O02-2 - J-Stage

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41 回 日本血管外科学会学術総会 2013 293 222 O02-2 慢性虚血肢における側副血管の解剖学的走行について 東京大学 血管外科 西山 綾子,宮田 哲郎,重松 邦弘,岡本 宏之 保科 克行,保坂 晃弘 O02-2 末梢動脈疾患患者における血管撮影検査の定量化指標 Bollinger score の臨床的意義の検討 東京大学 血管外科 1 東京大学 腫瘍外科 2 赤井 隆文 1 ,白須 拓郎 1 ,芳賀  真 1 ,望月 康晃 1 松倉  満 1 ,谷口 良輔 1 ,根本  卓 1 ,山本  諭 1 西山 綾子 1 ,保坂 晃弘 1 ,保科 克行 1 ,岡本 宏之 1 重松 邦広 1 ,宮田 哲郎 1 ,渡邊 聡明 2 【はじめに】慢性虚血肢では虚血状態を回避するために側副 血管が発達するが,その解剖学的部位を明らかにした研究 は少ない.我々は,慢性虚血の側副血管の走行部位につい CT 画像を用いた検討を行った.【対象・方法】側副血行 路の走行部位を大腿部と下腿部に分けて検討した.大腿部 は,2008 8 月から 2011 6 月までに浅大腿動脈閉塞で 大腿動脈から膝窩動脈へバイパス術を施行した 27 35 (側副血管 49 本)を対象とし,下腿部は,2005 11 月か 2010 7 月までに下腿三分枝閉塞により,遠位膝窩動 脈から足背または足底動脈へバイパスを置いた 16 17 (側副血管 26 本)を対象とし,各側副血管の解剖学的走行 部位を術前 CT 画像で評価した.大腿部群と下腿部群の男 女比はそれぞれ 225115 で平均年齢は 71±10.469 ±8.2 歳であった.大腿部群の病変は,浅大腿動脈単独 10 肢,中枢病変併存 10 肢,末梢病変併存 10 肢,中枢及び末 梢病変併存 5 肢であり,下腿部群の病変は,三分枝単独 14 肢,中枢病変併存例 3 肢であった.【結果】大腿部では 大腿深動脈とその穿通枝が膝窩動脈への交通を担い,内転 筋間を通る血管が 6 本,大腿二頭筋短頭を通る血管は 35 本,大腿二頭筋に付着する外側大腿筋間中隔の走行 7 本, その他 1 本であった.また,下腿部では三分枝のいずれか が部分的に開存している場合が多く,飛び石状の開存血管 を側副血管がつなぐ形で足背・足底動脈へ血流が認められ た.この場合,側副血管はヒラメ筋内を走っている場合が 最も多く 17 17 本で確認され,前脛骨筋内の側副血管が 6 本,後脛骨筋 2 本,長拇指屈筋を通る血管が 1 本あった. 全ての症例でヒラメ筋内に側副血管を認めた.【考察】大腿 下腿共に側副血管は特定筋肉内に発達する傾向であった. 大腿では大腿深動脈の第 23 穿通肢が大腿二頭筋短頭に 刺入し,これと末梢の上外側膝動脈が吻合し側副血管とし て発達すると考えた.ヒラメ筋は下腿三分枝全ての血管か ら枝が分枝する筋肉であり,人の筋肉でも最も筋肉内の栄 養動脈が多いという特徴がある.この為,下腿では飛び石 状に閉塞した本幹をつなぐ側副血管がヒラメ筋内に発達す ると考えた.今回の研究より,薬剤を特定の筋肉に投与す ることで効果的な血管新生を誘導できる可能性があること が示唆された.【結語】浅大腿動脈閉塞時の側副血管は大腿 二頭筋短頭内に,また下腿三分枝動脈閉塞時の側副血管は ヒラメ筋内に発達した. 【背景・目的】末梢動脈疾患(PAD),特に重症下肢虚血(CLIの治療において,その方針の検討に下肢血管造影(IADSAが主に用いられている.DSA の指標は様々報告されてい るが,BASIL trail の研究では,病状の評価に,下肢血管撮 影法(IADSA)を数値化した scoring system である, Bollinger scoring system が有用であると報告している.しかし,Bol- linger score とその予後の関連などについては,依然検討が 必要である.今回, Bollinger score outcome との関連を評 価した.【方法】 2008 1 月から 2011 12 月の間に,当 科にて術前 IADSA を施行された PAD 患者の血行再建施行 症例のうち,検査前の血行再建肢を除く 68 症例 80 肢を対 象とし,所見を retrospective に検討した.下肢の血管を総 腸骨動脈から足底動脈弓までを 16segments に分け, 0-15 に点数化した.【結果】原疾患の内訳は ASO74 肢,TAO 3 肢,膠原病 3 肢, Fontaine 分類は II 8 肢, III 9 肢, IV 63 肢であった.グラフト一次閉塞症例は 13 14 肢に, major amputation に至ったものは 5 5 肢に認められた. CLI において比較すると,一次開存症例と一次閉塞症例で は,閉塞症例では背景疾患で糖尿病症例が有意に少なく, Bollinger score においては,閉塞症例は開存症例に比し, 有意差はないも大腿深動脈・近位前頸骨動脈が高い点であ る傾向が認められ,吻合部の点数に有意差は認められなか った.Amputation 症例では非 amputation 症例に比し,大腿 深動脈・近位浅大腿動脈・頸骨腓骨動脈幹・近位吻合部が 有意に高い点となった.【結語】 PAD の病状の評価に Bol- linger score を使用しデータの蓄積を進めることで,臨床予 後の予測の可能性も見えてくるものと思われた.

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第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 293

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O02-2慢性虚血肢における側副血管の解剖学的走行について

東京大学 血管外科

西山 綾子,宮田 哲郎,重松 邦弘,岡本 宏之 ○保科 克行,保坂 晃弘

O02-2末梢動脈疾患患者における血管撮影検査の定量化指標Bollinger scoreの臨床的意義の検討

東京大学 血管外科 1

東京大学 腫瘍外科 2

赤井 隆文○ 1,白須 拓郎 1,芳賀  真 1,望月 康晃 1

松倉  満 1,谷口 良輔 1,根本  卓 1,山本  諭 1

西山 綾子 1,保坂 晃弘 1,保科 克行 1,岡本 宏之 1

重松 邦広 1,宮田 哲郎 1,渡邊 聡明 2

【はじめに】慢性虚血肢では虚血状態を回避するために側副血管が発達するが,その解剖学的部位を明らかにした研究は少ない.我々は,慢性虚血の側副血管の走行部位について CT画像を用いた検討を行った.【対象・方法】側副血行路の走行部位を大腿部と下腿部に分けて検討した.大腿部は,2008年 8月から 2011年 6月までに浅大腿動脈閉塞で大腿動脈から膝窩動脈へバイパス術を施行した 27例 35肢(側副血管 49本)を対象とし,下腿部は,2005年 11月から 2010年 7月までに下腿三分枝閉塞により,遠位膝窩動脈から足背または足底動脈へバイパスを置いた 16例 17肢(側副血管 26本)を対象とし,各側副血管の解剖学的走行部位を術前 CT画像で評価した.大腿部群と下腿部群の男女比はそれぞれ 22:5,11:5で平均年齢は 71±10.4,69

±8.2歳であった.大腿部群の病変は,浅大腿動脈単独 10

肢,中枢病変併存 10肢,末梢病変併存 10肢,中枢及び末梢病変併存 5肢であり,下腿部群の病変は,三分枝単独14肢,中枢病変併存例 3肢であった.【結果】大腿部では大腿深動脈とその穿通枝が膝窩動脈への交通を担い,内転筋間を通る血管が 6本,大腿二頭筋短頭を通る血管は 35

本,大腿二頭筋に付着する外側大腿筋間中隔の走行 7本,その他 1本であった.また,下腿部では三分枝のいずれかが部分的に開存している場合が多く,飛び石状の開存血管を側副血管がつなぐ形で足背・足底動脈へ血流が認められた.この場合,側副血管はヒラメ筋内を走っている場合が最も多く 17肢 17本で確認され,前脛骨筋内の側副血管が6本,後脛骨筋 2本,長拇指屈筋を通る血管が 1本あった.全ての症例でヒラメ筋内に側副血管を認めた.【考察】大腿下腿共に側副血管は特定筋肉内に発達する傾向であった.大腿では大腿深動脈の第 2,3穿通肢が大腿二頭筋短頭に刺入し,これと末梢の上外側膝動脈が吻合し側副血管として発達すると考えた.ヒラメ筋は下腿三分枝全ての血管から枝が分枝する筋肉であり,人の筋肉でも最も筋肉内の栄養動脈が多いという特徴がある.この為,下腿では飛び石状に閉塞した本幹をつなぐ側副血管がヒラメ筋内に発達すると考えた.今回の研究より,薬剤を特定の筋肉に投与することで効果的な血管新生を誘導できる可能性があることが示唆された.【結語】浅大腿動脈閉塞時の側副血管は大腿二頭筋短頭内に,また下腿三分枝動脈閉塞時の側副血管はヒラメ筋内に発達した.

【背景・目的】末梢動脈疾患(PAD),特に重症下肢虚血(CLI)の治療において,その方針の検討に下肢血管造影(IADSA)が主に用いられている.DSAの指標は様々報告されているが,BASIL trailの研究では,病状の評価に,下肢血管撮影法(IADSA)を数値化した scoring systemである,Bollinger

scoring systemが有用であると報告している.しかし,Bol-

linger scoreとその予後の関連などについては,依然検討が必要である.今回,Bollinger scoreと outcomeとの関連を評価した.【方法】2008年 1月から 2011年 12月の間に,当科にて術前 IADSAを施行された PAD患者の血行再建施行症例のうち,検査前の血行再建肢を除く 68症例 80肢を対象とし,所見を retrospectiveに検討した.下肢の血管を総腸骨動脈から足底動脈弓までを 16segmentsに分け,0-15点に点数化した.【結果】原疾患の内訳は ASO74肢,TAO 3

肢,膠原病 3肢,Fontaine 分類は II度 8肢,III度 9肢,IV

度 63肢であった.グラフト一次閉塞症例は 13例 14肢に,major amputationに至ったものは 5例 5肢に認められた.CLIにおいて比較すると,一次開存症例と一次閉塞症例では,閉塞症例では背景疾患で糖尿病症例が有意に少なく,Bollinger scoreにおいては,閉塞症例は開存症例に比し,有意差はないも大腿深動脈・近位前頸骨動脈が高い点である傾向が認められ,吻合部の点数に有意差は認められなかった.Amputation症例では非 amputation症例に比し,大腿深動脈・近位浅大腿動脈・頸骨腓骨動脈幹・近位吻合部が有意に高い点となった.【結語】PADの病状の評価に Bol-

linger scoreを使用しデータの蓄積を進めることで,臨床予後の予測の可能性も見えてくるものと思われた.

294 日血外会誌 22巻 2号

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【目的】局所陰圧閉鎖療法(negative pressure wound therapy以下 NPWT)は,2010年より保険収載され,糖尿病性壊疽などの慢性創傷で広く臨床で使用されるようになった.今回われわれは,V.A.C. ATS治療システム(以下 VAC)によるNPWTを行った重症下肢虚血(CLI)症例に対して治療効果について遡及的に検討したので報告する.【方法】2010年 4

月から 2012年 3月までの 2年間に VACを用いて NPWT

を施行した 41歳から 81歳(平均 66.7歳),男性 21例,女性11例の血行再建後のCLI 32症例(44創傷)を対象とした.基礎疾患の内訳,Rutherford分類,血行再建術(bypass,血管内治療),治療効果,転帰について調査した.治療効果は創縮小率と植皮術や皮弁移植術が適応できたかどうかで評価した.【結果】基礎疾患は,31例が 2型糖尿病,23例が維持透析であった.Rutherford5が 1例,Rutherford6が31例であった.VAC使用期間は,17.5±10.5日であった.Bypass術は,8例,血管内治療は 26例に施行されていた.50%以下の縮小率を示したのは 8創傷(18%)であった.肉芽形成と肉芽の質の改善を認めたものは,32創傷(72%)であった.創傷の状態が改善し皮弁移植を行うことができたのは 3創傷,分層植皮術が施行できたのは,18創傷であった.8例 10創傷で虚血の増悪による創悪化を認め,追加の壊死組織切除または,切断を必要とした.【考察】VACは CLIにおいては創収縮効果よりも肉芽形成促進効果が確認された.創傷の状態が改善し再建術が適応となったものは 21創傷あり,手術前の preparationとしての VAC

の有用性が確認できた.一方,創悪化を認めた 8例中 7例では,再閉塞または bypass血管の閉塞のための虚血の進行が原因と考えられた.VACは CLIでも有用な治療方法ではあるが CLIに使用する際には,常に再狭窄に留意しておく必要がある.

O02-4CLIに対する V.A.C.ATS治療システムを用いた局所陰圧閉鎖療法の検討

杏林大学 医学部 形成外科

大浦 紀彦,江藤ひとみ,倉地  功,加賀谷 優 ○清家 志円,多久嶋亮彦,波利井清紀

【はじめに】医原性仮性動脈瘤に対しては,これまで外科的修復術や超音波ガイド下プローベ圧迫が行われてきた.しかしこれらの治療法には手術侵襲や治療中の不快感や再発といった難点があった.超音波ガイド下トロンビン注入療法は 1980年代後半より報告されており,副作用や患者の不快感もなく再発率も低いなどの長所を有するとされている.当院では仮性動脈瘤に対して超音波ガイド下トロンビン注入療法を治療の第一選択として行っている.【対象】2012年 4月~11月までに血管造影後に仮性動脈瘤を形成した 6例を対象とした.上腕動脈が 5例,大腿動脈が 1例であった.平均仮性瘤径 40±15mm(24~60mm)であり,頚部径は 2.6±1.1mm(1.5~3.1mm)であった.【方法】超音波ガイド下に仮性動脈瘤内に針を 23もしくは 26Gの針を穿刺後,カラードップラー法にて血流状態を確認しながら5000U/mlに希釈したヒト血清トロンビンを注入した.カラードップラー法による血流が消失した時点でトロンビン注入を終了とした.【結果】使用したトロンビンの注入量は1833±408単位(1500~2500単位)であった.5例が一回の治療で治癒し再発を認めなかったが,1例は 2度のトロンビン注入でも再発を認めたため最終的に外科的修復術を必要とした.末梢動脈塞栓やトロンビンに起因するアレルギーなど手技に伴う合併症は認めなかった.【結語】医原性仮性動脈瘤に対する超音波ガイド下トロンビン注入療法は,副作用や患者の不快感も少なく,医原性仮性動脈瘤に対して最初に試みてよい治療法と考えられた.

O02-3医原性仮性動脈瘤に対する超音波ガイド下経皮的トロンビン注入療法による治療経験

長崎光晴会病院 心臓血管外科

陣内 宏紀,末永 悦郎,麓  英征,吉武秀一郎○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 295

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【はじめに】孤立性上腸間膜動脈解離は比較的まれな疾患であるが,腸管虚血・動脈瘤破裂を合併すると致死的となりうる.近年,画像診断の発達により本症例の報告が散見されるようになった.治療の選択肢として手術治療,血管内治療などの侵襲的治療や,抗凝固療法などの保存的治療があるものの一定の見解が得られていない.今回われわれは当院で孤立性上腸間膜動脈解離と診断された 18例について検討した.【対象・結果】2005年 11月から 2012年 5月までの間に当院で上腸間膜動脈解離と診断された 18例を対象とした.性別は男性 16例,女性 2例であり,平均年齢は 62歳(44- 77歳)であった.いずれも造影 CT検査によって診断され,CT所見では真腔・偽腔ともに開存しているものが 6例,真腔開存・偽腔閉塞が 9例,真腔閉塞・偽腔開存が 2例,真腔・偽腔ともに閉塞が 1例であった.18例中 6例では瘤化および拡張を認めた.腸管虚血が疑われた症例や他の内臓動脈瘤の合併した症例は認められなかった.治療は全例で禁食,補液を中心とした保存的療法を施行し,解離部の血流の状況に応じて血栓閉塞予防目的に抗血小板,抗凝固療法を併用した.保存加療のみで全例が腸管虚血や破裂に至らず,独歩で退院となった.退院後は定期的に造影 CT検査で経過観察を行った.観察期間中に偽腔閉塞型 9例のうち 1例が偽腔開存型に移行し,3例では偽腔内血栓が縮小し解離腔の消失を認めた.【考察】上腸間膜動脈解離は腸管虚血・壊死をきたし手術が必要となることがあるため,発症時の正確な診断と治療経過中の腸管虚血の評価が重要であり,診断および評価には造影 CT

検査が最も有用とされている.治療法に関しては抗血小板,抗凝固療法を含めた保存的療法で軽快したとの報告が多く,今回我々が経験した 18例も全例で保存的加療および経過観察で良好な経過を得ることができた.自験例の症状,画像所見の推移,治療経過などとともに若干の文献的考察を加えて報告する.

O02-2孤立性上腸間膜動脈解離の 18例

杏林大学 心臓血管外科

池添  亨,布川 雅雄,根元 洋光,高橋 直子 ○細井  温,窪田  博

下肢閉塞性動脈硬化症の治療において,切断は敗北ではなく,治療上の一選択枝である.痛みからの解放,感染症の回避,入院期間の短縮など,治療上からも医療経済的にも重要な治療法である.しかし,膝上切断せざるを得ない患者は,基本的にハイリスクであり,全身麻酔下での切断は相当な侵襲になる.我々はストリッピング手術におけるTLA麻酔(Tumescent local anesthesia)の経験から,TLA麻酔を広範な壊疽に陥った下肢の膝上切断に応用できると考え,2009年 5月から 2012年 8月までに 8例(男性 5例,女性 3例,平均年齢 82.5歳)で TLA麻酔による膝上切断術を行った.全例創は治癒し,退院ないしは転院することが可能であった.同時期に 4例(男性 3例,女性 1例,平均年齢 84.25歳)に全身麻酔下での膝上切断を行ったが,2

例が術後死亡している.プロポホールなどの静脈麻酔を併用し,まず 0.5%キシロカインで皮膚麻酔を行い,ついでTLA麻酔液(1%キシロカイン 40ml,メイロン 10ml,ボスミン 0.5ml,生食 350ml)を皮下,筋肉,骨周辺に 200mlから 400ml浸潤させれば,ほぼ無痛かつ静穏に膝上切断を行うことができた.TLA麻酔による膝上切断はハイリスク症例でも安全に行える優れた手術法である.血管外科医は救肢にこだわるあまり,切断が遅れる傾向にあったり,切断が決定した時点で,他科に任せることになることが多い.我々は最初から最後まで責任を持つという方針で,診断,血管内治療,バイパス手術,切断,植皮まで行っている(ただし義肢を用いる可能性がある時は整形外科へ,有茎皮弁移植は形成外科へお願いしている).術前から寝たきり,あるいは術後歩行する可能性がない場合に,血管外科医が下肢を膝上で切断することは,合理性があると考えられる.本法は麻酔科にも整形外科にも頼る必要がなく,特に壊死部に感染が合併し,敗血症の危機がある場合などは,血管外科医自身ですみやかにかつ安全に切断できることは,救命の点からも意義がある.

O02-5Tumescent local anesthesia(TLA麻酔)による下肢膝上切断の経験

岡山市立市民病院 血管外科

松前  大,寺本  淳○

296 日血外会誌 22巻 2号

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【目的】当院における孤立性腸骨動脈瘤の治療成績を検討すること【対象及び方法】2000年 1月~2012年 6月までに当院で孤立性腸骨動脈瘤の治療を行った 41例を対象とした.破裂群(n=15)と非破裂群(n=26)に分け,Retrospectiveに年齢,性別,既往歴,手術方法,瘤最大径,ICU滞在期間,入院期間,入院時合併症,大動脈関連イベントについて検討した.【結果】入院中死亡例は認めなかった.平均追跡期間は 41ヶ月.平均年齢は 70±11歳,男性 38例,女性 3例.動脈瘤の発生部位は,総腸骨動脈 23例(破裂群 9例,非破裂群 14例),内腸骨動脈 22例(破裂群 8例,非破裂群 14例)で有意差を認めなかった.動脈瘤最大径は非破裂群 48±8mm,破裂群 57±18mmで有意差を認めなかったが,破裂群で大きい傾向を認めた(p=0.08).手術の内訳は,総腸骨動脈 -外腸骨動脈バイパス術 13例(非破裂群 8例,破裂群 5例),総腸骨動脈 -内外腸骨動脈バイパス術 2例(非破裂群 1例,破裂群 1例),Y型人工血管置換術 15例(非破裂群 10例,破裂群 5例),瘤切除術 2例(非破裂群 1例,破裂群 1例),EVAR4例(非破裂群 3例,破裂群 1例),コイル塞栓術(非破裂群 3例,破裂群 0例)であった.入院時合併症はイレウス 6例(非破裂群 2例,破裂群 4例),術後膵炎を破裂群で 1例,急性腎不全を非破裂群で 1例認めた.ICU滞在期間は,非破裂群 1.0±0.7日,破裂群 1.8±0.7日と有意に破裂群で長かったが(p=0.02),入院期間は非破裂群 20±14日,破裂群 25±7日で有意差を認めなかった.遠隔期の全生存率は,非破裂群 1年 89%,3年 84%,5年84%,10年 84%,破裂群では 1年 100%,3年 90%,5年 72

%,10年 54%であり有意差は認めなかった(p=0.68).遠隔期大動脈関連イベントは 5例(A型急性大動脈解離 2例,急性下肢動脈閉塞 2例,胸部大動脈瘤 1例)で回避率は,非破裂群 1年 94%,3年 88%,5年 88%,10年 88%,破裂群は 1年 100%,3年 83%,5年 83%,10年 55%であり有意差は認めなかった(p=0.62),EVAR症例では 4例ともにtechnical successを得られ,endoleakは認めなかった.【まとめ】 当院における孤立性腸骨動脈瘤の治療成績を検討した.大動脈関連イベント回避率は破裂群,非破裂群ともに5年 80%以上であり,良好な成績であった.今後,EVAR

症例の増加が考えられ,Endoleakに対する対処法などを含め,検討していく必要があると考えられた.

O02-3当院における孤立性腸骨動脈瘤の検討

横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター1

横浜市立大学 外科治療学 心臓血管外科 2

長  知樹○ 1,井元 清隆 1,内田 敬二 1,軽部 義久 1

安恒  亨 1,梅田 悦嗣 1,合田 真海 1,内山  護 1

益田 宗孝 2

【症例】63歳,女性【主訴】心窩部痛【現病歴】平成某年 12月の夜間に数分間の心窩部痛を自覚して近位を受診,吐下血は認めないものの低血圧と貧血所見あり消化管出血を疑われて搬送入院となる.【入院時現症及び検査】入院時には腹部に圧痛無いが違和感あり.血圧 91/65mmHg,HR 78,意識清明,RBC 400万,Hb 13.0 g/dl,他の生化学検査に特記事項はなかった.その後バイタル安定し消化管精査予定で入院になった.【手術と経過】入院翌日の上部消化管内視鏡にて出血源は認めなかったが,その後 RBC 271万,Hb 8.7 g/dlと貧血が進行.出血を疑って行った CTにて十二指腸周囲に高濃度の液体貯溜を認め,この部分の腸管圧迫によると思われるイレウス症状を呈した.イレウスが遷延するため造影 CT施行,腹腔動脈の起始部に hook状の狭窄,狭窄後拡張,SMAから膵十二指腸アーケードの発達が見られ正中弓状靱帯圧迫症候群との診断を得た.このため血管造影を施行し確定診断をした後,再出血防止のため SMAより前上膵十二指腸動脈のコイル塞栓を行った.第 1空腸動脈の瘤も認めた.後日,腹腔動脈起始部狭窄の治療目的でバイパス血行再建も考慮して開腹手術した.起始部にバンド状の靱帯の締め付けを認めこれを切断した.圧迫解除にて直ちに血流が増加し術中血流計測でもアーケード部位の血行動態が正常化したため手術は終了した.術後日に CT造影で腹腔動脈の狭窄と後拡張改善,側副動脈路消失が確認されたが SMAの第 1空腸動脈瘤には変化なく破裂のリスクもあり,コイル塞栓で治療した.現在は無症状で外来経過観察中である.【結果,考察】膵十二指腸動脈瘤は非常に稀であるが破裂すると後腹膜出血を生じ死亡するリスクもある危険な病態である.この部の内臓動脈瘤は腹腔動脈の狭窄病変に起因することが多く,側副路の血流増加,圧上昇による出血を招くとされている.今回我々は上腹部痛を主訴に来院した症例を経験し,外科的及びカテーテル治療の組み合わせで治療し得た症例を経験したので報告した.

O02-2弓状靱帯による腹腔動脈起始部狭窄に起因した膵頭十二指腸動脈瘤破裂の 1例

赤穂中央病院 心臓血管外科

長尾 俊彦○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 297

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【症例】75歳女性.発熱と血圧低下のため当院へ紹介,受診された.細菌尿と白血球・CRP増加を認め,急性腎盂腎炎,敗血症の診断で抗生剤治療を開始した.また単純CTにて右尿管圧迫による水腎症をきたしており,泌尿器科で尿管ステントを留置された.その後敗血症は軽快したが,尿路感染は遷延した.入院 1ヵ月後の造影 CTで右内腸骨動脈瘤による尿管圧迫と診断され当科紹介され予定手術の方針となった.その2週間後に下腹部痛と血尿が生じ,ショック状態となった.CTで膀胱内出血を認め動脈瘤の尿管穿破の診断で同日緊急手術となった.手術は後腹膜アプローチにて行った.右内腸骨動脈の中枢側を結紮し尿管を同定後,動脈瘤を切除した.右尿管は瘤による圧迫壊死と思われる約 5cmの欠損を認め,尿管ステントが瘤の内腔に露出していた.尿管は瘤壁を用いてステントを覆うように修復した.また瘤による dead spaceには右下腹壁動脈をfeederとする有茎腹直筋皮弁を packingした.術後経過はおおむね良好で,手術から 1ヵ月後に独歩退院となった.【考察】尿管動脈瘻はまれな疾患で,悪性疾患に対する骨盤内手術や放射線治療の既往,血管病変が関与しているとされている.血管外科手術後の動脈と尿管の癒着,手術操作による尿管損傷,尿管ステントによる慢性的な機械的刺激などが発症要因となるが,本症例では骨盤内手術や血管外科手術の既往はなかったことから,動脈瘤による圧迫と水腎症による慢性的な感染,尿管ステントの刺激が瘻孔形成の原因と考えられた.尿管ステントを留置した症例で動脈瘤を合併している場合は,尿管動脈瘻の形成の可能性を考慮し,可及的速やかに動脈瘤の手術を行う必要がある.

O02-5右内腸骨動脈瘤の尿管穿破により膀胱タンポナーデをきたした一例

松江赤十字病院

仲原 隆弘,齋藤 雄平,原田 寿夫,添田  健○

遺残坐骨動脈は,比較的稀な先天性の血管異常である.下肢虚血などの症状を呈して精査時に指摘されたり,他の疾患の精査時に偶然発見されたりすることがある.その臨床像によって対応が異なってくる.我々の施設では最近 7年間で5症例を経験したので報告する.症例1は46歳男性で,左下肢虚血で発症した.造影 CTにて左内腸骨動脈から遺残坐骨動脈経由で膝窩動脈が造影され,左大腿動脈から膝窩動脈の中枢側が血栓閉塞していた.緊急で膝窩動脈から血栓除去を施行するが十分な血流が得られず,総大腿動脈̶膝窩動脈バイパス術を施行した.症例 2は 72歳女性で,右側腹部のう胞を精査中 CTにて右臀部腫瘤を指摘され,動脈造影で右遺残坐骨動脈瘤が発見された.右総大腿動脈̶膝窩動脈バイパス術を施行し,バイパス末梢側吻合部の中枢動脈を結紮し,後日動脈瘤をコイル塞栓した.症例 3

は 69歳男性で,間歇性跛行の精査で造影 CTが施行され,右遺残坐骨動脈の拡張と膝窩動脈以下の部分的血栓閉塞が指摘された.患者の希望により内科的療法で経過観察中である.症例 4は 69歳女性で,右足の痺れと痛みの精査で造影 CTが施行され,右遺残坐骨動脈瘤と膝窩動脈以下の血栓塞栓が指摘された.症例 2と同様に右総大腿動脈̶膝窩動脈バイパス術を施行し,バイパス末梢側吻合部の中枢を結紮し,後日動脈瘤をコイル塞栓した.症例 5は 15歳女性で,大動脈縮窄症を合併した症例で再縮窄による上半身の高血圧で右鎖骨下動脈̶大腿動脈のバイパス術が施行された.外来で再縮窄部位の評価の造影 CTで初めて両側遺残坐骨動脈が指摘された.現在,遺残坐骨動脈に伴う症状は認められていない.

O02-4遺残坐骨動脈症例の治療経験

聖マリアンナ医科大学 心臓血管外科

近田 正英,幕内 晴朗,西巻  博,阿部 裕之 ○北中 陽介,安藤  敬,小野 裕國,千葉  清

遠藤  仁,櫻井 祐加

298 日血外会誌 22巻 2号

222

【目的】当科で行った Rutherfoad5/6症例に対するバイパス術の短期成績を検討する.【対象】2011/4~2012/9月まで当科で行った 48例 54肢(Rutherford 5/6 :39/15 男:女 28:20 平均年齢 74.5)を対象とした.患者背景は糖尿病が40/48(83.3%),高血圧 38/48(79.2%),虚血性心疾患 29/48

(60.4%),脳梗塞 31/48(64.6%),透析 31/48(64.6%)であった.末梢吻合部は 34例に Distal Bypass(AT:15,PT:6,PE:5,DP:5,PL:3),7例が BKPOP,膝上領域の血行再建が 13例であり,経過中創治癒不全で,2例に Dual

Bypass(AT→ PT,AT→ PL)を追加した.【結果】平均観察期間 241日(3-544),潰瘍・壊疽の治癒率,1年救肢率,1

年 AFS(amputation free survival),1年生存率は全症例および Rutherfoad 5/6それぞれで【87.0%,86.1%,66.9%,75.6

%】,【94.9%,92.2%,82.4%,89.3%】,【80%,73.3%,29.3%,42.9%】,術後平均在院日数は【52.0日,42.7日,76.1日】であり,平均総医療費は【417.2万円,379.6万円,514.9万円】であった.大切断となった 7例は全て透析症例であった.4例は感染のコントロールがつかず,うち 3例はバイパスが開存したまま大切断となった.他の 3例は人工血管使用群で,1例は治癒退院したが経過中にグラフトが閉塞,壊疽が再発・拡大し,残りの 2例はグラフト感染を併発し大切断となった.死亡は 7/48(14.6%).術後多発性脳梗塞を併発し 1例が術死(2.1%),在院中に心臓関連死が 2例あり,在院死は計 3例(6.3%)あった.遠隔死亡は心臓関連死が 2例,敗血症が 1例,肺炎が 1例であった.【結語】Rutherfoad 5/6に対するバイパス症例の短期成績は,治癒率・救肢率とも低く,術後平均在院日数は長く,総医療費も多大なものとなった.中でも Rutherford 6症例はとくに成績が不良であり,早期診断による治療の重要性を十分に啓蒙することが必要である.

O03-2当科における Rutherford5/6症例に対する治療成績

製鉄記念八幡病院 血管外科

田中  潔,三井 信介○

腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術後に Stanford B型急性大動脈解離を発症し,大動脈解離が人工血管中枢側吻合部で停止した結果,下肢灌流不全を呈した症例を経験した.本症例に対する治療経験を報告する.【症例】77歳,女性.【既往歴】腹部大動脈瘤破裂に対して Y型人工血管置換術後.【現病歴】Stanford B型急性大動脈解離にて循環器科へ入院し保存的治療を行っていた.CTでは大動脈解離により真腔が圧排され狭小化をきたし,さらに人工血管吻合部にて解離が途絶していた.人工血管部からは真腔灌流となったために両下肢の灌流不全となり間歇性跛行が出現した.歩行可能距離は 50m程度であった.ABI検査では左右ともに 0.23であった.根治的手術には大動脈弓部から腹部人工血管までの広範囲の人工血管置換が必要と考えられたが,根治的手術の侵襲が大きいため姑息的治療として Ax-Bil.FA bypass 行うこととした.手術は右腋窩 -両側大腿動脈パイパス移植術を施行した.人工血管はゼルソフト 10× 8mmを使用.吻合後,大腿浅動脈の拍動を確認.術後経過は良好であり術後の ABI検査は左右ともに 0.94

と著明に改善した.また,CT検査では人工血管より中枢部の真腔の拡大を認めた.全身状態良好で独歩退院した.

O02-6Y型人工血管置換術後に発症した大動脈解離にて生じた両下肢灌流不全の 1例

名古屋第二赤十字病院 心臓血管外科

宗像 寿祥,井尾 昭典,秋田  翔,内田健一郎 ○日尾野 誠,藤井  恵,加藤  亙,高味 良行

酒井 喜正,田嶋 一喜

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 299

223

【目的】末梢動脈疾患(PAD)における膝下膝窩動脈以下へのバイパス術のグラフトは原則として自家静脈が用いられるが,同静脈が様々な理由で使用できない症例が散見される.今回当科で行ったカフ付き人工血管 Distafloによる膝下膝窩動脈へのバイパス術を行った症例について,同時期に自家静脈により膝下膝窩動脈以下へのバイパス術を行った症例と比較し,その意義について検討を行った.【対象及び方法】2000年 7月から 2012年 8月までの間に当科で行った Distafloによる大腿動脈-膝窩動脈バイパス症例165肢のうち,膝下膝窩動脈へバイパスを行った 14肢(Distaflo群)と,同時期に自家静脈を用いて大腿動脈から膝下膝窩動脈以下へバイパス術を行った 16肢(AV群:膝下膝窩動脈 =12肢,前脛骨動脈 =1肢,後脛骨動脈 =1肢,腓骨動脈 =2肢)の計 30肢を対象とし,両群の遠隔期開存率,救肢率,生存率を比較して,その意義について考察してみた.【成績】Distaflo群の一次開存率,二次開存率は 3年 66.2%/75.2%,5 年 56.7%/59.4%,AV 群は 3 年 62.6%/ 67.7%,5年 62.6%/67.7%で有意差はなかった.Distaflo群14肢のうち 4肢(Distaflo-C群)及び AV群 16肢のうち 9肢(AV-C群: 膝下膝窩動脈 =6肢,後脛骨動脈 =1肢,腓骨動脈 =2肢)が重症虚血肢症例で,前者の一次開存率,二次開存率,救肢率,生存率は 1年 50.0%/50.0%/75.0%/100%,3年 25.0%/25.0%/75.0%/100%,後者は 1年 100%/100%/88.9%/87.5%,3年 83.3%/85.0%/88.9%/87.5%で,一次開存率で有意差を認めたが(P=0.047),他の項目では有意差はなかった.遠隔期死亡症例の内訳は Distaflo-C群 1例(食道癌 1例),AV-C群 4例(くも膜下出血 2例,食道癌 1例,多臓器不全 1例)であった.【結論】膝下膝窩動脈以下へのバイパス術施行症例全体の開存率は,Distaflo使用症例と自家静脈使用症例の間で有意差はなかった.重症虚血肢症例に限定すると前者の一次開存率は有意に低かったが,救肢率及び生存率は両群間で有意差を認めなかった.膝下膝窩動脈へのバイパス術で使用するグラフトは自家静脈が好ましいが,重症虚血肢症例の場合,自家静脈単独でのバイパス術がたとえ不可能であっても,長期開存で劣る Distafloを使用したバイパス術で救肢を目指すことにより,患者のquality of lifeを維持できる可能性があると考えられた.また Fontain分類 II度以下の症例においても,自家静脈が使用できない場合,Distafloによるバイパス術を考慮してもよいと思われた.さらに膝下三分岐以下の動脈への Dista-floによるバイパス術について検討する必要性があると思われた.

O03-3Distafloによる膝下膝窩動脈へのバイパス術の意義 ─自家静脈によるバイパス術との比較─

北海道医療センター 心臓血管外科

川崎 正和,石橋 義光,森本 清貴,國重 秀之 ○井上  望

過去 10年間に行った重症虚血肢に対する外科的血行再建術は 249例 267肢であった.これを TASCIIの治療ガイドラインに沿って治療方針を決定するようにした 2007年 4

月を境とし,これ以前の 5年間(A群 117例 133肢)と以後の 5年間(B群 142例 151肢)に別け,術式の変遷を検討した.症例数は手術室で観血的治療と同時に行われたもののみとし(術式の重複あり),血管内治療単独症例は除いた.重症度別の内訳は A群 Fontaine III度 56例 67肢,IV度 61

例 66肢.B群 III度 66例 73肢,IV度 76例 78肢で群間に差は無かった.大動脈腸骨動脈領域の病変に対しては大動脈(腸骨動脈)-大腿動脈バイパスが A群 11肢 8.2%,B

群 0肢 0.0%.腋窩動脈 -大腿動脈バイパス A群 16肢 12.0

%,B群 13肢 8.6%.大腿動脈 -大腿動脈(交差)バイパスA群 14肢 10.5%,B群 13肢 8.6%.血管内治療 A群 10

肢 7.5%,B群 24肢 15.9%.総大腿動脈病変に対する大腿深動脈形成術,内膜摘除術は A群 6肢 4.5%,B群 17肢11.3%.大腿膝窩動脈領域では総大腿 -膝窩動脈バイパスA群 64肢 48.1%,B群 39肢 25.8%.総大腿 -足関節部バイパス A群 27肢 20.3%,B群 28肢 18.5%.浅大腿動脈 -

足関節部バイパス A群 0肢 0.0%,B群 4肢 2.6%.膝下膝窩動脈 -大腿動脈バイパス A群 12肢 9.0%,B群 19肢12.6%.血管内治療 A群 2肢 1.5%,B群 6肢 4.0%であった.【考察】大動脈腸骨動脈領域病変は,侵襲的な大動脈(腸骨動脈)-大腿動脈バイパスが姿を消し,血管内治療が選択されるようになった.しかし大動脈高位閉塞症例や血管内治療後再発例では依然として非解剖学的バイパス術が選択されていた.大腿深動脈形成術,内膜摘除術が B群で増加しているのは,切断肢の血流改善目的や,血管内治療に起因するものが増えたためと思われる.大腿膝窩動脈領域病変は総大腿 -膝窩動脈バイパスが減少していた.これは治療選択肢に血管内治療が加わり,我々が対応する以前に血管内治療が行われたためと思われる.下腿動脈病変は依然としてバイパス術が第一選択である.足関節部領域へのバイパスは,以前は中枢側吻合部を総大腿動脈に求めることが多かったが,中枢側への血管内治療が信頼性を増したため,浅大腿動脈,膝下膝窩動脈を中枢側吻合部とする術式の選択が可能になった.また全身状態不良などの条件で手術治療が不可能な場合,血管内治療が選択可能となった.

O03-2重症虚血肢における治療戦略の進歩

大阪府立成人病センター 心臓血管外科(血管外科)1

東宝塚さとう病院 2

渋谷  卓○ 1,黒瀬 公啓 1,佐藤 尚司 2

300 日血外会誌 22巻 2号

224

【背景】下腿・足部バイパス術(Distal bypass,DP)は重症虚血肢治療における第一選択であるが,高齢者や末期腎不全など予後不良な患者が多く,バイパス不能という判断を安易に行うことは慎まなければならない.一方,近年,高度石灰化病変の増加など,局所要因としてバイパス手術が困難な症例が増えており,バイパス非適応の状態を明らかにする必要がある.【対象】2007年から 2012年 7月に CLI埼玉医大総合医療センター血管外科で DPを施行した重症虚血患者は 194例であったが,同時期に血行再建不能で DP

ができなかった症例 63例を対象とし,カルテより retro-

spectiveに検討した.【結果】平均年齢 66.5歳,男性は 38

例(60%)であった.併存症は末期腎不全(ESRF)76%,糖尿病が 87%であった.壊死 50例(79%),潰瘍 10例(16%),安静時痛 3例(5%).バイパス不適応の理由は,認知症・衰弱など全身的要因(F1)が 24例(38%)であり,吻合動脈など局所要因(F 2)が 39例(62%)であった.F1群では,7

例(11%)が高度認知症,7例が心不全など衰弱,3例(5%)が入院前後の消化管出血であり,心機能悪化,貧血の進行で壊死が進行したものが多かった.F2群では,足関節以下のび漫性の動脈病変を有する症例(F2末梢)が 18例,石灰化強く吻合部位がないもの(F2石灰化)7例,吻合部位の皮膚感染 2例,偽関節 1例であった.一方,足部までストレートラインがあるび漫性狭窄病変でバイパスの有効性がないと判断したものが 11例あった.F1群は生命予後が不良であった.大切断は F2末梢 2例,F2石灰化 2例,感染など 3例で,LDL吸着,ASケア,高圧酸素を組み合わせて何とか上皮化または治癒傾向を保っていたが容易に小潰瘍の形成などが見られた.【結論】バイパス非適応例では,全身要因は認知症などで治療不適応となっている症例が多いが,消化管出血や心不全など急速な全身状態の悪化も要因となっていた.一方,局所要因では足関節以下まで進展するび漫性の動脈病変が最も多く,動脈石灰化と共に今後対策を検討すべき問題と思われた.

O03-5下腿・足部バイパス手術困難な重症虚血肢の全身的,局所要因の検討

埼玉医科大学総合医療センター 血管外科

出口 順夫,神谷 千明,北岡  斎,鈴木  潤 ○佐藤  紀

【目的】近年,血管内治療(EVT)の進歩により,下腿動脈領域にも適応が拡大しているが,当院では膝関節以下の病変に対しても,積極的に下腿バイパス術を施行している.これまでの症例から学び長期開存率をめざし,当院では下腿3分枝へのバイパス術にあたり,さまざまな手術工夫をしており連続した 25例につき,その治療成績を検討した.【対象と方法】 2008年 9月~2012年 8月までに,末梢側吻合が下腿 3分枝となるバイパス術を行った連続 25例を対象とした.手術工夫としては,(1)術前エコーにて大伏在静脈の枝をマーキングし,In situにバイパスする(2)中枢側吻合は外腸骨動脈又は総大腿動脈とする(3)中枢側において自家静脈が短ければ,外腸骨動脈又は総大腿動脈に人工血管を吻合し,人工血管と自家静脈を端側吻合する(4)末梢側吻合部位は術前のエコーにより石灰化の少ない部位とした.年齢は 45~93歳(平均 71歳),術前の Fontain分類は 2度が 4例,3度が 15例,4度が 6例であった.術前合併症としては,慢性心房細動 3例,透析 8例,糖尿病 9例,高血圧 14例あった.中枢側に人工血管を併用した症例が4例あり,末梢側吻合部位は後脛骨 15例・前脛骨 7例・足背 3例であった.術後は,下肢MDCT及び血管エコーにてグラフト開存と動静脈シャントの有無を評価した.【結果】 入院中の早期グラフト閉塞となった症例は 1例認め,早期開存率は 96%と良好であった.早期閉塞した症例の原因は,グラフトとして使用した自家静脈の径が細かったためと思われた.術後動静脈シャントを認めた症例は1例あり,結紮術を追加した.下肢切断となった症例は 3

例であり,救肢率は 88%であった.内 2例は糖尿・透析を合併しており,1例は大動脈炎症候群にて長期ステロイド投与されていた.【結語】当院での手術工夫を行った下腿3分枝バイパス術の早期開存率は良好であり,長期開存率向上が期待できると思われた.術前のエコーマーキング下の In situ バイパスは煩わしい術中作業を簡便にし,術後の動静脈シャントの発生率も低く,有用な手段の一つと考えられた.早期開存率に比べると救肢率が低く,救肢向上に向けての検討が課題である.

O03-4下腿 3分枝へのバイパス術に対する手術工夫 ~連続 25例での検討~

高知赤十字病院 心臓血管外科

市川 洋一,田埜 和利○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 301

225

【はじめに】近年行われているステントグラフトでは治療困難な傍腎動脈腹部大動脈瘤の手術に関して術後腎機能障害の危険因子を検討した.【方法】1998年 1月~2012年 9月に行われた腹部大動脈瘤の予定手術症例 387例中,腎動脈より中枢側で遮断した 33例(J群)(男性 25例,女性 8例,平均年齢 73.8歳)と腎動脈末梢で遮断した 354例(男性 289

例,女性 65例,平均年齢 73.7歳)(I群)につき周術期腎機能を検討した.J群の中枢遮断部位は,片腎動脈遮断が 21

例(うち 6例腎動脈再建施行),両腎動脈遮断が 12例(うち4例が両腎動脈再建施行し 1例が片側腎動脈再建施行していた)であった.腎動脈再建例は 1例を除いて遮断中腎動脈冷却灌流を行った.術後腎機能障害を Cr値が 1以上の上昇とし,定量評価として(術後MAXCr)-(術前Cr)=MaxΔCr

と定義した.【結果】術前 Crは J群 1.09±0.62,I群 1.01±0.03で有意差を認めなかったが,(P=0.20)術後腎機能障害は,J群 4例(18%),I群 19例(5.4%)で有意に J群の方が腎機能悪化していた.(P=0.02)術後MaxΔCrは J群 0.76±1.60,I群 0.28±0.85で有意に J群のほうが高かった.(P< 0.01)J群内 におけるMaxΔCは片側遮断 21例では 0.41±0.55,両側遮断 12例での 1.39±2.48に比して有意差は認めなかった.(P=0.63)J群で腎灌流を行わなかった 11症例の内で,遮断後にデブリスをとばして腎動脈下で遮断しなおした 1

例を除いた 10例でMaxΔCrを比較すると片側遮断 7例では 0.40±0.86,両側遮断 3例 4.53±3.67(P=0.05)と有意に腎機能障害を起こしやすい傾向であった.J群で術後腎機能障害を認めた 4例中,2例は一過性で退院時には Cr回復した.2例は慢性腎不全で透析導入となった.透析導入となった 1例は腎動脈再建を施行しておらず,もう 1例は両側腎動脈上遮断したが灌流困難であった症例であった.【結語】傍腎動脈腹部大動脈瘤の手術は腎動脈下腹部大動脈瘤と比べ,術後 Crを上昇させ腎機能を悪化させる傾向であった.特に両側腎動脈遮断は術後腎機能障害の危険因子として考えられるため,両腎動脈遮断を要する手術の際には,灌流を行い腎保護を十分検討して行う必要があると考えられた.

O04-2傍腎動脈腹部大動脈瘤に対する術後腎機能障害の危険因子

広島市立安佐市民病院 心臓血管外科

荒川 三和,片山  暁,小澤 優道,児玉 裕司 ○橘  仁志

【目的】下腿 3分枝病変に起因する重症下肢虚血症例は増加の一途を辿っている.下腿 3分枝に対する治療方針としてアンギオサムに基づく治療が提唱をされているが,現実的に全ての症例にて責任病変に対する治療が必ずしも可能ではない.この度,我々はアンギオサムにこだわるのではなく,術前の体表面エコーで治療可能な血管を同定し,術中は体表面エコーを活用し,ターゲットとする血管に対して血管内治療(EVT)を行い良好な結果を得たので報告をする.【方法】平成 22年 4月より平成 24年 10月まで間に下腿 3分枝病変に起因する重症下肢虚血症例 81症例,87肢に対して治療を施行した.術前の血管造影検査は行わず,全症例にて術前の病変部評価は体表面エコーのみで行い,エコーにて治療可能な血管を同定し,術中も体表面エコーガイドを用いてターゲットとした血管に対して EVTを施行した.男性 55症例,女性 26症例であり,年齢は 38~96

歳(平均 77.6±10.3)であった.Fontaine 分類では 3度 29肢,4度 58肢.糖尿病合併は 49%透析症例は 52%であった.手術は原則として大腿動脈順行性穿刺により施行し,順行性アプローチを基本とし,稀に良好な拡張が得られない場合は側副血行路アプローチ,足背動脈穿刺,逆行性アプローチ等を施行した.【結果】前後脛骨動脈又は腓骨動脈のいずれか 1本の拡張に成功(One Straight Line)した病変肢は 84/87= 96.6%であった.下肢大切断は 7/87= 8.0%であり,良好な結果が得られた.病変部位別での拡張成功率は T-P Trunk 閉塞 8/8= 100%,狭窄 22/22= 100%,前脛骨動脈閉塞 27/37= 73%,狭窄 21/21=100%,後脛骨動脈閉塞 18/27= 67%,狭窄 16/17= 94%,腓骨動脈閉塞 5/5

= 100%,狭窄 20/20= 100%であった.全体としては治療を試みた下腿 3分枝病変で 86.6%(129/149)の高い成功率を得ることが出来た.病変長 10cm以上の完全閉塞に対しても 70.8%(34/48)にて拡張に成功し,良好な結果が得られた.【結語】術前の体表面エコーの評価によりターゲットとする血管を同定し,術中もエコーガイド下でのターゲット血管の EVTを行い良好な結果が得られた.下腿 3分枝病変を有する重症虚肢に対しては体表面エコーの術前,術中の活用が EVT成功の為の鍵であり,従来のアンギオサムを基本とした戦略と異なる新しい方法と考えられる.

O03-6体表面エコーによる術前評価と術中使用による下腿 3分枝に起因する重症虚血肢の血管内治療成績

岡村病院 心臓血管外科 1

岡村病院 血管検査室 2

高知大学医学部 第二外科 3

岡村 高雄○ 1,浜田佐知子 2,渡橋 和政 3

302 日血外会誌 22巻 2号

226

【目的】近年,腹部大動脈瘤(AAA)に対する治療としてステントグラフトの使用が増加している.しかし,腎動脈の処理を要する症例では,今後も開腹手術を選択する場合が多いと思われる.今回,当科において腎動脈遮断を要したAAA手術症例について検討したので報告する.【対象・方法】2007年 1月から 2012年 9月までの AAA手術症例の中で,両側もしくは片側の腎動脈上遮断を要した 41例(平均年齢:72.3±9.3歳,男性 33例,女性 8例,緊急 1例)を対象とした.上腸間膜動脈分枝部まで瘤が及ぶ症例,また慢性透析症例は除外した.以上これら 41症例の手術成績を検討すると共に,術前血清クレアチニン(Cre)値が 1.10

mg/dL以下の症例を腎機能良好群(G群:31例),Cre>1.10 mg/dL例を腎機能低下群(P群:10例)とし,2群間で比較検討を行った.【結果】遮断部位は両側腎動脈が 17例,片側遮断が 24例,腎動脈再建を要したものは 1例(左腎動脈再建)であり,平均遮断時間は 36.2±9.2分(最長遮断時間 54分)であった.ほぼ全例で術中にアルブミン製剤もしくは血漿増量剤が使用されていた.腎保護液使用例は無かった.術後 31例(75.6%)にカルペリチド,もしくはドパミンの持続静注が行われたが,術後透析を要した症例はなかった.Cre値は術前 0.9 ± 0.2mg/dL,術後 peak 1.2 ± 0.4

mg/dL,退院時 1.0 ± 0.3 mg/dLであった.手術から退院までは 平均 21.0日であった.死亡例は 1例で,術後 41日目に他病死(胆管癌)した.[2群比較 ] 年齢は G群で有意に高齢であり,高血圧は G群 16例(51.6%),P群 10例(100

%)と P群で有意に多かった.両群間で手術時間,遮断部位や腎動脈遮断時間に差は認めなかった.術後 peak Creが術前より 1.0以上上昇した例はなかった.0.5以上上昇した例は G群 3例(9.6%),P群 4例(40%)で,P群に多かったが有意差はなかった.退院時 Creが術前値より高値であった症例は,G群 21例(97.8%),P群 6例(60%)であったが,両群間に差はなかった.【結語】傍腎動脈腹部大動脈瘤手術において,腎機能低下例であっても一時的な Cre上昇を認めたのみで,腎機能正常例と変わりなく良好な手術成績が得られると思われた.

O04-3腎動脈遮断を要した腹部大動脈瘤手術の成績

大阪市立大学大学院医学研究科 循環器外科学

末廣 泰男,細野 光治,佐々木康之,平居 秀和 ○尾藤 康行,中平 敦士,賀来 大輔,岡田 優子

末廣 茂文

従来,腎動脈と近接した腹部大動脈瘤(以下 AAA)はステントグラフト治療の適応外とされてきた.しかし,高齢や合併症・既往開腹歴などで Conventional Grafting手術が難しく,ステントグラフト内挿術(以下 EVAR)治療を選択せざるを得ない症例も少なくない.このような傍腎動脈AAA

に対して腎動脈ステント用の Bare Metal Stent(以下 BMS)を Brachial approachにより両側腎動脈に挿入し,EVARのランディングゾーンをかせぐ Snorkel Technique(以下 ST)を採用してきた.今回,術式の有効性と妥当性について検討した.症例 1;89歳男性,56mm大の傍腎動脈 AAAの症例,労作性狭心症,高血圧,頸動脈狭窄の既往があり,本人および家族ともに開腹手術を拒否していた.手術は,通常の EVAR(GORE® Excluder device)を両側腎動脈ステント留置(Palmatz® Genesis)による STにて施行する方針とした.術後 3日目に一過性の左側不全片麻痺が出現した.リハビリ後,麻痺症状はほとんど消失し,21日目に独歩退院された.症例 2;89歳女性,60mm大の傍腎動脈 AAA

の症例.狭心症に対するカテーテル治療歴が 3か月前にあり,家族からの強い希望もあり snorkel technique によるEVAR

(Boston® Express Vascular SD + GORE® Excluder device)を施行した.術後合併症なく,9日目に退院された.症例 3;73歳男性,67mm大の傍腎動脈 AAAの症例で,左腎動脈がほぼ瘤から枝を出す形となっていたため,距離をかせぐ目的で 4mm径の Covered Stent(ATRIUM® Advanda)を左腎動脈へ,右側には BMSを挿入した.術後経過も問題なく術後 7日目に独歩退院された.3症例いずれも,術後経過の腎機能への影響は認めず,術後に血圧管理で難渋する症例も皆無であった.また,3症例全てが術中の確認造影でType 1 Endoleakを少量認めたが,術後 7日目の CT評価では有意な Endoleakは認めず,両側腎動脈への血流もしっかりと確認することができた.症例 1の術後脳梗塞に関して,今回の手術との直接の因果関係は不明であるが,術前CTで大動脈壁の石灰化を多数認めており,アプローチを含めて,カテーテル操作に伴う合併症リスクを再認識する結果となった.3症例いずれも経過としては問題なく,傍腎動脈腹部大動脈瘤に対する本術式は容認できるものと考えられた.引き続き,耐久性,遠隔期腎機能への影響に関して検討を重ねていきたい.

O04-2傍腎動脈腹部大動脈瘤に対する Snorkel technique併用EVARの取り組み

徳島大学 心臓血管外科

中山 泰介,藤本 鋭貴,木下  肇,菅野 幹雄 ○神原  保,北市  隆,北川 哲也

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 303

222

【目的】EVARの導入に伴い,腹部大動脈瘤(AAA)open sur-

geryに占める para-renal AAAの割合は増加している.当科にて施行した腎動脈上遮断 AAA手術症例の成績を腎動脈下遮断 AAAと比較検討した.【対象と方法】2009年 1月から 2012年 10月までの AAA手術 90例のうち EVAR 30例を除いた 60例を腎動脈上遮断(P群)29例と腎動脈下遮断(I

群)31例に分け,患者背景,術式,術後の腎機能障害の程度(AKI staging)につき検討した.なお,2008年 12月以前の 4年間では,腎動脈上遮断症例は 18%であった.【結果】P群:I群と表記した.患者背景は,年齢 71.8±6.9:73.7±8.1(p= 0.32),男性 26例(90%):21例(68%)(p< 0.05),術前血清クレアチニン(mg/dl)1.08±0.44:0.97±0.59(p=0.60),術前 e-GFR(ml/min/1.73m2)59.7±28.0:64.2±19.5(p

= 0.69)であり P群で男性例が多かった.P群 29例における腎動脈上腹部大動脈遮断理由は,腎動脈再建を要するSupra-renal AAA 3例,Juxta-renal AAA 21例,腎動脈直下の loose atheroma 5例であり,AAAへの到達経路は,開腹19例(腹腔動脈上遮断 1例),後腹膜 10例(開腹既往 2例,腹腔動脈上遮断考慮し開胸併施 8例,うち腹腔動脈上遮断

6例,)であった.腎動脈再建 3例に冷却ヘパリン加リンゲル液灌流を行い,他は全例単純遮断とした.大動脈遮断時間(分)(P群においては腎虚血時間に相当)は,30.6±13.6:36.9±10.8(p= 0.41),術後の AKI stageは,0.68±0.80:0.46±0.86(p= 0.42)であり,いずれも両群間に有意差はなかった.P群の 1例に術後一時的 HDを要した.【結論】EVAR導入後,AAA手術に占める腎動脈上遮断を要するAAA症例の頻度は増加しているが,大動脈遮断時間,術後の腎機能に遮断部位は影響を与えず,当院における手術術式は妥当であると考える.

O04-5Para-renal 腹部大動脈瘤手術例の検討

浜松医科大学 第一外科

大倉 一宏,椎谷 紀彦,山下 克司,鷲山 直己 ○高橋 大輔

【はじめに】腹部大動脈瘤から異所性腎動脈が起始している場合には,大動脈瘤手術の際に,その再建が必要となる.今回我々は平時血清クレアチニンが 2.6mg/dl程度の慢性腎不全患者の,右異所性腎動脈を伴った腹部大動脈瘤を経験した.このような腎不全患者において腎動脈再建は必須と考え,また腎動脈再建の際の腎阻血による腎機能低下は最小限に留めておきたかった為,まず総肝動脈‐右腎動脈バイパスを行い,その後に腹部大動脈人工血管置換術を行った.術後残存腎機能を温存でき,良好な結果が得られたので報告する.【症例】80歳代男性.既往には高血圧性腎硬化症があり,平時血清クレアチニンは 2.6mg/dl程度であった.近医健診にて腹部大動脈瘤を指摘された.フォローアップの際,最大径 50mmと増大傾向であった為,手術の方針となった.造影 CT検査にて右腎動脈は腹部大動脈瘤から起始する異所性腎動脈であった.腹部大動脈人工血管置換術の際に右腎動脈の再建は必須であり,通常の再建(Y型人工血管の中枢吻合後,人工血管に再建する方法)では腎阻血時間が長くなり,元々悪い腎機能がさらに悪化する事が懸念された.より腎阻血の少ない再建方法として,総肝動脈‐右腎動脈バイパスを行い,その後腹部大動脈人工血管置換術を行う方針とした.【手術所見】中腹部正中切開にて開腹.総肝動脈から胃十二指腸動脈を露出し,切断.総肝動脈より 5mmリング付き ePTFE(expanded

polytetrafluoroethylene)graftにて右腎動脈へバイパスを行った.その後腹部大動脈人工血管置換術を行った.腎阻血時間は 11分であった.手術時間は 4時間 7分,出血量は383mlであった.【術後経過】術後経過は良好で,術後 13

日目で退院となった.腎機能に関しては術後 2日目に血清クレアチニンは 4.11mg/dlと一時的に悪化するも,術後 2

か月目には血清クレアチニンは 2.75mg/dlと術前と同等のレベルまで改善した.【結語】高血圧性腎硬化症による腎機能低下のある患者の腹部大動脈人工血管置換術に,総肝動脈‐右腎動脈バイパスを併施した.総肝動脈‐右腎動脈バイパスは腎阻血時間を短縮し,腎動脈再建の際の腎機能悪化を最小限に出来る有用な方法の 1つと思われた.

O04-4慢性腎臓病,異所性腎動脈を伴った腹部大動脈瘤手術に非解剖学的腎動脈再建術を併施した 1例

安城更生病院 外科

山本 規央,佐伯 悟三,平松 聖史,雨宮  剛 ○後藤 秀成,関   崇,加藤 雅也,鈴木 桜子

田中  寛,河田  陵,杉田 静紀,田中  綾

長谷部圭史,新井 利幸

304 日血外会誌 22巻 2号

222

【はじめに】胸腹部大動脈瘤(TAAA:thoracoabdominal aortic

aneurysm)に対する外科的手術は未だ侵襲も大きく種々の問題が存在する.また,ステントグラフト治療を選択した場合でも決して満足できる成績ではない.80歳以上の高齢者に限れば更に様々な問題が存在し,まとまった報告も少ない.今回,当科で施行した 80歳以上の高齢者の TAAA

に対する手術成績を検討する.【対象】2009.1~2012.10(3

年 9か月)の間に当科で施行した 80歳以上の TAAA患者18例.男性 13例で平均 82.8±3.3(80-90)歳.最大瘤径は71.3±27.3mmで,形態別には(Safi分類)2型:3例,3型:8例,4型:5例,5型:2例であった.術前危険因子は,腎障害(Cr 1.5以上)3例,冠動脈疾患 4例,慢性閉塞性呼吸障害 1例,追加手術例 7例(下行大動脈置換術後 1例,腹部大動脈置換術後 6例),冠動脈バイパス術後 4例であった.【結果】体外循環使用は 15例で全例左心バイパス(LHB:left heart bypass)を選択.手術時間 408±149分,LHB時間 148±54分,腹部臓器潅流を施行したのは 11例であった.術中濃厚赤血球投与量は 14.7±7.9単位.術後合併症は,創部離解 3例(16.7%),腎障害(血液浄化施行)2例(11.1%),下肢不全麻痺 2例(11.1%)(いずれも退院時には改善),呼吸不全 3例(16.7%)(気管切開 2例 /再挿管1例),尿管損傷 1例(5.6%),イレウス 1例(5.6%)であった.手術死亡は認めなかったが,在院死亡は 1例(5.6%)で術後 5か月目に呼吸不全からの多臓器不全で失った.【考察】高齢者では術前より ADLの低下を認めている症例が多く,術後特に問題となるのが,更なる ADLの低下および呼吸不全である.当科ではこの 2点の改善に重点を置いた治療を目指している.具体的には,術前よりの呼吸訓練・術中の愛護的な肺保護・術後の早期からの積極的なリハビリ・神経ブロックを併用した術後疼痛管理を厳密に行うことでその予防に努めている.また,人工呼吸器離脱困難症例に対しては,早期より気管切開を施行することで人工呼吸器管理下においてもより積極的なリハビリを施行できるように管理している.【結語】80歳以上の高齢者に対しても周術期の種々の工夫により成績向上が期待できる.

O05-280歳以上の高齢者に対する胸腹部大動脈瘤手術の検討

石心会 川崎幸病院 大動脈センター

関根 裕司,山本  晋,小野  眞,増山 慎二 ○藤川 拓也,大島  晋,笹栗 志朗

【背景】胸腹部大動脈(TAAA)手術の手術侵襲を軽減するために,ステントグラフト(SG)治療が胸腹部大動脈瘤にも用いられるようになってきている.当科でも 2008年から腹部分枝再建後に SG内挿術を行う Hybrid治療を high-risk

症例に施行している.今回その短中期的成績を検討した.【対象・方法】2008年 9月~2012年 11月の間に施行された,

TAAAに対し腹部分枝再建術後に,SG内挿術を施行した20例を検討した.【結果】患者背景は,平均年齢 69.3歳,性別は男性:女 /15:5例,平均 follow-up期間は 16.6ヶ月,TAAAは真性が 18例,解離性が 2例で,いずれも Type A

術後であった.また,TAAAの分類は Crawford1型;6例,2型;2例,3型;2例,4型;6例,5型;4例であった.併存疾患には冠動脈疾患を 14例,そのうち CABGまたはPCIを施行された既往のあるものが 8例,閉塞性肺疾患を11例,維持透析患者を 2例認めた.また,以前の大血管手術の既往は 9例にあり,そのうち 2例の proximal land-

ingは TAAA治療に関連するものであった.手術は 5例を1期に,15例を 2期的(平均 interval;6週)に施行した.腹部分枝へのバイパスは全例腹部正中切開下に行い,腹腔動脈再建を施行したものは 10例あり,再建を行っていないものも術前に SMAからの側副血行路の確認は行っていた.腹部分枝の平均分枝再建数は 3.05本であった.SG留置は全例で成功し,術直後では全例 endoleakを認めなかった.術後の成績は,30日死亡は認めなかったが,在院死を 2

例(1例は残存する弓部動脈瘤破裂,1例は敗血症)認めた.遠隔死亡は 4例あり,そのうち 1例が大動脈関連死亡(Y

graft感染からの敗血症)であった.生存率は術後 1年で69.2%,大動脈関連死亡回避率(1年)92.3%であった.合併症は術後脳梗塞の発症はなかったが,paraplegiaを 2例に認め,1期的に手術をおこなった症例であった.経過観察中に追加治療や手術を受けたものは 4例(type1 endoleak

を認めた 3例と,腹腔動脈からの type2 endoleakを認めた1例)で,追加治療後は,瘤径の拡大は認めず,全体の大動脈イベント回避率(1年)72.7%であった.【結論】TAAA

に対して,Stent Graftは 1つの治療戦略となりうると考えられた.術後 paraplegia予防のために,段階的な手術の施行が望まれる.また,遠隔期に追加治療が必要な症例もあり,綿密な定期観察が不可欠である.

