254 281 301 332No.8 119 145 185 217 254 286 326 350 390No.9 128 155 201 233 273 303 350 378 421No.10 131 164 208 245 288 313 359 381 417No.11 126 152 191 222 254 277 313 338 365No.12 118 142 183 215 250 280 317 342 376Average 123.0 151.5 192.2 222.3 258.7 286.8 325.1 350.2 385.8

Sham day1 day4 day8 day11 day15 day18 day22 day25 day29No.1 130 153 189 208 239 259 286 311 330No.2 124 148 183 210 235 260 288 314 338No.3 121 144 188 214 235 256 285 305 325No.4 128 156 192 218 250 272 303 328 356No.5 128 155 195 225 249 266 286 311 330No.6 131 158 197 230 257 280 310 338 362No.7 117 138 171 200 226 250 271 295 315No.8 122 147 182 210 240 260 286 304 323No.9 133 163 200 231 260 285 315 339 357No.10 130 151 188 218 243 265 285 314 337Average 126.4 151.3 188.5 216.4 243.4 265.3 291.5 315.9 337.3

2W day1 day4 day8 day11 day15 day18 day22 day25 day29No.1 124 155 187 219 248 266 304 325 363No.2 129 161 185 219 351 268 301 322 333No.3 126 153 180 195 226 241 268 291 313No.4 138 169 199 220 259 276 311 337 359No.5 123 151 182 201 233 248 276 295 319No.6 122 146 169 187 213 221 247 263 280No.7 126 152 184 206 239 255 290 305 325No.8 129 154 185 208 243 264 303 325 349No.9 120 148 179 204 230 256 269 284 306No.10 128 154 187 213 245 261 294 315 335Average 126.5 154.3 183.7 207.2 248.7 255.6 286.3 306.2 328.2

6W day1 day4 day8 day11 day15 day18 day22 day25 day29No.1 135 159 193 220 246 264 284 307 324No.2 120 142 172 201 230 247 273 298 322No.3 114 140 171 197 219 238 254 274 300No.4 121 148 183 214 241 260 288 315 342No.5 136 162 196 228 245 265 278 303 320No.6 124 151 181 211 235 255 272 297 321No.7 130 158 194 225 255 268 295 313 336No.8 129 154 191 223 248 265 294 307 336No.9 123 149 182 207 225 245 266 284 296No.10 123 149 187 217 249 271 300 325 349Average 125.5 151.2 185 214.3 239.3 257.8 280.4 302.3 324.6

4 実測データの付記

今回の実験で得られた測定データを示す。

4.1 ラットの体重データ

表 2 実験期間中のラットの体重及び各群での平均値(単位は g)

前出の図 9 に対応している。

238

4.2 ラットの脳重量データ 表 3 屠殺時のラットの脳重量及び屠殺日ごとの平均・標準誤差(単位は g)

前出の図 10 に対応している。

Cage Control 屠殺までの期間(日) 脳重量(g)No.1 3 1.9No.2 3 1.9No.3 3 1.9No.4 3 1.8No.5 3 1.9No.6 3 2.0No.7 7 2.0No.8 7 2.0No.9 7 2.0No.10 7 2.1No.11 7 2.0No.12 7 2.0

3日目 平均 標準誤差Cage Control 1.90 0.026Sham 1.82 0.0372W 1.88 0.0376W 1.80 0.055

Sham 屠殺までの期間(日) 脳重量(g)No.1 3 1.9No.2 3 1.8No.3 3 1.8No.4 3 1.9No.5 3 1.7No.6 7 2.0No.7 7 1.9No.8 7 1.9No.9 7 2.0No.10 7 2.0

7日目 平均 標準誤差Cage Control 2.02 0.017Sham 1.96 0.0242W 1.88 0.0586W 1.92 0.058

2W 屠殺までの期間(日) 脳重量(g)No.1 3 1.8No.2 3 1.9No.3 3 1.8No.4 3 1.9No.5 3 2.0No.6 7 1.7No.7 7 2.0No.8 7 2.0No.9 7 1.9No.10 7 1.8

6W 屠殺までの期間(日) 脳重量(g)No.1 3 1.8No.2 3 2.0No.3 3 1.7No.4 3 1.7No.5 3 1.8No.6 7 2.0No.7 7 2.0No.8 7 2.0No.9 7 1.7No.10 7 1.9

239

4.3 GFAP 染色による染色面積率のデータ

表 4 各部位での GFAP による染色面積率(単位は%) Cage Control 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 7.24 13.97 6.23 2.32No.2 3 6.23 15.01 6.36 2.48No.3 3 1.34 13.52 4.09 5.68No.4 3 5.03 13.09 3.37 2.12No.5 3 5.11 15.53 8.76 4.74No.6 3 5.68 15.33 7.33 4.15No.7 7 7.77 16.03 8.15 4.88No.8 7 6.37 16.16 5.49 4.89No.9 7 5.34 9.35 2.94 2.41No.10 7 6.46 15.61 5.28 2.34No.11 7 8.22 16.92 6.29 4.28No.12 7 7.16 17.29 5.99 5.17

Sham 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 8.41 12.87 9.18 5.31No.2 3 6.75 12.45 5.54 2.39No.3 3 8.06 13.52 7.48 7.01No.4 3 9.39 16.84 8.96 1.93No.5 3 9.32 15.66 5.14 3.40No.6 7 9.51 12.18 7.17 5.00No.7 7 6.11 13.52 8.41 3.85No.8 7 7.28 13.08 6.56 4.51No.9 7 12.79 14.28 7.84 3.03No.10 7 8.43 15.09 7.35 3.79

2W 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 8.31 15.03 7.55 3.34No.2 3 6.03 16.02 11.24 4.27No.3 3 10.66 13.42 8.23 3.83No.4 3 6.61 19.60 7.62 4.31No.5 3 5.28 13.73 7.25 3.03No.6 7 8.74 17.17 7.10 5.34No.7 7 6.51 14.10 5.56 4.73No.8 7 10.83 16.45 7.96 5.89No.9 7 7.15 11.92 11.26 3.12No.10 7 9.53 15.30 7.50 7.35

6W 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 6.31 12.47 4.93 0.87No.2 3 5.17 11.75 6.12 4.21No.3 3 9.68 13.31 9.96 7.00No.4 3 6.25 15.76 8.50 6.90No.5 3 3.50 16.81 5.11 3.49No.6 7 10.08 18.89 6.18 5.59No.7 7 8.43 19.29 9.93 5.43No.8 7 6.01 15.29 7.70 4.09No.9 7 4.84 15.45 8.71 5.48No.10 7 7.34 15.14 8.15 4.79

240

表 5 各部位での GFAP による染色面積率の群ごとの平均・標準誤差(単位は%)

前出の図 13 に対応している。 AHC AHC3日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 5.11 0.82 Cage Control 6.89 0.43Sham 8.38 0.48 Sham 8.82 1.142W 7.38 0.96 2W 8.55 0.786W 6.18 1.01 6W 7.34 0.92

CA3 CA33日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 14.41 0.42 Cage Control 15.22 1.20Sham 14.27 0.85 Sham 13.63 0.502W 15.56 1.11 2W 14.99 0.936W 14.02 0.97 6W 16.81 0.93

CPu CPu3日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 6.02 0.82 Cage Control 5.69 0.69Sham 7.26 0.84 Sham 7.46 0.312W 8.38 0.73 2W 7.88 0.946W 6.92 0.99 6W 8.13 0.62

M M3日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 3.58 0.61 Cage Control 3.99 0.53Sham 4.01 0.95 Sham 4.04 0.342W 3.76 0.25 2W 5.29 0.696W 4.50 1.15 6W 5.08 0.28

241

4.4 Iba1 染色による染色面積率のデータ

表 6 各部位での Iba1 による染色面積率(単位は%) Cage Control 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 2.41 4.88 3.89 2.16No.2 3 1.92 3.84 3.91 2.64No.3 3 0.86 3.21 2.07 1.90No.4 3 1.75 3.93 2.72 1.68No.5 3 2.90 4.12 2.93 2.28No.6 3 1.51 2.41 2.51 1.70No.7 7 2.82 3.48 2.84 1.57No.8 7 2.45 4.75 3.26 1.87No.9 7 1.73 2.45 2.13 1.58No.10 7 1.01 2.41 1.46 1.17No.11 7 2.04 2.72 3.06 1.30No.12 7 1.48 3.29 3.09 1.31

Sham 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 1.42 2.38 1.84 1.06No.2 3 0.93 1.53 2.34 1.05No.3 3 1.03 2.18 1.58 0.96No.4 3 1.17 2.21 2.35 1.36No.5 3 0.51 1.43 1.01 0.71No.6 7 1.31 3.92 3.39 1.83No.7 7 1.75 3.18 3.00 1.98No.8 7 2.15 3.95 2.85 1.86No.9 7 0.50 1.18 0.20 0.79No.10 7 1.37 3.09 2.59 1.13

2W 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 2.27 2.69 3.16 1.11No.2 3 1.01 2.37 2.86 1.85No.3 3 1.40 2.37 2.56 1.51No.4 3 0.90 2.63 3.13 1.16No.5 3 1.47 3.39 1.56 1.23No.6 7 0.75 2.56 2.30 1.25No.7 7 0.32 1.68 1.25 1.11No.8 7 1.09 1.88 0.85 0.71No.9 7 0.82 0.95 1.55 1.01No.10 7 0.80 2.31 1.08 0.98

6W 屠殺までの期間(日) 視床下核(AHC) 海馬(CA3) 線条体(CPu) 大脳皮質(M)No.1 3 1.64 4.65 2.56 1.00No.2 3 1.45 4.43 2.51 2.05No.3 3 1.09 3.35 2.43 1.04No.4 3 0.80 2.44 2.23 1.03No.5 3 1.11 2.58 2.13 1.36No.6 7 0.40 1.53 0.26 0.75No.7 7 0.53 1.41 0.86 0.72No.8 7 0.73 1.19 1.96 0.68No.9 7 0.61 2.55 1.40 0.78No.10 7 0.90 3.13 2.34 1.50

242

表 7 各部位での Iba1 による染色面積率の群ごとの平均・標準誤差(単位は%)

前出の図 16 に対応している。

AHC AHC3日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 1.89 0.29 Cage Control 1.92 0.27Sham 1.01 0.15 Sham 1.42 0.272W 1.41 0.24 2W 0.75 0.126W 1.22 0.15 6W 0.63 0.09

CA3 CA33日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 3.73 0.34 Cage Control 3.18 0.36Sham 1.95 0.19 Sham 3.06 0.502W 2.69 0.19 2W 1.88 0.286W 3.49 0.46 6W 1.96 0.38

CPu CPu3日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 3.00 0.31 Cage Control 2.64 0.29Sham 1.82 0.25 Sham 2.41 0.572W 2.66 0.29 2W 1.41 0.256W 2.37 0.08 6W 1.36 0.37

M M3日目 平均 標準誤差 7日目 平均 標準誤差Cage Control 2.06 0.15 Cage Control 1.47 0.10Sham 1.03 0.10 Sham 1.52 0.242W 1.37 0.14 2W 1.01 0.096W 1.29 0.20 6W 0.89 0.15

243

Ⅴ 考察

携帯電話端末の契約数は、2010 年 1 月現在 1 億 1100 万台以上に達しており(社団

法人 電気通信事業者協会)、日常生活に深く浸透している。それとともに、携帯電話

端末使用における高周波電波の生体に対する影響については検討が重ねられてきた。携

帯電話端末の使用において最も近接する脳組織は、記憶・判断などの高次機能だけでな

く、さまざまなホルモン分泌機能を備え、また、自律神経の中枢でもある。このため、

さまざまな観点から評価が繰り返され、これまでに我々は、脳血流関門(Blood-Brain

barrier 以下「BBB」)に対する影響、学習に対する影響、メラトニンやセロトニンな

どの内分泌作用に対する影響などを評価し、いずれに対しても影響を及ぼさないことを

示してきた。

脳組織は、その機能の中心をつかさどる神経細胞に対する研究が古くから行われてき

た。しかし、神経細胞の数十倍の細胞数を持ち、脳組織の支持、神経細胞の微小循環環

境などを整えているグリア細胞の機能が近年注目されている。中枢神経のグリア細胞は、

ミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、上衣細胞に分類される。ミク

ログリアは中枢神経系で食作用を示し、マクロファージと同様な免疫担当細胞と考えら

れている。実際に、脳組織内でミクログリアを染色する際に使用される Iba1 抗体は、

マクロファージも染色することが知られている。ミクログリアは脳虚血に代表される脳

損傷の際に、発現が増加することが報告されている[12]。アストロサイトは多数の突起

を神経細胞に伸ばすことで脳の支持組織としての役割を果たしている。そのほか、脳血

管の基底膜に突起を伸ばし、BBB の維持を行っているとも考えられている。これまで

の電波のグリア細胞に対する影響については、これらミクログリア及びアストロサイト

について、論じられている報告が散見されるものの、まだ一定の見解を得ていない。そ

のため、我々は一昨年度、グリア細胞に電波をばく露し、その変化を検討する実験を行

い、脳局所 SAR 2W/kg 及び 6W/kg の 120 分単回ばく露においては変化を認めなかっ

た。

しかしながら、これまでの国内における他の実験で、グリア細胞への電波の影響は評

価されてきている。工藤ら[7]は、ラット脳に TEM cell 内で 915MHz の GSM 波を、

全身平均 SAR 0.2W/kg で 2 時間ばく露したのみで、ミクログリアが活性化されたと報

告している。この報告は、昨年度の我々の報告と相違するものであるが、ばく露の条件

が、まったく異なることから、同列には比較できない。一定の見解を得るには、さまざ

まなばく露条件(電波の種類・ばく露方法・強度・時間など)において、検討を重ねる

必要があると考える。

244

昨年度は、長期ばく露という条件での検討を行った。昨年度の研究においては、1 ヶ

月間という長期のばく露におけるグリア細胞の変化を検討し、SAR 2W/kg 及び SAR 6W/kg の長期間ばく露においても、アストロサイト及びミクログリアへの影響を認め

なかった。この結果から、より日常使用に近い条件下でのグリア細胞への影響の検討が

できたと考えられたが、ばく露した電波は主に第 2 世代の携帯電話で使用されていた

1.5GHz-TDMA 方式の電波であった。そこで、今年度は現在の主流である第 3 世代の

携帯電話に対応した 1.95GHz W-CDMA 方式の電波にて同様の実験を行った。また、

今回も昨年度と同様に 1 ヶ月間のばく露を行ったが、実験でのばく露期間については統

一を見ておらず、研究者によってまちまちである。今後の検討における課題として、長

期ばく露検討に際するばく露期間のコンセンサスを得るということも必要と考える。ま

た、今回はミクログリア及びアストロサイトへの影響を免疫染色での変化として評価し

たが、組織の評価は単に形態学だけでなく機能面も評価する必要があり、そのためには、

グリア細胞の関わるサイトカインなどを介した、細胞間の相互作用も検討対象となりう

ると考えられた。

245

Ⅵ まとめ

今回われわれは、1.95GHz W-CDMA 方式の電波を脳平均 SAR 2W/kg 及び 6W/kg

にて 4 週間にわたり、ラット脳に計 16 回のばく露を行い、アストロサイ及びミクログ

リアへの影響を検討した。免疫染色での検討で、アストロサイト及びミクログリアに明

らかな形態学的変化並びに発現の増加を認めなかった。これより、本実験での電波ばく

露ではラットの脳グリア細胞に明らかな変化を認めないことが示された。 今後、さまざまなばく露条件で、更なる検討を要すると考える。

246

Ⅶ 参考文献 [1] Lai, H. and N.P. Singh, Acute low-intensity microwave exposure increases

DNA single-strand breaks in rat brain cells. Bioelectromagnetics, 1995. 16(3): p. 207-10.

[2] Adey, W.R., et al., Spontaneous and nitrosourea-induced primary tumors of the central nervous system in Fischer 344 rats exposed to frequency-modulated microwave fields. Cancer Res, 2000. 60(7): p. 1857-63.

[3] Shirai, T., et al., Chronic exposure to a 1.439 GHz electromagnetic field used for cellular phones does not promote N-ethylnitrosourea induced central nervous system tumors in F344 rats. Bioelectromagnetics, 2005. 26(1): p. 59-68.

[4] Vollrath, L., et al., No short-term effects of high-frequency electromagnetic fields on the mammalian pineal gland. Bioelectromagnetics, 1997. 18(5): p. 376-87.

[5] Hata, K., et al., Short term exposure to 1439 MHz pulsed TDMA field does not alter melatonin synthesis in rats. Bioelectromagnetics, 2005. 26(1): p. 49-53.

[6] Yamaguchi, H., et al., 1439 MHz pulsed TDMA fields affect performance of rats in a T-maze task only when body temperature is elevated. Bioelectromagnetics, 2003. 24(4): p. 223-30.

[7] 工藤玄恵, et al., 携帯電話の電磁波はラット脳のミクログリアを活性化する. 東京医科大学雑誌, 2007. 65(1): p. 29-36.

[8] Brillaud, E., A. Piotrowski, and R. de Seze, Effect of an acute 900MHz GSM exposure on glia in the rat brain: a time-dependent study. Toxicology, 2007. 238(1): p. 23-33.

[9] Mausset-Bonnefont, A.L., et al., Acute exposure to GSM 900-MHz electromagnetic fields induces glial reactivity and biochemical modifications in the rat brain. Neurobiol Dis, 2004. 17(3): p. 445-54.

[10] Wake K, Mukoyama A, Watanabe S, Yamanaka Y, Uno T, Taki M.2007. An exposure system for long-term and large-scale animal bioassay of 1.5-GHz digital cellular phones. IEEE Trans Microw Theory Tech 55:343–350.

[11] Imai, Y., et al., A novel gene iba1 in the major histocompatibility complex class III region encoding an EF hand protein expressed in a monocytic lineage. Biochem Biophys Res Commun, 1996. 224(3): p. 855-62.

[12] Ito, D., et al., Enhanced expression of Iba1, ionized calcium-binding adapter molecule 1, after transient focal cerebral ischemia in rat brain. Stroke, 2001. 32(5): p. 1208-15.

[13] Paxinos, G. and C. Watson, The rat brain in stereotaxic coordinates. 5th ed. 2005, Amsterdam ; Boston: Elsevier Academic Press. xliii, [166] p.

[14] Sizonenko, S.V., et al., Glial responses to neonatal hypoxic-ischemic injury in the rat cerebral cortex. Int J Dev Neurosci, 2007.

247

3.5 複数の電波ばく露による電波複合ばく露の生体への影響

249

Ⅰ 要 旨

近年の無線通信技術の飛躍的進歩に伴い、携帯電話、無線ローカルエリアネットワー

ク、ディジタルテレビなどは爆発的に普及し、日常の必需品となっている。一方、これ

らの利用者の急増に伴い、その基地局の設置が急増しており、基地局からの電波が引き

起こす人体への影響に関する国民の関心が高まっている。

これらの通信システムはそれぞれ異なる周波数の電波を利用しており、また、無線通

信の多様化に伴い、超広帯域(Ultra-wideband(以下、「UWB」という。))の周波数帯

域幅を用いた通信方式も出現している。このように複雑化しつつある電波環境に対して、

これまでの動物へのばく露実験においては、波源は一つであり、かつ対象とする電波の

周波数帯域は狭いものであった。これでは現実的なばく露条件での検討が十分なされて

いるとは言い難く、生体への影響については未解明な部分が多い状況にある。世界保健

機関(以下、「WHO」という。)は、日常生活空間において各種の基地局からの電波によ

る人体への影響の科学的な根拠はないとしながらも、十分な知見が得られているとはい

えない状況から、更なる研究の推進と同時に長期的な電波ばく露に対する動物実験の必

要性を指摘している。それゆえ、実験動物を用いた数多くの研究の積み上げが急務であ

り、日本においても複数波源あるいは広帯域電波による動物(ラット)への全身ばく露

実験は必要性も高く、意義深いものと考える。

本年度の調査研究では、このような動物実験を行うに先立ち、以下の 3 項目に関する

検討を行った。

(1) 複数波源に対する電磁界ドシメトリと吸収電力に伴う温度上昇評価

(2) 超広帯域電磁界に対する人体組織の数値モデル化の妥当性検証のための実験 (3) 提案するばく露条件における小動物に吸収される電力量及び温度上昇の数値評価

250

Ⅱ 研究目的

本研究は、複数の電波複合ばく露の生体への影響をみる動物実験を行うにあたり、以

下に示す 3 項目の課題を検討した。各項目の手法及び目的は以下の通りである。 (1) 複数波源に対する電磁界ドシメトリと吸収電力に伴う温度上昇評価

電波ばく露に伴う体内深部温度上昇を、詳細人体モデルを用いて検討した例は、現在

まで研究代表者らが実施したものしかない[1]。しかしながら、その報告で対象とした周

波数は、共振周波数(おおよそ 70MHz)及び 2GHz に限定されていた。また、[1]にお

いて、全身平均SARが深部温度上昇を決定する支配的要因であることを指摘している。

一方、本課題では、複数広帯域(混合波を含む)の電波を対象とするため、異なる周波

数において、全身平均 SAR より温度上昇がどの程度推定可能かを検討しておくことは

重要となる。研究課題「小児に対する人体全身平均 SAR と体内深部温度上昇の特性評

価」で得られた定式化を用いて、周波数による体内深部温度に与える影響を評価すると

ともに、詳細モデルを用いて得られた解析結果を示す。

(2) 超広帯域電磁界に対する人体組織の数値モデル化の妥当性検証のための実験

平成 20 年度の調査研究において、電磁界理論的には準静的とみなせる周波数領域(数

kHz)から GHz 帯(10GHz 程度)に至る電磁界を一度の計算で求める手法を用いて数

値解析を行った。具体的には、デバイの分散式で極数を 4 まで考慮することにより、数

値ドシメトリとの親和性に重点を置いた推定式の定式化を行った。その定式化を電磁界

解析手法である時間領域差分法(Finite Difference Time Domain 法(以下、「FDTD 法」

という。)[2]に組み込んだ。本年度は、その妥当性を確認するために、帯電人体が金属

棒を介して接地金属板へ接触する状況を想定し、その際の接触電流を測定し、解析結果

と比較することにより、モデル化の有効性を確認する。

(3) 提案するばく露条件における小動物に吸収される電力量及び温度上昇の数値評価

WHO が無線周波電波に対する最優先課題を公表し、複数波源からのばく露を評価す

ることが急務となった今日[3]、わが国でも本課題に取り組むことが必要不可欠である。

本年度は、実験に有用なばく露条件を設定するとともに、想定される周波数を小動物に

照射した際の SAR に対応する温度上昇に関する基礎検討を行った。

251

Ⅲ 試験方法

1 SAR 及び温度評価のための数値人体及び小動物モデル

本調査研究では、日本人成人男性モデル、家兎モデル、ラットモデルの 3 種類の解剖

学的に精巧な数値モデルを用いた。図 1 に、これら数値モデルの概観を示す。

日本人成人男性モデルは、情報通信研究機構(NICT)で製作されたモデルであり、皮

膚(Skin)、筋肉(Muscle)、脂肪(Fat)、骨(Bone)、脳(Gray matter)、心臓(Heart)、血管(Blood)など 51 種類の組織で構成されており、2 mm の分解能を有する[4]。

家兎モデルは、金沢医科大学において CT 画像を基に構成されたもので、そのサイズは

154 セル×325 セル×190 セルであり、0.93mm の空間分解能を有する。また、体重は

2kg である[5]。モデルの構成組織は、皮膚(Skin)、筋肉(Muscle)、脂肪(Fat)、骨(Bone

cortial)、脳(Gray matter)、脳脊髄液(C.S.F.)、硝子体液(Vitreous humor)、角膜

(Cornea)、レンズ(Lens)、眼の強膜(Sclera)、前室(Anterior)、虹彩(Iris)、の 12種類(眼球組織:6 種類)である。

4 週齢の幼若ラット数値モデルは、NICT にて CT 画像をもとに構築されたものであり

[6]、皮膚(Skin)、筋肉(Muscle)、脂肪(Fat)、骨(Bone)、脳(Brain)、目(Eye)の 6 種類の組織で構成されている。また、モデルの分解能は 0.25mm である。

(a) (b) (c)

図 1 数値モデルの概観

(a) 成人男性モデル、(b) 家兎モデル、(c) 4 週齢ラットモデル

252

2 分散性を考慮した FDTD 法

複数の周波数あるいはパルスのような過渡的電磁界では、広帯域にわたる周波数成分

を含むので、人体組織などの媒質定数を用いる際には媒質の分散性を考慮する必要があ

る。しかしながら、従来の FDTD 法では、媒質定数である誘電率ε や導電率σ を場所の

関数としているものの、周波数分散性は考慮していない。そのため、FDTD 法では、媒

質の分散性を考慮する方法として、補助微分方程式法などが提案されている[2]。本調査

では、人体組織の電気定数を扱うことから、複数の極を持つデバイ分散について、補助

微分方程式法の定式化を述べるとともに、人体への適用性について検討する。

補助微分方程式法とは、媒質内で成り立つ電界 E (t)と電束密度 D (t)の間の微分方程式

を差分して用いる方法である。周波数領域において、媒質内の E (ω)と D (ω)は複素比誘

電率εr (ω)により関係づけられ、一般に P 個の極を持つデバイ分散に加えて損失項を含め

てεr (ω)が次のように表すこととする。

0

1 0

( )1

Pp

rp pj j

ε σε ω εωτ ωε∞

=

∆= + +

+∑ (1)

ここで、ε ∞ は周波数無限時の比誘電率、∆ε pは極 pによる比誘電率の変化量、τ pは極 p

の緩和時間、σ 0は静電界における導電率を表す。

上述のデバイ分散の媒質では、任意の場所での電界 E (t)について、時間領域における

アンペールの法則を次のように表せる。

0 01

( )( ) ( ) ( )P

pp

tt t tt

ε ε σ∞=

∂∇× = +

∂ ∑EH E + J (2)

ここで、Jp (t)は極 p による分極電流である。 周波数領域において、各極の Jp (ω)と E (ω)の関係は次式のようになる。

0( ) ( )1p p

p

jjωω ε ε ωωτ

= ∆ +

J E (3)

ここで、両辺に(1+jωτp)を掛けると

0( ) ( ) ( )p p p pj jω τ ω ω ε ε ω ω+ = ∆ J J E (4)

となるので、逆フーリエ変換すると次式が得られる。

253

0

( ) ( )( ) pp p p

t ttt t

τ ε ε∂ ∂

+ = ∆ ∂ ∂

J EJ (5)

式(5)を t =(n−1/2)∆t として FDTD 法の定式化を行い、Jpについて解くと

( )01 12 22 2

p pn n n np p

p p

tt t

τ ε ετ τ

− −− ∆ ∆= + −

+ ∆ + ∆J J E E (6)

となる。ただし、任意の場所で成り立つので、場所に関する表記は省略する。これを式(2)