O05-2胸腹部大動脈瘤に対する Hybrid治療の検討

財団法人倉敷中央病院 心臓血管外科

山中  憲,小宮 達彦,坂口 元一,島本  健 ○二神 大介,植木  力,片山 秀幸,伊集院真一

植野  剛,西田 秀史,古賀 智典,藤本 将人

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 305

222

【背景】感染性大動脈瘤の治療は感染巣の可及的切除を前提とし,非解剖学的再建,抗生剤浸漬人工血管の使用,ホモグラフトの使用,大網充填,長期抗生剤投与などを勧める報告が散見されるが,確立した治療戦略はない.今回我々は膿胸を合併した活動期感染性胸腹部大動脈瘤破裂に対して一期的にバンコマイシン含浸人工血管置換術による in

situ再建,膿胸開窓,大網充填術を施行し救命しえた 1例を経験したので報告する.【症例】63歳,男性.突然の背部痛で近医に救急搬送,胸腹部大動脈瘤破裂疑われ当科転送された.炎症反応高値(CRP 29.6mg/dL,WBC 17720/μ),CTにて胸腹部嚢状大動脈瘤(仮性瘤最大径 70mm)と周囲膿瘍,両側胸水(血性胸水よりMSSA検出)を認めた.感染性胸腹部大動脈瘤破裂と診断し人工呼吸器管理,降圧療法下に抗生剤療法施行後の待機手術方針とした.しかし13日後の CTで感染瘤の著明な拡大(横隔膜から腹腔動脈を巻き込むレベルで最大径 90mm)と両側膿胸認めた.感染がコントロールされていない状態であったが仮性瘤 blow

outの可能性が極めて高いと判断し,緊急胸腹部人工血管置換術施行.第 7肋間開胸すると腹腔内に癒着を認め,剥離していくと膿胸壁を穿孔し大量の白色膿汁の流出を認めた.術中鏡検でグラム陽性球菌陽性,膿胸の隔壁を切除し洗浄施行.術前 CT検査で腹腔動脈,上腸間膜動脈前壁には瘤は及んでいなかったため,後壁を郭清するような斜切開にて主要分枝は温存可能と考えられた.大腿動脈送脱血による部分体外循環施行.中枢は心臓後面レベルの下行大動脈,末梢は左右腎動脈上を遮断.瘤切開すると大動脈壁の一部が穿孔し仮性瘤の形態であった.腹腔動脈,上腸間膜動脈に選択的に送血し後壁に向かって斜切開,バンコマイシン含浸人工血管(Hemashield 20mm)にて置換.感染瘤壁を横隔膜の一部も含めて合併切除し可及的に debride-

ment施行(瘤壁培養よりMSSA検出).ピオクタニンを人工血管および周囲に塗布,大網を左膿胸,横隔膜欠損部,人工血管全体および仮性瘤のあったスペースを埋めるように充填し手術終了.手術時間 10時間 19分,人工心肺時間117分.術後抗生剤は VCM 6週間点滴投与,その後経口抗生剤(LVFX 500mg/日)を 1年間施行する方針として前医に転院.現在術後 2ヶ月経過し経過良好.【考察】感染が活動期であっても完全な debridement+大網充填 +適切な抗生剤療法を施行することによって一期的手術が可能であった.

O05-4膿胸を合併した活動期感染性胸腹部大動脈瘤破裂の手術経験 ― 一期的 in situ 再建

埼玉医科大学国際医療センター 心臓血管外科

道本  智,朝倉 利久,井口 篤志,中嶋 博之 ○上部 一彦,小池 裕之,森田 耕三,神戸  将

高橋  研,池田 昌弘,岡田 至弘,高澤 晃利

林 祐次郎,新浪  博

胸腹部大動脈瘤の手術治療においては対麻痺の防止が最大の問題点の一つであるが,今回われわれは対麻痺の予防のため超低体温下に,肋間動脈腰動脈ロール再建法を施行した 3症例を経験したので報告する.症例 1は 50歳男性,脳梗塞での入院中に診断された最大径 80mmの真性瘤,症例 2は 69歳男性で慢性解離の最大径 60mmへの拡大瘤化,症例 3は 77歳男性で腹部大動脈人工血管置換術,弓部大動脈瘤人工血管置換術,慢性腎不全(Creat3.0)合併の最大径 60mmの真性瘤であった.いずれも Th5-L2の領域のグラフト置換を必要とした.症例 1の脳梗塞も小範囲で後遺症なく,その他は 2症例と明らかな心機能低下,呼吸機能低下,がないことが確認されたため,超低体温法を採用した.術前スパイナルドレナージを施行し,腋窩動脈及び大腿動脈から送血,大腿静脈ならびに主肺静脈より脱血を行い体外循環確立,は冷却中に中枢側吻合を施行,超低体温の状態で再建すべき肋間動脈,腰動脈を含む瘤を全て一気に開放し,腹部分枝の潅流開始後,肋間動脈,腰動脈のロールを作成,中枢に吻合した 1分枝付人工血管の側枝への吻合を施行した.肋間動脈への血流再開後復温しながら腹部分枝ならびに末梢の吻合を行なった.この際吻合は末梢より行い最後に長さを合わせて人工血管同士の吻合を行った.症例 1では仰臥位で右鎖骨下動脈へのグラフト吻合,送血路確保後,再度体位変換を施行,症例 3では後腹膜腔,心膜の癒着が高度であった.このため冷却加温に必要な時間もあわせ平均手術時間が 736分人工心肺時間が 327分とかなり手術時間は延長するものの,いずれの症例も神経障害なく独歩退院となった.当科ではハイリスク胸腹部動脈瘤症例に対して腹部 debranch+TEVARを用いているが,若年将来或いは shaggyAorta症例で耐術可能と判断した場合,可能な限りの保護手段下に可能な枝を全て還流するというコプトのもと本法を採用した.まだ症例数が少なく,ロール部分の将来の変化など今後の検討を必要とするもの,症例によっては検討すべき術式であると思われた.

O05-3超低体温,肋間動脈ロール再建法を施行した胸腹部大動脈瘤手術 3症例の報告

飯塚病院 心臓血管外科

内田 孝之,松元  崇,谷口賢一郎,松山  翔 ○安藤 廣美,福村 文雄,田中 二郎

306 日血外会誌 22巻 2号

230

【目的】Marfan症候群では全大動脈置換が必要になる症例を認める.今回我々は open surgeryだけでは治療困難な胸腹部大動脈瘤に対してハイブリッド治療を施行した症例を経験したので報告する.【対象】患者は 43歳女性.11歳時に Bentall手術および僧帽弁置換術施行.23歳時に Stan-

ford B型解離を発症.解離性大動脈瘤に対して 27歳時に上行弓部置換,28歳時に下行置換を施行されていた.以降外来でフォローアップされていたが,前回の下行置換末梢吻合部から terminal aortaまで至る胸腹部大動脈瘤が徐々に拡大し,最大径が 6cmを超えてきたため手術適応と判断した.【結果】当初,前回の下行大動脈人工血管から腹部大動脈末梢までの人工血管置換を予定し手術に臨んだが,前回の左開胸手術の影響で肺が大動脈と非常に強固に癒着しており,人工血管まで剥離することが不可能であった.そのため待機的に 2期的手術を行う方針とし,まず横隔膜レベルから腹部大動脈末梢までの人工血管置換を openで行った.その手術の 1ヶ月後に,残存している下行大動脈瘤に対して,以前の下行置換の人工血管から今回の人工血管までの間にステントグラフトを留置した.術後の CTでは endoleakもなく動脈瘤径の縮小を認めた.【結論】Marfan

症候群において,肺の癒着によりアプローチが困難な胸腹部大動脈瘤症例に対して,ハイブリッド治療が有効であった一例を経験した.

O05-6Marfan症候群の解離性胸腹部大動脈瘤に対してハイブリッド治療を施行した 1例

神戸中央市民病院 心臓血管外科

村下 貴志,小山 忠明,金光ひでお,福永 直人 ○小西 康信,中村  健,左近 慶人,岡田 行功

【背景】Marfan 症候群は骨格筋の異常,心血管病変および眼病変を合併する全身性の結合組織形成不全疾患であり,多くは常染色体優性遺伝の遺伝性疾患でその頻度は 10000

人に 1人ほどといる.心血管病変は大動脈弁輪拡張症,胸腹部大動脈瘤,大動脈解離,僧帽弁閉鎖不全など心臓血管外科領域の手術対象となり,再手術となる事もよく経験する.当院で経験した高度側弯症を伴うMarfan症候群に対し,段階的全大動脈置換術に至った 2例を報告する.症例1は身長 174cm,体重 50kg.やせ形で胸郭変形を伴い,前医にて胸腰椎固定術を施行されている 25歳の男性.前医にて AAE,ARに対し 5歳時に AVRを施行されていた.21

歳時に B型解離を発症し外来経過観察となるが,徐々に瘤径の拡大を認め,22歳時に再 Bentall手術,弓部置換術,23歳時に胸腹部大動脈置換術を施行.術後,呼吸合併症に難渋するも独歩退院.症例 2は身長 168.5cm,体重 46.7kg.やせ形で四肢は長く,胸郭変形,並びに胸腰椎の著名な側弯症を認め,眼病変を認めるが,特記すべき家族歴のない26歳の女性.遺伝子検索を行い FBN1の変異を認めたが,TGFBR1や 2の異常はなかった.11歳時に AAE,ARに対する Bentall手術,19歳時に吻合部仮性動脈瘤に対する再Bentall手術,22歳時に下行大動脈瘤の拡大を認め下行大動脈置換術,25歳時に解離並びに大動脈瘤径の拡大を認め弓部置換術,26歳時に胸腹部置換術を施行.術後は対麻痺,呼吸器合併症等なく独歩退院.【結語】何れの症例とも高度の側弯症を伴い,呼吸的な Riskをともないつつ,胸郭変形等により良視野の得られない状況での手術ではあったが,良好な結果が得られた段階的全大動脈置換術を施行した 2例を経験した.

O05-5高度の側弯症を伴うMarfan症候群に対する段階的全大動脈置換の 2例の経験

東京女子医科大学 心臓血管外科

大森 一史,青見 茂之,冨岡 秀行,東   隆 ○石井  光,外川 正海,笹生 正樹,山崎 健二

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 307

232

【目的】Stanford A型大動脈解離手術時,当院で行っているArch First法の脳保護効果と基部人工中膜再建の術後遠隔期基部合併症予防効果を検討する.【方法】1991年 12月~2012年 10月に手術を施行した 153例男 81,女 72)を対象とした.年齢は 20~87歳(平均 62.3歳).手術は上行置換102例,上行弓部置換 49例,上行基部置換 2例で,大動脈弁或は僧帽弁置換術 5例,冠状動脈バイパス術 6例,基部置換 5例を併施した.Arch First法(A法)を 1996年 11

月より弓部置換全例に行い頸部 3分枝吻合は超低体温循環停止(D法)下に行った.その後頸部分枝に解離のある症例のみとし逆行性脳潅流併用(D+ R法)とした.脳保護法として選択的脳分離灌流(S法)も含めて 4法間で術後脳合併症発生率を比較した.D法は 30例,D+R法は 66例,A

法は 37例,S法は 20例で行った.人工中膜再建(M+群)は基部解離腔にフェルト或はメッシュを入れ,GRF glue

或は BIO glueで固着して基部断端形成するものであり,1994年 12月より開始し 96例に行った.術後遠隔期の基部拡大瘤化・再解離・仮性瘤の発生率を人工中膜の再建を行わなかった群(M-群)と比較した.【成績】死亡は 18例(11.8%)で,30日内死亡 14例(9.2%),在院死亡 4例(2.6

%),死因は術前ショック状態 3例,脳合併症 6例,多臓器不全 3例,感染症 2例,術後吻合部破裂 1例であった.術後脳合併症発生率は術中及び術直後死亡の判定不能例を除いた.D法 17.9%(5/28),D+R法 0%(0/62),A法 14.3

%(5/35),S法 5%(1/20)であった.脳合併症の程度を退院時独歩或は軽度麻痺残存の軽症と脳死及び多発脳梗塞の中重症に分類すると,D法(軽 2,中重 3),A法(軽 5,中重 0),S法(軽 0,中重 1)であった.また最近 7年間は死亡及び脳合併症とも認めなかった(D+R法 32,A法 4,S

法 9).人工中膜に関しては術後 1年目以降も引き続き CT

検査を当院で行えた症例のみ検討した.M+群 68例,M

-群 12例で,基部拡大瘤化や基部再解離は両群とも認めなかった.基部吻合部仮性瘤をM+群に 1例(1.5%),M

-群に 3例(25%)認めた(P< 0.01).【考察】D+ R法では脳合併症を認めず,D法より脳保護効果に有意(P< 0.01)に優れており,D+R法が望ましい.A法に軽症脳梗塞の合併が認められたが,逆行性脳潅流併用で脳虚血時間短縮と debris及び airの除去を十分に行うようになってからは脳合併症を認めなくなった.【結論】A法+ D+R法で頸部分枝に解離のある症例でも脳合併症予防が期待できる.人工中膜再建は術後遠隔期基部合併症予防に有用である.

O06-2Stanford A型大動脈解離手術の脳保護法別脳合併症と基部人工中膜再建効果の検討

横浜労災病院 心臓血管外科

岡田  拓,深田 睦無,古川  浩,坂上 直子 ○小西 敏雄

急性 A型解離において近位側大動脈の解離は NCC,RCCでValsalva洞内に及び,交連部も detachすることが多い.基本的には解離腔に glueを注入し圧着させ外側 felt補強,内側には feltもしくは自己心膜による断端形成を行うことで再建は可能である.しかし稀に tearが Valsalva洞に存在する場合やMarfan症候群,若年者の基部拡大,AAEなどで基部置換を必要とする場合がある.基部再建は積極的に自己弁温存でのぞむ方針としている.【対象と方法】1999年10月から 2012年 11月までに当科で施行した急性 A型大動脈解離手術は 247例.このうち基部置換を施行したのは19例(7.6%).男性 14例,女性 5例,平均年齢 53.0±11.8

(35~69)歳.Marfan4例(21%),基部破裂,CPA,salvage

症例 2例,Valsalva tear症例 2例.Marfanを除く解離を伴った Valsava洞拡大,AAE症例が 11例(57.8%).再建後の近位側吻合部からの出血のために基部置換を要したのは急性 A型解離手術全症例中の 2例(0.8%).術前 ARはmild:5,moderate:4,severe:8.Malperfusionは 6例(31.5%)に認めた.基部再建手技は Aortic root reimplantation法が15例(78.9%),Bentall手術 3例,Partical remodeling法が 1

例.同時に弓部全置換を施行したのは 9例(47.3%).RCA

に bypassを必要とした症例が 3例(15.7%)であった.鼓膜温 21度で循環停止.脳保護は SCP9例,RCP9例.手術時間は 8.4±2.3時間,体外循環時間 291.6±72.2分,大動脈遮断時間は 197.0±37.8分,下半身循環停止時間 32.1±15.0分.【結果】30日以内死亡は salvage, CPA症例の1例(5.2

%).合併症は出血再開胸 1例,呼吸不全,脳出血 1例.Malperfusionによる腸管壊死 1例.自己弁温存症例の術直後 ARは全例 trace以下であった.術後平均観察期間は62.9±39.0(6~154)か月で,遠隔期生存率は 5年 88.8%,8

年 88.8%.再手術回避率は 5年 78.3%,8年 53.7%.遠隔期再手術は AVR4例,再基部置換 1例行った.再発 ARの原因はRCC穿孔1例,commissure dehiscenece 3例であった.【結論】急性解離症例において基部置換が必要となる症例は比較的少ないといえる.若年者には積極的に自己弁温存基部置換を行い,急性期の成績は良好であった.しかし遠隔期で GRF glue使用が原因と思われる組織壊死のため com-

missure dehisceneceをきたし再手術を必要としている.今後も慎重な経過観察が必要である.

O06-2急性 A型大動脈解離に対する大動脈基部置換術

神戸大学 心臓血管外科

南  一司,木下 史子,後竹 康子,中井 秀和 ○小原 大見,竹歳 秀人,山中 勝弘,宮原 俊介

白坂 知識,野村 佳克,坂本 敏仁,大村 篤史

井上  武,岡田 健次,大北  裕

308 日血外会誌 22巻 2号

232

【目的】急性 A型大動脈解離(AAD)に対して primary entry

切除を主体とした上行または上行弓部置換術が標準術式となっているが,初回術後の残存解離腔の転帰は以後の治療経過に大きく影響する.今回,急性 A型大動脈解離術後の残存解離腔の状況と大動脈追加手術との関連性について検討した.【対象】AADに対して 2001年 1月~2012年 4

月に当院で緊急手術を施行した 137例中,初回術後に末梢側残存解離腔を有する 106例(77.4%)を対象とした.初回手術で上行またはヘミアーチ置換を施行した94例(68.6%)(A群)と全弓部置換術を施行した 43例(31.4%)(T群)の 2

群に分けて比較検討した.【結果】耐術例 120例中,primary

entry切除可能であったのは,A群 80例(94.1%),T群 39

例(88.6%)で両群間に有意差を認めなかった(p= 0.36).残存解離腔は A群 74例(86%),T群 32例(91.4%)に存在し,両群間に有意差を認めなかった(p= 0.50).残存解離腔中,胸部下行大動脈での非血栓化例は A群 36例(48.6

%),T群 19例(59.4%)で両群間に有意差を認めなかった(p

= 0.30).残存解離腔拡大による追加手術を必要としたのは,A群 2例(2.3%),T群 4例(11.4%)で両群間に有意差を認めなかった(p= 0.12).観察期間 100ヶ月での追加手術回避率は A群 89.5%,T群 79.4%で両群間に有意差を認めなかった(p= 0.22).primary entry切除の有無別で比較すると,観察期間 100ヶ月での追加手術回避率は切除群 85.3

%,非切除群 88.9%で両群間に有意差を認めなかった(p

= 0.98).追加手術が必要となった 6例の胸部下行大動脈での残存解離腔の状況は開存 2例,部分血栓化 4例で,残存 entryは胸部下行大動脈に 2例,弓部分枝に 1例,腹部大動脈に 1例存在した.末梢側吻合部リークを 1例認めた.追加手術因子を単変量解析すると,primary entry切除(p=0.42),全弓部置換(p= 0.77)は有意差を認めず.B型大動脈解離既往(p< 0.01),胸部下行大動脈における残存 entry

の存在(p< 0.01),胸部下行大動脈の非血栓化(p= 0.03)で有意差を認めた.多変量解析ではいずれも有意差を認めなかった.【結語】初回手術時のprimary entry切除のみでは,残存解離腔拡大予防に不十分な症例も存在した.初回術後に末梢側近位大動脈に残存 entryを有する解離腔非血栓化状態が,追加手術の危険因子となる可能性が示唆された.

O06-4急性 A型大動脈解離術後残存解離腔の検討

福島県立医科大学 心臓血管外科

三澤 幸辰,佐戸川弘之,高瀬 信弥,若松 大樹 ○黒澤 博之,瀬戸 夕輝,五十嵐 崇,籠島 彰人

藤宮  剛,横山  斉

【目的】Stanford A型急性大動脈解離手術において,Hemi-

arch置換と全弓部置換(TAR)の術式選択の違いによって及ぼされる,術後下行大動脈の残存解離における真腔径及び偽腔径の推移からTARの有用性を検討した.【対象と方法】2009年 3月から 2011年 7月に施行した,急性 A型大動脈解離手術 105例のうち,遠隔 12カ月以上の追跡調査が可能であった,DeBakeyII型症例を除く 45例(42.8%)を対象とした.Hemiarch置換例が 19例(H群:手術時年齢 67±12歳,男 /女:7/12),全弓部置換例が 26例(T群:59±13

歳,男 /女:20/6).全例で吻合部の断端形成を施行(Hemi-

archは近位側,遠位側ともにフェルトもしくは人工血管によるサンドイッチ法,全弓部置換はエレファントトランク法).下行大動脈における最大短径及び同部位の最大長径(大動脈蛇行部位は除く)及び真腔の短・長径を術後 1週間及び 1年後の CTで計測し残存解離大動脈の拡大径を検討した.【結果】術直後 CT検査で下行大動脈の血栓化(部分血栓型は含まず)率は H群 47.3%(9/19),T群 23.8%(6/26)であった(P=0.12).吻合部リーク率は H群 36.8%(7/19),T群 19.2%(5/26)であった(P=0.31).下行大動脈の術直後平均最大短径はH群33±4.4mm,T群34±4.3mm(P=0.315),平均最大長径はH群38±4.7mm,T群37±5.3mm(P=0.817),真腔の平均短径 /長径= H群 22±7/28±7mm,T群で 20

±5.1/27±5mmで有意差はなし(P=0.114/P=0.078).術後 1

年時 CTでは下行大動脈の血栓化率は H群 63.2%(12/19),T群 34.6%(9/26)で 2群間に有意差なし(P=0.13).平均短径 /長径=H群 34±4.6/40±7.5mm,T群 35±6.5/40±8.2mm

で有意差なし(P=0.479/P=0.504).拡大径差は H群短径 /長径= 0.4±2.5/2.3±5.3mm,T 群 0.9±3.8/3.1±5.8mm で同等であった(P=0.915/P=0.178).真腔の平均短径 /長径= H

群 24±8/33±7mm,T群で 28±5.1/29±5mm(P=0.412/P<0.001)で,拡大径差は短径 /長径=H群 1.7±4.4/4.1±5.5mm,T群で 8.7±6.5/2.6±5.8mmと T群において有意に真腔の短径に拡大傾向を認めた(P< 0.0001/P=0.392).【結語】Hemi-

arch置換術に比して全弓部置換術において,真腔の拡大化傾向か強く,真腔圧の改善が得られていることが示唆された.特に短径方向の拡大が著明で偽腔圧排の軽減が示されていると思われる.

O06-3残存解離における真腔径と偽腔径の推移からみた A型解離に対する全弓部置換術の有用性

医療法人社団 明芳会 イムス葛飾ハートセンター 心臓血管外科

清家 愛幹,田鎖  治,金村 賦之,加藤 一平 ○鈴木 伸章,古畑  謙,月岡 祐介,伊藤雄二郎

中原 嘉則,細山 勝寛,吉田 成彦

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 309

233

【目的】80歳以上の急性 A型大動脈解離の手術治療成績および遠隔期成績を検討した.【対象】2006年 10月から 2012

年 5月まで,緊急手術となった Stanford A型大動脈解離連例続 98例の内,80歳以上の 18症例を対象とし(E群),80

歳未満の手術例 80例(Y群)と比較した.【手術方法】Direct

cannulationによる右腋窩動脈送血および右房脱血にて体外循環を確立.25℃中等度低体温下,open-distal法にて,年齢に関係なく内膜亀裂部切除を基本に術式を決定した.【結果】1術前状態:a平均年齢;E群 83.5歳,Y群 69.8歳, b

術前ショック症例;E群 5例(28%)Y群 22例(28%),c術前不全片麻痺(脳虚血);E群 0例(0%)Y群 5例(6%)(p

< 0.05),d慢性腎不全(透析);E群 0例(0%)Y群 4例(5%)(p< 0.05),eCOPD合併;E群 3例(17%)Y群 2例(3%)(p

< 0.05).術前の血行動態では 2群間に差はなく,E群でCOPDの合併が多く,Y群で術前不全麻痺・透析の合併が有意に多かった.2術式の比較:E群では上行大動脈置換14例:弓部置換 4例,Y群では上行大動脈置換術 48例:弓部置換術 32例と,E群で上行大動脈置換が多かった(p

< 0.05).3術後結果:a病院死亡;E群 2例(11%)Y群 6

例(8%),b術後 48時間以上の長期挿管;E群 5例(28%)Y群 9例(12%)(p< 0.05),c再開胸止血術;E群 0例 Y

群 1例(1%),d前縦隔洞炎;E群 0例 Y群 1例(1%),e

新規の術後脳梗塞;E群 0例 Y群 0例,f術後 AF;E群9例(50%)Y群 18例(23%)(p< 0.05),gDCを必要とする術後 AF;E群 6例(33%)Y群 3例(4%)p< 0.05).病院死亡に差はなく,生存例では両群ともに,新規の術後脳梗塞は認めていない.しかし,E群で有意に 48時間以上の長期挿管症例が多く,また術後譫妄の発症率が高かった.さらに術後の心房細動の発生率は E群で高く,循環不全を伴うAFが高率に発症した.4遠隔期成績:E群 16例(100

%),Y群 66例(92%)を追跡.Kaplan-Meier法で 1年,3年,5年の累積生存率はE群72%,58%,45%,Y群82%,62%,55%と差はなかった.遠隔期に大動脈関連の再手術は E

群ではなく,Y群では 3例に再手術を行い全例生存した.【結語】80歳以上の A型急性大動脈解離症例に対する内膜亀裂部切除を原則とした手術成績は,遠隔期も含め,80

歳未満の症例に比して差はなくその成績は許容できる.しかし周術期の譫妄及び心房細動が有意に多く対策が必要である.

O06-680歳以上の急性 A型大動脈解離に対する手術成績

医療法人財団 康生会武田病院 心臓血管外科

朴  昌禧,阪口 仁寿○

【目的】急性 A型大動脈解離は,緊急手術を要する致死的な疾患であるが,近年の手術技術の進歩により,救命率は徐々に改善している.しかし,術後遠隔期の残存大動脈の予後については不明な点も多い.【対象】2000年 1 月から2012年 9月まで間に,当院で急性 A型大動脈解離に対して大動脈人工血管置換術を施行された症例は 280例であった.患者背景は平均年齢 67才(20~93才),女性は 151例(53.9%).結合織疾患は 17例(Marfan症候群 15例,Loeys-

Dietz症候群 2例),開心術の既往は 11例(3.9%),脳血管障害 29例(10.3%),腎機能障害 23例(8.2%)であった.急性A型解離に対する術式は Total arch replacement 126例(45.0

%),Partial arch replacement 12例(4.3%),Hemiarch replace-

ment 139例(49.6%),上行大動脈置換 3例(1.1%).同時手術は大動脈基部置換術が 35例(12.5%:Bentall 24例,David

7例,Partial remodeling 4例),CABG 17例(6.1%),AVR 7

例(2.5%)であった.これらの症例のうち,入院死亡の 14

例(5.0%)を除いた生存退院例 266例を対象とし,その遠隔期での大動脈再手術の発生,生存率について検討した.平均追跡期間は 42 ± 33ヶ月(1~125ヶ月).【結果】遠隔期での中枢側に関する再手術は 11例(Bentall 5例,AVR 2例,吻合部仮性瘤修復 2例,David 1例,吻合部狭窄解除 1例).中枢側の再手術回避率は 5年で 94.8%,8年で 89.5%であった.末梢側大動脈に対する再手術は 17例(TAR 3例,下行置換術 6例,胸腹部大動脈置換術 5例,TEVAR 3例).末梢側の再手術回避率は 5年で 89.3%,8年で 85.8%であった.末梢側大動脈再手術の危険因子は,結合織疾患(p<0.001),術直後 CTでの残存大動脈径 40mm以上(p=0.005),術直後 CTでの残存偽腔開存(p=0.004)が挙げられた.大動脈置換範囲(HAR/PAR vs TAR)は中枢側,末梢側ともに遠隔期の再手術の危険因子にはならなかった(p=0.192).遠隔死亡は 30例(11.3%)で,そのうち心臓大動脈関連死が10例(心不全 6例,不整脈 1例,大動脈瘤破裂 1例,突然死 2例)であった.累積生存率は 5年で 84.9%,8年で 80.4

%であった.【結論】急性 A型大動脈解離術後において,遠隔期の残存大動脈に対する再手術を必要とする症例は比較的少ないと考えられるが,結合織疾患患者,術後 CTで偽腔開存例,または残存大動脈径 40mm以上の症例は,ハイリスクと考えられるため,より綿密な経過観察が必要である.

O06-5急性 A型大動脈解離術後の遠隔予後についての検討

国立循環器病研究センター 心臓血管外科

伊庭  裕,湊谷 謙司,松田  均,佐々木啓明 ○田中 裕史,尾田 達哉,三隅 祐輔,山下  築

森本 和樹,久保田沙弥香,小林順二郎

310 日血外会誌 22巻 2号

234

【緒言】遠位弓部大動脈瘤(DAA)は病型が多様であり,全弓部置換術(TAR),open stentgraft,TEVAR,debranch TEVAR

など,その手術手技,補助手段などを含めた治療戦略には,未だ議論が多い.今回,当科で施行した DAAの手術成績および遠隔予後について検討したので報告する.【対象と方法】2000年 1月より 2012年 10月までに,弓部置換術を施行した 274例中,瘤が遠位弓部におよぶ 108例を対象とした.平均年齢 72.8±8.4歳(男 98例,女 10例),病因は真性 DAA70例,真性 DAA破裂 27例,感染性 DAA破裂2例,外傷性 DAA破裂 2例,慢性解離 7例であった.手術術式は,初期の症例で部分弓部置換術を 18例(16.7%)に施行し,72例(66.7%)は全弓部置換術を施行した.肺動脈分岐部レベル以下にまで瘤がおよび landing zoneがある症例には open stent法を 11例(10%)に施行した.1例ではclamshell incisionで横隔膜上まで置換し,2011年よりハイリスク症例 6例(5.6%)はTEVARを施行した.併施手術は,CABG21例,AVR5例,TAP1例.解離症例など二期的手術の可能性がある症例では elephant trunk法(16例:14.8%)を用いた.【結果】手術死亡は認めず,病院死亡は 8例(7.4

%:内 open stent 3例)(感染性 DAA破裂 1例,肺出血 1例,肺炎 1例,消化管出血 2例,縦隔炎 1例,腹部大動脈瘤破裂 1例,脳出血 1例)に認めた.術後合併症では,脳梗塞を 2例(1.9%),CHDFを必要とした腎不全を 8例(7.4%)に認め,72時間以上の長期挿管を要した症例は 25例(23.1

%)であった.単変量解析において,腎不全と長期挿管に関する危険因子は破裂と高齢であった.97例(89.8%)が独歩退院または転院した.遠隔死亡は胸腹部大動脈瘤破裂 8

例(部分弓部置換術 3例,TEVAR1例,open stent2例),脳出血 3例,肺悪性腫瘍 2例,肺炎 8例,心不全 2例であった.術後平均 follow up期間は 77±30ヶ月であり,5年生存率は 71%であった.TARが open stentに比較し有意に予後が良好であった.また,遠隔期に下行大動脈の拡大に対し 1例に TEVARを施行し,4例において下行置換術を施行した.【結語】DAAに対して,SCPを用いた全弓部置換術を行い良好な手術成績を得た.Open stent法は,distal

吻合の困難な症例に行われるため,瘤が下行大動脈に残存している場合も多く,厳密な follow upと end leakがある場合には早急な対応が必要であると考えられた.通常の全弓部置換術は,高齢になると長期挿管が必要となる場合もあるが,積極的リハビリにより,高率に独歩退院ができ,予後良好な golden standardな術式と考えられる.

O02-2遠隔成績からみた遠位弓部大動脈瘤に対する治療ストラテジー ─ Gold Standardは全弓部置換術─

秋田大学 心臓血管外科

石橋 和幸,山本 文雄,山浦 玄武,佐藤  央 ○本川真美加,白戸 圭介,張  春鵬,山本 浩史

【目的】近年 StanfordA型急性大動脈解離に対する手術成績は向上しているものの,malperfusionを合併した場合,未だ治療に苦慮する.腹部以下の虚血を伴う場合,通常,急性であれば central repairにより虚血は改善することが多い.しかし,改善しない場合致命的な腸管壊死を起こす一方,開腹手術を加えることは侵襲が過大との意見もある.当院での治療経験よりその治療方針を検討,報告する.【対象】2000年 9月から 2012年 10月までに手術を行ったStanfordA型急性大動脈解離 60例の内,術前に下半身虚血を呈した症例は 6例.そのうち,Central repair後虚血が改善せず追加治療を要した 4例を報告する.症例 1:71才女性,左下肢虚血.上行置換後も虚血が改善せず右大腿動脈圧も低いため胸部人工血管から両側大腿動脈にバイパスしたが腸管により死亡.症例 2,3:腹部大動脈で真空が完全に圧排.弓部置換術後も両大腿動脈の虚血が改善せず,開腹し開窓術を行った.症例 3では開窓術でも大腿動脈の血流が改善せず,腹部大動脈人工血管置換+両大腿動脈バイパスを追加.2例とも合併症無く救命.症例 4:右下肢虚血.弓部置換術後,右大腿動脈の虚血が改善せず大腿ー大腿動脈バイパスを追加.虚血は改善したが不整脈による脳障害により死亡.【結論】両側大腿動脈で虚血が残存する場合は,腹腔動脈,上腸間膜動脈虚血も存在する可能性がある.腸管壊死を発症すると致死的であるため,術前 CT

と術中所見を総合的に判断し,下肢へのバイパスのみで終わることなく,躊躇無く開腹し腸管虚血の有無を確認,虚血解除を行う必要がある.

O06-2Central repair後,虚血が改善しなかった下半身虚血合併 A型解離 4症例の検討

王子総合病院 心臓血管外科

牧野  裕,村上 達哉,杉木 孝司,杉本  聡○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 311

235

【はじめに】真性弓部大動脈瘤に対する全弓部置換術は術式も確立し手術成績も良好であるが,末梢側剥離に伴う出血・吻合の問題,また反回神経麻痺などの問題点も少なくない.こうした問題点を低減するために当科では全弓部置換術にオープンステントグラフト内挿術を加えた術式を採用している.【対象】2011年 9月から 2012年 10月までに真性弓部大動脈瘤に対し全弓部置換+オープンステントグラフト内挿術を施行した症例(n=5)を対象とし,2008年 9月以降に施行した conventional全弓部置換術症例(n=10)と術中および周術期因子につき比較検討した.【手術法】con-ventional全弓部置換術(TAR);上行送血・上下大静脈脱血で体外循環を確立,低体温循環停止,選択的脳分離,末梢側離断・1分枝付人工血管吻合,分枝より順行性送血再開,頚部分枝再建,復温開始,中枢側吻合.TAR+オープンステントグラフト内挿術(OSG);術前 CTをもとに Z-stent(Cook)およびグラフト(J-graft)サイズを決定し,手術開始前にステントグラフトを作成.末梢側離断は,腕頭または左総頚動脈起始部末梢で離断し,離断部は閉鎖.麻酔科による経食道心エコーガイド下に自作ステントグラフトを下行大動脈へ挿入しバルーン圧着.グラフトを native大動脈離断部でトリミングし断端形成後,1分枝付人工血管吻合.以降は通常の TARと同様.【結果】年齢は TAR群 71.7±8.9歳,TAR+OSG群 69.8±9.4歳(ns).手術時間は TAR群417.0±37.5分,TAR+OSG群 338.4±28.0分(p=0.0012).体外循環時間は TAR群 261.7±25.2分,TAR+OSG群 222.0±20.0分(p=0.0092).循環停止時間は TAR群 62.1±12.0分,TAR+OSG群 54.8±11.1分(ns).脳分離時間は TAR群 138.3±18.2 分,TAR+OSG 群 100.8±26.5 分(p=0.0064).出血量は TAR群 876.5±286.0ml,TAR+OSG群 409.0±129.0ml(p=0.0044).挿管時間は TAR群 20.4±11.0時間,TAR+

OSG群 10.8±5.4時間(ns).ICU滞在日数は TAR群 2.1±0.7日,TAR+OSG群 1.2±0.4日(p=0.0275).術後合併症は,TAR群で一過性脳梗塞を 2例,左反回神経麻痺を 1例に認め,TAR+OSG群でステント末梢側エンドリークおよびグラフト屈曲を 1例に認めた.【結語】真性弓部大動脈瘤に対する全弓部置換+オープンステントグラフト内挿術は,末梢側剥離および吻合の問題を回避でき,体外循環を含めた手術時間が短縮され手術侵襲の低減につながる術式であると考えられた.一方,ステント末梢のエンドリークやグラフト屈曲などの問題点もあることから,今後症例を重ね,術式の確立と解剖学的適応を含めた慎重な検討が必要である.

O02-3当科における真性弓部大動脈瘤に対する全弓部置換+オープンステントの初期成績

岐阜大学 高度先進外科

松野 幸博,島袋 勝也,石田成吏洋,竹村 博文 ○小椋 弘樹,東  敏弥

【目的】当科では 2010年 1月より企業製ステントグラフトの導入し,12年 8月まで 165例の胸部大動脈関連手術を施行,うち弓部分枝再建もしくは Zone2以上の中枢側にランデングした非急性大動脈解離症例は 71例であった.治療方針は Open surgery(以下 OS)を原則に,中枢側が Zone1.2

で可能で術者が高リスクと判断,もしくは本人が TEVAR

のみに同意した例で TEVARを選択した.弓部から下行の広範症例は弓部置換に左開胸での下行置換,open stentまたは 2期的に ET+TEVARを施行した.【対象と方法】上記期間に施行した弓部大動脈瘤 71例.OS 54例(76.1%),TEVAR 17例(23.9%).それぞれ平均年齢は 72.8±6.6歳,76.4±4.8歳(p< 0.05),女性比は 29.8%,28.4%(NS),慢性解離は 10例(18.5%),0例.瘤破裂は 2例(3.7%),1例(5.9%).術前 risk factorでは,脂質異常,中枢神経障害既往,重度呼吸障害,他血管手術既往で TEVARが有意に多かった.Japan scoreも 5.5,13.1と有意差を認めた.TEVAR

選択の理由は陳旧性脳梗塞,心大血管手術既往,担癌,切迫破裂,長期ステロイド服用などの術者選択が 15例であった.OSは原則,順行性脳分離体外循環,25-28度の体循環停止による弓部置換で,CABG2例,AVR5例,ベントール 2例,頸動脈内膜血栓摘除 1例等施行した.下行大動脈進展例に対し,L字切開での下行置換追加 2例,術中Open stent 2例.計画的な 2期的TEVARを 4例に施行した.TEVARは Zone1が 3例でうち右腋窩 -左総頚 -鎖骨下動脈バイパス 2例,左総頚 -鎖骨下動脈バイパス+チムニーステント 1例,Zone2が 14例で左総頚 -鎖骨下動脈バイパス 12例.SGは TAG 9例,Talent 3例,TX2を 5例使用した.【成績】OS,SGそれぞれ手術死 2例(3.7%)(破裂,感染),2例(11.8%)(AMI,腸管虚血)で,他に病院死 1例(対麻痺後,肺炎)を認めた.遠隔死 1例(外傷性脳出血),1

例(急性大動脈解離)で心大血管再手術はなかった.脳梗塞は 3例(恒久的 2例)(5.5%),0例,脊髄障害は 1例(5.9%)(open stent),1例(6.6%)に認めた.【結論】OSは死亡例,脳梗塞合併例も認めるが妥当な成績であるが,高リスクのTEVARに死亡例が散見され適応のさらなる拡大には注意を要する.

O02-2Open surgeryを基本とした弓部大動脈瘤の治療成績

旭川医科大学 外科学講座 循環呼吸腫瘍病態外科学分野 心臓外科 1

旭川医科大学外科学講座 循環呼吸腫瘍病態外科分野 血管外科 2

旭川医科大学 副学長 3

赤坂 伸之○ 1,内田  恒 2,角浜 孝行 1,光部啓治郎 1

内田 大貴 2,古屋 敦宏 2,東  信良 2,笹嶋 唯博 3

312 日血外会誌 22巻 2号

236

2012年 11月現在,192例の胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を経験した.うち 87例が Z0~Z2への弓部大動脈瘤例であった.TEVAR症例では,術後瘤関連死亡はなく良好な成績である.また,2009年 4月より導入した.2debranching TEVARは,現在まで 21例となった.大動脈瘤 Pt.の高齢化は著しく,debranching TEVARの出現は,術後の生存だけではなく,QOLの維持にかなり貢献している.一方,開胸による完全弓部置換手術(TAR)も,術式として確立され,成績も向上している.さらに,OPEN

STENTを併用する(OS-TAR)ことでより安全,確実に行う事ができるようになってきた.debranching TEVARを踏まえた弓部,遠位弓部大動脈瘤に対する手術戦略は以下の通りである.遠位弓部大動脈瘤で Z2,Z3でのランディングが可能な場合は,若年であっても TEVARを選択する.Z1,Z0

での対応が必要な症例は,70歳以下の耐術可能な症例,70

歳以上でも,TEVARの適応サイズを超えた弓部大動脈瘤については,TAR,OS-TARで対応する.70歳以上で TEVAR

で対応可能な大動脈径であれば TEVARの適応とする.腕頭動脈から 2cmのランディングゾーンが確保可能であれば2 debranching TEVARを行う.Z0からのランディングが必要であれば,胸骨正中切開もしくは右小開胸アプローチ でtotal debranching TEVARを選択する.2 debranching TEVAR

を施行した 12例では,脳障害の発症はなく,概ね早期に離床可能であった.Total debranching を施行した 7例中,2

例で脳障害を発症した.超高齢者の 3例のうち,1例が脳梗塞となったが,87歳,84歳の 2例は順調に経過した.Total debranching TEVARは,平均手術時間 312分であり,時間もかかり,開胸も行うため,さほど低侵襲ではない印象である.確実に良い症例もあるので,術式,グラフトの選択等さらなる検討が必要である.TAR,OS-TARでは,将来の遠位側大動脈病変への TEVAR際に十分なランディングゾーンを確保する目的で,頭部分枝は可及的に中枢側に置くようにしている.2 debranching TEVARでは,逆 T bypass

の左総頸動脈へのバイパスは灌流下に行い,吻合順は,左鎖骨下動脈,左総頸動脈,右鎖骨下動脈の順に行う事でスチールによる右脳の灌流低下をきたすことなく再建可能である.【まとめ】今後の弓部,遠位弓部手術は,TAR,TEVAR

双方の技術を持ち,症例ごとに偏らない判断で術式を決定する必要がある.

O02-5弓部・遠位弓部大動脈瘤に対する治療戦略

磐城共立病院 心臓血管外科 1

獨協医科大学 越谷病院 心臓血管外科・呼吸器外科 2

福島県立医科大学 心臓血管外科 3

近藤 俊一○ 1,高野 智弘 1,中村  健 1,六角  丘 2

横山  斉 3

【目的】弓部大動脈瘤の治療として,人工血管置換術(Open)に加え,頚部分枝再建(debranching)を併施したステントグラフト内挿術(TEVAR)がおこなわれている.しかし両術式の適応に関しては未だ明らかにされていない.今回我々は待機的症例の Openと TEVARにおける周術期および遠隔期成績について検討したので報告する.【対象および方法】2001年 4月~2012年 10月における頚部分枝再建を伴う待機的弓部大動脈瘤手術 143例を対象とした.平均年齢68.8±12.3歳,男性 111例,女性 32例であった.Openは52例であり,全例に選択的脳灌流を用いた全弓部置換術を施行した.大動脈基部置換 14例,冠動脈バイパス 7例を併施した.TEVARは 91例であり,total debranching 6例,Chimney technique 6例,2分枝再建 36例,1分枝再建 43

例を併施した.デバイスとしては 47例にMKステントグラフトを,44例に GORE TAGを使用した.【結果】OpenとTEVARの比較では,術前因子として年齢,性別,Zone分類,術前 EF,弁膜症,糖尿病,閉塞性肺疾患にて有意差を認めた.手術時間に有意差はなく,出血量に有意差を認めた.病院死亡は Openでは認められず,TEVARにて 6

例(大動脈損傷 3例,輸血関連 1例,塞栓症 2例)を認めた.周術期合併症は Openにて 6例(脳梗塞 4例,乳糜胸 1例,消化管出血 1例),TEVARにて 5例(脳梗塞 3例,排尿障害 1例,アクセス路損傷 1例)を認めた.遠隔期に Open

にて動脈瘤 2例,TEVARにて大動脈解離 2例,Endoleak

6例を認めた.7年生存率は全体で 80.3%であり Open 95.1

%,TEVAR 71.0%であった.【考察および結語】当科における弓部大動脈瘤に対する待機的外科手術の周術期・遠隔期成績は非常に良好であった.debranching併施の TEVAR

は Openに比し,高齢かつ併存症の多い高リスクの症例に施行されており,これを踏まえると周術期・遠隔期成績は良好であると考えられた.TEVARは,これまで Openの適応が困難とされた高リスク症例に対しても適応を可能としており,弓部大動脈瘤の外科治療において必要不可欠な手技と考えられ,今後もそれぞれの利点・欠点を踏まえ適応を決定することで,弓部大動脈瘤に対する治療成績の向上が得られると思われた.

O02-4弓部大動脈瘤に対する手術治療戦略 ─ Open Surgery vs TEVAR ─

金沢大学 心肺・総合外科 1

金沢大学 放射線科 2

木内 竜太○ 1,大竹 裕志 1,瀬口 龍太 1,新谷 佳子 1

西田 佑児 1,山口聖次郎 1,富田 重之 1,渡邊  剛 1

眞田順一郎 2,松井  修 2

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 313

232

【背景】高齢化社会に伴い,弓部大動脈治療においても多くの併存疾患を有するハイリスク患者が増加している.従来の脳分離体外循環を用いた人工血管置換術は,侵襲度が高く,さらに合併症の発生率が高くなることが予測される.我々は,高齢者の大動脈治療を,術後 QOLを重視し,75歳以上やハイリスク症例に対しては可能な限り Endovascular

surgeryを選択しているが,弓部大動脈瘤においては現行のデバイスのみでの治療は困難である.【方法】弓部大動脈瘤に対しては,1)Hemashield Trifurcated Graftを用いて,上行大動脈̶腕頭動脈,腕頭動脈,左総頚動脈バイパス術,2)Hemashield Trifurcated Graft中枢端から順行性にステントグラフトを内挿する.3)上行大動脈(Zone0)の血管径が拡張している中枢ランディングに適さない場合は,2cm以上のテフロンフェルトにて Aortic bandingを行い,適切な Zone0

を作成する方針で行っている.また,Hemashield Trifurcat-

ed Graft末梢と腕頭動脈,左総頸動脈吻合の際には脳虚血を懸念し,鎖骨下動脈用の脚と両側頸部にて露出した内頚動脈に挿入した 8-10Fr送血カニューレを接続し Temporary

shuntを作成して吻合し,左鎖骨下動脈吻合は単純遮断で行う方針である.胸骨正中切開にて左鎖骨下動脈アプローチが困難な場合は,再建が必要な場合は,腋窩動脈を末梢吻合とし Type2Endoleakがある場合はコイル塞栓術を行う.症例は 78歳,女性,1年前に腹部大動脈瘤を指摘され精査施行中,遠位弓部大動脈瘤を指摘された.腹部大動脈瘤人工血管置換術施行後,外来経過観察中に急速拡大を認め,手術適応となった.全身麻酔下に胸骨正中切開,Hemashield Trifurcated Graft12x8x8mmで上行大動脈̶弓部3分枝バイパス術施行,上行大動脈が 41mmに拡張していたため,人工血管中枢吻合から腕頭動脈起始部中枢に幅20mm,長さ 105mmの Teflon Feltで Aortic bandingを行い,血管径 30mmの中枢ランディングゾーンを作成した.Tri-

furcated Graftの中枢端から,24Frシース挿入,TAG3420,4015を内挿した.造影にて Endoleakはなく手技を終了した.術後 時間覚醒し,時間で人工呼吸器離脱,翌日一般病棟転棟,食事歩行開始,1週間後に独歩退院となった.【結語】大動脈瘤に対する Hybrid endovascular surgeryは,術後 QOLを下げることなく有効な治療と思われる.

O02-2Aortic banding,total debranchingを併用した Hybrid TEVAR

東邦大学医学部外科学講座 心臓血管外科学分野

藤井 毅郎,益原 大志,原  真範,片柳 智之 ○佐々木雄毅,大熊新之介,塩野 則次,渡邉 善則

遠位弓部大動脈瘤は,到達法,術式,補助循環,脳・肺合併症などいくつかの問題点を含んでいる.当科では,オープンステントグラフト法を採用した時期を経て,最近は企業製ステントグラフトによる debranch併用 TEVARの適応が拡大しつつある.【対象・方法】これまでに当科で施行した胸部大動脈瘤手術 222例中,遠位弓部大動脈瘤に対する手術 39例(急性大動脈解離,破裂例を除く)を,F-F部分体外循環下・左開胸・人工血管置換(S群)10例,分枝再建+オープンステントグラフト(OSG群)15例,debranch併用 TEVAR群(SG群)14例(TAG10例,TX2 4例)の 3群に分けて retrospectiveに成績を検討した.【結果】1)年齢(歳):S群 64.1±1.3,OSG群 73.8±4.9,SG群 76.0±8.6 2)瘤径(mm):S 群 60.0±6.2,OSG 群 53.7±13.1,SG 群 55.3±

10.8 3)手術時間(分):S群 386±126,OSG群 479±68,SG群 211±62 4)出血量(cc): S群 2565±1697,OSG群2269±1127,SG群 526±320 5)入院期間(日):S群 58.6

±43.9,OSG群 44.5±22.2,SG群 17.5±6.0 6)呼吸館理時間(hr.):S 群 32.6±25.0,OSG 群 146±238,SG 群 0 7)在院死亡:S群 2/10(20.0%),OSG群 2/15(13.4%),SG群0/14(0.0%)8)術後合併症:は,S群は脳梗塞 1,反回神経麻痺 1,感染 1,OSG群は脳梗塞 1,腎不全 1,呼吸不全 2,SG群は術中のアクセストラブルを 2例認めたが術中に修復した.術後エンドリークを 2例に認めたが,1例は鎖骨下動脈中枢側のコイル塞栓を施行し,他の 1例は外来経過観察中に消失した.8)Aortic vent free rateは 1年:S群 100

%,OSG群 80%,SG群 100%,3年:S群 90%,OSG群73%,SG群 66.7%であった.【考察・まとめ】遠位弓部大動脈瘤に対する TEVARの成績は,手術時間,出血量,入院期間,呼吸管理時間において,通常手術およびオープンステントグラフトの群にくらべ有意に良好で(p< 0.01),重篤な合併症を認めなかった.短期・中期の治療成績から有用な方法と考えられるが長期成績の検討が必要である.

O02-6遠位弓部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術の成績

名寄市立総合病院 心臓血管外科

和泉 裕一,眞岸 克明,清水 紀之○

314 日血外会誌 22巻 2号

232

我々は 2002年以降,終始一貫して同じ方法で 200例以上の A型急性大動脈解離手術を行なってきた.我々の断端形成及び基部再建術のこだわりについて列記する.1)4-0PTFEを用いて中枢側も末梢側も外叛させて 2重吻合を行なう.急性大動脈解離は血管壁が脆弱であるので帯フェルトを補強に使用するが外叛 2重吻合にしてから止血で難渋したことは皆無である.2)偽腔閉鎖に Bio glue(以前はGRF glueを使用していたが,A液,B液の mixingを工夫することで組織壊死による再手術はなかった.)を使用する.鉗子でしっかりと 2分間圧着し乾燥させる.この方法の利点は偽腔閉鎖だけではなく,血管壁の強度がよくなる点で吻合しやすくなる.3)中枢側吻合にあたっては,大動脈弁の吊り上げを必ず行い,STJまで解離が波及してなくても,STJに人工血管を吻合する.バルサルバ洞内まで解離が波及している場合,内膜に支障がなければ,Bio glue

で壁を圧着させる.内膜が破綻している場合でも,無冠尖側のみなら,舌状に trimingした人工血管で内膜側を補強して,STJに人工血管を吻合する.左右冠尖側の内膜破綻や大動脈弁輪拡大症を合併しているときのみ,Bentall手術か valve sparing手術を行なう.この方針でほとんどの場合,大動脈基部は温存できる.この方法での中枢側吻合の遠隔成績については,Durability of aortic valve preservation

with root reconstruction foracute type A aortic dissection. Euro-

pean Journal of Cardio-Thoracic Surgery 41(2012)e32 - e36

について成績を発表しているが,遠隔期に大動脈弁逆流の増悪や吻合部瘤による中枢側の再手術はない.4)針穴からの出血防止には,吻合した後に Fibrin のりによる Rub &

Spray法が有効である.こつは吻合部に Fiblinを刷り込んだ後,乾燥した無血視野を 3分間維持する方法である.最近は余った Bioglueを吻合部にも塗布しており同様の効果を得ている.以上の特徴をビデオにて供覧する.

O02-2急性 A型大動脈解離における中枢側吻合

天理よろづ相談所病院 心臓血管外科

山中 一朗,仁科  健,金光 尚樹,廣瀬 圭一 ○水野 明宏,中塚 大介,五十嵐 仁,堀  裕貴

安水 大介,上田 裕一

【はじめに】急性大動脈解離における手術では,大動脈壁の脆弱性,凝固系の崩壊により,人工血管吻合部の止血に難渋することがある.当院では 2011年 12月より BioGlueを導入し,解離腔閉鎖と吻合部止血に使用している.本研究ではそれ以前に使用していた fibrin glueと比較し,止血に関する有効性を retrospectiveに検討した.【方法】2010年 1

月から 2012年 11月の間に,急性大動脈解離で緊急手術を施行した 25例のうち,大動脈基部置換 2例,弓部大動脈置換 1例を除く,上行大動脈置換 22例を対象とした.全例に超低体温循環停止と逆行性脳灌流を使用した.吻合方法は末梢,中枢側とも人工血管を外翻内挿する Turn-up法を採用し,大動脈弁交連吊り上げを併用した.人工血管はfibrin glueを使用した 1例で Gelweaveを用いた以外は,全例 Triplexを使用した.吻合部止血のために fibrin glueを使用した FG群(n=11)と BioGlueを使用した BG群(n=11)の2群に分け,その術中成績を比較検討した.【結果】FG群,BG群それぞれにおいて,年齢 63.2±12.1 vs 63.9±12.0(p=

0.889),手術時間 433.3±112.0 vs 328.±68.9min(p=0.016),人工心肺時間 191.2±38.2 vs 177.2±40.3min(p=0.414)循環停止時間 36.5±4.7 vs 30.9±5.2min(p=0.016).術中使用した成分輸血 RCC11.27±5.9 vs 6.182±4.7U(p=0.037),FFP

16.0±7.3 vs 11.2±6.9U(p=0.134),PC28.2±11.7 vs 17.7±11.7U(p=0.049),術中出血量 1586.3±1190.3 vs 1094±961.6ml

(p=0.309)であった.【考察】人工心肺時間に有意差を認めなかったが,手術時間が BG群で有意に短縮されたことから,吻合後の止血に要する時間が BG群では短縮されたと考えられた.それに伴い,術中出血量の減少傾向を認め,使用した輸血量が減少した.【結語】人工血管吻合部の止血に BioGlueを使用することで,良好な止血を得ることができ,手術時間,輸血量を軽減できることが示唆された.

O02-2BioGlueを使用した急性大動脈解離手術における吻合部止血に関する検討

名古屋掖済会病院 心臓血管外科

伊藤 英樹,平手 裕市,芦田 真一,内田  亘 ○臼井 真人

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 315

232

【背景】急性大動脈解離の手術においては,大動脈の断端形成が,手術時の出血予防,吻合部仮性瘤形成の予防等に重要となる我々は,以前は GRFグル̶を用いた断端形成を行っていたが,ホルマリン使用による組織壊死からの仮性瘤形成の報告があることより 2011年 9月よりフィブリングル̶を用いた断端形成に変更を行った.同方法及び早期成績につき報告する【対象】2001年以降に当科で手術を行った A型急性大動脈解離は 277例であるが,このうち2011年 9月以降の連続 32例を対象とした.平均年齢 68±13,男女比 13:19,術前ショック 8例,臓器還流障害 9例(冠動脈 2例 脳 3例 上肢 2例 脊髄 1例,腸管 1例,下肢 2例 重複あり)であった.大動脈中枢の断端形成は,各バルサルバあたり解離腔内にフィブリノゲン溶解液 0.1ml

を塗布した後にトロンビン溶解液を 0.1ml注入し,バルサルバ洞内より指で一分間圧着を行う.この後に外膜翻転法を追加し,外周フェルト補強下に連続縫合で人工血と吻合した.末梢の置換範囲は entry切除を基本とし,大動脈弓部全置換を行う場合は,折り返した人工血管を下行大動脈に挿入し,外周フェルト補強の上連続縫合を行うことで吻合と断端形成を兼ねた.Hemiarch(上行置換)の症例では外膜翻転法もしくは内外フェルトで断端形成を行った.脳保護としては選択的順行性脳灌流 19例,逆行性脳灌流 13例であった.行った術式は Hemiarchが 21例,全弓部置換が9例であった,AAEを合併した症例に対して 1例に reim-

plantation,2例に Bentall 手術を施行した.【結果】 在院死亡は認めず,合併症としては術前より右室梗塞をともなった症例で 2期的胸骨閉鎖を要し,48時間以上の長期人工呼吸管理を 5例に認め,術前より麻痺を認めた 2例で術後も不全麻痺を認めが,新たな脳梗塞の所見は認めなかった.基部からの出血を認めた症例はなく早期の成績は良好であった【まとめ】中枢側の解離腔をフィブリングル̶で接着し外膜翻転法を追加する方法は,簡便で止血効果も高く有効な方法と考えられた.今後は遠隔期の基部合併症の発生に関しては,今後のフォローする必要である

O02-4急性大動脈解離に対する,フィブリン糊による解離腔閉鎖と外膜翻転法による断端形成術の早期成績

兵庫県立姫路循環器病センター 心臓血管外科

中桐啓太郎,松島 峻介,邉見宗一郎,青木 正哉 ○西岡 成友,森本 直人,村上 博久,本多  祐

吉田 正人,向原 伸彦

急性大動脈解離手術における断端形成は,内外側をフェルトストリップではさんで補強する方法が一般的であるが,大動脈径の比較的細い症例では血管径が細くなり,溶血をきたしてしまう場合がある.当院でもこのような症例を経験した経験から,供覧する術式に変更した.すなわち,断端形成の際に外膜を 1から 1.5cm長く残し,解離腔をバイオグルーで閉鎖したのち,プレッジェット付き 2-0エチボンド糸の水平マットレス縫合で外膜を内側に折りたたむようにしながら糸をかけていく.この糸は自己血管の外膜側より刺入し,人工血管は内外で縫合結紮する.こうすることにより人工血管が外反するので,ここを 3-0ものフィラメント糸の連続縫合で補強する.この術式に変更後のトラブルはなく,良好な経過を得られているので,供覧する.

O02-3急性大動脈解離手術における外膜内反による断端の補強

相模原協同病院 心臓血管外科

藤崎 浩行,岡元  崇○

316 日血外会誌 22巻 2号

240

【背景】GRF糊は 1977年にフランスの Bachetらが初めて臨床使用し,本邦では 1995年に承認された.近年,硬化剤(ホルムアルデヒド -グルタルアルデヒド混合液)の過量投与による組織壊死に伴う仮性瘤の問題が提起されているが,GRF糊は接着力が強く抗原性の少ない解離腔の閉鎖に適した接着剤であり,使用法によってはこういった問題を回避できると考えている.【目的】我々が行っている急性 A

型解離に対する GRF糊を用いた Collins変法手術の方法を供覧し,その遠隔成績を検討する.【対象】2007年 4月から 2012年 10月までに急性 A型解離に対し GRF糊を使用した Collins変法手術を 65例に行った.年齢は 39~85(平均 63)歳で男性が 33例.うち,在院死亡 4例(6.1%)を除く 61例で経過観察した.【手術方法】基部形成術では,まず 解離腔内の血栓を可及的に除去した上で,偽腔閉鎖時に外膜の外側への緊張がかからないように外膜と接している心外膜を十分に剥離する.3交連を吊り上げた後,大動脈壁を ST‐ junctionから 10~15mmの高さで均等に切除する.次に,真腔内および偽腔内の血液や水分を除去し,左右冠動脈に 3 ~ 5 号ネラトンを挿入し,半切ガーゼを基部真腔内に留置して GRF糊の漏入を予防した.偽腔内腔の形状に合わせてフェルト片を切り抜き,適温(43 ~ 45℃)に管理した GRF糊をフェルト片の両面に均等に塗布し,硬化剤を面積に合わせて少量(3~5滴)ずつ両面に滴下し攪拌し偽腔内に挿入する.滅菌プラスチック製クリップで基部大動脈壁内外側を圧着し,クリップ間の隙間も直型ブルドック鉗子で挟み,3分間待機した.偽腔閉鎖が不完全の個所があれば,さらに GRF糊及び硬化剤を注入して固定した.中枢側吻合は外側フェルト補強 4-0 モノフィラメント糸連続縫合にて行った.【成績】術式は上行置換術が50例,全弓部置換術が 15例で手術時間は 205~730(平均404)分.体外循環時間は 133~396(平均 204)分.在院死亡4例を除く 61例では現在に至るまで基部仮性瘤発生例を認めていない.1例において術後 6カ月で,無冠尖部分の再解離を認め現在経過観察中である.偽腔の接着閉鎖不良が原因と考えられる.【結論】今後も経過観察が必要と考えるが,GRF糊は適正に使用することで遠隔期仮性瘤の発生を防止できると思われた.

O02-6急性 A型解離に対する GRF糊を用いた Collins変法手術の遠隔成績

東海大学 心臓血管外科

志村信一郎,長  泰則,秋   顕,古屋 秀和 ○小田桐重人,岡田 公章,田中 千陽,上田 敏彦

【背景】近年,Stanford A型急性大動脈解離(AAD)に対する急性期外科治療の成績は著しく向上してきている.当院の方針は救命を第一目的とし,標準術式として超低体温循環停止+逆行性脳灌流法を用いて Entry切除+上行 /部分弓部大動脈置換を目指してきた.断端形成法は,surgical glue

を解離腔へ注入後,内・外フェルトによる大動脈壁固定を行ってきた.当院における過去 20年間の手術成績は,AAD

手術症例 234例の内,30日以内手術死亡は 20例(8.5 %)で,Kaplan Meier法による生存率は 3年 81%,5年 78%,10年69%であった.一方で,術後遠隔期に再手術を余儀なくされる症例が散見されるようになり,大動脈解離に関連した再手術症例は 37例(16%)にのぼり,再手術回避率は 3年92%,5年 81%,10年 68%であった.再手術理由は再解離 2例,大動脈弁逆流の進行 7例,大動脈径拡大;基部 3例,弓部 24例,下行 6例,腹部 3例であった.術式として,弓部全置換術(TAR)が 12例と最多で,手術時の所見では,遠位側吻合部の内膜破綻による弓部の遺残解離腔拡大や瘤化を認めた.そこで,当院の急性期手術成績が確立された事を前提として,再手術の経験をもとに,2012年より遠隔期 mobilityの予防を考慮して,術式や断端形成の変更や工夫を行った.【方法】偽腔開存型に対して,entry切除+TARを積極的に行う方針とし,遠位側断端は short graft内挿+外フェルトによる形成(mini elephant trunk法)を施行.血栓閉塞型に対しては,entry切除 +上行 /部分弓部置換のままとし,遠位側断端は外膜内翻+外フェルトによる形成へ変更した.近位側断端形成は,大動脈遮断解除後の基部再解離による心筋梗塞発生の経験もあり,いずれの場合も外膜内翻+外フェルトを行っている.外膜内翻の利点として,偽腔内への順行性血流の完全遮断,吻合部位内膜の保護,吻合部止血効果増強が挙げられる.また,内フェルトによる大動脈狭窄を数例に認めており,外膜内翻が不可能な場合の断端形成の工夫として,内フェルトの代わりに帯状人工血管を使用している.【結果】術式変更後の症例数はまだ少ないものの,確実な偽腔血栓化を認め,TAR後の遠位吻合部以遠の偽腔拡大症例に対して TEVARによる追加治療が可能であった.【まとめ】AAD再手術の経験より,断端形成法を外膜内翻へ変更した.また,積極的な TAR

により,TEVARの追加治療が容易となった.今後,遠隔期成績の追跡が必要と考えられる.

O02-5Stanford A型急性大動脈解離における断端形成

岸和田徳洲会病院 心臓血管外科

松林 景二,東上 震一,頓田  央,川平 敏博 ○東  修平,薦岡 成年,平松 範彦,降矢 温一

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 317

242

今回われわれは,ヨード系造影剤アレルギーあるいは高度腎機能障害を合併した腹部大動脈瘤に対して,血管内超音波検査(IVUS)と炭酸ガス(CO2)造影の併用による EVAR

を施行した2症例について報告する.【症例】症例1は66歳,男性.最大瘤径 55mmの腎動脈下腹部大動脈瘤であった.肝硬変および肝細胞癌の既往,複数の開腹歴のため EVAR

が望ましいと判断したが,ヨード系造影剤によるショックの既往を有していた.症例 2は 68歳,男性.最大瘤径 60

mmの腎動脈下腹部大動脈瘤であった.BMI 30の高度肥満のため EVARが望ましいと判断したが,透析導入から 1年経過しているものの,十分な自尿があり,残存腎機能を温存すべき状況であった.【方法】両症例とも術前は単純 CT

でプランニングを行い,デバイスの最終決定は術中に行った.landing zoneの腹部大動脈,腸骨動脈の血管内径は IVUS

を用い,長径の計測は IVUSと CO2造影で計測した.症例 1では Excluderを腎動脈下腹部大動脈から両側総腸骨動脈に留置し,完成造影は CO2を用い,エンドリークの有無は体表エコーで評価した.症例 2では Zenith Flexを腎動脈下腹部大動脈から右外腸骨動脈,左総腸骨動脈に留置し,完成造影のみヨード系造影剤を 20ml使用し,エンドリークを評価した.術後の follow upは単純 CTと体表エコーで行い,症例 2では自尿消失以降は造影 CTに変更した.【結果】両症例ともデバイス選択は術前のプランニングと同様であり,術中はエンドリークなく終了した.症例1は術後 7日目,症例 2は術後 11日目に軽快退院した.症例 1は術後 6ヵ月,症例 2は術後 3ヵ月より type IIエンドリークを認めた.いずれも術後 9ヵ月経過しているが,瘤径の拡大は認めていない.【結語】瘤切除・人工血管置換術を回避したい症例において,ヨード系造影剤アレルギーや高度腎機能障害を合併していても,EVARは選択肢となる可能性が示唆された.

O02-2造影剤アレルギー,腎機能障害を有する腹部大動脈瘤に対して IVUSと CO2造影併用で EVAR施行した 2例

山口大学 器官病態外科学 血管外科

河村 大智,永瀬  隆,佐村  誠,山下  修 ○村上 雅憲,末廣晃太郎,森景 則保,濱野 公一

【背景】Endovascular aortic aneurysm repair(EVAR)は腹部大動脈瘤,腸骨動脈瘤に対する標準的術式として確立されてきている.しかし,血管の解剖学的理由から企業製開窓付き Zenithを含めた市販デバイスでは治療困難な症例が少なからず存在する.今回われわれは,自作開窓を施したZenithを用いて腎動脈の温存を行った 4症例を経験したので報告する.【方法】片側腎動脈低位分岐の 1症例,片側の腎下極へ流入する副腎動脈(accessory renal artery)の低位分岐を認める 2症例,及び中枢ネックの短い傍腎動脈腹部大動脈瘤の 1症例について,自作開窓を施した Zenithを用いた治療を行った.自作開窓の作製については,術前のCTから開窓部位を決定しておき,Zenithのデバイスをシースから手前に引き出し,グラフトに電池焼灼器で開窓を施した.開窓部の円周にはマーカーとしてスネアカテーテルの先端部を縫着した.最初の 1例はそのままシースに再収納したが,他の 3症例では元のトリガーワイヤーをグラフトに通し,diameter reducing tieを用いて固定することで,企業製開窓付き Zenithと同様にデバイスを半展開の状態で保持し,開窓部を正確に留置するために位置調整を行えるようにした.最初の 1例については腎動脈周囲の大動脈拡張は認められなかったため,大きな開窓を作製して腎動脈を温存した.残りの 3例では遠隔期のグラフト移動による腎動脈閉塞を予防するために,開窓部から腎動脈にベアステントを留置した.【成績】腎動脈の温存には全例で成功した.早期の合併症としては術直後に type I endoleakの残存が 1例,type II endoleakが 1例に認められた.Type I en-

doleakの症例については 1ヶ月後の CTで endoleakの消失を確認している.2012年 10月の時点で平均観察期間は 5

±4ヶ月(2-12ヶ月)である.【結論】自作開窓付きデバイスを用いた EVARの初期成績としては良好な結果が得られた.開窓作製や留置の精度を上げることで,治療適応の拡大も期待できる.

O02-2自作開窓を施したステントグラフトによる腎動脈温存の経験

三重大学医学部附属病院 放射線診断科 1

三重大学医学部附属病院 心臓血管外科 2

高知医療センター 心臓血管外科 3

井内 幹人○ 1,加藤 憲幸 1,東川 貴俊 1,橋本 孝司 1

茅野 修二 1,武藤 紹士 2,近藤 ゆか 2,下野 高嗣 2

新保 秀人 2,野田 能宏 3,田中 哲文 3,大上 賢祐 3

旗   厚 3,三宅陽一郎 3,岡部  学 3

318 日血外会誌 22巻 2号

242

【はじめに】腹部大動脈瘤(Abdominal Aortic Aneurysm,AAA)手術において,近年ではステントグラフト治療(Endvascular

Aneurysm Repair,EVAR)が急速に普及している.内腸骨動脈(Internal Illiac Artery,IIA)を塞栓し,外腸骨動脈(External

Illiac Artery,EIA)にランディングする症例も増加している.特に IIA塞栓例においては開腹手術と同様に術後の臀筋破行や腸管虚血の発症リスクも考慮する必要がある.当科において 2011年 3月より,術中の IIA領域の血流評価を,近赤外分光法(Near Infrared Spectroscopy:NIRS)を用いて行っている.【方法】IIA塞栓を伴う EVAR症例において,NIRO

(Near Infrared Oxygen Monitor:浜松ホトニクス社製)を用いて,両側臀筋の TOI(Tissue Oxygen Index)を測定した.手術開始時を T1,IIA塞栓後 5分を T2,同側の大腿動脈(Femoral artery.FA)のデクランプ後 5分を T3,手術終了時を T4とし,経時的に TOIを測定し,IIA領域の血流評価を行った.【結果】2011年 3月以降,IIA塞栓を伴う EVAR

19例(25肢)のうち,術後臀筋跛行を認めたものは 7肢(C

群),認めなかったのは 18肢(N群)であった.なお,両側IIA塞栓を施行した 6例(12肢)中 2例(4肢)に臀筋跛行を認めた.C群と N群で TOIを比較すると T1で C群 71.5±2.14,N群 68.7±5.08,T2で C群 65.5±12.6,N群 67.1±7.19,T3 で C 群 59.5±13.8,N 群 61.6±8.40,T4 で は C

群 72.0±3.43,N群 67.4±5.65であった.術中の TOIに有意差は認めなかった.T1と T2,T3を比較した場合,T1-T2

の TOI差はそれぞれ C群 5.93,N群 1.62,T1-T3の TOI

差は C群 11.95,N群 7.12と C群が TOIの変化量は大きい傾向にあった.【考察】IIA塞栓を伴う EVAR症例において,術中臀筋血流を測定した.C群と N群では術中の TOI

に有意差は認めなかった.その原因としては IIA塞栓の形態が,IIA入口部での塞栓なのか,IIA分枝レベルでの塞栓なのかといったバラつきが考えられる.術中 TOIの推移から,IIA塞栓例においては FA遮断や再還流の影響を鋭敏に反映した.また,FA再還流後にも TOIの改善を認めなかった症例も一例認め,IIAを追加で再建を行った.腸管虚血は頻度は低いが重篤な合併症である.臀筋血流評価を行い FA再還流後も改善を認めない症例において,IIA再建を考慮することは,重篤な合併症回避のため有用と考えられる.

O02-4内腸骨動脈塞栓を伴う EVARにおける術中臀筋血流の測定

長野赤十字病院 心臓血管外科 1

信州大学附属病院 心臓血管外科 2

中原  孝○ 1,福井 大祐 2,五味淵俊仁 2,駒津 和宜 2

大津 義徳 2,和田 有子 2,寺崎 貴光 2,瀬戸達一郎 2

高野  環 2,天野  純 2

【目的】腹部大動脈瘤の人工血管置換における内腸骨動脈(IIA)および下腸間膜動脈再建の是非は未だ論争の的である.また術中の腸管虚血の指標も IIAおよび下腸間膜動脈の断端圧,近赤外線分光法,大腸内 pH,経肛門的直腸ドップラー法など種々の報告あるが絶対的なものはない.当院では腸管虚血の指標としてレーザードップラー組織血流計を用いている.【対象】2009年 12月から 2010年 7月までに当院で腹部大動脈瘤に対し同一機種(Zenith)を使用しEVARを施行した 20例を対象とした.平均年齢 76.2±6.3

歳,男性 17例,女性 3例.【方法】円筒型プラスチック容器に非接触型プローべを入れ経肛門的に直腸内に挿入し,オメガウエーブ社製レーザードップラー組織血流計を用いて直腸粘膜血流を測定した.手術開始時,グラフト本体挿入前後,グラフト本体 deployment前後,対側脚挿入前後,対側脚 deployment前後,balloning前後,手術終了時をポイントとして比較検討した.【結果】直腸粘膜血流は ballon-

ing前 20.0±6.38.7ml/min/10,balloning中 16.3±8.7ml/min/10

の 2ポイントでは有意差(p=0.02)あったものの他のポイント間では有意差は無かった.術後の虚血性腸炎は 1例で症状は下血であったが数日間の絶食および補液にて軽快し腸切除に至るような重篤な腸管虚血症状を呈したものは無かった.またその 1例の直腸粘膜血流が他の 19例とは有意差なかった.【結論】EVARの手術操作では大きく直腸粘膜血流量の変化は少なく腸管血流から考え低侵襲な術式ではないかと考えられた.

O02-3腹部大動脈瘤に対するステントグラフト留置術における直腸粘膜血流

埼玉県立循環器・呼吸器病センター心臓血管外科

花井  信,蜂谷  貴,小野口勝久,田口 真吾 ○山崎 真敬

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 319

243

本院にて経験した高位腹部大動脈閉塞症に対する解剖学的血行再建例について検討した.【対象】過去 10年間に高位腹部大動脈閉塞症(Lerich症候群)に対し,腋窩動脈̶両側大腿動脈バイパス(15例),上行大動脈̶両大腿動脈バイパス(2例,CABG同時施行)を除く,解剖学的血行再建を行った 20例を対象とした.男 15例,女 5例,年齢 41~83(平均 65)歳,透析例が 1例,冠動脈病変に対し PCIをうけたのが 7例であった.また,閉塞が腎動脈分岐部まで及んだ例が 7例,急性増悪(強い腹痛,CPK高値)で緊急手術となったのが 1例,FontaineIV度の重症虚血肢が 1例であった.【術式】83歳の重症虚血肢例には血管内治療(ステント)で解剖学的再建を行った.外科的バイパス術では開腹 13例,後腹膜アプローチ 6例で,術中エコーで閉塞中枢部位の確認を行い,一時的な腎動脈上クランプを要したものが 7例(うち左腎静脈の離断 2例)で,術式は腹部大動脈̶両腸骨(大腿)動脈バイパス術(うち緊急例に置換術1例)を行った.付加手術として,静脈グラフトによる下腸管膜動脈・右内腸骨動脈再建 1例,F-Pバイパス 1例,腎癌合併例に左腎摘を行った.【結果】術後 HITによる急性グラフト閉塞を 1例に認め,アルガトロバン使用下に片側脚の血栓除去+F-Fバイパスを施行した.この例も含め,バイパス手術例は術後の腎機能悪化もなく平均 2週間で独歩退院した.その後の追跡期間は 2~120ヶ月(平均 70)であるが,後腹膜アプローチの 2例で術後 3年目のグラフト片脚閉塞に対し F-Fバイパス,8年目のグラフト閉塞に対し開腹下の再バイパス術(腎動脈上遮断)を行った.これらの症例も含め,現在全例でグラフトの良好な開存を認め,血管内治療例でも虚血性壊疽の著明な改善を認めている.【結語】高位腹部大動脈閉塞症に対する解剖学的再建はQOLの改善において極めて有用であった.後腹膜アプローチによる再建はグラフト脚の Kinkingに注意を要すると考えられ,われわれの検討では開腹術の方が長期開存性に優れていた.血管内治療も手術不能例では考慮すべき一策である.

O20-2高位腹部大動脈閉塞症に対する解剖学的血行再建例の検討

兵庫県立淡路病院 心臓血管外科

藤本  恒,吉岡 勇気,森本 喜久,杉本 貴樹○

【目的】EVAR後の大動脈瘤縮小は,良好な長期予後の因子とされている.以前の我々の検討では,抗血小板剤の内服と Type II endoleakが動脈瘤非縮小の危険因子であった.その為,抗線溶療法により,動脈瘤縮小が促進されるのではないかとの仮説の元に,tranexamic acidによる抗線溶療法の動脈瘤縮小に対する影響を検討した.【対象】2007年 5

月から 2012年 5月の間に EVARが施行され,半年後,造影CTによる評価を行い得た 164例中,半年後まで Type Ia

endoleakが残存した 4例,嚢状瘤 2例,破裂 2例,半年以内に Type II endoleakのコイル塞栓が行われた 2例,炎症性瘤 1例,半年以内に tranexamic acidの投与が中止された1例(深部静脈血栓症の為)を除外した 151例を対象とした.2009年 12月までの 110例(N群)では,tranexamic acidの内服は行わず,各施設で倫理委員会の承認を得た後,2010

年 1月から EVARを施行した 41例(T群)では,Tranexam-

ic acid 1500mg分三を EVAR施行の翌日から半年間投与した.検討項目は,患者背景因子,抗血小板剤の内服(アスピリン単独・2剤併用またはアスピリン以外)・抗凝固療法,動脈瘤形態,使用したデバイス,術中造影・術後 1ヶ月および術後 6ヶ月目に施行した造影 CTによる Type II en-

doleakとし,術後 6ヶ月目での動脈瘤縮小に対する影響を検討した.【結果】N群と T群の間には,患者背景因子・動脈瘤形態・使用したデバイス・Type II endoleakに有意差を認めなかった.術後 6ヶ月目に 5mm以上拡大した症例は無く,術後 6ヶ月目に,T群で有意に動脈瘤が縮小し(N

群:4.3±4.8mm,T群:6.4±4.9mm,p=0.018),5mm以上の縮小が得られた症例は,N群 40例(36%),T群 25例(61%)と T群で有意に多かった(p=0.007).単変量解析では,動脈瘤縮小に影響する危険率 10%以下の因子は,術後 1および 6ヶ月後の Type II endoleak,中枢側ネック長,大動脈瘤最大径,抗血小板剤の内服と 2剤またはアスピリン以外の抗血小板剤の内服であった為,これらの因子と tranexam-

ic acid内服の有無について,重回帰分析を行った所,術後6ヵ月後の Type II endoleak,術前最大径,tranexamic acidの内服が有意な因子であった.【結語】EVAR後,tranexamic

acidによる抗線溶療法は,重篤な合併症を生じず,術後 6

ヵ月後の Type II endoleakの頻度は減少しないが,動脈瘤が縮小する頻度が有意に増加し,有用であると思われた.

O02-5EVAR後,大動脈瘤縮小に対する tranexamic acidによる抗線溶療法の影響

昭和大学 胸部心臓血管外科 1

香川県立中央病院 心臓血管外科 2

抗線溶療法研究グループ(近森病院,松山赤十字病院,島根県立中央病院)3

青木  淳○ 1,末澤 孝徳 2,古谷 光久 2,山本  修 2

入江 博之 3,山岡 輝年 3,上平  聡 3,櫻井  淳 2

宮崎 延裕 3

320 日血外会誌 22巻 2号

244

【はじめに】 Coral reef aortaとは 1984年に Qvarfordtらにより初めて報告され,腎動脈周囲または腎動脈上の大動脈に強い石灰化を生じ内腔にサンゴ礁様の構造物を来たす稀な疾患である.大動脈の狭窄または閉塞の原因となることがあるが,うっ血性心不全を発症したという報告は極めて稀である.今回,我々はうっ血性心不全で発症した coral reef

aortaの症例を経験したので報告する.【症例】60歳女性.2

か月前より Fontaine 2度の間欠性跛行を自覚していた.夜間突如の呼吸困難で搬送され,after-load mismatchによるうっ血性心不全と診断され治療を開始した.心エコー上は左室駆出率(LVEF)31%,拡張期左室径(LVDd)62mm,収縮期左室径(LVDs)55mm,左房径(LAD)45mm,高度僧房弁閉鎖不全(MR),中等度大動脈弁閉鎖不全(AR)及び三尖弁閉鎖不全(TR)を認めた.原因精査の胸腹部 CTで,胸部下行大動脈の内腔に綿花状の石灰化を含む構造物を認めた.その後の精査では,それ以外の頭頸部,胸腹部,四肢の動脈に狭窄は認めなかった.上下肢圧較差は 80mmHg

であり,ankle-brachial index(ABI)は右 0.50,左 0.52であった.この構造物により大きな圧較差を生じ,その結果after-road mismatchとなったと判断した.我々は大動脈狭窄による心負荷を軽減する目的で,非解剖学的な左腋窩動脈‐大腿動脈バイパス術を選択した.術後間欠性跛行は消失,ABIは両側ともに 0.97と改善し,術後 9日目に退院となった.心エコー上でも LVDd 55mm,LVDs 35mm,LAD

31mmと左室,左房負荷が改善し,MR・TRは消失,AR

は軽度となった.【考察】Coral reef Aortaの外科的治療法としては血栓内膜摘除術,人工血管置換術,胸部‐腹部大動脈バイパス術が考えられる.しかし,これらは侵襲度が高く,周術期死亡率が 8.7-11.6%との報告もある.また低侵襲な代替手術としてステントグラフトがあるが,狭窄部の形態により十分な血管の拡張を得ることが難しく,合併症として塞栓症の可能性もある.本症例は高度の低左心機能であり,病変部近傍の著明な側副血行路の発達を認めたため,短時間及び低侵襲手術である腋窩動脈‐大腿動脈バイパス術を選択し,良好な結果を得ることができた.しかし問題点として,腋窩動脈‐大腿動脈バイパスではグラフトの 3年開存率が 49.4-65.7%であるとの報告がある.本症例は 60歳であるため今後慎重な長期管理や追加手術が必要であることが考えられる.

O20-3Coral reef aortaによりうっ血性心不全を生じた一例

近畿大学 心臓血管外科

宮下 直也,札  琢磨,湯上晋太郎,西野 貴子 ○藤井 公輔,井村 正人,中本  進,金田 敏夫

佐賀 俊彦

【背景】腎動脈下腹部大動脈 -腸骨動脈閉塞疾患(AIO)は頸動脈狭窄や心筋虚血など他部位の動脈硬化性病変を合併することが多く,全身状態を考慮して非解剖学的バイパス術による下肢血行再建を余儀なくされる.当院における AIO

に対する外科的血行再建術の成績を検討した.【対象と方法】2006年 4月から 2012年 10月までに当院で外科的血行再建を行った腎動脈下腹部大動脈から腸骨動脈領域の閉塞性疾患は 25例であった.このうち 15例の単独腸骨動脈閉塞症例を除いた 10例(平均年齢 73.2±22.7歳,男性 8例)を対象とした.重症度は Fontaine分類で平均 2.9(2-4)で,ABIは平均 0.36±0.28であった.解剖学的バイパス術(AB)を 6例(腹部大動脈 -両側総大腿動脈バイパス術 3例,腹部大動脈̶両側外腸骨動脈バイパス術 3例)に,非解剖学的バイパス術(EAB)として右腋窩動脈̶両側総大腿動脈バイパス術を 4例に施行した.低左心機能(1例),全身状態不良(2例),Shaggy aorta症候群(1例)に対して EABを選択した.EAB群では冠動脈疾患を 3例(60%),頸動脈疾患を 2例(50%),重症下肢虚血を 3例(75%)合併していた.急性増悪に伴う下肢虚血の 2例で EABを緊急で行った.虚血性心筋症を合併した 1例に対し CABGとの二期的手術を行った.【結果】AB群においては,早期,遠隔期ともに死亡を認めなかった.EAB群では早期死亡を認めなかったが遠隔期死亡は 50%(癌死 1例,心不全 1例)であった.周術期合併症は AB群で腹腔内血腫を 1例認め,EAB群では創部感染を 1例,MNMSを 2例認めた.術後 1か月以内の早期 graft閉塞は AB群,EAB群ともに認めず,3年後のフォローができた例(AB群 4例,EAB群 2例)でもgraft閉塞は AB群,EAB群ともに認めなかった.重症下肢虚血に対して施行した EAB症例は 3例ともに救肢できた.術後 ABIは平均 0.93±0.34まで改善し,AB群で 1.07±0.11(術前 0.39),EAB群で 0.94±0.15(術前 0.26)まで改善したが術式間で有意差は認めなかった.【結論】AIOに対する ABの成績は良好であった.EABは虚血肢に対する救肢は可能であったが遠隔期の graft開存率に問題があるといわれているため今後も注意深い経過観察が必要と考えている.

O20-2腎動脈下腹部大動脈―腸骨動脈閉塞疾患に対する外科的血行再建術の検討

聖隷三方原病院 心臓血管外科

野村 拓生,浅野  満○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 321

245

症例は 61歳男性.下腿浮腫と呼吸困難を主訴に当院に紹介された.心超音波では著明なびまん性壁運動低下(LVEF

20%)と左室腔拡大をみとめた.冠動脈造影検査で左冠動脈前下行枝にびまん性高度石灰化病変,右冠動脈の低形成,回旋枝は軽度から中等度狭窄を認め,虚血性心筋症による心不全と診断された.また重度の下肢虚血症状がみられ,造影 CTでは腹部大動脈終末端から両側総腸骨動脈にかけて閉塞を認めた.下肢への側副血行は上下腸間膜動脈,腰動脈,両側内胸動脈などから流入していた.PCIはBlood accessや,補助循環のバックアップの問題から困難と判断され,外科的な冠血行再建,下肢血行再建目的で当科へ紹介された.低左心機能であるため CABGを先行し心機能回復後に下肢血行再建を行う方針とした.上行大動脈が性状不良であったため右腋窩動脈送血,右房脱血によるOn pump beating CABGを施行した.Bypass graftは LITA-

LAD,free RITAを Y-Composit graftとし HLに吻合した.両側 ITAの graft採取に伴う術後下肢虚血の増悪は認めなかった.心機能はエコーにて EF 39.3%まで改善し,術後 2

週間目に下肢血行再建を施行した.若年であること,心機能が十分に回復したことから Aorto-bi femoral bypassを選択した.中枢側は大動脈内血栓除去を施行した後に腎動脈下に端々吻合し,末梢側は両側大腿動脈に端側吻合した.周術期に明らかな心血管イベントは認められず,経過良好で術後 15病日に独歩で退院した.本症例は虚血性心筋症による著明な低心機能きたしていたため,一期的血行再建を施行した場合には心血管イベントが発生する可能性が高いと思われた.CABGを先行させ心機能の回復を待ったことで下肢血行再建を安全に施行することができた.冠動脈疾患と大動脈腸骨動脈閉塞病変の合併症例では様々な治療戦略が報告されており,文献的考察を加えて報告する.

O20-5虚血性心筋症を合併した腹部大動脈―腸骨動脈閉塞に対し二期的に血行再建を施行した 1例

聖隷三方原病院 心臓血管外科

榊原 智晶,野村 拓生,浅野  満○

【はじめに】間欠性跛行を有する腎移植後の難治性高血圧を訴える患者に対し,外科的血行再建を行い,跛行症状の消失,高血圧の改善が同時に得られた症例を経験したので報告する.【症例】57歳男性.【主訴】右間欠性跛行,高血圧.【現病歴】慢性糸球体腎炎による末期腎不全で 21歳~血液透析導入,18年間の血液透析施行後,39歳時死体腎移植を受けた.2008年間欠性跛行出現(100m),右 ABI0.66と低下,CTで右総腸骨動脈狭窄,高度石灰化を指摘され,ASOの診断のもと,サルポグレラートの内服が開始された.右内腸骨動脈が移植腎への流入血管となっており,積極的な血行再建はおこなわれず経過観察となっていた.2010年間欠性跛行の悪化(50m)と右 ABI0.55と更なる低下を認め,歩行時の右下肢疼痛のため NSAIDsを常用していた.また,血圧が上昇傾向であり,ARB,Ca拮抗薬,利尿薬の投与下においても血圧コントロール不良であった.その後も血圧は上昇傾向が続き,降圧薬がさらに増量されたが収縮期圧が 200mmHgを超えるときがあり血圧コントロール困難であった.また,腎機能も悪化傾向となり,体重増加と顔面・下腿浮腫が出現した.2012年高レニン血症,代謝性アルカローシスを認め,移植腎血流低下による腎血管性高血圧と診断され,内服による保存的治療は困難と考えられた.【治療】2012年 6月,大動脈 -両側大腿動脈バイパス術及び移植腎動脈再建術を施行した.【結果】術後ABI改善,IC消失.血圧は劇的に低下し,移植腎機能は回復,降圧薬は大幅に減量可能となり,ADLの改善を認めた.【結語】腎移植後の血圧上昇,コントロール困難な高血圧には移植腎動脈の血流障害による腎血管性高血圧を念頭に置く必要があり,これを改善することにより移植腎機能の温存,血圧の良好な維持が期待できる.

O20-4腎移植後の腎血管性高血圧症と下肢 ASOに対し同時血行再建術を施行した 1例

京都府立医大 心臓血管外科

渡辺 太治,土井  潔,岡  克彦,大川 和成 ○坂井  修,土肥 正浩,山本 経尚,川尻 英長

大平  卓,松代 卓也,神田 圭一,夜久  均

322 日血外会誌 22巻 2号

246

腹部アンギーナは比較的稀な疾患であり,有症状例にはバイパス手術や血管内治療による血行再建術が施行される.特に最近では,より低侵襲である血管内治療が選択される機会が増加しつつあるが,問題点として,distal embolism

を起こした場合は高い確率で致死的な腸管壊死を合併することが報告されており,予防としてのフィルターの使用について一定の見解が得られていないのが実情である.今回我々は,上腸間膜動脈狭窄による腹部アンギーナに対して開腹下で逆行性にステントを留置し良好な経過を得た 1例を経験したので報告する.【症例】50代女性【既往歴】狭心症,心房細動,糖尿病,慢性腎不全,高血圧症,閉塞性動脈硬化症(左総腸骨~外腸骨動脈,右外腸骨動脈にステント留置後)【現病歴】遷延する食後の腹痛の訴えあり,腹部アンギーナの疑いにて当科紹介となった.【検査所見】腹部超音波:上腸間膜動脈(SMA)起始部 PSV=306cm/s,腹部血管造影:SMA起始部で高度狭窄あり.末梢は順行性に造影されるが,腹腔動脈造影で逆行性にも造影された.【術中所見】(1)当初の予定術式は開腹下でのバイパス術であったが,開腹所見にて,大動脈~両側総腸骨~外腸骨動脈は予想以上に高度な石灰化およびステント留置後の状態であったため,バイパス術は不適と判断し,逆行性にステント留置の方針とした.(2)SMAの末梢を確保し逆行性にシースを留置した.大動脈造影と SMA末梢からの吹き上げ造影で狭窄部の正確な位置を確認した.(3)SMA末梢の初期圧は 20mmHg台であったが,前拡張後に Genesis(6.0mm×18mm)ステントを留置し,最終的に体血圧との圧較差は10mmHg以下となった.【術後経過】術後 3日目より食事を開始するも,食後の腹痛は認めず.術後 7日目に自宅退院となった.術後半年現在,経過良好である.【考察】開腹下で逆行性にステント留置を行う場合,確実に末梢が遮断でき,血行再建後の小腸の viabilityの確認も可能である.経皮血管内治療あるいはバイパス術が困難な上腸間膜動脈狭窄による腹部アンギーナの症例に対しては,開腹下での逆行性のステント留置術という hybrid治療も選択肢の 1つとなり得ることが示唆された.

O20-2上腸間膜動脈狭窄による腹部アンギーナに対して開腹下に血管内治療を施行した 1例

済生会横浜市東部病院 外科(血管外科)1

慶應義塾大学病院 外科 2

廣江 成欧○ 1,渋谷慎太郎 1,林   忍 1,長島  敦 1

田中 克典 2,尾原 秀明 2,北川 雄光 2

【はじめに】感染性腹部大動脈瘤ではその部位や感染の波及範囲等により非解剖学的血行再建がしばしば行われる.腋窩動脈 -両側大腿動脈(Ax-biF)バイパスは有効な再建術式であるがその長期開存率は低く遠隔期に人工血管閉塞が問題となることも多い.今回我々はそのような症例に対し,上行大動脈を inflowとする下肢への再バイパス術を施行し良好な結果を得たので報告する.【症例】52歳男性.8ヶ月前に感染性腹部大動脈瘤破裂の診断で救急搬送され入院.大動脈瘤を切除し断端は閉鎖して大網充填を行い,右 Ax-

biFバイパスにて血行再建した.瘤壁培養では肺炎球菌およびアシネトバクターが検出された.退院時 ABIは右0.73,左 0.71であった.経過良好であったが,1ヶ月前に突然の両下肢痛が出現,CTで Ax-biFバイパスグラフトの閉塞と診断されグラフト内血栓除去術を行った.その 1ヶ月後,再度間欠性跛行が出現し CTで Ax-biFバイパスグラフトの再閉塞と診断された.わずかに血流は保たれていたが短期間に再閉塞を来しており,再血行再建術が必要と判断した.血行再建には解剖学的再建と非解剖学的再建とがあるが,高度癒着が予想される腹腔内へのアプローチは極めて困難と考えられまた感染再燃の危険性もあるため,非解剖学的再建を行うこととした.下肢への再バイパスに際し inflowとしては(1)腋窩動脈,(2)下行大動脈,(3)上行大動脈が選択可能であるが,長期開存性および同一体位での両側大腿動脈への到達の容易さを考慮し,上行大動脈をinflowとする方針とした.手術は全身麻酔下,仰臥位で行った.胸骨正中切開し上行大動脈を露出し,部分遮断下に径 10mmのリング付き PTFEグラフトを端側に吻合した.グラフトは腹直筋背側を通して右鼠径部皮下まで導き,右大腿人工血管に端端で吻合した.このグラフトに径 8mm

のリング付き PTFEグラフトを端側で吻合し Yグラフトとして,左大腿動脈に端側で吻合した.術後経過は良好でABIは右 0.89,左 0.91と改善し症状も消失した.【結語】感染性腹部大動脈瘤術後遠隔期の Ax-biFバイパス閉塞に対する再血行再建術として,上行大動脈 -両側大腿動脈バイパス術を施行した.上行大動脈を inflowとする本法は体位変換を要さずに仰臥位のまま全ての術操作が可能である.術前合併症の少ない比較的若年の症例に有効な方法と考えられる.

O20-6感染性腹部大動脈瘤切除術後遠隔期の下肢への再血行再建

立川メディカルセンター立川綜合病院 心臓血管外科

若林 貴志,杉本  努,山本 和男,岡本 祐樹 ○三村 慎也,吉井 新平

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 323

242

【はじめに】内腸骨動脈瘤に対する血管内治療については,瘤内すべてを密な packing を行う以外の方法として,瘤末端より末梢側から流出する分枝の coilingに 総腸骨~外腸骨動脈にかけてのステントグラフト内挿術が選択されるようになったが,分枝のcoiling の程度については異論がある.【目的】EVAR同時内腸骨動脈 coiling を行った症例を抽出し,体積塞栓率 volume embolization ratio(VER)を用い内腸骨動脈瘤合併例と非合併例での iliac EVAR 追加 coiling に対する方針について検討した.【方法】当施設で 2010年 1

月から 2011年 6月の間に新規追跡登録を行った EVAR症例は 121例あり,内腸骨動脈に同時に coilingを併施した症例は 27例(31件)であった.内腸骨動脈瘤合併の有無で症例を分割した.瘤化群は 7例 10件であり,非瘤化(通常径群)は 20例 21件でありこれらを比較した.手技は瘤化群では内腸骨動脈瘤末端より分枝する末梢側の近位側内腸骨動脈,あるいは前枝,後枝分岐よりも遠位側で coiling を行ない,通常径群では内腸骨動脈入口部から前枝,後枝分岐よりも近位側に coilingを行なった.評価は造影 CTを用いて coil を充填した部位の血管内径,距離を計測し,充填した coil の体積を用いて VERを計算した.また術後経過観察での endoleakの有無,瘤径変化について検討した.【結果】両群とも治療後破裂,瘤径拡大での再治療はなかった.測定結果は,瘤化群および通常径群で,内腸骨動脈外径は36.9±6.8mm,11.8±3.6mm,coiling近位部内径は 8.1±2.2mm,8.7±2.3mm,coiling 遠位部内径は 6.8±2.5mm,8.3±2.5mm,coil を充填した範囲の距離は 21.1±11.4mm,21.0±6.0mm,充填した coil の体積は 86.0±24.3mm3,90.1±35.4mm3 であった.計算された VER は瘤化群で 18.7±3.7%,通常径群で 17.2±3.9%であった.術後経過では瘤化群の 5例で瘤内血流が認められた.うち 4例は coiling 困難であった

iliolumber arteryなど細径の瘤内分枝が type 2 endoleak と関係していた.通常径群では全例で血流遮断が得られていた.【考察】今回の検討では通常径群での経過から EVAR

での type 2 endoleak 回避のために VERはやや低くても十分と考えられたが,瘤化群では VERがやや高い傾向にもかかわらず type 2 endoleak が認められた.瘤化群ではさらに coiling 密度をあげること,または 瘤内細径分枝に coil-

ing を加えることが type 2 endoleak 回避のために必要と推測した.

O22-2内腸骨動脈瘤合併例での EVAR併用 coilingについて(内腸骨動脈通常径症例との比較)

自治医科大学 心臓血管外科

齊藤  力,村岡  新,三澤 吉雄,楜澤 壮樹 ○小西 宏明,佐藤 弘隆,川人 宏次,宮原 義典

大木 伸一,相澤  啓,坂野 康人,高澤 一平

【目的】本邦において AAAに対し企業性ステントグラフトが保険適応となり 5年以上が経過し,その中期遠隔成績を論じられる時期になってきている.そこで今回,当科で最も頻用し症例数の多い GORE Excluder deviceによる EVAR

の中期遠隔成績を検討したので報告する.【対象】2007年 1

月から 2012年 10月までに当科で手術を施行した AAA 277

例のうち,EVARを施行したのは 164例であり,うち Ex-

cluder deviceのMain bodyを使用した症例 78例を対象とした.年齢は 48-92歳,平均 74歳,男女比は 70/8,最大瘤径は 37-82mm,平均 49mmであった.病因は動脈硬化性76例,炎症性 2例で切迫破裂例・破裂例は認めなかった.併存疾患は脳血管疾患 10例(12.8%),虚血性心疾患 20例(25.6%),慢性閉塞性肺疾患 7例(9.0%),腎機能障害 6例(7.7%),悪性腫瘍 11例(14.1%)であった.【結果】初期成績:全例留置に成功した.術中追加手技として,ステント留置を 13例(16.7%),内腸骨動脈コイル塞栓術 16例(20.5

%),F-F bypass1例(1.3%)を施行した.合併症として脳梗塞および脚閉塞を各 1例認めたが,病院死亡は存在しなかった.Endoleakは type I 2例(Ia,Ib各 1例:2.6%),type

II 9例(11.5 %)認められた.中期遠隔成績(観察期間 1-67

か月,平均 31か月):瘤径拡大(5mm以上)は 3例(3.6%)であり,縮小(5mm以上)は 38例(48.7%)で認められた.再治療を 6例(7.7%)に施行し,内訳は type Ia endoleakに対し中枢追加 1例,type Ib endoleakに対し末梢追加 2例,type II endoleakに対しコイル塞栓 1例,脚閉塞に対しステント留置 1例,グラフト感染による外科手術移行 1例であった.遠隔死亡は 3例(3.8%)あり,うち瘤関連死亡は 2

例(2.5%)認めた.1例は肺炎,1例は type II endoleakに対しコイル塞栓後感染合併し外科手術移行するも敗血症で死亡,1例はグラフト感染にて外科手術移行後 17か月後に吻合部再破裂にて死亡した.【結論】当科における Gore Ex-

cluder deviceによる中期遠隔成績はおおむね良好であったが,EVAR特有な合併症含め,長期にわたり注意深い経過観察が必要であると考えられた.

O22-2腹部大動脈瘤(AAA)に対する Excluder deviceを用いたステントグラフト内挿術(EVAR)の中期遠隔成績

一般財団法人脳神経疾患研究所附属総合南東北病院

高野 隆志,菅野  惠,緑川 博文,渡邊 晃佑 ○植野 恭平

324 日血外会誌 22巻 2号

242

【背景】両側腸骨動脈瘤合併症例の血管内治療において,両側内腸骨動脈コイル塞栓もしくは一側内腸骨動脈再建術を併用するかは議論があるところである.当科では 2008年より EVARを開始し両側腸骨動脈瘤合併症例については,片側内腸骨動脈コイル塞栓術と対側内腸骨動脈再建術+EVARの一側内腸骨動脈温存を基本方針としている.しかし耐術能の低い症例についてはその限りではなく,両側内腸骨動脈コイル塞栓術 +EVARを施行している.【目的】一側内腸骨動脈再建群と両側内腸骨動脈閉塞群の両群間での治療成績,周術期治療経過及び治療コストを比較検討する.【対象・方法】対象は 2008年 6月~2012年 10月までに血管内治療を施行した両側腸骨動脈瘤合併症例 17例で一側内腸骨動脈再建群 13例,両側内腸骨動脈閉塞群 4例.一側内腸骨動脈再建群では,傍腹直筋切開後腹膜経路にて8mm人工血管を用いて外腸骨動脈にバイパスの後 EVAR

を施行している.両群において片側コイル塞栓を基本的に先行させている.【結果】一側内腸骨動脈再建群と両側内腸骨動脈閉塞群の治療成績はそれぞれ,primary success 92%と 100%,平均手術時間 331 ± 94min と 227 ± 36min(p=0

.05),平均出血量 1380 ± 1768mlと 201 ± 141ml(p=0.03),平均赤血球輸血単位数 4 ± 5u と 1 ± 1u(p=0.03),平均術後在院日数 16 ± 8日と 16 ± 14日であった.また,治療コストについて平均材料点数で両群間に差は無かった.一側内腸骨動脈再建群 1例において,Type1b Endoleakが残存ししたため再建内腸骨動脈を犠牲とし末梢側ステントグラフトを追加.試験開腹を行い腸管虚血が無いことを確認したが後日広範腸管壊死を呈し死亡した.術後臀部痛を訴えた症例は一側内腸骨動脈再建群で 2例,両側内腸骨動脈閉塞群で 1例認めた.また術後中~遠隔期において En-

doleakや追加治療を要した症例は無い.【考察・結語】両側内腸骨動脈閉塞群の症例数は少なく統計学的検討はできないが,25%の臀部痛と 1例の重篤な腸管虚血を認めた.手術侵襲は大きいが一側内腸骨動脈再建する方が臀部跛行及び腸管虚血に関してより安全であると推察された.

O22-4両側外腸骨動脈へ landingさせる EVARにおける内腸骨動脈への処置 ~一側再建か両側コイル塞栓か~

獨協医科大学 ハートセンター 心臓・血管外科

武井 祐介,緒方 孝治,井上 有方,桐谷ゆり子 ○関  雅浩,土屋  豪,桑田 俊之,権  重好

柴崎 郁子,松下  恭,山田 靖之,福田 宏嗣

【目的】腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療(EVAR)の適応拡大に伴い,内腸骨動脈コイル塞栓術を必要とする症例は多く経験する.その中で両側内腸骨動脈のコイル閉塞が必要な症例も少なからず経験するが,腸管虚血や臀筋虚血発症の危険性を判断する明確な基準はなく,やや曖昧な判断で施行しているのが現状である.当科では基本的に開腹手術を第一選択と考えているが,ハイリスク症例や患者の強い希望のある場合,また内腸骨動脈瘤で開腹での治療が困難な場合などに両側コイル塞栓を行っている.当科での経験を報告する.【方法】2009年より 2012年 10月までに当科にて施行した腹部大動脈ステントグラフト内挿術は 120例であり,そのうち両側内腸骨動脈コイル塞栓術後,EVARを施行した 13例を対象とした.術後合併症の有無,CTでの末梢血管閉塞の有無を検討した.【結果】年齢は平均 81歳(67~89歳),男性 11名,女性 2名であった.両側内腸骨コイル塞栓を必要とした術前の状態は両側の総腸骨動脈瘤 8例,両側内腸骨動脈瘤 5例で,このうち腹部大動脈瘤を合併していたのはそれぞれ 5例,2例であった.内腸骨のコイル塞栓術は 12例で両側を同日に施行し,1

例は右側の内腸骨動脈コイル塞栓術,EVAR同時施行約 2

年後,左内腸骨動脈瘤の拡大により左側の治療を施行した.両側コイル塞栓術を同時施行した 12例中,EVARを同日に施行したのは 5例,Coiling翌日に施行 4例,3日後1例,56日後 1例であった.コイル塞栓部位は,両側とも内腸骨動脈 8例,両側とも内腸骨分枝 2例,片側は内腸骨動脈,片側分枝が 2例であった.使用ステントグラフトはZenith4 例,Excluder7 例,ENDURANT1 例,PowerLink+

excluder leg1例であった.術中の合併症は認めなかった.術後合併症は症例中最も若年の 1例に術後当日,下血を認めた.67歳の脳梗塞後遺症のある症例で,両側総腸骨動脈瘤に対して両側内腸骨コイル塞栓術と同日に EVARを施行した症例であった.大腸内視鏡検査では軽度虚血所見を認め 3日間の絶食を要したが,その後回復し,以後問題なく経過した.残りの 12例では腸管虚血は生じなかった.術後早期に臀筋虚血の関与と思われる間欠性跛行症状を 3

例に認め,1例に数ヶ月プレタールの内服投与を施行した.術後 5日目に 10例に造影 CTを施行し,いずれも内腸骨動脈分枝には側副血行による血流を認めた.【結語】我々の経験した両側内腸骨動脈コイル塞栓と EVARの合併施行において,重大な合併症を生じた症例はなかったが,より多くの症例での検討が必要と考える.

O22-3EVARにおける両側内腸骨動脈コイル塞栓術併置の検討

佐久総合病院 心臓血管外科

竹村 隆広,新津 宏和,濱  元拓,津田 泰利 ○白鳥 一明

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 325

242

【背景】胸部大動脈瘤及び腹部大動脈瘤に対するステントグラフト留置術後(TEVAR及び EVAR)にはしばしば typeII

endoleakが生じ,瘤径拡大などが持続する場合には治療適応となることがある.EVAR術後では大部分が経動脈的に塞栓術が施行可能であるが,TEVARでは広範囲にステントグラフトが留置されることが多く,側副血行路を介したsacへの到達は困難であることが多い.腫瘍性病変及びリンパ節生検などに対する CTガイド下生検は広く施行されており,ガイド針を介して生検針を対象病変にアプローチする coaxial techniqueを用いた生検が一般的であり,迅速かつ複数回の生検が可能である.そこで我々は,TEVAR・EVAR術後の typeII endoleakに対して coaxial techniqueを応用し,比較的穿刺困難な領域に対しても安全性を担保したdirect sac punctureを行ったので報告する.【症例】79歳女性

TEVAR術後,80歳男性 Lt.IIAAに対するステントグラフト留置術後.いずれの患者も術後瘤径拡大があり治療適応となった.CT上,TEVAR術後患者は気管支動脈・IIAA

患者は外側仙骨動脈を介した sacへの流入血管が存在していた.sac径は 1-2cm程度で,いずれも側副血行路を介した塞栓は困難であり,直接穿刺適応と判断した.治療はcone-beam CTガイド下にて 19G coaxial needleを sac近傍まで穿刺し,20G biopsy needleを sacへ穿刺.sac造影にてendoleak sac及び流入血管の描出を確認し,50%及び 33%NBCA-Lipiodolを用いて sac及び流入血管を鋳型状に塞栓した.塞栓後 CTでは sac及び流入血管に一致した良好なcast形成が認められ,経過にて瘤径は縮小傾向である.【結論】typeII endoleakに対し,cone-beam CTガイド下に coaxial

techniqueを用いた direct sac punctureを施行し,良好な治療結果が得られた.

O22-6typeII endoleakに対する coaxial techniqueを用いたdirect sac puncture embolization

獨協医科大学越谷病院 放射線科 1

いわき市立総合磐城共立病院 心臓血管外科 2

星総合病院 心臓血管外科 3

獨協医科大学越谷病院 心臓血管外科・呼吸器外科 4

福島県立医科大学 心臓血管外科 5

片田 芳明○ 1,近藤 俊一 2,高橋 昌一 3,大喜多陽平 4

籠島 彰人 5,六角  丘 4,入江 嘉仁 4,野崎美和子 1

【はじめに】EVARの早期治療成績は人工血管置換術に比して良好であるのに対して,中長期的にはエンドリーク(EL)をはじめ,それに伴う術後破裂例や瘤径拡大例など未解決の問題が存在する.EVARの遠隔成績を向上させるためには,確実なステントグラフト(SG)留置に加えて,慎重な経過観察と必要に応じて適切な追加治療を行うことが不可欠である.今回当科における術後再治療例に関して検討した.【症例】2009年 4月より 2012年 10月までに施行した腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤に対するEVAR 166例(男性135例,女性 31例,平均 76歳).使用した SGデバイスは Zenith・Zenith Flex 83例,Excluder 57例,Endurant 26例.中枢ネックに関しては 65例が IFU外であり,その理由として 60°以上屈曲 40例,ネック長 15mm以下 9例,reverse taper 11例(重複例あり),血栓・石灰化 6例などであった.観察期間は 21日~1292日,平均 639日であった.【結果】術後 30

日以内での手術死亡例は 2例(破裂例術後脳出血,癌死)であった.経過観察期間において認めた EL症例は Type 1a 5

例,1b 3例,Type 2 35例,Type 4 3例(Endurant症例の術中Type 4を除く)であった.Type 1a症例 5例中 3例は 90°以上の中枢ネック屈曲,1例は reverse taperであった.ネック長 10mmに対する Endurant留置例の Type 1a ELは術後1ヶ月で消失した.観察期間中に施行された術後追加治療は 17例に 20回であり,そのうち 11 回は術後半年以内に施行されていた.Type 1aの 2例,Type 4(Zenith)の 2例に対しては中枢用補助デバイス追加(1aの 1例には腎動脈chimneyステント追加),1b EL症例全例に対しては腸骨レッグ延長・内腸骨動脈塞栓を施行したが,うち 1例ではさらに腸骨レッグ逸脱を来したため再度レッグを延長した.また,Type 2症例のうち瘤径増大の 2例,CTにて EL増加を認めた 3例を含む 8例に経動脈的コイル塞栓術(IMA

5,腰動脈 3)を施行した.そのほか腸骨脚閉塞 2例で FF

バイパス,外腸骨動脈狭窄の 2例に血管内治療を施行した.レッグ狭窄・閉塞例はすべて Zenith症例であった.観察期間中に瘤関連死亡例,瘤破裂例,開腹移行例はなかった.【まとめ】EVARの存在意義は低侵襲的に瘤破裂を予防することであり,追加治療率は低いにこしたことはないが,EVARの遠隔成績向上のためには慎重な経過観察と,必要な場合には躊躇することなく追加治療を行うことが重要と考える.

O22-5EVARにおける術後追加治療例の検討

済生会福岡総合病院 外科 1

済生会福岡総合病院 放射線科 2

伊東 啓行○ 1,星野 祐二 1,松本 俊一 2,岡本 大佑 2

松浦  弘 1,岡留健一郎 1

326 日血外会誌 22巻 2号

250

【対象】2007年 11月から 2012年 5月にかけて破裂性腹部大動脈腸骨動脈領域瘤に対して開腹手術を行なった 21例について検討した.【結果】年齢は 62- 92歳,男性 17例,女性 4例であった.破裂部位は腹部大動脈瘤が 18例,腸骨動脈瘤が 3例であった.術前出血性ショックを来たしたものは 6例であった.術式は腹部大動脈瘤切除人工血管置換術が 20例,腸骨動脈結紮および非解剖学的バイパス術が 1例であった.手術時間は 62-334分であった.死亡は7例で,3例は 24時間以内に死亡した.3例のうち 1例は手術室搬入時にはすでに収縮期血圧が 50mmHg以下であった.もう 1例は手術中に心停止を来たし一時は回復し手術後 ICUに収容できたものの術後 3時間目に AMIを発症し,PCIを施行したが,心原性ショックのため死亡した.もう 1例も術中から DICとなり術後出血性ショックにて死亡した.手術後 24時間以降に死亡した 4例の死亡原因はARDSであった.他の 14例はいずれも独歩にて退院となった.【結論】術前出血性ショックを来たした 6例中救命できたものは 2例であった.術前血圧の比較的安定していた症例に比べ死亡率は著しく高かった.術前ショック症例について ER到着から手術開始までの時間を含めた術前管理について検討を要すると考えられた.

O22-2当院における破裂性腹部大動脈瘤に対する開腹手術の早期成績の検討

相模原協同病院 循環器センター 心臓血管外科

岡元  崇,藤崎 浩行○

従来の外科手術と血管内治療を組み合わせた高度な外科治療を統合的に行えるハイブリッド手術室が普及している.高解像度の X線装置による鮮明な画像は高度の医療には必須で,豊富な医療情報は治療の低侵襲化や医療従事者の負担軽減につながる.腹部ステントグラフト内挿術(EVAR)はハイブリッド手術室の利点を最も生かすことのできる手技である.EVARにおいてはステントグラフトの位置の調節や長さの計測などには二次元画像である大動脈造影を利用した roadmap機能が利用されてきたが,手術台の移動,撮影装置の回転や拡大・縮小を行うたびに造影を繰り返す必要があり,腎機能障害を伴う場合においては制限があった.そこで,術前に撮影された三次元画像を術中の二次元透視画像に重ね合わせる 3D roadmapによる Aortic Naviga-

tionについて検討した.【方法】CT画像(2mm厚)から EVAR

に関連する腹部大動脈から骨盤動脈の volume-rendering像と辺縁を強調した腰椎と骨盤の像を重ね合わせた画像を作成.術中に撮影した透視画像に腰椎と骨盤を指標にして重ね合わせ(overlay画像),大動脈の輪郭が分かる状態で透視を行いながら EVARを施行した.overlay画像における腎動脈の位置を確認するため,ステントグラフト本体の展開直前に大動脈造影(造影剤 10ml)を行い,以後,脚の長さや展開のために必要な腸骨動脈は overlay画像により確認した.バルーンによるステントグラフトの圧着後に大動脈造影(20~25ml)により最終評価を行い,必要な追加手技を行った.【結果】EVAR38例(Endurant23例,Excluder13例,Zenith2例,Powerlink2例)で使用.Overlay画像が 2cmずれていた 1例を除く 37例で overlay画像を使用できた.最初の大動脈造影における腎動脈の位置は,初期症例を中心に 4例で 5~10mm,6例で 3mm未満の頭尾方向のずれが見られたので,overlay画像の位置を再調整後に手技に利用した.内外腸骨動脈分岐部は 3例で 3~5mmの頭尾方向のずれが見られた.屈曲した外腸骨動脈,総腸骨動脈,腹部大動脈が delivery systemの挿入により直線化して,over-

lay画像の大動脈・骨盤動脈から大きくそれて走行しても,overlay画像における腎動脈分岐部と内外腸骨動脈の分岐部が頭尾方向にずれることはほとんどなかった.【考察・結語】overlay画像を用いた 3D roadmapによる Aortic Navi-

gationにより,roadmap作成のための大動脈造影が不要になり,EVAR施行時の脚の挿入や測定などのための動脈造影も不要となるため,造影剤使用量の削減,造影のための手技の簡略化が可能になった.

O22-2ハイブリッド手術室における三次元 CT画像を用いたAortic Navigationの EVARにおける有用性

国立循環器病研究センター 心臓血管外科 1

国立循環器病研究センター 放射線科 2

松田  均○ 1,福田 哲也 2,湊谷 謙司 1,小林順二郎 1

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 327

252

【はじめに】腹部大動脈瘤破裂においては周辺臓器に穿孔することもあり,稀ではあるが下大静脈へ穿破することが知られている.1990年 10月から 2012年 10月において当院で緊急手術を施行した腹部大動脈瘤破裂 140例の中で下大静脈穿破症例は 3例(0.02%)であった.【症例 1】58歳男性.腹痛を主訴に前医受診,CTで腹部大動脈瘤破裂を認め当院緊急搬送となり緊急手術施行.術中瘤の開放後多量の静脈性出血を認め下大静脈穿破と診断.下大静脈は広範囲から出血し,明らかな穿孔部位が同定できず.末梢側を用手圧迫し出血をコントロールしながら 4-0proleneで瘤壁ごと連続縫合で出血部位を閉鎖し止血を得た.その後 Y型人工血管置換術を施行した.術後呼吸状態が一時悪化したがSivelestat投与,BiPAP装着により改善,5病日 ICU退室,リハビリを行い 21病日軽快退院.【症例 2】73歳男性.腹痛自覚後意識レベル低下し前医受診.ショック状態を呈しており CTで腹部大動脈瘤破裂と診断,当院緊急搬送となり緊急手術施行.瘤破裂部位の背側に下大静脈があり 2か所穿孔箇所あり静脈性出血が持続.それぞれ 3-0proleneフェルト付きマットレス縫合で穿孔部を閉鎖し止血を得た.その後 I型人工血管置換術を施行.術後 2病日 ICUを退室,3病日までカテコラミン使用を要したが,全身状態改善し20病日軽快退院.【症例 3】84歳男性.腰痛を主訴に前医入院.翌日 CTで腹部大動脈瘤指摘,経過中血圧低下を来たし破裂が疑われたため当院緊急搬送となり緊急手術施行.瘤下方に下大静脈穿孔部位を認めバルーン挿入し出血を制御したうえで,穿孔部を 3-0Ticron4針で直接縫合閉鎖し止血を得た.その後 Y型人工血管置換術を施行.術翌日抜管,4病日 ICU退室,リハビリを行い 22病日軽快退院.【まとめ】当院での下大静脈穿破症例は穿孔部位を閉鎖しいずれも良好な結果を得ていた.自験例では認めなかったが,腹部大動脈瘤破裂の下大静脈穿破については右心不全症状を来たすこともあり,注意が必要である.また穿孔部位の同定が困難なこともあるが,瘤側から縫合止血を行うことが良好な結果を生む可能性があることが示唆された.

O22-3下大静脈穿破を伴う腹部大動脈瘤破裂

群馬県立心臓血管センター 心臓血管外科

伊達 数馬,金子 達夫,江連 雅彦,佐藤 泰史 ○長谷川 豊,岡田 修一,小此木修一,滝原  瞳

【目的】破裂性腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤(RAAA)の多くは自宅で亡くなるとされ,重症例ほど専門施設へ搬送されていないと考えられる.当院でも発症後間もない患者が重症ショックとなったり,入院中破裂例の成績は不良である.一方他院からの紹介や数日経過して来た患者は,バイタルが安定し成績が良い印象がある.今回は発症 -来院時間に焦点を当てて成績を検討する.【対象】1992年~2012年まで当院の RAAA手術 137例中,Fitzgerald 1型(F-1=10例),一次性大動脈 -消化管瘻(3例),試験開腹(2例)を除く F-2

以上の 122例(F-2=17例,F-3=84例,F-4=21例).【方法】発症 -来院時間≦ 180分をA群(49例:F-2=7例,F-3=37例,F-4=5例),> 180分を B群(73例:F-2=10例,F-3=47例,F-4=16例))として術前(年齢,ショック・意識消失・来院前診断・状態悪化の有無),術中(来院 -執刀・執刀 -遮断・Ao遮断・手術時間,出血量など),術後データを検討.統計は Student-t test,χ2検定,Fisher’s exact testで行い,p<0.05を有意とした.【結果】Fitzgerald分類の分布に有意差は無かった(p=0.238).(1)術前データで A群は有意に高齢(76.2歳 vs 72.8歳:p=0.03)で,ショック例(44例 vs 55例:p=0.04)や未診断例(34例 vs 27例:p< 0.001)が多く,状態悪化例(9例 vs 6例)が多い傾向にあった.(2)術中データは来院 -執刀(100分 vs 108分),執刀 -遮断(14.2分 vs

20.1分:p=0.04),Ao遮断(63分 vs 68分),手術時間(166

分 vs 175分),出血量(2105ml vs 1894ml),輸血量(2652ml

vs 2032ml:p=0.04)であった.(3)術後データでは抜管(3.9

日 vs 3.5日),ICU退出(6.0日 vs 5.5日),歩行(5.3日 vs

5.7日),食事(7.0日 vs 7.6日),入院日数(20.7日 vs 15.9日)に有意差はないが,死亡率(34.7%vs 17.8%:p=0.03)は有意に A群で不良.【考察・結語】我々は以前,破裂性腹部大動脈瘤の成績において,他院から紹介される既診断例は急性期を生き延び安定した患者が多いのに対し,未診断例には重症例が含まれ予後不良であると発表した.本検討で,発症 -来院時間が短い A群はショックや未診断例が多く予後不良であった.A群が高齢である理由は不明だが「ゆっくり来院する患者は状態が安定して予後良好」という臨床現場の印象を確認できた.地域基幹病院では直接来院する患者が多く,紹介患者を中心に扱う施設と患者の重症度が異なる可能性がある.

O22-2破裂性腹部大動脈瘤における,発症─来院時間と成績

旭中央病院 外科

古屋 隆俊,田中 信孝,加賀谷英生,櫻岡 佑樹 ○小池 大助,唐崎 隆弘,原田 有三,福元 健人

瀬尾 明彦,川崎 圭史,須賀 悠介,山本真理子

伊藤 橋司

328 日血外会誌 22巻 2号

252

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト治療が拡がっているが,解剖学的に適応とならない症例も依然として存在する.腹部大動脈瘤手術の成績は安定しているが,晩期合併症として遠隔期に腹壁瘢痕ヘルニア(IH)やバルジ(FB)などの創合併症を起こすことも少なくない.今回,我々は各アプローチ法と晩期創合併症の関係を自験例で検討した.【対象】2005年 1月から 2008年 12月まで当科において待期的腹部大動脈瘤手術を施行した 135例のうち 3年以上の外来経過観察が可能であった 106例を対象とした.男性は89例,女性は 17例であり,平均年齢は 71.8歳(55~90歳)であった.平均観察期間は 58.2ヶ月(36~90ヶ月)であった.アプローチ法では腹部正中開腹アプローチによるもの(L群)が 59例,斜切開後腹膜アプローチによるもの(R群)が 14例,正中後腹膜アプローチによるもの(MR 群)が 33

例であった.【方法】臨床的にヘルニアをきたしているかどうか,CT検査にて腹壁の欠損・腹膜の凸像を認めるかどうか,対側と比べ腹壁の筋肉の萎縮(65%以下)をきたしているかどうかを検討した.【結果】臨床所見:L群では 14

例(23.7%)に IHを認めた.R群では 5例(35.7%)に FBを認めた.MR群では 1例(3%)に IHを認めた.CT検査:L

群では 24例(41.0%)に腹壁変化の所見を認めた.R群では 6例(42.8%)に腹直筋の萎縮を認めた.MR群では 5例(15.2%)に腹壁変化の所見を認めた.CT所見上,腹壁欠損や腹膜凸像・筋肉萎縮を認めているが臨床上所見を認めない症例が 15例認めた.【まとめ】当科における晩期創合併症の頻度は 18.8%であった.斜切開後腹膜,腹部正中開腹,正中後腹膜の順に多く認められ,正中切開後腹膜アプローチは他のアプローチに比べ腹壁瘢痕ヘルニアなどの晩期創合併症は少なく,より望ましい術式と考えられた.

O22-5腹部大動脈瘤手術症例における遠隔期創合併症の検討

千葉県循環器病センター 心臓血管外科

平野 雅生,林田 直樹,浅野 宗一,松尾 浩三 ○鬼頭 浩之,大場 正直,椛沢 政司,弘瀬 伸行

長谷川秀臣,村山 博和

【背景】腹部大動脈瘤(AAA)は動脈硬化を基盤とし,脳血管障害(CVD)・虚血性心疾患(CAD)・末梢血管障害(PAD)と共通のリスク因子を有している.今回,AAA患者における脳血管障害の合併頻度および遠隔期の脳血管障害の発生頻度について検討した.【対象と方法】対象は 2005年から2010年の間に当科で手術を行った AAA患者 302例.平均年齢75歳,男性235例(77.8%),併存疾患は糖尿病29例(9.6

%),高血圧 150例(49.7%),脂質異常症 92例(30.5%),心疾患 71例(23.5%),PAD47例(15.6%)であった.大動脈瘤の平均瘤径は 5.4cmで,治療術式は人工血管置換 225例(74.5%),ステントグラフト内挿入術77例(25.5%)であった.

AAA患者の背景因子,CVDの既往及び術後の発症について評価した.【結果】術前の頸動脈エコーで面積狭窄率が50%以上の内頸動脈狭窄症は 70例(23.2%)に認め,CVD

の既往を認めたのは 88例(29.1%)で,このうち神経学的後遺症を認めたのは 22例であった.CVDの病型はラクナ梗塞 59例,アテローム血栓性脳梗塞 37例,心原性脳塞栓症 4例,不明 9例であった(重複含む).5年累積生存率は84.0%であり,術後観察期間中に CVDを発症したの症例は 22例(7.283%)で(脳梗塞 16例,脳出血 5例,クモ膜下出血 1例)であり,.うち 11例は術前の CVDの既往を認めた.5年累積イベント発生率 7.4%であり,糖尿病あり(21.9

%vs 4.5%),CVDの既往あり(17.1%vs 2.4%),頸動脈狭窄あり(28.7%vs 2.2%)で,有意にイベント発生率が高かった.【結論】AAA患者は動脈硬化のリスク因子を複数有しており,無症候性脳梗塞を含めると約 3分の 1と高率にCVDの合併を認めた.術後遠隔期の CVD発症にも,糖尿病,CVDの既往,頸動脈狭窄が関与しており,AAA患者における CVDのスクリーニングおよびリスク因子のコントロールは肝要であると考えられた.

O22-4腹部大動脈瘤患者における脳血管障害イベントの検討

九州医療センター 血管外科

井上健太郎,奈田 慎一,古山  正,小野原俊博○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 329

253

合成高分子材料から作製される小口径人工血管(内径<4mm)は,早期の血栓形成による閉塞のため臨床において実用化されていない.これまでに当センターでは,超高圧処理技術を応用した新規脱細胞化技術を開発し,中・大口径の脱細胞化人工血管の作製とミニブタを用いた大動物試験について検討してきた.ブタの下行大動脈に脱細胞血管を移植した結果,最長 1年までの良好な開存性ならびに組織再生を認めた.しかしながらわずかな血栓形成を認めたのも事実であり,脱細胞化組織を用いた小口径血管では,早期内皮化による自己組織化を促進するための設計が極めて重要である.さらに小口径血管をバイパスグラフトとして利用するためには,臨床で利用できるグラフト長も重要な要素である.そこで本研究では,走鳥類の頸動脈から採取した血管を超高圧処理し,コラーゲン繊維と結合し内皮細胞の接着を促進する配列をもつペプチドで修飾したペプチド修飾脱細胞化 long-bypass graftを開発した.ペプチドの表面修飾による開存性ならびに組織再生について評価するために,内径 1mmのラット下行大動脈を超高圧処理により脱細胞化しペプチドで修飾した血管を下行大動脈へ移植した.その結果,移植 1ヶ月において全例で良好な開存性と内皮化形成を認めた.コントロールでは,移植 1週間で血栓形成が認められ血管の閉塞が認められた.次に,内径 2mmで長さが 20cm~30cmの小口径脱細胞化血管を作製し,femoral-femoral crossovere bypass graftとしてブタの下肢へ移植した.その結果,ペプチドを修飾したgraftでは,移植後 20日において血管の開存が超音波診断画像,IVUS,ならびに血管内視鏡により認められた.内腔面において血栓はほとんど認められず,自家組織がグラフト内腔面に生着している様子が認められた.一方で,ペプチドを修飾していない血管では移植後直ちに血栓形成により閉塞した.以上の結果より,本研究で開発した long-bypass

graftは小口径人工血管材料として有効であることが示された.