に代入して、E について解くと

00 0

1 1

00 0

1

112

0 10 0

1

22

22

22

222 222

Pp

pp pn nP

pp

p p

Pn p npP

p p pp

p p

tt

tt

tt

tt tt

t

ε εε ε σ

τε ε

ε ε στ

τε ε τε ε στ

= −

=

− −

=

=

∆ ∆∆ + − ∆

+ ∆=

∆ ∆∆ + + ∆

+ ∆

∆+ ∇× − ∆ ∆ + ∆ ∆ + + ∆

+ ∆

∑∑

E E

H J

が得られる。

したがって、式(7)より電界 E、式(6)より分極電流 Jp 、通常の FDTD 法と同様にファ

ラデーの法則から磁界 H を順に求めることで、媒質の分散性を考慮した計算が可能とな

る。各組織の電気定数に関するパラメータは、平成20年度の報告書と同じものを用いた。

3 電磁界モデル化検証のための測定系

人体の UWBモデル化の有効性を検討するため、平成 20年度に提案した実験系を考え、

それに対応する FDTD モデルを用いた解析と比較する。測定系は、帯電人体が金属棒を

介して接地金属板へ接触する状況を想定して構築した。なお、接触の際、極めて広帯域

なインパルス性電磁ノイズが発生する。図 2 は測定配置図を示す。接触電流の測定は、

測定系への入力インピーダンスがほぼ 1+j 0Ωとなる国際電気標準会議(International

Electrotechnical Commission(以下、「IEC」という。))に準拠した電流校正用ターゲッ

トをディジタルオシロスコープ(入力インピーダンス:50 Ω、帯域幅:20GHz、標本化

周波数:50GHz、量子化ビット数:8 ビット)に 50Ω同軸ケーブルを介して接続して行

った。 図 2 は比較のための FDTD モデルと計算条件を示す。本研究で用いた日本人男性数値

人体モデル[4]は、身長 173cm、体重 65kg、51 種類の組織で構成され、2mm の分解能

(7)

254

を有する。人体モデルは、静電気試験器の電極形状を模擬した金属棒を手に持たせ、完

全導体とした金属板に対して、足裏 5 セル(1cm)の間隔を空けて配置した。吸収境界

条件には、モデル表面と吸収境界との間隔を 50 セル(10cm)設け、12 層の完全整合条

件を適用した。帯電人体と金属板との接触は、つぎのようにモデル化した。まず、実際

の放電を考慮し、文献[7]の方法により放電電流の測定波形と人体インピーダンスの周波

数特性から放電電圧波形を推定した。次に、推定波形を模擬するために、金属棒と金属

板との間に 1 セルのギャップを設け、等価的な電圧源として励振した。

平成 20 年度は磁界プローブを介した表面磁界の測定に関する妥当性を評価したが、磁

界プローブを用いた場合には高周波成分を十分測定できない難点があった。本年度は、

IEC ターゲットにおける接触電流を直接測定し、数値計算との比較により、GHz 帯に及

ぶ数値解析の妥当性について確認するものとする。

Aluminum plate

DC powersupply

50Ω coaxial cable

2.0m

Foam polystyrene

1GΩ

Digitaloscilloscope

Tektronix TDS6004 Digital Storage OscilloscopeTektronix TDS6004 Digital Storage Oscilloscope

IEC target

1.5m1.0m 0.2mFloor

1.2m

Subject

Metal piece

図 2 帯電人体からの金属棒を介した接触電流の測定配置

255

922

[Unit: cell](Cell size: 2mm)270

Ground

358x

y

z5

Human model

Metal piece

Ground

図 3 帯電人体からの接触電流を解析するための計算空間と FDTD モデル

4 温度解析手法

本調査研究では、式(8)にて表される SAR による発熱の項が追加された生体熱輸送方程

式[8]を、FDTD 法を用いて計算することで生体内の温度分布を計算する。また、外気と

接する組織には式(9)にて表される境界条件を適用する。

( ) ( ) ( ) ( )( ) ( )

( ) ( ) ( ) ( ) ( )( )

,,

, , , b

T tC K T A t

tSAR t B t T t T t

ρ

ρ

∂⋅ = ∇ ⋅ ⋅∇ +

∂+ ⋅ − ⋅ −

rr r r r

r r r r (8)

( ) ( )( ) ( ) ( )nrrrr

∂∂

−=−⋅tTKTtTH a

,, (9)

ここで、r は組織の座標を表す位置ベクトル、t は時刻、C は比熱[W/kg/]、ρ は密

度[kg/m3]、T は温度[]、K は熱伝導率[W/m/]、SAR は SAR[W/kg]、B は血流定数

[W/m3 /]、Tb は血液温度[]を表す。また、H は生体表面の熱伝達率[W/m2/]、Taは

外気の温度[]、n は生体表面の法線ベクトルを表す。なお、境界条件は、身体表面の組

織温度を考える際に身体表面に垂直な方向には熱の流れが継続しているとし、外気と表

面組織の温度差を、表面組織と身体表面に垂直な方向に隣接する組織の間の温度勾配で

近似したものである。従来の研究課題の多くは正弦的に変化する電波を照射される状況

を考え、SAR は時間的に変化しないと仮定されていた。平成 20 年度の成果として短パ

256

ルスを視野に入れ、SAR の時間依存性を考慮に入れた基礎検討を実施した。その結果、

電磁現象と熱拡散の時定数の相違より、SAR の時間平均値を用いれば、実用上十分な精

度が得られることが示唆されていた。本年度は、後述するが、ばく露実験で用いる電波

が離散的な周波数の合成であることが決まったことから、異なる周波数の電波を入射し

た場合の温度上昇について考察する。研究課題「小児に対する人体全身平均 SAR と体内

深部温度上昇の特性評価」にて、与えられた全身平均 SAR に対して深部温度上昇はほぼ

一定であるとの簡易推定式を導出し、その有効性を共振周波数及び 2GHz にて確認して

いた。本項目では、各種周波数に対して、妥当性を確認することも目的の一つとする。

簡易推定式は以下の式で与えられる[1]。

( ) ( )

0

( ) 1 exp( ) ( )

S S

WBave

H r dS sw t dSt

W CWBave

S S

W SART t TH r dS sw t dS

+−

∫ ∫⋅ = + − +

∫ ∫

(10)

ここで、T は体内深部温度、T0はその初期値、W はモデルの体重、SARWBave は全身平均

SAR、H は熱伝達率、sw は発汗に関する項、CWBave は比熱の全身平均値である。なお、本

課題での最終目的は小動物に対するばく露評価である。小動物に着目する場合、発汗作

用が十分小さいとされることから、式(10)は以下のように簡単化することができると考え

た。

( )

0

( ) 1( )

S

WBave

H r dSt

W CWBave

S

W SART t TH r dS

ε−

⋅ ∫

⋅ = + − ∫

(11)

257

Ⅳ 試験結果と考察

1 ばく露条件について NICT が作成しているばく露装置に対して以下のようなばく露条件を設定することと

した。対象とする周波数は、現行の主要な無線システムで用いられている 0.8、2、2、4、

5.2 GHz 帯の混合波形を用いるものとした。通常、複数電波という場合は単独電波との

比較が必要となってくるが、4 周波帯の様々な無線システム全てを単独でというのは実験

規模を考えると難しいため、混合波形を 2 ドーズ(全身平均 SAR 0.08W/kg、0.4W/kg)

とシャムの 3 群で実験を行うこととした。対象としては、妊娠期から young rat(6 週齢)

頃までをばく露期間の対象とする。

2 人体及び動物組織に対する電気定数の超広帯域モデル化の妥当性評価

FDTD シミュレーション、測定ともに帯電電圧は 1kV とした。図 4 は接触電流波形を

示す。図から、接触電流波形は立ち上がりのピーク部分から 10ns 程度までの変動の後、

徐々に減衰していること、シミュレーション波形は測定波形に概ね一致していることが

わかる。特に、立ち上がり時間は 100ps 程度、つまり GHz 帯におよぶ電磁現象を十分に

模擬できていることが確認できた。 10

0Con

tact

curr

ent [

A]

5

1000 50

50 10

10

0Con

tact

curr

ent [

A]

5

Time [ns]

Time [ns]

FDTD simulationMeasured

図 4 接触電流の FDTD シミュレーションと測定波形

258

3 複数波源に対する電磁界ドシメトリと吸収電力に伴う温度上昇評価

本節では、複数波が人体に入射した場合の式(10)の有効性を確認するため、得られた結

果を FDTD 解析で得られた結果と比較し、有効性を確認する。対象とするモデルは、図

1に示した日本人成人モデルとする。また、周波数は 2GHzとし、全身平均SARが 4W/kg、

0.4W/kg、0.08W/kg となるように規格化した。各全身平均 SAR に対する式(10)の差異の

周波数特性を図 5 に示す。図から、式(10)を用いた場合の最大誤差は 30%程度であると、

GHz 帯では全身平均 SAR による差異が大きくなることがわかる。特に GHz 帯において

誤差が大きくなる傾向にあるのは、電波の浸透深さが数 cm 以下となり、脳(視床下部)

の温度上昇が比較的小さくなるため、式(10)を導出した際の仮定に限界があること示唆す

るものである。

一方、今回動物実験を検討している周波数である 800MHz 以上でも差異は 30%以下で

あり、実測による不確定性と同程度あるいはそれ以下である。そこで、800MHz 及び

2.4GHz の 2 周波でばく露し、全身平均 SAR がそれぞれ 0.04W/kg になる強度とした場

合の深部温度上昇を計算した。FDTD 解析により得られた結果と入射電波の周波数依存

性を考慮できない式(10)において、全身平均 SAR を 0.08W/kg とした場合の結果との差

異は 10%程度であった。このことから、単一周波、複数周波にかかわらず、全身平均 SAR

が温度上昇に与える支配的要因であることが示唆される。

-10

0

10

20

30

0.01 0.1 1 10

Dev

iatio

n [%

]

Frequency [GHz]

4 W/kg

0.4 W/kg

0.08 W/kg

図 5 FDTD 法により得られた人体全身平均 SAR に対する式(10)の相対差

259

4 提案するばく露条件における小動物に吸収される電力量及び温度上昇の数値

評価

ラットに対する体内深部温度上昇に関しては十分なデータがなかった。このことから、

式(11)の妥当性確認のために、[1]で示されている直腸温度と比較することとした。図 6

は、図 1(b)に示した家兎モデルに対して、[9]で示された測定値と FDTD 解析した結果を

比較したものである。測定において対応する全身平均 SAR が 2.73W/kg であったことか

ら同様になるように設定した。同図から、深部温度上昇に関し、計算結果は実験結果と

ほぼ一致することがわかる。一方で、実験においては、ばらつきがあることが確認でき

る。この要因の一つとして麻酔による代謝量の低下の影響が推察されるが、数値解析で

はこの影響を考慮していないためだと考える。

500 1000 1500 20000

1.81.6

1.4

1.2

1.0

0.80.6

0.40.2

0-0.2

Time [s]

Tem

pera

ture

rise

[]

12

Calculated

34 Measured567

図 6 家兎に対する深部温度上昇の測定値と FDTD 解析結果の比較

また、図 7 は、周波数が 100MHz ~ 3GHz の電波を 1 時間ばく露した時の深部温度上

昇を、式(11)の簡易推定式と FDTD 解析により計算した結果を示す。同図より、いずれ

の全身平均 SAR の場合も、式(11)の簡易推定式と FDTD 解析による計算結果の差異は図

5 と同様に約 10%以内であることがわかる。以上のことから、入射電力密度及び周波数

の違いにより SAR 分布が異なる場合でも、本推定式から深部温度上昇が推定可能である

ことを示した。この知見は、ラットに対しての有効性は確認できないものの、小動物に

対して式(11)が有用であることを示唆するものである。

260

0.1 1 10

1 [W/kg]

3 [W/kg]

0.4 [W/kg]0.5

1.5

1.0

2.0

0

2.5

Frequency [GHz]

Tem

pera

ture

rise

[]

Eq. (11)FDTD

図 7 FDTD 法により得られた家兎全身平均 SAR に対する式(10)の相対差

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 10 20 30 40 50 60

0.4 W/kg

0.08 W/kg

Time [min]

Tem

pera

ture

rise

[o C]

図 8 ラットモデルにおける体内深部温度上昇の時間変化

最後に、図 8 に全身平均 SAR が 0.4W/kg 及び 0.08W/kg とした場合の体内深部温度上

昇を解析した結果を示す。図より、家兎の場合と同様、温度上昇はほぼ直線的に上昇し

ている様子がわかる。これは、小動物では熱調整系が発達していないと仮定した理想条

件での結果である。一方、人体の場合は式(10)で示すように発汗作用などの調整により、

深部温度上昇は小さいものとなる。なお、ラットは訓練により、電波に対する熱ストレ

スに対しても代謝を調整することにより温度上昇が抑えられることも指摘されている

[10]。このような影響を加味して検討することが今後の課題となる。

261

Ⅴ まとめ 平成 21 年度は、以下の 3 項目に着目し、調査研究を実施した。

(1) 複数波源に対する電磁界ドシメトリと吸収電力に伴う温度上昇評価 まず、研究課題「小児に対する人体全身平均 SAR と体内深部温度上昇の特性評価」

で得られた定式化(10)を用いて、周波数による体内深部温度へ与える影響を評価した。

その結果、FDTD 法による詳細な計算結果との比較により、全身平均 SAR が同じであ

れば、簡易推定式(10)で得られた結果は GHz 帯でも実用上問題ないことを示した。ま

た、複数波を入射した場合にもその傾向は変わらないことを確認した。

(2) 超広帯域電磁界に対する人体組織の数値モデル化の妥当性検証のための実験

平成 20 年度の調査研究において、電磁界理論的には準静的とみなせる周波数領域(数

kHz)から GHz 帯(10GHz 程度)に至る電磁界を一度の計算で求める手法を用いて

数値解析を行った。具体的には、デバイの分散式で極数を 4 まで考慮することにより、

数値ドシメトリとの親和性に重点を置いた推定式の定式化を行った。その定式化を

FDTD 法に組み込んだ。本年度は、その妥当性を確認するために、帯電人体が金属棒

を介して接地金属板へ接触する状況を想定し、その際の接触電流を測定し、解析結果

と比較することにより、モデル化の有効性を確認した。

(3) 提案するばく露条件における小動物に吸収される電力量及び温度上昇の数値評価

本年度は、動物実験のためのばく露条件を設定するとともに、想定される周波数を小

動物に照射した際の SAR に対応する温度上昇に関する基礎検討を行った。ラット全身

ばく露に対する深部温度の測定結果がないため、家兎の実験結果との対比からその有

効性を検討した。その結果、小動物に対しては、簡易推定式(10)において、熱調整系が

動作しないと仮定した式(11)を用いれば十分であることを示した。次に、式(11)をラッ

トに適用した場合の結果を示した。その結果、小動物は熱調整系が発達していないと

仮定しているため、深部温度上昇がほぼ直線的に増加し、人体とは異なる傾向を見せ

た。この傾向は、必ずしも実験的な知見[10]とは一致せず、更なる検討が今後の課題と

なる。

262

Ⅵ 参考文献

[1] A. Hirata, H. Sugiyama, and O. Fujiwara, “Estimation of core temperature elevation in humans and animals for whole-body averaged SAR,” Prog. In Electromagnet. Res., vol.99, pp.221-237, 2009.

[2] 宇野 享:“FDTD 法による電磁界およびアンテナ解析”,コロナ社(Mar 1998).

[3] http://www.who.int/peh-emf/research/rf_research_agenda_2006.pdf

[4] T. Nagaoka, S. Watanabe, K. Sakurai, E. Kunieda, S. Watanabe, M. Taki and Y. Yamanaka, “Development of realistic high-resolution whole-body voxel models of Japanese adult males and females of average height and weight, and application of models to radio-frequency electromagnetic-field dosimetry,” Phys. Med. Biol . vol. 49. pp. 1-15, 2004.

[5] K. Wake, H. Hongo, S. Watanabe, M. Taki, Y. Kamimura, Y. Yamanaka, T. Uno, M. Kojima, I. Hata, and K. Sasaki, “Development of a 2.45-GHz local exposure system for in vivo study on ocular effects,” IEEE Trans Microwave Theory & Tech., vol.55, pp.588-596, 2007.

[6] S. Tanaka, K. Wake, H. Kawai, S. Watanabe, H. Masuda, A. Ushiyama, M. Taki and T. Uno, “SAR calculation in immature rats exposed by an 8-shaped loop antenna in 1.5 GHz band,” Progress In Electromagnetics Research Symposium 2006, p. 550, Aug. 2006.

[7] I. Mori, Y. Taka, and O. Fujiwara, “A circuit approach to calculate discharge current through hand-held metal piece from charged human-body,” Proc. 2005 Int'l Conf. Electromagent. Compat., Phuket, Thailand, 4A-4, July 2005.

[8] H. H. Pennes, “Analysis of tissue and arterial blood temperatures in resting forearm,” J. Appl. Physiol, vol.1,pp.93-122, 1948.

[9] A. Hirata, H. Sugiyama, M. Kojima, H. Kawai, Y. Yamashiro, O. Fujiwara, S. Watanabe, and K. Sasaki, “Computational model for calculating body-core temperature elevation in rabbits due to whole-body exposure at 2.45 GHz,” Phys. Med. and Biol., vol.53, pp.3391-3403, 2008.

[10] S. Ebert, S. J. Eom, J. Schuderer, U. Spostel, T. Tillmann, C. Dasenbrock and N. Kuster, “Response, thermal regulatory threshold of restrained RF-exposed mice at 905 MHz,” Phys. Med. Biol., vol.50, pp.5203-5215, 2005.

263

4. 細胞実験

265

4.1 電波の細胞生物学的影響評価と機構解析

267

Ⅰ 要 旨 細胞用高周波電波ばく露装置を用いて以下の研究を行った。

1.生活環境における種々の外的因子と電波の複合ばく露による影響に関する研究 2.長時間電波ばく露による細胞生物学的影響に関する研究

SAR(Specific Absorption Rate, 比吸収率)1~10W/kg の電波を照射して細胞への

影響を検討した。 1 の研究では、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞を用いて、外的因子としての紫

外線と電波の複合ばく露による小核形成頻度の変化について検討した。結果は、紫外線

と電波の複合ばく露において、電波の影響はないことが示唆された。 2 の研究では、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞を用いた小核形成頻度の変化と、

ヒト由来脳腫瘍細胞を用いた DNA 鎖切断への影響について検討した。長時間電波ばく

露では、小核形成頻度及び DNA 鎖切断に影響はないことが示唆された。

268

Ⅱ 研究目的 1 生活環境における種々の外的因子と電波の複合ばく露による影響に関する

研究

我々の生活環境には、外的因子として化学的、物理的因子が数多く存在する。それら

外的因子として本年度は紫外線(UV)を用い、また SAR 1、5、10W/kg の電波ばく露

を行い、チャイニーズハムスター卵巣由来細胞の小核形成頻度の変化を検討し、電波の

紫外線に対する修飾的影響の有無を調べる。

2 長時間電波ばく露による細胞生物学的影響に関する研究

低い SAR(2W/kg)における細胞への長時間電波ばく露が、細胞の遺伝毒性や変異

原性変化について影響を及ぼしているかどうかについて調べる。検索指標としては、チ

ャイニーズハムスター卵巣由来細胞の小核形成頻度への影響実験、ヒト由来脳腫瘍細胞

の DNA 鎖切断への影響実験を行う。

269

Ⅲ 試験方法

1 細胞用高周波電波ばく露装置

本研究に使用した電波ばく露装置は、安定した正常な培養環境(37、5%二酸化炭

素、飽和湿度)を整え、高精度の電磁工学的検証(周波数 2.45GHz、ドシメトリ(細

胞位置での正確な SAR 分布)、ペルチェ素子による細胞培地温度制御機能など)を終え

ている。図 1 に細胞用の電波ばく露装置を示す。(首都大学東京・多氣研究室の設計・

製作)

図 1 細胞用高周波電波ばく露装置

ペルチェ素子設置

(内部写真)

270

2 紫外線照射装置

紫外線照射装置は、殺菌灯 15W5 本、殺菌灯スイッチ 1 灯、2 灯、3 灯切替可能、電

圧調整器及びボルトメーターを装備している。図 2 に紫外線照射装置(金沢市、アベ製

作所)を示す。

図 2 紫外線照射装置

図 3 は、図 2 の紫外線照射装置における殺菌灯ラ

ンプの本数別に得られた特性曲線を示す。本研究に

おいては、5 灯点灯による照射で実施した。

図 3 紫外線照射装置 特性曲線

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

100

0:00 0:05 0:10 0:15 0:20 0:25 0:30 0:35 0:40 0:45 0:50 0:55 1:00 1:05 1:10 1:15 1:20 1:25

hh:mm

μW

/cm

2

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

1.0

J/m

2/se

c

5灯

4灯

3灯(内)

3灯(外)

2灯(内)

2灯(外)

1灯

(UV 照射位置)

(全景)

271

3 生活環境における種々の外的因子と電波の複合ばく露による影響に関する

研究

3.1 細胞・培養条件

細胞: CHO‐K1(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)(図 4)

培養液: Ham’s F‐12 培地(10%牛胎児血清) 培養条件: 37、5%二酸化炭素、飽和湿度

紫外線: 殺菌灯ランプ(UV‐C, 254nm)

図 4 CHO‐K1 細胞

3.2 電波ばく露条件

周波数: 2.45GHz ばく露処理条件:SAR 1、5、10W/kg

ばく露時間:4 時間

3.3 小核形成実験方法

(1) 電波ばく露用シャーレに、1 枚当り 3×105個の CHO‐K1 細胞を播種、

一晩培養

(2) 紫外線(UV)照射、または電波ばく露(2.45GHz) (3) サイトカラシン添加培地(3μg/mℓ)に交換、18 時間培養

(4) 低張処理(5.6mg/mℓ塩化カリウム、37、10 分)

(5) 固定液(酢酸:メタノール=1:3)にて 5 分固定 (6) 5%ギムザ染色液にて染色、風乾

(7) 位相差顕微鏡下で観察、小核形成細胞数をカウント

272

4 長時間電波ばく露による細胞生物学的影響に関する研究

4.1 長時間電波ばく露による小核形成実験

4.1.1 細胞・培養条件

細胞: CHO‐K1(チャイニーズハムスター卵巣由来細胞)(図 4)

培養液: Ham’s F‐12 培地(10%牛胎児血清) 培養条件:37、5%二酸化炭素、飽和湿度

4.1.2 電波ばく露条件

周波数: 2.45GHz ばく露処理条件:SAR 2W/kg

ばく露時間:16 時間、48 時間

4.1.3 小核形成実験方法

(1) 電波ばく露用シャーレに、ばく露 16 時間については 1 枚当り 0.7×105個、

ばく露 48 時間については 1 枚当り 1.5×104個の CHO-K1 細胞を播種、

一晩培養 (2) 電波ばく露(2.45GHz)

(3) サイトカラシン添加培地(3μg/mℓ)に交換、18 時間培養

(4) 低張処理(5.6mg/mℓ塩化カリウム、37、10 分) (5) 固定液(酢酸:メタノール=1:3)にて 5 分固定

(6) 5%ギムザ染色液にて染色、風乾

(7) 位相差顕微鏡下で観察、小核形成細胞数をカウント

4.2 長時間電波ばく露による DNA 鎖切断への影響実験

4.2.1 細胞・培養条件

細胞: MO54(ヒト脳腫瘍由来細胞)(図 5) 培養液: EAGLE MEM 培地(10%牛胎児血清)

培養条件:37、5%二酸化炭素、飽和湿度

4.2.2 電波ばく露条件

周波数: 2.45GHz

ばく露処理条件:SAR 2W/kg

ばく露時間:24 時間、72 時間

273

図 5 MO54 細胞

4.2.3 アルカリコメットアッセイ法

(1) 電波ばく露用シャーレに 1 枚当り 2×105個の MO54 細胞を播種し、

一晩培養

(2) 電波ばく露(2.45GHz) (3) ばく露終了後、細胞を回収

(4) 冷 PBS(-)で 1.0×105 /mℓになるように細胞を希釈

(5) 細胞を 37、0.7%低融点アガロース(TREVIGEN 社 #4250-050-02)と混和(1.0×105 /mℓ細胞:0.7%低融点アガロース=1:10 で混和)

(6) アルカリコメットアッセイ専用スライド(TREVIGEN 社 #4250-050-

03)に、1 スポット 70μℓの細胞+アガロース(5)をのせ、広げる (7) 4にてスライドを冷やし、ゲルを固める

(8) 冷やした Lysis Buffer(TREVIGEN 社 #4250-050-01)中にスライド

を入れ、4、30 分静置 (9) スライドの Lysis Buffer を蒸留水で軽くすすぐ

(10) アルカリ Buffer(300mM NaOH、1mM EDTA 、pH13 以上)700mℓの入

った電気泳動槽にスライドをセットし、420 分間静置後、25V、20 分泳動 (11) スライドのアルカリ Buffer を蒸留水で軽くすすぐ

(12) 70%アルコール中にスライドを室温、5 分静置

(13) スライドを風乾

274

(14) TE Buffer(10mM Tris‐HCL pH7.5、1mM EDTA)で 10000 倍希釈し

た SYBR GREEN I(TREVIGEN 社 #4250-050-05)にて染色 (15) 蛍光顕微鏡にて細胞を観察し、データ画像を残す

(16) コメットアッセイ解析ソフト(Comet Assay IV:Perceptive 社)にて細胞 100

個を解析

275

IV 試験結果 1 生活環境における種々の外的因子と電波の複合ばく露による影響に関する

研究

最初に至適な紫外線照射条件を決めるため、CHO‐K1 細胞のコロニー形成を指標

とした UV 線量―生存率曲線を求める実験を行った。UV 照射量は 0, 8, 16, 24, 32,

40J/m2を用いた。図 6 に得られた紫外線―生存率曲線を示す。

図 6 紫外線―生存率曲線

さらに、予備実験として、紫外線照射により出現する小核形成の頻度を線量別に求め

る実験を行った。図 7 に紫外線と小核出現頻度の比較データを示す。

図 7 紫外線照射による小核出現

0.1

1

10

100

0 8 16 24 32 40

UV dose(J/m2)

Surv

ival(%)

0

5

10

15

20

25

30

0 8 16 24 32 40

UV dose(J/m2)

小核

形成

細胞

数/1000個

二核

細胞

276

以上の結果から、約 8 割の細胞がコロニー形成能を有して生存し、かつ、非照射コ

ントロールと比較して有意に小核出現頻度が上昇する紫外線量 8J/m2 を本実験に用

いることとした。

ギムザ染色による代表的な小核形成細胞の画像を図 8(矢印は小核を示す)に、二

核細胞 1000 個のうち、小核を形成した細胞の平均個数を図 9 に示す。

図 8 小核形成細胞

図 9 小核形成細胞数(電波ばく露時間:4 時間)