O23-2ペプチド修飾脱細胞化小口径 long-bypass graftの開発と大動物実験における開存性評価

国立循環器病研究センター研究所生体医工学部 1

京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科 2

関西大学大学院 理工学研究科 3

大阪工業大学大学院 生体医工学専攻 4

馬原  淳○ 1,染川 将太 2,小林 直樹 3,平野 義明 3

木村 良晴 2,藤里 俊哉 4,山岡 哲二 1

【背景】近年の高齢化社会に伴い,全身疾患である動脈硬化性疾患が増加しつつある.なかでも腹部大動脈瘤における冠動脈疾患合併頻度は 50%前後と報告されている.このような症例においてどちらを先行して手術するか,もしくは同時手術を行うかの治療戦略が重要となる.つまり,腹部大血管先行では大動脈のクランプ,デクランプ等の血圧変動が,周術期の cardiac eventを起こす可能性があり,冠動脈バイアパス術(以下 CABG)先行では,AAA破裂の可能性や IABP等の補助循環の使用制限も有する.以上より,当院では積極的に一期的同時手術を行っている.【目的】CABGと腹部大血管手術を同時に行うことの全身への影響を検索し,治療法について検討すること.【対象・方法】対象は 2000年 2月から 2012年 10月までの当院で CABGと腹部大血管手術を同時に行った 9例を検討.男性 6,女性3人,手術時平均年齢 64±22歳.術式,バイパスの本数,手術時間,輸血の有無,抜管までの時間,食事開始までの日数,術後在院日数,術後合併症を検討.【結果】CABGはOPCABが 8例,MIDCABが 1例.バイパス数は 1~5本で平均 2.5本.腹部大血管は,全例人工血管置換術を行い,AAAが 8例,Leriche症候群が 1例.手術時間平均 650±194分.他家血輸血は 5例に行い平均 RCC8.4単位.自己血輸血は 4例に行い平均 3.5単位.FFP輸血は 1例に行い,2単位使用した.抜管までの時間は平均 20時間.食事開始までの日数は,平均 4.9日.術後在院日数は平均 28日(死亡例除く).術後合併症は,手術部位感染 3例,脳梗塞 1例,急性腎不全 1例,腸管壊死 1例,橈骨動脈採取部の com-

partment症候群 1例であった.腸管壊死の 1例は重症感染症で第 43病日に死亡した.【考察】近年手術の低侵襲化に伴い,OPCABが一般的となり人工心肺使用に伴う,出血傾向,手術時間の延長,免疫力の低下が避けられ,他手術との同時手術の適応が増えている.二期的治療に比べ,リスク回避,麻酔・手術が 1回で済む,入院期間の短縮という利点があるが,同時手術の生体侵襲は大きく,手術時間が長くなることで感染症のリスクが高くなったり,大きな合併症を招く危険性も含んでいるので,患者選択や術式を慎重に検討する必要がある.【結語】心臓手術と腹部大血管手術の同時手術は,二期的手術に伴うリスクの回避,治療期間の短縮などの長所もあり,治療として妥当であるが,手術適応,感染コントロール,合併症のリスクについて検討する必要がある.また今後はステントグラフトを併用していきたい.

O22-6心臓手術と腹部大血管手術を同時施行した症例の検討

自衛隊中央病院 胸部外科

中野渡 仁,伊藤  直,田中 良昭○

330 日血外会誌 22巻 2号

254

【目的】鋳型を皮下に一定期間埋入することで鋳型周囲に結合組織膜を形成させ,その結合組織膜を様々な循環系移植片として用いるという生体内組織形成技術の開発を進めている.本技術によって作製できる管状構造体であるバイオチューブは,自家移植後数ヶ月でほぼ自己化するなど動脈系の使用に耐えうる小口径代用血管としての有用性を示してきた.しかしバイオチューブは移植前の壁厚が 100μm

以下と非常に薄く,自立性がないため円筒形状を保持できず,内径 1.5mmのバイオチューブラット腹部大動脈移植モデルにおいて過去に我々が開発した吻合デバイス(suture-

less vascular connecting system)を必要とした.しかしこの吻合方法では吻合デバイスが血流面にさらされるため,デバイス内に血栓が形成されやすく,バイオチューブそのものの開存性が正確に評価できないという問題があった.今回,この問題を回避すべくバイオチューブ移植方法に改良を加え,バイオチューブ移植後の開存性評価を行った.【方法】従来法に従って,円柱状シリコーン製鋳型(直径 1.5mm,長さ 2cm)をウィスターラット背部皮下に埋入し,6週後に摘出,鋳型を抜去しバイオチューブを得た.グラフトを100%メタノール溶液で 10分間浸漬した後,抗血栓処理としてアルガトロバンをグラフト内腔に塗布し,ラット腹部大動脈に 10-0プロリン結節縫合(12針)にて端々吻合で自家移植した.移植後 1ヵ月の開存性をエコーおよびMRI

を用いて評価した.【結果】バイオチューブをメタノール処理することでバイオチューブは一時的に硬くなった.吻合時にグラフト内腔の確認が容易となり吻合操作性が高まったため,一般的な血管吻合法による縫合が可能となった.移植後抗凝固薬,抗血小板薬を投与することなく,移植後1ヵ月でのエコー,MRIにてグラフトはすべて開存(開存率100%,n = 8)しており,開存率は従来の吻合デバイスを用いた方法(開存率 66%,n = 6)よりも大幅に改善した.【結語】アルコールによる短時間処理によってバイオチューブの吻合操作性が格段に高まり,人工物である吻合デバイスの使用を回避することができた.短期でのバイオチューブ開存性は極めて良好であり,今後は移植後長期におけるグラフト評価も行う予定である.

O23-3バイオチューブ小口径代用血管の開存性向上の工夫

国立循環器病研究センター研究所 生体医工学部 医工学材料研究室 1

国立循環器病研究センター研究所 画像診断医学部 2

京都府立医科大学 心臓血管外科 3

山南 将志○ 1,水野 壮司 1,圓見純一郎 2,飯田 秀博 2

神田 圭一 3,夜久  均 3,中山 泰秀 1

【背景】現在,血管外科領域において,大中口径の代用血管として特に異種タンパク被覆のポリエステル製人工血管が広く使われているが,異種タンパク由来の感染症と反応性炎症(術後発熱,漿液貯留等)の危険性は残る.また,小口径人工血管は開存率低く,未だ自己血管に並ぶものはない.一方,絹自体は長年縫合糸として手術に使われ,歴史的にも安全性が高い天然素材である.絹糸の構成タンパクであるフィブロインは抗原性が低く,繊維以外にも液状やスポンジ状等に加工ができる.以上から再生医療材料の分野で注目され,多くの研究が行われている.基礎実験でフィブロインは細胞生着良好で低血栓性の可能性がみられた.そして,これまでに我々は精製加工した絹フィブロインを用いた人工血管の移植経験を報告してきた.今回,中長期的な経過と併せ,移植した絹フィブロイン人工血管について病理組織像を踏まえて報告する.【目的】臨床応用へ向け,動物実験にて絹フィブロイン由来人工血管の生体内での変化をみる.【方法】各種(フィブロイン,ゼラチン等)被覆のフィブロイン繊維又はポリエステル繊維の自作グラフトを用いて,ビーグル成犬の腹部大動脈(径 6mm,8~10cm長)及び頚動脈(径 3.5mm,5~7cm長)を置換した.エコーで開存評価を行い,開存状況に応じてグラフト採取し組織学的に検討した.【結果】中口径モデル(径 6mm)において,フィブロイングラフトでは早期閉塞はなく,ゼラチン被覆グラフトで見られた著明な周囲漿液貯留は生じなかった.小口径モデル(径 3.5mm)において,ポリエステルグラフトでは早期閉塞したのに対し,フィブロイングラフトでは内膜肥厚閉塞を来したが早期閉塞は少なく 3~6ヶ月以上の開存が得られた.採取したフィブロイングラフトでは組織学的にも器質化が極めて良好であった.耐久性については,中口径モデルで 1年半後,小口径モデルで 6か月後までは破綻・仮性瘤を認めていない.【考察・結語】フィブロイングラフトは,中口径において開存性は現在の市販人工血管に劣らないと考えられる.小口径では,内膜肥厚閉塞の問題があるが,ポリエステルグラフトより開存が得られる可能性がある.これらは,フィブロインに高い組織親和性があり早期に内皮化が進むことによると考えられる.今後,さらに長期的な耐久性の観察と長期開存の向上に改良の余地はあるが,絹フィブロインを用いることで優れた人工血管開発につながる可能性がある.

O23-2絹フィブロイン人工血管の移植に関する検討

東京大学 血管外科

山本  諭,岡本 宏之,白須 拓郎,芳賀  真 ○望月 康晃,松倉  満,赤井 隆文,谷口 良輔

根本  卓,西山 綾子,保坂 晃弘,保科 克行

重松 邦広,宮田 哲郎

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 331

255

【背景と目的】冠動脈バイパス術および四肢末梢血管疾患における外科的血行再建術において自家静脈グラフトが重要な位置を占めることに異論はない.しかし,その開存率は未だ満足すべきものではない.microRNA-145(以下 miR-

145)は血管平滑筋フェノタイプを増殖型から分化型へ制御することで,その増殖を抑制して内膜肥厚を抑制すると報告されてきた(Chen Y. Circ Res. 2009;105:158-166).今回,我々は miR-145を従来のウイルスを用いた遺伝子導入法ではなく,エレクトロポレーション法にてウサギ頸動脈バイパスモデルに応用し,グラフト内膜肥厚抑制効果を検討した.【方法】日本白ウサギ頸動脈を,下記 2群に分けて自家頚静脈グラフトにてバイパス置換し 4週間後の内膜 /中膜面積比を計測して内膜肥厚抑制効果を比較検討した.コントロール群:遺伝子導入なし,miR-145群:miR-145発現プラスミドをエレクトロポレーション法にて自家静脈グラフトに遺伝子導入した群.また同時に SM-1および SM-2

(平滑筋分化の指標),Ki-67(細胞増殖の指標)にて免疫染色を行い両群間で比較検討した.【結果】4週間後の内膜 /

中膜面積比は有意に miR-145群で小さかった(1.129±0.233

vs 0.216±0.043,p< 0.01).また SM-1および SM-2免疫染色においても miR-145群において,より増殖型が抑制されていると考えられた.Ki-67を用いた免疫染色でも miR-

145群において内膜肥厚部の細胞増殖が抑制されていた.【結語】血管平滑筋フェノタイプを分化型へ制御できるmiR-145を自家静脈グラフトへ遺伝子導入することで静脈グラフトの開存率を改善でき,さらにはウイルスを用いない遺伝子導入法により基礎研究段階から臨床応用への可能性も拡がったと考えられた.

O23-5自家静脈グラフトにおける microRNA-145を用いた血管平滑筋制御

京都大学 心臓血管外科 1

国立循環器病研究センター2

大仲 玄明○ 1,丸井  晃 1,山原 研一 2,南方 謙二 1

山崎 和裕 1,熊谷 基之 1,升本 英利 1,池田  義 1

坂田 隆造 1

【背景】バイパス術後 2年程度に自家血管グラフトに発生する内膜肥厚は,グラフト狭窄から再手術を余儀なくさせ開存率を低下させる重大な問題であるが,これに対する根本的な抑制治療法は未だ未確立である.我々はこれまでに治療ターゲットとして報告されてきた E2F,NFkB,MAPK

などを同時に抑制できる新たな治療用分子 cold shock do-

main protein A(CSDA)を同定した.【目的】CSDAのグラフト内膜肥厚抑制効果を細胞,動物モデルのレベルで明らかにする.【方法】血管平滑筋細胞に CSDAを導入し増殖能,遊走能をMTS assay,Boyden chamber法で評価する.またレポータージーンで E2F,NFkB,MAPKなどの活性を測定する.さらにワイヤ障害による内膜肥厚誘導マウスモデルに CSDAを遺伝子導入し内膜肥厚抑制効果を評価する.【結果】細胞実験では,CSDA遺伝子導入により増殖能,遊走能共に抑制されていた.またレポータージーンによる活性の評価では E2F,NFkB,SRE,CRE,HIF の全てでCSDA導入群が有意に低く,CSDAが血管平滑筋細胞の活動を抑制することが明らかとなった.CSDAは CT richな遺伝子配列に結合し,転写因子がこの配列に結合することを抑制することでアンタゴニストとして機能することがGel shift assayで明らかとなった.また CSDAは低酸素などのストレス環境下で遺伝子発現が増強することが real

time PCRで明らかとなり,内膜肥厚形成時の発現変化が生体内の反応に関与していることが示唆された.マウス大腿動脈をワイヤ障害し内膜肥厚を誘導し,超音波法でCSDAを遺伝子導入して観察中である.こちらの結果もあわせて報告する.【まとめ】これまで多くの分子が内膜肥厚抑制に試みられてきたが臨床で成功したものはない.CSDAはこれまで報告のあった多くの分子の機能を一つの分子で抑制することが可能な多機能分子であり,新たな治療用分子として有望であると考えている.

O23-4新規治療用遺伝子 CSDAによる血管内膜肥厚抑制療法の開発

旭川医科大学 血管外科 1

旭川医科大学 2

齊藤 幸裕○ 1,東  信良 1,笹嶋 唯博 2

332 日血外会誌 22巻 2号

256

高安動脈炎は大動脈とその主要分枝及び肺動脈,冠動脈に狭窄,閉塞又は拡張病変をきたす原因不明の非特異性炎症性疾患である.今回我々は,高安動脈炎により両側肺動脈に狭窄をきたした症例に人工血管置換術を施行した 1例を経験したので報告する.症例は 59歳男性,2ヶ月前から増悪する激しい呼吸困難を主訴に当院を受診した.血液検査では白血球数 8750/μl,CRP4.5mg/dlと炎症反応を認めた.免疫学的検査では免疫グロブリン(IgG)の増加を認めたが,C-ANCA,P-ANCAともに陰性であった.HLAタイピングでは A2,A31,B61,B51が陽性であった.経胸壁心エコー検査では右房と右室の著しい拡大と重度の三尖弁逆流を認め圧較差は 75mmHgであった.肺動脈弁には逆流や狭窄を認めなかった.左室駆出率(EF)は 41%で壁運動異常を認めなかった.CT検査では肺動脈幹の著しい壁肥厚と左右肺動脈の高度の狭窄を認めた.右心カテーテル検査では肺動脈主幹部と右肺動脈の圧較差は 60mmHgであった.手術は,人工心肺下に肺動脈主幹部と左右肺動脈を径 16mmの人工血管を用いて置換した.肺動脈弁は正常であり,置換を必要としなかった.三尖弁輪形成術を 32mm

人工弁輪を用いて施行した.著しい肺水腫をきたし人工心肺からの離脱は困難であったため,Percutaneous cardiopul-

monary support(PCPS)下に ICUへ帰室した.術後 5日目にPCPSより離脱し,9日目に人工呼吸器から離脱した.日本循環器学会のガイドラインにもとづいてプレドニン20mg/dayを投与.抗凝固薬としてワーファリンを使用した.切除した肺動脈壁の病理組織学的初見は高安動脈炎に一致した.術後心エコー検査では三尖弁の逆流は軽度で圧較差は 38mmHg,EFは 56%と改善していた.術後 CT検査では置換した人工血管に異常はなく,残存狭窄は認めなかった.手術後 7週目に施行した心カテーテル検査では,肺動脈主幹部と右肺動脈の圧較差は 6mmHgまで減少し,症状は消失した.

O24-2肺動脈の高安動脈炎に対して肺動脈置換術を施行した1例

尾道総合病院 心臓血管外科

森藤 清彦,濱本 正樹○

【目的】現在血管新生療法は骨髄や末梢血単核球自家移植が中心となっているが,侵襲と効果の不均衡が問題となっている.脱分化脂肪細胞(dedifferentiated fat cell: DFAT)は,わずかな成熟脂肪細胞から得られ,間葉系幹細胞に類似した高い増殖能と多分化能を持つことが明らかになっている.本研究ではブタ虚血肢モデルに対する DFATの自家移植での虚血改善効果を検討した.【方法】雄性ブタ(30kg)を用いて頸部より得た皮下脂肪組織から DFATを調整した.全身麻酔下に両下肢大腿動脈を 10cm長にわたり結紮切除することによりブタ両側下肢虚血モデルを作製した.虚血作製と同時に(プロトコール 1 ; n=6)また,虚血作製後 1週間目に(プロトコール 2 ; n=5)片側の虚血肢大腿筋肉内に1×10 7 /10mlのDFATを投与した(DFAT肢).なお,もう一方の虚血肢は同量の生理食塩液を投与して Control

肢とした.両側下肢の経皮酸素分圧(transcutaneous oxygen

tension: TcPO2)を 1週間毎に 4週目まで計測し,DFAT

移植による血管新生作用を評価した.【結果】プロトコール1,2両群とも平均 TcPO2(mmHg)が移植後 1,2週後にDFAT肢で Control肢に比して有意に上昇した.DFAT肢では平滑筋を伴う成熟した微小血管が有意に増加しており,血管造影では側副血行路の増加が活発な傾向が見られた.【結論】ブタ下肢虚血モデルを用いた二つの実験系からDFATの自家移植は虚血改善の効果を示す傾向が明らかになった.DFATは高齢者や骨髄炎合併症例からも低侵襲性に調製できるため,難治性末梢血管病に対する細胞治療の新たな細胞源として期待できる.

O23-6ブタ虚血肢モデルに対する脱分化脂肪細胞自家移植の効果

日本大学 心臓血管・呼吸器・総合外科 1

日本大学 生物資源科学動物生体機構学研究室 2

日本大学 細胞再生移植医学 3

河内 秀臣○ 1,前田 英明 1,梅澤 久輝 1,服部  努 1

中村 哲哉 1,梅田 友史 1,飯田 絢子 1,加野浩一郎 2

松本 太郎 3,塩野 元美 1

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 333

252

近年,大静脈への浸潤を伴う悪性腫瘍あるいは大静脈由来の腫瘍に対し,積極的に大静脈の切除を行う外科的治療が行われるようになった.しかし,大静脈再建において,補助循環使用の有無,再建材料の選択など議論のあるところである.当科で経験した大静脈再建術を検討した.2009

年 7月より 2012年 8月に 4例の大静脈再建を経験した.男性 3例,女性 1例,年齢 28~57歳.組織型は肺癌 1例,胸腺癌 1例,精上皮腫 1例,平滑筋肉腫 1例であった.上大静脈再建が 3例,下大静脈再建 1例であった.1例は右腕頭静脈と右房間に一時的にバイパスをおいたが,その他は単純遮断で再建した.再建方法は,2例は人工血管を使用し置換した.2例はパッチによる再建を,自己心膜パッチ 1例,goretex心膜パッチを 1例で使用した.全症例で,術後に抗凝固を行った.人工血管置換を行った2例のうち,1例は術後 3年目に吻合部狭窄を認めステント留置を行った.1例は術直後にグラフト壁に血栓形成を認めたが,抗凝固療法により消失した.パッチ形成した 2例は,特に血栓閉塞や狭窄は認めていない.すべての症例とも術後再発は認めていない.パッチによる再建では血栓や狭窄は認められなかったが,人工血管による再建では血栓形成が危惧されるため,十分な抗凝固療法が必要と考えられた.

O24-3当科における大静脈再建術の経験

熊本大学 心臓血管外科

坂口  尚,岡本  健,田爪 宏和,川筋 道雄○

健診の胸部レントゲン検査で異常陰影を指摘された 73歳男性.胸部 CTにて前~中縦隔に腫瘤を認めた.当院呼吸器外科で胸骨正中切開アプローチの摘出術を施行したが,右房壁と腫瘍は強固に癒着しており,人工心肺下に右房壁を合併切除する方針となり心臓血管外科コンサルトとなった.SVC(28Fr),Rt. Femoral vein(PCPS用 27Fr)からの 2

本脱血,Rt. Femoral artery(PCPS用 22Fr)送血で体外循環を確立し,右房壁と腫瘍を合併切除した.切除後直径 4cm

の欠損が生じたため,ウシ心膜を用いて右房再建を行った.触診上,Rt. innominate vein,SVC双方の右側面に腫瘍の浸潤と思われる硬結を触れた.術中病理診断(胸腺腫B3あるいは胸腺癌)から悪性腫瘍も否定できず,人工血管を用いて静脈再建を行う方針とした.Lt. innominate veinをtapingし,tapingの中枢側で cut down,ringed PTFE人工血管(10mm)を挿入し,Lt. innominate veinの上から人工血管を二重結紮,固定した(無縫合挿入固定法).その後,右心耳にタバコ縫合をかけ,その中心を切開,人工血管の中枢側を挿入し,タバコ縫合を結紮,さらに絹糸で二重結紮し固定した.Rt. Innominate veinについても同様に無縫合挿入固定法を用いて静脈再建を行った.経過は良好で術後18日で退院となり,術後 3ヶ月の造影 CTで良好な flowが確認された.なお,摘出標本の病理診断は Combined B2/

B3 thymomaで胸腺癌を示唆する CD5陽性像は見られなかった.しかし,周囲への浸潤傾向は強く,生物学的悪性度は高いとの判断であった.なお,切除断端は陽性であり,再発の危険性が指摘されたが,術後半年の CTでも再発は指摘されていない.無縫合挿入固定法では縫合操作がなく,手技が簡便である上,吻合部屈曲が生じず,スムーズな血流を維持できる.このため人工血管閉塞のリスクが軽減でき有効な方法と考えている.

O24-2上大静脈から右房に浸潤する縦隔腫瘍の摘出に際し,無縫合挿入固定法で静脈再建を行った一例

国立国際医療研究センター 心臓血管外科

森村 隼人,保坂  茂,福田 尚司,秋田 作夢 ○戸口 幸治,寺川 勝也,陳   軒,泉二 佑輔

334 日血外会誌 22巻 2号

252

平滑筋肉腫は比較的希な腫瘍である.原発となる臓器は子宮・腸管・血管など様々である.自覚症状に乏しく,周囲臓器を圧迫するほど拡大また浸潤してはじめて症状が出ることが多い.治療方法は手術による完全切除が基本であり,化学療法・放射線療法による治療効果は低い.腫瘍が血管原発もしくは血管にも浸潤している場合,腫瘍の完全切除のために血行再建が不可避となる.今回,我々は血行再建を要した平滑筋肉腫の 3例を経験したため,多少の文献的考察を加えて報告する.症例 1は 68歳,女性.尿失禁・頻尿を主訴に近医を受診した.子宮に腫瘍を指摘され,子宮摘出術と両側付属器切除術を施行した.病理診断は子宮原発の平滑筋肉腫であった.以後は外来での経過観察となった.2年後,再び下腹部違和感と排尿困難を自覚し,精査を施行した.平滑筋肉腫の再発であり,下大静脈・腸管などの周囲臓器への浸潤を認めた.手術は2期的に行った.1期目に大腿静脈間バイパス術を行い,2期目に静脈合併切除骨盤内臓器摘出術,左外腸骨静脈-下大静脈置換術,両側尿管皮膚瘻造設術と人工肛門造設術を施行した.術後経過は比較的良好で術後 48日目に退院となった.症例 2

は 61歳,女性.腹痛を主訴に近医を受診した際に,CTにて下大静脈に腫瘍を指摘した.手術は腫瘍を下大静脈と合併切除し,人工血管置換を行った.病理診断は下大静脈原発の平滑筋肉腫であった.術後経過は良好で術後 20日目に退院となった.症例 3は 86歳,男性.S状結腸癌にて結腸切除術と人工肛門造設術の既往があり,人工肛門直下に腫瘤を自覚した.生検にて腸管原発の平滑筋肉腫と診断した.手術は腫瘍摘出術と左外腸骨動脈合併切除術を行い,外腸骨動脈は人工血管再建を施行した.術後 22日目に退院となった.

O24-5血行再建を要した平滑筋肉腫の 3例

高知大学医学部 外科2

近藤 庸夫,山本 正樹,西森 秀明,福冨  敬 ○割石精一郎,木原 一樹,田代 未和,渡橋 和政

腎細胞癌は腫瘍血栓を形成し腎静脈から下大静脈,さらには右心房へと進展する特徴を有 しており,腫瘍血栓が下大静脈まで進展している頻度は全腎細胞癌で多くはないが,近年,腫瘍血栓を伴った腎細胞癌患者にも積極的に手術が施行される傾向にあり,転移がなく完 全摘出が可能であった症例の長期生存例が数多く報告されている.当科でも泌尿器科と連携し,遠隔転移のない症例には積極的に手術を行っている.そこで,当科で経験した下大静脈腫瘍血栓を伴う腎細胞癌症例について,手術成績を中心に臨床的検討を行った.対象は,2010年 1月から 2012年 11月に行われた腎細胞癌手術のうち腫瘍血栓が下大静脈に進展していることが確認された 7例を対象とした.男性 5例,女性 2例 で,年齢 46歳から 75歳(平均 61.6歳),原発腫瘍は右側が 6例,左側 1例であった.Novickの分類に従い,下大静脈腫瘍血栓の先端の位置により分類すると,レベル1(perirena1:腎静脈流入部より2cm 未満の下大静脈内)1例,レベル 2(infrahepatic:肝下縁まで)0例,レベル 3(intrahe-

patic:肝静脈流入部まで)3例 および レベ ル4(suprahepatic:肝静脈流入部を超える)3例であった.術前検査で所属リンパ節,遠隔転移ともに認められなかった全例に,腎摘除術および下大 静脈腫瘍血栓摘出術が施行された.1例で,腫瘍血栓の静脈壁への癒着が認められず,4例で下大静脈壁を切開し腫瘍血栓を取り出す venacavotomyが行われた.2例で腫瘍血栓が一部静脈壁に癒着していたため下大静脈壁部分切除を併せて行う partial mural venacavectomyが施行された.6例で人工心肺を使用した.平均手術時間は 14

時間 10分,平均出血量は 2,744mlで,レベル 2以上の 6

症例では 4,000ml以上の出血量もあった.なお,術中術後に重篤な合併症は経験されなかった.下大静脈内腫瘍栓に対する外科治療成績は満足すべきものであり,肺塞栓予防や腫瘍減少効果を期待し積極的に施行すべき外科治療と考えられる.

O24-4腎腫瘍に併発する下大静脈内進展塞栓症における外科治療

帝京大学 心臓血管外科 1

帝京大学 泌尿器科 2

今水流智浩○ 1,池田  司 1,原田 忠宜 1,太田 浩雄 1

原  真範 1,藤崎 正之 1,尾澤 直美 1,松山 重文 1

山口 雷蔵 2,堀江 重郎 2,下川 智樹 1

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 335

252

【背景】透析バスキュラーアクセスの治療にでは,超音波ガイド下血管内治療(以下,U法)を行ってきた.従来法(透視下・造影剤使用,以下 A法)と違い,造影剤のまわらない血管も認識・評価できるので,閉塞性病変において,その有益性を示すことができると考えられ,検討した.【対象・方法】当院で U法を開始した 2010年 5月から 2012年9月までの全 442症例(U法 183例を含む)を対象とした.閉塞症例は,48症例あり,うち U法は,31症例であった.平均年齢 68.9歳,男 /女比 19/12,血栓性閉塞 /非血栓性閉塞 21/10であった.成功率,開存率,合併症について,A法閉塞症例と,また狭窄症例と比較検討した.【結果】U

法初期成功率は,96.8%(30/31)で,A法では,88.2%(15/17)であった.また,A法は,出血・穿孔例が 17.6%例(3/17)みられたが,U法では,0例であった.1次開存率(半年)58.3%,2次開存率(1年)86.2%であったが,A法では,それぞれ 44.6%,81.6%であり,統計的有意差はなかった(p=

0.138,p=0.874).同時期の U法狭窄症例 194例では,1次・2次開存率は,それぞれ 56.7%,88.3%で,統計学的有意差はなかった(p=0.802,p=0.351).【考察】U法では,詳細な血管構造,立体的関係がリアルタイムに把握できるので,ガイドワイヤー・カテーテルの subintimal spaceへの迷入を即座に認識し,真腔を crossしていることを確認することができるので,これが穿孔・出血等の合併症予防につながると考えられる.また,閉塞症例でも狭窄症例と同等の開存率を保てることがわかったので,閉塞症例で安直に再建術を行う前に血管内治療を考慮する意義が十分あると考えられる.【結語】閉塞性病変に対しても U法は,手技的安全性を高め,成功率を上げることが可能な優れた方法であると考えられた.

O25-2透析内シャント・閉塞性病変に対するエコーガイド下血管内治療の検討

豊島中央病院

岩嵜 友視○

【目的】社会の高齢化によって長期間の透析が必要になる場合があり,それに伴い内シャントのトラブルが増加する一方,使用可能な血管は限りがある.そのため,内シャントトラブルに対する姑息的治療法としての血管形成術(PTA)について開存率を示し,有効性を検討する.【方法】当院で2009年 9月から 2012年 10月に施行した内シャント PTA

120例(平均 66.6±13.7歳)について開存率を検討する.【成績】対象となった内シャントは自己血管 72本人工血管 48

本,平均日齢は 873.2±1009(12~3657)日であり,血栓閉塞による緊急症例は 27例であった.カプランマイヤー法での一次開存率は 30日 89.3%,90日 65.3%,180日 41.0%,二次開存率は 30日 92.9%,90日 84.9%,180日 75.1%であり,一次開存率は緊急症例(logrank p=0.0007)で有意に開存率が低かった.人工血管症例に限ると,一次開存は血栓閉塞例で有意差を認めなかったが(logrank p=0.211),二次開存は有意に開存率が低かった(logrank p=0.0125).また,当科では超高耐圧ノンコンプライアントバルーンを積極的に使用している(n=22)が,一次開存率では有意差は無いものの 90日開存率で優れ(74.1%vs 64.9%),二次閉塞症例は今のところ認めていない.【結論】当院における内シャント PTAの開存率は満足のいくものであり,積極的に使用可能である.人工血管使用症例では,内シャントが急性血栓閉塞を起こす前に,透析時の血流低下など狭窄を疑わせる所見を認めたら,シャント PTAを念頭においてシャント造影など精査を行うのが望ましい.超高耐圧ノンコンプライアントバルーンは開存率に優れている可能性がある.

O25-2当院における内シャント PTAの開存率と使用バルーンによる差異

財団法人 倉敷中央病院 心臓血管外科

片山 秀幸,小宮 達彦,坂口 元一,島本  健 ○二神 大介,植木  力,伊集院真一,植野  剛

西田 秀史,古賀 智典,藤本 将人,山中  憲

336 日血外会誌 22巻 2号

260

症例は 49歳男性.腹部打撲後腹痛続き救急搬送.消化管穿孔の診断で試験開腹術を施行した.開腹すると空腸が一部挫滅して穿孔しており,病変部を切除し小腸吻合した.その後徐々に状態改善したが,退院予定日の前日夜に突然大量下血あり出血性ショックとなった.緊急消化管内視鏡検査施行するが上下部消化管には出血源無く,小腸からの出血が疑われた.小腸のどの部位から出血しているかは不明であったが出血持続しバイタル不安定で輸血も大量に必要であったため再度試験開腹に踏み切った.開腹ではやはり出血部位不明であったが術中の腹部血管造影で SMAの第 1分枝の末梢から小腸内に出血している所見あり,その部位にマイクロカテをすすめ色素を動注,肉眼的に出血責任部位を同定し小腸を切除した.その後順調に回復し独歩で退院した.病理組織検査の結果 HETEROTOPIC MESEN-

TORIC OSSIFICATION という極めて稀な腸間膜の病変があり,それも今回の突然の小腸出血の一因として考えられた.突発性小腸出血と HETEROTOPIC MESENTORIC OS-

SIFICATIONに関し,若干の文献的考察を加え報告する.

O25-4術中血管造影で診断に到った小腸出血の一例

湘南藤沢徳洲会病院 外科

高木 睦郎,渡部 和巨○

【目的】近年,透析患者の予後改善に伴い,長期維持透析の患者が増加している.バスキュラーアクセスは自己血管による内シャント(AVF)が第一選択となるが,透析歴の長期化や透析患者の高齢化・複雑化により,自己血管を使用したバスキュラーアクセスが作成困難な症例がおり,透析用人工血管の移植が必要となる.今回,当院における人工血管内シャント(AVG)症例の成績を検討した.【対象】2010

年 1月から 2012年 10月で当院で施行したブラッドアクセス関連手術 933例中で AVG症例の 56名 63例(6.8%)について検討した.【結果】男性 24例,女性 39例,平均年齢64.3±13.7歳,平均透析歴 9.3±11.1年であった.観察期間は平均 16.7ヶ月(1~34ヶ月)で経過中 2例に死亡を認めた.人工血管移植部位は前腕ループ 16例(右 9例,左 7例),上腕ループ 36例(右 8例,左 28例),大腿ループ 11例(右5例,左 6例)であり,移植された人工血管はアドバンタ59例,ソラテック 4例,人工血管径は 5mm35例,6mm28

例であった.移植後に治療を介入していない状態を一次開存,血栓除去術や経皮的血管形成術などの治療介入を要したが救済可能であった状態を二次開存として累積開存率を求めると,一次開存率は 6ヶ月 61.3%,1年 58.7%,2年50.6%であり,二次開存率は 6ヶ月 91.0%,1年 86.0%,2

年 86.0%であった.内シャント不全の原因は,静脈側吻合部狭窄・閉塞 4例,人工血管感染が 3例であった.閉塞寄与因子を検討したところ,性別,糖尿病の有無,人工血管の径,移植部位で有意差はなかった.【結論】当院における人工血管内シャントの成績は比較的良好であり,透析用バスキュラーアクセスとして有用であった.今後も長期的なフォローが必要である.

O25-3当院における人工血管内シャント症例の検討

市立札幌病院 循環器センター 心臓血管外科

黒田 陽介,宇塚 武司,中村 雅則,渡辺 祝安○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 337

262

【目的】手術において止血は重要な課題の一つである.特に緊急手術では出血コントロールがつかず失う症例もある.緊急手術において凝固能検査である ROTEM(Rotation throm-

boelastometry)を用いた術中輸血管理が有用か検討した.【方法】対象は大血管緊急手術症例とした.2011年 120例中15例;C群と 2012年 ROTEM使用症例 85例中 10例;R群について検討を行った.術中の輸血の管理についてROTEM

の測定結果による介入を行った.全血検体を用いたフィブリノゲン測定を中心に置き低値であれば心肺中から新鮮凍結血漿(FFP)による十分なフィブリノゲンの補充を行なった.FIBTEM A10(測定 10分後の血餅硬度でフィブリノゲン値と相関があり約 12分で測定可能)の値が 10mm以上を目指した;正常値 7-23mm.【結果】術前因子:年齢(才);

mean(SD)は C群が 68.7(14.0),R群が 65.7(14.1),女性(人); n(%)は C群が 12(80.0),R群が 4(40.0)であった.術中術後因子:手術時間(min); mean(SD)は C群が 539

(255),R群が 468(178),人工心肺時間(min); mean(SD)はC群が 275(140),R群が 239(77),大動脈遮断時間(min);

mean(SD)は C群が 129(39),R群が 133(46),術中ヘパリン量(ml); mean(SD)は C群が 23.0(5.3),R群が 25.0(9.5)であった.術中出血量(ml); mean(SD)はC群が2639(2920),R群が 1632(1838)であった(P=0.36).術後 24時間の出血量(ml); mean(SD)は C群が 835(743),R群が 551(502)であった(P< 0.05).術中輸血量(ml); mean(SD)は赤血球濃厚液(RCC)について C群が 1231(1181),R群が 722(926)(P=0.25),FFPは C群が 1724(1446),R群が 1900(1906)(P=0.36),血小板製剤(PC)は C群が 513(374),R群が 222

(210)であった(P< 0.05).術中と術後 24時間の輸血総量(ml);mean(SD)は RCCについては C群が 1300(1337),R

群が 780(999)((P=0.33),FFPは C群が 2020(1775),R群が 2000(2013)((P=0.24),PCは C群が 593(471),R群が356(279)であった((P< 0.05).R群の術中最終 FIBTEM

値(A10)は 15.1±6.0mmであった.【結語】ROTEMの導入による迅速なフィブリノゲン測定と補充により術後出血量は有意に減少した.術中出血量は有意差が出るほどの減少ではなかったが輸血量については血小板製剤使用量について有意な減少が認められた.

O26-2ROTEM(Rotation thromboelastometry)を用いた大血管緊急手術における術中輸血管理

弘前大学医学部 胸部心臓血管外科

小笠原尚志,皆川 正仁,服部  薫,齊藤 良明 ○野村 亜南,福田和歌子,渡辺 健一,近藤 慎浩

谷口  哲,大徳 和之,福井 康三,鈴木 保之

福田 幾夫

下肢静脈瘤の術前マッピング超音波検査における検査時間の短縮を目的として,比較的細い血管および拡大した血管の逆流時間の測定を省略できるか否か検討した.対象は健常者 82肢,一次性下肢静脈瘤患者 205肢で伏在静脈の血管径と逆流時間を 7.5MHzリニア型探触子で計測した.血管径と逆流時間の間に明らかな相関は認めず,血管径から逆流時間を推測することは困難だった.しかし,血管径が大伏在静脈大腿上部 8.1mm以上,膝部 6.8mm以上,小伏在静脈膝部で 7.2mm以上の場合,全例で逆流があり,逆流時間の測定を省略可能だった.また全測定部位において血管径 1.9mm未満の場合,逆流が無いと予想され逆流時間測定が省略可能だった.この基準を使用すると,全体の27.5%の Duplex検査が省略可能となった.

O26-2Duplex超音波検査法による伏在静脈の血管径と逆流時間の関係 ─検査時間短縮を目的として─

横浜南共済病院 心臓血管外科 1

横浜市立市民病院 検査部 2

出淵  亮○ 1,孟   真 1,橋山 直樹 1,安達 隆二 1

田中稚佳子 2,中村 道明 2

338 日血外会誌 22巻 2号

262

【はじめに】当科では,腹部大動脈人工血管置換術の術前・術後にルーチン検査として血圧脈波検査装置を用いて an-

kle brachial pressure index(ABI)の測定を行っているが,同時に cardio ankle vascular index(CAVI)が測定される.CAVI

は動脈の硬さを反映する指標であり,その値が高ければ心負荷も高くなると考えられる.腹部大動脈人工血管置換術の前後での CAVI値の変化について検討した.【対象と方法】2010年 6月から 2012年 9月の間に,当科で行われた腎動脈下腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術は 35例であったが,最も多く使用したインターガードウーブン(27例)の症例で検討した.緊急で術前に測定できなかった症例(3

例),術後測定ができなかった症例(1例),内腸骨動脈を結紮した症例(4例),ABIが 0.9未満の症例(4例)を除外した 15例 30肢を対象にした.CAVIの計測は,フクダ電子製 VaSera VS-1000を用い,術前と術後 7日以内に行った.【結果】男性 12例,女性 3例,平均年齢は 76.0±7.1歳.グラフトのサイズは直型 5例(16mm 3例,18mm 1例,20mm

1例),分岐型 10例(18× 9mm 4例,20× 10mm 5例,22

× 11mm 1例)であった.術前の CAVI値の平均は 9.67±1.03(最小 7.8,最大 11.5),術後の CAVI値の平均は 10.12

±1.38(最小 7.5,最大 13.3)で,有意に術後の CAVI値のほうが高かった(p< 0.01).【考察】術前後で CAVI値が大きく変化するとすれば,術後の心負荷の大きさも変化するものと予想される.今回の検討では,術前よりも術後にCAVI

値は高くなる傾向がみられた.動脈瘤の破裂予防の観点から人工血管置換は必要な処置であるが,新たな心負荷を生じる可能性があることが示唆された.

O26-4腎動脈下腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術前後のCAVI値の変化に関する検討

獨協医科大学日光医療センター 心臓・血管外科 1

獨協医科大学 心臓・血管外科 2

緒方 孝治○ 1,武井 祐介 1,松下  恭 2,山田 靖之 2

井上 有方 2,権  重好 2,桑田 俊之 2,土屋  豪 2

関  雅浩 2,桐谷ゆり子 2,福田 宏嗣 2

【目的】急性大動脈解離において,分枝灌流障害はいまだ十分克服し得ていない問題である.我々は分枝灌流障害を周術期にリアルタイムに評価する方法の一つとして経食道心エコー法(TEE)を用いてきたが,弓部分枝や腹部内臓分枝の描出法を理解することは必ずしも容易ではないため,TEEの利点が活かされていないのが現状である.そこで,CT画像データを利用しプローブ操作と TEE画像を関連づけるシミュレーションソフトを作製した.その詳細と課題について報告する.【方法】ソフトは Visual Basicを用いて作製した.インターフェースは断層像パネル,走査面表示パネル,プローブ操作パネルから構成され,プローブ操作パネルでプローブの深さ(前進,後退),回転角度(時計方向,反時計方向),先端の屈曲角度(上下・左右),走査面角度(0~180度)を入力すると,それに対応する走査面を走査面表示パネルに表示するとともに断層像を描出する.断層像は CT画像に加え,擬似エコー画像を表示する機能を加えた.擬似処理の条件は,(1)血液は無エコー,(2)結合織は低エコー,(3)空気や骨などは高エコーとし,空気や骨の後方に音響陰影を生じる設定とした.2正常症例のデータを用い一パッケージとした.【結果】ソフトは 200MB

程度で,通常のスペックの PCでスムーズに作動した.弓部 3分枝それぞれを弓部長軸像から描出する操作を TEE

と同様に再現することが可能で,気管により画像が妨げられる状況,それを解決する手法をもシミュレーションソフトで再現することが可能であった.一方,腹部内臓分枝,冠動脈についても同様に TEE操作を再現することが可能であった.【結語】このシミュレーションソフトはプローブ操作と画像のオリエンテーションの関連を表示でき,プローブ操作習得の一助となる可能性が示唆された.とくに描出が容易でなく従来 blind zoneと考えられてきた領域で大動脈解離の治療にとって重要な弓部分枝と内臓分枝の描出を修得する一助となる可能性が示唆された.今後,実際のプローブ操作を感知するセンサーを加えて,プローブ操作と直接連動する TEE画像表示を可能にしたい.

O26-3TEEシミュレーションソフトの開発 ―大動脈解離における分枝灌流障害評価への一助として

高知大学医学部 心臓血管外科

渡橋 和政○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 339

263

外膜嚢腫(Cystic Adventitial Disease)は外膜と中膜の間から発生し,嚢腫による圧迫の為に生じる非動脈硬化性の限局的動脈狭窄症で比較的まれな疾患である.多くは膝窩動脈に発症する.今回我々は嚢腫が体位により血管を圧迫することで阻血症状が出現する膝窩動脈外膜嚢腫を経験したので報告する.症例は 50代男性.建設業に従事.仕事中および運動中に見られる右下肢のしびれ,および 200m程度の間欠性跛行を主訴に当院受診.Ankle Brachial pressure

Indexは正常であった.念のため施行した血管超音波検査にて血流波形は正常であったが,膝窩動脈に血流のない低エコー性腫瘤を認め血管圧迫像を認めた.下肢 CTAでは多房性嚢胞状病変が膝窩動脈に認め,右膝窩動脈に高度狭窄を認めた.下肢MRI では T2強調像にて高信号に描出され花弁状の cystic lesionを認めた.以上より右膝窩動脈外膜嚢腫の診断に至り,症状の出現は膝の屈曲時,嚢胞が血管を圧迫することによる血流障害が原因と考え手術適応と判断した.手術は全身麻酔下に腹臥位にて右大腿下部内側から下腿外側にかけて S字切開,後方到達法にて膝窩動脈にアプローチ.膝窩動脈は長軸方向に膨隆していた.嚢腫のみの切除も考えたが境界不明瞭であり剥離は困難でであったため嚢胞を含め病変血管を切除,血行再建には吻合部膝窩動脈の径が 4mmであったため術中採取した同側の大伏在静脈を用いた自家静脈置換術施行した.切除標本では多房性の嚢胞状構造を認め膝窩動脈の圧迫を認めた.術後抗凝固剤の内服はアスピリンのほか発作性心房細動を認めるダビガトランの内服を継続している.術後経過は良好で術前認めた症状は消失し,CTAにても再発等は認めていない.治療に関しては CTや超音波ガイド下での嚢腫内容物の吸引,経皮的血管形成術,嚢腫切開,嚢腫壁切除術,自家静脈や人工血管を用いた血管置換術などの報告があるが確立された治療法はない.本症例は症状出現の状況,根治性を考慮し,自家静脈置換術を選択した.若干の文献的考察を加え報告する.

O22-2膝窩動脈外膜嚢腫の 1手術例

東邦大学医療センター佐倉病院 心臓血管外科 1

東邦大学医療センター佐倉病院 病理 2

東邦大学医療センター大森病院 心臓血管外科 3

益原 大志○ 1,徳弘 圭一 1,蛭田 啓之 2,徳山  宣 2

渡邊 善則 3,小山 信彌 3

症例は 66歳,男性.2006年 10月,慢性糸球体腎炎の精査目的に施行した CTで腎動脈下腹部大動脈瘤 49mmを認め,Y字型人工血管置換術(右内腸骨動脈閉鎖,左内腸骨動脈再建,下腸間膜動脈再建)を施行.経過観察中の CT

で左内腸骨動脈瘤および右大腿振動脈瘤を認めた.2011

年 1月には左内腸骨動脈瘤は 30mmまで増大したため,人工血管置換術を施行.2012年に右大腿深動脈瘤は急速に増大し 50× 43mmとなった.右下肢動脈はびまん性に石灰化しており将来の下肢虚血を危惧し,側副血行路となる大腿深動脈を再建する方針とした.手術は総大腿動脈も瘤化していたため総大腿動脈・浅大腿動脈・大腿深動脈を人工血管(総大腿動脈 -浅大腿動脈 Gelsoft(R)8mm,大腿深動脈 Gelsoft(R)6mm)で置換.また,外側大腿回旋動脈を 6mm

人工血管に吻合し再建した.大腿深動脈瘤の周囲への癒着はごく軽度であり,感染徴候も無かった.瘤を切開し内腔から観察すると穿孔は認めず真性瘤と診断した.術後経過は良好であった.大腿深動脈瘤は末梢動脈瘤のうち 0.5%と稀である.解剖学的に筋肉に囲まれており表在化し難く,周囲脈管・神経の圧排症状もあまり出現しないため破裂するまで気付かれないことも少なくない.しかし,他の動脈瘤を合併していることが多いため他部位の検索が必要である.本症例も左総大腿動脈瘤,両側膝窩動脈瘤を合併しており今後も経過観察が必要であると思われた.以上,若干の文献的な考察を加えて報告する.

O22-2大腿深動脈瘤を合併した多発性動脈瘤の 1例

筑波大学 心臓血管外科 1

筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心臓血管外科 2

三富 樹郷○ 1,佐藤 藤夫 2,川又  健 1,中嶋 智美 1

逆井 佳永 1,相川 志都 1,坂本 裕昭 2,榎本 佳治 2

金本 真也 2,平松 祐司 2,榊原  謙 2

340 日血外会誌 22巻 2号

264

症例は 67歳,男性.【現病歴】半年前に農作業中に農業用機械に右大腿部を挟まれ,挫傷を負った.他院に救急搬送され,大腿部挫滅部のデブリードマン治療を受けた.この際に右膝窩動脈,静脈の断裂が判明し,それぞれ端端吻合で再建術がなされた.7ヶ月後,右下腿の腫脹と足底部のしびれを主訴に,当院整形外科を受診した.造影 CTで右膝窩動脈第 2部に 4.5x4.0cm大の嚢状瘤を認めた.吻合部仮性動脈瘤と考えられたため,手術治療の方針とした.【手術治療】右膝窩動脈瘤に対して,後方アプローチで手術を行った.外傷,手術後の癒着を高度に認めた.膝窩動脈の中枢,末梢を確保し,遮断した.膝窩動脈瘤を切開し,中枢側は内腔側より縫合閉鎖した.左小伏在静脈を Reversed

graftで使用し,末梢を端端吻合で再建し,続いて中枢を側端吻合で再建した.手術時間 6時間 5分,出血量 751ml

であった.【術後経過】術後 CTで右膝窩動脈再建部は開存していた.足関節上腕血圧比(ABI)は右 1.04/左 1.04であった(手術前 ABI:右 1.21/左 1.12).右下腿の浮腫は圧迫療法で軽減したが,足底部のしびれは術前同様であった.術後 14日目に退院となった.【まとめ】本症例では膝上内側に外傷後瘢痕があったため,内側アプローチを回避した.また内側アプローチでの瘤空置+バイパスでは動脈瘤に血流が残る懸念があった.右膝窩動脈吻合部仮性動脈瘤に対して,後方アプローチで瘤切除+置換術を行い,良好な初期治療成績を得ることができた.

O22-4外傷性膝窩動脈断裂の修復後に生じた吻合部仮性動脈瘤の 1手術例

桐生厚生総合病院 外科

出津 明仁,飯島  岬,野尻  基,寺林  徹 ○横井  剛,高良 大介,広松  孝,待木 雄一

動静脈瘻は動脈と静脈が異常な交通を生じた病態で,血行動態としては左→右シャントを呈する.原因は外傷性や医原性が多く,血管損傷の 2~4%に続発すると報告されている.症状は動静脈瘻の存在部位やシャント量,病納期間により多彩であり,診断も動静脈瘻の存在を疑い画像診断を行わなければ困難なことが多い.今回,我々は高拍出性心不全の精査中に発見された左浅大腿動静脈瘻の 1例を経験したため,若干の文献学的考察を加えて報告する.症例は 63歳男性.既往歴として約 40年前,左大腿部に鋭利な刃物による刺創を受傷し,皮膚縫合のみ施行された.2007

年より近医で心不全と診断され内服加療を開始するも 2012

年 5月から自己中断していた.同年 7月中旬,夜間呼吸苦を主訴に前医受診.心不全増悪の診断で同日当院紹介され,緊急入院となった.入院時,左下肢は全体が腫大し,下腿中心にうっ滞性皮膚炎が認められた.左大腿部上 1/3

部に 40年前の刺創痕を認め,同部を中心に thrillを触知した.胸部レントゲンは心陰影拡大(CTR:70%),肺うっ血を認め,心エコーでは低左心機能(EF:41%,no asynergy)を認めたが,明らかな弁膜症は認めず,冠動脈造影検査でも有意狭窄は認めず,冠動脈疾患も否定された.Swan-gantz

catheterによる心内圧測定で右心系の圧上昇を認めた.C.

O.:14.5L/min,C.I.:7.7L/min/m2といずれも異常高値であり,高拍出性心不全と診断された.下肢血管エコー検査で左浅大腿動静脈瘻の存在が疑われ,造影 CT・血管造影検査で確定診断となった.動静脈瘻より中枢側の動静脈,特に静脈系には著明な拡張が認められた.40年前の刺創受傷時に動静脈瘻を続発し,左→右シャントが長年継続した結果,高拍出量性心不全を発症したと判断し,瘻孔閉鎖術(直接縫合閉鎖)を施行した.術後拡張した左浅大腿静脈内に深部静脈血栓症を併発したため回収可能型 IVC filter留置を要したが,心不全は速やかに改善した.その他の経過は良好であり,自宅へ独歩退院可能であった.

O22-3高拍出性心不全を契機に発見された左浅大腿動静脈瘻の 1例

宮崎県立延岡病院 心臓血管外科

横田 敦子,中村 栄作,新名 克彦,児嶋 一司○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 341

265

【はじめに】重症下肢虚血で distal bypassを必要とする症例では,前脛骨動脈,後脛骨動脈,腓骨動脈それぞれの間をつなぐ血管が乏しいにもかかわらず,末梢吻合可能な動脈が限定されてしまう場合が多い.こうした症例においては,吻合された動脈が本来潅流していない領域にある潰瘍に対する治療効果が危惧されるが,これまで十分な検討がなされてこなかった.我々は血管撮影上の足部における動脈の連結状態,distal bypass吻合部位,bypass前後の足部の皮膚灌流圧(skin perfusion pressure; SPP)の変化の関連を後ろ向きに検討し,足部血流改善に関する知見を得た.【方法】2010年 1月から 2012年 10月までの間に当科にて施行された distal bypassのうち,術前後の足部 SPPの変化を評価した.SPP評価部位は,末梢吻合部が後脛骨動脈もしくは足底動脈である症例(足底動脈群)では足背部,末梢吻合部が前脛骨動脈もしくは足背動脈である症例(足背動脈群)では足底部で行った.血管造影検査における足背動脈と足底動脈のつながりを,つながりの程度から連結良好群,連結不十分群,非連結群の 3群に分類し,SPP変化と対比した.【結果】期間中に手術を行った distal bypass74例 82肢のうち,該当部位の SPPが術前後で測定されていたのは 29

例 31肢.内訳は ASOが 28例 30肢,膝窩動脈捕捉症候群に伴う下腿動脈閉塞が 1例 1肢.足底動脈群が 20例 20肢,足背動脈群が 9例 11肢であった.SPPが術前 40mmHg未満から術後に 40mmHg以上となった場合,もしくは術前より 15mmHg以上上昇している場合を SPPが改善したと定義したところ,連結良好群 5例 5肢では 4例 4肢(80%),連結不十分群 9例 10肢では 8例 8肢(80%),非連結群 15

例 16肢では 13例 13肢(81%)で SPPが改善した.また,distal bypass後に感染もしくは壊死の進行により大切断に至った症例は 2例 2肢であった.いずれも SPPが改善しなかった症例で,連結不十分群および非連結群それぞれ 1

例であった.【考察・結語】術前の血管造影における足部での動脈のつながりと,術前に造影されなかった領域における SPPの上昇には明らかな関係性を見出すことはできなかった.術前の血管造影検査で,足部における末梢からの側副血行が十分に描出できていなかった可能性があるが,術前検査で足部の潰瘍,壊死部位へ直接栄養する動脈に吻合可能な部位がない場合,術前検査で連結の良好な症例でなくても他の動脈へ吻合することで SPPが十分に改善する可能性が示唆された.

O22-2Distal bypass後の足部血流改善に関する検討

東京大学 血管外科

望月 康晃,白須 拓郎,芳賀  真,松倉  満 ○赤井 隆文,谷口 良輔,根本  卓,山本  諭

赤井  淳,西山 綾子,保坂 晃弘,保科 克行

岡本 宏之,重松 邦広,宮田 哲郎

【症例】62歳男性【既往】糖尿病,狭心症,閉塞性動脈硬化症(左腸骨動脈閉塞)のため 10年前,他医で左腋窩・大腿動脈バイパス術を受けている.【経過】平成 24年 5月 2日,誤って転倒し,顔面挫創,右第 2手指脱臼,左側腹部打撲を受け,最寄の個人病院を受診.バイパス部の血腫を認め,当院へ転院した.来院時,意識清明.下肢のチアノーゼや安静時痛の訴えはなかったが,ABI 右 0.59,左 0.43と低下していた.造影 CT検査を施行したところ,左側腹部の人工血管が断裂して,周囲に血腫を認めた.このため全身麻酔下に緊急手術を行った.まず人工血管断裂部より,やや中枢側に小切開を加えて人工血管を露出し,血管鉗子により血流を遮断した.その後,切開を末梢側に延長して,断裂部を露出した.リング付 ePTFEグラフトが完全に断裂していたが,断端は挫滅されていなかったため,断端のトリミングは行わず,5-0プロリーン糸により,半周毎連続縫合により直接吻合を行い,吻合部にタココンブを貼付して閉創した.手術時間:1時間 09分,出血量:500g,無輸血.術後,第 7日目の CT画像では血腫の遺残はあるものの,吻合部に異常はなく,軽快して独歩退院した.【考察】腋窩・大腿動脈バイパス術後の合併症として,上肢の過剰な伸展による腋窩吻合部の引き抜き損傷が知られているが,本症例のように,鈍的損傷による,側腹部での断裂の報告はまれと思われる.リング付グラフトでもスパイラル状でないタイプであったため,リングとリングの間に外力が集中して鋭利な刃物で切断されたような完全な断裂を来したと推測された.

O22-5鈍的外傷による腋窩・大腿動脈バイパス断裂の 1例

水戸赤十字病院 外科

内田 智夫○

342 日血外会誌 22巻 2号

266

【はじめに】近年閉塞性動脈硬化症に対する血管内治療の進歩により,カテーテル治療全盛の時代を迎えた.特に腸骨動脈領域や浅大腿動脈領域においては外科治療とほぼ同等の成績が報告されている.しかしながら総大腿動脈領域は屈曲部であり,ステントが使用できず,内膜摘除術が第一選択とされている.従来の大腿動脈の内膜摘除術は単独で施行する場合,おおむね 1~2時間を要する.バイパスのinflowとして,内膜摘除した大腿動脈を使用する場合,その時間的制約は大きい.今回新型キューサー(CUSA Excel

Plus,アムコ社)を使用した簡略化内膜摘除術を報告する.【対象】2009年 4月~2012年 10月,PADに対して血行再建を施行した 312例のうち大腿動脈の内膜摘除術を施行した症例は 17例,このうち新型キューサー(CUSA Excel Plus)による内膜摘除術 3例を対象とした.【手術時】いずれの症例も総大腿動脈に石灰化を伴う重度狭窄あり,バイパスの中枢側吻合部として使用するために CUSA Excel Plusで内膜摘除術を施行した.石灰化の高度な部分は従来の CUSA

機能を使用して石灰化を除去した.またおおむね石灰化を除去した後には CUSA Excel Plusは従来の CUSA機能に追加して,弾力性の強い血管外膜を損傷せずに内膜のみを選択的に除去可能な Tissue Select機能があり,これを併用して動脈壁の平坦化を行った.内膜摘除後,バイパスグラフト(2例:SVG,1例人工血管)の中枢側吻合を施行した.【結果】3例とも内膜摘除に要した時間は 15分程度であった.2例は BKへのバイパス,1例は足背動脈へのバイパスであったが,手術時間は 169分,176分,187分であり,内膜摘除を簡略化することで手術時間は短かった.3例とも内膜摘除部に急性血栓性閉塞はなく,いずれもグラフトは開存している.【考察】CUSAは心臓領域では大動脈弁の石灰化除去や胸部大動脈の石灰化除去などで使用されることがあるが,末梢の血管領域で使用された報告は少ない.末梢血管における吻合を可能とするための内膜摘除に CUSA

Excel Plusは有用であり,若干の文献的考察を加えて報告する.

O22-3高度石灰化大腿動脈にバイパス中枢吻合を施行するために ─新型キューサーによる内膜摘除術─

JA広島総合病院 心臓血管外科

小林  平,川本  純,前田 和樹○

【目的】重症虚血肢に対しては迅速かつ確実に血行を再建する必要がある.様々な治療方法があるが,静脈グラフトによる末梢バイパスは信頼性が高く,確実な血行再建法である.そこで当科における重症虚血肢に対する静脈グラフトによる末梢バイパスの治療成績について検討したので報告する.【対象と方法】過去 6年間に当科で血管内治療やバイパス手術による血行再建を行った閉塞性動脈硬化症による重症虚血肢は 61例 75肢であるが,このうち静脈グラフトを使用して末梢バイパスを施行した 33例 33肢を対象とした.年齢は 51~84歳,平均 66.6歳で,男性 26例,女性 7

例であった.術前重症度は Fontaine III度 9肢(27%),IV

度 24肢(73%)で,合併疾患は糖尿病 20例(61%),慢性腎不全による透析例 9例(27%),脳血管疾患 13例(39%),虚血性心疾患 11例(33%)であった.バイパスの末梢吻合部位は膝窩動脈 13例(39%),下腿動脈 15例(45%),足背動脈 5例(15%)であった.13例(40%)は大伏在静脈の性状不良,長さの不足あるいはすでに使用されていたために,同側あるいは対側の大伏在静脈や小伏在静脈,上肢静脈との spliced vein graftとして使用した.また,2例では中枢吻合部位を膝窩動脈においた short bypassを行い,静脈使用長を制限できた.【結果】手術死亡はなかったが,在院死亡を 2例に認めた.バイパスグラフトの 3年累積開存率は 1

次 81.0%,2次 90.5%であった.グラフト狭窄,閉塞となったものは 7例であったが,このうち 5例(71%)は spliced

vein graftによるもので,また,7例中 4例は revisionにて 2

次開存が得られた.単独大伏在静脈によるバイパス 20肢の 3年累積開存率は 1次 84.2%,2次 94.6%であったのに対し,spliced vein graftによるバイパス 13肢の 3年累積開存率は 1次 69.2%,2次 84.6%であった.大切断となったものは 4例(12%)で,5年救肢率は 89.3%であった.【結論】静脈グラフトによる末梢バイパスの成績は良好であったが,異常を早期に発見し,revisionあるいは redo手術を行うことが重要である.特に spliced vein graftの開存率は単独大伏在静脈の成績にはやや劣るため,厳重な follow upが必要である.また,糖尿病,透析例が増加しており,早期に血行再建を可能とする体制作りも重要である.

O22-2重症虚血肢に対する静脈グラフト末梢バイパスの治療成績

札幌厚生病院 心臓血管外科

吉田 博希,稲葉 雅史,福山 貴久○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 343

262

四肢外傷に対し血行再建を含む集学的治療を行った 2例を報告する.症例 1は 36歳男性.2011年 05月 04日 10時頃自動二輪車乗車中,後方より追突され左上肢不全離断となった.当院救急センターへ搬送され,救命および左上肢温存目的で当科へ緊急入院となった.整形外科・当科合同で,上腕骨外固定,上腕動静脈置換,および正中・尺骨神経縫合術施行.手指先に至るまで虚血状態は認められず,血行再建状態は良好であったが,受傷による組織損傷と感染の影響によると思われる創傷治癒遅延を認めていた.2011年 06月 03日(術後 30日目)に動脈置換グラフト断裂し,出血性ショックのため CPAとなった.CPR(除細動は1回)を行い,上腕切断術施行.術中より自発呼吸再開,対光反射再開,右上肢自動を認めた.脳機能保護のため術後 24時間低体温療法(34度)を施行した.2011年 08月 28

日(術後 114日目)に独歩自宅退院.症例 2は 53歳男性.肥料攪拌機修理中に急に動き出した回転翼に右大腿・前腕を巻き込まれた.右大腿挫滅裂傷(ハムストリング損傷含む),外傷性右浅大腿動脈閉塞,右前腕骨骨折に対して,整形外科・当科合同で右浅大腿動脈置換術を含む緊急手術を施行.術後急性腎不全となり,集中治療部での持続血液透析濾過療法を施行.創部感染に対して,形成外科による全麻下デブリードマン・植皮術を行い,リハビリテーション科による歩行リハビリテーションを行い,補助具なして独歩可能となり,入院後 111日目に自宅退院した.血管損傷を伴う外傷は多発重症例であることが多く,救命・救肢のため集学的治療が必要あることを改めて認識させられた.