277

2 長時間電波ばく露による細胞生物学的影響に関する研究

2.1 小核形成実験

CHO‐K1 細胞を用いて、電波ばく露(SAR 2W/kg)16 時間及び 48 時間による

二核細胞 1000 個のうち、小核を形成した細胞の平均個数を図 10、図 11 に示す。

図 10 SAR 2W/kg、16 時間ばく露における小核形成細胞数

図 11 SAR 2W/kg、48 時間ばく露における小核形成細胞数

0

5

10

15

Sham 16h

小核

形成

細胞

/1000個

二核

細胞

278

2.2 DNA 鎖切断への影響実験

MO54 細胞を用いて、電波ばく露(SAR 2W/kg)24 時間及び 72 時間によるア

ルカリコメットアッセイの結果を図 12、図 13 に示す。

図 12 SAR 2W/kg、24 時間ばく露における DNA 鎖切断への影響

279

図 13 SAR 2W/kg、72 時間ばく露における DNA 鎖切断への影響

280

V 結果と考察 1 生活環境における種々の外的因子と電波の複合ばく露による影響に関する

研究

CHO‐K1 細胞を用いて、紫外線(254nm, 8J/m2)と電波(2.45GHz、SAR 1、5、

10W/kg)の複合ばく露による小核形成頻度の変化を検討した。以下の検定は全てマン・

ホイットニーの U 検定を用いた。

1.1 紫外線の単独ばく露群について検討を行った。二核細胞 1000 個のうち小核を形成

した細胞の平均個数は Sham(シャム:偽ばく露)群で 9.5 個であった。一方、紫外線

単独ばく露群では 26.7 個であった。

1.2 電波単独ばく露群(SAR 1、5、10W/kg)について検討を行った。二核細胞 1000

個のうち小核を形成した細胞の平均個数は、SAR 1W/kg の場合 10.8 個、SAR 5W/kg

の場合 12 個、SAR 10W/kg の場合 12 個であった。これらの 3 群の小核形成細胞数の

有意差を検定すると 3 群の平均値に差がないと考えられ、SAR 1~10W/kg において、

用いた SAR の大小に係らず小核形成頻度に差がないことが示唆される。

1.3 紫外線と電波(SAR 1、5、10W/kg)の複合ばく露について検討を行った。二核

細胞 1000 個のうち小核を形成した細胞の平均個数は、SAR 1W/kg の場合 24.7 個、SAR

5W/kg の場合 20.3 個、SAR 10W/kg の場合 24.7 個であった。

2 長時間電波ばく露による細胞生物学的影響に関する研究

2.1 長時間電波ばく露による小核形成実験

CHO‐K1 細胞を用いて、長時間(16、48 時間)の電波(2.45GHz、SAR 2W/kg)

ばく露による小核形成頻度の変化を検討した。検定は全てマン・ホイットニーの U 検

定を用いた。 16 時間ばく露について、二核細胞 1000 個のうち小核を形成した細胞の平均個数は、

Sham の場合 9.7 個、16 時間ばく露の場合 11.7 個であった。これら 2 群の小核形成細

胞数の有意差を検定すると、平均値に差はないと考えられる。また 48 時間ばく露につ

いて、二核細胞 1000 個のうち小核を形成した細胞の平均個数は、Sham の場合 9.3 個、

48 時間ばく露の場合 11 個であった。こちらにおいても 2 群の小核形成細胞数の有意差

を検定すると、平均値に差はないと考えられ、長時間電波ばく露が小核形成に及ぼす影

響はないことが示唆される。

281

2.2 DNA 鎖切断への影響実験

MO54 細胞を用いて、長時間(24、72 時間)の電波(2.45GHz、SAR 2W/kg)ばく

露による DNA 鎖切断への影響を検討した。検定は全てマン・ホイットニーの U 検定を

用いた。

24 時間、72 時間ともに Sham と電波ばく露との間に有意な差はなく、長時間電波ば

く露が DNA 鎖切断に及ぼす影響はないことが示唆される。

282

VI まとめ 1 生活環境における種々の外的因子と電波の複合ばく露による影響に関する

研究

紫外線単独(8J/m2)照射により、小核形成は有意に増加した。一方、電波単独(SAR

1~10W/kg)ばく露は小核形成に及ぼす影響はないことが示唆された。さらに、紫外線

と電波の複合ばく露実験の結果、紫外線単独照射と電波との複合ばく露との間において、

小核形成に有意な差は観察されなかった。

以上の結果から、紫外線と電波との複合ばく露において、電波が紫外線の作用を強め

たり、弱めたりする効果は無いものと示唆された。

2 長時間電波ばく露による細胞生物学的影響に関する研究

電波(SAR 2W/kg)の長時間ばく露による小核形成評価実験により、16 時間及び 48

時間ばく露において、共に Sham 群と比較して有意な差は観察されなかった。また、

電波(SAR 2W/kg)の長時間ばく露による DNA 鎖切断の評価実験においても、24 時

間及び 72 時間ばく露では、共に Sham 群と比較して有意な差は観察されなかった。以

上のことから、長時間電波ばく露は細胞遺伝毒性の小核形成や DNA 鎖切断に影響を与

えないことが示唆された。

283

4.2 ミリ波帯細胞用ばく露装置と物理的環境の検索

285

Ⅰ 要 旨

高速、広帯域の通信に適したミリ波帯電波(周波数 30-300GHz、波長 1-10mm の

電波)の利用の拡大に備え、ミリ波帯電波の生体安全性評価及び人体ばく露評価が必要

とされている。本研究の目的は、ミリ波帯電波の生体作用に関する基礎的なデータを収

集し、新しい無線通信技術の導入が円滑に行われるよう電波防護指針の根拠の補強を行

うことである。このために、本研究では、ミリ波帯の電波が、生体に及ぼす影響を細胞

レベルで検索するための基礎技術を構築する。具体的には、細胞用ばく露装置の評価に

おいて、その前提となる電気定数の推定ならびにドシメトリ技術の開発である。また、

ミリ波ばく露による温度上昇及び温度勾配などの物理的環境の変化がもたらす影響を

評価することにより、ミリ波帯電波による生体影響との区別を明確にする。本研究では、

工学的な立場から、細胞ばく露実験のためのばく露装置におけるミリ波ばく露による物

理環境の変化を明らかにすることであり、ばく露の結果生じる細胞機能への影響を考察

するための基礎技術を確立することである。さらに、本研究の最終的な成果目標は、細

胞レベルの実験により、ミリ波による生体作用の性質を明らかにすることである。

本年度は、ミリ波帯の電波が、生体に及ぼす影響を細胞レベルで検索するための基礎

技術として、感温液晶マイクロカプセル(MTLC)を用いた培地内の温度分布の測定法

における定量化を一層進めるとともに、同じく MTLC を用いて培地の対流現象を観測

する方法を開発した。また、対流現象を理論的に解析することにより、細胞ばく露実験

において、対流によるアーチファクトを生じないための条件を明らかにし、MTLC を

用いた実験によりそれを検証した。この結果を細胞ばく露実験に適用し、対流の影響に

よるアーチファクトを避けるための条件を導いた。 これまでに行ったさまざまな検討を踏まえて、細胞用ばく露装置として円錐ホーンア

ンテナを用いた装置を用い、基礎技術としてすでに開発していた数値電磁界ドシメトリ

の手法、温度場解析の手法、及び実験的な検証手法を用いて、この細胞用ミリ波帯ばく

露装置のばく露特性を詳細に明らかにした。今回のばく露装置が、分布の均一性、ばく

露強度の制御性、対流などのアーチファクトの排除など、物理環境の把握と制御の点で

細胞用ばく露装置として求められる要件を満たすものであることを確認した。 このようにして物理環境の条件を明確にしたばく露装置を用いて細胞ばく露実験を

行い、60GHz のミリ波による細胞への影響について検討を行った。アンテナ入力電力

を 0.5、1.0、2.0W として 1 分間及び 6 分間のばく露を行った結果、細胞の増殖速度に

ついては、2W で 6 分間ばく露した場合に有意に倍加時間の増加、すなわち、増殖速度

286

の減少がみられた。また、熱ショックタンパク Hsp70 遺伝子の発現については、1W 及

び 2W 入力で 6 分間ばく露した場合に、ばく露の強さに依存して発現量の増加がみられ

た。温度測定及び熱解析の結果から、これらの変化は、いずれも細胞の置かれた培地底

面における温度上昇による影響として説明できることが示された。また、非熱的条件と

見なすことができる 0.5W 入力のばく露では変化がなく、実験を行った範囲では非熱的

な影響は見いだされなかった。

今後の課題として、医学生物学分野の研究グループと協力して、より詳細に細胞機能

への影響を検索する必要がある。本研究において詳細に評価を行った円錐ホーンアンテ

ナ型のばく露装置は、取り扱いが比較的容易であり、本研究で目的とした医学生物学研

究者に提供可能なばく露装置としての要件を満たしている。本装置を利用して、今後の

一層の研究進展が期待される。

287

Ⅱ 研究目的

高速、広帯域の通信に適したミリ波帯電波(周波数 30-300GHz、波長 1-10mm の

電波)の利用に期待が寄せられている[1,2]。ミリ波が広く日常生活で利用されるように

なると、公衆がミリ波帯電波に曝される機会が増えることになる。このため、ミリ波帯

電波の生体安全性評価及び人体ばく露評価が必要とされている。本研究の目的は、ミリ

波帯電波の生体作用に関する基礎的なデータを収集し、新しい無線通信技術の導入が円

滑に行われるよう電波防護指針[3,4]の根拠の補強を行うことである。このために、本研

究では、ミリ波帯の電波が、生体に及ぼす影響を細胞レベルで検索するための基礎技術

を構築する。具体的には、細胞用ばく露装置の評価の前提となる電気定数の推定ならび

にドシメトリ技術の開発である。また、ミリ波ばく露による温度上昇及び温度勾配など

の物理的環境の変化がもたらす影響を評価することにより、ミリ波帯電波による生体影

響との区別を明確にする。本研究では、工学的な立場から、細胞ばく露実験のためのば

く露装置の特性及びミリ波ばく露による物理環境の変化を明らかにすることであり、ば

く露の結果生じる細胞機能の変化について考察するための基礎技術を確立することで

ある。さらに、本研究の最終的な成果目標は、細胞レベルの実験により、ミリ波による

生体作用の性質を明らかにすることである。

ミリ波帯電波は、侵入深さが数百 µm と小さいため[5]、体表付近の細胞への影響を

考慮する必要があるが、細胞レベルにおけるミリ波帯電波の生体作用については十分に

研究がなされていない。今後のミリ波帯の利用に先行して、生体作用を細胞実験により

直接調べることが必要とされている。これまでにも、ミリ波帯電波の細胞レベルにおけ

る生体作用を実験的に検討した例はある[6-8]。しかし、ばく露条件や物理環境が十分

に記述されていないことが問題であった。ミリ波帯電波の生体影響を調べるには、ばく

露下にある生体試料に誘導される電磁界分布及び、電波の吸収によって生じる熱による

温度上昇の分布を定量化すること、すなわち、電磁界ドシメトリが重要である。 本報告書では、始めにばく露評価の基礎技術として新たに開発した、感温液晶マイク

ロカプセル(MTLC)を用いた温度分布の定量化と流れの可視化について報告する。ミ

リ波ばく露においては、水による吸収が非常に大きいため、細胞試料を含む培地での電

力吸収が表面付近に集中する。この単位質量の組織で吸収される電力として定義される、

比吸収率(Specific Absorption Rate, SAR [W/kg])の分布を実験的に調べることは従

来の方法では困難であった。また、表面付近に集中した SAR 分布のために、培地の対

流が問題となる。SAR 分布の定量化、培地の対流の観察の方法を示し、対流が生じな

288

いための培地厚さの条件を明らかにする。これらの基礎技術に基づくこれまでの検討を

踏まえて、細胞ばく露実験に適したばく露装置の一つとして、円錐導波管を用いた新た

なばく露装置を構築し、そのばく露評価及び温度場評価を数値解析並びに実験により詳

細に行い、この装置を用いた細胞ばく露実験により、ミリ波の作用について検討を行う。

289

Ⅲ 研究方法

1 感温液晶マイクロカプセルによる温度分布及び流れの可視化と定量化

1.1 感温液晶マイクロカプセルによる測定の原理

本節では、感温液晶マイクロカプセル(MTLC: Micro-encapsulated Thermo-chromic

Liquid Crystal)を用いた温度分布測定と流れの可視化について述べる。本研究で用い

ている MTLC は観測される色合いが温度に依存して変化する感温液晶をマイクロカプ

セル化した物である。感温液晶としてはコレステリック液晶を用いている。これはらせ

ん状の分子配列構造を持っており、らせん間距離(ピッチ)が温度に依存するという感

温性を持つ[6]。温度に依るピッチの変化に伴い、光を入射した時の散乱光の波長がブ

ラッグ反射と似た原理によって変化するので、液晶の温度が色として可視化される。こ

のような性質を持つ液晶を感温液晶と呼び、液晶の温度と観測される散乱光の色との対

応付けを行うことで、温度センサーとして使用できる。また MTLC 自体は数十 µm 程

度の大きさで比重も水に近いことから、作業流体中に分散させることにより、対流をは

じめとする流れの状態を可視化できるトレーサ粒子として使用できる[7]。従って

MTLC を用いることによりミリ波ばく露による温度分布と対流の様子を同時に観測で

きる。

本研究では、日本カプセルプロダクツ製の MTLC[8]を用いた。図 1 に日本カプセル

プロダクツのデータシートに基づいた MTLC の構造を示す。カプセルの直径は 20µmから 30µm、密度は約 1.01g/cm3である。これを温度分布測定対象物内に均一に分散さ

せ、スリット状の光を入射させることで入射した断面の温度分布を可視化できる。この

ようにして、対象物に対して非破壊・非接触での測定が可能となる。また、カプセル化

する物質は、媒質に応じて用意する必要がある[9]。水を基材とする液体やゲルへの分

散には、親水性の高い尿素樹脂カプセルのスラリー状の MTLC を用いる。一方、油や

ガルデンといった疎水性の物質に対しては、ゼラチンカプセルのパウダー状の MTLCを用いる必要がある。本研究では、主に親水性の高い物質に分散しているので、スラリ

ー状の MTLC を用いている。マイクロカプセル化することで、周囲の物質との化学反

応を避けることができる。カプセルの直径も数十 µm オーダーであるため、周囲物質と

の温度緩和が比較的速い。そのため、周囲の温度への応答速度は数百ミリ秒程度[10]で

あり、温度測定に用いるには十分な反応速度であると考える。

290

図 1 MTLC の構造

感温液晶は尿素樹脂によってマイクロカプセル化されている。 温度によって液晶からの散乱光の波長が変化するので、温度が色として可視化される。

図 2 に温度に伴う MTLC の色変化の一例を示す。MTLC を分散させた水の温度を呈

色温度域で変化させると、温度の上昇に伴い赤から紫へと色が変化している様子が分か

る。呈色範囲外の散乱光は無色となる。

図 2 MTLC の散乱光の色変化の一例

291

用いたMTLCの呈色公称値は35~40であり、純水に分散させた。温度の上昇に伴い、

目視で確認すると赤から紫へと色が変化する。(図 2 は印刷の色合いの関係で茶から濃

紺に変化しているように見える。)ここでの画像取得角度は、スリット光の入射方向に

対して、90 度に配置したカメラによって撮影した。

1.2 MTLC を用いた可視化方法

MTLC を用いた温度分布測定の配置の概略を図 3 に示す。本研究では、主に光源と

してハロゲンランプを用い、光源のからライドガイドにより可視光を引き出し、先端に

シリンドリカルレンズ及びスリットを設置することによって、十分に薄いスリット光を

作り出した。スリット光幅が薄い分、空間分解能の向上が見込まれる。結果的に、スリ

ット光の入射した断面上の MTLC により光が散乱され、スリット光上の面内の温度分

布が色として可視化される。スリット光の位置を掃引する事により、対象内部の三次元

の温度分布及び流れ分布を可視化できる。ただし、このようにして可視化される領域は、

入射光の強度や対象物の透明度、MTLC 分散濃度によって制限される。温度分布可視

化の例として、図 4 にキュベット内部の温度分布画像を示す。

図 3 MTLC を用いた温度分布測定のための実験装置の概略図 MTLC を分散させた透明度の高い液体やゲルにスリット状の光を入射させると、

入射した断面上にある MTLC の散乱光が観測できる。

292

図 4 MTLC の散乱光の色変化の一例

用いた MTLC の呈色範囲の公称値は 35~40であり、図 4 はそれを純水に分散させ

た後に加熱し,その後の冷却課程の瞬間を可視化した結果である。温度の上昇に伴い、

目視では赤から紫へと色が変化している。(図は印刷の都合上、茶色から濃紺に色が変

化しているように見える。)ここでの画像取得角度は、スリット光の入射方向に対して、

90 度に配置したカメラによって撮影した。

1.3 色温度校正法

MTLC を用いた温度分布測定方法には、色として可視化された温度を定量化する方

法が必要とされる。そのため、取得した色情報と温度を対応付ける色-温度較正法が必

要となる。色情報は多くの画像撮影機器で RGB 信号として数値化されるが、MTLC の

発色から得られるそれらの信号は温度変化に対して非線形の関係となる。色情報から温

度を算出するには、MTLC により得られた RGB 信号に対し適切な座標変換を行い、温

度変化に対して1対1の対応関係を持つパラメータを取得することが望ましい。感温液

晶が温度毎に呈する RGB 情報に対して HSL(Hue, Saturation, Luminance)色座標

変換を行うことで、色相値 H を温度値 T と結びつける較正法[10]や、分光スペクトル

データを用いて温度に定量化する方法として、反射光の強度が最大となる波長を温度指

標として利用するピークスペクトル法が存在する[11]。色相値 H を用いた定量化手法で

293

は、MTLC の発色範囲の高温部と低温部において、1つの色相値に対して温度値が 2

値以上対応する多価関数の対応関係があり、色相から温度が一意に得られない問題点が

ある。本節では、前述の問題点を改善する手法[12]について紹介を行う。

図 5 に示す様に MTLC の発色から得られる軌跡は、空間上で輪を描く様に移り変わ

る。この性質を利用して、MTLC の発色に合わせて適切な色座標変換を行う。

図 5 温度変化よる MTLC の発色の RGB 空間上における軌跡の概略図

図 6 に示すオイラー角による回転変換の考え方を基に変換を行った。以下にこの手法の

色座標変換の手順を示す。例として、画像から取得出来た RGB 軌跡が図 7 に示す様な

分布と仮定する。

294

図 6 オイラー角による回転変換

図 7 温度変化により MTLC の発色情報が描く RGB 空間上における螺旋状の軌跡

まず、図 7 に示される全ての観測点の平均値が原点となるような

(x1, y1,z1)座標へ変換

する。この

(R,G,B) → (x1, y1 ,z1)座標変換式を式(1)に示す。

Raverage ,Gaverage ,Baverage はそれぞれ全

ての観測点の RGB 値の平均である。この変換により座標の原点は観測点の重心点

′ O

となる。

295

−=−=−=

average

average

average

BBzGGyRRx

1

1

1

( )( )

=−=−=

=

+=−

12

222

222

1

112

21

212

sincos

Tan

zzryrx

xyyxr

αδαδ

δ

( )( )

−=−=

=

=

+=−

βδβδ

δ

333

323

23

2

213

22

223

cossin

Tan

rzry

xxxyyxr

( )( )

=−=−=

=

+=−

34

444

444

3

314

23

234

sincos

Tan

zzryrz

xyyxr

γδγδ

δ

(1)

次に、最も

z1 = 0の平面に近い点と原点を結ぶ直線と

x1軸との角度

αを求める。この

原点との角度

αをもった直線を

x2軸とするような

(x2 , y2 ,z2)座標へ変換する。この変換で

z1 = 0の平面上での変換なので、

z1 = z2軸となる。

(x1, y1,z1) → (x2, y2 ,z2)の座標変換式を

式(2)に示す。

(2)

次に、軌跡が描く直線の

y2軸に対する傾きの角度を

βとする。実際に軌跡は完全な直

線となるわけではないので、

y2 − z2平面における全ての観測点の

y2軸からの角度を求め、

その平均角度値を

βとしている。

y2軸を

β回転させた直線が

y3軸となるような

(x3, y3,z3)

座標へと変換する。このようにする事で、

z3軸方向へのばらつきがおおよそ最小に近づ

くため、観測点はほぼ

x3 − y3 平面近傍に存在すると考えることができる。

(x2, y2,z2) → (x3, y3 ,z3)座標変換式を式(3)に示す。

(3)

その後

(x3, y3,z3)座標の

x3 − y3平面へ観測点を射影する。原点と最高温度の射影点を直

線で結び、その直線と

x3軸の角度を

γ とする。

x3軸を

γ 回転させた直線が

x4 軸となるよ

うな

x4 − y4座標平面へと座標変換を行う。最終的にこの

x4 − y4座標平面の極座標の角度

値が温度と対応づけるパラメータとなる。

(x3 , y3,z3) → (x4 , y4 ,z4 )座標変換式を式(4)に示す。

(4)

296

以上の座標変換を行う事により、図 8 に示すパラメータ

θを得る。この較正パラメー

θが温度との 1 対 1 対応の関係を持つ。得られたデータを較正曲線として表すと図 9のように表すことができる。この関係から取得した画像の定量化を行っている。

図 8 定義した較正パラメータ

θ

図 9 色-温度較正曲線

較正パラメータ

θと温度値との対応関係が 1 対 1 となっている。

297

1.4 散乱光補償による色温度校正法の改善

前節で示した色-温度較正手法における問題点として、実際の実験時と較正時の環境

の違いによって正確な較正が難しいことが分かった。これらの違いの要因として、

MTLC 分散濃度の調整及び入射光強度の違いが考えられる。この問題点の例として図

10、11 に家兎眼前房水中に分散させた MTLC による温度定量化の例を示す。この例で

は眼球の容積の違いや、眼球の前房内に MTLC を分散させる手術の難しさから、個体

毎に MTLC 分散濃度が不定になってしまい、定量化が正しく行えないことを示してい

る。このように MTLC による温度定量化では実験時と校正時の測定環境の違いが温度

値の決定において不確実な要因になると考えられる。そのため、予備的な実験として、

測定対象物の MTLC 分散濃度と違う濃度の較正データからの定量化を行うことで、実

験時の濃度と較正時の濃度の変化が及ぼす影響について調査した。

図 10 色-温度較正法によって適切に定量化出来た結果の 1 例

図 11 色-温度較正法によって適切に定量化出来なかった結果の 1 例

ここでは、一定の濃度の対象物において、いくつかの較正データを適用した定量化結

果を比較する。キュベット内の純水に MTLC を分散濃度 0.06、0.07、0.08%で分散さ

298

せた時の 3 種類の較正データを取得した。図 12 に各濃度の温度変化による MTLC の

RGB 軌跡を示す。濃度ごとの RGB 軌跡は同様の軌跡が得られたが、濃度が濃くなる

につれて RGB 値が大きくなるように変化した。これらの RGB 軌跡の違いが定量化に

及ぼす影響を調べるために、各濃度の RGB 軌跡から濃度 0.06%時の温度分布画像の定

量化を行った。温度分布の画像例を図 13 に示す。図 13 はプローブ近傍の温度値が 37の画像である。画像に対して各濃度の較正データによる定量化を行った結果を図 14、

15、16 に示す。図 13 に示すピクセル 30×30 の白枠の平均温度値を表 1 に示した。こ

の結果から定量化画像のMTLC濃度と較正データに用いたMTLC濃度が同一であれば、

温度プローブによって取得した結果とほとんど相違はない。しかし、定量化画像の

MTLC 濃度と較正データに用いた MTLC 濃度が違うと正しい温度値が得られないこと

がわかった。このように実験時の濃度と較正時の濃度がずれてしまうと、正しい温度値

が得られない問題点がある。

図 12 MTLC 分散濃度 0.06、0.07、0.08%の温度 35~45の RGB 軌跡

濃度が濃くなるにつれて RGB 値が大きくなるように変化している。

299

図 13 MTLC による温度分布画像例

MTLC 分散濃度 0.06%のプローブ近傍の温度値が 37の画像である。

図 14 濃度 0.06%の較正データによる定量化結果

300

図 15 濃度 0.07%の較正データによる定量化結果

図 16 濃度 0.08%の較正データによる定量化結果

301

表 1 MTLC 分散濃度 0.06%の画像に対して 較正データの濃度を変化させた時の定量化結果

このような問題を解決するために MTLC が発色する RGB 値の入射光強度依存性と

RGB 値の MTLC 分散濃度依存性に着目した。RGB 軌跡は入射光強度変化に応じて、

散乱光の強度が変化する。各温度において入射光の強度を変化させた時の RGB 軌跡の

変化の様子を図 17 に示す。

図 17 赤のラインは入射光強度が一定であり、温度が変化した時の RGB 軌跡 青のラインは温度値が一定であり、入射光が変化した時の RGB 軌跡。

図 17 において入射光の強度を任意に変化させた時において、CCD カメラが取得する

画像の RGB 値から HSL 変換により輝度値 L を求めた。RGB 座標から輝度値 L への

変換は式(5)で表される。

L = 0.2990 0.5870 0.1140[ ] RGB

(5)

37時の入射光強度変化における輝度値の変化のグラフを図 18 に示す。図 18 の横

軸は入射光源であるハロゲン光源の機器の強度メモリによる相対値で表しており、入射

光強度の強弱といった形で表している。近似直線から入射光の強度変化は輝度値の変化

302

に対して直線的に変化していることがわかる。つまり、カメラによって取得された RGB

軌跡は入射光強度に対して、直線的な変化になる。

図 18 入射光強度変化に対する輝度値 L の依存性 図中の直線は最小二乗近似による直線である。

次に RGB 値の MTLC 分散濃度依存性について記述する。濃度が濃くなると液体内

の MTLC のパーティクル数が増大する。そのため、散乱される光量は濃度が濃くなる

につれて強くなる。前節に示した分散濃度 0.06、0.07、0.08%でのデータを用い、輝度

値変化の様子を調べた。濃度変化による RGB 軌跡の変化を図 12 に示した。式(5)を用

いて各較正データの RGB 値から輝度値 L を求めた結果を図 19 に示す。

図 19 MTLC 分散濃度変化に対する輝度値 L の依存性 図中の直線は最小二乗近似した直線である。

303

図 19 に示すグラフから濃度変化によって輝度値が直線的に変化することがわかった。

これらの結果から入射光強度変化と同様に濃度変化は輝度値変化と直線的になる。 入射光強度変化及び濃度変化による輝度値の直線的な変化から、図 20 のような較正

曲面が仮定出来る。この較正曲面を利用することで、濃度に不確実さがある場合、その

不確実さを補償するために、入射光強度変化及び濃度変化において、RGB 軌跡が直線

的に変化する性質を利用した補償を提案する。図 21 のように濃度が不定な実験におけ

る RGB 軌跡を挟み込む様に較正データを取得すれば、濃度による直線的な変化を持つ

特性を利用し、補償を行う事が可能である。このように測定対象物に入射する光の強度

や MTLC 分散濃度が不定であっても、複数の入射光強度での較正データから補償を行

うことが出来ると考えられる。この手法を以後「散乱光強度補償法」と呼ぶ。

図 20 RGB 空間における軌跡を温度変化と輝度変化から仮定するモデル

図 21 較正データ 1 と較正データ 2 の間の値はそれらを結ぶ直線上に ほぼ存在することを利用し、それに挟まれる実験時の較正データを補償する。

304

1.5 散乱光強度補償法の検証実験の方法

本研究では、測定対象物内の MTLC 分散濃度があらかじめ判明している場合に対す

る従来の較正法と、MTLC 分散濃度が不定な時に適用する散乱光強度補償法を比較す

る。2つの手法により定量化された温度値の差を調べることにより散乱光強度補償法の

適用可能性を検討する。この検証を行うため、キュベット内部の温度分布の測定実験を

行う。実験配置の概要を図 22 に示した。本実験ではキュベットに周波数 75.4GHz のミ

リ波をばく露した時の温度分布を観測した。キュベット内の純水に MTLC 濃度 0.07%

となるように均一に分散した。使用した MTLC の発色公称値は 35~45である。測定

対象物であるキュベットをレンズアンテナの焦点距離である約 13cm の距離に配置し

た。その際、キュベットの角部分ではなく、側面部分にミリ波が入射される様に調整を

行った。入射光源としてハロゲン光源を使用し、幅を約 1mm 程度のスリット光として

キュベットに入射した。そして、スリット光の入射方向に対して 90°の位置に CCD カ

メラを配置することで、キュベット断面の温度分布画像を取得した。本実験でのレンズ

アンテナからの空間平均入射電力密度は 150mW/cm2としている。実際の実験風景の写

真を図 23 に示す。

図 22 キュベットに対するミリ波ばく露実験の概略図

305

図 23 キュベットに対するミリ波ばく露実験装置の写真

2 ミリ波ばく露における培地の対流条件の検討

ミリ波ばく露時の培養容器内の細胞用培地の対流現象について検討するため、重力の

方向に対して水平な温度の異なる無限に広がる二つの平板のあいだの流体においてベ

ナール対流が生じる条件について検討する。上の平板の温度を

T1、下の平板の温度を

T2

とするとこの温度差

T2 −T1が小さい場合には、対流は生じず熱伝導のみでエネルギーが

輸送される。

T2 −T1がある一定値を越えると、流体が不安定な状態となり定常な対流が

生じこれによりエネルギーが輸送される。この臨界値はレイリー数により決定されるこ

とが知られている[13]。レイリー数

Reは無次元数であるプラントル数

Gとグラスホフ数

Pの積で式(6)のように表される。

(6)

ここで

βは体膨張係数、

gは重力加速度、

lは系の代表的な長さ、

ν は動粘性係数、

χ

は熱拡散率である。流体が不安定になり、対流が生じる条件は上面が個体等に接してい

( )νχ

β 123 TTglGPRe −

==

306

2122121

1112 2

LSQ

hkLkkhkLkhLTT

+++

=−

る場合

Re > 1710、上面が空気等の自由面である場合

Re > 1100であると文献[13]に示さ

れている。一方、底面の培養容器と培地の 2 媒質から構成される 1 次元熱伝導モデルか

ら培地上下の温度差

T2 −T1は式(7)のように示される。

(7)

ここで

hは自由境界面における熱伝達係数、

L1は培地の厚さ、

L2は培養容器の厚さ、

k1は培地の熱伝導係数、

k2は培養容器の熱伝導係数、

Qは入射電力、

Sはホーンアンテ

ナの開口面積である。式(6)、(7)より、培地の厚さと入力電力をパラメータとした対流

現象の有無を示すダイアグラムが作成できる。

3 円錐ホーンアンテナを用いたばく露装置のばく露評価

3.1 ばく露装置の方式の選定

細胞用ばく露装置として、いくつかの方式を提案し検討を続けてきた。これまでの検

討結果を要約すると、ホーンアンテナを用いる場合、ばく露の効率からは、アンテナ開

口面に近接してシャーレを配置した方がよいが、電磁界分布が不均一で、しかも、わず

かな位置の違いでばく露量とその分布が大きく変化することがわかった。

ミリ波は波長が非常に短いため、開口面アンテナの開口面から 2D2/λ(λ は波長、

D は開口面の大きさ)以上の距離とされる遠方界領域にシャーレをおくことは困難であ

る。また、角錐ホーンアンテナは対角線の距離が長く、分布が不均一になりやすい。一

方、円錐ホーンアンテナは比較的 SAR 分布が均一であり、必要があれば、円偏波を用

いることで、周方向の均一性を高めることもできる。

導波路型のばく露装置もこれまで検討してきた。個々の細胞をばく露して影響を見る

場合に適する。個別細胞の評価が今後必要と想定されるが、細胞機能の基本的な特性へ

の影響の検索を先行して行う必要がある。

以上により、本研究では、円錐ホーンアンテナを基本のばく露装置として選定した。

3.2 ばく露装置の電磁界解析

円錐ホーンアンテナ開口面からシャーレ底面までの距離に対して、ばく露条件にどの

ような距離依存性があるかを検討するためシミュレーションを行った。時間領域差分法

(Finite-Difference Time-Domain Method, FDTD 法)によりばく露装置の電磁界解析

を行い、その電磁界分布、SAR、電力密度を計算する。FDTD 法の計算には、Schmid

& Partner Engineering AG 社の SEMCAD X を用いた。

307

計算モデルを図 24 に示す。吸収境界条件は UPML(10 層)とした。波源は吸収境

界面から z 方向へ 26mm の位置に設置した。また、アンテナ開口面からシャーレ底面

までの距離を d としている。

円錐ホーンアンテナは QUINSTER 社の QWH-VCCR0Z141 をもとにモデル化し、

シャーレは直径 60mm のシャーレ(Falcon 社、353002)をもとにモデル化した。波源は、

周波数 60GHz の円形 TE11モードの直線偏波とし、アンテナ入力電力を 1W とした。

培地の厚みは 2.0mm とした。計算に用いた物理パラメータを表 2、計算条件を表 3 に

示す。60GHz におけるシャーレの電気定数は実測値である(関東電子応用開発によるデ

ータ提供)。培地は、Ham's F-12 であり、導波管貫通法による実測値である[14]。ボク

セルの総数は d =90mm の時で、約 71Mcells であった。

図 24 電磁界解析の計算モデル

308

表 2 電磁界解析に使用した物理パラメータ

空気 シャーレ 培地 比誘電率 1.0 2.58 12.1 [14] 導電率[ S/m] 0.0 0.05 69.4 [14] 密度[ kg/m3] 1.0 × 10-12 1.1 × 103 1.1 × 103 [15]

表 3 計算条件(d = 90mm の時)

最大セルサイズ [mm] 0.45 最小セルサイズ [mm] 0.12 タイムステップ [ps] 0.32 ボクセル数 (x × y × z) 258 × 258 × 1060 吸収境界条件 UPML(10 層)

3.3 サーモグラフを用いた SAR 分布の観測

数値解析結果の妥当性を確かめるために、サーモグラフを用いてシャーレ内の培地表

面の温度分布を測定する。ミリ波の照射により、培地の温度は上昇する。SAR 分布が

発熱源の分布に相当するので、熱伝導の時定数に比べて十分に短時間で温度が上昇する

条件では、上昇温度の分布は SAR 分布にほぼ等しくなる。また、サーモグラフで測定

できるのは表面の温度なので、培地を十分に薄くすることにより、底面と上面の温度差

が無視できるようにすることにより、培地底面の SAR 分布が推定できるようにした。

なお、電磁界分布は培地の厚さに依存するが、ミリ波の場合は、培地における吸収が非

常に大きいので、培地の厚さによる定在波はほとんど生じない。このため、1mm 程度

の厚さであれば SAR 分布に影響を与えず、また温度分布は底面と上面でほぼ等しいこ

とを数値解析で確認している。 実験の概要図を図 25 に示す。サーモグラフ(NIPPON AVIONICS、TVS-700)を用

いてシャーレ内の寒天ファントム上面における温度分布の観測を行った。シャーレには

ファントムとして、3ml の寒天ファントム(濃度 5%)を入れた。3ml の容量は、表面

張力を考慮しなければ厚さが 1.5mm となる量であるが、表面張力の影響により中心の

厚さが約 1mm となるように決定したものである。 アンテナとシャーレを固定するためのステージを図 26 に示す。図に示すように、ア

ンテナは垂直に固定されるよう治具を用いている。 円錐ホーンアンテナからシャーレ底面までの位置合わせが行えるよう光学ステージ

を使用した。高さ方向の調整のために z ステージ、また、水平方向の位置修正のために

309

x-y ステージ、傾斜によるズレを修正するために傾斜ステージを使用した。ステージな

ど、ばく露部分の構成の詳細を表 4 に示す。また、シャーレを置くためのアクリルボー

ドの詳細を図 27 に示す。 位置決めを行う際に、水準器(MULTI LASER LTC-MP350)を使用し、アンテナ開

口面及びシャーレ底面が水平になるようにした。 アンテナ入力電力は 2W とし、ばく露時間は 3 分間とした。熱解析により、シャーレ

内の試料が薄い場合、試料底面における温度分布とほぼ同様の温度分布が上面でも起き

ることが確認されている。シャーレ中央における温度測定を行い、熱解析の計算結果と

比較を行った。なお、室温は 23.5で実験を行った。

図 25 ばく露装置とサーモグラフを用いた SAR 分布測定実験の写真

図 26 シャーレを固定するアクリル板とステージ

310

表 4 ホーンアンテナ、シャーレの位置調整、 及びこれらを固定するための器材の詳細

配置場所 品名 型式 / 品番 ホーンアンテナ 高さ調整プラットホーム

(A60-L に M22 の穴加工、L=59mm) UD8480 / 90900001

傾斜ステージ B41-80AN / 90500401-10 水平面 z 軸ステージ B33-80A / 90802330-8 フリーサイズスペーサ(40mm) E12-40 / 91000014

シャーレ 傾斜ステージ B41-60AN / 90501069-9 水平面 z 軸ステージ B37-60 / 90500773-8 xy 軸ステージ (B11-60DR 90800404-1 × 2)

B21-60DR

フリーサイズスペーサ(10mm) E07-10 / 90900031 フリーサイズスペーサ(50mm) E07-50 / 90900075 フリーサイズスペーサ(80mm) E07-80 / 91000041 フリーサイズスペーサ(100mm) E07-100 / 90900136

土台 アルミブレッドボード A64-34 / 90801372

図 27 ばく露装置のシャーレ固定のために用いたアクリルボード

311

3.4 ばく露時の培地内温度場解析

電磁界解析によって得られた SAR 分布を用いて、温度場解析により培地内の温度場

を解析する。解析結果とサーモグラフの温度測定結果を比較することで、電磁界解析の

妥当性を検討することができる。

熱伝導方程式及び境界条件は式(8)及び式(9)で表される[16]。

( ) SARTc k T

t

(8)

( )n airq h T T (9)

ここで、T は温度、c は比熱、k は熱伝導率、 nq は境界における法線方向の熱流束、

hは熱伝達率、 airT は空気温度を表す。

熱の輸送が熱伝導のみによって起こると仮定すると、適切な初期値及び境界条件を設

定し熱伝導方程式を解くことにより境界内の温度分布が解析出来る。

式(1)及び式(2)を差分法によって数値解析する。計算モデルを図 28 に示す。計算に用

いた物理パラメータを表 5 に、計算条件を表 6 に示す。培地の熱定数には水の値 [15]

を用い、シャーレの熱定数は文献[17]の値を用いた。

格子間隔は、 x 及び y をそれぞれ 0.2mm、 z を 0.1mm とした。タイムステップ

は安定条件より決定した。境界条件の温度 airT はサーモグラフを用いた実験時と同一の

23.5 とし、解析領域の初期温度も同様に 23.5 とした。

熱伝達率は自然対流下では 5~30W/m2°K と考えられることから[16]、本研究では、

熱伝達率 hを 10, 20, 30W/m2 °K とした。

表 5 熱解析に使用した物理パラメータ

培地[15] シャーレ[17]

熱伝達率[W/m 2 K ] 5.97 10 1 0.08

比熱 [J/kg K] 4.18 10 1.34 10

密度 [kg/m 3 ] 1.00 10 3 1.05 10 3

表 6 温度場解析の計算条件

タイムステップ [s] x [mm] y [mm] z [mm]

312

0.02 0.2 0.2 0.1

図 28 熱解析の計算モデル

細胞実験における培地内の温度環境を評価するために、実験条件に合わせて以下の条

件での温度場解析を行った。実験の条件を考慮して、初期温度が 37 度、外気温 37 度

の時、及び初期温度が 32 度、外気温 37 度の場合について検討した。また、各々の計

算では熱伝達率を h =10, 20, 30 と仮定して計算した。

熱伝達率について、階段近似による誤差を考慮して値を補正した。具体的には、補正

係数を 0.786 として、側面の熱伝達率についてこの係数を乗算した。温度上昇は、培地

中央の底面における温度上昇(bottom)と、培地中央を中心として半径 10mm、深さ

2mm の円柱での平均上昇値(average)を計算した。Average の根拠は、実験で用い

た蛍光式光ファイバー温度計の空間分解能を考慮したものである。

3.5 蛍光式光ファイバー温度計及びサーモグラフによるばく露時の培地の温

度上昇に関する検討

インキュベータ内にばく露装置を配置した時の様子を図 29 に示す。試料として用い

る細胞の培養及び対照(control)の細胞を入れるインキュベータには BL-321(十慈フ

ィールド社製)を、ばく露実験においてばく露装置を入れるインキュベータには

BNR-110M(エスペック社製)を使用した。インキュベータによる温度環境の違いがな

いことを確認するため、比較を行った。すなわち、対照(control)の環境とばく露の

313

電波をオフとした(sham)環境で、蛍光式光ファイバー温度計を用いて、培地底面中

央部の温度測定を行った。いずれも温度を 37、CO2濃度を 5%と設定し、一晩以上時

間をおいた後に測定を行った。温度測定時のインキュベータ内の様子を図 30、ファイ

バープローブの設置状況を図 31 に示す。

図 29 インキュベータ内のばく露装置の設置状況

図 30 シャーレ中心底面付近の温度測定

314

図 31 蛍光式光ファイバー温度計の設置状況

蛍光式光ファイバーの直径は約 0.7mm、培地厚さは約 2mm(培地の容量 4.2ml)

次に、ばく露時における培地の温度上昇について検討を行う方法について述べる。サ

ーモグラフによって得られた画像から、表面の放射率を与えれば温度を求めることがで

きる。この方法により、寒天ファントム上面の中央部における温度上昇を測定した。培

地表面の放射率として、水の放射率 0.96 を仮定した。上昇温度が入力電力に比例する

ことから、熱伝導による温度緩和を避けるために、入力電力は 2W とした。

蛍光式光ファイバー温度計を用いた測定も行った。実験手順は、シャーレに蛍光式光

ファイバー温度計を固定し、インキュベータ内で 37の定常温度にした培地をシャー

レに流し込んでばく露を開始し、ばく露中に温度測定を行った。蛍光式光ファイバー温

度計の設置状況は図 30、図 31 と同様である。

4 60GHz ミリ波ばく露による細胞への影響評価

4.1 細胞ばく露実験におけるばく露条件

ばく露条件は、ばく露評価の結果に基づいて決定したものであるが、ばく露条件をま

とめると次の通りである。

アンテナ入力電力は 0.5W、1W、2W とし、ばく露時間を 1 分間及び 6 分間とした。

各条件で実験を 5 回行い、結果を t 検定(両側検定)により評価した。培地には 10%

牛胎児血清(Fetal Bovine Serum; FBS)を加えた Ham's F-12 を使用し、培地の高さ

は 2mm とした。細胞試料として、チャイニーズハムスター卵巣由来の CHO-K1 細胞

を用いた。実験時には CHO-K1 細胞はシャーレ底面に付着した状態である。

315

アンテナ開口面から 90mm の位置にシャーレ底面を置いた場合の各アンテナ入力電

力におけるばく露条件を表 7 に示す。SAR 及び入射電力密度は、円錐ホーンアンテナ

開口面からシャーレ底面までの距離 d に依存する。距離 d が±0.5mm 変化すると、SAR

や電力密度は±20~25%程度変化することに注意し、不確かさとして考慮する必要があ

る。

表 7 細胞ばく露実験で用いたばく露条件(d =90mm)

アンテナ入力電力[W] 0.5 1 2

比エネルギー吸収率

SAR [mW/g]

平均値

最大値

368

1118

736

2235

1472

4470

入射電力密度(培地底面部)

S1 [mW/cm2]

平均値

最大値

8

24

16

47

32

94

入射電力密度(シャーレ手前部)

S0 [mW/cm2]

平均値

最大値

10

33

20

66

40

132

4.2 増殖速度への影響

細胞の増殖速度は、細胞機能の基本的な特性の一つである。そこで、ミリ波のばく露

により、増殖速度が変化するかどうかを検索する。

実験手順は、次の通りである。培養容器内に 0.35×106 cell/dish (=c 0)で CHO-K1

細胞を播種する。この時間を 0t [時間]とする。この細胞をインキュベータ内で一晩培

養する。播種から 24 時間後に、ばく露装置に培養容器をおきばく露を行う。ばく露後、

再びインキュベータで培養し、播種から 48~52 時間後( Tt )で細胞の数を計測し(=c 1)、

倍加時間を算出する。一連の手順を図 32 に示す。

図 32 増殖速度の算出のための実験手順

316

0

12log

cc

TtDT

倍加時間の算出は、ある時間T において、細胞数が 0c から 1c に増加した時、細胞の

ダブリングタイム DTt は、

(10)

で求めることができる。本実験では、 5248T [時間]としているが、これは、細胞

数の計数に 4 時間程度かかるためである。なお、再現性の確認のため、同じ実験条件の

下、実験を 2 回行った。

4.3 ばく露後の生存率への影響

細胞数の計数には、BECKMAN 社製の COULTER COUNTER を使用した。

COULTER COUNTER は、粒子の個数を計測するものであり、細胞の生死判定は行っ

ていない。倍加時間の計算では、計数される細胞に死細胞がいないものと仮定している。

48~52 時間後での計測結果に死細胞が含まれているとすれば、死細胞の数によって倍

加時間の算出に影響を与え、見かけの倍加時間が大きくなる可能性がある。CHO-K1

細胞の倍加時間を 19 時間と仮定し、生存率(viability)により倍加時間が見かけ上ど

のように算出されるかを図 33 に示す。また、図 33 において、生存率が 90~100%の

時を図 34 に拡大して示す。図 34 によれば、生存率が 90~100%の時、見かけの倍加

時間の算出結果はほぼ直線的に変化し、生存率が 1%違うと、約 20 分の差が生じる。

317

図 33 生存率と倍加時間の算出結果の関係

図 34 生存率と倍加時間の算出結果の関係

(生存率 90%以上の部分の拡大図)

318

ばく露後の生存率を含めた倍加時間を考慮するため、ばく露による死細胞の有無、及

びそれによる倍加時間の計算結果への影響の有無を確認した。具体的には、キャピラリ

ー型フローサイトメーター(Guave EasyCyte Mini)を使用して、ばく露後の生存率の

測定を行った。染色には、以下の 2 つの試薬を用いた。

ヨウ化プロピジウム(PI); 膜透過性のある核酸染色試薬で、有核細胞を染色

LDS-751;膜不透過性を有する生死判定染色試薬で、細胞が損用している細胞を

判定

実験手順を以下に示す。増殖速度測定の時の手順とほぼ同様である。培養容器内に

0.35×106 cell/dish(=c 0)で CHO-K1 細胞を播種する。この時間を 0t [時間]とする。

この細胞をインキュベータ内で一晩培養する。播種から 24 時間後に、ばく露装置に培

養容器をおきばく露を行う。ばく露後、再びインキュベータで培養し、播種から 48 時

間後に細胞の生存率を測定する。一連の手順を図 35 に示す。

図 35 生存率測定のための実験手順

4.4 ばく露による Hsp70 遺伝子の相対発現量への影響

細胞は、通常の生育温度より数度高い温度にさらされたり、酸化ストレスや遷移金属

イオンなどの化学的ストレスにさらされたりすることで、特定の数種類のタンパク合成

を行う。このような反応を熱ショック応答と呼び、これらのタンパクを熱ショックタン

パク(HSP)と呼ぶ。通常、細胞は様々な生理活性物質、細胞間相互作用によって増殖・

分化の調節を受けており、これらの多様な環境の変化に対応して、HSP が誘導される

[18、19]。HSP は多種多様なストレスによって誘導され、細胞を防御する役割を持つ。

高周波電磁界による HSP の誘導については多くの研究が行われている。熱以外のメカ

ニズムによるという報告もあるが[20]、確かではない。本研究では、ミリ波のばく露に

319

よって、熱ショックタンパクのうち Hsp70 遺伝子の相対発現量の測定を行う。ここで

はタンパクを定量するのではなく、Hsp70 に関する遺伝子発現を RT-PCR を用いて、

RNA レベルで測定する。

実験手順は以下の通りである。培養容器内に 0.35×106 cell/dish(=c 0)で CHO-K1

細胞を播種する。この時間を 0t [時間]とする。この細胞をインキュベータ内で一晩培

養する。播種から 24 時間後に、ばく露装置に培養容器をおきばく露を行う。ばく露後、

すぐにセルスクレーパーを用いて培養容器から細胞をはがし、RNA 抽出装置で細胞か

ら totalRNA を抽出し、-80で冷凍保存する。全てのばく露が終了した後、RNA を

解凍して吸光光度計で RNA 濃度を測定する。RNA 濃度を考慮し、リアルタイム

RT-PCR 装置を用いて、Hsp70 の遺伝子発現量をΔΔC [21]法を用いて解析する。

320

Ⅳ 結果と考察

1 散乱光強度補償法の検証

較正を行うために取得した各分散濃度における RGB 軌跡を図 36 に示す。取得した

較正データの濃度は 0.05、0.07、0.1%である。これらの較正データの RGB 値を HSL

変換による輝度値 L で正規化した結果を図 37 に示す。図 37 に示した各濃度の輝度値

の値から最小二乗近似を行い、濃度 0.07%の補償された較正データを取得した。

図 36 MTLC 分散濃度 0.05、0.07、0.1%の RGB 軌跡

及び複数の RGB 軌跡から補償を行った 0.07%の RGB 軌跡

321

21 TTT

図 37 図 36 の RGB 値を輝度値へ変換したグラフ

赤点は補償した濃度 0.07%のデータである。

また、グラフの直線は最小二乗近似によって求めた近似直線である。

定量化を行う画像の例を図 38 に示す。測定対象物の濃度が確定している場合の較正

手法によって定量化を行った結果を図 39 に示し、取得できた温度分布における温度値

をT1とした。一方、散乱光補償法を用いて定量化を行った結果を図 40 に示し、取得で

きた温度分布における温度値をT2とした。各々の定量化結果T1からT2を式(11)のように

直接差し引いた結果を図 41 に示した。

(11)

図 41 に示す様に、T1とT2の共通して発色している範囲において、温度値に最大 0.4

の差が生じたが、ほとんどの領域において温度値の差は約 0.2程度であった。この結

果から提案した散乱光補償法は散乱光強度に不確実さがある場合の定量化に適応出来

ると考えられる。

322

図 38 キュベットに対するミリ波ばく露による温度分布画像例

図 39 従来の色-温度較正法によって定量化した結果

この結果は濃度が既知の場合の定量化である

323

図 40 MTLC 分散濃度に不確実さがあると仮定し、

散乱光強度補償法によって定量化した結果

図 41 図 39 と図 40 の温度値の定量化結果の差異

2 対流が生じる条件の解析と検証

Ⅲ章の 2 節で示した式(6)、(7)により求めた対流の有無を決定するダイアグラムを図

42 に示す。この図は v 1.1mm2/s、 0.14mm2/s、 2.11041/ºC、g 9.8m/s2、S 1.3103 m2

として得られたものである[15][22]。縦軸は培地の厚さ、横軸は入射電力である。図中

324

の赤の点線は入射電力密度が最大になる位置における温度差を用いた評価であり、青い

一点鎖線は入射電力をアンテナ開口面で平均化した場合の入射電力密度における温度

差を用いた評価である。赤の点線の場合は対流が生じる条件としては厳しい側の評価に

なっている。

図 42 対流が生じる時の培地厚さと入力電力の条件

図中の×は実験結果である。点線、一点鎖線の上部領域は対流が生じる領域である。

この図に関して実験による検証を行った。その結果を表8に示す。ばく露時間は全て1

分とした。表中のは対流が起こらず熱伝導のみでエネルギー輸送が行われていること

を示す。また表中の数値はばく露開始から対流が生じるまでの時間である。0.4W-3mm

の時は対流が生じているかどうか判断できなかったためとした。これらの結果を解析

的検討の図42に重ねて示す。入射電力密度が最大値をとる位置での、培地の上下の温度

差を考慮した1次元モデルを仮定した時、理論解析における臨界値により決定される領

域と実験結果の矛盾はなく、この解析方法により対流が起こらない条件を決定すること

ができると考えられる。本研究ではこの検討を参考にし、対流の生じない条件でばく露

が行えるように、培地の厚み、入射電力を決定した。

325

表 8 培地厚さ及び入力電力を変化させた時の対流の有無

対流が生じた場合はその発生までの時間を示している。

3 円錐ホーンアンテナを用いたばく露装置のばく露評価

3.1 ばく露装置の電磁界解析

3.1.1 電磁界分布の計算結果

距離 d =30.00~160.00mm において、10.00mm ごとの電磁界実効値の最大値、平均

値、相対標準偏差の計算結果を、図 43、図 45、図 47、図 49、図 51、図 53 に示す。

また、距離 d =87.50~92.50mm において、0.25mm ごとの電磁界実効値の最大値、平

均値、相対標準偏差の計算結果を、図 44、図 46、図 48、図 50、図 52、図 54 に示す。

図 43、図 49 によれば、電磁界実効値の最大値はおおむね距離に依存して、距離が大

きくなると最大値は小さくなる傾向にある。また、図 47、図 53 によれば、距離が小さ

いほど電磁界分布の均一度が高くなる。これは、培地底面における電磁界分布の均一性

とばく露強度が、距離によってトレードオフの関係になっているためと考えられる。図

45、図 51 に示すように、平均値としては距離によって大きな変化がない。このことか

らも、距離が大きくなると、ばく露強度は小さくなるが、均一性が増すため、平均値と

して見ると、変動が小さいと考えられる。

電磁界実効値分布の相対標準偏差は、細胞が付着する培地底面において、0.3 程度以

下が望ましいとされている[23]。図 47、図 53 によれば、90mm 程度離せば、相対標準

偏差が 0.3 程度以下となることが分かる。

一方で、図 44、図 46、図 48、図 50、図 52、図 54 に示すように 87.50~92.50mm

における 0.25mm ごとで行った計算結果から、d が 0.25mm 変化しただけでもばく露

強度に違いがみられることが確認できる。計算結果から、極大値と極小値の変化が

2.5mm で繰り返されているのが確認できる。自由空間において、周波数 60GHz におけ

る 1/2 波長が 2.5mm であることから、これは、アンテナ開口面からシャーレ底面の間

での多重反射による影響であると考えられる。

326

図 43 距離 d を 10mm 間隔で変化させた時の

培地底面における電界実効値の最大値

図 44 距離 d を 87.50~92.50mm で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における電界実効値の最大値