O22-5四肢外傷に対し血行再建を含む集学的治療を行った 2例

別府医療センター 血管外科

久米 正純○

【はじめに】重症下肢虚血では,複合する閉塞性病変を有することが多く,広範な閉塞病変のために,しばしばその治療方針に苦慮することがある.今回われわれは,腸骨動脈から下腿にいたる広範な動脈閉塞による重症虚血肢に対し,自家静脈による下腿動脈までのクロスオーバーバイパスにより救肢を得た症例を経験したので報告する.【症例】73歳男性.既往歴は脳梗塞,大動脈弁閉鎖不全による心不全,心房細動.2012年 8月上旬より左下肢疼痛が出現し前医を受診した.閉塞性動脈硬化症と診断され 8月下旬当科紹介となった.左大腿動脈以下の拍動は触知せず,足部に冷感を認め,後日手術目的で入院予定であった.しかし,外来受診 2日後に下肢疼痛が急速に悪化し緊急入院となった.左下肢の冷感,疼痛は強く,ABIは右が 0.58,左は測定不能であった.血管造影を施行したところ,左外腸骨動脈以下の広範な動脈閉塞を認めたが,側腹血行を介して後脛骨動脈が開存していた.左大腿深動脈は閉塞していた.また,右浅大腿動脈は閉塞していたが,側腹血行を介して膝窩動脈から後脛骨動脈が開存していた.救肢のため,自家静脈を用いた右大腿動脈-左後脛骨動脈クロスオーバーバイパス術を施行した.術後経過は良好で,安静時痛は消失し,ABIは 1.07まで改善した.術後第 13病日に独歩退院となった.【考察・結語】腸骨動脈および鼠径靱帯以下の複合閉塞病変に対する血行再建では,大腿動脈を経由するバイパスを行うことが一般的であるが,本症例では,大腿動脈が閉塞していた.本症例では下肢全長の大伏在静脈を採取することで,大腿動脈から対側の下腿近位までのグラフト長が確保できたため,手術侵襲も考慮し,クロスオーバーバイパスを選択した.長期成績に関しては,今後の検討が必要ではあるが,大腿動脈を経由できないような広範な閉塞病変を有する症例においては,十分な長さの静脈グラフトを確保できれば,本術式は有効な術式と考えられた.

O22-4広範な動脈閉塞を認める CLIに対し右大腿動脈─左後脛骨動脈クロスオーバーバイパスを施行した 1例

自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

西  智史,松本 春信,堀 大治郎,田村  敦 ○木村知恵里,由利 康一,安達 康一,山口 敦司

安達 秀雄

344 日血外会誌 22巻 2号

262

【はじめに】胸郭出口症候群(TOS)は同部位における血管,神経の圧迫により各種症状を呈する疾患群である.今回TOSのうち,動脈病変による症状を呈した稀な症例を経験したため文献的考察を加え報告する.【症例1】31歳男性.既往歴なし.受診半年前より左上肢の違和感を感じ,受診3週間前より左上肢の冷感を自覚.症状改善せず当科受診.造影 CTでは左橈骨・尺骨動脈がほぼ全長に渡り閉塞していた.急性動脈閉塞と診断し,同日血栓除去術を施行した.上腕動脈の明らかな狭窄,閉塞はみられなかった.血栓形成の原因として,改めて左上肢挙上肢位で造影 CTを施行したところ,左鎖骨下動脈 -腋窩動脈移行部において高度の狭窄,狭窄後拡張がみられ,左第一肋骨の形態学的異常もみられたため TOSと診断した.3ヶ月後に第一肋骨切除術を施行.右半側臥位にて腋窩部からアプローチし第一肋骨を切除した.術中血管撮影にて圧迫が解除されたことを確認した.術後症状の増悪もなく経過し,現在外来通院中である.【症例 2】38歳男性.既往歴なし.受診半年前より左上肢の冷感,左肘関節痛を自覚.症状が増悪するため近医受診したところ頸肋を指摘された.橈骨動脈触知せず紹介受診となる.造影 CTと血管造影にて鎖骨 -頸肋圧排部で鎖骨下動脈閉塞,上腕動脈閉塞がみられた.鎖骨上および鎖骨下よりアプローチし頸肋を切除,鎖骨下腋窩動脈バイパスを施行した.末梢は上腕動脈より血栓除去施行し,尺骨動脈狭窄に対しバルーン拡張術を施行した.術後上腕動脈は再閉塞したが自覚症状は改善し,現在外来通院中となっている.【考察】TOSは大きく神経,静脈,動脈圧迫の 3つのタイプに大別される.神経圧迫タイプが 95%と最も多く,動脈は最も頻度が少なく約 1%である.動脈圧迫タイプの TOSは骨の先天的異常から発症するケースが多く,治療には手術が最も有効である.手術方法としては大きく 2通りある.術前に閉塞が指摘される症例では前方からのアプローチにより肋骨切除を行い,さらにバイパス手術も併用する術式.術前に動脈の圧排や狭窄が指摘される場合は腋窩アプローチで肋骨切除を行い,さらに術中血管撮影の結果にて血管内治療を追加するかを判断する術式の 2つ.これらを選択することで治療効果があがる.【結語】胸郭出口症候群のうち動脈病変を伴う稀な症例を経験した.血管病変を伴う TOSに対するアプローチ方法は血行再建の有無が鍵となる.

O22-2異なるアプローチで治療した動脈塞栓を伴った胸郭出口症候群の 2例

済生会横浜市東部病院 外科(血管外科)1

慶応義塾大学 外科 2

明石  卓○ 1,渋谷慎太郎 1,林   忍 1,長島  敦 1

田中 克典 2,尾原 秀明 2,北川 雄光 2

下肢の急性動脈閉塞に比べ上肢の急性動脈閉塞は少なく,塞栓症の原因としては,心房細動などの不整脈が大多数を占める.今回,我々は腋窩動脈と人工血管との吻合部に生じた血栓が原因と考えられた急性動脈閉塞の症例を経験したので,報告する.症例 1. 65歳男性.平成 15年に下肢閉塞性動脈硬化症に対して右腋窩動脈-両側大腿動脈バイパス術を施行.人工血管は 8mmのリング付き PTFE グラフトを使用.平成 21年の時点では人工血管は閉塞していた.平成 23年 12月に下肢の急性動脈閉塞のため入院.入院中に突然発症の右上肢のしびれ・疼痛あり,上腕動脈を触知できなかった.急性動脈閉塞と診断し,血栓除去術を施行した.血栓除去術後も右橈骨動脈の拍動が弱く,血圧の左右差(約 40mmHg)を認めたため造影CTを施行したところ,右腋窩動脈が人工血管吻合部で屈曲しており,そこで血栓閉塞していた.右腋窩動脈の端々吻合を行い,血圧の左右差は消失した.症例 2. 63歳男性.平成 15年に左鎖骨下動脈狭窄に対して右腋窩動脈-左腋窩動脈バイパス術を施行.人工血管は 7mmのリング付き PTFEグラフトを使用.平成 18年の時点で人工血管は閉塞していた.平成 20年に左上肢の急性動脈閉塞のため血栓除去術を施行.左鎖骨下動脈の狭窄部位が塞栓症に関与している可能性も考えられたため,狭窄部位にステントを留置した.平成 24年 7月,8月,9月に左上肢の急性動脈閉塞を繰り返し起こしたため,精査目的に造影 CTを施行したところ,左腋窩動脈の人工血管吻合部位に血栓を認めた.人工血管の吻合を外し,静脈パッチによる形成術を施行した.いずれの症例でも抗血小板剤とワーファリンを投与しているのにも関わらず,塞栓症を起こした.また,入院中の心電図モニターでは心房細動などの不整脈を認めなかった.閉塞した人工血管の吻合部が急性動脈閉塞の塞栓源となる可能性があることが示唆された.

O22-2閉塞した人工血管の吻合部が塞栓源と考えられた上肢急性動脈閉塞の 2例

ツカザキ病院 心臓血管外科

金光 仁志,三井 秀也,山田 幸夫○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 345

262

【はじめに】鎖骨下動脈瘤は末梢動脈瘤の中でも稀な疾患であり,全四肢動脈瘤の 4.5%を占めるにすぎないと報告されている.鎖骨下動脈瘤の症状は成因,部位,大きさにより様々であるが,圧迫による症状として胸背部痛,嚥下障害,嗄声,血痰を呈することがある.今回我々は,気管圧迫により呼吸困難を生じた特異な経過の右鎖骨下動脈瘤を経験したので報告する.【症例】93歳,女性.【既往歴】82歳,腹部大動脈瘤破裂にて手術.91歳,B型大動脈解離に対し保存的治療.【現病歴】前医にて降圧療法と CTのフォローアップが施行されていた.2011年 5月より嗄声,喉頭違和感が出現.10月に喘鳴,呼吸困難が出現し前医受診.CT検査にて右鎖骨下動脈瘤による気管圧迫所見を認め,手術目的に当院紹介受診となった.【入院時現症,検査所見】血圧 160/90 mmHg,脈拍 60/分,整.室内気にて酸素飽和度 98%.聴診上,上気道狭窄音聴取.血液検査上,Hb 10.9 g/dlと軽度貧血を認める他は異常所見なし.前医でフォローアップ中に施行された CTでは,元々,右鎖骨下動脈は腕頭動脈から分岐直後,蛇行(一旦尾側へ走行した後,頭側へ走行)していた.今回施行した CTでは,この蛇行した部分の右鎖骨下動脈が最大径 3mmまで拡大,壁在血栓を多量に伴っていた.この右鎖骨下動脈瘤が,主気管支を右方から圧排することにより,気管狭窄をきたしていた.【手術所見】右襟状切開を加えた胸骨正中切開で到達.動脈遮断中の脳血流維持のため,外シャントチューブ(9Fr)を腕頭動脈と右総頸動脈の間に留置した.腕頭動脈,右総頸動脈,瘤の末梢側右鎖骨下動脈を遮断し,瘤切除を行った.離断した右鎖骨下動脈の断端と腕頭動脈の間を,8mmの Hemashield人工血管でバイパス術を施行した.瘤壁の病理所見は動脈硬化性の真性瘤であった.【術後経過】術後は気管狭窄が解除され,POD2に呼吸器離脱することができた.その後も安定した呼吸状態を得た.【結語】気管狭窄を生じた動脈瘤として,上行弓部および下行大動脈瘤,腕頭動脈瘤,右総頚動脈瘤や Kommerell憩室などがこれまでに報告されている.今回我々は,右鎖骨下動脈瘤の圧排により気管狭窄を生じた非常に稀な症例を経験した.外シャントチューブを腕頭-右総頚動脈間に留置,補助循環なしに瘤切除,血行再建術を為し得たので報告した.

O22-4気管圧迫を生じた右鎖骨下動脈瘤の 1手術例

牧港中央病院 心臓血管外科 1

琉球大学大学院 細胞病理 2

達  和人○ 1,上江洲 徹 1,洲鎌 盛一 1,加藤 誠也 2

鎖骨下動脈瘤は稀な動脈性疾患である.今回われわれは気管狭窄を来たした巨大右鎖骨下動脈瘤の治療を経験したので報告する.症例は 65歳男性.検診の胸部レントゲン写真で異常陰影を指摘され当科紹介となった.受診約 6カ月前より嗄声が出現していたが,放置されていた.心電図では孤立性心房細動を認めたが,動脈硬化性疾患の risk fac-

torは認めなかった.CT検査では胸腔内より正中に進展する最大径 85× 56mmの右鎖骨下動脈瘤を認めた.瘤内には多量の壁在血栓が存在し,動脈瘤壁には一部石灰化も認めた.動脈瘤は右総頸動脈と右鎖骨下動脈分岐部より約3cm末梢から起始しており,右椎骨動脈は描出されるものの起始部で閉塞が疑われた.気管は動脈瘤により左方に圧排され,偏位しており,内腔の一番狭い部分は径 5mmと狭小化していた.過去に外傷,注射の既往は認めなかった.巨大動脈瘤で周囲臓器への圧迫症状も認める事より瘤切除による圧迫解除が必要と判断し直達手術を選択した.気管狭窄に関しては日常生活上,特に閉塞症状はなく呼吸機能検査においても概ね正常パターンであったが,夜間睡眠時には最低値で 84%まで動脈血酸素飽和度は低下しており,全身麻酔導入後の換気不能時の対応として PCPSの stand-

byのもと麻酔導入を行った.5.5mmチューブから徐々にサイズアップする事で 6.5mmのチューブを気管内挿管することができ,補助循環は不要であった.右第 3肋間に切り込む胸骨上部部分切開(逆 L字型)で中枢側にアプローチした.右総頸動脈,鎖骨下動脈はそれぞれ taping可能であった.巨大瘤であり末梢側は正中からの術野では到達困難と判断し,右鎖骨下に別で皮膚切開を置き腋窩動脈を確保した.ヘパリンを投与した後,鎖骨下動脈,腋窩動脈を遮断し瘤を切開した.瘤内には多量の壁在血栓が存在し,血栓を除去した後瘤内より瘤末梢の鎖骨下動脈を縫合閉鎖し,ePTFE人工血管を使用し鎖骨下動脈-腋窩動脈バイパスを行った.術中採取した瘤壁の病理組織学的検査では三層構造と強い動脈硬化性変化を認め,動脈硬化性の真性瘤と診断された.術後経過には問題なく 7日目の CTでは気管の左方偏位,狭窄も改善し術後 11日目に独歩退院となった.

O22-3気道狭窄を来たした巨大右鎖骨下動脈瘤の 1例

大阪赤十字病院 心臓血管外科

坂本 和久,伊藤  恵,中山 正吾○

346 日血外会誌 22巻 2号

220

【目的】閉塞性動脈硬化症,腹部大動脈瘤,透析患者において,術前,術後の脳梗塞合併例頻度は高く,時に,QOL,生命予後不良となる事がある.当科では,日常の血管外科領域疾患に頚部血管聴診を行い,血管雑音聴取例は超音波検査で screeningを行い,脳梗塞予防に務めている.今回,血栓内膜除去術(CEA)症例適応と早期予後を検討した.対象 2009年から 2012年 7月に当科血管外科疾患の術前,術後経過中に内頚動脈狭窄を認めCEAを行った症例は26例,27病変で,男性 22例,女性 1例,平均年齢 73.6歳で,手術部位は右 15例,左 10例,両側 1例であった.【結果】併存血管外科領域疾患は ASO 14例,腹部大動脈瘤 4例,胸部大動脈瘤 1例,慢性腎不全 3例であった.全例脳梗塞あるいは TIAを合併し,3例に術前めまいの症状を認めた.5例に PCI,1例に CABG歴があり,慢性腎不全を 6例に認めていた.術前超音波検査で狭窄率は NASCET 54-99%平均 67.9%,PSV 98-656 cm/sec,平均 353cm/secで,全例MRAかMDCTで病変の形状と高さを確認した.CEA術後早期死亡,脳梗塞合併例はなく,2例に燕下障害の合併症が生じたが,燕下リハビリで軽快した.術後平均在院日数は 11.9日であった.【結語】血管外科領域疾患に合併した内頚動脈狭窄例は冠動脈疾患,慢性腎不全合併 polyvascu-

lar disease例であるが,CEA早期死亡,脳梗塞合併例もなく,在院全例無事退院可能であった.当科では原則 PSV >200cm/secで病変が C2以下を手術適応とし,CEAを行い,CASよりも,安全な術式であることが再確認できた.

O22-6血管外科領域疾患に併存した内頚動脈狭窄 CEA例の検討

日本大学医学部 心臓血管・呼吸器・総合外科

前田 英明,梅澤 久輝,五島 雅和,服部  努 ○中村 哲哉,梅田 有史,小林  宏,河内 秀臣

飯田 絢子,塩野 元美

【目的】プラーク診断を含めた術前のリスク評価と術後経過から CEA/CASの適応に関して検討する.【対象】2007年 6

月から 2012年 10月までの CAS27件(症候性 18件),CEA29

件(症候性 17件).【方法】術前に SAPPHIRE high risk(SHR)の有無と,high risk plaque(HRP)であるかどうかで手術リスクを評価し,術式(CEA or CAS)を決定する.それぞれの術後合併症に関して retrospectiveに検討し,CEA/CASの適応を考察する.【結果】SHR(-)・HRP(-)の CEA16件とCAS4件に関しては術後合併症無し.SHR(-)・HRP(+)のCEA4件に関しては大きな合併症を認めなかった.その中の分岐部 C2の高位病変に対する CEAでは,術中造影で残存プラークを認め,CASを追加した.SHR(+)・HRP(-)のCAS19症例では外頸動脈領域塞栓症 1件,RIND1件,硬膜外血腫 1件を認めた.塞栓症合併症例の術前プラーク評価は超音波のみであった.また,SHR(+)・HRP(-)の CEA5

症例では 1例を術後 1カ月に肺炎,1例を対側の転移性腫瘍病変の出血で失った.SHR(+)・HRP(+)では CEA3件の内,1例を術後 1カ月目に過灌流症候群で失った.SHR(+)・HRP(+)での CAS4件では proximalまたは distal occlusion

の塞栓予防が行われ塞栓性合併症を認めなかった.【考察】CEAでは塞栓性の合併症は少なかったが,SHR(+)症例の術後に関しては重篤な合併症が多かった.CASは SHR(+)症例に対しても比較的成績良好であるが,無症候性のものを含めると高頻度に塞栓症の合併を認めた.また,SHR

(+)・HRP(+)症例に関しては塞栓予防策を用いての CAS

の成績が良好であった.【結語】術式を決める際の術前リスク評価法として,CEAのリスク診断と CASのリスク診断としてのプラーク診断が重要であることが示唆された.また,高位病変に対する CEAで狭窄が残存した場合でも,術中造影と CASを追加することで狭窄を残さず手技を遂行できた.

O22-5術前リスク評価と CEA/CASの適応に関する検討

静岡赤十字病院 血管外科 1

静岡赤十字病院 心臓外科 2

静岡赤十字病院 外科 3

相馬 裕介○ 1,三岡  博 1,齋藤 孝晶 1,新谷 恒弘 1

熱田 幸司 3,東  茂樹 2

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 347

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【目的】人工血管腸管瘻は稀であるが発症すると致命的になりうる疾患である.今回,診断に難渋した腹部大動脈瘤術後の人工血管十二指腸瘻に対し,EVARにて出血をコントロールし,その後生じた人工血管感染に対して解剖学的再人工血管置換術を施行した症例を経験したので報告する.【症例】64歳男性で炎症性腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術,下腸間膜動脈再建術を施行.術後 2ヶ月時に PCI

を受け以後抗血小板剤を服用していた.術後 6ヶ月後より下血や吐血を認め,上部・下部内視鏡検査,小腸カプセル内視鏡,出血シンチグラム等の検査を受けるも,明らかな出血源は特定できなかった.術後 10ヵ月目に大量の吐血で緊急入院し,十二指腸に潰瘍性病変を認めたためクリッピング施行.CTで人工血管吻合部の仮性瘤などは認めなかったが,クリップが人工血管と接しており,人工血管十二指腸瘻による出血を疑い同部位に EVARを施行した.EVAR後出血は消失し感染兆候も認めなかった.再人工血管置換を勧めるも患者の同意が得られず抗生剤投与で経過観察していたが,2ヵ月後に熱発を認め,CT検査にて人工血管周囲の脂肪織混濁が出現.内視鏡検査で十二指腸に陥凹性病変と縫合糸が見えたことから人工血管十二指腸瘻による人工血管感染と診断し,再人工血管置換術を施行した.手術は,リファンピシン浸漬人工血管を用いて解剖学的再人工血管置換,瘻孔閉鎖,大網充填を施行した.術中,下腸間膜動脈再建部と接する十二指腸水平脚に小孔を認めた.術後1.5年を経過し感染の再発を認めていない.【考察】本症例のように人工血管腸管瘻を疑い各種検査を施行しても診断に至らず,その後大量の出血をきたし診断がつくことがある.人工血管腸管瘻を疑った際には,致命的なイベントが起こる可能性を常に考慮し,より慎重な経過観察が必要であると考える.また,人工血管腸管瘻の治療には一般的には再人工血管置換術を行うが,出血や感染による全身状態の悪化や高度な癒着により手術が危険な場合が存在する.そのような場合に,まず EVARで出血をコントロールし,再人工血管置換術を施行することでより安全で確実な治療ができる可能性が示唆された.【結語】人工血管置換術後の消化管出血に関しては人工血管腸管瘻も念頭の上,厳重に経過観察する必要があり,診断後は早期に治療する必要があると思われた.また,治療については EVAR

を併用することで,より安全に人工血管腸管瘻を治療できる可能性があると考えられた.

O20-2診断に難渋した人工血管十二指腸瘻に対し EVARおよび解剖学的再人工血管置換術にて救命しえた 1例

大阪府立急性期・総合医療センター 心臓血管外科

前田 修作,山内  孝,金  啓和,竹内 麦穂 ○高野 弘志

【はじめに】Middle aortic syndromeは,遠位下行大動脈や近位腹部大動脈に高度狭窄を認める疾患で,大動脈縮窄症の0.2~5%と非常に稀である.若年者に多く,腎動脈狭窄も多くみられる.手術は血圧コントロール不良,腎機能障害の進行,間欠性跛行を認める症例などが適応となるが,今回まれな middle aortic syndromeの手術を経験したので特徴的な画像とともに提示する.【症例】56歳,男性.脳梗塞,高血圧で近医通院中.数年前より血圧コントロール不良のため精査.腹部で血管雑音を聴取し,CTで腹部大動脈に狭窄指摘され当科紹介.狭窄は SMA下から IMA上まで認め,SMA,IMAは拡張し,これが下肢への側副血行路となっていた.両側腎動脈の狭窄も認めたが,Cre 0.63mg/

dl,造影効果良好で,腎血流シンチグラムも正常範囲内であり,腎血管性の高血圧ではないと判断.レニン活性は2.0ng/ml/h.下肢に関して,間欠性跛行は認めないが,ABI

は右 0.8,左 0.78と低下があった.血液検査は CRP0.27mg/

dl,血沈正常値と炎症所見は認めなかった.Middle aortic

syndromeと診断し,難治性高血圧のため手術方針とした.術前降圧剤はノルバスク 10mg,ディオバン 160mg,カルデナリン 4mg,アーチスト 20mg,アダラート CR80mgと大量で,上肢血圧は平均 150mmHgであった.【手術】全身麻酔下に右半側臥位,分離肺換気で行った.第 8肋骨上より開胸し下行大動脈へアプローチ.同時に左側腹部から後腹膜経由にて左外腸骨動脈を露出.グラフト通路は左側背側よりで横隔膜を貫通させた.人工血管はリングなしePTFE10mmを使用し下行大動脈と左外腸骨動脈に端側吻合した.【術後経過】術後は降圧剤使用なしで,血圧 110~150mmHgと良好であった.ABIは右 1.02,左 1.02と改善を認めた.3DCTでグラフト吻合等問題なく,経過順調で第 10病日に退院となった.【考察】Middle aortic syndrome

は適切な治療が行われない場合の予後は悪く,心不全や脳出血を起こす前の外科治療が重要である.病因は大動脈の発生異常,胎生期の風疹等による感染症などの先天的成因,von Recklinghausen病やWilliams症候群などの遺伝性素因や大動脈炎症候群などの後天性疾患の関与が示唆されている.本症例は後天性によるものと考えられるが原因は不明.外科治療により難治性高血圧が速やかに改善したが,今後は腎動脈狭窄の進行,グラフト長期開存の有無など経過観察が重要である.【結語】非常に稀である非若年者の middle-aortic syndromeに対し,下行大動脈-左外腸骨動脈バイパス術を行い良好な結果を得た.

O20-2Middle aortic syndromeに対する外科手術

立川綜合病院 心臓血管外科

岡本 祐樹,山本 和男,杉本  努,若林 貴志 ○三村 慎也,吉井 新平

348 日血外会誌 22巻 2号

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突然発症した呼吸苦から肺梗塞が強く疑われた腹部大動脈瘤 -下大静脈穿破(RAAVF)の症例を経験したので報告する.症例は 64歳,男性.遠方から車で帰宅し階段歩行中に突然息切れが出現した.その後呼吸苦が悪化し救急車で来院した.来院時血圧 88/44,脈拍 112,SpO2 99%.触診で腹部拍動性腫瘤を認めたが腹痛は全くなく腹部大動脈瘤破裂を疑わせる所見はなかった.心エコーでは著明な右房右室の拡大と心房心室中隔の著明な左方への圧排を認めた.心電図でも心房負荷所見を認めた.採血で D-ダイマーと FDPが高値であり,上記から肺塞栓が強く疑われた.直ちに造影 CTを行ったが肺梗塞は無く,腹部大動脈瘤から下大静脈へのシャント血流と著明に拡大した下大静脈と右心房・右心室を認めた.この時点で肺塞栓ではなく RAAVF

の診断が得られた.診断後の再診察で RAAVF部に一致した著明なシャント雑音が聴取され,腹部超音波検査でも腹部大動脈瘤から下大静脈に抜ける大量のシャント血流が確認された.上記診断から直ちに緊急手術を施行した.大動脈遮断後の瘤切開により下大静脈からの大量出血が予想されたが,穿破部を用手的に圧迫することで対処可能であった.穿破部は示指頭大であり大動脈瘤内側から瘤壁を含めて下大静脈を縫合閉鎖した.その後は通常通りの人工血管置換術が可能であった.手術時間 4時間,下肢遮断時間105分であった.術後経過は良好であり 14病日に退院となった.この症例を経験し RAAVFの発症急性期は,極めて肺梗塞に類似した臨床像を呈することが分かった.実際には,肺塞栓では肺血流が低下し,逆に RAAVFでは肺血流が増加しているが,両者とも肺動脈圧が急激に上昇するため下大静脈が拡大し呼吸性変動も消失する.RAAVFの3徴として 1.突然発症する高心拍性心不全,2.bruit,thrill

を伴う動脈瘤,3.下肢の腫脹や下肢虚血症状が挙げられている.自験例でも下肢症状以外の徴候を認めており,来院時に基本的な診察を怠ったため bruit,thrillを見逃し診断が遅れた.RAAVFの死亡率は 40%前後と高く,診断までの時間が生死を左右する可能性もあり,基本的な診察が如何に大切であるかを再認識させられた.とかく画像や検査データに頼りがちな現在の医療において,一石を投じる示唆に富んだ症例を経験したので反省点を踏まえ報告する.

O20-4呼吸苦で発症し肺梗塞が疑われた腹部大動脈瘤─下大静脈穿破の 1救命例

済生会横浜市南部病院 心臓血管外科 1

横浜市大市民総合医療センター2

横浜市立大学 外科治療学 3

岩城 秀行○ 1,沖山  信 1,坂本  哲 1,軽部 義久 2

松木 佑介 3,益田 宗孝 3

腹部動脈瘤術後遠隔期合併症として腹部大動脈瘤術後吻合部瘤は,頻度は多くはないが致命的になることも多く,難しい再手術が必要で課題の多い合併症である.近年ステントグラフトの登場により血管内治療で対応できる症例もあるが解剖学的に難しい場合もある.今回腹部大動脈瘤術後7年で中枢末梢吻合部の仮性動脈瘤が急速に増大した一例を経験し,緊急手術によって救命できたので報告する.【症例】61歳男性.188cm 65kg.2005年腹部大動脈瘤に対して18φウーブンダクロン I型人工血管置換術(後腹膜経由アプローチ).2006年フォローCTで吻合部瘤は無かった.2009年 CTで中枢側右側に吻合部瘤認めたが全体径 36mm

で経過観察とした.末梢側には吻合部瘤無かった.2012

年 3月頃より 20分程度続く右下腹部痛が時々有った.9

月激しい右下腹部痛が 1時間続いて救急外来受診した.CTで中枢側吻合部瘤は 48mmに拡大していた.更に末梢側に 79x61mmの巨大な吻合部仮性動脈瘤を認めた.中枢側吻合部瘤から腎動脈までの距離が近いためステント治療(EVAR)不適応で緊急開腹手術となった.【手術】腹部正中切開.前回手術が後腹膜経路であったため癒着軽度であった.中枢側吻合部瘤は左腎動脈に近く左腎動脈上で大動脈遮断した.瘤を切開すると中枢吻合は右側で大きく破綻していた.中枢吻合部の左側は良く治癒していてなおかつ左腎動脈に近かったので左側は外さずに右側破裂孔をパッチ閉鎖して新たな中枢吻合とした.旧人工血管を中途で離断し,新 Y型人工血管と端々吻合した.末梢吻合は各々両側外腸骨動脈に端側吻合を置き,両側総腸骨動脈を縫合閉鎖した.術後経過は良好で 15病日に退院した.【考察】病因:高身長,初回手術時年齢比較的若年だが Marfan 症候群やその他結合組織疾患の診断基準には入らなかった.前回病理所見を再検索したが大動脈壁の嚢胞性中膜壊死等の所見は無かった.ただし中枢側吻合部,末梢側吻合部とも前回縫合糸は graft側に残っていて血管壁が大きく破綻しており壁の脆弱性が示唆された.手術:中枢側吻合部瘤の修復に工夫を要した.左腎動脈側の中枢縫合線は破綻していなかったために温存して旧 graftの一部を再利用した.末梢側は外腸骨動脈で端側吻合して総腸骨動脈を縫合閉鎖し吻合部瘤近くの壁に新たな吻合を置かないようにした.【まとめ】腹部大動脈瘤術後の中枢末梢側吻合部仮性動脈瘤の一例に対して緊急手術を行って救命した.ただし比較的若い症例で,壁の脆弱性も疑われることから今後慎重にフォローしていく必要があると思われた.

O20-3腹部大動脈瘤術後 7年目の中枢末梢側吻合部仮性動脈瘤に対する緊急手術の一例

藤沢市民病院 心臓血管外科

山崎 一也,柳  浩正○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 349

223

【はじめに】孤立性内腸骨動脈瘤は比較的稀まれな疾患であるが,ときに巨大化し他の骨盤内腫瘍との鑑別を要することがある.今回われわれは,巨大卵巣腫瘍捻転と術前診断され,開腹術を施行するも婦人科的疾患は否定され試験開腹術に終わり,術後に内腸骨動脈瘤切迫破裂の診断に至り,緊急で再手術を施行したまれな症例を経験したので報告する.【症例】86歳の女性.既往に特記すべき事項はなし.2012年 7月某日,左下腹部痛,嘔吐を認め近医受診するも,補液にて軽快し帰宅.2週間後に再度腹痛を認め近医へ救急搬送された.CT・,MRI所見にて卵巣腫瘍捻転が疑われ,同日に当院産婦人科へ転院となった.入院翌日に産婦人科にて試験開腹術を施行するも子宮,卵巣は正常であり,暗赤色の後腹膜腫瘤が認められたため術中外科に相談されたが,血腫の存在が疑われたため改めて精査を要するとの判断にて試験開腹術のみで終了した.術後全身状態は安定していたが,術翌日に造影 CTを施行したところ,最大径 94mmの左内腸骨動脈瘤切迫破裂の診断となり,当科にて緊急手術を施行した.術式は,造影にて明らかな動脈瘤の流出血管が認められなかったため,ステントグラフトを留置し,流入血管を閉鎖することで根治可能と判断した.左鼠径部切開にて総大腿動脈よりアプローチし,左総腸骨動脈から外腸骨動脈にかけて Excluder iliac leg 12mm

× 10cmを留置したが type1aエンドリークを認めたため,中枢側に iliac extender 12mm× 7cmを追加し,エンドリークの消失を確認し手術終了とした.手術時間は 117 分,出血量は 50mlであった.術後経過は良好であり,第 22病日に術前 CTにて認められていた総肝動脈瘤に対してコイル塞栓術を施行した.その後の経過も良好であり,第 30

病日に退院となった.【結語】孤立性の内腸骨動脈瘤は頻度は低いが,巨大化すると腹部大動脈瘤などと比較し破裂の危険性が高いため,骨盤内腫瘤における鑑別の際には必ず念頭に置くべき疾患である.また,術式としては開腹による瘤の処理やコイル塞栓術が一般的であるが,前者は骨盤内の血管処理の際に大量出血につながる可能性があり,また後者は多くの塞栓用コイルが必要となり非常に高額の医療費となることが多い.本症例のように,ステントグラフト内挿術を応用するはことは安全かつ低侵襲であり,医療経済的にも優れ,破裂・切迫破裂例においても選択可能な術式として非常に有用であると考えられた.

O20-6巨大卵巣腫瘍捻転と術前診断された内腸骨動脈瘤切迫破裂の一例

東京歯科大学市川総合病院 血管外科 1

慶應義塾大学病院 一般・消化器外科 2

鯉江めぐみ○ 1,原田 裕久 1,庄司 高裕 1,田中 克典 2

尾原 秀明 2,北川 雄光 2

感染性腹部大動脈瘤に対し,浅大腿静脈を用いて血行再建術を施行し,良好な経過を得た 1例を経験したので報告する.症例は 60歳男性.数年前に糖尿病を指摘されたが未治療であった.発熱,左下腹部痛を主訴に近医受診し,精査加療目的で当院に入院となった.入院時,38℃の発熱と左下腹部に圧痛を認め,炎症所見は高値であった.CTでは後腹膜膿瘍を認め,入院同日より抗生剤投与を開始した.次第に炎症所見,臨床症状ともに改善を認めたが,入院同日に採取した血液培養からはサルモネラ菌が検出された.感受性に合わせ抗生剤を変更し,炎症所見はさらに低下したが,経時的画像評価では,腰椎周囲の膿瘍腔の拡大と,それに隣接する左総腸骨動脈に生じた仮性動脈瘤の増大傾向を認めた.臨床経過より,感染性腹部大動脈瘤と診断し,感染制御後に手術を施行した.手術は,人工血管へのグラフト感染を懸念し,両側の浅大腿静脈を用いて,腹部大動脈 -腸骨動脈の解剖学的血行再建術を施行した.腹部操作と並行して,両側大腿部より可能な限り浅大腿静脈を採取し,自作の Y型グラフトを作成した.右側は総腸骨動脈領域で再建し,左側は外腸骨動脈で再建し,内腸骨動脈は結紮処理をした.また,瘤壁とともに仮性動脈瘤内の膿の一部を培養検査に提出したが,どちらからもサルモネラ菌が検出された.術後経過は良好で,感染の再燃やグラフト採取肢の腫脹等なく経過し,術後 19日目に独歩退院となった.

O20-5感染性腹部大動脈瘤に対し浅大腿静脈を用いて血行再建術を施行した 1例

伊勢崎市民病院 心臓血管外科

平井 英子,大林 民幸,小谷野哲也,大木  聡 ○安原 清光,羽鳥 恭平

350 日血外会誌 22巻 2号

224

企業製デバイスの導入以降,腹部大動脈瘤治療におけるEVARの比率は年々増加傾向にある.そのなかで Off-label

Useをせざるを得ない症例も増えてくることは言うまでもない.当科ではデバイスの挙動や,長期的な脚の変形,開存率を考慮した上で一定の治療ストラテジーを立てて Off-

Label Useを行っている.具体的には(1)Challenging neckに対して,ネックに平行に留置する解剖学的 deploymentを第一とする.術中 type1aエンドリークに対しては Aortic Cuff

ないし大口径ステントを追加する.(2)両側内腸骨動脈塞栓は選択的塞栓を行い,末梢枝を温存する.(3)外腸骨動脈 landingを要する症例には脚屈曲,狭窄予防に metal stent

を追加する.(4)Terminal aorta狭小例に対しては,脚内Kissing stentを行い,脚変形を予防する.以上を踏まえて施行した Off-Label Useの成績につき検討を行った.当科で 2007年 10月から 2012年 9月の間に施行した腹部大動脈ステントグラフト 120例を対象として検討を行った.このうち解剖学的に Off-labelの 42例(OL群)と IFU群 78例で比較検討を行った.OL群の内訳として challenging neck11

例(高度屈曲 Neck7例,Short Neck3例,Short+屈曲 Neck1

例),Terminal Aorta狭小 11例,両側外腸骨動脈 Landingを施行 15例,Access狭小例 5例,ネックの Shaggy aorta2例であった.年齢は OL群:77.0±7.9歳,IFU群:75.2±6.8

歳で両群間に有意差なし.手術死亡は OL群,IFU群でともになし.初期成功は OL群 97.6%,IFU群 98.7%であった.Kaplan-Meier法を用いた Aortic/Iliac event(Type1,3 En-

doleak,腸骨動脈,ステント脚関連合併症含む)回避率は 1

年で OL群 97.6%,IFU群 100%,3年で OL群 92.5%,IFU

群 94.5%であり,両群間に有意差は見られなかった.(Log-

Rank,p=0.31)以上の結果を考慮すると,解剖学的に EVAR

が困難であるとされる Off-Label Useも一定のストラテジーのもとに施行されれば安定した中期成績が得られると考える.Off-label Use症例のうちどの解剖学的条件を遵守すべきかを判定するにはより長期のフォローが必要であるが,本症例群においては中枢 Neckの解剖学的条件を重視する(Short Neckを積極的に EVAR適応にしない)ことがOff-label群の成績の向上に寄与しているものと思われる.

O22-2遠隔期成績の向上を目指した Off-label Useの試み

京都府立医科大学 大学院医学研究科 心臓血管外科

川尻 英長,岡  克彦,坂井  修,藤田 周平 ○大平  卓,山本 経尚,土肥 正浩,渡辺 太治

大川 和成,土井  潔,神田 圭一,夜久  均

【目的】EVARが開始されて以来,IFUを順守した症例において IFU外症例と比較し遠隔成績が有意に良好との報告が多く認められている.しかし,実際の IFU順守に関しては施設により異なり,IFU外でも良好な成績が報告されている.そこで当科の経験から,現在の IFUの妥当性について検討した.【方法と対象】2007年 1月から 2012年 11

月間に当科で行ったAAA306例中,初回EVAR172例(57%:172/306)を対象とした.Excluder81例,Zenith42例,Endurant

26例 Powerlink24例.130例(122/172:71%)が IFU内(Ex/

Z/En/P=57/37/21/17)で,50例(50/172:29%)が IFU外(Ex/

Z/En/P=26/5/5/7)であった.IFU外症例で,IFU外項目が,1項目のみ 49 例(49/50:98%),2項目 1例,3項目以上は無かった.IFU外の項目として,neck angulation38例(38/50:76%),short neck10例(10/50:20%),狭小アクセス3例(3/50:6%).以上の症例について IFU内外において,遠隔死亡,瘤径の推移,エンドリーク,追加処置について検討した.【結果】1.成績:病院死亡 2例(IFU内:NOMI,多発性塞栓),遠隔死亡 20例(IFU内 14例;14/122:11.4%,IFU外 6例;6/50:12%)と有意差を認めず.5年生存率:IFU内 77%,IFU外 81%と有意差を認めず,IFU,内外とも遠隔期瘤破裂を認めなかった.2.術前後瘤径の推移:IFU内 53.6±12.2 → 48.8±13.3,IFU 外 52.6±7.4 → 46.4±5.8(P =0.50,平均観察期間:2.0年)と有意差を認めなかった.3.エンドリーク:IFU内:Ia/Ib/II= 2/1/34,IFU外:Ia/Ib/II=1/1/9とIa/Ib/IIの頻度に有意差を認めなかった.Neck長:IFU内/外= 21.1±11(15--40)/13±0.8(11--14)mm,neck angu-

lation:IFU内/外= 29.6±28.8°(0--59)/74.4±25.6(60-

119)°であった.4.追加処置:12例(12/172:7.0%,初回手術から処置までの期間:平均 1.9年)に行った.IFU内10例(10/172:5.8%,Ia2例,Ib1例,II5例,脚閉塞 2例),IFU外 2例(2/50:4%,Ia1例,Ib1例)と有意差を認めなかった.【結論】1.当科では IFU外の 98%が 1項目のみで,かつその 76%は neck angulationであり,その程度の IFFU

外であれば,IFU内外で遠隔成績,瘤径の推移,エンドリーク,追加処置について有意差を認めなかった.2.Neck

angulationについては平均 74°ぐらいまでであれば IFU外であっても慎重な手術手技を行うことにより IFU内と遜色ない成績であった.3.当科では原則として IFUを順守し,Neck angulationや short neckに関して 1項目のみの IFU外症例までを EVARの適応とした方針は妥当と思われた.

O22-2EVARにおける IFUの意義

兵庫医科大学 心臓血管外科

田中 宏衞,光野 正孝,山村 光弘,良本 政章 ○福井 伸哉,上仲 永純,辻家 紀子,梶山 哲也

佐藤 通洋,宮本 裕治

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 351

225

【はじめに】腹部大動脈瘤(AAA)に対して高齢という理由で開腹手術が行われず,破裂の不安を抱えたままの生活を余儀なくされている患者は少なくない.AAA用企業製デバイスが保険収載となってから 5年以上経過したが,かつては手術適応とならなかった症例に対してもステントグラフト内挿術(EVAR)の適応が拡大してきている.今回我々は 85歳以上の超高齢者に対する EVARの安全性について検討した.【対象と結果】当科における高齢者に対するAAAの治療適応として,瘤径 55mm以上で認知症を認めず,かつ ADLが保たれている症例を原則治療適応としている.また,解剖学的に IFU適応外症例でも留置可能と判断した場合は積極的に EVARの適応とし,AAAに腸骨動脈病変合併する場合は,片側あるいは両側内腸骨動脈コイル塞栓術を積極的に行った.2006年 7月から 2012年 10

月までの過去 6年 4か月間に EVARを行った 1151例のうち破裂,胸部大動脈瘤同時治療症例,枝付きステントグラフト症例,2次処置や腸骨動脈瘤のみを治療した症例を除いた 1017例に対して,超高齢者群 131例(85歳以上),高齢者群 531例(75-84歳),非高齢者群 355例(74歳以下),の 3群に分け,手術成績を比較検討した.術前 AAAの瘤径(最大短径)は,それぞれ 62.6,58.4,55.8mmと超高齢者群で有意に大きかった.手術時間・出血量・造影剤使用量・透視時間においてはいずれの群とも有意差は認められなかった.また,術後在院日数においても明らかな差は認めなかった.周術期死亡は超高齢者群に 1例(0.8%)のみ認めた.【考察】高齢者ほど治療動脈瘤径は大きかった.術後入院期間・術後死亡率・臀筋性跛行出現率を比較・検討したが有意差は認めなかったことより,超高齢者に対してEVARを行うことは安全である.

O22-4超高齢者における腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術の安全性と有用性

東京慈恵会医科大学外科学講座 血管外科分野

萩原  慎,伊藤 栄作,瀧澤 玲央,福島宗一郎 ○内田 由寛,宿澤 孝太,原  正幸,前田 剛志

金子健二郎,墨   誠,黒澤 弘二,立原 啓正

金岡 祐司,石田  厚,大木 隆生

【はじめに】AAAに対する EVARにおいて,中枢 Neckの角度と長さ,またはアクセスルートの条件などによりステンフトグラフトの適応から IFU外の症例がある.今回我々の施設では,ハイリスク患者における Neck角度が急峻なAAA症例に対して施行した IFU外 EVARを検討した.【症例】2010年 4月~2012年 10月,Neck角度 90°以上の高度屈曲のあるハイリスク AAA患者において施行した IFU外EVAR3例.平均年齢 78.6歳.【方法・結果】使用デバイスは Excluder 2例,ENDURANT 1例.屈曲した Neckに対してデバイスを位置決めする方法として,体外から用手的に圧迫を加え瘤の屈曲を直線化する方法にあわせて,左上腕動脈とメインアクセスとの pull throughを行なった.デバイスの展開時には屈曲した Neckにデバイスを追従させ,かつ展開時に腎動脈分岐部に合わせることができるように,左上腕動脈方向とデバイス先端とが scrumを組んだ状態で展開する方法を行った.術後合併症は Neckに口径差のある症例に type1エンドリークと脳梗塞を認めた.【考察】腹部ステントグラフト内挿術は,ハイリスク患者において低侵襲であり良い治療法である.今回,Neck角度が高度なため IFU外となった症例に対する EVARは,開腹へのコンバージョンはなく,全例実施し得た.しかし 3例中 1例に軽症ながら術後脳梗塞の発症という結果となった.自ら EVARの適応を広げることは危険であり,本来のデバイスの制約を守ることは重要である.あくまでも患者の状態,解剖学的適応を検討した上で,最良な術式,また EVARを安全に行える方法を追求していきたい.

O22-3Neck角度が高度な AAAに対して施行した IFU外EVARの検討

獨協医科大学越谷病院 心臓血管外科・呼吸器外科 1

獨協医科大学病院越谷放射線科 2

大喜多陽平○ 1,六角  丘 1,龍  興一 1,高橋 英樹 1

齊藤 政仁 1,片田 芳明 2,深井 隆太 1,入江 嘉仁 1

野崎美和子 2,今関 隆雄 1

352 日血外会誌 22巻 2号

226

【背景】破裂性腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤例の従来の開腹術での手術死亡率は 20-50%とされ救命率向上が望まれる救急疾患の 1つである.当院では 2010年 10月から破裂例に対してステントグラフト内挿術(EVAR)を第一選択治療として行い,今回その臨床成績を検討したので報告する.【対象】2010年 10月からの 2年間に CTで明らかに破裂と診断された腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤で緊急 EVARを施行した 8例の臨床成績を検討した.【結果】男 5例,54-92才(平均 71.9才),5例はショック状態であった.重症度分類はRutherford 分 類 4:1 例,3:3 例,2:1 例,1:3 例 で,Fitzgerald分類 4:1例,3:5例,2:2例であった.救急搬送例の来院から手術室入室までに要した時間は平均 77

分であった.使用したステントグラフトは Zenith;1例,Excluder;7例で手術時間は平均 2時間 36分であった.手術死亡はなく全例救命された.92才で術後 1年 9ヶ月後に尿路感染による敗血症で 1例死亡.術前から下肢急性動脈閉塞を合併した 1例で術後下肢麻痺を生じた.感染性動脈瘤が疑われた 3例のうち 1例は 2週間の人工呼吸管理と長期間抗生剤投与を要したが治癒し 2年経過,他の 1例は 1

ヶ月後の CTで瘤内に airを認めたため open repair(in-situ

repair)に移行した.動脈瘤 -外腸骨静脈瘻を形成し高度右心不全から心停止しかかった例では,ステントグラフト内挿直後から劇的に循環動態が安定した.術後 CTで type-2

エンドリークを 6例に認め,下腸間膜動脈による 2例では術後早期に結紮・クリッピングを施行した.いわゆる腹部コンパートメント症候群となった例はなく,後腹膜血腫ドレナージも行わずに全例で自然吸収された.【結語】破裂性腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤に対する緊急 EVAR 8例全例で救命可能であった.EVARは術後 type 2エンドリークに対する追加処置が高率に必要となるが,従来の開腹アプローチと比べ手術時間・在院日数の短縮も得られ有用な治療法であった.取りあえず救命出来ることは極めて重要だが,感染瘤など特殊例の場合には以後の慎重な経過観察と対処が必要となる.今後,中長期成績の更なる検討が必要である.

O22-6破裂性腹部大動脈瘤・腸骨動脈瘤に対する緊急ステントグラフト内挿術の検討

旭川医科大学 血管外科

吉田 有里,升田 晃生,菊地 信介,内田 大貴 ○古屋 敦宏,内田  恒,笹嶋 唯博,東  信良

【はじめに】炎症性腹部大動脈瘤(IAAA)に対する外科治療としては人工血管置換術が一般的だが,EVARの有効性を報告する文献が散見される.IAAAは,非炎症性 AAAに比べて周囲組織との癒着が強いため,出血や周囲組織の損傷のリスクが高く,開腹や剥離操作を必要としない EVARへの期待が高まっている.今回当科で IAAAに対する EVAR

を施行した 4例に関して報告する.【症例 1】63歳,男性.腰部違和感と微熱,体重減少あり,CTで腎動脈下に man-

tle signを伴う最大径 67mmの AAA,左水腎症を認めた.赤沈亢進,血液培養検査陰性であり,IAAAと診断し,内骨格デバイスである EPLを用いた EVARを施行し,第 5病日に退院.発熱,体重減少は消失し,術後 1年半経過するが瘤径縮小,水腎症改善を認めている.【症例 2】80歳,男性.AAAでフォロー中,腹痛を認め IAAA切迫破裂の診断で緊急入院.腎動脈下の最大径 66mmの IAAAに対してZenithを用いた EVARを施行し,第 13病日に退院.瘤径は縮小傾向にある.【症例 3】64歳,男性.腰痛を主訴に整形外科受診し,CTで腎動脈下に最大径 45mmの IAAAを認め当科紹介.Endurantによる EVARを施行し,第 11病日で退院.現在外来フォロー中.【症例 4】65歳,男性.乏尿を主訴に近医受診,血液検査で Cr12.3mg/dlと腎後性腎不全,CTで腎動脈下に最大径 58mmの IAAA,両側水腎症を認めた.尿管ステント留置により腎機能改善を認め当科紹介.EndurantによるEVARを施行し,第13病日で退院.現在外来フォロー中.【結語】いずれの症例もステントグラフト留置に成功し自覚症状の改善を認め,大きな合併症なく術後経過している.手術リスクが高い症例では IAAAに対する EVARは有効な治療と考えられた.IAAAに対するEVARの適応基準や長期成績など不明な点も多いため,今後も慎重な症例の検討が必要である.

O22-5炎症性腹部大動脈瘤に対して EVARを施行した症例の検討

自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

中野 光規,堀 大治郎,田村  敦,木村知恵里 ○松本 春信,由利 康一,安達 晃一,山口 敦司

安達 秀雄

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 353

222

【目的】遠位弓部大動脈瘤や B型大動脈解離の治療では,低侵襲な TEVARが実施されるようになってきた.十分な距離の中枢側ランディングゾーンを確保するために当院では積極的に debranching手技を行っており,左鎖骨下動脈と左総頚動脈の血行再建を行う 2-debranching手技における新しいアプローチ法を紹介する.【方法】第 2肋間までのJ字もしくは逆 T字胸骨部分切開を行い,上縦隔の胸腺脂肪を剥離すると頸部分枝に到達する.人工血管にはあらかじめ分枝を作成しておく.腕頭動脈を単純遮断し側面に吻合孔を作成,人工血管を端側吻合する.次に左総頚動脈を単純遮断しやや末梢側で切離,人工血管と端々吻合する.同様に左鎖骨下動脈も吻合を行うが,視野確保が困難な場合には左腋窩動脈まで延長し吻合を行う.左総頚動脈と左鎖骨下動脈の中枢側断端には,血管止血用クリップを用いることで短時間で安全に処理することができた.【結果】平成 24年 3月から 10月までの間に,5症例に本アプローチ法で 2-debranching手技を実施した.最初の 2例は J字切開で行ったが,視野不良と胸骨閉鎖の問題からあとの 3例は逆 T字切開としている.ステントグラフト内挿術まで含めた手術時間は平均 337分(293-376分)であった.1例は下行大動脈破裂で死亡した.【考察と結論】従来の 2-deb-

ranching手技は,右腋窩動脈から左総頚動脈および左腋窩動脈へ人工血管バイパスを設置する方法だが,人工血管は長くなり前胸部皮下を横断するため圧迫や屈曲による閉塞リスクを伴う.また胸骨正中切開で開心術の可能性がある症例や気管切開の可能性がある症例では問題となりうる.本アプローチ法では人工血管は短くなり縦隔内に収まるため,閉塞リスクは低減されると考えられる.また胸骨正中切開や気管切開は可能であり,心嚢は開放しないため開心術手術操作への影響も抑えられる.侵襲としては従来法よりもやや大きくなるが,胸骨部分切開であり術後の呼吸機能低下は最小限に抑えられると考えられ,術後疼痛に関しても経験症例では内服鎮痛剤で対処可能であった.将来的に枝付きステントグラフトの登場が予定されており,腕頭動脈を温存して上行・弓部大動脈をステントグラフトでカバーすることが可能となる.本アプローチ法により 2-deb-

ranching TEVARはより多くの症例に適応可能となると思われる.今後さらに症例を重ね長期間の経過観察を行っていきたい.

O22-22-debranching手技における新しいアプローチ法

熊本赤十字病院 心臓血管外科

渡辺 俊明,上木原健太,坂口  健,松川  舞 ○萩尾 康司,平山  亮,鈴木 龍介

【背景】弓部・遠位弓部大動脈瘤に対する術式は,当然,体外循環下人工血管置換術が通常手術であるが,高齢や術前重篤な合併症を有する症例には低侵襲治療が切望されている.そこで,当科の debranching TEVARの治療成績から今後の治療戦略を考察する.【対象・方法】2008年 5月から2012年 10月までの,弓部・遠位大動脈瘤症例 235例中,企業製造デバイスを用いた debranching TEVARを施行した真性弓部・遠位弓部大動脈瘤症例 120例(破裂:2例,感染瘤:2例)を対象とした.平均年齢は 73.4歳,男女比は92:28,術前平均 Logistic EuroSCOREは 15.2%であった.中枢側 landing zoneは Z0 39例(32.5%),Z1 39例(32.5%),Z2 42例(35.0%)であった.Z0症例では,上行大動脈からの全頸部分枝バイパスを 17例で,そのうち上行大動脈拡張がある症例 9例に Aortic bandingを行った.開胸困難なハイリスク症例にのみ chimney technique(11例)を行った.上行大動脈に landingが確保できない症例 7例には上行置換を併用せざるを得なかった.また最近の 1例において,新しい branch deviceを使用した.Z1症例では右腋窩 -左総頸 -左腋窩動脈バイパスを 36例に施行した.Z2症例では脳・脊髄虚血のリスクのある 30例に右腋窩 -左腋窩動脈バイパスを行った.【結果】初期成功は 117例(97.5%)で得られた.手術死亡は 2例(1.7%)あり,死因は脳梗塞と腸管虚血であった.在院死亡は 4例(3.3%)であった.早期合併症として,脳血管障害 2例(1.7%),急性冠症候群 2

例(1.7%),膵炎 2例(1.7%),対麻痺 1例(0.8%)を認めた.平均観察期間は 14.5ヶ月,大動脈瘤関連死回避率は 4年で97.5%であった.また再手術回避率は 4年で 93.8%であった.Z0群と Z1+Z2群を比較検討すると,早期合併症率,大動脈瘤関連死回避率など早期及び遠隔期成績において有意な差を認めなかった.Branch deviceを使用した Z0症例は,手術時間約 3時間で術後合併症も認めず良好な成績を得ることができた.【まとめ】真性弓部大動脈瘤に対するdebranching TEVARは良好な早期及び遠隔期成績を示した.今後,branch deviceを含めた新たな device導入によって,非体外循環・非開胸でのさらなる低侵襲弓部大動脈瘤治療が可能になると推察された.

O22-2真性弓部大動脈瘤に対する低侵襲治療の試み

大阪大学 心臓血管外科 1

大阪大学 低侵襲循環器医療学 2

四條 崇之○ 1,倉谷  徹 2,白川 幸俊 2,鳥飼  慶 1

島村 和男 1,阪本 朋彦 1,渡辺 芳樹 1,上野 高義 1

戸田 宏一 1,澤  芳樹 1

354 日血外会誌 22巻 2号

222

はじめに弓部大動脈瘤の治療は,近年高齢者に対する治療方針で変化がみられる.低侵襲を目的として胸部ステントグラフトを用いての治療が施行されることが増加し,その報告が散見される.当院においても症例を選択してステントグラフトでの弓部大動脈瘤に対しての治療を施行している.選択においては高齢であること,開胸手術に対する危険性(人工心肺使用に対する危険性など)があることが主たる選択理由となっているが,CTでの画像所見で上行大動脈の壁の性状が良好であるもしくは人工血管の吻合が可能であることが前提である.今回,88歳の弓部大動脈瘤症例に対して Chimney法を用いた胸部大動脈ステントグラフト留置術を施行した.現在までの当院での弓部大動脈瘤に対するステントグラフトによる治療例を併せ,文献的考察をふまえて検討した.症例 88歳男性.不整脈で循環器内科通院中.2006年頃に胸部大動脈瘤を指摘.拡大傾向を認めたが,年齢から手術は不可能と考えられ,経過観察となっていた.しかし,本人の治療に対する希望が非常に強く 2012年に心臓血管外科紹介となった.弓部大動脈瘤は Zone2-3に存在.Zone1に Landing Zoneは確保できず大動脈弓部人工血管置換術の適応と診断された.結果開胸手術はやはり困難と判断して,2Debranching+chimneyによる治療を選択した.Chimney法は腕頭動脈へ右鎖骨下動脈から,メイングラフトは左腸骨動脈からのアプローチ.術中に塞栓症などの合併症なし.術後 10日に退院となった.考察今回の症例に対して Chimney法は非常に有効であったと考えられる.ステントグラフトの相互干渉など長期的な予後に関しては明らかではなく慎重な症例選択が必要であると考える.結論当院での弓部大動脈瘤に対するステントグラフト治療は 2012年 11月までに TAR+TEVAR 2例,3Debranching+TEVAR 15例,Chimney法 1例の合計 18例である.在院死亡 1例.合併症は対麻痺 1例,大動脈解離1例であった.ステントグラフトにより弓部大動脈瘤に対して治療の選択肢が増加した結果,現在まで治療困難と考えられた症例にも介入が可能な場合が認められる.長期予後は不明であり慎重な症例選択が必要であるが有効な治療方法と考えられる.

O22-4弓部大動脈瘤に対する Chimney法の経験

広島市民病院 心臓血管外科

鈴木登士彦,柚木 継二,今井 章人,井上 知也 ○藤田 康之,久持 邦和,吉田 英生

【目的】当院における Landing zoneが上行大動脈(Zone 0)となった TEVAR症例について検討する.【対象】症例は弓部大動脈瘤を有した 15例(男性 12例,平均年齢 81±7歳).緊急手術は 2例で,うち 1例は症候性腹部大動脈瘤に対する EVARを同時に施行した.Euro SCORE IIは 2.61~27.75

[中間値 8.465],Japan SCORE(30 days operative mortality+合併症)は 12.4~51.4 [23.35]であった.【術式】TEVARの末梢側は Zone 3が 5例,Zone 4が 10例であった.頸部動脈バイパスの術式は胸骨正中切開による上行大動脈-腕頭動脈+左総頸動脈+左鎖骨下(腋窩)動脈バイパス 8例(初期症例および腕頭動脈壁の性状不良例),腹部大動脈位人工血管-右腋窩動脈+左総頸動脈+左腋窩動脈バイパス 1

例(CABG後,shaggy aorta),Chimney graft technique 6例(うち右総頸動脈-左総頸動脈+左鎖骨下動脈(腋窩)動脈バイパス 4例,右腋窩動脈-左総頸動脈+左腋窩動脈 2例であった.頸部動脈バイパスと TEVARの同時施行は 10例で二期的施行 5例のバイパス術から TEVARまでの期間は 6

±4.8日であった.バイパスと TEVARの合計手術時間は440±130分,出血量は 2510±1593ml.全例で輸血を要した.【結果】入院死亡はなかった.TEVARの合併症は遅発性対麻痺 1例(EVAR同時施行例),Chimney graft挿入部の右鎖骨下動脈解離 1例,脳梗塞 1例であった.バイパス手術の合併症は右鎖骨下動脈バイパス吻合部の解離 1例,上行大動脈解離(clamp injury)1例であった.胸骨正中切開 2

例と術前に腸骨動脈瘤の静脈穿通による心不全を伴った 1

例で TEVAR後に気管切開を要した.【結語】Zone 0症例を15例経験した.入院死亡は認めず,ハイリスク弓部大動脈瘤に対する有効な治療法と考えられたが,大動脈遮断部位やカテーテル穿刺部の損傷に対する注意が必要であった.頸部動脈バイパスに胸骨正中切開を要する手術は侵襲が大きいと考えられ,Chimney graftによる低侵襲化の有用性を検討する必要があると思われた.

O22-3Zone 0 landingを要した TEVAR 15例の検討

国立循環器病研究センター 心臓血管外科 1

国立循環器病研究センター 放射線科 2

久保田沙弥香○ 1,松田  均 1,福田 哲也 2

田中 裕史 1,伊庭  裕 1,佐々木啓明 1,湊谷 謙司 1,小林順二郎 1

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 355

222

【背景】胸部大動脈手術はステントグラフト(以下 SG)の登場で大きく変化し,deviceの進化と共に TEVAR適応の幅が広がってきている.病態的には真性瘤から解離への応用が進んできている現状がある.【対象】当科では 2003年 12

月の自作 SGに始まり,2010年 12月から企業性 SGによる TEVARを施行している.2012年 9月までに計 151例施行し,内訳は自作:85例,TX2:51例,TAG:13例,TALENT:3例であった(併用あり).そのうち Stanford B

型大動脈解離例 41例を検討した.当科の B型大動脈解離への手術適応としては,急性期では complicated case(循環不全や破裂)及び治療抵抗性の有症状例とし,慢性期では瘤径(偽腔)又は ULPの拡大,それに伴う entry閉鎖目的,としている.尚,当科では de-branchする際は,緊急例を除き全例左鎖骨下動脈まで再建する方針としている.【結果】男性 32例・女性 9例,平均年齢 68.9歳.急性期の適応は,破裂又は切迫破裂の 7例.慢性期の適応は,瘤径・ULP拡大が 34例(偽腔開存 15例については entry閉鎖施行,解離発症から手術まで平均 242日)であった.平均瘤径は52.5mm.使用 SGは自作:23例,TX2:14例,TAG:4例.2例は開胸下で施行し,その他は大腿動脈アプローチで行った.SG留置部位は,ZONE 1が 1例,ZONE 2が 8例,ZONE 3以下が 32例であった.併施手術は鎖骨下動脈間バイパス 9例,左鎖骨下動脈 -左総頚動脈バイパス 1例,腹部大動脈人工血管置換 1例,大腿動脈間バイパス 1例.平均の手術時間 123分・ICU入室期間 3.2日・術後入院期間 19.8日.術後合併症として主なものは脳梗塞 1例,対麻痺 1例,肺炎 2例,炎症反応高値遷延 2例であった.手術死亡はなかったが,病院死亡を 2例(破裂例,術後 MOF)に認めた.また術後遠隔期(follow-up率 38/41例:92.7%,平均 follow-up期間 22.6ヶ月)では,平均瘤径 44.4mm(不変19例・縮小 19例),endoleakは Type Iaが 1例,Type Ibが2例,Type IIが 1例であった.Entry閉鎖を行った例では,SG留置部位での偽腔血栓化が得られた.【結語】破裂例を除けば Stanford B型大動脈解離への TEVARの成績は概ね良好であった.現時点では慢性期での適応が主と考えられるが,特に偽腔開存型では慢性期の拡大傾向が強く,保存的加療を含めて今後更なる検討が必要であろう.

O22-6Stanford B型大動脈解離に対する TEVAR

岸和田徳洲会病院 心臓血管外科

薦岡 成年,東上 震一,頓田  央,松林 景二 ○川平 敏博,東  修平,平松 範彦,降矢 温一

【背景】大動脈食道瘻は治療困難な疾患であり,救命率が非常に低いとされる.近年胸部ステントグラフト内挿術(TE-

VAR)が簡便かつ低侵襲な治療として同疾患に対しても適用されているが,感染制御の点から TEVAR単独治療のみでは不十分とも言われている.病状安定後に追加治療として食道切除や人工血管置換を推奨する報告が多いが,それらの追加治療の介入時期に関してはいまだ明確ではない.【対象】1992年から 2012年まで,当科で治療した大動脈食道瘻症例 8例のうち,初回治療として TEVARが選択された 4例を対象とし,TEVAR後の追加治療を行うにあたって望ましい介入時期に関して検討する.【結果】症例 1)55

才 男性.主訴 吐血.放射線治療の既往あり.初回治療として TEVAR(Gore TAG)施行,腫瘍による癒着のため追加手術が不可能であり,術後 55日目に敗血症,吐血により死亡.症例 2)69才 女性.主訴:吐血.特記すべき既往なし.初回治療として TEVAR(Gore TAG+Talent),施行.術後 1か月後に食道切除+大網被覆施行したが,感染によると思われる急速な大動脈中枢側径の拡大と気管支瘻による喀血により 110日目に死亡.症例 3)64才 男性.主訴:吐血,血圧低下.胃全摘術の既往あり.初回治療としてTEVAR(Z-stent)施行,術後 1年目で再感染のため,食道切除+人工血管置換術施行するが,初回手術より 5年後にグラフト感染で死亡.症例 4)74才 男性.主訴:吐血.特記すべき既往なし.初回治療として TEVAR(Gore TAG)施行,術後 2日目に VATSにより食道切除を,加えて人工血管置換+大網被覆+胃管再建術(後縦隔経路・頸部吻合)施行,術後 1年生存中である.【考察】当科での経験例において,初期治療として TEVAR実施後,全例血行動態の安定化及び主訴の改善を認めた.感染源の除去として食道切除が 3例で行われたが,より早期に追加治療を介入できた症例 4のみ,現時点で生存を認めている.また感染巣となった瘻孔周囲の大動脈壁および TEVARも早急に取り除かなければ根治治療とはならないと考えられた.【結論】大動脈食道瘻症例において,まずは血行動態の安定を望むべく初期治療として TEVARを施行し,可及的速やかに感染源である食道切除術と感染巣切除としての人工血管置換を行うべきである.