327

図 45 距離 d を 10mm 間隔で変化させた時の

培地底面における電界実効値の平均値

図 46 距離 d を 87.50~92.50mm で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における電界実効値の平均値

328

図 47 距離 d を 10mm 間隔で変化させた時の

培地底面における電界実効値の相対標準偏差

図 48 距離 d を 87.50~92.50mm で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における電界実効値の相対標準偏差

329

図 49 距離 d を 10mm 間隔で変化させた時の

培地底面における磁界実効値の最大値

図 50 距離 d を 87.50~92.50mm で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における磁界実効値の最大値

330

図 51 距離 d を 10mm 間隔で変化させた時の

培地底面における磁界実効値の平均値

図 52 距離 d を 87.50~92.50mm で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における磁界実効値の平均値

331

図 53 距離 d を 10mm 間隔で変化させた時の培地底面に

おける磁界実効の相対標準偏差

図 54 距離 d を 87.50~92.50mm で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における磁界実効値の相対標準偏差

332

細胞の付着する培地底面において、d =30、90mm を中心に、それぞれ±0.25mm、

±0.5mm 距離を変化させた時の電界及び磁界の分布の計算結果を図 55 に示す。

また、d =30、及び 90mm を中心に、それぞれの距離から±0.25mm、±0.5mm 距離

を変化させた時の培地底面における電界実効値のヒストグラムを図 56、57 に示す。

図 55 d =30、及び 90mm 付近の時の培地底面における

電界実効値(a)と磁界実効値(b)の培地底面における分布

333

図 56 d=29.50, 29.75, 30.00, 30.25, 30.50mm の時の

培地底面における電界実効値分布のヒストグラム

図 57 d =89.50, 89.75, 90.00, 90.25, 90.50mm の時の

培地底面における電界実効値分布のヒストグラム

334

3.1.2 SAR 分布の計算結果

培地底面での SAR の計算結果を示す。SAR は内部電界の 2 乗に比例するので、均一

な媒質中では、対数スケールでみれば電界分布と同じ分布になる。

距離 d =30.00~150.00mm において、10mm 間隔で計算した SAR の最大値、平均値

の計算結果を図 58、図 60 に示す。また、距離 d =87.50~92.50mm において、0.25mm間隔で計算した SAR の最大値、平均値を、図 59、図 61 に示す。

多重反射による影響のため、極大値と極小値の繰り返しが 2.5mm ごとで起きること

は、電磁界分布と同じである。

図 58 距離 d を 5.00~150.00mm の範囲で 10mm 間隔で変化させた時の

培地底面における SAR の最大値

335

図 59 距離 d を 90mm 付近で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における SAR の最大値

図 60 距離 d を 5.00~150.00mm の範囲で 10mm 間隔で変化させた時の 培地底面における SAR の平均値

336

図 61 距離 d を 90mm 付近で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における SAR の平均値

図 62 に、d = 30, 50, 70, 90mm 付近で、それぞれ 0.25mm 間隔で距離を変化させた

時の培地底面における SAR 分布の計算結果を示す。90mm 付近では、分布に大きな変

化がないことがわかる。これは、アンテナからの距離が大きくなるにつれて、開口面の

各点から放射された電波の位相差が小さくなるためで、ここで使用している円錐ホーン

アンテナでは、遠方界の条件 λ/2 2D を満たすためには 250mm(λ=5mm, D = 25mm)

離す必要があるが、90mm 程度でもほぼ遠方界に近いと見なすことができることがわか

る。

図 63、64 に、d = 90mm 付近の培地底面における SAR の X 方向及び Y 方向のプロ

ファイルを示す。また図 65 に、d = 90mm 付近の培地底面における SAR のヒストグラ

ムを、図 66 に、d = 90mm 付近の培地底面における電力密度分布を示す。

337

図 62 d = 30, 50, 70, 90mm 付近で 0.25mm 間隔で変化させた時の

培地底面における SAR 分布の計算結果

338

図 63 d =89.50, 89.75, 90.00, 90.25, 90.50mm の時の培地底面における SAR のシャーレ中心を通る断面内 X 方向のプロファイル

図 64 d =89.50, 89.75, 90.00, 90.25, 90.50mm の時の培地底面における

SAR 分布のシャーレ中心を通る断面内 Y 方向のプロファイル

339

図 65 d =89.50, 89.75, 90.00, 90.25, 90.50mm の時の

培地底面における SAR 分布のヒストグラム

図 66 d =89.50, 89.75, 90.00, 90.25, 90.50mm の時の

培地底面における電力密度 X-Y 分布

340

3.1.3 ばく露方法の決定

表 9 に、数値解析により得た円錐導波管型ばく露装置のばく露特性をまとめた結果を

示す。

表 9 培地底面におけるばく露強度の距離依存性

d[mm] 電界実効値

E [V/m] 平均値 相対標準偏差 最大値

磁界実効値 H [A/m]

平均値 相対標準偏差 最大値

SAR [mW/g]

平均値 最大値

SAR [mW/cm2] 平均値 最大値

29.50 29.75 30.00 30.25 30.50

133.2 0.785 443.9 141.0 0.637 412.3 148.1 0.506 354.1 150.8 0.457 335.3 150.9 0.469 336.2

1.47 0.808 4.99 1.54 0.663 4.64 1.61 0.530 3.97 1.64 0.478 3.75 1.65 0.490 3.76

1223 8563 1179 7398 1152 5434 1145 4852 1159 4866

49.50 49.75 50.00 50.25 50.50

139.2 0.582 354.3 133.6 0.600 371.7 136.1 0.491 349.5 142.4 0.368 309.9 145.6 0.300 266.5

1.55 0.594 3.98 1.48 0.612 4.17 1.51 0.503 3.93 1.57 0.380 3.48 1.61 0.311 3.00

1111 5452 1038 5998 977 5305 961 4119 974 3086

69.50 69.75 70.00 70.25 70.50

143.6 0.361 288.5 139.1 0.403 301.3 135.7 0.380 287.5 135.9 0.314 259.3 137.4 0.256 234.0

1.59 0.372 3.24 1.54 0.415 3.39 1.50 0.391 3.23 1.50 0.322 2.91 1.52 0.262 2.63

993 3616 957 3945 894 3590 855 2919 846 2377

89.50 89.75 90.00 90.25 90.50

133.6 0.295 234.5 128.9 0.340 243.3 124.3 0.340 236.2 120.8 0.312 220.4 120.4 0.250 226.5

1.48 0.304 2.64 1.43 0.349 2.74 1.38 0.349 2.66 1.34 0.320 2.48 1.33 0.255 2.22

826 2386 791 2570 734 2422 679 2109 649 1687

17.59 50.38 16.82 54.26 15.64 51.14 14.16 43.55 13.89 35.64

d =30mm 付近では、距離が 0.25mm 変化しただけでも培地底面内の電磁界分布が大

きく変わる。d = 90mm 付近になると、分布はほぼ均一となり、電界強度の相対標準偏

差も、要求条件である 30 %程度となる。2.5mm 周期でばく露の極大と極小が繰り返す

が、これはシャーレ底面とアンテナ開口面の間での多重反射による定在波の影響と考え

られる。この影響については、シャーレ底面に整合板をおくことにより改善できること

を明らかにしている。

341

以上の考察により、培地底面における電磁界分布の均一度、及びばく露強度を考慮し

て、円錐ホーンアンテナを d =90mm としてばく露を行うことにした。この時の、アン

テナ入力 1W 当たりのばく露強度を、距離 d に±0.5mm の不確かさがある場合を想定

して、これに対応する範囲を表 10 に示した。

培地内の電磁界分布及び SAR 分布は、一般に培地の厚さに依存する。その理由は、

培地の上面と下面で多重反射が起き、定在波が生じるためである。しかし、ミリ波は培

地での吸収が非常に大きく、60GHz の場合の侵入深さが 0.5mm 程度なので、培地の厚

さが 1mm 程度以上あれば多重反射の影響は小さい。一方で、MTLC を用いた実験及び

解析による対流現象の考察から、培地厚さが薄ければ対流が起きにくいことが示されて

おり、本研究で使用する 2W 程度までの入力電力では、2mm 程度以下であれば対流の

影響を防ぐことができることを示している。そこで、本研究におけるばく露条件として、

培地の厚さを 2mm と決定した。

本実験では、1 分間及び 6 分間をばく露時間とした。

表 10 円錐ホーンアンテナを用いた アンテナ入力電力 1W 当たりのばく露強度

d = 90 ±0.5mm

電界実効値

E[V/m]

平均値

最大値

126±10%

232±10%

磁界実効値

H[A/m]

平均値

最大値

1.4±10%

2.5±20%

比エネルギー吸収率

SAR[mW/g]

平均値

最大値

736±20%

2235±25%

入射電力密度

S[mW/cm2]

平均値

最大値

16±20%

47±25%

342

3.2 サーモグラフを用いたSAR分布の観測

d =30, 50, 70, 90mm の距離を中心に、これらの距離から±0.25mm、±0.5mm 距離

を変化させた時のサーモグラフによる温度分布の観測結果と電磁界解析による SAR 分

布の計算結果を図 67~70 に示す。

温度分布が数値解析による電磁界分布と似た分布になっているのが分かる。距離が小

さいと、0.25mm の距離の違いでも分布に変化があることが実験的にも示された。また、

分布の形状は数値解析の結果とよく一致しており、数値解析の妥当性を確認することが

できた。 サーモグラフによる温度分布の測定は、寒天ファントムの上表面での温度分布を観測

しているので、寒天底面(培養した細胞がいる培地底面に当たる)の温度とは異なる。

しかしながら、厚さ 1.0mm 程度の場合の数値解析によれば、寒天底面に見られる加

熱パターンと寒天上表面での温度分布に大きな違いはないことから、培地底面での分布

が見ることができたと考えられる。このことから、90mm 付近でのばく露は、0.25mm

の距離の違いによる分布の変化が小さいことが分かった。

図 67 d = 30mm 付近における培地底面 SAR 分布の計算値(左)と ばく露開始から 10, 20 ,30, 60 秒後のサーモグラフで測定した培地表面の温度分布(右)

343

図 68 d = 50mm 付近における培地底面 SAR 分布の計算値(左)と

ばく露開始から 10, 20 ,30, 60 秒後のサーモグラフで測定した培地表面の温度分布(右)

図 69 d = 70mm 付近における培地底面 SAR 分布の計算値(左)と

ばく露開始から 10, 20 ,30, 60 秒後のサーモグラフで測定した培地表面の温度分布(右)

344

図 70 d = 90mm 付近における培地底面 SAR 分布の計算値(左)と ばく露開始から 10, 20 ,30, 60 秒後のサーモグラフで測定した培地表面の温度分布(右)

3.3 ばく露装置の培地内温度場解析の結果

細胞ばく露実験と同じ条件を想定した温度場解析の結果を示す。すなわち、アンテナ

入力を 0.5、1、2W、培地の厚さを 2mm として、1 分間(60 秒)及び 6 分間(360 秒)

ばく露した場合の温度場の解析を行った。ここで、熱伝達率 h は、次節に述べる実験結

果も考慮して 20 としている。計算の妥当性については、次節で蛍光式光ファイバー温

度計を用いた測定結果との比較に基づいて検討している。

この時の蛍光式光ファイバー温度計プローブの空間分解能を考慮した平均温度上昇

(average)の計算結果を表 11 に示す。

表 11 初期温度 37 度における平均温度上昇の計算結果

(外気温 37 度、h = 20) 60 秒後 360 秒後

0.5W +1.0 +3.0 1W +1.9 +5.9 2W +3.8 +11.8

345

また、同条件における培地底面の温度上昇の結果を表 12 に示す。最も SAR が大き

い場所であり、当然ながら平均値よりも温度上昇が大きい。但し、培地が 2mm と薄い

ので熱輸送による温度緩和があり、SAR 分布の空間勾配に比べて温度勾配はそれほど

極端に大きくない。

表 12 初期温度 37 度における平均温度上昇の計算結果

(外気温 37 度、h = 20) 60 秒後 360 秒後

0.5W +1.4 +3.8 1W +2.8 +7.5 2W +5.5 +15.0

理想的には、初期温度、外気温ともに 37を想定している。しかし、実験では、培

地の初期温度は 32 度付近であった。そこで、初期温度 32 度、外気温 37 度の検討を行

い、その結果を表 13 に示す。

表 13 初期温度 32 度における平均温度上昇の計算結果

(外気温 37 度、h = 20) 60 秒後 360 秒後

0.5W +1.9 +6.7 1W +2.9 +9.6 2W +4.7 +15.5

外気温との温度差により、外部から熱が供給されるため、温度上昇は初期温度が 37

の場合に示した値よりも大きくなることがわかった。

実験では、培地の温度がインキュベータ外での操作によって低下するために初期温度

が低くなるのに加えて、インキュベータの扉の開閉によって外気温も 37 度より低下す

ることにも注意が必要である。

数値解析によって得た温度場の詳細を図 71~78 に示す。温度上昇の結果における

bottom とは培地中央の底面における温度上昇を表す。また、average とは培地中央を

中心として半径 10mm、深さ 2mm の円柱での平均上昇値を表す。

温度分布の結果における、深さ方向については、z = 0 ~1.1mm がシャーレであり、

z = 1.1mm ~3.1mm が培地である。

346

図 71 培地初期温度、外気温ともに 37の時の

シャーレ中心における温度上昇の時間経過

図 72 培地初期温度、外気温ともに 37の時の ばく露開始 60 秒後のシャーレ中心における深さ方向の温度分布

347

図 73 培地初期温度、外気温ともに 37の時の

ばく露開始 360 秒後のシャーレ中心における深さ方向の温度分布

図 74 培地初期温度、外気温ともに 37の時の 中心を通る y 軸方向断面の温度分布(60 秒後)

348

図 75 培地初期温度、外気温ともに 37の時の 中心を通る y 軸方向断面の温度分布(360 秒後)

図 76 培地初期温度 32、外気温 37の時の

シャーレ中心における温度上昇の時間経過

349

図 77 培地初期温度 32、外気温 37の時のばく露開始 60 秒後の シャーレ中心における深さ方向の温度分布

図 78 培地初期温度 32、外気温 37の時のばく露開始 360 秒後の

シャーレ中心における深さ方向の温度分布

350

3.4 蛍光式光ファイバー温度計及びサーモグラフによるばく露時の培地の温

度上昇に関する検討

細胞培養及び対照(control)に用いるインキュベータと、ばく露に用いるインキュ

ベータ(電波は照射しない sham ばく露)に培地を入れたシャーレをおいた時の、シャ

ーレ中心の温度を蛍光式光ファイバー温度計で測定した結果を図 79 に示す。初期温度

が同じではないが、インキュベータ内での培地は 1 時間 30 分ほどで定常状態となって

いる。

図 79 インキュベータ中での培地底面中央部における温度測定結果

ミリ波のばく露に伴う温度上昇について、蛍光式光ファイバー温度計を用いて測定し

た結果を以下に示す。

351

図 80 距離 d =90mm の時のシャーレ中央での サーモグラフによる測定結果(Exp.)と数値解析の計算結果との比較

距離 d =90mm の時、サーモグラフによって測定した寒天ファントム上面の中心部に

おける温度上昇を測定した結果を図 80 に示す。同図には、電磁界解析で得られた SAR

分布を熱源にして熱伝導方程式を差分法で解いた数値解析から得られた温度上昇の計

算結果も示している。数値解析では、初期温度と空気の温度は同じ温度であるとし、初

期値を実験の測定値に揃えた。具体的には、境界条件の温度と解析領域の初期温度を

23.5とした。また、アンテナ入力電力は実験と同じ 2W とした。

352

図 81 蛍光式光ファイバー温度計を用いた

ばく露時のシャーレ中心付近の温度測定の結果

ミリ波のばく露にともなう温度上昇の測定結果を図 81 に示す。蛍光式光ファイバー

温度計はファイバー径が約 0.7mm あり、ミリ波ばく露によって生じる培地の温度勾配

に比べて空間分解能が十分でない。したがって培地底面における実際の温度上昇は蛍光

式光ファイバー温度計による測定値より大きいと推定できる。2W 6 分でのばく露にお

いては約 12の温度上昇が測定されたことから、培地底面で生じた実際の温度上昇は

これより高いと考えられる。以上の検討結果は、ばく露実験の解釈において考慮する必

要がある。

表 14 実験による温度上昇の結果

60 秒後 360 秒後 0.5W +0.9 +4.0 1W +2.2 +7.1 2W +4.1 +12

353

4 60GHz ミリ波ばく露による細胞への影響評価

4.1 増殖速度に関する検討

実験結果を図 82 に示す。グラフの値は 5 回のデータを平均したものであり、エラー

バーは標準偏差である。ばく露以外は同一の実験手順を行ったものを偽ばく露(sham)、

インキュベータで培養を続けたものを対照(control)としている。ばく露したものと

sham を比較することで、ばく露による影響評価ができる。sham を基準として両側 t

検定を行った結果、有意水準 1 %未満で有意差がある場合を*で示した。

2 回の実験を独立に行った結果、共通点としては 2W で 6 分間ばく露時の倍加時間が

長い傾向が見られた。2 回目のばく露実験においては、有意水準 1%で有意差が見られ

た。

354

図 82 CHO-K1 細胞の倍加時間(それぞれ n=5) * p<0.01

(a)は 1 回目、(b)は 2 回目の実験結果

355

4.2 ばく露後の生存率に関する検討

図 82 の倍加時間の算出には細胞死を考慮せず、ばく露後に計測した細胞の個数をも

とに算出している。細胞死を含める場合は、図 33、34 にあるように、細胞死の量が多

ければ多いほど(=生存率が低い)、見かけの倍加時間が増加することから、ばく露によ

って倍加時間が長くなったのか、細胞死による影響なのか調べる必要がある。 表 15 に生存率の測定結果を示す。図 34 によれば、生存率が 90~100%である時は、

倍加時間への影響がほぼ直線的であり、生存率が 1%違うと、倍加時間の算出結果に約

20 分の時間差が生じる。表 15 によれば、生存率は 98%以上で、倍加時間への細胞死

による影響はほとんどないと考えられる。以上より、細胞死が倍加時間の算出に影響し

ているとは考えにくい。

表 15 ばく露後の生存率の測定結果

control sham 0.5W 1W 2W T[min]

Viabillity[%]

99 1min 6min 99 98

1min 6min 99 98

1min 6min 99 99

1min 6min 99 99

4.3 ばく露による Hsp70 遺伝子の相対発現量の測定結果

測定結果を図 83 に示す。グラフの値はそれぞれ 1 分及び 6 分の sham ばく露発現量

を基準とした相対発現量を示す。エラーバーは標準偏差である。1 分ばく露と 6 分ばく

露のそれぞれで、sham ばく露を基準とした t 検定を両側検定で行い、有意水準 5%、

1%、0.5%での有意差を、*、 **、***で表した。

6 分ばく露の時は、アンテナ入力電力が強いほど発現量が増加する傾向である。これ

は、培地底面における温度上昇によるものと考えられる。一方で、1 分ばく露の時はほ

とんど変化がない。

温度測定や熱解析の結果によれば、2W で 1 分ばく露の時と、0.5W で 6 分ばく露の

時では、最終的な培地底面における温度上昇がほぼ同程度であった。しかし、Hsp70遺伝子の発現量には差違がある。このことから、温度上昇だけで Hsp70 遺伝子の発現

量が決まるわけではなく、温度上昇にかかる時間も Hsp の発現に関係すると考えられ

る。 比較のため、インキュベータを用いて 2 時間の温度ばく露を行った時の Hsp70 遺伝

子の相対発現量の測定結果を図 84 に示す。図 84 は、インキュベータの温度設定を 37

356

度、38 度、39 度、40 度、41 度とし、37 度の時の発現量を 1 として規格化している。

温度が高いほど発現量が多い。図 84 と図 83 の結果を比較すると、Hsp70 遺伝子の相

対発現量としては、2W で 6 分間のばく露は 41で 2 時間の温度ばく露と同程度であ

り、1W で 6 分間のばく露は 40で 2 時間の温度ばく露と同程度、0.5W で 6 分間のば

く露は 39で 2 時間の温度ばく露と発現量の増加がほぼ等しい。しかし、温度上昇の

観点から見てみると、温度上昇だけで結論付けることは難しい。

以前の研究から、2 時間ばく露を行うことで Hsp70 遺伝子の発現が確認できていた

が、本研究における 6 分間ばく露により、より短時間でも Hsp70 遺伝子の発現が確認

することができた。さらには、その発現量が、温度上昇に起因している可能性があるこ

とが分かった。しかしながら、Hsp70 遺伝子の発現には、温度上昇だけで議論できる

ものではなく、時間も考慮していく必要がある。今後の課題としては、より様々なばく

露時間でばく露実験を行った時に、Hsp70 遺伝子がどのように発現するか検討が必要

であると考えられる。

図 83 ばく露実験による Hsp70 遺伝子の相対発現量

(*p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001)

357

図 84 インキュベータを用いた温度ばく露による Hsp70 遺伝子の相対発現量

358

Ⅳ 結論

ミリ波帯の電波が、生体に及ぼす影響を細胞レベルで検索するための基礎技術として、

感温液晶マイクロカプセル(MTLC)を用いた培地内の温度分布測定法の定量化を一層

進め、同じく MTLC を用いて培地の対流現象を観測する方法を開発した。また、対流

現象を理論的に解析することにより、細胞ばく露実験において対流によるアーチファク

トを生じないための条件を明らかにし、MTLC を用いた実験によりそれを検証した。

これらの結果は、細胞ばく露実験のばく露条件を決めるために活用した。

これまでに行ったさまざまな検討を踏まえて、細胞用ばく露装置として円錐ホーンア

ンテナを用いた装置を新たに開発した。基礎技術としてすでに開発していた数値電磁界

ドシメトリの手法、温度場解析の手法、及び実験的な検証手法を用いて、開発した細胞

用ミリ波帯ばく露装置のばく露特性を詳細に明らかにした。今回開発した装置が、分布

の均一性、ばく露強度の制御性、対流などのアーチファクトの排除など、物理環境の把

握と制御の点で細胞用ばく露装置として求められる要件を満たすものであることを確

認した。

開発したばく露装置を用いて細胞ばく露実験を行い、60GHz のミリ波による細胞へ

の影響について検討を行った。アンテナ入力電力を 0.5、1.0、2.0W/kg として、1 分間

及び 6 分間のばく露を行ったが、細胞の増殖速度については、2W で 6 分間ばく露した

場合に、有意に倍化時間の増加、すなわち、増殖速度の減少がみられた。また、熱ショ

ックタンパク Hsp70 遺伝子の発現については、1W 及び 2W 入力で 6 分間ばく露した

場合に、ばく露の強さに依存して発現量の増加がみられた。熱解析の結果から、これら

の変化は、いずれも細胞の置かれた培地底面における温度上昇による影響として説明で

きることが示された。また、非熱的条件と見なすことができる 0.5W 入力のばく露では

変化がなく、実験を行った範囲では、非熱的な影響は見いだされなかった。

今後の課題として、医学生物学分野の研究グループと協力して、より詳細に細胞機能

への影響を検索する必要がある。本研究において開発した円錐ホーンアンテナ型のばく

露装置は、取り扱いが比較的容易であり、本研究で目的とした医学生物学研究者に提供

可能なばく露装置としての要件を満たしている。本装置を利用して、今後の一層の研究

進展が期待される。

359

Ⅴ 参考文献

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[2] 総務省報道発表資料, “60GHz 帯の電波を利用する無線システムの導入”, 2000.

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[5] T. Fuse, M. Taki, and O. Yokoro, “Penetration Characteristics of Submillimeter

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[6] J. L. Fergason, “Liquid Crystals in Nondestructive Testing,” Appl. Opt., vol.

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[7] D. Dabiri and M. Gharib, “Digital particle image thermometry: The method

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[8] 株式会社日本カプセルプロダクツ http://www.japancapsular.com/

[9] 馬場まどか, 鈴木敬久, 多氣昌生, 福永香, 渡辺聡一, ”感温液晶を用いた高周波

電 磁 界 エ ネ ル ギ ー 吸 収 の 3 次 元 分 布 測 定 法 ” , 電 気 学 会 論 文 誌

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[10] 木村一郎, 小澤守, 真鍋義人, 竹中信幸, 高森年, ”感温液晶を用いた温度場と速

度場の同時計測”, 計測自動制御学会論文集,Vol.27,No.8,pp870-877,1991

[11] 森本俊一, 秋野詔夫, 一宮浩一, ”感温液晶による温度測定に関する研究(第 1 報,分光・色彩特性)”, 日本機械学会論文集(B 編),63 巻 611 号,1997

[12] 奥野剛, 鈴木敬久, 多氣昌生, 福永香, “感温液晶マイクロカプセルを用いた温度

定量化のための色-温度較正法の提案”電子情報通信学会総合大会 2008,B-4-40

360

[13] Landau LD,Lifshitz EM, 竹内均 訳, “流体力学(ランダウ=リフシッツ理論物

理学教程) ”, 東京図書,1970

[14] H. Saito, Y. Suzuki and M. Taki, “Measurement of complex permittivity for

biological cells at 1.7-2.6GHz by waveguide penetration method”, Union Radio

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[15] 国立天文台, “理科年表”, 丸善, 2001.

[16] 中山 顕, 桑原 不二朗, 許 国良, “熱流体力学”, 共立出版, 2002.

[17] T. Sonoda, R. Tokunaga, K. Seto, Y. Suzuki, K. Wake, and M. Taki, “Electromagnetic and Thermal Dosimetry of a Cylindrical Waveguide-Type in

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[18] 矢原 一郎, 子安 重夫, 松本 清治, “高等動物における熱ショック蛋白質 HSP70

と HSP90 の機能”, vol.33, no.1, pp. 29-37, 1988.

[19] 中井 彰, 永田 和宏, “高等動物のストレス応答”, vol.39, no.5, pp.793-807, 1994.

[20] D. Leszczynski, S. Joenvaara, J. Reivinen, R. Kuokka. “Non-thermal activation

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[21] Applied Biosystems “User Bulletin #2 ABI PRISM 7700 Sequence Detection

System”, 1997

[22] 伝熱工学資料 改訂第 4 版, 日本機械学会,1986

[23] Niels Kuster, and Frank Schonborn, “Recommended Minimal Requirements

and Development Guidelines for Exposure Setups of Bio-Expetiments Addressing the Health Risk Concern of Wireless Cmmunications”,

Bioelectromagnetics, vol.21, pp.508-514 (2000).

361

4.3 免疫細胞及び神経膠細胞を対象とした

マイクロ波照射影響に関する実験評価

363

Ⅰ 要 旨 細胞用高周波電波ばく露装置を用いて以下の研究を行った。

1.電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究

2.神経膠細胞に及ぼす電波の影響に関する研究

SAR(Specific Absorption Rate、比吸収率)1~10W/kg の電波を照射して細胞への

影響を検討した。

1の研究では、ヒトリンパ腫由来単芽球様細胞及び、ヒト白血病由来T細胞を用いて、

免疫細胞から産生される各種サイトカイン量を ELISA 法によって検討した。今回検討

した実験条件、解析条件においては、電波ばく露による有意な影響は認められなかった。

2 の研究では、マウス由来ミクログリア細胞を用いて、貧食能への影響について検討

した。今回検討したばく露条件下では、いずれの条件においても電波ばく露による有意

な影響は認められなかった。

364

Ⅱ 研究目的 1 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究

我々の体には、恒常性を保つために、生体内に侵入した異物を生体外に排除する免疫

と呼ばれる防御システムが存在する。免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり、健

康を損ないやすくなる。そこで、SAR 1、10W/kg の電波ばく露を行い、免疫細胞の基

本的な機能であるサイトカイン分泌特性に対して ELISA ( Enzyme-linked

immunosorbent assay)法を実施し、携帯電話の電波が影響を与えないかどうかについ

て検討する。

2 神経膠細胞に及ぼす電波の影響に関する研究

脳内免疫細胞として重要な役割を果たすことが知られている神経膠細胞に対して、電

波が影響を及ぼしていないか検索するために、SAR 1、10W/kg の電波ばく露を行い、

神経膠細胞の基本的な機能である貧食能への影響について検討し、電波ばく露影響の有

無を調べる。

365

Ⅲ 試験方法 1 細胞用高周波電波ばく露装置

本研究に使用した電波ばく露装置は、安定した正常な培養環境(37、5%二酸化炭

素、飽和湿度)を整え、高精度の電磁工学的検証(周波数 2.45GHz、ドシメトリ(細

胞位置での正確な SAR 分布)、ペルチェ素子による細胞培地温度制御機能など)を終え

ている。図 1 に本電波ばく露装置を示す。(首都大学東京・多氣研究室の設計・製作)

図 1 細胞用高周波電波ばく露装置

ペルチェ素子設置

(内部写真)

366

2 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究

2.1 細胞・培養条件

細胞:U937(ヒトリンパ腫由来単芽球様細胞)(図 2)

培養液:RPMI1640 培地(10%牛胎児血清) 培養条件:37、5%二酸化炭素、飽和湿度

図 2 U937 細胞

細胞:Jurkat(ヒト白血病由来 T 細胞)(図 3)

培養液:RPMI1640 培地(10%牛胎児血清) 培養条件:37、5%二酸化炭素、飽和湿度

図 3 Jurkat 細胞

367

2.2 電波ばく露条件

周波数:2.45GHz

ばく露処理条件:SAR 1、10W/kg

ばく露時間:4 時間

2.3 ELISA(IL-1β、IL-6)実験方法

(1) 電波ばく露用シャーレに、1 枚当り 6×106個の U937 細胞を播種、終夜培養

(2) 電波ばく露(2.45GHz) (3) 細胞回収

(4) 上清を除去後、ホルボール 12-ミリステート 13-アセテート(Phorbol

12-myristate 13-acetate(以下、「PMA」という。))(50ng/mℓ)を含有する

培地に懸濁し、12 ウェル細胞培養プレートに 0.8mℓ/ウェル(5×105個/ウェル)

で播種

(5) 24 時間後、培地上清を除去し、培地で洗浄後、0.8 mℓ/ウェルの培地で培養 (6) 6 時間後、倍地上清を除去し、リポ多糖(Lipopolysaccharide(以下、「LPS」

という。))(1μg/mℓ)を含有する培地を 0.8mℓ/ウェル加える

(7) 1、6、18、24 時間後、培地上清全量を回収し、遠心沈降後、上清中に含まれ

るインターロイキン-1β(Interleukin-1β(以下、「IL-1β」という。)及び

インターロイキン-6(Interleukin-6(以下、「IL-6」という。)の濃度を R&D

Systems 製 Quantikine® Human IL-1β及び Human IL-6 を用いた、ELISA法で測定

(8) 細胞をセルスクレーパーで回収後、(7)の回収残渣と合わせて細胞数を測定

2.4 ELISA(IL-2)実験方法

(1) 電波ばく露用シャーレに、1 枚当り 6×106個の Jurkat 細胞を播種、終夜培養

(2) 電波ばく露(2.45GHz)

(3) 細胞回収 (4) PMA(10ng/mℓ)と A23187(1μg/mℓ)を含有する培地に懸濁し、12 ウェル

細胞培養プレートに 0.8mℓ/ウェル(5×105個/ウェル)で播種

(5) 1、18、24 時間後、培地上清全量を回収し、遠心沈降後、上清中に含まれるイ

ンターロイキン-2(Interleukin-2(以下、「IL-2」という。)の濃度を R&D

Systems 製 Quantikine® Human IL-2 を用いた、ELISA 法で測定

(6) 細胞をセルスクレーパーで回収後、(5)の回収残渣と合わせて細胞数を測定

368

3 神経膠細胞に及ぼす電波の影響に関する研究

3.1 細胞・培養条件

細胞:EOC20(マウス由来ミクログリア細胞)(図4)

培養液:ダルベッコ改変イーグル培地(10%牛胎児血清、20%マウス骨髄由来

細胞株 LADMAC 培養上清)

培養条件:37、5%二酸化炭素、飽和湿度

図 4 EOC20 細胞

3.2 電波ばく露条件

周波数:2.45GHz

ばく露処理条件:SAR 1、10W/kg

ばく露時間:4 時間

3.3 貧食能影響評価実験方法

(1) 電波ばく露用シャーレに、PLL コートガラスを沈め、1 枚当り 5×106 個の

EOC20 細胞を播種、終夜培養 (2) 電波ばく露(2.45GHz)

(3) PLL コートガラスを回収し、6 ウェル細胞培養プレートに入れ、ウサギ血清

コートした FluoSpheres® Fluorescent Microspheres(2.2×107個/mℓ)を加え

369

た 1.5mℓ/ウェルの培地で培養 (4) 30 分後、培地上清を除去し、りん酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered

saline(以下、「PBS」という。))で 2 回洗浄後、3.7%ホルムアルデヒドを加

え 10 分、室温でインキュベート (5) PBS で 2 回洗浄後、0.1% Triton X-100 を加え、5 分、室温でインキュベート

(6) PBS で 2 回洗浄後、1%BSA を加えた Fluorescent Phallotoxins で F-actin を

染色 (7) 風乾後、蛍光顕微鏡下で観察

370

Ⅳ 試験結果 1 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究

1.1 ELISA(IL-1β、IL-6)実験

U937 細胞から分泌された IL-1βと IL-6 の分泌量を図 5~図 8 に示す。分泌量は、

細胞数で標準化して示した。

0

100

200

300

400

500

1 6 18 24

Sham

電波ばく露(1W/kg)

図 5 U937 細胞による IL-1β分泌量(SAR 1W/kg、4 時間ばく露)

0

100

200

300

400

500

600

1 6 18 24

Sham

電波ばく露(10W/kg)

図 6 U937 細胞による IL-1β分泌量(SAR 10W/kg、4 時間ばく露)

IL-1β

(pg

/106

cells

IL-1β(

pg/1

06ce

lls)

LPS 刺激時間(h)

LPS 刺激時間(h)

371

0

100

200

300

400

500

600

700

1 6 18 24

Sham

電波ばく露(1W/kg)

図 7 U937 細胞による IL-6 分泌量(SAR 1W/kg、4 時間ばく露)

図 8 U937 細胞による IL-6 分泌量(SAR 10W/kg、4 時間ばく露)

LPS 刺激時間(h)

IL-6(

pg/1

06ce

lls)

LPS 刺激時間(h)

IL-6(

pg/1

06ce

lls)

0

100

200

300

400

500

600

700

1 6 18 24

Sham

電波ばく露(10W/kg)

372

1.2 ELISA(IL-2)実験

Jurkat 細胞から分泌された IL-2 の分泌量を図 9~図 10 に示す。分泌量は、細胞数

で標準化して示した。

図 9 Jurkat 細胞による IL-2 分泌量(SAR 1W/kg、4 時間ばく露)

図 10 Jurkat 細胞による IL-2 分泌量(SAR 10W/kg、4 時間ばく露)

PMA 及び A23187 刺激時間(h)

IL-2(

pg/1

06ce

lls)

PMA 及び A23187 刺激時間(h)

IL-2(

pg/1

06ce

lls)

0

20

40

60

80

100

1 18 24

Sham

電波ばく露(1W/kg)

0

50

100

150

200

250

1 18 24

Sham 電波ばく露(10W/kg)

373

2 神経膠細胞へ及ぼす電波の影響に関する研究 蛍光顕微鏡下の貧食能の一例を図 11 に示す。

図 11 EOC20 細胞による貧食能評価(SAR 10W/kg、4 時間ばく露)

定量方法は、ランダムに撮影した蛍光顕微鏡画像中にある細胞数と、一細胞当りに取

り込まれたFluoSpheres®数をカウントした。ただし、一細胞に6個以上のFluoSpheres®

がある場合はカウント数を 6 としている。一視野におけるカウント総数を細胞総数で割

り、加重平均を出した。スライド 1 枚につき 5 視野以上を観察した結果を図 12 に示す。

図 12 EOC20 細胞による貧食能評価(4 時間ばく露)

0.0

0.2

0.4

0.6

0.8

1.0

1.2

1.4

1 10

Sham 電波ばく露

SAR(W/kg)

一細胞当り

のFl

uoSp

here

s®数

374

Ⅴ 考察 1 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究

U937 細胞及び、Jurkat 細胞を用いて、2.45GHz 電波の 4 時間連続ばく露(SAR 1、

10W/kg)を行い、ELISA 法によって免疫細胞から産生される各種サイトカイン量への

影響を検討した。いずれの細胞から分泌されたサイトカイン量においては、統計学上有

意な差は見られなかった。

2 神経膠細胞へ及ぼす電波の影響に関する研究

EOC20 細胞を用いて 2.45GHz 電波の 4 時間連続ばく露(SAR 1、10W/kg)を行い、

貧食能への影響について検討した。一細胞当りに取り込まれた FluoSpheres®数につい

て統計学的に検討したが、いずれについても sham と電波ばく露群との間に有意な差は

認められなかった。このことから、電波ばく露による EOC20 細胞の貧食能への影響は

ないか、あるいは極めて小さいものと考えられる。

375

Ⅵ まとめ 1 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究

ヒトリンパ腫由来単芽球様細胞及び、ヒト白血病由来 T 細胞を用いて、マイクロ波

照射による免疫細胞から産生される各種サイトカイン量への影響を ELISA 法によって

検討した。2.45GHz、SAR 1、10W/kg、4 時間のマイクロ波ばく露は、U937 細胞から

の IL-1β及び、IL-6 分泌には影響を及ぼさなかった。また、Jurkat 細胞からの IL-2

分泌に対しても影響は見られなかった。

2 神経膠細胞へ及ぼす電波の影響に関する研究

マウス由来ミクログリア細胞を用いて、貧食能への影響について検討した。2.45GHz、

SAR 1、10W/kg、4 時間のマイクロ波ばく露による EOC20 細胞の貧食能に対する影響

は観察されなかった。

376

Ⅶ 参考文献 [1] Jessica Koenigsknecht-Talboo, Gary E. Landreth. Microglial Phagocytosis

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Neuroscience, 24(44):9838-9846, 2004.

377

5. ドシメトリ

379

5.1 小児に対する人体全身平均SARと体内深部温度上昇の

特性評価

381

Ⅰ 要 旨

電波に対する生体への影響に関心が注がれている。電波ばく露に伴う主たる影響は、

電力吸収に伴う温度上昇とされ、人体の熱による閾値は 1程度であることが報告され

ている。2006 年に発表された世界保健機関(World Health Organization(以下、「WHO」

という。))による電波に対する最優先課題として、小児の熱調整系を考慮に入れた熱ド

シメトリが挙げられている。しかしながら、電波ばく露に対する成人の体内深部温度上

昇を詳細に検討した事例は研究代表者らのものを除いてはなく、また、幼児の熱調整系

に関して数値モデル化を行った例はない。

本調査研究では、電波を小児に照射した際の全身平均 SAR と温度上昇の定量関係を

明らかにすることを目的とし、その達成のために以下の要素研究を実施、有機的に結合

させる。平成 21 年度については、以下の項目に関する研究を行った。

(1) 擬似人体に平面波を照射し、全身平均 SAR を実験的に推定し、数値解析との比

較検討を行う。

(2) in-vivo 測定を基に決定した電気定数を小児モデルに組み込み、電気定数に伴う

不確定性の検証を行う。

(3) 数値小児モデルに対して全身平均 SAR 及び温度上昇に影響を与える支配的要因

を明らかにし、最悪条件の検討を行う。

382

Ⅱ 研究目的

国際非電離放射線防護委員会( International Commission on Non-Ionizing

Radiation Protection(以下、「ICNIRP」という。))及び我が国の電波防護指針では、

熱発生源である比吸収率(Specific Absorption Rate(以下、「SAR」という。))の全身

平均値、即ち全身平均 SAR を電波の安全性の評価の指標として用いている[1,2]。我が

国の電波防護指針では、全身平均(whole-body average)SAR の基礎指針は SAR の閾

値を 0.4W/kg と定め、これを超えない電波レベル(電力密度など)を管理指針として

規定している。管理指針では管理環境下と一般環境下の二つにわけられ、一般環境下で

は管理環境下に 5 倍の付加的安全率が設けられている[2]。しかしながら、基準となる

0.4W/kg とは、動物実験において小動物の可逆的行動異常が観測される閾値 4~8W/kg

に安全係数 10 をかけることにより定められた値である。そもそも電波ばく露に伴う主

たる影響は、電力吸収に伴う温度上昇とされ、熱に対する人体の閾値は 1-2とされ

ている[1]。

上記 SAR の閾値 4W/kg の人体に対する有効性の検証は、ハイパーサーミア、MRI

など医療応用の際のドシメトリを基に確認した事例が報告されているのみである[3,4]。

その際の知見は、全身平均 SAR の値が 4W/kg のばく露レベルで 30 分間の電波照射を

行った場合の体内深部温度上昇は 1未満であったことにある。また、文献[5][6]では、

電波吸収に伴う熱ドシメトリの数値計算を成人に対して実施しているが、実験的に行っ

た事例は米国 Brooks 空軍基地におけるもののみである[7]。理論的研究に関しては、筆

者らが文献[6]において 60 分間のばく露で 1 度の温度上昇が生じるのは全身平均 SAR

が 4.5-8.0W/kg であるとしている。なお、この値の不確定性は、発汗の度合によるも

のである。しかしながら、この検討は成人男性を対象としたものであり、子供を対象と

した検討はなされていなかった。この理由として、解剖学的な数値幼児モデルが構築さ

れたのが 2005 年ごろからであることに加え、幼児に対する全身平均 SAR の報告事例

は王ら[8]、Dimbylow[9]らによるものなどのみである。また、幼児の熱調整系に関して

は不明な点が多い一方、倫理的な問題のため現在は実験を実施することが難しいことが

挙げられる。本調査の目的は、解剖学的な小児に対する人体全身平均 SAR と体内温度

上昇を調べ、両者の関係を明らかにすることにある。この目的達成のために以下の要素

研究を有機的に結合する。

(1) 擬似人体に平面波を照射し、全身平均 SAR を実験的に推定し、数値解析との比

較検討を行う。

(2) in-vivo 測定を基に決定した電気定数を小児モデルに組み込み、電気定数に伴う

383

不確定性の検証を行う。

(3) 数値小児モデルに対して全身平均 SAR 及び温度上昇に影響を与える支配的要因

を明らかにし、最悪条件の検討を行う。

平成 21 年度は、項目 (1)に関しては、GHz 帯遠方界ばく露の全身平均 SAR の in-vivo

実験検証を目的として、グラウンド上の直立人体を対象とした全身平均 SAR と身長方

向の層平均誘導電流を数値実験により求め、2 乗平均誘導電流を用いた全身平均 SAR

の推定可能性を検討した。

項目 (2)に関し、平成 20 年度の知見より、in-vivo 測定の結果によるばらつきは、

in-vitro 測定の結果と大きな差異はないことを明らかにしていた。そこで、研究代表者

らが先に明らかにした組織の水分含有率に基づく電気定数変化式を用いて、電気定数の

小児全身平均 SAR に与える影響について考察する。項目 (3)に関しては、既に全身平

均 SAR に影響を与える要因は人体表面積であることを明らかにしていた。そこで、体

内深部温度上昇に影響を与える支配的要因を明らかにすることを目的としている。

384

Ⅲ 試験方法

1 数値人体モデル

情報通信研究機構(National Institute of Information and Communications

Technology(以下、「NICT」という。))は、情報通信分野において様々な研究・開発

を行ってきている。その中でも、第三研究部門の EMC グループでは北里大学、慶應義

塾大学、東京都立大学(現首都大学東京)と共同で日本人の平均体型を有する成人男性

の数値人体全身モデルを開発した。成人の数値人体モデルは、日本人男女の平均身長と

平均体重に合致した健常なボランティアのMRIデータに基づいて開発されている[10]。

さらに、その成人男性モデルを基に 3歳、5歳、7歳相当の子供モデルが開発された[11]。

一方で、フロリダ大学(University of Florida)では、9 か月幼児から成人に及ぶ数

値人体モデルを開発し、HPA(Health Protection Agency)はそのドシメトリを実施し

ている[9]。解析の結果、9 か月モデルと 3 歳児モデルの結果に大差はないものの、前者

の全身平均 SAR は後者よりも大きいことを示している。そこで、平成 19 年度に、NICT

から提供された3歳男児モデルを基に等比率に縮減することで9ヶ月相当の幼児モデル

を構築し、また、平成 20 年度には、同じく 3 歳男児モデルを基に等比率に縮減するこ

とで 0、1、3、6 ヶ月相当の乳幼児モデルを構築してきた。本年度は、これらの乳幼児

モデルを用いることとする。なお、これらのモデルは、厚生労働省の平成 12 年度乳幼

児発育調査[12]の身長、体重の統計データから 3 歳児モデルを等比率に縮減することで

作成している。構築した 0、1、3、6、9 ヶ月相当の乳幼児モデルの概観を図 1 に、身

長及び体重を表 1 に示す。なお、次節で述べるが、本年度はこれらのモデルの電気定数

を適切に選ぶことにより、改良を行った。

385

3years 9months 0month3months 1month6months

図 1 NICT 構築の 3 歳児モデル及び縮減した

0、1、3、6、9 ヶ月相当の乳幼児モデルの概観

表 1 0、1、3、6、9 ヶ月相当モデルの身長と体重

2 電磁界解析とばく露条件

前節で示した数値人体モデルに対し、電波を照射し全身平均 SAR を求める。解析手

法としては、FDTD 法を用いる。計算領域とモデル配置図を図 2 に示す。解析は自由

空間中の幼児を想定し、遠方界ばく露として電界成分が身長方向に平行な垂直偏波(E

- polarization)と、それに直交する水平偏波(H - polarization)の平面波を正面から

浴びた場合の全身平均 SAR を FDTD 法で解析する。なお、入射電力密度は 電波防護

指針の一般環境下における指針レベルである 10W/m2とし、吸収境界条件は 24 層の完

全整合層(Uniaxial Perfectly Matched Layer(以下、「UPML」という。))とした。

また、モデルから吸収境界までの距離を 100 セル(100mm)とした。成人組織の電気

定数は文献[13]を基に決定する。一方、小児モデルの電気定数は、研究代表者らが提案

した推定式[14]を用いることとする。以下、推定式の詳細について述べる。

Height[cm]

104.088.271.567.861.454.049.0

17.013.08.777.916.384.252.97

Weight[kg]Age5year3year9month6month3month1month0month

Height[cm]

104.088.271.567.861.454.049.0

17.013.08.777.916.384.252.97

Weight[kg]Age5year3year9month6month3month1month0month

386

図 2 計算条件(領域と配置)

人体組織の複素比誘電率は、自由空間中の誘電率をo 、人体組織の比誘電率をr 、

導電率を、各周波数をとすると、

11r r ro

j j

(1)

と与えられる[14]。ここで、緩和時定数or /は、年齢に依存しない値であり、各

組織において一定値を用いた。人体組織は水分と有機体とで構成され、体内の水分量は

年齢に依存するので、式(1)の人体組織の比誘電率r は年齢によって影響される。また、

人体組織の体内総水分量を考慮した比誘電率rは、

1 TBWTBW

r rw r Adult

(2)

で与えられる[14]。ここで、rw(=74.3)は、37での水の誘電率、r|Adultは成人の誘

電率、TBW(Total Body Water)は人体組織の体内総水分量、[kg/cm3]は組織密度で

100

UPML(24Layer)

Plan

e w

ave

Unit:cell Cell size :1mm

100

100

100

x

z

y

x

z

y

E

HH-polarization

E

HE-polarization

100

UPML(24Layer)

Plan

e w

ave

Unit:cell Cell size :1mm

100

100

100

x

z

y

x

z

y

E

HH-polarization

E

HE-polarization

E

HH-polarization

E

HE-polarization

387

ある。式(2)を式(1)へ代入すれば、年齢 y [Year]の人体組織の体内総水分量に基づく複

素比誘電率r (y)は、年齢 y [Year]の体内総水分量を TBW(y)[ml/kg]として、

6

66

( ) |10 ( )

10 |10

1( ) 1Adult

AdultAdult

TBW y TBWTBW y

TBWTBWr rw r Adult

Adult

y j

(3)

から計算できる[14]。ここで、TBW|Adult は成人の体内総水分量、r|Adult、|Adult はそ

れぞれ成人の誘電率、緩和時定数である。なお、は年齢に対して一定であるとし、

=1g/cm3とした。

図 3(a)は日本人と米国人の 0 歳から 70 歳代までの体内総水分量の年齢依存性をそれ

ぞれとで示す[8]。下図(b)には 10 歳未満の体内総水分量を拡大して示している。図

中の実線は、0 歳から 55 歳に対して(3)より導出した値を表している。図から、体内総

水分量は、出生時から年齢と共に劇的に減少し、20 歳以上の成人においては年齢によ

る変化は小さいことがわかる。

表 2 は 1GHz における体内総水分量を考慮した生体組織電気定数の一例を、5、3 歳

児、9 ヶ月幼児に対して示す。表から、r とは年齢が高くなるほど共に減少している

こと、その程度は皮膚では 3%から 8%、筋肉では 1%から 5%であること、などがわか

る。

388

Tota

l Bod

y W

ater

TBW

[ml/k

g]

50

800

900

Age [year]

700

600

500

40010

Tota

l Bod

y W

ater

TBW

[ml/k

g]

200

800

900

700

600

500

40040 60 80

Age [year]

(a)

(b)

図 3 体内総水分率の年齢依存性(a)0-70 歳、(b)0-10 歳

表 2 体内総水分量を考慮した生体組織の電気定数の一例

Age

skinr

[s/m]

muscler

[s/m]

9month44.54

55.660.99

3year45.18

56.101.00

5year

0.92 0.9347.30

57.541.03

0.9743.32

54.810.98

adult

0.89

389

3 測定に基づく全身平均 SAR の推定手法に関する検討

100MHz 以下の HF(High Frequency)周波数帯では TEM-Cell を使用したボラン

ティア実験による全身平均 SAR の測定[15]や、人体によく近似したファントムモデル

を用いたマイクロ波帯での実験測定[16]などの研究がなされているものの、生身の人体

を対象とした GHz 帯での測定による全身平均 SAR の実証例はない。本研究では、GHz

帯遠方界ばく露の全身平均 SAR の in-vivo 実験検証を目的として、グラウンド上の直

立人体を対象とした全身平均 SAR と身長方向の層平均誘導電流を FDTD 解析し、2 乗

平均誘導電流を用いた全身平均 SAR の推定可能性を数値実験により検討する。ここで、

層平均誘導電流とは、人体の身長 z 方向に流れる誘導電流を 1 セル層ごとで計算したも

のを示し、これは、

2,

,

0

( ) , , , , ,

( , , ) ( , , , ) ( , , ,( 1) )

z ki j

r

I n t i j k E i j k n t

i j kE i j k n t E i j k n t

t

(4)

で与えられる。ここで、はモデルのセルサイズ[m]、は導電率[S/m]、0は真空の誘

電率[F/m]であり、r は比誘電率、は FDTD 解析により求めた身長方向の電界[V/m]

である。また、式(4)の電流を実効値であらわすために、時間変化における誘導電流の

最大値と最小値をとり、

, max , min,

( ) ( )( )

2 2z k z k

z k

I n t I n tI n t

(5)

で計算した。

4 人体に対する温度解析手法

本調査の最終目標は、電波ばく露に伴う SAR を発熱源とし、生体内における温度上

昇を解析する。しかしながら、研究代表者が構築した成人に対する体温解析モデルの妥

当性評価が十分であるとは言い難く、また、幼児に対する体温解析モデルはない。文献

[17]では、成人及び 8 カ月幼児を二つの異なる室温の恒温室を移動することによる体温

変化を測定している。平成 19 年度にこの測定を計算機上で模擬し、両者の結果を比較

することで、i)成人モデルに対する熱解析の妥当性評価を行うとともに、その結果を基

に ii)成人に対する熱解析モデルを小児モデルに適用した際の有効性と限界について議

論した。その手法について概説する。

390

発生熱の伝導・拡散を考慮する生体熱輸送方程式[18]を FDTD 法で解く。生体内温

度上昇の計算に際しては、組織内及び組織間の熱伝導、血流による熱冷却、皮膚表面か

ら外気への熱伝達を考慮すればよい。ここで、ヒトの体温冷却行動には発汗作用や代謝

量調節作用があることが知られている[19]。

熱平衡状態にある組織に対して時刻 t =0 で電波がステップ的に照射されたものとす

れば、外気温を考慮した組織の温度 T []は、

r,r r r r,

T tC K T A t

t

r r r, r, bSAR B t T t T t (6)