O22-5大動脈食道瘻に対する治療戦略 ─初期治療としての TEVARの役割と限界─

北海道大学 循環器・呼吸器外科

飯島  誠,久保田 卓,浅井 英嗣,加藤 伸康 ○関  達也,南田 大朗,内藤 祐嗣,新宮 康栄

若狭  哲,大岡 智学,橘   剛,松居 喜郎

356 日血外会誌 22巻 2号

220

【背景】胸部下行ないし胸腹部大動脈手術時の脊髄虚血は対麻痺・不全対麻痺は重篤な合併症である.当科におけるOpen Surgeryの際の脊髄保護基本戦略は(1)術前MDCTによる Adamkiewicz動脈(AKA)の同定,(2)肋間動脈の積極的な再建,(3)経頭蓋的運動誘発電位(tc-MEP:transcranial

- Motor Evoked Potential)モニタリング,(4)脳脊髄液ドレナージ,(5)周術期の至適血圧維持としている.TEVAR

(thoracic endovascular aortic repair)施行時も同様に open sur-

geryに準じた脊髄保護対策を施行している.【目的】TEVAR

施行時おける脊髄虚血モニターとしての tc-MEP測定の有効性について検討する.【対象】2004年 4月から 2012年 3

月までに胸部下行・胸腹部大動脈疾患に対し TEVARを施行した症例のうちMEP未施行例を除いた 13例を対象とした.内訳は男性 9例,女性 4例.平均年齢 71.3±6.0歳.病因は解離 4例,非解離 9例であった.全例で術前MDCT

にて AKAを同定した.【方法】MEP測定に関しては刺激強度

400V~600V,持続時間 0.2ms,刺激間隔 3~3.5msの 5連発刺激にて経頭蓋的に刺激し,上肢:短母指外転筋,下肢:前脛骨筋の 4chで導出した.MEP測定前に筋弛緩を reverse,BIS monitorで BIS 60 前後に controlとした.TEVAR施行時には Landing zone確保を優先し平均血圧 80mmHg以上を維持することとした.【結果】全 13例のうち術前同定された AKAを Stent Graft(SG)にて閉塞させた症例は 4例であった.これらのうち 3例でMEP波形の虚血性変化(一過性消失 1例,一過性低下 2例)を認めた.これら虚血性の波形変化を認めた症例では可及的速やかに平均血圧 80mmHg

以上の維持に努めることでMEP波形の回復を認め,結果いずれの症例も術後神経学的異常所見を認めなかった.1

例で SGによる AKAの閉塞を伴わないにも関わらず,一過性にMEP波形の低下を認めた症例があった.これは術中に造影剤によるアナフィラキシーショックを発症し著明な低血圧を来した症例で,同症例でも血圧維持に努めMEP

波形は回復し術後神経障害は認めなかった.【結語】tc-MEP

は Open Surgery同様 TEVAR施行時においても非常に鋭敏な脊髄虚血のモニターであった.tc-MEP測定の意義は脊髄障害の予防であり,脊髄虚血を早急に察知し可及的速やかにその治療を開始することにある.TEVARの際も tc-

MEP測定は対麻痺予防法として必須のモニターであると考えられた.

O22-2TEVAR施行時における経頭蓋的運動誘発電位測定の有効性の検討

久留米外学 外科 1

久留米大学病院 臨床検査部 2

大野 智和○ 1,齊藤 祐樹 2,中村 英司 1,細川 幸夫 1

飛永  覚 1,鬼塚 誠二 1,澤田健太郎 1,廣松 伸一 1

明石 英俊 1,田中 啓之 1

【目的】当院における腹腔動脈 デブランチング TEVARの早期および中期成績を検討し,術式の有用性を検討する.【方法】当院にて 2009年 1月から 2012年 11月にかけて実施した TEVAR 114例中,腹腔動脈デブランチを行った 8

例につき検討した.平均年齢 68.1歳で,男性 7例,女性 1

例,観察期間中央値は 10.5ヵ月(2-29)であった.予定手術4例(胸腹部大動脈瘤 3例,胸部腹部重複大動脈瘤 1例),緊急手術 4例(胸腹部大動脈瘤破裂 2例,下行大動脈および腹部人工血管術後吻合部瘤 1例,感染性胸腹部大動脈瘤破裂 1例)であった.【結果】使用ステントグラフトは TAG

5例(うち 2例に TX2 Extention追加),TX2 2例,Excluder

1例(EVAR後感染性瘤破裂にて中枢側を腹腔動脈上でlanding)であった.デブランチングは,腹部 4分枝デブランチ 4例,腹腔動脈(CeA)および上腸間膜動脈(SMA)の 2

本デブランチ 1例,CeAのみの 1本デブランチ 1例であった.再建血管は,腹腔内 4分枝再建 1例,右外腸骨動脈(EIA)-SMA,CeAバイパス,右 EIA-SMA. 左腎動脈バイパス,右 EIA-SMA,右腎動脈バイパス,右 EIA-SMAおよび左 EIA-CeAバイパスが各 1例ずつであった.CeAデブランチのみの 3例ではいずれも CeA再建は施行しなかった.右EIA-SMAおよび左EIA-CeAバイパス施行例では,SMA再建後,術中所見にて高度の CeA潅流不良を認め,CeA再建を要した.術後合併症として,腹部 4分枝デブランチで CeA再建を行わなかった 1例で胃潰瘍を合併した.CeAのみのデブランチ例では 3例全例で腹部臓器虚血を疑う所見を認めなかった.脳脊髄液ドレナージは予定手術 4例で施行し,うち 1例が術後脊髄麻痺の合併を認めたが,脳脊髄液ドレナージ施行にて後遺症なく改善した.緊急手術例では術後脊髄麻痺の合併は認めなかった.術後,感染性動脈瘤の 1例が術後第 48病日に敗血症で,胸腹部大動脈瘤破裂の 1例が術後食道動脈瘤瘻を合併し,術後 5か月で敗血症にて死亡した.他 6症例については,観察期間中に type IIエンドリークを 2例に認めたが瘤径拡大を認めず経過観察中である.【結論】デブランチングTEVARにおいては,CeAのみのデブランチ症例においては腹部分枝再建を施行せず合併症を認めなかった.しかし,CeA,SMA 2本デブランチ症例では,CeA,SMA再建を行った 1例で,SMA再建後の CeA潅流不良のためCeA再建を追加しており,SMAデブランチを要する症例においては CeA再建の必要性が示唆された.

O22-2当院における腹腔動脈 debranching TEVARの手術成績

信州大学 心臓血管外科

市村  創,福井 大祐,小松 正樹,田中 晴城 ○山本 高照,五味渕俊仁,駒津 和宜,大津 義徳

寺崎 貴光,和田 有子,瀬戸達一郎,高野  環

天野  純

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 357

222

Uncomplicatedな B型大動脈解離(BAD)に対しては,一般に降圧安静療法が推奨され良好な成績が報告されているが,遠隔期に複雑な治療を考慮しなければならない症例も散見される.【目的】当施設では Complicated BADに対しては可能な限り TEVARで,また Uncomplicated BADに対しても最大大動脈径が 40mm以上または急速拡大を来した症例に対しては,亜急性期,慢性期に TEVARで,ULPまたは primary tearの閉鎖を行っている.今回,この戦略の治療成績について検討した.【対象と方法】2005年 8月から2012年 10月までに B型大動脈解離で当院へ入院した症例は 107例で,そのうち TEVARで治療を行った 30例(男26例,女 4例,平均 67.5歳)を対象とした.【結果】手術時期を急性期(A群)5例,亜急性期(SA群)9例,慢性期(C群)16例に分けて検討した.A群の手術を要した原因は破裂 4例,臓器虚血 2例(1例は重複)で,4例で TEVAR,1例でDebranching TEVARを行った.Deviceは自作 3例,TAG,TX2が各 1例であった.出血性ショックによる手術死亡を 1例(20%)に認めた.follow up期間は平均 19ヶ月で,全例大動脈径が縮小した.SA群は,発症後平均 40日目に,6例に ULPの拡大,2例に解離腔(FL)の拡大,1例に真性瘤部分の拡大を認めたため TEVARを行った.DeviceはTAG6例,自作,TX2,TALENT各 1例であった.手術死亡はなく,平均 32ヶ月の follow up期間で,大動脈径の縮小を 8例(89%)に認め,1例は拡大傾向を示し再治療を要した.2例に type 1a エンドリーク(EL)を認め追加 TEVARを,1例は総腸骨動脈拡張に対し open repairを行った.C群は,ULPの拡大を 8例,FLの拡大を 5例,真性瘤の拡大を 3例に認めたため,4例で Debranching TEVAR,12例でTEVARを行った.Deviceは,TAG11例,自作 4例,TX2 1例.手術死亡はなく,平均 28ヶ月の follow up期間で,大動脈径の縮小 7例(44%),無変化 7例(44%),拡大 2例(12%)であった.追加治療は 5例に行った.理由は,残存tearの閉鎖,真性瘤の拡大,ステントグラフト末梢側 edgeの new tear出現,type 1a EL,腹部大動脈拡大が各 1例であり,追加 TEVARを 4例に,腹部大動脈の open repairを 1例に行った.大動脈径拡大症例は追加治療待機中である.【まとめ】BADに対する TEVARの周術期成績は概ね良好で,A,SA群は,follow up期間中に大部分の症例で大動脈径の縮小を認めた.C群では,大動脈径が縮小しない症例が半数以上を占めることを考慮すると,BADに対する亜急性期までの TEVARによる治療介入は,症例によっては遠隔期の複雑かつ侵襲的な治療を避けることができ,有用な治療戦略である可能性が示唆された.

O23-2当院における B型大動脈解離に対するステントグラフトを用いた治療戦略

KKR札幌医療センター 心臓・血管外科

上田 秀樹,阿部 慎司,大畑 俊裕○

【背景】大動脈解離(AD)に対するステントグラフト内挿術(SG)の適応や治療成績には施設間で差異がある.【目的】当施設の ADに対する SGの手術成績を検討した.【対象と方法】2005年 9月から 2012年 10月までの ADに対するSG19例,平均年齢 66.8±10.8(51~81)歳,男:女= 18:1

を対象とし,手術内容,術後の問題点を検討した.【結果】対象の内訳は病期別だと急性期(発症から 2週間内)5例,亜急性期(発症後 2~4週間)5例,慢性期 9例であり,治療対象部位別だと胸部大動脈 14例,腹部大動脈 5例であった.胸部大動脈解離には DeBakey 3b逆行型の Stanford

A型解離が 2例含まれていた.治療の理由は ULPもしくは偽腔の急速な増大が 11例,保存的治療でも軽減しない疼痛が 6例,真腔狭小化による臓器虚血 1例,破裂 1例であった.使用したデバイスは胸部では自作が 2例,Gore

TAG7 例,Medtronic TALENT1 例,Cook TX2 が 2 例,開窓付き自作(Najuta)2例,腹部では自作 1例,Gore Exclud-

er3例,Endologix Powerlink1例 であった.1例で頚部動脈バイパスを併施した.全例で手技的成功を得た.手術死亡はなかった.術後早期の CTにおいて治療不完全であったのは 1例(限局解離の偽腔血流残存)のみで他の 18例はすべて治療目的達成を確認できた.対象の術後平均観察期間は 24±22(1~86)ヶ月で,遠隔期死亡は脳出血のため術後1.5ヶ月後に急死した 1例のみであった(術後生存率は 1年以降 94.7%).観察期間において追加治療を要したのは胸部下行大動脈限局解離に対する自作 SGの 1例のみで偽腔血流残存のため術後 7日目,8ヶ月目に追加 SGを行った.しかし B型解離の胸部真腔狭小化による臓器虚血の 1例で SG留置によって真腔の拡大を得たものの分枝からの偽腔血流のため下行大動脈の偽腔血栓化が進んでいない.また B型解離の胸部エントリー閉鎖の 2例で横隔膜のやや上方に肋間動脈由来の偽腔血流が残存している.腎動脈下大動脈の解離が逆行性に胸部まで達した症例で腹部エントリー閉鎖後にも腰動脈由来の偽腔血流が残存している.【考察】胸部大動脈解離において DSAだけでなく術中のTTEによる血流評価が手技の精度の確認する上で有用であった.特に A型解離や破裂例では開胸手術に移行せずに手術を終了する根拠として TTE所見は極めて重要であった.【結語】1. 当施設における ADに対する SGの初期成績は概ね良好であった.2. 限定的ではあるが A型解離や破裂例も SGで治療できた.3. 肋間動脈,腰動脈などの分枝が関連した偽腔血流への対処が当面の課題として残る.

O23-2当施設の大動脈解離に対するステントグラフト内挿術の現状と課題

新潟大学 呼吸循環外科学分野

青木 賢治,岡本 竹司,名村  理,長澤 綾子 ○榛沢 和彦,土田 正則

358 日血外会誌 22巻 2号

222

【背景と目的】Stanford B型大動脈解離の破裂や臓器虚血を伴う complicated caseにはステントグラフトの有効性が認められつつある.一方,uncomplicated caseでは議論が分かれるが,発症時の最大径が 4cmを超え,かつ偽腔開存例では経時的に大動脈径の拡大をきたし,大血管関連死や合併症が高くなるという報告もある.そこで 2008年 8月以降,complicated case及び,発症後 1年以内に解離腔が開存し大動脈最大径が 4cmを超える早期例(EC-E)や発症後 1

年以降に最大径 5cm以上となった慢性期例(EC-C)の un-

complicated caseにも積極的にステントグラフトを用いたエントリー閉鎖(TEVAR-EC)を行ってきた.本治療戦略の妥当性を検証した.【対象と方法】B型解離に対する TEVAR-

EC治療後の大動脈,真腔と偽腔の最大径及び胸部下行~腹部大動脈終末部にいたるそれらの体積の推移を EC-E群と EC-C群で t検定にて解析し,さらに降圧治療を中心とする保存治療群の経年的推移と比較検討した.EC-E群は破裂緊急の 2例と緊急以外 8例の計 10例,EC-C群は 8例であった.保存治療群は,2002年 1月~2011年 8月までの 7例であった.【結果】ステントグラフト留置は全例で成功し,primaryエントリーの閉鎖は 17例(94%)で成功した.1例(6%)にわずかな type 1 エンドリークを認めた.1例(6

%)がグラフト感染をおこし,人工血管置換術に移行した.在院死はなく,術後 11例(61%)に解離腔の完全な血栓化を得た.reentryの残存は 18例中 7例(39%)に認めた.施行直後と 1年後の大動脈径と偽腔径の縮小,真腔の拡大は人工血管置換術に移行した 1例と type1エンドリークを認めた 1例を除いた 16例中,13例(81.2%)に認められた.EC-E群では 9例中 8例(88.8%)に,EC-C群では 7例中 5

例(71.4%)に大動脈径と偽腔径の縮小,真腔の拡大を認めた.保存治療群では全例で 1年後,2年後,3年後の大動脈径と真腔径と偽腔径のいずれも拡大を認めた.体積はTEVAR-EC群において術直後では全例で真腔の増大と偽腔の縮小を,1年後では 16例中 13例(93.8%)に認めた.また EC-E群では 9例中 9例(100%),EC-C群では 7例中6例(85.7%)に術直後の真腔の増大と偽腔の縮小を認めた.保存治療群では全例で真腔と偽腔の 1年後,2年後,3年後の体積の増加を認めた.【考察】Stanford B型大動脈解離に対する entry閉鎖目的の TEVAR後の血管径および体積の検討で,大動脈の縮小,真腔の拡大,偽腔の縮小が認められ,有用な治療である可能性が示唆された.

O23-4Stanford B型大動脈解離に対するステントグラフト内挿術の有効性

徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 心臓血管外科学分野

木下  肇,中山 泰介,菅野 幹雄,黒部 裕嗣 ○神原  保,藤本 鋭貴,北市  隆,北川 哲也

【目的】B型大動脈解離に対する胸部ステントグラフト内挿術(TEVAR)の治療時期,方法については各施設に委ねられているのが現状である.当院における治療時期,ステングラフト(SG)留置部位の違いによる早期・中期成績について報告する.【対象】2007年 12月から 2012年 10月までに行われた B型大動脈解離に対して TEVARを行った 29

例(亜急性群(SA群):10例,慢性群(C群):19例)を対象とした.年齢: SA群 65±13歳,C群 65±9歳,男女比はSA群全例男性,C群 12:7であった.手術適応は,SA群では真腔+偽腔径 55mm以上 1例,ULP3例,腎機能障害2例,真腔狭小化 1例,C群では真腔+偽腔径 55mm以上8例,ULP5例,真腔狭小化 2例,腎機能障害 1例,SMA

狭窄 1例,嚥下障害 1例であった.術前の真腔+偽腔径はSA群 42±7mm ,C群 52±13mm,発症から TEVAR施行までの期間は,SA群 60±27日,C群 72±60ヶ月であった.使用した SGは SA群は TAG:7例,TX2:3例,C群ではNajuta:1例,TAG:12例,TX2:6例であった.SG留置部位は,entry部閉鎖のみが,SA群 9例,C群 15例,2012

年 4月より entry部から腹腔動脈(CA)直上まで SGを留置する試みを行なっており,同部に留置した症例(Z2~CA:3

例,Z3~CA:2例)が,SA群 1例,C群 4例であった.【結果】手術時間は SA群で 133±56分,C群で 123±59分,出血量は SA群は 38±39ml,C群 70±81ml,術後在院日数はSA群 10.6±5日,C群 9±4日でいずれも有意差は認めなかった.術後合併症は SA群で虚血性腸炎 1例,DIC 1例が発生し,C群では,肝機能障害 3例であった.両群とも在院死亡,術後脳梗塞,対麻痺はなかった.平均観察期間は SA群 18±13ヶ月,C群 18±16ヶ月であった.胸部偽腔の完全消失がみられた症例は SA群で 9例(90%),C群で 8例(42%),胸部偽腔の完全消失までの最短期間は SA

群 3ヶ月,C群 13ヶ月であり,平均は SA群 15±12ヶ月,C群 32±15ヶ月で,SA群の方が有意に短期間であった.(P

<0.05).また,entry部からCAまでSGを留置した症例(SA

群 1例,C群 4例)で,術後 3ヶ月目以降に造影 CTを施行した 3例のうち 1例(SA群)で胸部偽腔の完全消失を得ることができた.【結語】B型大動脈解離に対して亜急性期にTEVARを行うことにより,早期に胸部偽腔の完全消失を得ることができた.また,entry部から CA直上まで留置した症例では術後対麻痺の発生はなく,早期の胸部偽腔消失の可能性があった.

O23-3B型大動脈解離に対する TEVARの治療時期,ステントグラフト留置部位の検討

山口県立総合医療センター 外科

上田晃志郎,善甫 宣哉,金田 好和,峯  由華 ○深光  岳,宮崎 健介,日高 匡章,杉山  望

須藤隆一郎,野島 真治

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 359

223

【序文】近年 Complicated type B dissectionに対する TEVAR

の良好な成績が報告させているが,uncomplicated type B

dissectionに対する意義については議論の対象である.当院で行った B型解離の臨床研究では,偽腔に血流が残存する症例で慢性期の大血管関連イベントが,偽腔閉塞症例より有意に多かった.そこで偽腔血流が残存している B

型解離における,慢性期大血管関連イベントの危険因子ついて検討した.【方法】2001年 1月から 2012年 4月までに経験した B型急性大動脈解離は 110例であり,偽腔非閉塞症例は 62例であった.このうち大動脈瘤に合併した解離と,Complicated type B dissectionに対して加療を行った症例を除く,49例を対象とし,年齢,男女比,基礎疾患,発症時大動脈径,エントリー部位,および血流が残存している偽腔長と慢性期大動脈関連イベントについて検討した.大動脈関連イベントは瘤化,5mm/0.5年の拡大,再解離,破裂とした.【結果】49例のうち,25例(51%:E群)で慢性期大動脈関連イベントを認め,24例(49%:S群)で認めなかった.2群間で年齢,男女比,基礎疾患(高血圧,糖尿病,腎機能障害,心疾患,末梢血管疾患,脳疾患)に有意差を認めなかった.E群で遠位弓部にエントリーを有する症例が S群に比べて有意に多く(E:21例(84%)vs S:8例(33%),P=0.002),胸部下行から末梢にエントリーを有する症例が有意に少なかった.また E群で解離発症時の大動脈径が S群に比べて有意に大きく(E:38±6mm vs S:34±5mm,P=0.004),大動脈径が 40mm以上の症例が有意に多かった(E:10例(40%)vs S:3(13%),P=0.018).血流が残存している偽腔長については両群で有意差を認めなかった.目的変数を慢性期大動脈関連イベントにしぼった重回帰分析をおこなったところ,遠位弓部にエントリーが存在することが有意にイベントの発生に影響しており(P=0.001),解離発症時大動脈径はイベント発生に影響する傾向がみられた(0.068).【結論】今後の研究で Complicat-

ed type B dissectionに対する TEVARの長期成績が良好となった場合,偽腔血流が残存する Uncomplicated type B dis-

sectionで,エントリーが遠位弓部にあるか,発症時の大動脈径が 40mm以上である場合,慢性期大血管関連イベントの予防を目的とした TEVARを考慮することは妥当と思われる.

O23-6B型急性大動脈解離離における慢性期大血管関連イベントの危険因子の検討

香川県立中央病院 心臓血管外科

末澤 孝徳,山本  修,七条  健○

【目的】B型大動脈解離に対する慢性期外科治療介入の成績を検討する.【対象・方法】2000年 5月から 2012年 10月までの慢性期 B型大動脈解離に対して外科的治療介入を行った 109例(平均年齢は 58.9±14.9歳,男性 85例(78.0

%),マルファン症候群 16例(14.7%))を対象とした.慢性期に直達手術を施行したのは96例(88.1%)(下行置換38例,胸腹部置換 46例,弓部下行置換 9例,全弓部胸腹部置換2例,非解剖学的バイパス 1例),TEVARを施行したのは13例(14.7%)であった.発症から治療までの期間は平均41.0±51.8ヶ月(直達手術 46.2±54.0ヶ月,TEVAR13.0±23.5

ヶ月,P= 0.033)であった.緊急手術および準緊急手術は13例(11.9%)(直達手術 11例,TEVAR2例)であった.治療時の大動脈最大短径は 56.2±11.6mm(直達手術 57.3±11.0mm,TEVAR48.6±13.4mm,P= 0.011),血栓閉鎖型偽腔は23例(21.1%)(TEVAR10例,P<0.0001)であった.(【結果】30日死亡は 6例(5.5%)(内緊急手術 6例,直達手術 5

例),在院死亡 8例(7.3%)であった.気管切開を要する呼吸器合併症を 10例(9.2%)(全例直達手術)に認めた.生存退院 101例の内 1例(1.0%)(直達手術)に不全対麻痺を認めた.術後 5年生存率は 85.1%(直達手術:86.5%,TE-

VAR:74.0%,P= 0.30)であった.術後 5年の大動脈関連合併症(大動脈関連死亡または外科治療介入)の回避率は89.1%(直達手術:91.5%,TEVAR:66.5%,P= 0.025)であった.【結語】慢性期 B型解離に対する TEVARは直達手術に比べ遠隔期大動脈関連合併症の発生率が高く,適応に慎重な検討が必要と考える.

O23-5慢性 B型解離に対する外科治療成績の検討 ―当院における慢性期 TEVAR

神戸大学医学部医学研究科 心臓血管外科

宮原 俊介,白坂 知識,山中 勝弘,大村 篤史 ○坂本 敏仁,野村 佳克,井上  武,南  一司

岡田 健次,大北  裕

360 日血外会誌 22巻 2号

224

【目的】胸部大動脈に高度粥状硬化(Shaggy aorta)を伴った症例の弓部大動脈瘤手術では術中の脳塞栓症の発生に対しての対策が重要となる.今回,真性弓部大動脈瘤に対する弓部大動脈全置換術(TAR)症例について,脳合併症予防のための対策と手術成績について検討した.【方法】1993年 9

月から 2012年 10月までに施行した真性弓部大動脈瘤に対する TAR 106例を対象.男性 90例,女性 16例,年齢 71

± 7歳.待機手術例では脳 MRI,頭頚部 MRA,胸腹部CTを施行.術前 CTや術中の大動脈エコーにより高度な粥状硬化を 36例に認めた.塞栓症を予防するための工夫を以下に示す.1)送血部位や送血管の選択を,理論的根拠に基づいて動脈硬化の部位や程度に応じて決定.上行大動脈送血を第一選択として,弓部の shaggy aorta症例では基部側に送血管を向ける.腋窩動脈送血では腕頭動脈基部の性状と弓部小弯側の動脈硬化の存在を考慮する.2)脳塞栓症のリスクが高い場合には早期に選択的脳潅流を行う.4)膀胱温は 28℃以下とし,長時間の下肢循環停止が必要と考えられるときは 25℃程度とする.5)循環停止とするまでは動脈瘤を操作しない.6)弓部分枝は動脈硬化の少ない遠位側で離断し,選択的脳灌流(SCP)を行う.7)4分枝付き人工血管を使用して ST junctionから全弓部を置換する.8)動脈瘤は大弯側やや背側から切開して下行大動脈をくり抜いて反回神経麻痺を回避.動脈瘤が巨大なときは末梢側は中からくり抜く.9)末梢側は Open distal法で吻合する.10)大腿動脈からの flush outによる debrisの除去.11)NIR

モニター・圧モニターによる適正な脳潅流カニューレの位置確認.【結果】永続性脳神経障害 3例(2.8%),一過性脳神経障害 9例(8.5%).在院死亡 4例(3.8%).術後脳神経障害を来たした群では,SCP 180分以上が独立危険因子(P=0.004,オッズ比 6.5).大動脈の動脈硬化と術後脳障害との間に有意差なし.Shaggy aorta群と非 Shaggy aorta群で遠隔生存率に有意差なし(P=0.236).【結語】Shaggy aorta症例でも,適切に体外循環法や術式を工夫することで脳合併症の発生を予防し,良好な長期遠隔予後が期待できる.

O24-2Shaggy aortaを伴った弓部大動脈置換術における脳塞栓症予防対策

弘前大学 胸部心臓血管外科

皆川 正仁,福田 幾夫,大徳 和之,服部  薫 ○福田和歌子,齊藤 良明,野村 亜南,小笠原尚志

渡辺 健一,谷口  哲,近藤 慎浩,鈴木 保之

福井 康三

【背景】Acute(< 14days)Complicated(rupture or malperfusion)Stanford B型大動脈解離に対し,TEVARの有用性が証明され,現在 Acute Uncomplicated症例に対する Absorb Trialが行われている.一方,Chronic症例に対しては Re-interven-

tionの頻度が高い点や本邦においては Device lag等の問題があり,下行置換 /TEVARのどちらを選択するかは依然議論のあるところである.今後Chronic症例に対してもTEVAR

の普及が予想される中,従来の下行置換の予後不良因子を明確にすることは TEVARの適応を考慮する上で重要と考えられる.【目的】本検討では当院における Chronic Stanford

B型大動脈解離症例に対する下行置換の早期・遠隔期成績及び予後不良因子の検討を行った.【対象と方法】2007年 5

月から 2012年 5月,当院で Chronic Stanford B型解離に対し下行置換を行った 15症例を対象とした.DaBakey分類上上行及び弓部置換術後の I型は 4例,III型は 11例で,4例が Rupture,2例は担癌患者,2例は心筋梗塞の既往があった.1例は遠位弓部に TEVAR施行するも Type II en-

doleakにより解離腔の拡大を認める症例であった.術前Euro Score IIは 5.49(1.5-17)で,平均追跡期間は 2±1年であった.【結果】手術時間は 423±110分で,体外循環時間(F

- Fbypass)は 126±29分,下肢血流不全を認めた 2例に対し F-F bypassを行った.2例は偽腔からの腹部分枝を温存する目的で Double barrelでの末梢再建を行った.術後早期死亡はなし.術後合併症としては対麻痺を認めず,呼吸器関連合併症(胸水・無気肺等)のみであった.平均挿管時間は 10±4時間で,抜管後 5例に呼吸不全を認めるも,NPPV

を使用することにより 4例は挿管を回避しえた.術前COPD,Athemaを合併した 1例は気管切開下での長期呼吸管理を要した.遠隔期成績は良好で,1例に下行置換部より末梢側残存解離部からの ruptureを認め 1例を失った.【結語】Chronic B型解離症例に対する下行置換の成績は良好であり,現時点で TEVARの適応に関しては慎重に検討する必要があると考えられた.さらなる症例での検討が必要であるが,術前呼吸器合併症を有する症例に関しては長期人工呼吸管理を要する可能性があり,TEVARの good candidate

となる可能性が示唆された.

O23-2TEVAR時代における Chronic Stanford B型大動脈解離症例に対する下行置換の予後不良因子の検討

大阪警察病院 心臓血管外科

谷岡 秀樹,榊  雅之,鎌田 創吉,政田 健太 ○富永 佑児,中江 昌郎,大竹 重彰

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 361

225

shaggy aortaを伴う症例ではコレステロール塞栓症が多発することがあり,その頻度は 2-12%と報告されている.カテーテル操作や大動脈手術などでそのリスクが増大することは明らかである.腎臓や消化管の虚血をきたすことが多いが,弓部大血管手術の際にはこのほかに脳血管障害の予防が重要な課題となる.当科での shggy aortaを伴う真性弓部大動脈瘤に対して,血管内治療は適応外とし,選択的脳分離体外循環を用いた大動脈弓部全置換術を施行する方針としている.特に shaggy aortaを伴う症例や遠位吻合部位が気管分岐以遠のものに対しては積極的に企業性ステントグラフトでのオープンステント法による大動脈弓部全置換術を行っている.2010年 9月から 2012年 10月までに 8

例のオープンステント法による大動脈弓部全置換術を施行し,そのうち 2例が shaggy aorta症例だったが周術期に脳梗塞を認めなかった.体外循環は両側腋窩動脈・大腿動脈送血,上下大静脈脱血で確立し,心室細動になった時点で大動脈遮断を行った.中枢側吻合は 4分枝管を翻転し外膜をフェルトで補強して連続縫合した.膀胱温 25℃で循環停止とし,完全脳分離体外循環を確立した.麻酔導入後に大腿動脈から挿入しておいたガイドワイヤを側枝管に誘導し,人工血管を elephant trunkとして瘤内へ誘導した.側枝管のガイドワイヤ越しに pull through法で Gore TAGを挿入し,この中枢端を確認するために人工血管を末梢側で1/4周切開して留置した.ステントグラフトを人工血管に固定し,Foleyカテーテルを挿入して逆行性送血を再開した.循環停止を中止し,人工血管と瘤中枢断端を連続縫合した.また人工血管切開部も連続縫合で閉鎖した.止血は容易に得られ,術後の脳梗塞も認められなかった.上行大動脈にも shaggy aortaの所見があれば大動脈遮断は行わず,循環停止として大動脈切開し完全脳分離体外循環を確立して上記手法を用いている.Gore TAGを用いたオープンステント法につきビデオで供覧し,その有用性につき報告する.

O24-3shaggy aortaを伴う弓部大動脈瘤に対する企業性ステントグラフトを用いたオープンステント法

福島県立医科大学 心臓血管外科

藤宮  剛,佐戸川弘之,高瀬 信弥,三澤 幸辰 ○若松 大樹,黒澤 博之,瀬戸 夕輝,五十嵐 崇

籠島 彰人,横山  斉

【背景】弓部置換術における順行性脳灌流法は,脳保護として確立された方法となってきているが,shaggy aortaにおける塞栓症の予防は未だ重要な課題である.われわれは以前から腋窩動脈送血と,上行大動脈または大腿動脈送血を併用した二か所からの送血を弓部全置換術全例に行っている.大動脈粥腫を伴う脳血管障害合併例では,これに加え18- 20℃の超低体温法を用いて,循環停止時間の安全限界を延長し,慎重な手術操作を行い得るようにしている.これらの症例について検討した.【方法】 2010年 1月から2012年 10月に施行した全弓部置換術は 185例.このうち大動脈解離,大動脈炎を除いた 85例を対象とし,上行大動脈から弓部に CT上 5mm厚以上のプラークを認めるものを shaggy aortaとした.これらを満たす症例は 8例(9%).男性 8例.年齢 73(63- 85)歳.症候性脳梗塞既往 5例.うち 3例でMRIにより大動脈に不安定プラークを認めた.併施手術は冠動脈バイパス 1例,大動脈弁置換 1例,冠動脈バイパス+大動脈弁置換 1例.送血部位は腋窩+大腿動脈送血 7例,腋窩+上行大動脈送血 1例.最低鼓膜温は18(17- 20)℃.【結果】手術死亡 1例(13%).胸腹部大動脈瘤手術待機中に破裂により死亡.新たに発生した脳梗塞なし.術後腎不全(術前の血中クレアチニン値の二倍以上かつ 2.0mg/dl以上)2例(25%).体外循環時間は 260(142

-410)分,下半身の循環停止時間は 74(64-84)分.【結語】shaggy aortaに対する超低体温順行性脳灌流と double can-

nulationを用いた弓部全置換術の成績は良好であった.手術,体外循環時の血流の変化をビデオで供覧する.

O24-2Shaggy aorta症例に対する double cannulationと超低体温法を用いた弓部置換術

国立循環器病研究センター 心臓血管外科

田中 裕史,湊谷 謙司,松田  均,佐々木啓明 ○伊庭  裕

362 日血外会誌 22巻 2号

226

shaggy aortaは,脳塞栓症や他臓器塞栓症を高率に合併する病態である.弓部大動脈置換術を行なう際,soft plaque

の飛散による塞栓症の合併に最も注意しなければならない.造影 CTや,epi-aortic echoを用いて診断し,病変部を避けて上行大動脈基部に送血管を挿入し,先端を大動脈弁に向けたとしても,送血のジェットで soft plaqieの飛散を起こすことがある.末梢送血をして,大動脈に触れないように手術しても,soft plaqueは乱流により飛ぶことがある.つまり体外循環開始時には,大動脈から脳に血液が流れないように脳血流を体血流と分離することが望ましい.この方法が椎谷らの isolation法である.腕頭動脈,左総頚動脈,左鎖骨下動脈にそれぞれ cannulationし,体循環と脳循環を分離する考え方である.本法の問題点として弓部 3分枝のうち特に左鎖骨下動脈の剥離に際して,総頚動脈を右に牽引したり,plaqueのある弓部大動脈を下方に圧迫したり,かえって塞栓症を誘発する危惧があることである.【方法】大動脈弓部や分枝への接触を減らすように isolation法を行なう方法を考案した.体循環送血は,右腋窩動脈と右大腿動脈とし,弓部分枝は,視野が良く容易に剥離可能な腕頭動脈と左総頚動脈のみテーピングしておく.最初に左総頚動脈から直接送血を開始し,ついで腋窩動脈から送血して腕頭動脈をブルドック鉗子でクランプし,最後に大腿動脈送血を行なう.咽頭温 25℃まで冷却後,循環停止とし,上行弓部大動脈を切開し,左鎖骨下動脈をテーピングの後,ここにも脳分離の送血を追加する.【結果】2010年より,本法を弓部置換 17例に行ない,脳梗塞の合併はなかった.そのうち高度の shaggy aortaは 2例で 1例は全身の塞栓症にて失った.【考察】isolation簡便法は体外循環開始前に弓部分枝や弓部大動脈への接触が少ないため,より脳塞栓症の合併率が減少することが期待される.但し,左鎖骨下動脈領域が,全身冷却中には体循環から還流されるため塞栓症を合併する可能性がある.しかし,脳分離体外循環を先行させるため,鎖骨下動脈末梢からの逆流血のため,塞栓症が予防できる可能性がある.【結語】simple isolation tech-

niqueを考案した.本法は簡便で,shaggy aortaでも脳塞栓を予防できる可能性がある.

O24-5simple isolation technique

小牧市民病院 心臓血管外科

澤崎  優,泊  史朗,恒川 智宏,井澤 直人 ○立石 直毅

【目的】手術手技の向上や人工心肺法,人工血管の改良に伴い大動脈弓部置換術の手術成績は安定してきた.しかしながら高度の粥腫性動脈硬化病変を伴う,“shaggy aorta” 症例においては,脳梗塞,心筋梗塞,腸管壊死などの重篤な合併症が依然大きな問題である.今回 shaggy aorta症例において大動脈弓部置換術を施行した際のビデオを供覧し,脳合併症予防に対する手術時の工夫を紹介する.【症例】症例は 67歳,男性.2006年に腹部大動脈瘤に対してグラフト置換術を施行.その際に胸部大動脈瘤を指摘され,以後経過観察されていた.胸部造影 CT上,遠位弓部に最大径70mmの真性瘤を認めた.右鎖骨下動脈には起始異常を認め(aberrant),瘤状に変化していた.上行大動脈,弓部,下行,腹部大動脈には高度の粥腫性動脈硬化病変を伴っていた.【手術】右腋窩動脈,大腿動脈に 8mmの人工血管を縫着.胸骨正中切開で開胸し,左右総頚動脈,左右鎖骨下動脈を tapingした.左右総頚動脈,左鎖骨下動脈に purse

string sutureをかけ,4mmの小児用送血カニューラを挿入した.常温下で弓部分枝を遮断後,選択的脳分離体外循環を開始した.左室ベント挿入後大動脈中枢側を遮断.大腿動脈送血を開始し全身冷却を開始した.心停止後大動脈中枢側吻合を行い,下半身循環停止下に末梢側吻合,続いて弓部分枝再建を行った.手術時間 607分,人工心肺時間199分,選択的脳潅流時間 170分,下半身循環停止時間 44

分であった.【術後経過】術後一過性痙攣およびせん妄を認めたが,CT上脳梗塞の所見は認めなかった.また,他臓器への塞栓症も認めなかった.術後 2日目に人工呼吸器離脱し,25日目に自宅退院となった.

O24-4Shaggy aorta症例の弓部手術における脳合併症予防対策

九州大学病院 心臓血管外科

大石 恭久,園田 拓道,西田 誉浩,田ノ上禎久 ○中島 淳博,塩川 祐一,富永 隆治

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 363

222

【はじめに】大動脈吻合部の出血をいかに予防するか,これが結局は確実で速い手術につながる.また,確実な吻合は出血しないので,止血に苦労することも少ないが,もし出血しても止血が容易な吻合方法であることも重要である.また,誰がやっても同じように確実な方法である普遍性も手技の確立という意味で重要である.もっとも確実に出血なく吻合することが要求される部位は弓部大動脈置換術の遠位側吻合である.この点に着目して,当施設で行っている吻合方法を検討する.【方法】当施設で弓部大動脈置換術の遠位側吻合に行っている吻合方法は,超低体温循環停止下に OPENのまま,プレジェット付 2- 0ポリエステル糸による全周結節吻合に 4- 0PPP糸の連続縫合の補強をする方法である.組織が弱いと判断した場合は,内膜面の補強を目的に人工血管を挿入数するエレファント・トランク法にする.これにより,内膜や動脈壁の組織のカッティングや針穴の拡大を予防できる.隣の糸についているプレジェットを重ねるように針を通すことで縫合糸間の隙間を作らず,吻合部出血を予防できる.止血する場合は吻合に使用したプレジェットに針糸をかけることで,新たな針穴の出血を予防できるが,既にプレジェットを介した 4- 0

連続吻合による補強をされていれば基本的に出血に対する追加針は必要ない.【考察】全周結節縫合は連続縫合に比較して,糸の緩みが局所で発生することを予防し,たとえ一か所の結紮が緩んだとしても,その部位のみの緩みに限局化され,連続縫合のように吻合全体の緩みとなる危険がない.結節縫合は糸の本数が多くなるため,手技が煩雑となるが,糸ホルダーを使用することで,それを軽減できる.糸ホルダーを使用する際は,糸が牽引されすぎると,組織を貫通した糸が針穴から組織をカッティングする危険があるため,あらかじめ糸の緊張をゆるめておくことが重要である.また,パラシュート法で人工血管をおろすときに,糸の滑りが悪いと,組織のカッティングを起こす危険があるため,慎重に行う必要がある.施設内でこの吻合方法に統一することで,誰がやっても同じ吻合形態を作り上げることができる.【結語】プレジェット付縫合糸による全周結節吻合に連続吻合の補強追加を行うことで,吻合部の出血を予防できる.

O24-2プレジェット付縫合糸による全周結節吻合+連続縫合補強法の大動脈吻合

自治医科大学附属さいたま医療センター 心臓血管外科

安達 晃一,山口 敦司,由利 康一,松本 春信 ○木村知恵里,田村  敦,長野 博司,堀 大治郎

野中 崇央,安達 秀雄

【はじめに】大動脈手術における出血制御は患者の予後に大きく影響を与える.出血させない吻合法に主眼をおいた当院での標準術式として,遠位弓部大動脈瘤に対して弓部大動脈人工血管置換術を行った一手術症例をビデオ供覧する.【症例】80歳,女性.1年前に近医にて胸部解離性大動脈瘤(De Bakey IIIa)と診断され,外来フォローアップ中に,遠位弓部大動脈が 65mmと拡大を認めたため,手術目的にて当科紹介となった.【手術】上行大動脈送血,右房脱血にて人工心肺を確立し,選択的順行性脳灌流,23℃低体温,下肢循環停止下に吻合を開始した.まず open distalで末梢側吻合を行い,人工血管同士の吻合を行った後,側枝より下半身循環を再開した.左鎖骨下動脈吻合後,中枢側吻合を行い,大動脈遮断解除後に弓部第 1,第 2分枝を末梢から順番に吻合した.総体外循環時間 211分,大動脈遮断時間 100分,下肢循環停止時間 57分,手術時間は 373分であった.【吻合のポイント】1)末梢側吻合:将来の TEVAR

用に elephant trankを置く形で,外周にはフェルトストリップを使用して stepwised anastomosisを行う.2)人工血管̶人工血管吻合:大動脈置換に使用する人工血管から切り出した約 10mm幅の人工血管リングを,人工血管̶人工血管の吻合開始前に末梢側の人工血管にはめておく.連続縫合で人工血管同士を吻合し,Surgical bleedingがないことを確認の上,人工血管リングをずらして吻合部にカバーする.ジャストサイズのリングが均一に面で密着するため,通常,針穴からの出血を認めることはない.3)中枢側吻合:人工血管を自己大動脈へ内挿し,7mmのフェルトストリップを外周に巻き付け,全周 3-0 Nespolene結節マットレス縫合で吻合する(単純内挿吻合法).この吻合法では,血圧により人工血管が大動脈壁内側から吻合部を面で圧着し,針穴にストレスをかけないため,吻合の段階で align-

mentがある程度保たれていれば,針穴および吻合部からの出血は認めない.後壁の結節縫合は大動脈内側で結紮することが,脆弱な自己大動脈壁にストレスをかけずに吻合するための重要なポイントである.【結語】針穴にストレスを極力かけず,点ではなく面を活用する形で吻合を行うことで,吻合部からの出血は declamp直後から制御される.当院での術式は,急性大動脈解離や高度の粥状硬化など,自己大動脈壁の性状が悪いほど威力を発揮する有用な術式と考える.

O24-6出血させない total arch replacement ~針穴最小ストレス吻合法

京都大学 心臓血管外科

船本 成輝,山崎 和裕,南方 謙二,丸井  晃 ○恒吉 裕史,武田 崇秀,高井 文恵,熊谷 基之

坂田 隆造

364 日血外会誌 22巻 2号

222

【目的】【急性 A型大動脈解離手術時の解離腔閉鎖・吻合を容易かつ確実に行う方法として,Bioglueによる解離腔閉鎖に加えてRignano らが報告したProsthesis eversion法(Ann

Thorac Surg 2003;76:949-51)を行っているので,その早期成績を検討し報告する.【対象】平成 23年 12月~平成24年 9月の急性 A型大動脈解離手術連続 13症例に本法を行った.年齢 22~85,平均 63±16歳,男 10/女 3.Mar-

fan症候群1例,心タンポナーデ→心嚢穿刺ドレナージ2例,慢性腎不全 1例,下肢虚血 1例.【手術】中枢吻合法:(1)STJ上 1~1.5cmで大動脈を離断,交連部三点を吊り上げ固定後,解離腔を BioGlueにより閉鎖する.(2)断端より大動脈基部真腔内に完全に外翻した 22~26mm径人工血管を挿入し,外膜側にあてたフェルト帯との間で大動脈壁を挟み込むように STJ直上をマットレス縫合で固定,さらに断端部を連続縫合で纏ったのち,人工血管を引き出す.末梢側吻合法(上行置換時):(1)循環停止下断端部より真腔内にフォーリーバルーンカテを挿入し拡張させた状態でBioGlueにて解離腔閉鎖,(2)真腔内に裏返した 22~26mm

径 1分枝付人工血管を挿入し中枢側と同様に吻合,人工血管を引出し,人工血管側枝送血で循環再開する.末梢側吻合法(弓部置換時):上行置換時と同様に解離腔を閉鎖後,elephant trunkを入れ外側のフェルト帯でサンドイッチとし断端補強後 4分枝付人工血管と吻合.【成績】術式:上行・hemiarch:7例,上行弓部:5例,基部置換 +弓部置換:1例.Primary entry切除率は 92%(12/13).平均術後挿管時間:55±32時間,平均 ICU滞在時間:5.4±3.3日.術後 24時間出血量 670±581ml.再開胸止血術 0.Permanent neurolog-

ical deficit 0.在院死亡 0.下行大動脈偽腔血栓閉塞率は,弓部置換例で 83%(5/6),上行置換例で 71%(5/7)であった.【結語】本法により確実な解離腔閉鎖と人工血管吻合が誰にでも簡単に行える.また吻合部からの解離発生も少なく,下行大動脈偽腔血栓閉塞率は高く,信頼できる方法と考える.

O25-2BioGlueによる解離腔閉鎖 +Prosthesis eversion法での断端形成を行った急性 A型大動脈解離手術

福岡県済生会福岡総合病院 心臓血管外科

森重 徳継,林田 好生,山田 英明○

急性 A型大動脈解離に対する大動脈断端形成法は,これまで解離腔への GRF glue充填を併用,または併用しないadventitial inversion 法などを行なってきたが,最近では簡便で有用な解離腔への BioGlue充填を併用した断端形成を行なっている.現在当科における手術方針と大動脈断端形成法をビデオにて供覧する.【方法】HARを標準術式とし,弓部大動脈にエントリーが存在,または解離が及んでいる場合には症例に応じて TAR+ETを選択した.体外循環:送血部位は大腿動脈を標準とし,それのみでは malperfu-

sionが危惧される場合,または TARを行う際には腋窩動脈送血を追加した.HAR,TAR+ETともに直腸温は 25℃で選択的脳灌流(弓部 3分枝全て)を確立した.遠位側断端形成:HAR: 断端形成は Bio-glueを解離腔に可及的に充填して 2分間圧着させた後に外膜側に幅 1cmの PTFE felt

stripを,内膜側に幅 1cmのウシ心膜 stripによる補強のもとに断端形成を行った.ウシ心膜 stripは handlingがよく,内膜面の補強に有用であった.TAR: 左総頸動脈(LCCA)と左鎖骨下動脈(LSCA)の間で大動脈を離断し,LSCAの根部を閉鎖した.4分枝付き人工血管とは別グラフトをET(8cm)として大動脈遠位側断端より挿入し,外膜側にPTFE feltによる補強のもと断端形成を行った.HAR,TAR

ともに断端形成の際の running sutureには以前青色の 4-0

プロレン糸を用いていたが,人工血管との吻合に用いるプロレン糸との見分けが容易でなかった.その後,同糸による continuous horizontal mattress sutureに変更し,さらに最近では白色の 4-0 ネスピレン糸を用いた running sutureを行っており,人工血管との吻合の妨げにならず,非常に有用である.近位側断端形成: Valsalva洞内に解離が及んでいても冠動脈に異常がない場合には基部置換術は行わなかった.解離の及んでいる交連には aortic valve resuspensionを行った.解離腔内に Bio-glueを充填して 2分間圧着させた後に遠位側同様に内外にそれぞれウシ心膜と PTFE felt strip

による補強を行い,白色の 4-0 ネスピレン糸による running

sutureで断端形成を行った.TARでは LCCAと腕頭動脈はそれぞれ人工血管側枝と端々吻合し,LSCAの再建は左腋窩動脈に吻合した 8mm人工血管を縦隔内に誘導した後に縦隔内で側枝と端々吻合した.【まとめ】複雑な手技を要することのある急性 A型大動脈解離に対する手術において,重要なパートである断端形成における当科の工夫は手術成績向上に寄与するものと考えられる.

O25-2急性 A型大動脈解離に対する手術戦略 ─手術及び遠隔成績を向上させる断端形成法─

兵庫医科大学 心臓血管外科

良本 政章,光野 正孝,山村 光弘,田中 宏衞 ○福井 伸哉,辻家 紀子,梶山 哲也,佐藤 通洋

宮本 裕治

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 365

222

急性大動脈解離手術時には,確実な断端形成と人工血管吻合が言うまでもなく重要である.多くの場合が凝固機能の崩れた状態での緊急手術であるため,吻合部の止血操作に時間を費やし,不用意に人工心肺時間や手術時間を延長させることは望ましくない.我々は,急性大動脈解離手術時の断端形成と人工血管吻合に,外膜内翻法+W-プレジェット吻合を用いている.中枢側と末梢側のトリミングは,外膜を内膜よりも約 1cm長く残して行い,それを内翻させる.ついで人工血管を連続吻合する.この際,特に縫い代,ピッチなどは気にする必要はなく,人工血管と大動脈の吻合口が軽く合わさる程度でよい.最後に全周性に 10×7mmのプレジェットで,人工血管と大動脈が外翻するように単結紮していく.こうすることで,プレジェットによる面での均等な圧着が吻合部の全周になされるため,吻合部出血はなく追加針は必要ない.また,大動脈側も外膜ー内膜ー外膜の 3層構造に加え,さらに人工血管と上下のプレジェットによる圧着となり,断端形成もより強固なものになる.これは,非常に単純な吻合方法であり,特に注意を要するポイントはないため,経験の浅い執刀医が行なった場合でも,吻合部の出血は見られない.当院での吻合方法を供覧する.

O25-4追加針 0を目指した,急性大動脈解離手術時の吻合方法

一宮西病院心臓血管外科大動脈瘤センター

平本 明徳,小柳 俊哉,星野  竜,河野 裕志 ○菊川 元博

【目的】われわれは,A型急性大動脈解離手術時の中枢側吻合と大動脈弁つり上げ簡略化と再解離予防を目指してprosthesis insertion technique(PIT)を行っている.【対象と方法】2006年 6月から 2012年 8月までの A型急性大動脈解離手術 40例のうち 25例に対して PITを施行した.手術手技は ST junction直上約 2cmで大動脈を離断し,中枢側解離腔を GRFで閉鎖した後,大動脈内径と同サイズの人工血管を挿入する.人工血管下端の edgeを大動脈弁交連部に覆い被せ,大動脈外側をフェルトで補強し各交連部 3カ所を 4-0 proleneを用いて固定し,続いて各交連間を水平マットレスにて縫合する.末梢側人工血管吻合を行い末梢側潅流が開始された後に,中枢側人工血管と,先に中枢側断端形成を行った人工血管の水平マットレス直上で連続吻合を行った.術後UCGと造影または単純CTにて,術直後,6ヶ月後,1年後に行った.その後は紹介医での followとした.【結果】25症例の患者背景は平均年齢 71±12(35-92

歳),男女比は 8:17,術前 AR moderate以上が 10例(40%),術式は上行̶半弓部置換術と全弓部置換術が 20:5であった.在院死亡は 3例(12%)あり,原因は shower enbolism,ARDS,脳出血であった.follow中の死亡は 3例あり,術後 50ヶ月,5ヶ月,24ヶ月で原因はそれぞれ肺炎,脳梗塞,不明であった.術前 AR moderate以上(n=10)症例の術後AR改善度は mild 2例,trivial以下 8例であった.また,術後 3ヶ月に末梢側吻合部偽腔開存を 1例認めた.また術後 1年における follow up期間中で中枢側吻合部の合併症は認められなかった.【結論】PITの利点として,1.中枢側断端形成と大動脈弁つり上げが同時にできる.2.STjunction

より 2cmの解離部分は切除せず吻合により exclusionされ吻合部が補強される.3.graft-graft吻合なので理論的に仮性瘤は回避できる.また,欠点として 1.coronay orificeを塞ぐことがあり注意が必要である.2.高齢で小柄な女性の場合,人工血管の至適サイズがない場合がある.PITは fol-

low upは必要であるが有用な手技である.また強力な粘着力を有する Bioglue時代を迎え,PITの適応症例は今後の課題である.

O25-3A型急性大動脈解離手術における断端形成と中枢側吻合の工夫(prosthesis insertion technique)

津山中央病院 心臓血管外科

松本 三明,久保 陽司○

366 日血外会誌 22巻 2号

220

【はじめに】近年 A型解離症例の手術成績は向上しているが,残存解離腔の拡大,中枢側再解離,大動脈弁逆流の残存などの遠隔期合併症により再手術を余儀なくされる症例も散見する.当科では遠隔期合併症による再手術回避を目指し中枢側は再解離予防,末梢即は遠隔期偽腔拡大予防のための手技を行っているので吻合法をビデオにて供覧する.【手術手技】中枢側吻合:基部再建は約 3センチに切った人工血管断端を大動脈起部内に挿入し,大動脈外側にはfelt stripを巻いて大動脈壁を人工血管と felt stripにて挟むようにしまず3針大動脈弁交連部の部分で人工血管を固定,その後 ST junctionレベルで horizontal mattress suture20針程度で全周性に吻合.STJ plicationとなるので ARの制御にも有効.解離がバルサルバ洞に及んでいる症例でも人工血管を舌状にトリミングし舌状にした部分がバルサルバ洞にかかるように大動脈基部に内挿.解離したバルサルバ洞の部分は弁輪部レベルで horizontal mattress sutureをかけて解離した部分をすべて人工血管内包にて覆う形で修復.末梢側吻合:末梢側は左総頸動脈末梢で弓部大動脈を切断し真腔径をサイジングしステントグラフトを挿入.外側フェルトを巻いて一周連続縫合で大動脈とステントグラフトを固定し段端形成.近位弓部までの剥離で遠位弓部から下行大動脈のエントリーでもエントリー閉鎖可能.【手術成績】2002年 1月から 2012年 10月までの急性 A型解離症例 164

例で手術死亡 6.1%.MOF 2例,冠動脈解離に伴う LOS 6

例,脳出血 1例,下行大動脈破裂 1例(上行置換例).遠隔期大動脈イベント 8例.上行,部分弓部置換術後では下行大動脈破裂 1例,fenestration 2例,Y graft2例.弓部置換術後では新規 ULPに対する下行大動脈置換 1例,TEVAR

追加 1例,下行真性瘤に対する TEVAR 1例.中枢側に対する再手術はなし.大動脈事故回避率 2年 92%,5年 87%.【まとめ】中枢側,末梢側ともできるだけ解離した大動脈を内側から覆う術式を行うことで,遠隔期の大動脈事故回避率は満足し得るものであった.

O25-6Stanford A 型解離手術における中枢側吻合の工夫 ─ STJ holizontal mattres suture ─

広島市立安佐市民病院 心臓血管外科

片山  暁,小澤 優道,須藤 三和,児玉 祐司 ○橘  仁志

【緒言】GRFglueの登場で A型急性大動脈解離の救命率は劇的に改善したがホルマリンによる内膜壊死,組織障害の可能性が指摘され,新たに Bioglueが登場した.しかし創面の乾燥化が必要で急速硬化するため注意を要する.深夜緊急手術が多く,低体温法の凝固能低下から断端形成部ばかりでなく,人工血管表面,針穴の瀰漫性出血も外科医の疲労を増す.外科用接着剤による止血効果の有益性は高いが,必要量以上の使用は感染源となりうる.その使用による日本国内市場は年間 1000万ドルともいわれ医療経済的な考慮も必要である.以上の問題点を考慮し断端形成に工夫を加え,外科用接着剤を用いずとも確実に断端形成を行い,人工血管表面からの出血も減量する方法を考案した.【方法】断端形成は transectionせず外膜を残し,中,内膜のみを tearが及ばない所までくりぬく様に除去.内膜側と外膜の内側に felt stripを置き断端形成施行.外膜は伸展性があり内側からの feltで容易に内膜側の feltと sandwich状となる.外膜は二重に折り畳まれ強度を増す.残る外膜でwrappingし人工血管は大動脈に内装される形となる.逆行性 A型解離や頚部分枝再建を要する場合も鎖骨下動脈分岐部以遠まで本法の断端形成を行い,外膜を頚部分枝起始部に圧着あるいは island法とし完全に wrapping可能(ad-ventitial complete inclusion法).【対象】2000年 10月~2012年 9月まで本法による大動脈解離手術 70例中 A型 65例,B型 5例であり,A型は 68.1±11.2歳,m39:f26,内訳は上行置換 34,弓部 1分枝再建 4,2分枝再建 3,3分枝再建 12(内 island 6),基部置換術 5,大動脈弁置換術 2,CABG1枝

1,CABG3枝 2,maze2.体外循環時間 297±86分,心筋虚血時間 183±64分,脳分離体外循環時間 107±58分,循環停止時間 14±13分,人工心肺離脱から手術終了 75±28分,手術時間 440±110分,術後出血量 1277±755ml,挿管時間 24±25時間,術後再開胸 3,手術死亡を含む院内死亡 2,縦隔炎発症 0であった.そのうち上行置換術 34例に関しては 70.1±9歳,m17:f17,体外循環時間 252±33分,心筋虚血時間 154±25分,脳分離体外循環時間 79±16分,循環停止時間 13±4分,人工心肺離脱から手術終了 66±25分,手術時間 375±46分,術後出血量 1017±585ml,挿管時間 21±27時間,術後再開胸 0,肝硬変の食道静脈瘤破裂による死亡 1,吻合部付近解離残存は検査可能な 21例中4例.現在まで吻合部狭窄,瘤などによる再手術はない.【結語】adventitial complete inclusion法は外科用接着剤を必要とせず,術中止血時間,出血量,輸血量の短縮減量,早期抜管を可能とし感染の合併症も回避しうる.

O25-5外科用接着剤を用いない急性大動脈解離に対する断端形成術(adventitial complete inclusion法)

日本大学医学部板橋病院 心臓血管・呼吸器・総合外科

畑  博明,中田 金一,秦  光賢,瀬在  明 ○吉武  勇,八百板寛子,塩野 元美

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 367

222

症例は 47歳,女性.Marfan症候群.11年前に胸腹部置換術施行.Side tract 14mmによる double tract法により,肋間動脈を再建.その後,m-Bentall手術および弓部置換術を施行.今回,肋間動脈再建部の対側に非吻合部仮性瘤を形成し,拡大傾向を認めたため,手術の予定となった.肋間動脈再建部を開窓型ステントグラフトにて確保し,動脈瘤をexclusionする方針とした.手術はあらかじめ,TX2に fen-

estrationをおき,goose neck snearを U字型に固定し,マーキングを行った.右鼠径部よりステントグラフトを挿入し,再建した肋間動脈に合わせるように展開し,肋間動脈再建部は確保され,エンドリークなく,終了した.術後,対麻痺などの合併症なく独歩退院.

O26-2人工血管非吻合部仮性瘤に対して開窓型ステントグラフトを行った 1例

沖縄県立南部医療センター・こどもセンター 心臓血管外科 1

沖縄県立南部医療センター・こどもセンター 放射線科 2

阿部 陛之○ 1,久貝 忠男 1,摩文仁克人 1,盛島 裕次 1

山里 隆浩 1,我那覇文清 2

TEVARは胸部大動脈瘤に対する低侵襲治療として確立したものとなっているが,弓部大動脈瘤に対する TEVARの適応は依然として限定されている.当院ではハイリスク症例の弓部大動脈瘤に対しては,Chimney graft technique(CGT)を積極的に用いることで TEVARによる治療を行っている.【対象】2011年 11月から 2012年 9月にかけて施行した CGTを用いた TEVAR,11例(男性 6名,平均年齢 79.3

歳).【方法】CGTを用いる血管は Zone 0 TEVARだと腕頭動脈(5例:A群),Zone 1 だと左総頸動脈(4例:B群),Zone 2だと左鎖骨下動脈(1例:C群)とした.A群はいずれも右総頸動脈̶左総頸動脈-左鎖骨下動脈バイパスを追加した.また,内 3例は graft間の隙間(gutter)に対してのコイル塞栓術を追加している.B群では subclavian steel phe-

nomenon を認めなかった 1例のみ左総頸動脈̶左鎖骨下動脈バイパス術を併用,残りの症例では左鎖骨下動脈の再建は行っていない.【結果】緊急症例は B群にて 1例(下行置換術後の吻合部瘤破裂)のみ認めた.人工血管置換術に移行した症例はなかった.平均手術時間は A群 431.0分,B

群 276.2分,C群 168分であった.A群にて 1例の死亡例を認めている.(術後腰椎動脈からの出血による)術後入院日数は A群 14.8日,B群 11.7日,C群 6日であった.術後 CTにて endoleakを確認したのは A群 4例(左鎖骨下動脈 3例,gutter1例.左鎖骨下動脈はいずれも後日コイル塞栓を行い leak消失),B群 1例(左鎖骨下動脈)であった.術後の CTにて瘤径に関しては全症例にて縮小,もしくは不変であった.endoleakが確認された症例でも,瘤径が術前より縮小した症例に関しては慎重に経過観察を行う方針としている.【結語】CTGを用いた TEVARはハイリスク群にも有効な治療と考えられるが,endoleakが問題としてあげられる.最も多いのは左鎖骨下動脈からの type 2 en-

doleakであるが,コイル塞栓術にての対応は容易であった.CGTによる gutterからの type 1 endoleakに対する対応は困難であるが,術中に工夫をすることでコイル塞栓を行うことができ,その結果は良好であった.

O26-2当院における Chimney graft techniqueを用いた TEVAR症例の検討

亀田総合病院 心臓血管外科

安  健太,村上 貴志,古谷 光久,加藤 雄治 ○川堀 真志

368 日血外会誌 22巻 2号

222

症例は 79歳男性.高血圧にて近医通院中に拍動性腹部腫瘤を自覚し,腹部大動脈瘤(AAA)疑いにて当院紹介となった.CT上 93mmのAAAに加えて右側大動脈弓とKommerell

憩室,頚部血管起始異常を指摘された.AAAに対し人工血管置換術を施行し,一旦退院.退院後,待期的に Kom-

merell憩室に対して加療方針とした.術前精査の心エコーでは合併心奇形なし,冠動脈造影で右冠動脈・左回旋枝に二枝病変指摘された.頚部血管起始異常を伴い,右側大動脈弓が気管後面を走行し左側下行大動脈となることから開胸アプローチによる直達手術は困難と判断し,二期的 hy-

brid TEVAR+CABGの方針とした.手術は,心停止下にCABG+人工血管中枢側吻合を施行した後,心拍再開後に頚部血管に対して 4分枝とも bypassを行った.術後に覚醒し四肢麻痺がないことを確認した.翌日に hybrid TEVAR

を施行した.上行大動脈から下行大動脈まで Kommerell憩室から十分に landing zoneを確保し,ステントグラフト(Gore

TAG)を留置した.両鎖骨下動脈は起始部でコイル塞栓した.確認造影で Kommerell憩室内に endoleakは認められなかった.術当日に抜管し,発作性心房細動を認めたのみで術後は良好に経過した.術後 10日目の CTでも endoleak

も認めず,頚部 4分枝 bypass graftは全て開存し,CABGも2枝とも開存をしていること確認した.術後 18日目に神経学的異常所見もなく独歩退院となった.右側大動脈弓を伴う Kommerell憩室はその解剖学的特性から開胸アプローチによる直達手術は困難であり,二期的 hybrid TEVARは,術後長期的な経過観察は必要なものの有用な治療選択肢の1つであると考えられた.