という生体熱輸送方程式を満たす[18]。ここで、式(6)中の rは体内座標の位置ベクトル、

C は比熱 [W/kg・]、 は組織の密度 [kg/m3]、K は熱伝導率 [W/m・]、B は血流に

関する定数(数値が大きいほど血流量が大)[W/m3・]、Tbは血液の温度 []、A は代

謝熱 [W/m3]を表す。また、境界条件は、

r,r, r r,S a tot

T tH T t T K SW t

n

(7)

, ,tot ins actSW r t P r SW r t (8)

で表される。ここで、式(7)中の H は熱伝達率[W/m2・]、TSは外気に接する組織の温

度[]、Taは外気の温度[]、n は体の表面の法線方向の単位ベクトルを表す。式(8)に

おける SWtot は気化熱による熱放散を表し、Pins は不感蒸発係数、SWact は環境の変化

に伴う発汗によるものである。また、式(6)中の血液温度 Tbに関しては、次式に従うも

のとした。

391

0 0

10 r, r rt t

b bb b b

T t T A t SARV C

r r r, r, 1C T t T t dV r, aS

H t T n dS

(9)

式(9)は、血液温度が熱保存則を満たすように時間的に変化することを示している。た

だし、体内温度変化の時定数は電磁界のものよりも大きいため、血液温度上昇 bT は場

所に寄らず体内で一定と近似する。ここで、式(9)中の b 、 bC 、 bV は、血液の密度、比

熱、体積であり、それぞれ 1058kg/m3、3900J/kg・、155×10-6m3という値を有する。

次に、人体温度上昇がある一定以上になると熱調整系が動作することが知られている

が、そのモデル化について説明する。皮膚以外の血流は以下の式に従い変化する。

0r, r rB T B

r 39CT (10)

0r, r r 1 r 39BB T B S T

39C r 44CT (11)

0r, r r 1 5 BB T B S 44C rT

(12)

式中の 0 (r)Bは各組織の基準となる血流量であり、文献[5]から得た。 (r)T

は、組織の温

度であり、SB は温度上昇とともに血液量が増加することを表す係数であり、先の文献

と同様 0.8-1という値とした[3], [4]。次に、皮膚の血流は、以下の式に従い変化する

ものとした[19]。

0r r

60 0r, r r 2

T T

HB H H SB SB T B F T T F T

(13)

ここで、TH、TH 0 は、それぞれ視床下部の温度と基準温度であり、皮膚の 0B は

9100W/(m3・2)、FHB、FSBはそれぞれ 17500W/(m3・2)、1100W/(m3・2)という値を

有する係数である[5]。また、 rT

、 0 rT

は、皮膚の微小組織における温度と基準温

度である。さらに、 ST は皮膚の平均温度上昇であり、

0r, r

SS

T t T dsT

S

(14)

で表される[20]。ここで、T、T0は、皮膚の微小組織における温度と基準温度である。

392

式(6)において、熱発生源となる SAR は人体内の各セルの SAR 値を用いるため、温

度分布は式(6)に境界条件である式(7)を課し、時間と空間について差分化することによ

り数値的に求めることができる。すなわち、生体熱輸送方程式の時間数ステップ間隔を

t 、空間差分間隔を ( )x y z として、経過時間 tm (m はイタレーション数)の

直交座標系の位置 ( , , )i j k における SAR と温度とをそれぞれ

( , , ) ( , , )SAR i j k SAR i j k 、 ( , , , ) ( , , )mtT i j k m T i j k として、式(6)、(7)を差分化す

れば、

1 , , , , , ,, ,

m m tT i j k T i j k SAR i j kC i j k

, ,

, , , ,, , , ,

mt m m

b

B i j kT i j k T i j k

i j k C i j k

2

, ,, , , ,

t K i j k

i j k C i j k

1, , , 1, , , 1m m mT i j k T i j k T i j k

1, , , 1, , , 1m m mT i j k T i j k T i j k 6 , ,mT i j k (15)

1 , , , ,, , 1, ,

, , , , , , , ,1 ( , , )

, , , ,

m ma

m

K i j k H i j kT i j k T i j k T

H i j k K i j k H i j k K i j k

SW i j kH i j k K i j k

(16)

という式になる。ただし、境界条件は外気または肺内に存在する空気に接する組織表面

の x 軸方向だけについて示す。

時間ステップ t と空間差分 とに関する差分解の安定化条件は、血流を考慮した場合

も式(15)、(16)に示した差分化された生体熱輸送方程式に Von Neumann の条件を適用

することで導出でき、本研究では、 t =1.0s、 =1.0mm とした。

温度の数値解析に際しての諸量を以下のように決定した。式(6)、式(7)中の組織密度

ρ 、比熱 C 及び熱伝達率 K については文献[21]を参考に組織ごとに決めた。一方、文献

[22]を参考にして組織別の代謝量Aを平成 20年度報告書における表2のように定めた。

ここで、その表に基づき解析モデルの総代謝量を導出すると、成人女性モデルが 88W、

日本人 3 歳児が 27.5W、8 ヶ月小児で 17.5W となる。しかしながら、資料[22]に示さ

れる日本人の総代謝量は成人女性で 85W、3 歳児 47W、8 ヶ月で 32W である。このこ

とから、3歳児と8ヶ月小児の組織別の代謝量を表2で示される値からそれぞれ1.7倍、

1.8 倍とした。なお、代謝量と血流量はほぼ線形関係にある[23]ことが知られており、

393

血流量も同様に係数をかけることにより定めた。一方で、小児組織の水分含有率は成人

のものと大差がない。それゆえ、比熱及び熱伝導率は成人のものと同一とした。

熱伝達率 H は熱放射と対流の影響を含むと定義し、表面の外気に接する部位を H1、

肺内の空気に接する部位を H2と区別する。熱ストレスが加えられていない状態では、

代謝量 A と不感蒸発係数 Pins及び放熱量 H との関係は以下のようになる。

1 1

2 2

, ,

, ,

, ,

ins a

V V S

ins a

V S

a

S

A r dv P r dS H r t T r t T dS

P r dS H r t T r t T dS

H r t T r t T dS

     

            

(17)

ただし、式(17)中の Ta1は 28.0とし、Ta2は Tb+Ts / 2と仮定した。不感蒸発量は成

人が 20ml/kg/day、3 歳児が 40ml/kg/day、8 ヶ月小児が 50ml/kg/day という値を有す

る[22]。モデルの体重は成人女性が 53kg、3 歳児が 13.5kg、8 ヶ月小児が 9kg であり、

不感蒸発によって、成人女性では 29W、3 歳児では 15.3W、8 ヶ月小児では 12.7W の

放熱が生じていることとなる。また、不感蒸発による放熱量は皮膚より 70%、肺から

30%の割合で蒸発する[22]ことから、皮膚からの放熱量は成人女性が 20.3W、3 歳児が

12.2W、8 ヶ月小児が 10.1W となる。一方、肺からの放熱量は成人女性が 8.7W、3 歳

児が 3.1W、8 ヶ月小児が 2.4W となる。この値から不感蒸発係数 Pinsを導出すると、

皮膚の不感蒸発係数 Pins1は成人女性が 1.7W/m2・、3 歳児が 1.6W/m2・、8 ヶ月

小児が 1.5W/m2・となる。一方、肺の不感蒸発係数 Pins2は成人女性が 24.0W/m2・、

3 歳児は 6.9W/m2・、8 ヶ月小児は 6.7W/m2・である。

式(17)に示すように、不感蒸発による放熱量及び人体表面からの放熱量の和は、代謝

量と等しい。ここで、不感蒸発を含む表面からの放熱量は皮膚より 80%、肺から 20%

の割合で放熱する[22]ことから、皮膚からの放熱量は成人女性が 68W、3 歳児が 37.6W、

8 ヶ月小児が 25.6W となる。一方、肺からの放熱量は成人女性が 17W、3 歳児が 9.4W、

8 ヶ月小児が 6.4W となる。従って、不感蒸発を除いた皮膚からの放熱量は成人女性が

47.7W、3 歳児が 29.3W、8 ヶ月小児が 18.5W となる。また、不感蒸発を除いた肺の放

熱量は成人女性が 17W、3 歳児が 15W、8 ヶ月小児が 6.4W となる。これより不感蒸

発を除いた皮膚の熱伝達率 H1 を求めると、成人女性が 4.13W/m2・、3 歳児が

4.03W/m2・、8 ヶ月小児が 3.90W/m2・となる。一方、肺の不感蒸発を除いた熱伝

達率 H2は成人女性が 26.0W/m2・、3 歳児は 13.1W/m2・、8 ヶ月小児は 13.3W/m2・

となる。文献[24]では、本研究とは異なり、不感蒸発を含んで熱伝達率を定義していた。

394

成人の場合、その値は 4.7~9.7W/m2・(平均値 7.2W/m2・)であった。一方、本

研究で求めた成人に対する不感蒸発を含めた皮膚からの熱伝達率は成人では

5.7W/m2・である。しかしながら、解析に用いた人体モデルは離散化の影響により表

面積は実際よりも 1.4 倍程大きいことを考慮すると、実際の人体における熱伝達率は

7.8W/m2・程度になると推量でき、文献[24]の平均値とよく一致する。また、次の検

討では、外気温 28を、35に変化させる。その際、不感蒸発量は変化しない[23]と

し、外気温の変化により熱伝達率 H1を 1.4W/m2・とした[24]。なお、H2については、

肺の内部にて対流が起こり 0.5[m/s]~1.0[m/s]の流速を持つとすると、H2 =5~

10W/m2・程度と推定できる。しかしながら、外気温と肺内部の温度差が小さいため、

熱伝達率 H2の値を上記範囲で変化させても大きな差異にはならないことを確認した。

なお、本項にて行った温度上昇解析手法の有効性は、平成 19 年度の報告書及び文献[24]

で用いた値と同一である。

395

Ⅳ 試験結果と考察

1 電気定数変化を考慮に入れた電磁界数値ドシメトリ

図 4 は、電力密度 1mW/cm2の乳幼児モデルに対する 1-6GHz 帯全身平均 SAR の周

波数依存性を示す。図中の、、はそれぞれ 9 ヶ月、3 歳児、5 歳児の人体小児モ

デルで式(3)の年齢依存性を考慮した電気定数を用いた計算結果であり、白抜きは大人

の電気定数を用いた場合である。また、参考として図中には Dimbylow と Bloch の UF

(University of Florida)モデルに対する計算結果[25]を+で示している。図から、年

齢が若くなるにつれて全身平均 SAR が大きくなっていること、成人の電気定数を用い

た結果に対して、年齢依存性を考慮した電気定数で計算した全身平均 SAR の方が小さ

く、その減少の程度は 5 歳児で 1%、9 ヶ月幼児で 3%と年齢が低くなるほど顕著になる

こと、などがわかる。なお、筆者らの製作になる 9 ヶ月幼児モデルと[25]の計算結果を

対比すると、組織数と内部構造は大きく異なってはいるが、成人の電気定数を用いた全

身平均 SAR の計算結果は、[25]の値よりもやや上回るものの、概ね一致していること

がわかる。このことは、GHz 帯の全身平均 SAR は、モデルの組織数や内部構造にはあ

まり依存しないことを示唆する。

0.15

Frequency [GHz]

Who

le-b

ody

aver

aged

SA

R [W

/kg]

1 3

0.1

0.05 2 4 5 6

9month3year5year

Japanese modelUF model

Adult tissueInfant tissue

図 4 乳幼児数値モデルの全身平均 SAR

396

図 5 は、1~3GHz における 9 ヶ月幼児モデル、3、5 歳児小児モデルの電気定数に

よる全身平均<SAR>|infant を大人の電気定数を基準とした<SAR>|adult に対する比を示

す。図から、年齢依存性を考慮した電気定数に対する全身平均 SAR はどの周波数にお

いてもやはり年齢が低いほど低減すること、例えば、1GHz において 5 歳児の全身平均

SAR は、成人の電気定数を用いた場合に対して年齢を考慮した場合は 1%ほど低下する

こと、9 ヶ月幼児において 5%ほど低くなること、などがわかる。

上述の機構は、現時点では不明の部分が多いが、定性的にはつぎのように考察できる。

一般に SAR は、体内組織の導電率と内部電界の 2 乗値の積で与えられる。故に、導電

率が成人よりも大きい子供の SAR は成人の場合よりも増大するものと懸念されるが、

内部電界が体外電界よりも組織の比誘電率に応じて低減する結果として、比誘電率が成

人のそれよりも大きくなる子供の SAR の方が、成人よりも小さくなるのであろう。

1.0

Frequency [GHz]

<SA

R>|

infa

nt/ <

SAR

>|ad

ult

1GHz

0.95

0.92GHz 3GHz

9month3year5year

図 5 成人の組織電気定数を用いた全身平均 SAR に対する

乳幼児組織の電気定数を用いた場合の比率

397

2 測定に基づく全身平均 SAR のための計算機実験

図 6 (a)、(b)にそれぞれ 30MHz、100MHz における 22 歳モデルの身長方向の層平均

誘導電流|I|のプロファイル解析結果を文献[26, 27]の結果と併せて示す。これらの図か

ら、22 歳モデルの電流プロファイルは頭部を含む上体部で文献[26]の結果とよく一致す

る。胸部以下でのプロファイルは異なってはいるものの、足裏を介したグラウンドへの

接触電流の相違は 30MHz で 15%、100MHz では 3%程度で両者は概ね一致すること、

などがわかる。図 6(c)は周波数を変えた場合の層平均誘導電流プロファイルを示す。図

から、周波数の上昇と共に層平均電流プロファイルは形状が崩れて複雑になること、グ

ランドへの接触電流は大きく減少すること、などがわかる。なお、自由空間での足底部

の層平均誘導電流は、共振周波数帯ではグラウンド上での結果に比して大きく減少する

が、1GHz ではほとんど変わらないことを確認している。

(c)

(a) (b)

0 0.2 0.4

50

100

150

0 0.2 0.4

50

100

150

Hei

ght [

cm]

Current [A]

Hei

ght [

cm]

:30MHz (Japanese):30MHz (Japanese,Ref.[26])

:100MHz(Japanese)

:100MHz(Adult,Ref.[27]):100MHz(Japanese,Ref.[26])

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

50

100

150:1GHz:500MHz:200MHz:100MHz:30MHz

Hei

ght [

cm]

Current [A]Ground

Current [A]

図 6 入射電力密度 1.0[mW/cm2]におけるグラウンド上での体内電流分布

398

次に、人体数値モデルに対して、1GHz における全身平均 SAR と身長方向の層平均

誘導電流 2 乗値|I|2 のプロファイルを FDTD 法により求めた。なお電力密度は

1mW/cm2とした。図 7 に全身平均 SAR の解析結果を示し、図 8 に 22 歳モデルと 3 歳

児モデルにおける身長方向の層平均誘導電流プロファイルを示す。図 8 中の点線は 2

乗平均誘導電流値<|I|2>である。図から、22 歳と 3 歳児のモデルに対する層平均誘導

電流 2 乗値はいずれも複雑なプロファイルであり、足底部の層平均誘導電流 2 乗値が両

者で相違はあまりないのに対して、2 乗平均誘導電流値は成人よりも幼児のほうが小さ

くなっていることがわかる。次に、2 乗平均誘導電流と人体吸収電力(全身平均

SAR<SAR>と体重 W の積)の相関関係を 3 歳児、5 歳児、7 歳児、22 歳モデルに対し

て求めた。結果を図 9 に示す。横軸は 2 乗平均誘導電流<|I|2>、縦軸は全吸収電力

<SAR>・W である。図中の実線は計算結果に当てはめた回帰直線である。図から、人体

吸収電力と 2 乗平均誘導電流は年齢と共に増大していること、両者の間には強い相関関

係(決定係数:R2=0.98)があること、などがわかる。この結果は、遠方界ばく露の人

体に対する 2 乗平均誘導電流を知れば全身平均 SAR が推定できることを示す。

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

3years 5years 7years 22years

Who

le-b

ody

aver

aged

SA

R [W

/kg]

1GHz, 1.0[mW/cm2]

図 7 1GHz における全身平均 SAR

399

0

50

100

150

:3years:22years(Male)

1.0

1GHz, 1.0[mW/cm2]

0.930.39 |I|2 [A]

Hei

ght [

cm]

2.0 3.0[×10-2]

図 8 身長方向の層平均誘導電流 2 乗値のプロファイル

R2 = 0.98

<SA

R>・

Wei

ght[W

]

<| I |2> [A2]

3y5y

7y

22(Male)

1GHz, 1.0[mW/cm2]

2SAR W 640 I

1.00.5

[×10-2]

0

5

10

図 9 2 乗平均誘導電流と人体吸収誘導電流と人体吸収電力との相関関係

400

3 成人及び 9 か月幼児に対する熱モデルの検討

全身平均 SAR から体内深部の温度上昇を簡易に予測し得る推定式を導出する。電波

にばく露された生体の熱収支は、

RF CONVM P P S (18)

で表される[8][9]。ここで、M は代謝による産熱量、PRF は電波ばく露により吸収され

た電力量、PCONVは人体から外気への放熱量、S は人体へ蓄積される熱量である。

次に、式(18)を式(6)、(7)を基に具体化すると、

0 0 0

0 0 0

( , ) ( ) ( ) ( )

( ) ( , ) ( ) ( )

( , ) ( ) ( ) ( )

t t

V V

t t

S S

V

A r t A r dVdt SAR r r dVdt

H r T r t T r dSdt SW t dSdt

T r t T r r C r dV

(19)

が得られる。S はモデルと外気の境界面、T0は初期温度[]を示す。また、電波で上昇

する体内温度は代謝量を変化させるには十分小さいと考え、本研究では、 0( , ) ( )A r t A r

は ( ) ( )SAR r r と比べ無視できると近似し、式(19)を、

0 0 0 0

( ) ( ) ( ) ( , ) ( ) ( , )

( , ) ( ) ( ) ( )

t t t

V S S

V

SAR r r dVdt H r T r t T r dSdt SW r t dSdt

T r t T r r C r dV

(20)

とした。さらに、式(19)において、モデル全身で温度が一様、モデル全身で SAR が一

様、モデル全身で熱定数が一様であると近似すると、次式が得られる。

0

00 0

( )

( ) ( ) ( )

WBave WBave

t t

WBave WBave S S

T t T V C

SAR Vdt T t T dt H r dS sw t dS

(21)

ここで、 WBave 、 WBaveC 、 WBaveSAR はモデルの密度、比熱、SAR の全身平均値である。

なお、 ( )sw t は ( )SW t に対して全身で温度が一様である仮定を適用することで得られた

項で、

401

11 11 0 10 10

21 21 0 20 20

3

tanh ( )( )

tanh ( )

0.58 4.2 10 / 60

B b T t T b Bsw t

B b T t T b B

S

(22)

と表される。ここで式(21)を時間微分して得られる微分方程式を解くと、組織温度は、

( ) ( )

0

( ) 1( ) ( )

S S

WBave

H r dS sw t dSt

W CWBave

S S

W SART t T

H r dS sw t dS

(23)

で与えられる。本研究では、式(23)を深部温度上昇の簡易推定式として用いた。式中の

各パラメータは、W はモデルの体重[kg]、 WBaveSAR は全身平均 SAR[W/kg]、 H はモデ

ルと外気との間の平均熱伝達率[W/m2・]、 WBaveC は比熱の全身平均値[J/kg・]、 ( )sw t

は発汗に関する係数[W/m2・]である。表 3 に、式(23)中の各パラメータの値を示す。

表 3 簡易推定式のパラメータ

Female Male22years 22years 3years

16.2

69

13.2

54

7.3

1535103440 3460

[W/] ( )

SH r dS

[kg]W

[J/kg・]WBaveC

式(23)を基に、全身平均SARが4 W/kgの場合において、周波数が100MHzから3GHz

について計算した。図 10 は、22 歳の成人男女と 3 歳男児の 4W/kg の全身平均 SAR に

対する深部温度上昇の時間変化を示す。なお、電波の周波数は 2GHz の場合の結果を示

す。同図によれば、温度上昇の立ち上り付近の傾きは、モデルの種類にかかわらず一致

していることがわかる。それに対して、立ち上り後から定常に至るまでは、簡易推定式

の結果と FDTD 解析の値に差異がみられる。これは、温度の分布を考慮する FDTD 解

析に対して、簡易推定式では全身の温度を均一としている。この結果、発汗量を決定す

る皮膚と視床下部の温度上昇は FDTD 解析とは差異が生じ、結果的に発汗による放熱

量に変化が生じたためと考える。しかしながら、いずれのモデルに対しても、深部温度

上昇の時間変化の概形は一致しており、その差異についても最大で約 30%であった。

402

特に、定常状態における差異は約 10%であり、よく一致する結果を得た。

図 10 深部温度上昇の時間変化(全身平均 SAR 4W/kg)

次に、図 11 に 22 歳の成人男女と 3 歳男児に対して、一定の全身平均 SAR を与えた

場合の深部温度上昇の時間変化を示す。なお、照射電波の周波数は 2GHz とした。これ

らの図から、いずれのモデル、全身平均 SAR に対しても、立ち上り後から定常に至る

までは差異が見られるものの、定常温度については比較的よく一致することがわかり、

前節と同様の傾向がみられる。定常温度の差異は、いずれのモデル、全身平均 SAR に

対しても最大で約 30%であり、特に、全身平均 SAR 4W/kg の場合において FDTD 解

析との差異は最大で約 10%であった。このことから、1となる閾値の検討など、比較

的高い全身平均 SAR における深部温度上昇の定常値の推定に対して、簡易推定式は極

めて有効であることが確認できる。

最後に、式(23)の簡易推定による計算結果を基に深部温度上昇を決定する要因につい

て考察する。まず、式(23)で係数部分と減衰項に発汗に関する項が存在することから、

発汗による放熱の影響が定常値と時定数に大きく影響することがわかる。また、人体モ

デル間での相違を考えると、年齢、性別に依らず同一の定式化を用いることができると

みなせることから[5]、定常値はモデルの体重と表面積の比に並行することがわかる。

さらに、時定数についても、比熱の全身平均値はモデル間で大きく違わないことから、

同様であると言える。このことは、モデルの体重に対する体表面積の比が、日本人成人

男性モデルで 0.041m2/kg、日本人成人女性モデルで 0.043m2/kg であるのに対し、3 歳

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0

Tem

pera

ture

rise

[]

0 1000 2000 3000Time [s]

Simplified Eq.FDTD

Female

Male

3years

403

児モデルで 0.060m2/kg と大きい値であり、図 10 において、22 歳成人男女に比べて 3

歳児モデルの定常値及び時定数が小さいことから確認できる。なお、この図において、

FDTD 解析でも同様の傾向が確認できることから、式(23)の簡易推定の結果を支持する

ものである。

404

図 11 深部温度上昇時間変化(2GHz)

全身平均 SAR (a) 4W/kg、(b) 0.4W/kg、(c) 0.08W/kg

0 1000 2000 3000Time [s]

1.0

0.8

0.6

0.4

0.2

0Tem

pera

ture

rise

[]

(a)

0 1000 2000 3000Time [s]

0.16

0.12

0.08

0.04

0

Tem

pera

ture

rise

[]

(b)

0 1000 2000 3000Time [s](c)

0.04

0.03

0.02

0.01

0

Tem

pera

ture

rise

[]

Simplified Eq.FDTDSimplified Eq.FDTD

Simplified Eq.FDTDSimplified Eq.FDTD

Simplified Eq.FDTDSimplified Eq.FDTD

Female

Male

3years

FemaleMale

3years

3yearsFemale

Male

405

Ⅴ まとめ

電波に対する生体影響に関心が注がれている。電波ばく露に伴う主たる影響は、電力

吸収に伴う温度上昇とされ、人体の熱による閾値は 1程度であることが報告されてい

る。また、2006 年に発表された WHO による電波に対する最優先課題として、小児の

熱調整系を考慮に入れた熱ドシメトリが挙げられている。しかしながら、電波ばく露に

対する成人の体内深部温度上昇を詳細に検討した事例は研究代表者らのものを除いて

はなく、小児の熱調整系に関してモデル化した例はなかった。

本調査研究は、上記の背景を基に、電波を小児に照射した際の全身平均 SAR と温度

上昇の定量関係を明らかにすることを目的としている。その達成のために 3 個の要素研

究を掲げており、本年度に得られた各項目の成果をまとめる。

(1) SAR の実験的推定

全身平均 SAR の in-vivo 実験検証を目指し、数値実験により人体吸収電力と 2 乗平

均誘導電流との強い相関関係を見出し、全身平均 SAR の 2 乗平均誘導電流による

推定可能性を示した。

(2) in-vivo 測定を基に決定した電気定数による全身平均 SAR 解析

体内総水分量を考慮した電気定数に対する全身平均 SAR の計算結果は、成人の電

気定数を用いた場合よりも小さく、その減少の程度は 5 歳児で 1%、9 ヶ月幼児では

3%と年齢が低いほど顕著になることがわかった。

(3) 全身平均 SAR 及び温度上昇に影響を与える支配的要因の解明

電波ばく露による温度上昇に影響を与える支配的要因を明らかにするための理論式

を導出した。この結果、体重に対する体表面積が大きいほど、体内深部温度上昇は

小さいことがわかった。一方、平成 21 年度の結果より、全身平均 SAR に影響を与

える支配的要因は、体重に対する人体表面積であり、それが大きいほど全身平均

SAR が大きいことを明らかにしていた。これらのことから、一定の強度を有する電

波ばく露に対しては、全身平均 SAR の値は異なるものの、体内深部温度上昇は年

齢によらずほぼ一定になることが示唆された。

406

Ⅵ 参考文献

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409

5.2 実験に基づく電磁界強度指針の妥当性評価及び確認

411

Ⅰ 要 旨

我が国では、より安全により安心して電波を利用するため、「電波防護指針」が

策定されている。電波防護指針は、「基礎指針」と「管理指針」からなる。基礎指

針は電波防護指針の考え方の根拠として位置づけられるもので、刺激作用と熱作

用の閾値をもとに SAR(Specific Absorption Rate、比吸収率)などの生物への影

響に直接関連づけられる物理量で定められている。管理指針は、基礎指針に対応

する測定可能な物理量で定められており、電磁界強度指針や局所吸収指針などか

ら構成される。電磁界強度指針は基礎指針から計算で導出されている。無線機器

の利用範囲拡大に伴い、その精度を高めるための詳細な計算推定が様々な研究機

関で実施されている。一方、全身平均 SAR の実験評価については、その難易度か

ら十分なデータが得られている状況にはなく、高精度な実験評価が求められてい

る。 そこで、本研究では、人体外部における電磁界の測定に基づく全身平均 SAR 評

価手法を提案し、測定系の構築及び高精度な数値人体データを忠実に再現したフ

ァントムを用いて、周波数 2GHz の平面波ばく露を想定した全身平均 SAR の測定

を行った。全身平均 SAR は、人体が吸収した電力の総和を全身で平均化した比吸

収率(組織の単位質量当たりの吸収電力)である。したがって、人体以外に損失

媒体の存在しない系に入射する電力及び系の外部へ放射される電力を高精度に測

定することで、人体の吸収電力が算出できる。

はじめに、提案した評価手法の適用性を検証した。つぎに、平面波ばく露装置、

円筒面電界分布測定装置及び物理ファントムからなる測定系を構築し、基本特性

を確認した。さらに、欧州及び日本で開発された数値人体に基づく立姿勢及び座

姿勢のファントムを製作し、全身平均 SARの実験データを取得した。これらより、

成人と小児、及び姿勢の異なる場合の全身平均 SAR を評価した実験データの取得

が実現された。

412

Ⅱ 研究目的

携帯電話に代表される移動通信や地上デジタル放送の普及に伴い、それらの基

地局や放送局からの電波による人体への影響への関心が公共の間で高まってきて

いる。世界保健機関(WHO)は微弱電波による人体影響の科学的な根拠はないと

しながらも、日常生活空間における基地局からの永続的な電波ばく露については

必ずしも十分な知見が得られているとはいえず、更なる研究の推進の必要性を指

摘している。

本研究では、電波防護指針[1]の基礎指針を基とした電磁界強度指針の妥当性に

ついて、電波ばく露における全身平均 SAR を実験的に評価する手法を確立し、個

体差や姿勢の違いによる影響を定量的に評価及び確認することにある。電磁界強

度規格は基礎指針から計算で導出されており、その精度を高めるための詳細な計

算推定が様々な研究機関で実施されている[2]~[8]。一方、全身平均 SAR の実験

評価に関しては、これまでサーモグラフ法[9]やカロリーメータ法[10]等を用いた

評価の報告例があるが、現在の高精度な計算推定に比較し、十分な実験データが

得られている状況には至っていない。そこで、電波ばく露における全身平均 SARを実験的に評価する手法を確立し、個体差や姿勢の違いによる影響を定量的に評

価及び確認するための研究を行うことを目的とする。

現在、MR 画像等に基づき作成された解剖学的な構造を有する高精度人体数値

モデルが開発されており、国内外の研究機関において SAR 等の高精度な計算推定

に用いられている[11]、[12]。本研究ではこれら数値人体データに基づいた物理フ

ァントムを新たに製作し、全身平均 SAR の実験測定を行う。これにより、現状に

おける高精度な計算推定の裏付けとなる実験データの取得が初めて実現される。

413

Ⅲ 研究方法

図 1 に人体外部の電界強度分布による全身平均 SAR 評価系の原理を示す。平面

波が照射されている人体外部の電磁界強度分布を網羅的に測定し、これにより実

験的に全身平均 SAR を取得する。全身平均 SAR は、人体が吸収した電力の総和

を全身で平均化した比吸収率(組織の単位質量当たりの吸収電力)である。した

がって、人体以外に損失媒体の存在しない系に入射する電力及び系の外部へ放射

される電力を高精度に測定することで、全身人体の吸収電力が算出できる。人体

頭部近傍に配置された携帯無線機等からの放射電力の測定においては既に近傍電

磁界測定に基づく実験装置等が存在しているが、全身平均 SAR の評価となると、

ばく露領域において平面波となるよう配置した照射装置と人体を囲む大きな空間

において、高精度な測定を実現しなければならない。提案した全身平均 SAR 実験

系の概要を図 2 に示す。平面波放射源(送信アンテナ)、疑似人体及び電磁界測定

装置(電界プローブあるいは受信アンテナ)から構成する。この装置により、送

信アンテナ及び人体を含む空間から外部へ放射される電磁界成分を網羅的に測定

して電力の総和(Wout)を算出する。これと送信アンテナから放射された電力(Win)

との差分からファントムの吸収電力(Wab)を評価することとなる。

以下に、円筒走査法による吸収電力評価法について述べ、スケールモデルを適

用し構築した全身平均 SAR 測定系を示す。

図 1 人体外部の電界強度分布による全身平均 SAR 評価系の原理

414

図 2 全身平均 SAR 実験系の概要(評価系の略図)

1 吸収電力の評価法

円筒面走査による吸収電力評価法について説明する。系を取り囲む円筒を考え

る(図 3)。先に述べたように、本手法では、円筒領域内部のファントムによる吸

収電力(Wab)は、流出電力(Wout)と入力電力(Win)から式(1)により算出する。

outinab W-WW = (1)

∫ ⋅=S

dSWout nP (2)

流出電力(Wout)は、Poynting ベクトル(P)の積分から式(2)により得られる。

ここで、n は図 3 に示すように、円筒側面の単位法線ベクトルである。

Poynting ベクトル(P)は、円筒側面で高さ方向 dz 、周方向 dφの間隔で離散的

に取得される(図 4)。これらの間隔は以下の式(3)を満足するように決定する[15]。

ρλ

ρπ

φρ

λ2

,2

=≤∆≤∆k

az    (3)

ここで、k 及びλ は自由空間におけるばく露平面波の波数と波長であり、ρ は波源

及びファントムを取り囲む球形領域の最小半径、αは測定する円筒の半径である。 式(2)は、Poynting ベクトル(P)の円筒座標系における r 方向成分(Pr)を用

いると、式(4)になる。

415

dSPrdSW0 0

out ∑ ∑∫= =

=⋅=Nz

dz

Np

dpS

nP (4)

本報告において Poynting ベクトル Pr は、円筒面上において取得した電界強度

より、自由空間中の波動インピーダンス(377Ω)を用いて算出する。この時、測

定を行う円筒面では、放射電波が遠方界の関係を満たしていると仮定している。

また、円筒面走査の適用時、波源から放射された電磁界成分のうち図 3 に示す

ような円筒の上面及び底面より流出する電磁界成分は考慮されないため、誤差の

要因となる。これに対し、本研究では、円筒内部に波源のみを設置した場合の評

価を行い、その結果を基に入力電力値を校正することで、これを補正している[13]、

[14]。 以上より、得られた吸収電力(Wab)とファントム重量から、全身平均 SAR を

以下の式で評価する。

WeightWSARAveragedbodyWhole ab=

(5)

図 3 円筒面走査による吸収電力の評価

Poynting ベクトル: P

ファントム

吸収電力: Wab

流出電力 : Wout

波源

単位法線ベクトル: n

円筒領域

入力電力: Win

円筒上面からの流出

円筒底面からの流出

416

図 4 円筒走査の座標系と離散間隔

2 構築した全身平均 SAR 測定系

構築した測定系の構成を図 5 に示す。360°回転するターンテーブル(DEVICE 製 DM3352BV1/O-1.5 上に平面波照射装置とファントムを設置し、電界を測定す

るための光電界プローブ(精工技研製 OEFS-H-S1B)をアンテナポール

(DEVICE 製 DM2224B1)で高さ方向に移動させることにより、円筒面の電界強

度分布を取得する。信号発生器(Agilent 製 E4438C)により生成した連続波(CW)

を増幅した上で平面波照射装置のアンテナに入力し、ファントムの散乱等により

アンテナに戻る電力は通過型電力計(Rohde&Schwarz 製 NRT-Z44)で評価する。

各装置を GP-IB 経由で制御することにより、自動測定を実現した。

本研究では、2GHz の平面波ばく露時における全身平均 SAR の評価を目標とし

た。実寸法の実験系を構築する場合、平面波の照射装置及び人体ファントムを含

む空間が大きく、大掛かりな測定装置が必要となる。そこで、スケールモデルに

よる構築を行った。実寸法モデルとスケールモデルを比較した場合、各パラメー

タは以下の関係となる[16]。

・Ez

Ey

Ex

Er

dz

α

dφH

417

表 1 実寸法とスケールモデルの関係

ここで、k はスケールファクタである。スケールモデルに対し、周波数 f0 [Hz]

を k 倍(kf0 [Hz])とする場合、ファントムの誘電率εr を固定し、導電率σを kσとする。本研究では、スケールファクタを 2 とし、これにあわせて、測定用フ

ァントムの製作及び平面波照射装置の開発を行った。例として、図 6 に、欧州成

人男性の数値人体モデル[11]の実寸及び 1/2 スケールモデルを示す。本研究におい

ては、実験に用いる物理ファントムの電気定数を 2/3 筋肉等価[17]の均一媒質とし、

材料として、カーボンナノチューブとシリコーンゴムを基本とする固体材料を採

用した。電気定数の制御はカーボンナノチューブの混合量を調整することにより

行う[18]。シリコンを母材とする本材料は、軽量かつ安定性に優れており、さらに

成型が容易である。したがって、数値人体データを忠実に再現した全身人体ファ

ントムの材料として用いるのに適している。 つぎに、平面波照射装置を図 7 に示す。測定領域縮小を実現するためホーンア

ンテナ前方に誘電体レンズを設置した。レンズ正面から約 1.0m 離れた位置におい

て 0.5m×1.0m 程度の平面波ばく露領域を実現するよう設計を行った。ダブルリ

ッジ・ホーンアンテナ(Double ridged horn antenna)から約 1m の位置にポリ

アセタール(比誘電率εr=3.7)で成形した誘電体レンズを設置している。ファン

トム設置位置における照射特性について、FDTD(Finite Difference Time Domain)数値解析[19]及び測定により振幅及び位相分布の評価を行い、ばく露面にほぼ均一

な照射が実現されることを確認している。

電波暗室内において構築した全身平均 SAR 実験評価系を図 8 に示す。1/2 スケ

ールモデルの適用により、測定は 4GHz の周波数で行うこととする。ここで、電

界強度測定のための円筒領域は、半径 1.5m、高さ 1.8m とし、測定の離散間隔に

ついては、高さ方向 dz = 20mm、周方向 dφ = 1°とした。

Parameter Full model Scale model

Length l l’ = l/k

Wave Length λ λ’=λ/k

Frequency f f’ = kf

Permeability µ µ’ = u

Permittivity ε ε’ = ε

Conductivity σ σ’ = kσ

418

以下の検討を行った。はじめに、単純幾何形状のファントムを用いて構築した

測定系の特性を確認した。球形状及び直方体形状の物理ファントムを製作して吸

収電力の測定を実施し、結果について理論値及び数値計算結果との比較を行った。

つぎに、欧州人及び日本人の数値人体データから 1/2 スケールモデルに対応した

成人男性及び子供の立姿勢並びに座姿勢の全身人体ファントムを製作し、特性を

確認した。さらに、構築した測定系により周波数 2GHz の平面波ばく露を想定し

た全身平均 SAR の測定を実施し、得られた実験データと数値解析により求められ

た結果について比較を行った。

図 5 全身平均 SAR 測定系の構成

図 6 欧州成人男性の数値人体モデル[11]と 1/2 スケールモデル

Spectrum analyzerAgilent E4440A

Sensor’s controller

Optical electric-field sensorSEIKOH GIKEN OEFS-H-S1B

Antenna towerDEVICE DM2224B1

TurntableDEVICE DM3352BV1/O-1.5

Probe

Cylindrical Scanning AreaSignal generatorAgilent E4438C

Power reflection meterRohde&Schwarz NRT-Z44

PhantomPlane-wave Radiation system

RF Amplifier

z

x

x 1

x 1/2

540

270

1804

902

実寸モデル 1/2スケールモデル

奥行: 282 奥行: 140

Unit: mm

419

図 7 平面波照射装置

図 8 全身平均 SAR 実験評価系(人体ファントムを設置時)

1250

10001000.75

95

390

230

780900

329.75

500400

Double ridged horn antenna Lens

L = 1200.75

平面波照射装置 人体ファントム

アンテナポール ターンテーブル

光電界プローブ

420

Ⅳ 研究結果

1 単純幾何形状ファントムによる測定系の確認

構築された測定系の校正を目的として、単純な形状のファントムを用いた吸収

電力の測定を行った。ここでは、球及び直方体形状を採用し、数値解析結果との

比較を行った。球ファントムに関しては、Mie 散乱理論[20]の近似式から得られた

理論値との比較も併せて行った。本評価は、周波数 4GHz において行った。図 9に球(Sphere)及び直方体(Brock type)のファントムを示す。これら単純幾何

形状ファントムの電気定数は、球ファントムにおいて比誘電率 εr:36.02、導電率

σ:2.1 [S/m]、直方体ファントムにおいて比誘電率 εr:45、導電率σ:12 [S/m]とした。図 10 に、球ファントムの測定の様子を示す。表 2 に、吸収電力の測定結

果、FDTD 解析結果及び理論式から導出された球の吸収電力をまとめて示す。平

面波の電力密度がばく露面において 1mW/cm2 となるように規格化している。 測定により得られた球ファントムの吸収電力は 0.32W であった。一方、FDTD

解析による結果は 0.31W、理論式に基づく吸収量は 0.247W であり、測定値は

FDTD 解析結果とおおよそ一致しているものの、理論式の結果に比較して 30%程

度高い値となった。測定系の誤差要因として、ファントムの誘電率のばらつき、

電界プローブの測定不確かさ等、様々考えられる。また、直方体ファントムでは

測定結果と FDTD 解析結果において 12%程度の差が生じている。これらから、構

築した測定系による全身平均 SAR は、±30%程度の誤差を含むものと考えられる。

表 2 単純幾何形状ファントムの吸収電力評価結果

Absorbed power Measurement FDTD Calculation Mie Theory

Sphere 0.32 0.31 0.25

Block type 0.69 0.62

[W]

421

ファントム寸法 物理ファントム

図 9 単純幾何形状ファントム

図 10 球ファントムを用いた吸収電力測定の様子

250mm

400 mm

400 mm50 mm

平面波照射装置球ファントム

(Spherical Phantom)

422

2 欧州人及び日本人数値人体モデルに基づくファントムの製作

国内外の研究機関で多くの計算推定に用いられている数値人体モデルを用いて、

成人男性及び同様の精度を有する小児モデルのスケールモデルに対応した物理フ

ァントムを製作した。本研究では、欧州で開発された人体モデル(Virtual Family)

[11]及び日本の情報通信研究機構(NICT)が北里大・慶応大・都立大と共同で開

発した日本人の平均体型を有する数値人体モデル[12]を用いた(図 11)。ファント

ムの電気定数は、2/3 筋肉等価媒質を想定した。したがって、周波数 2GHz におけ

る 2/3 筋肉等価の比誘電率εr = 36.0 及び導電率σ= 1.04 [S/m]に基づき、1/2 ス

ケールモデルファントムの電気定数の目標値を εr = 36.0 及び導電率σ= 2.1 [S/m]

とした。

欧州人モデル(Theronious&Duke)[11] 日本人モデル(7 歳児&TARO)[12]

図 11 数値人体モデル

ファントムは、カーボンナノチューブとシリコーンゴムを基本材料とする固体

材料により作製した。図 12 及び 13 に欧州人モデルを例として、成人男性及び小

児モデルファントムと成形に使用した型枠を示す。型枠は、数値人体データに基

づき作製した 3次元形状モデルにより製作した。成人男性モデルの身長は 903mm、

小児モデルの身長は 589mm である。

成形後の電気特性を評価するため、図 14 に示すようにそれぞれ 12 ポイントの

測定点を設定し、各ポイントの比誘電率及び導電率の測定を行った。成人男性モ

423

デル及び小児モデルの測定結果を表 3 及び 4 にそれぞれ示す。測定周波数は 4GHz

である。測定結果の平均値は、成人男性モデルの場合でεr=31.2 及び導電率σ=

1.97 [S/m]、小児モデルの場合でεr=32.6 及び導電率σ=2.27 [S/m]であり、目

標に近い値が得られていた。部位により 20%程度の誤差が生じる場合もあるが、

ほぼ安定した値が実現されており、提案したファントム材料を用いることで、寸

法や形状の制限を受けずに所望の特性を実現する物理ファントムを製作できるこ

とが分かる。

さらに、姿勢変更時の全身平均 SAR の評価を目的として、上に示した日本人の

立姿勢の数値人体モデルを基に、座姿勢のファントムを作製した(図 15、16)。

製作したファントムにおける電気定数のばらつきは、立姿勢ファントムと同程度

であることを確認した。

図 12 欧州人成人男性ファントム

424

図 13 欧州人小児ファントム

人体ファントム(成人男性)測定ポイント 人体ファントム(小児)測定ポイント

図 14 人体ファントムの複素誘電率測定ポイント

② ③

⑤ ⑥

⑧ ⑨

⑪ ⑫

②③

⑤ ⑥

⑧ ⑨

⑪ ⑫

425

表 3 成人男性ファントムの複素比誘電率測定結果(周波数 4GHz)

表 4 小児ファントムの複素比誘電率の測定結果(周波数 4GHz)

No ε' ε'' σ tanδ

1 31.7 8.3 1.9 0.262 32.1 10.2 2.4 0.313 32.6 10.1 2.4 0.314 31.1 9.2 2.2 0.35 34.4 10.4 2.4 0.36 32.8 9.8 2.3 0.37 35.1 9.4 2.2 0.278 32.4 8.8 2.1 0.279 33.7 10.5 2.5 0.31

10 31.6 8.5 2 0.2711 30.4 9 2.1 0.312 33.8 11.6 2.7 0.34

Ave. 32.641667 Ave. 2.267S.D. 1.4 S.D. 0.23

小児

No ε' ε'' σ tanδ

1 29 6.6 1.5 0.222 31.2 7.3 1.7 0.233 31.5 8.7 2 0.274 32.9 10.3 2.4 0.315 31.7 8.4 2 0.266 32.7 9.1 2.1 0.277 33.4 11.3 2.6 0.348 31.6 8.7 2 0.279 31.6 8.5 2 0.27

10 29.9 6.7 1.6 0.2211 29.9 8.3 1.9 0.2712 29.5 7.9 1.9 0.27

Ave. 31.241667 Ave. 1.975S.D. 1.4 S.D. 0.3

成人男性

426

図 15 日本人の立姿勢及び座姿勢数値人体モデル

図 16 座姿勢ファントムの製作

588658

1404

360192

1202

444332

1024

512268

1728

Unit: mm

z

yx

(1) Taro_Upright (2) Taro_Sit (3) 7years_Upright (4) 7years_Sit

数値データから、1/2スケールの3次元モデルを作成

立姿勢・座姿勢の物理ファントムを製作

ファントム材料設計・成形

427

3 立姿勢及び座姿勢ファントムの全身平均 SAR 測定結果

これまで検討した平面波照射装置及びファントムを用い、全身平均 SAR の測定

を行った。評価対象周波数は 2GHz である。非接地条件での平面波(垂直偏波)

ばく露時における全身平均 SAR を評価する。1/2 スケールモデルの適用により、

測定は 4GHz の周波数で行っている。ここで、電界強度測定のための円筒領域は、

半径 1.5m、高さ 1.8m とし、測定の離散間隔について、高さ方向 dz = 20mm、周

方向 dφ = 1°とした。図 17 に評価手順を示す。円筒内にファントムを設置してい

ない状態の測定結果とファントムを設置した場合の円筒面上の電界強度分布をそ

れぞれ測定し、Poynting ベクトルから電力を算出する。それらの結果の差分をと

ることにより、ファントムで吸収された電力を算出している。各モデルの全身体

重は表 5 のように与えられているので、これらの値を用いて全身平均 SAR を算出

する。

図 18 に、ファントムがない場合における円筒面電界強度分布の測定結果を示す。

さらに、欧州人モデル(成人及び小児)の立姿勢及び座姿勢の結果を図 19~22、日本人モデル(成人及び小児)の立姿勢及び座姿勢の結果を図 23~26 にそれぞれ

示す。

これら測定結果より得られた欧州人及び日本人モデルにおける全身平均 SARを

図 27 にまとめて示した。

姿勢変更時の全身平均 SAR について、全身平均 SAR に大きく影響すると考え

られる人体正面方向から見こんだモデル断面積は、成人の場合で座姿勢は立姿勢

に比べ 9%程度、小児の場合で 25%程度減少する。欧州人の成人モデルでは、測定

によって得られた全身平均 SAR の差は 15%程度であって、小児モデルについても

同程度の違いであることが確認された。日本人の成人モデルでは、座姿勢の全身

平均 SAR は、立姿勢に比べ 5%程度の減少となっている。これについては、数値

計算により 3 次元の SAR 分布を評価すると、回り込みにより太もも裏側での吸収

が直立姿勢に比べ多くなっていることが確認された。このことから、立姿勢と座

姿勢における全身平均 SARの差がモデル断面積比に比べ小さくなる場合もあると

考えられる。

図 28 において、測定により得られた全身平均 SAR について、電波防護指針に

おいて示されている一般環境における基準値と比較して示す。これらの結果につ

いては、国内外の研究機関によってなされている計算推定結果とほぼ一致したも

のであることを確認した。

428

表 5 各ファントムの体重

図 17 全身平均 SAR 評価手順

(a) Ez-field Distribution (b) Eφ-field Distribution 図 18 円筒面内電界強度分布測定結果(ファントム無し)

WB-SAR Estimation

(4) Evaluate absorbed power of phantom (Wab) by subtracting radiated power without phantom from that with phantom. (Wab= W1 - W2)

(1) Set experimental parametersAntenna input power : 23 dBm, Sampling Interval : dz = 0.02 m, dϕ = 1deg.

(2) Measure without phantom

(e.g. |Ez| distribution)

(2) Measure with phantom

(e.g. |Ez| distribution)

(3) Evaluate Poynting vector and radiated power (W1)

(3) Evaluate Poynting vector and radiated power (W2)

[dBuV/m]110

115

120

125

130

135

140

145

Antenna input power is normalized to 23 dBm. Antenna input power is normalized to 23 dBm.

欧州人モデル 日本人モデル

成人男性 (Duke)

小児 (Thelonious)

成人男性 (Taro)

小児 (7 歳児)

68.3 kg 18.2 kg 61.6 kg 21.2kg

429

(a) Ez-field Distribution (b) Eφ-field Distribution

図 25 円筒面内電界強度分布測定結果(日本人小児、立姿勢)

(a) Ez-field Distribution (b) Eφ-field Distribution

図 26 円筒面内電界強度分布測定結果(日本人小児、座姿勢)

[dBuV/m]110

115

120

125

130

135

140

145

Antenna input power is normalized to 23 dBm. Antenna input power is normalized to 23 dBm.

[dBuV/m]110

115

120

125

130

135

140

145

Antenna input power is normalized to 23 dBm. Antenna input power is normalized to 23 dBm.

430

図 27 全身平均 SAR 測定結果

図 28 一般環境における指針値との比較

0

0.02

0.04

0.06

0.08

0.1

0.12

0.14

立姿勢 座姿勢 立姿勢 座姿勢 立姿勢 座姿勢 立姿勢 座姿勢

欧州成人 欧州小児 日本人成人 日本人小児

WB-

SAR

[W/k

g]

平面波(2GHz, 垂直偏波,1mW/cm2)ばく露

Phantom

1000 2000 3000

1

10-1

Frequency [MHz]

Pow

er D

ensi

ty [m

W/c

m2]

Guideline in general condition

Who

le-B

ody

Ave

rage

d SA

R [W

/kg]

小児モデル

成人モデル

431

Ⅴ 結論及び今後の課題

我が国の電波防護指針において、電磁界強度指針は基礎指針から計算で導出さ

れている。これは欧州では ICNIRPの Basic Restrictionsと Reference Level[21]、米国の IEEE Standard における Basic Restrictions と Maximum Permissible

Exposure(MPE)[22]に対応し、無線機器の利用範囲拡大に伴い、その精度を高

めるための検討が様々な研究機関で実施されている。 近年の計算機性能の向上と高精度な数値人体データが開発されたことにより、

SAR については、性別、年齢あるいは妊娠中の胎児まで、様々なモデルを用いた

高精度な計算推定がなされてきている。加えて、姿勢や個人差による違いまで考

慮した検討もなされている。

これまで、局所 SAR については多くの計算推定と共に高精度な実験測定が行わ

れているが、全身平均 SAR については、その難易度から十分な実験データが得ら

れてはおらず、現行の高精度な計算推定を裏付けるための実験データの取得が求

められていた。

本研究では、全身平均 SAR の実験評価系構築のための検討を実施した。波源及

び人体を含む空間から外部へ放射される電力を円筒走査法により網羅的に測定す

ることで、全身平均 SAR を測定する方法を新たに提案した。高精度な数値人体デ

ータに基づく物理ファントムと平面波照射装置を製作し、提案した測定系を構築

した。欧州及び日本人数値人体モデルを用いて、姿勢や寸法の変更を考慮した全

身平均 SAR の測定を行った。これら数値人体モデルにおける全身平均 SAR の実

験データを取得したのは本研究が最初である。ここで得られた全身平均 SAR の測

定値は、計算推定の正しさを裏付けるための有用なデータとなった。

現在、身体の一部に骨治療用プレートや心臓ペースメーカ等の金属を埋め込ん

だ人体の SAR、あるいは肥満等の個体差を考慮した SAR 評価の検討がなされてい

る。今後、それら多様な人体モデルの全身平均 SAR の測定データ取得が期待され

る。

432

Ⅵ 参考文献

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[13] T.Hikage, Y. Kawamura, T. Nojima, “ Whole-Body Averaged SAR Measurement Method Using Cylindrical Scanning of External Electromagnetic Fields,” Proc. EMC Europe Workshop 2009, pp. 163-166 (2009)

[14] Y. Kawamura, T. Hikage, and T. Nojima, “Experimental Whole-Body Average SAR Estimation System using Cylindrical Field Scanning Method,” 2009 International Symposium on Electromagnetic Compatibility, 21S4-4, pp.257-260 (2009)

[15] Thorkild B. Hansen, “Probe-corrected near-field measurements on a truncated cylinder,” J. Acoust. Soc. Am., vol.119, no.2, pp.792-807(2006)

[16] 山本志緒, 後河内大介, 前田忠彦, ”スケールモデルのファントムの電気特性

に関する検討,”信学論 B, vol.J89-B, no.9, pp.1837-1841 (2006)

[17] C. Gabriel, “Compilation of the dielectric properties of body tissues at RF and microwave frequencies,” Brooks Air Force Technical Report AL/OE-TR-1996-0037 (1996) (http://www.fcc.gov/oet/rfsafety/dielectric.html)

[18] T. Hikage, Y. Sakaguchi, T. Nojima, and Y. Koyamashita, “Development of Lightweight Solid Phantom composed of Silicone Rubber and Carbon Nanotubes,” Proceedings of the 2007 IEEE EMC Symposium, TH-AM-3-4 ( 2007)

[19] Schmid & Partner Engineering AG, SEMCAD-X (http://www.semcad.com) [20] J. A. Stratton, “Electromagnetic Theory,” McGraw-Hill, 1941. [21] ICNIRP Guidelines, “Guidelines for limiting exposure to time-varying

electric, magnetic, and electromagnetic fields (up to 300 GHz),” Health Phys., vol.74, no.4, pp.494–522(1998)

[22] ANSI/IEEE C95.1-1999, “IEEE standard for safety levels with respect to human exposure to radio frequency electromagnetic fields, 3 kHz to 300 GHz”