O26-4右側大動脈弓を伴う Kommerell憩室・冠動脈二枝病変に対して二期的 hybrid TEVARを施行した 1例

第二岡本総合病院 心臓血管外科 1

京都府立医科大学 心臓血管外科 2

浅田  聡○ 1,後藤 智行 1,北浦 一弘 1,岡  克彦 2

症例は 47歳,女性.ターナ症候群により当院外来通院中であった.突然の胸背部痛により救急搬送された.来院時胸背部痛が持続しており,ショック状態であった.造影 CT

により,頸部分枝が大動脈より左総頸動脈,右総頸動脈,右鎖骨下動脈の順に起始する右側大動脈弓で,さらに左鎖骨下動脈は起始異常により胸部下行大動脈より起始し,起始部瘤化,破裂を認め Kommerell憩室破裂と診断した.手術は左鎖骨下動脈を左総頸動脈 -左鎖骨下動脈バイパスにて血行再建する 1debranching TEVARおよび左鎖骨下動脈コイル塞栓術を施行した.手術により動脈瘤空置は達成したが,術後大動脈周囲の血腫による右主気管枝狭窄,左気胸により呼吸管理に非常に難渋した.気胸修復術,気管切開術を施行したが呼吸状態改善せず,胸骨正中切開による縦隔形成術を施行し改善傾向となり,最終的には血腫自然吸収により軽快した.術後 18ヶ月を経過し動脈瘤は縮小傾向であり,呼吸障害,嚥下障害なく経過良好である.右側大動脈弓に左鎖骨下動脈起始異常を合併した Kommerell

憩室は希な先天性大動脈形成異常疾患である.側開胸あるいは胸骨正中切開による open surgeryが標準術式とされてきたが,解剖学的特殊性から定型的な到達経路,補助循環法などでは対応困難な場合も多く,症例毎の詳細な術式検討が必要となる.右側大動脈弓の症例では動脈輪形成による食道狭窄,気管狭窄により嚥下障害,呼吸障害を呈することがあり,このような症例では一般的に open surgeryが推奨される.破裂症例では緊急対応が必要であり十分な術式検討の余裕が無いこと,破裂症例に対する open surgery

は,その高侵襲のため morbidity,mortalityともに高値であることを考慮すると TEVARは理想的な治療法である.本症例では術前には気道狭窄症状は認めなかったが,術後大動脈周囲の血腫により気道狭窄をきたし,追加治療を必要とした.しかし,動脈瘤空置が達成されており出血リスクを回避した状態であり,十分な検討をした上で追加治療が可能であった.破裂症例については救命目的に TEVARによる動脈瘤空置を優先し,出血リスク回避後に追加治療を施行する方針も治療の選択肢となり得ると考えられた.

O26-3右側大動脈弓,左鎖骨下動脈起始異常を伴うKommerell憩室破裂に対する TEVARの 1治療例

大阪市立総合医療センター 心臓血管外科

元木  学,服部 浩治,加藤 泰之,高橋 洋介 ○森崎 晃正,西村 慎亮,柴田 利彦

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 369

223

【はじめに】胸部大動脈の破裂はいまだ救命率が低く,TEVARなど新しい modalityを加えた治療戦略の確立が望まれる.急性 A型解離破裂を除く胸部・胸腹部大動脈領域の破裂例に対する我々の戦略と治療成績を報告する.【対象と方法】2010年から 2012年 10月までに弓部および下行・胸腹部大動脈破裂に対する治療を行った 12例を対象とした.平均年齢は 67±15歳(35歳~88歳),男性 8例,女性 4例,破裂部位は縦隔 8例,肺 2例,食道 2例であった.病因別では急性 B型大動脈解離破裂 1例,慢性 B型大動脈解離破裂 2例(1例は感染を併発),真性大動脈瘤破裂 4

例(弓部 1例,下行・胸腹部 3例),外傷性大動脈損傷 2例,特発性大動脈破裂 1例,Aorto-enteric fistula(AEF)2例であった.治療方法,治療成績につき検討した.【当科における治療方針】B型解離破裂は Open Surgeryを選択.真性瘤破裂では年齢等も加味し TEVAR好適であれば TEVARを選択するが,分枝再建の必要性がある場合は Open Surgery

を選択.外傷性大動脈損傷では TEVARが第一選択.AEF

に関しては緊急 TEVARにて一時止血を得た上で二期的または三期的に食道切除,人工血管置換,大網充填.【結果】全例初期治療に反応し Vitalは比較的安定した状態で手術を開始できた.B型解離 1例は DHCAで,2例は遮断下にOpen Surgery施行(感染を併発した症例は大網充填併施).真性瘤破裂症 4例では,下行遠位 TEVAR 1例,Open Sur-

gery 3例(胸腹部置換 1例,弓部全置換 1例,下行置換 1例=広範囲胸部大動脈瘤の下行破裂で reversed elephant trunk

を設置し 2期的に上行弓部置換追加)であった.isthmusの外傷性大動脈損傷 2例はいずれも TEVAR施行.特発性大動脈破裂 1例に対しては DHCAで Open Surgery(下行置換)を施行.AEF 2例(1例は他院にて全弓部置換術後の遠位吻合部食道瘻)はいずれも緊急で TEVARを施行し,一時的に止血を得た後に,後日食道切除,人工血管置換(下行置換 1,左開胸上行弓部下行再置換 1),大網充填を施行した.在院死亡例はなかった.8例は自宅退院,4症例は転院(2例はその後自宅退院)となり,平均観察期間 18.5±10.3ヶ月において死亡例はなかった.【まとめ】破裂例における open surgeryと TEVARの使い分けに関する我々の治療方針は妥当と考えられる.

O22-2胸部・胸腹部大動脈領域における破裂症例の外科治療

浜松医科大学 第一外科

鷲山 直己,椎谷 紀彦,山下 克司,大倉 一宏 ○高橋 大輔

【目的】大動脈瘤破裂は心臓血管外科領域において未だ救命率の低い領域である.近年では,TEVARが可能になったことにより手術適応の幅が広がってはいるが,中長期の治療成績は定まっていない.当院での大動脈瘤破裂に対する緊急手術と治療成績について報告し,現時点での治療戦略について検討する.【方法】2003年以降の大動脈瘤破裂症例(切迫破裂を含む)で,胸部大動脈瘤破裂 19例(Open sur-

gery:O群 11例,TEVAR:T群 8例),腹部大動脈瘤破裂

26例(すべて Open surgery)を対象とした.統計解析は χ2

検定,Kaplan-Meier法を用い行った.【結果】胸部大動脈瘤破裂,において,in hospital deathは O群で 1例,T群で 2例であった.O群の 5年生存率は 94.4±5.4%であった.T群の 1年生存率は 62.5%で,in hospital deathの 1例は食道穿孔を認め,TEVAR術後食道抜去術を施行し,術後の縫合不全から感染を来たし死亡した.1例は遠位弓部の rupture

症例で,術後大動脈基部の破裂を合併し死亡した.退院後に死亡した 1例は肺がんによる癌死であった.TEVAR死亡症例の Japan Score 25.3±2.8%と高値であった.腹部大動脈瘤破裂症例では,破裂症例の 5年生存率は 72.4±10.6

%であった.【結論】胸部大動脈瘤破裂については,開胸手術が可能であった症例は手術成績,遠隔予後が良好であった.TEVARは開胸手術がハイリスクで今までは施行できていなかった食道穿孔や気道穿破症例を対象としているものの,生存退院ができた症例の予後は良好であった.TEVAR

をいかなる症例に施行するかについては今後も検討を要する.腹部大動脈瘤破裂症例については,手術リスクは高いが,退院後の予後は良好であり,開腹手術は依然第一選択であると考える.

O22-2当院での大動脈瘤破裂に対する緊急手術と治療成績

広島大学病院 心臓血管外科

渡谷 啓介,内田 直里,今井 克彦,黒崎 達也 ○高崎 泰一,高橋 信也,片山桂次郎,倉岡 正嗣

末田泰二郎

370 日血外会誌 22巻 2号

224

【目的】感染性大動脈瘤は稀ではあるが,急速に拡大し破裂を来す極めて予後不良な疾患である.特に胸部・胸腹部大動脈領域では治療に難渋することも多い.当院にて経験した胸部(TAA)・胸腹部大動脈瘤(TAAA)6例についてその治療戦略を検討した.【対象】2006年から 2012年 9月までに当科にて経験した TAA及び TAAAは 229例で,その内感染瘤は 6例(2.6%)であった.この 6例の内訳は,TAA(下行)切迫破裂 3例,TAA及び TAAA各 1例,TEVAR後 type

1 endoleak 1例であった.年齢は平均 71(63-82)歳で,男女比は5:1.施行術式は胸部大動脈 stent graft内挿術(TEVAR)5例,胸腹部大動脈人工血管置換術(GR)1例であった.切迫破裂の 3例では全例緊急 TEVARを施行したが,他の 3

例では術前約 2週間の抗生剤治療施行後に手術を行い,術後更に約 3週間の抗生物質投与を行った.【結果】5例軽快退院され,1例は第 13病日に肝不全にて死亡し,hospital

mortalityは 17%であった.死亡症例は Child分類 Cの肝硬変合併の TAA切迫破裂であり,開胸手術には耐術不可と判断し緊急 TEVAR施行した.しかし第 11病日目に喀血を来し,止む無く左開胸にて GRを施行したが第 2病日に失った.他の緊急 TEVARの 2例はいずれも軽快退院し,1例は術後 3年,1例は 2ヶ月経過したが感染再燃を認めていない.待機的手術が可能であった 3例では 1例はリファンピシン浸漬グラフトによる GR,2例は TEVAR(Zenith

TX2:1例,TAG:1例)施行した.軽快退院後 3年,2か月,2ヶ月経過したがいずれも感染再燃を認めていない.【まとめ】感染性胸部・胸腹部大動脈瘤に対し 1例に人工血管置換術,5例に TEVAR施行した.Child Cの肝硬変合併症例は失ったものの,他の 5例は軽快退院された.感染瘤内への stent graft留置にはその是非についてはまだまだ議論の余地があり遠隔成績には疑問を残すが,もともと high risk

caseが多く感染性心内膜炎に準じた十分な抗生剤治療併用が可能であればその中期成績については許容できる可能性が示唆された.

O22-4感染性胸部・胸腹部大動脈瘤に対する治療戦略 ─ Stent graft内挿術は禁忌か?

KKR札幌医療センター 心臓血管外科

大畑 俊裕,上田 秀樹,阿部 慎司○

【背景・目的】当科の外傷性大動脈損傷に対するプロトコールは,CT検査で造影剤の血管外漏出所見を認める症例には人工血管置換術やステントグラフト内挿術を緊急で施行し,解離型・仮性瘤型に対しては 1週間から数カ月間待ち,他臓器損傷が落ち着いてから手術適応を検討することとしている.また,重篤な中枢神経損傷,大きな汚染開放創,重篤な呼吸障害合併例では保存的治療を選択している.しかしながら,Stanford B型解離と形態の似る日本外傷学会分類 2a型では,内因性と異なり外膜の損傷を否定できないので手術加療が必要となる.当科で経験した外傷性胸部大動脈損傷例の内,特に 2a型損傷の治療方針を中心に検討したので報告する.【対象・方法】2009年 1月から 2012

年 7月までに当院にて経験した外傷性胸部大動脈損傷は19症例であり,この内,来院時心肺停止状態であった症例を除いた 17症例を対象に,性・年齢,受傷機転,損傷分類,合併損傷,治療の詳細,転帰につき検討した.更に,解離の内膜亀裂部位が不明瞭で保存的治療を選択した症例の長期予後を検討した.【結果】男女比は 14:3,平均 66.3

歳(34-82),受傷機序は乗用車運転中の事故が 6名,バイク運転中の事故が 4名,歩行中の事故が 3名,墜落が 3名,フォークリフトと壁に挟まる事故が 1名であった.損傷分類は 2a型 9例,3a型 4例,3c型 4例であった.大動脈損傷単独は 1例のみで,他 16例で多部位損傷を伴い(多発外傷),内訳は血胸 4例,頭蓋内出血 5例,骨盤骨折 3例,腹部内臓損傷 3例であった.6症例に人工血管置換術,5

症例にステントグラフト内挿術,6症例に保存的治療を行った.保存的治療を選択した理由は,感染コントロール不良(1例),解離の内膜亀裂部位が不明瞭で経過で偽腔縮小傾向(3例),峡部中枢側の損傷で頭蓋内出血の合併(1例),偽膜性腸炎発症による低栄養と炎症遷延(1例)であった.内膜亀裂部位が不明瞭で経過で偽腔縮小傾向を認めた症例の経過はリハビリ目的の転院後に自宅退院が 2例(受傷 13

か月後と 12か月後),転院先で車いす移動可能な状態が 1

例(受傷 5か月後)であった.いずれの症例も大動脈損傷による重大な合併症を認めなかった.【結語】2a型損傷は内因性疾患と鑑別することが困難であり,今後の更なる検討が必要である.

O22-3外傷性胸部大動脈損傷に対する治療方法の検討 ―特に 2a型損傷を中心に

千葉北総病院 救命救急センター

三木 隆久,益子 邦洋,松本  尚,林田 和之 ○本村 友一,益子 一樹,安松比呂志

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 371

225

【目的】近年,遠位弓部大動脈瘤に対する弓部全置換術の成績は向上しているが,末梢側吻合に難渋する症例や左開胸に伴う呼吸器合併症きたす症例もある.開胸を必要としないオープンステント法が有用とする報告があるが,下肢対麻痺の危険性も指摘されている.一方 TEVARは低侵襲で対麻痺発症率も低いが,この部位では debranchを必要とし,また脳梗塞の発症も危惧される.そこで両者の利点を生かすためにステントグラフト挿入長を短くしたオープンステント法を行い,エンドリークや遊走が認められた際には TEVARを追加する方針としたので,治療成績を報告する.【対象および方法】対象は,2009年 4月から 2012年 10

月に待機的にオープンステントを用いて弓部全置換術を行った 16例.平均年齢:74歳 男 /女:13/2 手術術式:胸骨正中切開にて体外循環を確立,膀胱温 28℃にて循環停止とし,右腕頭動脈と左総頚動脈または左総頚動脈と左鎖骨下動脈間で大動脈を離断,脳分離(3分枝送血)開始した.ステントグラフトを瘤末梢側に 5cm入るように挿入し仮固定した後,4分枝付き人工血管を用いて末梢側吻合・中枢側吻合,分枝再建の順に再建を行った.【結果】手術時間 363分,体外循環 215分,体循環停止時間 54分.手術死亡なし.合併症:縦隔炎 1例(体網充填)下肢対麻痺や術後 72時間以上の呼吸器管理を必要とした症例は認めなかった.術後 CT検査(退院前)で 1例にエンドリークを認めた.全員独歩退院した.術後エンドリークを認めた 1例では,3ヶ月後もリークが消失せず,TEVARを追加した.また術後中期にエンドリークを 2例(術後 1年・3年),解離を 1例(術後 1年)に認め,TEVARを追加した.TEVAR

追加時に下肢対麻痺等の合併症は認めなかった.【まとめ】ハイリスク症例に対し下肢対麻痺や呼吸器合併症を予防する目的で行った,ステントグラフト挿入長を短くしたオープンステント法(+TEVAR)は,ハイリスク症例では考慮しても良い術式と考えられた.しかし,エンドリークや遊走等の問題もあり,今後も注意深い F/Uが必要と考えられた.

O22-6ハイリスク遠位弓部大動脈瘤症例に対する合併症軽減ための工夫

安城更生病院 心臓血管外科・呼吸器外科

水元  亨,藤井健一郎,寺西 智史,阪本 瞬介 ○澤田 康裕,藤永 一弥,庄村  遊

【背景】弓部大動脈疾患に対する全弓部置換術(TAR)の手術成績は向上したものの中遠隔期に大動脈関連イベントによる死亡や追加手術を要する症例がある.【目的】TAR術後中遠隔期の大動脈関連イベントの危険因子を明らかにし,追加手術の有無による中遠隔期成績を比較検討する.【対象】過去 22年間に施行した TAR連続 202例を対象.平均年齢 65.2±10.4歳,男女比 143:59,緊急手術 28%,同時手術 32%.弓部大動脈疾患の成因は,急性 A型解離:21%,慢性解離性瘤:12%,真性瘤:67%.手術は全例 SCPによる脳保護下に 4分枝付き人工血管を使用.術後 follow up

率 96%,平均観察期間 4.5±3.7年.Japan SCORE(30 Days

Operative Mortality:30 Days Operative Mortality+ 主要合併症);8.1±5.0%:29.6±10.9%.【方法】Kaplan-Meier法により累積生存率,大動脈関連死亡回避率,追加手術回避率を評価.大動脈関連イベント発生危険因子並びに死亡危険因子につき,Cox回帰分析を用いた多変量解析を施行.【結果】周術期死亡 12例(5.9%),在院死亡 16例(7.9%).術後主要合併症を 28.2%に認めた.中遠隔期死亡は 52例あり,癌 21%,大動脈関連 13%,呼吸器関連 12%,心関連 10%,腎不全 8%,脳関連 8%,消化器関連 6%,その他 22%.中遠隔期に 51症例 59追加手術が施行され,術式は,基部:3,弓部:3,下行:26(TEVAR:4),胸腹部:6,腹部:21

(EVAR:3).追加手術の原因は,他部位の瘤化:53,吻合部瘤:5,生体弁機能不全:1.追加手術までの平均期間は,2.6±2.3年.追加手術の周術期死亡 1例(腹部破裂),在院死亡 6例(腹部破裂:1,下行破裂:2,再手術:3).大動脈関連死亡回避率は 5年:96.7±0.01%,10年:90.9±0.03%.追加手術回避率は 5年:67.4±0.04%,10年:53.3±0.06%.大動脈関連イベント発生危険因子(95%信頼区間,p値)は,同時手術施行 1.80(1.05-3.10,0.03),Cr1.5mg/dl以上のCKD2.57(1.24-5.31,0.01).大動脈関連死亡危険因子は,65

歳以上 15.8(1.57-156.6,0.02),CKD 5.51(1.33-22.8,0.02).累積生存率(5年:10年)は,全症例(75.6±0.04%:51.1±0.05%),追加手術有(89.0±0.05%:54.2±0.09%),追加手術無(69.6±0.05%:50.7±0.06%)で,2群間に有意差なし(p=0.91).【結語】本検討で明らかになった危険因子を持つ症例に対し,厳重なフォローアップと追加手術を施行することで,大動脈関連イベントによる死亡を防止し遠隔期成績を改善できる可能性が示唆された.

O22-5弓部全置換術後中遠隔期における大動脈関連イベント危険因子

独立行政法人 国立病院機構 帯広病院 心臓血管外科

木村 文昭,菊池 洋一,椎久 哉良,熱田 義顕○

372 日血外会誌 22巻 2号

226

【はじめに】大動脈弁輪拡張症(AAE)を有するマルファン症候群(MFS)合併妊娠は急性大動脈解離の危険性が高く,ハイリスク妊娠とされている.当院で妊娠発覚後,Valsal-

va洞径> 40mmを指摘された 3例に対し,器官形成期を過ぎた妊娠週数 13週以降 22週未満での外科的治療を施行したので報告する.【対象と方法】症例は 2007年 7月から2012年 10月までの 3例.3例とも初回妊娠であった.術前年齢:31歳(28-32).妊娠週数:16週 0日(12週 4日 -18週6日).術前の心エコーによる大動脈弁輪径:24mm(24-25),バルサルバ洞径:51mm(49-55),ST junction径:41mm(34-

44),上行大動脈径:29mm(26-43).大動脈弁閉鎖不全症(AR)は grade2 1例,trivial 1例,なし 1例.3例とも自己弁温存基部置換術(reimplantation法)を施行した.術中の胎児 monitoringは経食道心エコーを母体の腹部にあて,常時胎児心拍を観察できるようにし,体外循環は有血プライミングとした.麻酔は完全静脈麻酔を用い,その他は通常の心臓手術のモニタリングを実施した.3例とも初回妊娠であった.【結果】体外循環は cardiac index:3.6(3.4-4.0),平均血圧:70mmHg,cardiac index:3.6(3.4-4.0)と high flow,high pressureを基本とし,術中の最低咽頭温は 35℃であった.心筋保護は順行性および逆行性心筋保護を併用した.体外循環時間:193分(180-201),心筋虚血時間:147分(147-150)であり,術中 Kの最高値は 6.2mEq/l(5.1-7.0)で,胎児心拍の低下は認めなかった.術後経過は良好で,1例は妊娠 38週 1日で硬膜外麻酔下経膣分娩,1例は妊娠 36

週 1日で帝王切開,1例は妊娠中で 3例とも母子ともに経過良好である.【結語】体外循環,周術期管理の工夫により,AAEを有するMFS合併妊娠症例に対する予防的基部置換術を安全に遂行できた.

O22-2大動脈弁輪拡張症を有するマルファン症候群合併妊娠に対する自己弁温存基部置換術の治療経験

国立循環器病研究センター 心臓血管外科

山下  築,湊谷 謙司,松田  均,佐々木啓明 ○田中 裕史,伊庭  裕,尾田 達哉,三隅 祐輔

小林順二郎

【背景】下行大動脈置換術後の対麻痺は QOLを損なう重大な合併症である.その中で遅発性に発症した脊髄虚血は,適切な治療を行えば急性発症より神経学的予後がよいと報告されている.当院での遅発性対麻痺症例について報告する.【対象】2004年 1月から 2012年 10月までに施行した下行置換術 104例中 10 例に術後脊髄障害を認めた(緊急手術:4/22例(18.2%),予定手術 5/83例(6.1%)).術後脊髄障害に対しては血圧管理,脳脊髄液ドレナージ,ナロキソン投与に加えて,2008年以降は Dexmedetomedine投与を行っている.脊髄障害をきたした 10例中,急性発症の 3

例は全例症状改善を認めなかったが,遅発性発症の 7例では 5例で歩行可能な状態まで神経症状の改善を認め,さらに 2008年以降の 4例については全例で神経症状の改善を認めた.2008年以降の遅発性脊髄障害の 4症例について報告する.〈症例 1〉74歳男性.多発胸部大動脈瘤に対して2期的な手術を行った.まず弓部全置換を施行,その後 2

期的に下行置換術を施行した.下行置換術後 14時間で左単麻痺を認め,髄液ドレナージ,ナロキソン,Dexmedeto-

midine投与を行った.神経症状改善を認め術後 4日目には杖歩行可能となった.〈症例 2〉84歳男性.術前ショック状態を呈した胸部大動脈瘤破裂に対して緊急下行置換術を施行した.術翌日に遅発性対麻痺を認め髄液ドレナージ,ナロキソン,Dexmedetomidine投与を行った.発症後約 2日で膝立て可能な状態まで症状改善し約 1か月で歩行訓練できるようになった.〈症例 3〉68歳男性.AAAに対して Y

グラフト置換術の既往があり,今回下行大動脈瘤および Y

グラフト置換術後の中枢側吻合部仮性瘤に対して人工血管置換術後を施行した.術後 2日目に遅発性対麻痺を認め,髄液ドレナージ,ナロキソン,Dexmedetomidine投与を行った.発症後約 2日で歩行可能な状態まで改善を認めた.〈症例 4〉70歳男性.下行胸部大動脈瘤に対して人工血管置換術を施行した.術翌日に遅発性片麻痺を認め,髄液ドレナージ,ナロキソン,Dexmedetomidine投与を行った.治療開始 7時間後から感覚障害の改善を認め,発症翌日には自力で端座位可能になり 1週間後には歩行のリハビリをできるようになった.【まとめ】動物実験において Dexmedeto-

midineは脊髄虚血時の神経細胞のアポトーシスを抑制することにより脊髄障害を予防する可能性が示唆されている.Dexmedetomidineが下行置換術後の脊髄保護に有用であった症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

O22-2胸部下行置換術後の遅発性対麻痺に Dexmedetomidineを用いた症例

静岡市立静岡病院 心臓血管外科

野村 亮太,島本 光臣,山崎 文郎,中井 真尚 ○三浦友二郎,岡田 達治,糸永 竜也,寺井 恭彦

宮野 雄太,村田 由祐

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 373

222

【背景】TEVAR導入後,胸部大動脈瘤手術の低侵襲化がすすめられているが,弓部分枝を巻き込み,弓部から下行大動脈に連続性に進展する広範囲胸部大動脈瘤では中枢にLanding zoneが得られない場合や血管径の問題から,Open

stentまたは正中切開+側開胸による上行 -弓部 -下行大動脈人工血管置換術を選択せざるを得ない.当科では高齢者や慢性呼吸器疾患合併などのハイリスク症例を除き,胸骨正中切開+側方開胸アプローチで一期的に上行 -弓部 -下行置換術を行う方針としており,同法の手術成績を検討した.【対象と方法】2009年 4月から 2012年 10月に広範囲胸部大動脈瘤に対して当科にて胸骨正中切開+側方開胸下で人工血管置換術を施行した 5例を対象とした.年齢 67

±7歳,男性 4例.4例が慢性解離であり,うち 2例が急性解離に対する上行置換術後の再手術であった.5例とも予定手術で術前臓器障害等の手術リスクは認められなかった.手術方法は分離換気使用,右半側臥位,胸骨正中切開+左側方開胸で行った.上行大動脈+大腿動脈送血,順行性脳分離潅流使用,膀胱温 25℃(2例は 28℃)で下半身循環停止とし遠位側吻合施行後,循環再開し加温しながら上行弓部置換を施行した.1例は真性瘤で Kommerell憩室を伴う右側大動脈弓合併であったため右側方開胸とした.【結果】手術時間 480±98分,体外循環時間 217±43分,大動脈遮断時間 87±24分,下半身循環停止 52±28分,脳分離潅流時間 156±37分であった.下行大動脈の置換範囲は2例が横隔膜レベル,2例が近位側から 4/5,1例が近位側から 2/3 までであった.術中輸血量は RCC24±18U,FFP23±9U,PC35±13Uであった.術後挿管時間 107±59

時間,ICU滞在日数 8±4日,在院日数 29±19日であった.術前にスパイナルドレナージを 3例に施行し術後対麻痺は認めなかった.在院死亡は 1例(術後 4日目に多臓器不全)で,合併症は胸骨骨髄炎 1例,嚥下機能障害 2例であったが生存例は全員独歩退院した.【結語】胸骨正中切開+側方開胸アプローチによる一期的上行 -弓部 -下行大動脈人工血管置換術は,侵襲が大きくリスクが高いと思われるが,呼吸機能や腎機能低下などの術前臓器障害がない症例においては比較的安全に手術を施行できると考えられた.

O22-3広範囲胸部大動脈瘤に対して一期的上行─弓部─下行大動脈人工血管置換術を施行した 5症例の検討

湘南鎌倉総合病院 心臓血管外科

橋本 和憲,田中 正史,片山 郁雄,野口権一郎 ○伊藤  智,嶋田 直洋,湯地 大輔,大城 規和

白水 御代

【はじめに】弓部大動脈人工血管置換術において,末梢吻合は低体温循環停止下に open proximal 法で行うことが一般的であるが,循環停止時間の延長が術後の合併症などに及ぼす影響は不明である.今回は弓部置換術時の循環停止時間と術後合併症および血液データとの関係を検討した.【対象と方法】2008年 1月から 2012年 10月の期間に,当院で待機手術として弓部置換術を施行した連続 49例を対象とした.緊急手術や合併手術を行った症例は除外した.手術は全例直腸温 25度以下,鼓膜温 20度以下で循環停止とし,頭部 3分枝に選択的脳灌流を施行して末梢吻合を終了後,側枝より体外循環を再開する方法で行った.循環停止時間 70分未満であった 6例(12.2%)を S群,70分以上100分未満であった 33例(67.3%)をM群,100分以上であった 10症例(20.4%)を L群として,術中術後 lactate最高値,術後 AST,ALT,CK,クレアチニン最高値,術翌日アミラーゼ値,挿管時間,病院死,その他の合併症について比較検討した.【結果】平均循環停止時間は S群:60±6分,M群:85±8分,H群:110±7分であった.各群間に平均年齢,性別,術前併存疾患および術中の循環停止時直腸温,鼓膜温に有意差はみられなかった.術中術後 lac-

tate最高値(mg/dl)は S群:44±15,M群:42±16,L群:64±41と L群で高い傾向にあったものの,術後 AST,ALT,CK,クレアチニン最高値,術翌日アミラーゼ値で各群間に有意差はなかった.病院死は H群で 1例認めた.死因は ARDSによる呼吸不全にて術後 7日目で死亡した.S群,M群では病院死はみられなかった.術後合併症としてM群で脳梗塞 1例,胆のう炎 1例を認めたが,S群,L

群には認めなかった.全群であらたな透析導入,縦隔炎は認めなかった.【考察】直腸温 25℃以下,鼓膜温 20度以下で頭部 3分枝に選択的脳灌流を行った条件下では,循環停止時間が 100分を超える症例でも,術後血液検査において他群と有意な違いは認めず,術後合併症の増加も認めなかった.循環停止の限界時間は明らかにはならなかったが,少なくとも上述の条件下で循環停止 100分は許容される時間と考えられる.

O22-2術後血液検査データから見た弓部大動脈置換術時の低体温循環停止許容時間

札幌医科大学 心臓血管外科

伊藤 寿朗,奈良岡秀一,小柳 哲也,萩原 敬之 ○川原田修義,樋上 哲哉

374 日血外会誌 22巻 2号

222

症例は 65歳男性.6年前に肺癌に対して左下葉切除術,3年前に弓部大動脈瘤に対して上行弓部置換術施行している.H24/3/8吐血にて当院に救急搬送された.上部消化管内視鏡検査にて,中部食道左側壁に潰瘍及び末梢側吻合部に使用したフェルトの突出を認めた.大動脈食道瘻と診断し当科紹介となった.胸部 CTにて,末梢側吻合部に仮性動脈瘤を認めその周囲には気腫性変化を認めた.同日緊急で末梢側吻合部に対してステントグラフト(GoreTAG TG3415)内挿術施行し,H24/3/9 右開胸下に食道抜去術及び膿瘍腔開窓ドレナージ施行した.洗浄用に膿瘍腔へサフィードチューブ 2本,brake drain 1本挿入した.(1POD)に抜管し持続洗浄ドレナージを開始した.抗生剤はバンコマイシン及びゲンタマイシンを投与した.(6POD)右全肺が完全に無気肺となり呼吸状態が悪化したため再挿管となった.洗浄液の胸腔へのたれこみと判断し一旦持続洗浄を中止した.(9POD)septic shockにより血行動態が破綻したため,小開胸にて右胸腔に brake drain 1本及びサフィードチューブ 1

本を挿入した.排出液は膿で術中培養と同様の Bacteroides

ovatusを検出した.(11POD)膿瘍腔及び胸腔に対して持続洗浄再開.抗生剤をMEPMとVCMの2剤に変更し,(13POD)気管切開施行.(18POD)右胸腔の持続洗浄中止し胸腔ドレーン抜去,(23POD)より膿瘍腔の持続洗浄を中止とし,間欠的に洗浄開始した.(33POD)膿瘍腔ドレーンの培養が陰性化したため(51POD)に膿瘍腔ドレーンを抜去した.以後経時的に CTを施行し,人工血管周囲膿瘍腔は消失した.CRPは陰性化したため,リハビリ施行後(90POD)胸壁前経路による大弯側細径延長遺憾再建術による食道再建術施行した.大動脈食道瘻の治療戦略として,1. 出血コントロールのために,必要なら TEVAR施行し,食道抜去. 2. 炎症や菌血症の改善を待ち,可能なら感染した人工血管抜去,再置換術,大網充填術.3. 栄養状態の改善を待って食道再建術.今回の症例のように再手術例で,再人工血管置換術及び大網で置換人工血管の全範囲を覆うことが困難な症例に対して,大動脈に対して持続洗浄による保存的加療をし救命し得たので報告する.

O22-5胸部大動脈瘤術後大動脈食道瘻に対してステントグラフト及び洗浄ドレナージを施行し救命した 1例

大阪市立総合医療センター 心臓血管外科

高橋 洋介,柴田 利彦,服部 浩治,加藤 泰之 ○元木  学,森崎 晃正,西村 慎亮

大動脈食道瘻は胸部大動脈瘤手術後にも発症し救命率が極めて低い.当科では弓部大動脈瘤症例に対して,Long El-ephant Trunk(ET)法を用いた Total Arch Replacement(TAR-LET)手術をこれまで 144例施行し,大動脈食道瘻を術後3例(2%)に認めた.これら症状・発症時期および治療法の異なる 3例について報告する.【症例 1】76歳男性.大動脈瘤(97mm)は遠位弓部で,椎体を越えて食道を右側に大きく圧排していた.これに対して TARLET手術を施行(ET先端:Th 7)し,術後大動脈瘤は完全に thromboexclusionした.術後 13日目に貧血精査での上部消化管内視鏡検査で偶然,大動脈食道瘻と診断.消化器外科にコンサルトも手術適応外と判断され,食道瘻,胃瘻造設のみ施行.経過中に吐血なく大動脈瘤径は 48mmまで縮小したが,TAR-LET後 5ヵ月後に Sepsisで失った.【症例 2】61歳男性で透析患者.腹部大動脈瘤術後でかつ胃潰瘍穿孔に対して開腹手術後.56歳時に遠位弓部の大動脈瘤に対して,TARLET手術を施行(ET先端:Th 9)し,術後大動脈瘤は完全にthromboexclusionしていた.TARLET手術の 5年後に不明熱で入院.入院 2週間後の PET検査で Arch遠位部~胸部下行大動脈に異常集積像を認めた.抗生剤治療を続けていたが,入院 5週間後に吐血を来たし,CT上 endoleak(Type 1)および大動脈食道瘻と診断され,緊急で TEVARによるET completionを施行.この 11日後に右開胸で胸部食道亜全摘,頚部食道瘻造設術および人工血管周囲の血腫除去(部分的)を施行.しかし術後,カリニ肺炎を併発し 1ヶ月後に失った.【症例 3】54歳男性.大動脈瘤(98mm)は遠位弓部で,症例 1同様に椎体を越えて食道を右側に大きく圧排していた.これに対して TARLET手術を施行(ET先端:Th 9)し,術後大動脈瘤は完全に thromboexclusionした.術後 1年後の CTでは,大動脈瘤径は 88mmと縮小傾向を認めたが,術後 14ヵ月後に突然吐血し,救急搬送.CT上endoleak(Type 1)および大動脈食道瘻と診断され,緊急でTEVARによるET completionを施行.この翌日に食道抜去,胃瘻造設,食道瘻造設術と同時に左開胸で,大動脈瘤郭清,洗浄および大綱充填術を行った.この術後 2ヵ月後に食道再建術を行った後,退院できた.【まとめ】術前から巨大な大動脈瘤で食道を右側に圧排している例は,大動脈食道瘻を念頭に治療計画をすすめる必要がある.Endoleakを認める吐血例に対して緊急 TEVARは止血・血行動態の安定化には極めて有用である.大動脈食道瘻に伴う感染に対しては,早期に食道抜去と感染組織の充分な郭清,大網充填術を併せて行う治療が望ましいと考える.

O22-4Long Elephant Trunk法を用いた Total Arch Replacement術後の大動脈食道瘻

大阪労災病院 心臓血管外科

近藤 晴彦,舩津 俊宏,桝田 浩禎,三宅 啓介 ○谷口 和博

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 375

222

【背景】腹部大動脈瘤(AAA)に対するステントグラフト内挿術(EVAR)は低侵襲性及び術後早期回復の観点から開腹人工血管置換術よりも良好な手術成績が報告される一方,遠隔期に追加血管内治療を必要とする症例が一定の割合で存在することが臨床上問題となっている.今回我々はEVAR術後タイプ 2エンドリーク遺残(PT2EL)に伴う瘤拡大に対して遠隔期に開腹根治術を施行した症例の臨床成績を我々が考案した低侵襲手術治療戦略(術中ビデオ供覧)を含めて報告する.【対象】2007年 5月から 2012年 9月末までに当院で施行した AAAに対する EVAR施行総数 224例中遠隔期に PT2ELに対する血管内治療にても瘤拡大を制御できなかった為開腹手術を施行した 6例(男性 4例).EVAR

施行時平均年齢 79.5歳(74.4~85.7歳).EVAR後平均観察期間 3年 2ヶ月(3ヶ月~3年 11ヶ月)平均瘤再拡大 8.8mm

(5mm-13mm).デバイスの内訳:Excluder3例,Zenith2例,Powerlink1例であった.(手術方法)(1)limited median lapa-

rotomy(全例 15cm以内の小皮膚切開)(2)腰動脈,IMAを瘤外から離断,処理.(3)瘤切開し出血のない事を確認.(4)瘤壁を可及的可能な範囲で切除した後連続縫合.(5)異種心膜にて補強ラッピングを行う.【結果】平均手術時間153.5分(115分~190分).術後フォローアップ造影 CT検査で T2EL再燃を認めた症例は未だなし.【考察】EVAR術後 PT2ELに伴う瘤拡大に対する本術式のメリットは,(1)ステントグラフト摘出が不要.(2)全身ヘパリン化を行わない.(3)大動脈遮断の回避.(4)タイプ 1,3,4エンドリークが存在したとしても,瘤壁を切開し直視下にすることにより対処が可能.(5)将来再拡大を認めた場合も異種心膜により sealingされる.である.【結論】当科における EVAR

術後 PT2ELに対する外科治療成績は良好であった.本術式は全身ヘパリン化回避による少ない周術期出血量,手術時間,術後早期回復の観点からも治療効果の極めて高い低侵襲手術と思われる.

O22-2EVAR術後タイプ 2エンドリーク遺残による瘤拡大に対する開腹根治術施行例の検討

心臓病センター榊原病院 心臓血管外科

平井 雄喜,吉鷹 秀範,近沢 元太,田中 恒有 ○平岡 有努,毛利 教生,水田 真司,松下  弘

大野  司,鈴木 康太,永田 智己,田村健太郎

都津川敏範,石田 敦久,坂口 太一

【背景】気管腕頭動脈瘻(TIF)は,気管切開後の重篤な合併症の一つであり,一旦発症すると,その救命率は極めて低い.TIFの予防的手術の報告は極めて少く,その手術適応や手術方法に関しても確立したものはない.今回我々はCTにて腕頭動脈による気管の圧排所見を認めた 2症例にTIFの予防的手術を施行したので文献的考察を加え報告する.【症例 1】30歳男性.乳児期に精神発達遅滞と診断され,3年前に交通外傷による脳幹損傷を発症し,気管切開術を施行された.その後気管狭窄症の精査加療目的で当院紹介となり,CTにて腕頭動脈による気管の圧排所見を認めた.手術は胸骨正中切開アプローチで,上行大動脈に partial

clampを行い,人工血管(Gelsoft 8mm)を用いて上行大動脈‐腕頭動脈バイパス術を施行した.腕頭動脈は起始部で閉鎖し,気管の圧排を解除した.術中,両上肢血圧と近赤外線モニターを用いて前頭部の血流を確認し,明らかな左右差はなかった.術後は脳合併症なく,11日目に転院となり,術後 2年 8ヶ月後も順調に経過している.【症例 2】13歳女性.生後,小脳・脳幹低形成と診断され,8年前に喉頭全摘,永久気管口を作製された.その後,慢性呼吸不全による CO2貯留のため家庭用人工呼吸器導入目的で当院に入院.入院後,気管口から僅かな出血を認め,精査のため CT施行.CTにて腕頭動脈による気管の圧排所見を認めた.手術は上部部分胸骨切開アプローチで,腕頭動脈離断術を施行した.腕頭動脈は起始部で閉鎖し,気管の圧排を解除した.術中,両上肢血圧と近赤外線モニターを用いて前頭部の血流を確認し,明らかな左右差はなかった.術後,脳合併症なく,16日目に自宅退院となった.【結論】TIAを発症する可能性が高いと思われる 2症例に予防的手術を施行し,良好な結果を得た.術中に上肢血圧の左右差,頭部の血流状態を確認し,明らかな左右差がなければ腕頭動脈の離断が可能である.安全に血行再建が可能な症例に対しては,上行大動脈‐腕頭動脈バイパス術は一つの選択肢となる.

O22-6気管腕頭動脈瘻に対する予防的手術

佐賀大学医学部 胸部心臓血管外科

伊藤  学,古川浩二郎,手石方崇志,林  奈宜 ○田中 秀弥,諸隈 宏之,蒲原 啓司,森田 茂樹

376 日血外会誌 22巻 2号

300

【はじめに】腹部大動脈瘤(AAA)に対するステントグラフト内挿術(EVAR)はその低侵襲性と良好な早期成績から急速に普及しているが,代表的合併症であるエンドリーク(EL)を遠隔期に認めることがある.当科で経験した

EVAR術後遠隔期にエンドリークのため open surgeryを要した 3症例について報告する.【症例 1】ベーチェット病の既往を有する 68歳,男性.2001年 10月に AAAに対してEVAR(自作デバイス)を施行した.経過良好で瘤径も縮小傾向にあったが,2008年 6月に腰背部痛が出現し,CTにて type1a ELと瘤径の著明な拡大を認めた.ステントグラフト除去および人工血管置換術を施行したが,術中所見でステントグラフト中枢端は瘤内に完全に浮いた状態であった.【症例 2】85歳,女性.右腎・膀胱摘出,大動脈弁置換,経皮的冠動脈形成の既往を有していた.AAAに対して2007年 11月に EVAR(Zenith)を施行した.術直後より下腸間膜動脈(IMA)および腰動脈からの type2 ELを認めていた.2008年 9月に IMA塞栓術を施行した.2009年 3月には腰動脈塞栓術を施行したが不成功に終わり,瘤径が拡大してきたため,2009年 10月に右後腹膜アプローチにて腰動脈結紮術を施行した.【症例 3】76歳,男性.既往に C

型肝硬変,再生不良性貧血があり,ステロイド内服中であった.IMA起始部にコイル塞栓を行った後,AAAに対して 2008年 6月に EVAR(Zenith)を施行した.術直後より腰動脈からの type2 ELを認め,2009年 2月に腰動脈塞栓術を施行した.2009年 6月に右総腸骨動脈からの type1b

ELが出現し,ステントグラフトの追加留置を施行した.しかし 2010年 1月には左総腸骨動脈からも type1b ELが出現し瘤径の拡大を認めたため,同年 3月に人工血管置換術を施行した.手術ではステントグラフト中枢端を一部残して人工血管と吻合した.【結語】EVAR術後遠隔期に,早期から残存する type2 ELだけでなく,新たに出現した type1

ELにより瘤径の拡大を認め,open surgeryを要した症例を経験した.EVARには慎重な症例の選択と経過観察が必要であると考えられる.

O22-3EVAR術後のエンドリークに対して open surgeryを必要とした 3症例

大阪市立大学 心臓血管外科 1

大阪市立大学 放射線科 2

尾藤 康行○ 1,堺  幸正 2,佐々木康行 1,平居 秀和 1

細野 光治 1,中平 敦士 1,末廣 泰男 1,岡田 優子 1

賀来 大輔 1,末廣 茂文 1

【背景】腹部ステントグラフト内挿術後の type IIエンドリーク(EL)はしばしば認められ経過観察されることが多い.しかし,type II ELに起因する破裂や瘤径拡大に対して,追加の血管内治療や外科手術への転換がまれに必要となることも報告されており注意が必要である.今回は比較的頻度の高い下腸間膜動脈(IMA)からの typeII ELの発生に関して検討し,これを予防する目的での腹腔鏡下結紮法を経験したので報告する.【対象】2010年 12月から 2012年 11

月までに 46例の腹部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を施行した.その内,術後に造影 CTを施行してエンドリークを確認しえた 42例を対象とした.平均年齢は76.9±9.9歳,男性 36例女性 6例,全例真性動脈瘤であった.使用したステントグラフトの機種は,Excluder 22例,EN-

DURANT 9例,Zenith Flex 8例,Powerlink 3例であった.【結果】IMA結紮を施行していない 40例の検討では,術後初回の造影 CTにて見られた ELは type Ib 1例(2.5%),type

II 16例(40%),type III 1例(2.5%)であった.type II ELの見られた 16例中,IMAを経路とするものが 11例であった.IMAからの EL発生の因子について検討してみると,術前から IMAが閉塞している症例(9例),および IMAが動脈瘤のネックから分岐しておりステントグラフトが IMA起始部を直接被覆する症例(6例)では IMAからの ELは全く発生しなかった.これらを除いた 25例については,CT画像から計測される IMA内径と ELの関係につき検討した.IMAからの EL(+)群 11例と EL(-)群 14例では,IMA内径は平均 2.57±0.47mm,2.17±0.64mmであった(p< 0.05).ステントグラフトの機種や,その他の因子で差は見られなかった.以上の結果から 2012年 7月から,動脈瘤から分岐する IMA径が 2.5mm以上で開腹歴のない症例では,腹腔鏡下 IMA結紮術を施行する方針とし,2例を経験した.2例ともステントグラフト内挿術に引き続き行った.1例目は 64歳男性で IMA内径は 2.6mm.臍部および左右の上下腹部の 5ポートを使用し IMAを結紮した.2例目は 83

歳男性で IMA内径は 2.7mmであり臍部のシングルポートから施行した.2例とも術後合併症を認めず,術後の造影CTにて IMAを経路とする typeII ELを認めなかった.【結論】IMA径の太い症例では IMAからの type II ELの頻度が高く,IMA結紮術の術中追加は有用であった.本術式はシングルポートでも施行が可能であり開腹歴のない症例では簡便・確実な方法と考えられた.

O22-2EVAR術後の下腸間膜動脈からの typeIIエンドリークに対する腹腔鏡下結紮法の経験

千葉市立海浜病院 心臓血管外科

大津 正義,堀  隆樹,中谷  充○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 377

302

AAAに対する EVAR後 type2 endoleakは動脈瘤の縮小を妨げるのみでなく,瘤径の増大をきたし動脈瘤が破裂するリスクもある.当院で認めた EVAR後の残存 type2 endoleak

は 70例中 10例(7%)で,2例に対して追加治療を行ったので報告する.症例 1は,70歳男性で.2010年 9月に AAA

(50mm)に対して EVAR(Excluder)を施行した.術後 1年目の CT検査にて瘤径が縮小せず,腰動脈̶下腸間膜動脈間の type2 endoleakを認めたため 2011年 12月に経皮的腰動脈塞栓術を施行した.左大腿動脈から左内腸骨動脈,左上臀動脈経由でアプローチしたが,動脈瘤内へはアプローチできず,遠位部よりヒストアクリル(NBCA:N-butyl cy-

anoacrylate)にて塞栓術を施行した.塞栓術後 3D-CT検査では,type2 endoleakの範囲は縮小したが消失はしなかった.瘤径増大は認めないが今後も厳重な経過観察が必要である.症例 2は,87歳女性で.2009年 5月に AAA(50mm)に対して EVAR(Excluder)を施行した.術後 1年目の CT

検査にて腰動脈間の type2 leakを認め,2011年 11月に経皮的腰動脈塞栓術を行うが不成功であった.その後の fol-

low up CT検査で,AAAの最大径が術前 50mmであったのが 65mmまで増大し,破裂の危険性があるため,2012年10月に開腹手術を行った.手術は,全身麻酔下で腹部正中切開し,動脈瘤の外側から認識可能な腰動脈(L3,4,5)を結紮切離した.動脈瘤内圧(mean)は,結紮前が 60mmHg

であったのに対し結紮後は 20mmHgまで低下した.続いて,動脈瘤壁を縦切開し,壁在血栓を除去後,残存開存腰動脈および type1,3 leakの無いことをチェックし瘤壁を部分切除後に縫縮・閉鎖した.瘤壁閉鎖後の内圧は 12mmHg

まで低下していた.Type2 endoleakは経過観察とする傾向があるが,増大傾向を認める症例では破裂リスクとなるため,EVAR前に可能な限り下腸間膜動脈,腰動脈の塞栓術を施行するべきと思われた.

O22-5EVAR後 type2 endoleakに対して追加治療を行った 2例

福山市民病院 心臓血管外科

栗山 充仁,田邊  敦,喜岡 幸央○

【背景】当院では,2008年 1月から 2011年 12月まで企業製 EVAR(Zenith 71 例,Excluder 67 例,Powerlink 21 例,TALENT 11例,Endurant 9例)の計 179例を施行した.これらの症例のうち,術後に type 2 endoleakによる瘤の増大でopen conversionとなった 2例(1.1%)(Zenith 1例,Excluder

1例)を経験したので,文献的考察を加えて報告する.【症例 1】69歳,男性.維持透析.2008年 7月 11日,EVAR

(Zenith)を施行.最終造影にて type 2 endoleakあり.術後1年のCTでAAAが 58mmから 65mmと瘤の拡大を認めた.Feeding arteryである内腸骨動脈分枝のコイル塞栓術を試みたが不成功のため開腹手術を施行した.術式としては bare

stentと main bodyの一部を温存し,Y字型人工血管を施行した.【症例 2】63歳,女性.維持透析.2009年 4月より透析導入.AAA 40mmを認めた.2011年 4月,CTにて AAA

58mmと拡大傾向あり.2011年 6月 2日,EVAR(Excluder+

左内腸骨動脈コイル塞栓)施行.最終造影にて type 2 en-

doleakあり.術後 6ヶ月の CTで type 2 endoleakが増加し最大径 68mmと 10mm拡大あり,開腹手術となった.中枢側は両側腎動脈上での遮断が必要であった.まず,中枢landing zoneを温存し末梢脚部を引き抜いた.次に,main

bodyを横切開後,中枢側に向けて縦切開を加えて残存stentgraftを摘出した.最終的に main body全て取り除き,Y字型人工血管を施行した.【結果】2症例とも術後経過は良好で,術後造影 CT検査でも吻合部等に問題はなかった.【考察】今回我々は type 2 endoleakの為に瘤拡大をきたし

open conversion を施行した 2例を経験した.Zenithの中枢端は腎動脈分岐上に存在するために,ステントグラフト全置換術の場合は腹腔動脈分岐よりも中枢で遮断する必要がある.今回のステントグラフト中枢側を温存する部分置換術は有用で安全な術式であった.Excluderの中枢端は腎動脈分岐下に存在するが,ナイチノールアンカーが存在するため容易には摘出できない.今回,main bodyのナイチノールステントを縦切開する方法は有用で安全な術式であった.【結語】type 2 endoleakによる瘤の増大で open conver-

sionを必要とした 2症例に対し,EVARそれぞれの特徴を考慮した術式により良好な結果を得たので報告した.

O22-4Type 2 endoleakによる瘤の増大で open conversionを必要とした EVARの 2症例

埼玉医科大学国際医療センター 心臓血管外科

小池 裕之,井口 篤志,朝倉 利久,中嶋 博之 ○上部 一彦,森田 耕三,神戸  将,高橋  研

池田 昌弘,道本  智,岡田 至弘,林 祐次郎

新浪  博

378 日血外会誌 22巻 2号

302

EVAR後の Type2エンドリークによる瘤拡大が最近,問題となっている.今回我々は,EVAR後の type2Endoleakにより AAA破裂となり,緊急開腹手術を行った症例を経験した.その症例から学んだ事,EVAR後の破裂症例に対する手術方法などをビデオをおりまぜながら供覧したい.症例は 83歳・男性.腎動脈下 AAA69mm.高齢,慢性腎不全(Cr3mg/dl前後),MDSによる血小板減少のため開腹手術は高リスクと判断され,EVAR(Excluder)を選択した.術後 1年間は瘤径の増大もなく経過良好であった.術後 2

年に胸痛・腹痛が出現し,造影 CTにて最大短径 92mmに拡大しており AAA破裂の所見を認めたため,緊急で開腹手術を行った.瘤の外部から全ての腰動脈を離断すべく瘤の剥離を試みたが癒着が強くて断念.瘤を切開して瘤内を検索したところ,腰動脈からの type2Endoleakを認めた.これを結紮処理して瘤壁を縫縮して手術終了とした.この際,3枝病変による不安定狭心症を併発していたため開腹手術後 3日目に PCI施行,DES留置して抗血小板剤 2剤が開始となった.しかし,開腹手術後の 3ヶ月間で,再びAAAの急速な増大(68mm→ 78mm)を認めたため,準緊急で再開腹手術を行った.瘤内を検索すると瘤壁より oozing

を認めたため,これを焼灼止血し,さらに瘤内に fibrin glue

と酸化セルロースを詰めて瘤を縫縮,縫合閉鎖して手術を終了した.MDSによる血小板減少および抗血小板薬 2剤内服により,ごくわずかな oozingが持続したために瘤拡大を来したものと考えられた.その後の follow up CTでは瘤の増大は認めていない.EVAR後の瘤破裂時には瘤切除,人工血管置換は難しいため,IMAと全ての腰動脈を確実に結紮止血しておく事が重要である.

O22-2EVAR後の type2エンドリークによる AAA破裂に対する手術

心臓病センター榊原病院 心臓血管外科

水田 真司,吉鷹 秀範,坂口 太一,津島 義正 ○石田 敦久,近沢 元太,都津川敏範,田村健太郎

【はじめに】近年腹部大動脈瘤に対する EVAR施行後において,タイプ 2エンドリークの出現が治療成績の問題点とされている.大動脈瘤の拡大・破裂につながり追加治療が必要とされるが,本邦においては実際の破裂症例は報告されていない.我々は,EVAR治療後に腰動脈からのタイプ2エンドリークから大動脈瘤破裂を来した症例を経験したので報告する.【症例】75歳男性.既往歴として 52歳時に十二指腸潰瘍穿孔で開腹歴を認めている.72歳の時に腎動脈下型腹部大動脈瘤(最大短径 66mm)に対して EVARを施行したが,1か月後から腰動脈からのタイプ 2エンドリークを認めていた.瘤径の拡大を認めなかったことから経過観察とされていたが,その後当科での通院は途絶えていた.2日前からの腰痛が増悪してきたために当院救急外来を受診.受信時には血圧低下は認めず循環動態は保たれていた.また採血検査でも貧血はごく軽度であった.造影CTで最大短径 91mmの腹部大動脈瘤とその左側面に Ex-

travasationが認められた.また腰動脈からのタイプ 2エンドリークが増大しているのが観察された.緊急で腹部正中切開による腰動脈閉鎖術を施行したが,瘤外からの腰動脈処理は瘤が大きいために困難であった.瘤を切開して内腔から縫合したが,術中不整脈発作により循環不全をきたし術後 18日目に脳障害のため死亡された.術後に CTの経過を検討するとタイプ 2エンドリークの増大と瘤径の拡大が認められていた.【結語】タイプ 2エンドリークを放置した場合には瘤拡大から破裂する症例が存在するために,早期の介入が必要である.また破裂しても循環動態が保たれており,本症例では血管内治療が待機的に施行可能であった可能性があると思われる.

O22-6EVAR後の type2エンドリークによる腹部大動脈瘤破裂の 1例

伊勢赤十字病院 心臓血管外科 1

三重大学医学部 放射線診断科 2

湯淺 右人○ 1,山本 直樹 1,小暮 周平 1,藤井 太郎 1

徳井 俊也 1,井内 幹人 2,橋本 孝司 2,加藤 憲幸 2

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 379

303

【目的】当院での腹部大動脈瘤(AAA)Open Surgeryでの治療方針は可能な限り人工血管置換に加え両側内腸骨動脈,下腸間膜動脈(IMA)のうち 2本以上を再建する方針で,高齢者でも適応があれば積極的に行ってきた.一方,EVARはその低侵襲性からハイリスク症例や高齢者において適応があると考えられる.今回 80歳以上高齢者の AAA治療成績を検討した.【対象および方法】対象は 2001年 1月から2012年 10月までの AAA381例中 80歳以上 101例で,うち待機手術 68例を対象とした.これらを Open Surgery(OS)群 46例,EVAR(E)群 22例の 2群に分け手術近接期における合併症を中心に検討した.【結果】平均年齢 OS群 83.4

歳,E群 85.0歳.在院死亡 OS群 2例(4%)で死因は呼吸不全,E群 1例(5%)で TEVARと同時手術症例であった.OS群で IMA再建 21例(46%).straight graft置換 10例(22

%).E群で内腸骨動脈コイル塞栓 8例(36%),うち両側コイル塞栓は 2例.平均瘤径は OS群 53.9mm,E群 50.4mm.術前合併症は冠動脈疾患 OS群 22例(48%),E群 5例(23

%).脳血管疾患 OS群 6例(13%),E群 5例(23%).COPD

は OS群 21例(46%),E群 7例(32%).平均手術時間は OS

群 223±77分,E群 128±48分(p< 0.01).出血量は OS群1627±1161ml,E群 256±177ml(p< 0.01).術後経口開始日は OS群平均 5.0±1.9日,E群 1日(p< 0.01).術後平均在院期間 OS群 30±22日,E群 15±10日(p< 0.01)であった.術後合併症は OS群 19例(41%)で誤嚥性肺炎 3例,せん妄 5例,イレウス 3例.E群 2例(9%)で 2例とも麻痺性イレウスであったが内腸骨動脈は両側とも温存されていた.生存率は全体で 1年 88.8%,3年 51.6%,5年 25.8

%であった.【結語】80歳以上高齢者の AAA治療成績はOS,E群とも良好であった.開腹手術では高齢者に特有な誤嚥性肺炎,せん妄などの合併症回避が成績向上に寄与すると考えられた.EVER症例では手術侵襲が低く,術後合併症も減少し,高齢者に適した治療であると考えられた.

O30-280歳以上超高齢者の非破裂性腹部大動脈瘤の検討

国立帯広病院 心臓血管外科

熱田 義顕,菊池 洋一,木村 文昭,椎久 哉良○

【背景】我が国においては年々高齢化が進み手術患者の高齢化が問題となってきている.手術侵襲の低減化を目的に腹部大動脈瘤に対しても EVAR施行例は増加傾向にある.当院においてもやはり手術対象症例の高齢化が進んでおり,EVARは増加傾向にある【目的】現在までの当院における腹部大動脈瘤治療成績をまとめるとともに,改善点の抽出および今後の方向性について検討する.【方法】2008年 1

月から 2012年 9月までに腹部大動脈瘤に対し手術を施行した患者は 122名(Male:n=105: 86.6%)でそのう緊急手術は 15例(O群 14例,S群 1例)であった.Open sugeryを行った O群,ステントグラフトを行った S群間で術後評価項目(a.人工呼吸器管理期間,b.ICU入室期間,c.入院期間,死亡率等),および d.術後から中期遠隔期における大動脈関連合併症の発症率,を比較検討することとした.【結果】O群は 67例で平均年齢は 70.2±8.1(50- 85)歳,S

群は 55例で平均年齢は 74.7±8.8(50-85)歳であった.S群における併施手技としては IIA領域の coil embolizationが13例,TEVARが 1例,下肢バイパスが 1例であった.O群,S群の平均手術時間は順に 293.3±95.7分,167.7±68.5分であった(P< 0.001).術後死亡は O群で 3例(4.4%),S

群中の 2例(3.6%)に認めた.なおそれ以外の各評価項目については b,cにおいて S群で有意に短縮していたが(0.9

±0.6 vs 2.6±3.7,12.6±14.3 vs 21.1±11.6 :各々P< 0.01),aについても短縮する傾向にあった(P= 0.07).逆に dについては O群で少ないことが示された(5.9%vs 21.8%: P

< 0.05).【考察】両群とも概ね許容できる成績であったが,やはり Open surgery群において手術時間が長く,高齢者にとってはより侵襲が高いと考えられた.そうした現状,および今後さらなるデバイスの進歩により緊急症例におけるEVARの適応拡大が進むものと思われる.しかしながら術後の endoleak,および Stent関連感染性疾患といった Stent

特異的な術後合併症も認めるため,術前評価で耐術能が保たれており,かつ根治性が期待できる症例に関してはOpen

surgeryも依然として有用な選択肢であると考えられた.

O30-2腹部大動脈瘤に対する当院の治療成績 ~現状を踏まえた今後の方向性~

青森県立中央病院 心臓血管外科

佐藤  充,永谷 公一,畠山 正治,小松 恒弘○

380 日血外会誌 22巻 2号

304

【目的】当院では腹部大動脈(AAA)に対して 2007年 12月からステントグラフト内挿術(EVAR)を開始しているが,従来の開腹手術(S)との治療法選択に関しては,IFUを中心に,年齢,合併疾患,開腹術の既往などを考慮して総合的に判断している.なかでも年齢要素では若年例に S,高齢者に EVARを基本方針にしている.今回,EVAR・Sそれぞれの周術期の経過を,年齢で分けて比較検討し,術式選択について考察した.【対象および方法】2006~2011年に待期的治療を行った AAA症例 205例を対象とした.手術時年齢は 47 から 94歳(平均 74歳)であった.このうち EVAR施行の 99例を 75歳未満(E1群)33例,75歳以上(E2群)66例に,S施行の 106例を 75歳未満(S1群)60例,75歳以上(S2群)46例に分け,手術・病院死亡,手術の合併症,入院期間,輸血頻度などを比較した.【結果】手術・病院死亡:E2群で 2例(血管損傷 1例,肺炎 1例),S2群で 3例(誤嚥性肺炎)を認めたが,E1,S1群では認めなかった.S2群の 3例は EVAR導入前の症例で,うち 2例は後方視的に見て EVAR不適当な例であった.死亡以外の術後近接期の問題:E1群 5例(15%)(創部治癒遅延 4例,脳梗塞 1例),E2群 6例(12%)(創部治癒遅延 3例,腹部合併症 2例,腎梗塞 1例),S1群 2例(3%)(イレウス 1例,下肢虚血後遺症 1例),S2群 8例(17%)(創部等感染等 4例,腹部合併症 2例,肺炎 1例等)に認め,それらは E2の 1例を除き,術後 21日以上の長期入院を要した.入院期間:施術から術後退院までの日数中央値は,在院死亡・他病のため入院期間を延長した例を除くと,E1群 9日,E2群 9日,S1群 12日,S2群 14日であり,E1・E2群間,S1・S2 群間で年齢による差はなく,S1・S2群が E1・E2群に比しやや長い傾向であった.しかし,術後 21日以上の入院を要した例は E1群 16%,E2群 8%,S1群 3%,S2群 19%と S1

群で長期入院が少数であった.術後輸血:輸血を要した例は E1群 13%,E2群 20%,S1群 13%,S2群 55%であり,S2群が他群より多かった.しかし輸血に伴う副作用が問題となった例はなかった.EVARにおける Type IaまたはIbエンドリーク:E1群では 5例(15%),E2群では 6例(9%)に生じた.【考察】EVAR導入により術後入院期間の短縮が得られたが,合併症の頻度は S1群で最も低く,S2群で高い傾向にあった.AAAに対しては若年者に S,高齢者にEVARを行う基本方針の正当性が示された.今後はとくにEVAR不適当症例に対する高齢者 Sの成績向上の対策が重要であると思われた.

O30-4腹部大動脈瘤に対する治療法選択 ─年齢別・周術期問題点からの考察─

関西労災病院 心臓血管外科 1

関西労災病院 循環器内科 2

三浦 拓也○ 1,井上 和重 1,横田 武典 1,岩田  隆 1

戸田 明仁 1,上松 正朗 2,飯田  修 2,土肥 智晴 2

南都 清範 2

【背景と目的】市販 deviceの導入以後,当科では 75歳以上の腹部大動脈瘤(AAA)患者では EVARを第一選択とするとともに,新規 deviceの導入や手技の工夫・症例経験の蓄積によって解剖学的適応に関しても徐々に拡大を図ってきた.直近 1年の我々の AAA症例の治療法選択が妥当であったか,retrospectiveに検討した.【対象】2011年 11月~2012年 10月に当科で治療を行った待期的腹部大動脈瘤104例【方法】対象を開腹手術で治療した群(O群;n=59)とEVARによる治療群(E群;n=45)に分け,1)術後早期合併症,2)V(p)-possum score(VPS)および Glasgow Anuerysm

Score(GAS),3)「High risk患者」(VPS≧ 18 and/or GAS≧78と定義)における術後早期成績,について比較検討した.【結果】性別,瘤の部位,心拍出率,一秒量に有意差を認めなかったが,平均年齢は E群で有意に高かった(O群 vs E

群 69.8±6.0歳 vs 77.8±6.0歳;p< 0.0001).開腹手術の既往は O群で 13例,E群で 9例(4例が 74歳以下)であった.併存疾患に関しては E群で高脂血症,脳血管障害の有病率のみ有意に高かった.リスクスコアは VPS(18.3±3.7

vs 21.8±4.1;p< 0.0001)および GAS(79.2±11.0 vs 90.8±10.9;p< 0.0001)ともに E群で有意に高く,「high risk患者」の割合も E群で有意に高かった.それにも関わらず,術後合併症発生率は患者全体と「high risk患者」に限った場合のいずれでも両群間で有意差は認めなかった.【考察】複数のRCTの結果から EVARが早期成績に優れることは知られている.今回の検討では「high risk患者」がより多く EVAR

で治療された結果,O群と E群で術後早期成績に差を認めなかった.現時点では解剖学的理由から EVARを断念せざるを得ない「high risk症例」も今後は治療対象とすることができれば,更なる AAA治療成績の向上が得られると考える.一方,長期予後に関しては,とくに Hostile abdo-

men症例などで比較的若年者に EVARを施行した症例に関して懸念が残る.【結論】我々の治療選択基準は術後早期成績の向上の観点から妥当であった.長期成績に関しては今後の観察による検討が必要である.

O30-3EVARか Openか ~当科における AAA治療選択の現状に関する後ろ向き検討~

名古屋大学 血管外科

杉本 昌之,籾田  葵,徳永 晴策,小山 明男 ○宮地 紘樹,高橋 範子,渡辺 芳雄,井原  努

児玉 章朗,成田 裕司,山本 清人,古森 公浩

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 381

305

【背景】腹部大動脈瘤(AAA)に対する治療として,腹部大動脈ステントグラフト治療(EVAR)の優位性が報告されているが,大動脈瘤破裂(RAAA)に対する報告も散見される.【目的】当院における RAAAに対する EVARの成績を開腹手術と比較検討した.【方法】2009年 3月から 2012年 10

月までの当院に搬送された RAAA21例についてステントグラフト内挿術を施行した 6例を SG群,開腹手術を施行した 15例を OS群として比較検討した.当院では RAAA

に対してステントグラフト内挿術を考慮する際に(1)年齢(2)開腹手術歴(3)大動脈の形態(4)血行動態が安定しているか(デバイスが準備できるまでの時間,thin sliceで腹部CT撮影されていない場合は CT再撮影の時間などを考慮)(5)体型を判断した上で施行している.【結果】術前状態(ショックの有無,Hb,Ht),既往,出血量,在院日数,術後合併症に関して有意差を認めなかった.患者の到着時間から手術開始時間までは,SG群:147.5±99.4分,OS群:81±33.3分(P=0.16)であった.手術時間は SG群:188.3±96.3分,OS群:211.2±74.3分(P=0.6),死亡症例は SG群で 1例(開腹手術へ移行,腸管虚血・出血傾向を呈した症例),OS群で 1例(術前からショックの症例)を認めた.在院日数は SG群で 12±4日,OS群で 12.9±5.3日(P-0.69)であった.SG群において,TypeIIエンドリークを 3例に認めた.【結語】有意差は認められなかったが,SG群は,開腹手術と比較し,手術時間は短い傾向にあったが,デバイスの準備などを含む,患者到着から手術開始までに時間を要する傾向にあることが示唆された.SG群で,瘤の拡大や貧血は認めないものの,TypeIIエンドリークを認めた症例が高率であった.エンドリークを認めた症例の中で,2例は高齢(89歳,93歳),1例は肥満(BMI:33,体重:107kg)の症例であった.RAAAに対するステントグラフト内挿術は,救命に関しては有効性が示唆されたが,今後も予後についての観察,適応についての慎重な検討が必要である.

O30-6腹部大動脈瘤破裂に対する緊急手術 ─ステントグラフト内挿術の検討

イムス葛飾ハートセンター 心臓血管外科

鈴木 伸章,吉田 成彦,田鎖  治,金村 賦之 ○加藤 一平,清家 愛幹,古畑  謙,月岡 祐介

中原 嘉則,伊藤雄二郎,細山 勝寛

【目的】EVARの導入により腹部大動脈瘤の手術適応は拡大傾向にある.一方で EVARにおいては造影剤使用による腎機能障害が懸念される.今回,腹部大動脈瘤術前後の腎機能の推移について開腹手術と EVARとの比較を中心に検討した.【対象】2007年以降の腹部大動脈瘤(腸骨動脈瘤を含む)手術 100例を対象とした.術式は開腹人工血管置換術(Open群)40例(男:女= 33:7),EVARは 2010年に導入し,60例(男:女= 56:4)であった.術前透析症例,破裂緊急症例は除外した.腎機能は年齢および血清クレアチニン値で算出される GFR値について,術前,術後 1週間の最低値,術後半年から一年のフォロー時最低値で比較検討した.手術時年齢は Open群 71±8歳,EVAR群 73±7歳(N.S.).術前 CKD stage II(GFR60~89),III(30~59),IV(15~29)は Open群(II:III:IV= 16:22:2),EVAR群(II:III:IV= 33:26:1)であった(χ2:N.S.).EVAR群での造影剤使用量は 71±30mlであった.【結果】術後 1週間の CKD stageは術前に比し,EVAR群で,不変ないし改善:47,悪化:13であった.Open群で,不変ないし改善:30,悪化:10であり,両群間で有意な差を認めなかった.また術後 1年以内に CKDstageV(GFR15未満)となった症例はEVAR群 2名(うち 1名透析導入),Open群 2名で,両群間で有意差はなく(χ2:N.S.),4名とも術前 CKDstageIIIであった.両群とも術前 CKDstageIIの症例には一年以内にstageIV以上に悪化した症例は認めなかった.EVAR後の透析導入例を経験し,術前 CKDstageIII以上(GFR60未満)の症例においては CO2造影を行うなど造影剤削減に努めている.【結論】AAA術後の腎機能障害の発生は,開腹手術群と EVAR群の比較でほぼ同等であり,術前腎機能低下症例においても EVARの非適応理由にはなりにくいと考えられた.しかしながら CKDstageIII以上の症例では,腎機能悪化が懸念され,造影剤使用の削減など,十分な腎保護に努めるべきと考えられた.

O30-5腹部大動脈瘤術後腎機能の検討 ─開腹手術と EVARの比較─

千葉大学医学部 心臓血管外科

石坂  透,黄野 皓木,石田 敬一,渡邉 倫子 ○田村 友作,阿部真一郎,若林  豊,焼田 康紀

松宮 護郎

382 日血外会誌 22巻 2号

306

【目的】腹部大動脈瘤 EVAR後のスクリーニング検査として造影 CTがゴールドスタンダードとされているが,腎不全の患者や造影剤アレルギーの患者には施行できない.主に肝腫瘍検出に使用される SPIOは鉄代謝経路で排泄されるので,腎不全の患者にも使用できるとされる.SPIOを用いた dynamic MRIが EVAR後のエンドリークの検出において造影 CTの代替検査になりうるかを検討した.【方法】ナイチノール性ステントグラフトで EVARが施行された連続 23人の患者を対象とした.術後 4日目に造影 CT

を撮像し,その約 2日後に SPIO造影 dynamic MRIを撮像した.両モダリティーのエンドリークの検出数,観察者間一致率,観察者内一致率,モダリティー間の一致率を検討した.一致率の検討には κ検定を用いた.【成績】エンドリークは 23例中 11例にMRI,もしくは CTいずれかのモダリティーで検出された.全例 type IIエンドリークであった.11例中 10例は SPIO造影 dynamic MRIで検出され,8

例は造影 CTで検出された.うち 3例はMRIのみで検出され,1例は CTのみで検出され,MRIの方がより多くのエンドリークを検出できた.観察者間一致率(κ=0.91,95

%CI: 0.74-1.00),観察者内一致率(κ=1.00)共に高い一致率を示した.モダリティー間の一致率は観察者 A(κ=0.63,95%CI: 0.32-0.94),観察者 B(κ=0.62,95%CI: 0.29-0.95)と中等度の一致率であったが,SPIO造影ダイナミックMRIの方がより多くのエンドリークが検出されたためと考えられた.【結論】SPIO造影 dynamic MRIは観察者間,観察者内一致率が高く,かつ造影 CTよりも多くのエンドリークが検出できる可能性があり,CTの代替検査になりうると考えられた.

O32-2SPIO造影MRIによる EVAR後エンドリークの検出 ―造影 CTとの前向き比較試験

奈良県立医科大学 放射線科

市橋 成夫,丸上 永晃,田中 利洋,岩越 真一 ○北野  悟,野儀 明宏,吉川 公彦

【背景】担癌患者に対する大血管手術において,手術順序,アプローチ,腫瘍進展,腫瘍出血,感染など多くの問題点があり,手術戦略に工夫を要する.今回,われわれは当科で経験した大腸癌合併腹部大動脈瘤症例を検討したので報告する.【対象】2002年 4月以降の大腸癌合併腹部大動脈瘤症例 15例(男:女 =15:0,年齢 79±6歳)を対象.手術は,大腸切除+リンパ節郭清及び腹部大動脈人工血管置換術であった.平均フォローアップ期間は 52±34週.【結果】手術順序は,腫瘍進展,感染を避けるため大腸癌手術を先行(11例)させることを基本戦略とし,瘤径 7cm以上の腹部大動脈瘤は動脈瘤手術を先行させた.アプローチは,腫瘍進展,感染を避けるため,癌部位の対側の後腹膜アプローチ(12例,左側 6例,右側 6例)を基本方針とし,経腹膜アプローチは 3例(大腸癌術後 3年以上が経過:2,大腸癌の存在の未知:1)に行った.6例で下腸間膜動脈再建が行われた.手術死亡,人工血管感染などの重篤な感染症は認められず,全例軽快退院した.大腸癌部位は盲腸:1,上行:5,下行:2,S状:2,直腸:5.大腸癌病期は I:7,II:2,III:5,IV:1であった.遠隔期において,大腸癌再発により 3例を失った.他の遠隔死亡は,敗血症:2,脳梗塞:1,肺炎:1であった.遠隔死因に関して,年齢(p=0.34),先行手術(p=0.13),下腸間膜動脈再建(p=0.71)などの因子において有意ではなかった.5年生存率は全体:62%で,大腸癌病期 I,IIは71%,III,IVは42%(p=0.04)であった.【結論】大腸癌合併腹部大動脈瘤手術例において,大腸癌病期が最も強い予後因子であった.個々の症例に応じたきめ細かな治療戦略が重要であり,われわれの経験例から得たこれらの治療戦略及び工夫の詳細について報告する.

O30-2大腸癌合併腹部大動脈瘤症例の検討

兵庫県立淡路病院 心臓血管外科

森本 喜久,杉本 貴樹,吉岡 勇気,増永 直久○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 383

302

【背景と目的】ステントグラフト内挿術(EVAR)の特有の合併症としてエンドリーク(EL)がある.EVAR術後における瘤縮小のためにはELのない瘤内血栓閉鎖が重要である.ELの診断のためには複数回の造影 CTや血管造影が必要となる.造影剤や被爆による患者負担,経済負担などを考慮すると,効率のよい術後検査が望まれる.今回われわれは血栓化マーカーとして D-dimer,FDPに着目した.周術期,術後外来時に造影 CTと共に D-dimer,FDP測定を行いエンドリークマーカーとなりうるか検討した.【対象と方法】2011年 6月 ~連続 EVAR施行,1)山形大学医学部附属病院 18例,2)日本海総合病院 25例,計 43例を対象とした.除外項目は開腹移行,大動脈解離,深部静脈血栓合併例とした.造影 CTは動脈相,静脈相の 2相で撮影し,術前,術後(1週,1,6,12ヶ月)で施行.瘤径 3mm以上の変動を有意とした.D-dimer,FDPは術前,術当日,術後(1,3,7日,1,3,6,12ヶ月)で測定し,測定装置は施設 1)三菱化学メディエンス社 ACLTOP(基準値 D-dimer0.1~0.9μg/

ml,FDP0.1~4.9μg/ml),施設 2)シスメックス社コアグレックス 800(基準値 D-dimer1.0μg/ml以下,FDP5.0μg/ml以下)を使用した.EL残存-非残存群,瘤径増大-不変-縮小群に分けて検討した.【結果】施設 1)18例(平均 74.3±2.1歳,男:女 =16/2例,AAA/腸骨瘤 =16/2例,破裂 /切迫破裂 =0/1例,最大短径 43.6±1.5mm,Excluder/Power-

Link=15/3例,内腸骨動脈コイル塞栓 7例(両側 1例),中枢側ステント追加 4例,瘤関連死亡なし).EL残存(術後6ヶ月まで)は 9例,すべて Type2(IMAのみ 2例,腰動脈のみ 5例,IMA+腰動脈 2例)であった.EL残存群において D-dimer,FDP共に術前,術当日,術後(1,3,7日,1,3

ヶ月)の値が有意に高値を示した(p< 0.05).瘤径増大を示した症例はなく,瘤縮小は 6例に認めた.瘤縮小群において D-dimer,FDP共に術前,術当日,術後(1,3,7日,1,3ヶ月)の値が少ない傾向を示した.施設 2)25例(平均 75.5

±1.6歳,男 /女 =23/2例,AAA/腸骨瘤 =21/4例,破裂 /

切迫破裂 =3/1例,Excluder/Zenith/Endurant=20/1/4例,内腸骨動脈コイル塞栓 13例(両側 2例),瘤関連死亡なし).EL残存(術後 1ヶ月まで)は 6例,すべて Type2であった.EL残存群の術後 1ヶ月の D-dimer,FDPが有意に高値を示した(p< 0.01).【結語】EVARにおいて術前後の D-dimer,FDP値はエンドリークマーカーとなりうると考える.

O32-3EVARにおける D-dimer,FDP測定の有用性 ~エンドリークマーカーとなりうるか?~

山形大学医学部 外科学第二講座 1

日本海総合病院 心臓血管外科 2

水本 雅弘○ 1,内田 徹郎 1,山下  淳 2,黒田 吉則 1

宮崎 良太 1,前川 慶之 1,金  哲樹 1,貞弘 光章 1

島貫 隆夫 2

【緒言】我々は,Endurant Stentgraft Syste(Endurant)を用いたEVARの成績を報告する.【対象と方法】対象は 2011年 11

月から 2012年 10月の間に Endurantを用いて治療を受けた 60例(男性 50例,女性 10例),平均年齢 74.4±9.5歳(50

~90歳)であった.術前診断は,真性瘤 58例(総腸骨動脈瘤 7例含む),解離性大動脈瘤 1例 破裂 1例で,平均最大瘤径 51.1±10.5mm,(31~84mm)であった.評価項目は術後 6カ月までのエンドリークの有無と瘤縮小率とした.また術後 1年までの動脈瘤関連死亡と再治療回避率を Ka-

plan Meier法を用いて評価した.【結果】単独ステントグラフト(SG)内挿術は 41例,併用した血管内治療は経皮的血管形成術 7例,内腸骨動脈コイル塞栓術 12例であった.平均手術時間 158.2±17.2分 平均出血量 185.4±89.4ml,技術的成功は 98.3%であった.術直後の確認造影にてType1,Type3エンドリークは認められず,Type2エンドリークを 4例,Type4エンドリーク 46例に認めた.術後 6

カ月の造影 CTを施行しえた 28例において 5mm以上の瘤径の縮小は 10例(35.7%)にみられ,平均して 9.1±2.6mm(6

~13mm)であった.瘤径が変わりないのは 18例(64.4%)であり,5mm以上の拡大を来たした症例はみられなかった.同時期のエンドリークは Type2エンドリークのみ 6例(21.4%)にみられた.術後 1カ月で脚閉塞を 1例に認め,脚の追加留置を行った.術後 1年までの瘤関連死亡は 0%,再治療回避率は 98.3%であった.【結語】Endurantの成績は満足できるものであった.あくまでも推測の段階であるがこのデバイスの特徴である Type4エンドリークが多いこと,つまりは瘤内圧が比較的高いまま続く事が,Type2エンドリークの予防につながり,遠隔期の瘤径拡大の軽減につながる可能性が示唆された.

O32-2Endurant Stentgraft systemを用いた EVARの成績 ~エンドリークと瘤縮小率の観点から~

聖マリアンナ医科大学 心臓血管外科 1

聖マリアンナ医科大学 放射線医学講座 2

川崎幸病院大動脈センター3

千葉  清○ 1,西巻  博 1,小川 普久 2,桜井 祐加 1

慮  大潤 1,小野 裕國 1,安藤  敬 1,北中 陽介 1

近田 正英 1,阿部 裕之 1,幕内 晴朗 1,守屋 信和 3

西村 潤一 3,山本  晋 3

384 日血外会誌 22巻 2号

302

腹部大動脈瘤に対するステントグラフト内挿術(endovas-

cular aneurysm repair; EVAR)後に type2 endoleakを有する症例では瘤径拡大のため追加治療が必要となることがある.今回我々は下腸間膜動脈からの type2 endoleakに対して腹腔鏡下下腸間膜動脈(IMA)結紮術にて改善を認めた 1

例を経験したので報告する.【症例】71歳男性.上行結腸癌術後経過観察中の方で,2011年の CTにて腹部大動脈瘤及び両側内腸骨動脈瘤を指摘され当院紹介受診となった.高齢,慢性腎不全(Cre = 4.02)及び開腹手術既往(右半結腸切除)のため,左右の内腸骨動脈をそれぞれコイル塞栓した後に,腹部大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を施行する 3期分割治療を行う方針となった.2011年 5月左内腸骨動脈をコイル塞栓,2011年 6月に右内腸骨動脈をコイル塞栓施行した.そして,2011年 7月に腹部大動脈瘤に対して Gore Excluderを使用して EVARを施行した.術中にて type1 endoleakを認めたため Aortic Extenderを追加挿入の上,バルーンにて圧迫し終了とした.術後外来でのフォローCTにて,type1または type2の endoleakが疑われ,瘤径の拡大(術前 42mm→ 46mm)を認めた.また,この間慢性腎不全の進行にため血液透析が導入された.精査目的に血管造影を施行したところ,上腸間膜動脈から中結腸動脈・下腸間膜動脈を介して逆行性に瘤内への造影剤流入を認め,type2 endoleakと判断した.マイクロカテーテルによるコイル塞栓は困難を極め断念し,外科にて腹腔鏡下下腸間膜動脈結紮術を施行する方針とした.手術は 5ヶ所のポート孔から腹腔鏡下にて施行した.手術歴および大動脈瘤による隆起及び炎症による癒着を最小限剥離しながら中結腸動脈を中枢側に向かって剥離し下腸間膜動脈の根部を確認後,ラパロクリップシングル 12mmにて 2重結紮し切離した.腸管の色調に変化ないことを確認した上で閉創.術後腸管虚血,イレウス等合併症なく退院となった.術後の CTフォローアップにて endoleakの解消を認めた.【結語】EVAR後の type2 endoleakに対する治療には血管内治療(コイル塞栓術)が一般的であり,開腹手術を要した報告は少ない.消化器外科領域での腹腔鏡下手術が一般化した現在,EVAR後の下腸間膜動脈由来の type2 endoloakに対する腹腔鏡下下腸間膜動脈結紮術は極めて低侵襲であり有用な方法と考える.

O32-5EVAR後の下腸間膜動脈からの Type2 endoleakに対する治療戦略

国立国際医療研究センター 心臓血管外科

泉二 佑輔,保坂  茂,藤岡俊一郎,戸口 幸治 ○寺川 勝也,陳   軒,有村 聡士,森村 隼人

秋田 作夢,福田 尚司

腹部大動脈瘤に対する経カテーテル的ステントグラフト内挿術(EVAR)後に type II endoleakが残存する症例の対応については苦慮するところである.当院では type II endoleak

残存症例でかつ瘤径の拡大を認める症例に対しては,原則原因分枝のコイル塞栓を第一選択とすることで対応している.そこで今回,腹部大動脈瘤に対する EVAR後に type

II endoleakを認めた症例において,大動脈瘤がどのように変化していくか,また原因分枝のコイル塞栓の有効性につき検討した.【対象及び方法】2007年から 2009年まで当科にて腹部大動脈瘤に対して行った径カテーテル的ステントグラフト内挿術(EVAR)205例中,その後の follow CTにて Type II endoleakを認め,かつ 1年以上後の MDCTをfollowできた 65例を対象とした.平均年齢 75.6±7.7歳,男性/女性:16/49,術前平均最大瘤径 50.0±6.2mmであった.術前の CT及び最新の follow CTにおいて瘤の最大横径を計測した.5mm以上の増大を増大(+)と定義し,瘤径の増大するリスク因子について解析した.また分枝コイル塞栓の有効性を検証するためコイル塞栓施行症例において,コイル塞栓施行前瘤径拡大率(mm/月)と施行後瘤径拡大率を比較した.【結果】平均 follow up期間は 36.3±14.9ヶ月であった.Type II endoleakが原因と思われる瘤破裂を 1例に認めたが,第 4腰椎動脈をコイル塞栓することで救命し得た.瘤拡大に対し,12例に下腸間膜動脈あるいは腰動脈のコイル塞栓を施行し,CTにて原因分枝を特定できなかった 1例において後腹膜アプローチにより直視下に腰動脈からの endoleakを止血した.Follow中の CTにおいて術後に認めなかった type II endoleakが出現した症例が 4例,術後 CTにおいて認めた type II endoleakが消失した症例を 8例に認めた.直近の CTにおける瘤の変化は増大 /変化なし /縮小:24例(37%)/29例(45%)/12例(18%)であった.瘤径の拡大するリスク因子につき解析すると術前の大動脈径が唯一の因子であった(P=0.0105).またコイル塞栓前の瘤径拡大率は平均 0.21mm/月,塞栓後は平均0.08mm/月であった.【結語】腹部大動脈瘤に対する EVAR

後に残存 type II endoleakを認めた症例のうち,37%がその後拡大を認め,術前瘤径が拡大のリスク因子であった.原因分枝のコイル塞栓は瘤径の拡大を抑制するための効果的な手技と考えられた.

O32-4腹部大動脈瘤における type II endoleakと瘤径変化の関係 ─コイル塞栓術の有効性─

大阪大学 心臓血管外科 1

大阪大学 低侵襲循環器医療学講座 2

渡辺 芳樹○ 1,白川 幸俊 2,倉谷  徹 2,鳥飼  慶 1

島村 和男 1,柚木 純二 1,阪本 朋彦 1,四條 崇之 1

前田 孝一 1,上野 高義 1,戸田 宏一 1,澤  芳樹 1

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 385

302

【背景】鼠径部における血管外科手術後のリンパ漏はまれな合併症ではない.しかし,感染を併発した場合,人工血管の摘出を余儀なくされることが多い.一方,Vacuum-as-

sisted closure(VAC)療法は様々な外科領域の難治性の創感染に対する治療として普及してきた.今回,われわれはリンパ漏を伴った鼠径部人工血管感染に対し,VAC療法と縫工筋弁充填を施行し,人工血管温存とともに速やかな創治癒が得られたので報告する.【症例】症例は 78歳,男性.腹部大動脈瘤に対し,Y型人工血管置換術を施行した.両側の腸骨動脈に著しい石灰化を認めたため,末梢側は両側とも大腿動脈に吻合した.数日後,右鼠径部の創からリンパ液の漏出を認めた.リンパ液の流出点は同定できず,再度閉創した.しかし,数日後創部の膨隆と高熱を認めた.人工血管感染を疑い,再度開創したところ,乳白色の膿汁が噴出した.創培養では Enterobactor aerogenesと Entero-

coccus faecalisを検出した.抗生物質は ABKを 7日間,MEPMを 29日間使用した.2日間開放創とした後,VAC

療法を導入した.創を十分に開放し,人工血管と大腿動脈を非固着性シリコンガーゼで被覆保護して吸引した.開始当初は 1日に約 100mlの排液を認めたが,7日でリンパ漏は消失し,創内清浄化とともに創培養も陰性化した.VAC

療法は 25日間行った.人工血管の摘出は回避できたが,周囲には大きな死腔が残存しており,VAC療法単独での死腔閉鎖に長期間を要すると判断し,縫工筋弁の充填を計画した.初回手術から 6週間後に手術を行った.右大腿外側に約 6cmの斜切開を加えた.縫工筋の外側縁と後面を剥離して,内側縁からの血流を温存し,中枢端で離断した.末梢端を支点に内翻させた縫工筋弁を鼠径部の創部に導き(twist rotation flap法),人工血管周囲の死腔に充填した.創治癒は問題なく,第 15病日に退院し,感染の再燃を認めていない.【結語】リンパ漏に対する VAC療法の有効性は確立されていないが,良好な肉芽形成によるリンパ液の減少効果の報告があり,本症例も短期間でリンパ漏が消失した.VAC療法はリンパ漏治療の有効な選択肢になると期待され,鼠径部開放創の人工血管周囲の死腔への縫工筋弁充填は入院期間短縮に有効な局所補助療法であると考える.

O32-2リンパ漏を伴った鼠径部人工血管感染―VAC療法と縫工筋弁充填による人工血管温存

山形大学医学部外科学第二講座(循環器・呼吸器・小児外科学)

内田 徹郎,金  哲樹,前川 慶之,宮崎 良太 ○黒田 吉則,水本 雅弘,安本  匠,吉村 幸浩

貞弘 光章

【はじめに】糖尿病,透析患者の増加に伴い重症虚血肢症例が増加し,すでに潰瘍・壊疽を来たした状態(Fontaine IV度)から治療を開始する機会が増えている.このような症例ではいかに大切断を回避して救肢するかが求められる.当院では,KCI社の vacuum assisted closure(以下 VAC)治療システムを導入して以降,Fontaine IV度の重症虚血肢症例に対して良好な結果が得られているので報告する.【症例 1】74歳男性,左第 1趾壊疽.左膝下膝窩動脈 -後脛骨動脈bypassを施行後,壊死組織の除去を続けるも治癒不良にてVAC治療システムを装着.以後,VAC治療システムの交換時に壊死組織の除去を行った結果,創面に良好な肉芽が形成され,3週間後に植皮術を施行して治癒が得られた.【症例 2】83歳男性,右第 4・5趾壊疽.右大腿動脈 -膝上膝窩動脈 bypass・膝下膝窩動脈 -前脛骨動脈 bypassおよび右第 4・5趾切断を一期的に行い,VAC治療システムを装着.切断端に良好な肉芽が形成され,4週間後に植皮術を施行して治癒が得られた.【症例 3】81歳男性,右第 1趾壊疽および左足広範囲(踵側 1/3を除く全域)壊疽.大腿動脈交叉 bypass・左大腿動脈 -膝上膝窩動脈 bypassを施行後,皮膚潅流圧(SPP)が良好であったため distal bypassは行わず,両足の小切断(右第 1趾切断 /左 Chopart関節切断)を行い,VAC治療システムを装着.切断端に良好な肉芽が形成され,4週間後に植皮術を施行して両足の治癒が得られた.【症例 4】70歳男性,左第 2~5趾壊疽.左膝下膝窩動脈 -後脛骨動脈 bypassおよび左第 2~5趾切断を一期的に行い,VAC治療システムを装着.切断端に良好な肉芽が形成され,4週間後に植皮術を施行して治癒が得られた.【結語】現在の下肢潰瘍・壊疽症例に対する当院の治療戦略は,1.感染コントロール 2.血行再建術(distal bypassもしくは SPP≧ 40 mmHg)3.壊死・感染組織の摘除 4.VAC治療 5.植皮術 である.血行再建術および壊死・感染組織摘除後の創面に対する VAC治療は,良好な肉芽を形成し,組織欠損を最小限にすることが可能である.

O32-2下肢潰瘍・壊疽症例に対する VAC治療システムを用いた治療戦略

広島市立安佐市民病院 心臓血管外科

小澤 優道,橘  仁志,児玉 裕司,須藤 三和 ○片山  暁

386 日血外会誌 22巻 2号

320

【はじめに】鼠径部大腿動脈感染に対する感染制御のために,感染部を迂回する非解剖学的血行再建である閉鎖孔バイパスは有用な治療法の一つである.今回我々は,大腿動脈感染に対し閉鎖孔バイパスを施行した 2症例を経験したので報告する.【症例 1】87歳男性.他院にて腹部大動脈瘤,左腸骨動脈閉塞に対し,Y字型人工血管置換術(大動脈-右総腸骨動脈-左総大腿動脈)を施行された.術後,左鼠径創部にリンパ漏を認め,結紮術を数回施行されたが改善せず,感染を合併したため紹介となった.鼠径部は感染した吻合部が露出していたため,緊急にて手術を施行した.まず吻合部および感染人工血管を切除し,解放創とした.次に前回創で再開腹し,人工血管左脚には肉眼的に感染を認めなかったため,新たな人工血管を用いて中枢側は左脚と端端吻合,末梢側は閉鎖孔を通し浅大腿動脈と端側吻合とした.術後感染の再燃なく経過良好である.【症例 2】65

歳男性.狭心症に対し左大腿動脈アプローチ(7Frシース使用)にて経皮的冠動脈形成術(PCI)が施行された.術後止血デバイスを使用されたが,術後 6日目に左鼠径部膨隆を認め,感染性血腫と診断され切開排膿術が施行された.しかし,術後 18日目に再度感染徴候を伴う鼠径部膨隆を認め,感染性仮性動脈瘤と診断された.エコー下での圧迫,および血管内治療でのバルーン拡張による止血が試みられたが根治は得られず,外科的加療目的に当科紹介となった.PCI施行後 25日目に人工血管を用いた閉鎖孔バイパス術(開腹下で外腸骨動脈-浅大腿動脈バイパス),および大腿動脈結紮術を施行した.術後創トラブル認めず経過良好である.【まとめ】今回,閉鎖孔バイパス術を施行し鼠径部感染制御が可能となり良好な経過を辿った 2例を経験した.今後カテーテル治療のさらなる普及により,症例 2と同様な症例に遭遇する機会も増加していくと推測される.その対処法としての閉鎖孔バイパス術は有用な選択肢の一つであり,血管外科医として習熟しておくべき手技と考える.

O32-4術後大腿動脈感染に対し閉鎖孔バイパスを施行した 2症例

済生会横浜市東部病院 血管外科 1

平塚市民病院 2

慶応義塾大学 3

衛藤 英一○ 1,渋谷慎太郎 1,林   忍 1,長島  敦 1

藤村 直樹 2,田中 克典 3,尾原 秀明 3,北川 雄光 3

【はじめに】閉塞性動脈硬化症に対する FF bypass,FP by-

pass術後の人工血管感染は最も重大な合併症の一つである.かつては感染人工血管除去を余儀なくされていたが,最近は持続陰圧吸引療法(Vacuum Assisted Closure;VAC)により,人工血管を温存した治療法が報告されてきている.当科でも 3例の FF bypass術,FP bypass術後の人工血管感染を経験し,VACにより人工血管を温存することができたので報告する.【症例 1】70歳男性.右浅大腿動脈閉塞に対し右 FP bypass術を施行したが,術後 47日目に大腿部の発赤,発熱,炎症反応上昇を認め,膝窩動脈吻合部の創部から排膿を認めた.CT上膝窩動脈吻合部周囲に ef-

fusionを認め,人工血管周囲膿瘍の診断で,創部洗浄,デブリードメントの後,VACを導入した.創部培養からはcoagulase negative Staphylococcusが検出されたが,次第に陰性化した.VAC導入後 31日に人工血管を大腿四頭筋内に埋没させる手術を施行し,VAC導入後 37日で VACを中止,その後自宅退院となった.【症例 2】83歳男性.当院耳鼻科で左頬粘膜癌術後に,左下肢急性動脈閉塞を発症し,左下肢血栓摘除術を施行したが,左鼠径部に創感染を併発し洗浄,デブリードメントを施行した.術後も CTにて左総腸骨動脈から外腸骨動脈にかけ広範囲の閉塞病変を認め,左下肢の色調不良と安静時痛が持続したため,感染が落ち着いた段階で FF bypass術を施行したが,その 3週間後より左鼠径部に創感染を併発,創部培養からはMRSA

が検出された.38度台の発熱,WBC16200/μl,CRP22.1mg/

dlまで上昇,洗浄,デブリードメントを施行し,VACを導入した.その後,発熱,炎症反応も改善し,VAC導入後20日で VAC中止が可能となり,左頬粘膜癌頚部リンパ節転移のため,当院耳鼻科に再度転科となった.【症例 3】62

歳男性.TEVAR+右腸骨動脈ステント留置が施行されたが,4カ月後ステント閉塞を来たし,FF bypass術を施行した.術後 16日目に右鼠径部の創感染を発症,創部からはStaphylococcus aureusが同定された.術後 25日目に右鼠径部創部デブリードメントを施行した.人工血管が露出したが,VAC療法を開始し,経過中創部培養は ESBL produc-

ing Klebsiella pneumoniaeに変化したが,VAC開始後 52日目に VACを中止することができ,自宅退院となった.【まとめ】人工血管感染があっても,適切なデブリードメントおよび VACを利用し,経過中の創部の監視培養,全身の炎症反応,CT等の厳重な管理を行えば,人工血管をすることが可能であると考えられた.

O32-3術後人工血管感染に対し,持続陰圧吸引療法(VAC)が奏功した 3例

函館中央病院 心臓血管外科

佐藤 公治,佐藤 一義,本橋 雅壽○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 387

322

【目的】下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術(EVLA)は,保険収載後,急速に普及しつつあるが,標準術式である伏在静脈抜去術(抜去術)に劣らない結果を示している.しかし合併症が抜去術より少ないとは言い切れず,術後疼痛やつっぱり感などの違和感は抜去術より多いとする報告もあり,皮下出血も報告によっては高頻度である.疼痛や違和感の客観的評価は難しく,皮下出血は個体差の問題もある.そこで 1側は抜去術,対側は EVLA(ELVeS Laser:波長980nm)を施行した患者を対象に,各手技を比較した.【方法】評価の混乱を避けるため,初回手術例,一側ずつ手術例,大伏在静脈(のみ)手術例に限定した.対側肢が EVLA

不適応の理由は伏在静脈平均径が太い(10mm以上)ためであった.患者選択の結果,対象は 10例(男 3例,女 7例:59±12歳)となってしまい,統計学的評価は行っていない.抜去術は全例全身麻酔,EVLAは全例 TLAで 5例は静脈内麻酔を併用した.全例,瘤切除は TLA下に stab avulsion

technique により行い,術後 5日間抗生剤とロキソニン(2T,2×)を投与した.皮下出血に関しては術後 5~7日の外来受診日に観察.自覚症状は,術後 2週目に 1)術後疼痛はどちらが強かったか,与えられた鎮痛剤では不十分であったか,2)術後違和感はどちらが強かったか,3)どちらの治療がより快適であったか,4)どちらの治療がより満足を感じたか,に関しアンケート調査した.【結果】全例術後疼痛に差はなく,与えられた鎮痛剤以上の処置を希望する程の疼痛は無かったと回答.違和感は 5例が感じていたが,内4例が EVLAのほうが感じると回答.快適性を問う質問には,差はないが 8例,EVLAが 2例.逆に満足度に関しては,差がないが 7例,抜去術が 3例であった.なお皮下出血は抜去術全例,EVLAの 6例に見られたが,ELVAの方が軽度であった.両者とも,その他の治療を要する合併症はなかった.【考察】術後疼痛は問題ではなかったが,違和感は EVLAに多く,皮下出血は明らかに抜去術に多かった.快適性は若干 EVLAが,満足度は若干抜去術に高かったが,快適性は麻酔法の違いによるもの,満足度は重症の下肢に抜去術を行っていること,また患者が高齢のため創が小さいという EVLAの利点に対する評価が低いためと思われる.症例数の少ない検討ではあるが,抜去術でもEVLAでも合併症や満足度に大きな差はなく,ガイドラインに沿った両者の選択は妥当と思われた.

O33-2伏在静脈抜去術と下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術の治療満足度の比較

誠潤会城北病院 心臓血管外科

土田 博光○

【はじめに】人工血管移植後の吻合部瘤の報告は散見されるが人工血管自体が破綻した報告例は少ない.我々は液窩 -

両側大腿動脈バイパス術後 12年目に Gelsoft人工血管壁の破綻による仮性瘤を経験したので報告する.【症例】68歳,男性.【合併症】DM,HT.【現病歴】平成 5年 6月 ASOによる腹部大動脈̶両側総腸骨動脈閉塞に対し Y型人工血管置換術が施行されている.術後 6年目にグラフト閉塞による両下肢の急性虚血症状をきたしたため緊急入院し左腋窩̶両側大腿動脈バイパス術を施行,使用した人工血管はT字型の Gelsoft ERS(口径 8mm)であった.その後,平成18年に左下肢の跛行が増強してきたためグラフト左脚の部分置換と静脈パッチ形成を施行するなど,これまでに計4度の血行再建術を行っていた.【治療経過】平成 23年 7

月頃より左肋骨弓下のグラフト走行部に一致して圧痛と熱感並びに皮下の膨隆を訴え外来を受診した.グラフトの開存は良好で拍動もよく触知されたが,仮性瘤と思われる部位は,圧痛と熱感を伴い紡錘状に腫脹し拍動性腫瘤として触知した.人工血管壁の破綻を疑い造影CT検査を行うと,人工血管は最大径 21mmに拡張していたが造影剤の皮下組織への漏出は認めなかった.血管エコーでは仮性瘤内の乱流と部分的な拡張を認め人工血管の壁破綻と診断し,破裂防止目的で手術を行った.手術は全身麻酔のもと仮性瘤の直上と左季肋部,末梢側の 3か所に皮膚切開を加え,それぞれの部位で人工血管を露出し,中枢側は仮性瘤より10cm離れた部位で末梢側はバイパスグラフト分岐部より5cm頭側で切離し仮性瘤と共に摘出した.血行再建は直径10mm の Gelsoft グラフトを用いて再建した.【摘出標本と病理診断】肉眼的には仮性瘤の外側は光沢のある白色の結合式に覆われ,人工血管の内腔は円型(16X16mm)に打ち抜かれフィブリン塊を認めた.それ以外の部位にも小さな潰瘍形成を認めた.組織所見では正常部の内腔には人工血管繊維による束状集ぞくが帯状に見られたが,一部には人工血管壁が脱落し結合組織に置き換わっている所見が得られた.仮性瘤のところでは帯状繊維が消失し壁が薄くなり深部では硝子化変性に伴う線維性結合組織に置き換わり人工血管は破綻していた.【結語】Gelsoft グラフト(ERS)を使用した血行再建例で遠隔期に人工血管壁自体の破綻をきたした報告は本邦では初めてと思われるので考察を加え報告する.

O32-5Gelsoft 人工血管による腋窩―両側大腿動脈バイパス術後に発生した人工血管破綻の 1例

社会保険京都病院 外科

白方 秀二,浜頭憲一郎,小出 一真,岡山 徳成 ○大橋まひろ,真鍋嘉一郎,崔  聡仁,岩佐 信孝

能見伸八郎

388 日血外会誌 22巻 2号

322

【はじめに】2010年 6月波長 980nmELVeSレーザーが薬事承認され,2011年 1月下肢静脈瘤に対する血管内治療が保険収載された.現在保険診療として下肢静脈瘤レーザー治療(EVLA)が広く行われている.【目的】当院の最近 5年間の下肢静脈瘤手術を検討し,レーザー治療の位置づけを考察した.【対象】2007年 10月から 2012年 10月まで当科で施行した下肢静脈瘤手術 1897肢【方法】レーザー治療保険収載以前は大伏在静脈瘤に対し大腿部選択的ストリッピング(ST)を施行していた.腰椎麻酔下 Babcock法 STを標準術式とした.2008年 Stab avulsion法 STに変更,Invisi-Gripベインストリッパー(2009年薬事承認)も使用した.2006年レーザー器機の治験に参加,EVLA/17例を経験した.保険収載後の 2011年 2月から保険診療として径4-10mmの大伏在静脈瘤に対し 980nmELVeSレーザー/直射ファイバーによる EVLAを施行した.また波長 1470nmダイオードレーザー/ラディアル 2リングファイバーによる EVLAを治験で経験した.穿通枝は 3mm以上かつ逆流を描出できたものを結紮切離した.不全穿通枝部位に皮膚硬化/潰瘍のある症例は内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離(SEPS)を腰椎麻酔 STと組み合わせ施行した.下腿の瘤は一期的に stab avulsion で切除した.【結果】Babcock群,Stab avulsion群,Invisi-Grip群に手術時間や合併症に差はなかった.InvisiGrip ベインストリッパーは鼠径部 1ヵ所開創で ST可能だが静脈瘤径の細い症例にやや挿入困難を認めた.SEPSはマルチポートシステムにて 63肢に施行し,SEPS成功率 97.7%,潰瘍治癒率 95.2%と良好な成績であった.980nmELVeSレーザーによる EVLA 210例(219肢)施行した.平均手術時間 37分.再疎通 2例経験したが血流遮断率 99.1%,良好であった.EVLA症例数は保険収載に伴いストリッピング数を逆転して増加した.有害事象は出血斑,痛み/圧痛,経験した EHIT(Class2以上)は Class2;1例(0.46%)で重篤なものはなく安全に施行できた.本幹再発症例に対して ELVAが有用であった.また再疎通 2例は外来フオーム硬化療法で治療した.980nmELVeSレーザー/直射ファイバーと 1470nmダイオードレーザー/ラディアル 2リングファイバーによる EVLAを互いに 1肢ずつ異時性に施行した症例を 3例経験した.術後疼痛をVASスケールで評価した結果,それぞれ 1±0.5および 38±3と大きな差を認め,1470nmレーザーは出血斑も軽減した.近い将来,出血斑や痛みを伴わない保険診療のレーザー治療が期待できた.【結論】EVLAは安全で根治性の高い治療法であり現在の下肢静脈瘤手術の標準治療になり得ると思われた.

O33-3当院における最近 5年間の下肢静脈瘤手術の変遷とレーザー治療の位置づけ

JR仙台病院 外科

菅原 弘光,市来 正隆,蔡   景,鎌田 啓介 ○中野 善之

O33-2演題取り下げ

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 389

323

【目的】980nmによる Endovenous laser ablation(EVLA)が保険収載された 2011年 1月から 2012年 6月の 1年 6か月で血管内レーザー治療を行った 503例,584肢に対する成績を検討した.【対象】症例の内訳は男性 181例,女性 322例,平均年齢は 57.9歳(25-87歳).治療血管は大伏在静脈 512

本,小伏在静脈72本であった.主たる逆流源はSFJ,SPJで,2例は高位結紮術後の再発例であった.【方法】初診時に超音波検査を行い,手術適応を決定.全例日帰り手術で行い,局所麻酔(TLA)に静脈麻酔を併用し,穿刺もしくは小切開にて,上行性にカテーテルを挿入した.超音波検査で確認しながら,980nmELVeSレーザーを用い出力 8Wで血管内焼灼を施行した.【成績】術後約 1週間および 3-6ヶ月で超音波検査を含め診察し経過観察をした.閉塞率は 100%,静脈瘤に伴う自覚症状は改善した.主な術後合併症は,皮下出血,疼痛等であった.EHIT(endovenous heat-induced

thrombus)を 18例で認め,class1~2であり保存的に経過観察し,有症候性の肺塞栓症は認めなかった.【結論】術後経過は良好で,保険適応となったことで EVLAは低侵襲かつ安全な治療として確立されてきた.現在では標準的治療として今後さらに普及を目指していく.

O33-5当科における下肢静脈瘤血管内レーザー焼灼術(EVLA)の治療成績

両国あしのクリニック 1

東京医科歯科大学 血管外科 2

小泉 伸也○ 1,葛井総太郎 1,西澤 真人 1,猪狩 公宏 1

米倉 孝治 1,内山 英俊 1,豊福 崇浩 1,工藤 敏文 1

地引 政利 1,井上 芳徳 2,近藤 光一 1

【目的】2011年より本邦にて保険適応となった波長 980nm

レーザーによる血管内治療(EVLA)を施行した当院での症例を検討し,その初期成績・問題点を報告する.【対象・方法】2011年 9月より 2012年 10月までに,当院で EVLA

を行った大伏在静脈(GSV)に弁不全を有する一次性下肢静脈瘤症例 35例 44肢を対象とし,後ろ向きに検討した.レーザー装置は波長 980nmの半導体レーザー(ELVeSTMレーザー)を用い,超音波ガイド下に穿刺し,レーザーファイバーを挿入した.超音波ガイド下に穿刺困難な場合には膝部で小切開を置き GSVを露出し直視下に穿刺した.焼灼予定の全長に TLA麻酔後,浅腹壁静脈合流部より末梢でかつ SFJより 20mm以上離した位置よりレーザーファイバーを用手的に牽引しながらレーザー出力 10W,10mm/7

秒の速さで静脈を焼灼した.下腿の静脈瘤は目立つ症例の一部では Stub avulsionによる瘤切除も併施した.術前に空気容量脈波(APG)を下肢超音波と併せて施行.術翌日に超音波で GSVの閉塞の有無を確認後に退院し,その後は術後 1か月目での観察とした.【結果】男性 17人,平均年齢63.5歳,平均 BMI22.6であった.出血性素因は抗血栓療法継続のまま手術施行が 2例,血友病 1例であった.臨床的分類では C2:27肢・C4:17肢.平均手術時間は 70.5分,照射 GSV長は 28.8cm,平均照射エネルギーは 67.5J/cmであった.全例で DVT・EHITは認めず,皮膚熱傷は 1例 2

肢に軽度認めたが術後 1カ月で消失した.また,EVLAが誘因となったリンパ浮腫を 1例に認めた.皮下出血は 18

肢(40.9%)に認められたが,すべて術後 1カ月で消失した.全例術翌日の超音波で GSV焼灼部全長が閉塞していた.術中瘤切除を行わなかった 32肢について検討では,術後1カ月で下腿に静脈瘤を認めたのは 11肢(追加治療は全例で行わず.)で,認めなかった 21肢と比べ BMI・臨床的分類で,有意差は認めなかった.また術前に行った APGも比較したが,VFI・EF・RVFで有意差は認めなかった.【結論】ELVeSTMレーザーによる EVLAは安全で,出血性素因のある患者でも安全かつ確実に治療でき静脈瘤治療の第一選択と考えられる.手術時間に関しても当初は穿刺困難などで時間を要したが,症例の蓄積にて現在では瘤切除を加えても約 50分と短縮してきている.術中の静脈瘤切除に関してはレーザー後の静脈瘤の軽減が現時点では術前評価で予測できないため,静脈瘤が目立つ症例では Stub

avulsionで瘤切除も考慮が必要と考えるが今後の検討を要する.

O33-4当院での一次性下肢静脈瘤に対する血管内レーザー焼灼術の初期成績の検討

名古屋大学 血管外科

小山 明男,徳永 晴策,籾田  葵,宮地 紘樹 ○高橋 範子,渡辺 芳雄,杉本 昌之,井原  努

児玉 章朗,成田 裕司,坂野比呂志,山本 清人

古森 公浩

390 日血外会誌 22巻 2号

324

【はじめに】下肢静脈瘤には様々な愁訴があるが,浮腫を訴える患者は少なくなく QOL低下を招く一因となっている.当院では手術やレーザー治療などの根治治療の待機期間中に,症状の改善を目的に漢方薬である五苓散を投与し,多くの患者に浮腫症状が緩和されることを経験してきた.今回,五苓散の臨床的有用性について客観的評価を行った.【対象と方法】2012年 7月から 8月の間に外来受診した 74

例の下肢静脈瘤の患者のうち,自覚症状として浮腫を伴い(CEAP分類 C3以上),五苓散投与に同意を得られた 12例を対象とした.利尿剤や他の漢方製剤を服用している患者は対象から除外した.静脈瘤の診断は全例超音波検査で行い,患者の同意を得た上で五苓散(KB-17,6.0g/日,分 2)の投与を開始した.弾性ストッキングの併用は全例で行った.投与期間は 12週間とし,投与前後で下腿周囲径(膝蓋骨上周囲径,下腿最大周囲径,外踝周囲径),自覚症状(むくみ,痛み,冷え,倦怠感,しびれ,痒み,こむら返り)のVAS(Visual Analogue scale),静脈瘤重症度(CEAP分類),凝固系検査,血圧について調査した.なお,本研究のプロトコールは当院倫理委員会の承認を得た.【結果】1例が副作用(発疹)発現のため脱落となり,全 11例(男性 4例,女性 7例,平均年齢 65.2±7.9歳)が解析対象となった.投与前後において下肢周囲径では大腿部周囲径,下腿最大周囲径に有意な減少が認められた.自覚症状 VASではむくみ,冷え,倦怠感および症状の合計が有意に改善し,その他の症状においても改善傾向を認めた.静脈瘤重症度,凝固系検査については有意な変化は認められなかった.拡張期血圧に有意な上昇を認めたが臨床的に問題となるような変化ではなかった.【考察】五苓散は,水分代謝調節作用を有する漢方薬である.薬理作用として利尿作用を有するが脱水時には水分保持に働き,体内の水分偏重状態を是正する作用をもつ.近年はアクアポリン阻害作用を有するとの報告もある.今回の検討から,五苓散は下肢静脈瘤に伴う浮腫および付随する症状を改善することが確認できた.【結語】浮腫を伴う下肢静脈瘤に対する五苓散の投与は浮腫を改善し,患者の愁訴を軽減する可能性が示唆された.

O33-2下肢静脈瘤に伴う浮腫に対する五苓散の治療効果

済生会横浜市東部病院 外科(血管外科)1

慶應義塾大学 外科 2

林   忍○ 1,渋谷慎太郎 1,長島  敦 1,田中 克典 2

尾原 秀明 2,北川 雄光 2

血管内レーザー焼却術(Endovenous laser ablation:以下EVLA)は 2011年 1月本邦での保険適用後全国的に施行する医療機関が徐々に増加し,2012年 11月の時点で 160箇所を越えた.しかし,980nmELVeSレーザーでの手術後数日後から 2週間後までにつっぱり感を伴う疼痛を訴える患者が比較的多く認められ対処法に難渋する場合がある.本邦においては欧米とは異なる生活環境の違いから正座など膝を曲げる動作が多場面で必要となることが誘因と考える.そこで,当院では術翌日から患者自ら術後の下肢ストレッチを行うように指導し,症状発生予防や発生時の症状軽減を図っているので検討し報告する.対象は 2011年 2

月から対象は 2011年 2月から 2012年 10月までに当院でEVLAを施行した 1032例(男性 306例,女性 726例)1329

肢(右 633肢,左 696肢).治療対象は大伏在静脈 1145本,小伏在静脈 184本.患者平均年齢 65.8±11.2(歳)であった.2011年 10月下旬から本指導を開始した.ストレッチは大伏在静脈が治療対象の場合は立位で膝関節を最大限屈曲する方法で,小伏在静脈が治療対象の場合は腓腹部を引き延ばす方法で,1日に 2-3回,1~2週間継続し行うように指導した.本指導導入前後で術後疼痛について比較検討すると,導入前では全く疼痛が無かったのは 294肢(65.0%),1~2週間程度疼痛を訴えたのは 48肢(10.6%)であったに比し,導入後にはそれぞれ 594肢(67.7%),68肢(7.8%)となり,疼痛の程度も軽減していた.また,ストレッチが十分行えていない患者に疼痛をを訴えることが多く,再指導後に十分な励行が促されると疼痛が緩和する事象も多く認められた.以上から,血管内レーザー焼却術後に少なからず生じる伏在静脈長軸方向の縮小により生じていると思われるつっぱり痛さを予防または軽快へ導くために,術後のストレッチ指導を行うことにより術後経過を良好にすることができ得ることが示唆された.ただし,本治療後の疼痛のメカニズムは単一的な事象では説明できない場合もあり,成績に影響がでない程度の照射エネルギーの設定や調整も行いつつ,術後経過をよく観察しながら患者による術後管理指導や外用薬も含めた薬物療法を適切に行って行くことも重要だと思われた.

O33-6血管内レーザー焼却術後に生じる下肢つっぱり痛さに対する術後ストレッチの効果に関する検討

医療法人静かな凜脈の会まつもとデイクリニック

松本 康久○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 391

325

発症早期の多彩なエコー所見を経験したので報告する.45

歳,男性.2010/12/15に左下肢の違和感・腫脹で発症.12/16に受診した.既往に,ガストリノーマ,虫垂炎,小腸穿孔,腹壁瘢痕ヘルニアにて他院での手術歴がある.12/16の CTにて左膝窩静脈・ヒラメ静脈洞に血栓像,iliac

compression syndromeの所見を認めた.入院にて抗凝固治療を開始.12/17の下肢エコーでは,左膝窩静脈に血栓による閉塞,ヒラメ静脈洞に壁在血栓を認めた.Floating

thrombusは認めず,大腿静脈,外腸骨静脈には血栓を認めなかった.膝窩静脈は閉塞しており,閉塞部中枢側で順行性,閉塞部末梢で逆行性の極度に停滞した血流を観察した.ヒラメ静脈洞では,新鮮血栓と停滞した血流が鏡面を形成していた.発症後 4週の下肢エコーでは,左大腿静脈~膝窩静脈,ヒラメ静脈洞に高輝度血栓による閉塞を認めた.この時点では下肢浮腫等の症状は軽減しており,周径に左右差を認めなかった.発症時に血栓が存在しなかった部位にも,亜急性期に広範な血栓形成がみられたことから,iliac compression syndromeによる血流停滞が,膝窩静脈・ヒラメ静脈洞に生じた深部静脈血栓症の一因と思われる.

O34-2Iliac compression syndromeによる下腿深部静脈血栓症の 1例 ─早期,亜急性期のエコー所見

半田市立 半田病院 外科 1

半田市立 半田病院 検査室 2

永田 純一○ 1,久保田 仁 1,岡田 禎人 1,林  英司 1

太平 周平 1,前田 隆雄 1,堀尾 建太 1,小倉 淳司 1

景山 大輔 1,岸本 拓麿 1,村雲  望 2

【はじめに】頭部外傷後の DVTの発症率は高く,肺塞栓を発症すると高死亡率となるが,外傷後急性期のヘパリン使用に関しては一定の見解はない.今回,脳挫傷急性期にDVTを発症し,肺塞栓と右心房多量浮遊血栓を認め準緊急手術を施行した症例を経験したので報告する.【対象と方法】症例は 69歳,男性.Af,AMIの既往有りワーファリンを内服中に外傷による脳挫傷で脳外科入院となった.6

日後に右下肢腫脹と呼吸状態の悪化を認め,精査で肺動脈末梢の塞栓と右心房から右心室に浮遊する多量血栓,さらに右膝窩静脈血栓がみつかり,脳挫傷発症 9日後に当科紹介となった.脳 CTでは,挫傷部出血は経時的変化を示しており,ヘパリン使用は可能と判断した.紹介翌日に,上行大動脈送血および SVC,IVC(FVからカニューラ挿入)脱血にての体外循環下に右心房切開で血栓除去術を施行した.浮遊血栓は Eustachian valveが退化した網状索状物に捕捉されていた.同時に IVC filterの留置術も行った.【結果】手術時間は 165分,体外循環時間は 20分で,術後は問題なく経過した.【結語】脳挫傷急性期においても体外循環を用いた右心房内血栓除去術を問題なく施行し得た.脳挫傷後には DVT予防のため,間欠的空気圧迫と共に抗凝固療法の開始を検討する必要があると考えられた.

O34-2脳挫傷急性期に発症した DVT,右心房内多量浮遊血栓に対する準緊急血栓除去術

米沢市立病院 心臓血管外科

新城 宏治,佐藤 洋一○

392 日血外会誌 22巻 2号

326

【はじめに】血管内レーザー治療(以下 EVLA)は「下肢静脈瘤血管内焼灼術」として2011年1月より保険適応となった.一方,内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術(以下 SEPS)は,2009年 5月付けで新たな「先進医療手技」として厚生労働省の認可を受け,2012年 9月時点で全国 8施設が施設認定を受けている.SEPSはうっ滞性皮膚炎部表在静脈へ逆流を示す穿通枝静脈を切離する術式であり,主に下腿で行われる.従来行われてきた Linton手術では,手術侵襲によりかえって潰瘍の増悪を招く恐れがあるのに対し,SEPSは正常皮膚部よりの操作により皮膚病変部に存在する不全穿通枝(以下:IPV)を清潔野で切離することが可能である.我々が以前報告した下腿うっ滞性皮膚潰瘍 101肢に対する SEPS症例では,71肢で伏在静脈本幹部処理を追加し,その主な術式は部分ストリッピング術であった.今回,先進医療対象とした 80例の SEPS症例で,伏在静脈本幹処理を同時に行った症例は 59例であった.この内 56

例は従来の伏在静脈部分ストリッピング術を行い 3症例でストリッピング術の代わりに EVLAを選択したので,これらの症例を報告するとともに,「EVLAと SEPSハイブリッド手術」の可能性について検討した.【結果】ストリッピング症例 56例の手術時間は 55.3±16.2分でこの内 SEPS

以外に要した時間は 38.4±13.3分であった.一方 EVLA

症例 3例の手術時間は 54.0±4.0分でこの内 SEPS以外に要した時間は 36.0±7.8分で,両群間に差は認めなかった.【考察と結語】SEPS手術の麻酔法は通常腰椎麻酔で行うため,EVLAに際して局所麻酔を追加する必要はなく,TLA

麻酔のみで施行できたが,手術時間に関し両群間に差は認めなかった.ストリッピング術,EVLAともに術後大腿部は弾性包帯による持続圧迫を選択している.術後の大腿部皮下出血に関して定量的評価はしていないが,同程度に生じた.長期予後に関しては不明であるが,短期成績よりは,下腿うっ滞性皮膚病変に対し SEPSを選択した症例での表在静脈処置法としてストリッピング術に代わり EVLAをハイブリッド手術として選択することは可能と思われる.しかし,今後「EVLAと SEPSハイブリッド手術」を選択する際に解決すべき問題として,SEPSに対する先進医療費と下肢静脈瘤血管内焼灼術費を同時に請求できないことが挙げられる.

O34-4EVLAと SEPS(内視鏡下筋膜下不全穿通枝切離術)のハイブリッド手術の可能性に関する検討

仁鷹会たかの橋中央病院 血管外科・内視鏡手術センター1

三菱三原病院 2

春田 直樹○ 1,新原  亮 2,楠部 潤子 1,森本 博司 1

佐伯 吉宏 1

【はじめに】平成 15年より診断群分類(DPC:Diagnosis pro-

cedure combination)に基づく包括評価制度が導入されてきている.これは 1日当たりの診療報酬点数に入院日数と医療機関別調整係数を乗じて包括分の医療費を計算し,それに手術,麻酔等の出来高分を加えたものが総診療報酬点数となる仕組みである.下肢静脈瘤に対する治療は,2011

年 1月より血管内レーザー治療が保険収載され,現在急速に普及しつつある.当院は 2006年より DPC対象病院となっており,また下肢静脈瘤の治療として 980nm Diode Laser

(ELVes)によるレーザー焼灼術を 2011年 4月より導入しており,レーザー焼灼術かストリッピング術かの術式の選択は,基本的には個々の症例における伏在静脈の解剖学的特徴と患者さん自身の希望を加味して決定している.両術式共に特に大きな合併症もなく良好な手術成績が得られており,また患者さん自身の費用負担額としても限度額調整を行う事で,両者間に明らかな差は認めていない.今回,DPC対象病院における包括評価制度下での病院収益の面での両者の比較を評価,検討した.【対象】対象は,2012

年 9月から 11月における下肢静脈瘤手術症例で,入院期間は 2泊 3日,自己負担額は 3割負担と BackGroundが似たような症例をピックアップし,手術手技としてストリッピング術とレーザー焼灼術,麻酔方法として腰椎麻酔と全身麻酔の場合を組み合わせ,それぞれの患者負担額及び病院収益面でのコストを比較,検討した.また個々の症例において,もし別な手術手技を選択した場合のコスト評価,別な麻酔手技を選択した場合のコスト評価も同時に行ってみた.【結果,考察】デバイスの料金まで考慮した場合,最も病院収益として高かったのは,全身麻酔でストリッピング術を行った症例であった.しかし医療機関別調整係数に関連してくる外保連試案の技術度(レーザー焼灼術:技術度 D,ストリッピング術:技術度 C)を考慮にいれるとレーザー焼灼術の方が総合的な病院収益が高くなると思われた.

O34-3DPC対象病院におけるストリッピング術とレーザー焼灼術のコスト評価・検討

済生会福岡総合病院 血管外科

星野 祐二,伊東 啓行,岡留健一郎○

第 41回 日本血管外科学会学術総会2013年 393

322

【背景】四肢リンパ浮腫において,超音波検査で皮膚,皮下厚の増加,皮下組織の輝度上昇が観察されることが知られているが,それらの臨床的意義は明らかでない.【目的】下肢リンパ浮腫に特徴的な皮膚・皮下超音波所見と臨床重症度の関連を検討する.【対象】2009年 4月 -2012年 3月に当院を新規に受診しリンパ管シンチグラムで確定診断を得られた癌術後続発性下肢リンパ浮腫の患者 35名の下肢 70

肢を対象とした.大腿および下腿の上下,内外側の計 8箇所で皮膚厚,皮下厚,皮下エコー輝度を観察し,Interna-

tional Society of Lymphology(ISL)重症度との相関を検討した.皮下エコー輝度は上昇なし(grade 0),輝度上昇があるが脂肪隔壁の線が観察できる(grade 1),輝度症状が高度で脂肪隔壁の線が観察できない(grade 2)の 3段階で評価を行った.また発症していない下肢は全て ISL stage 0として評価を行った.【結果】皮膚厚,皮下厚,皮下エコー輝度ともすべての観察点で臨床重症度と優位な相関が認められた.皮膚厚,皮下厚は臨床重症度が高くなるほど,皮膚 -皮下,皮下 -筋膜間の境界が不明瞭になるため,特に ISL stage3

において 29-71%の観察点で測定が不可能であった.また皮膚厚,皮下厚の増加は ISL stage3で,特に下腿において急激に増加する傾向がみられた.一方皮下のエコー輝度はすべての箇所,臨床病期において観察が可能であり,しかも ISL病期とより直線的な相関が得られた.【結語】四肢リンパ浮腫に特徴的な超音波検査である皮膚,皮下厚の増加,皮下組織の輝度上昇はいずれも臨床病期と相関がみられることが分かった.重症度の客観的な指標としては,エコー輝度の上昇をグレード化したものが有用である可能性が示唆された.

O34-6下肢リンパ浮腫の皮膚・皮下超音波所見の意義

山口大学 器官病態外科学

末廣晃太郎,佐村  誠,山下  修,村上 雅則 ○森景 則保,濱野 公一

【はじめに】静脈性下腿潰瘍は難治性で再発が多いとされているが,下肢表在静脈手術を施行することで,潰瘍再発の減少が期待できる.今回われわれは,静脈性下腿潰瘍患者に対し,詳細な超音波マッピング下に選択的ストリッピング手術を施行し,その長期成績を潰瘍改善後の再発の有無により検討した.【対象と方法】2006年 1月~2009年 12月までに静脈性下腿潰瘍を伴う一次性下肢静脈瘤患者に対して下肢静脈選択的ストリッピング術を行った30例32肢(両側潰瘍 2例).内訳は男性 11例,女性 19例(平均年齢 62.3

±11.5歳).表在静脈不全は大伏在静脈由来 26肢,小伏在静脈由来 4肢,その他 2肢で,術直前の CEAP分類は C5

(healed ulcer)13肢,C6(active ulcer)19肢.8例に深部静脈逆流を認めた.術前に超音波エコーガイド下で表在静脈のマッピング・マーキングを行った上で,選択的ストリッピング術および逆流のある穿通枝を結紮した.術後は弾性包帯による下肢圧迫を行い,潰瘍治癒後は足関節圧 30mmHg

以上の弾性ストッキングの装着に変更した.術後の潰瘍再発の有無の確認は,外来での診察または電話による聞き取り調査により行った.【結果】手術の内容は,24肢に大伏在静脈ストリッピング術,2肢に大伏在静脈高位結紮術,4肢に小伏在静脈ストリッピング術,1肢に副伏在静脈ストリッピング術,1肢に穿通枝結紮術のみを施行した.不全穿通枝は Dodd穿通枝 1本,Boyd穿通枝 3本,Cockett

穿通枝 10本,外側穿通枝 4本(合計 32下肢で 18本,1下肢あたり平均 0.56本)であった.合併症は,全例神経損傷は認めず,1例に皮下出血を認めた.術後観察期間は 2ヶ月から 75ヶ月,平均 40.9ヶ月で,32肢中 5肢に潰瘍再発を認めた.潰瘍再発時期は術後 13ヶ月から 37ヶ月,平均29.2ヶ月であった.Kaplan-Meier法によるUlcer free ratioは,術後 1年 100%,術後 3年 86%,術後 5年 80%であった.【結語】静脈性潰瘍患者に対する超音波マッピング下に行った下肢静脈選択的ストリッピング手術の長期成績について検討した.文献によると,Ulcer free ratioは術後 3年間で44-62%と報告されており,本法は有用な方法であると考えられた.

O34-5静脈性下腿潰瘍に対する超音波マッピング下に行った選択的ストリッピング手術の長期予後

横浜南共済病院 心臓血管外科 1

横浜南共済病院 生理検査室 2

根本 寛子○ 1,孟   真 1,斉藤 雪枝 2,加藤  綾 1

橋本 昌憲 1,橋山 直樹 1,金子 織江 2,安達 隆二 1