Challenges of Pasteur-Type Scientists for Innovation: A Case of Photocatalyst (in Japanese)

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Hitotsubashi就荷 閣醗s■医6,巻3二 |日本発の本格的経営 シーズL三 新たな結 I 事例研究& アンケート調査を通じて I G言ミ、風曾 恥ご浸貢員シ寺ミ、ご葛翫謁亀謎、冒 [マネジメント・フォーラム] [ビジネス・ケース] 資生堂 大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授 岸本忠三 成功する産学連携へ- "学"本来の存在意義を 再認識すべき グローバル展開 中国における「おもてなuサービスの活用 新日本製織 コークス炉化学原料化法による 廃ブラスチック処理技術の開発と事業化 一橋大学イノベーション研究センター編/東洋経済新報社

Transcript of Challenges of Pasteur-Type Scientists for Innovation: A Case of Photocatalyst (in Japanese)

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[ビジネス・ケース]

資生堂大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授

岸本忠三成功する産学連携へ-"学"本来の存在意義を再認識すべき

グローバル展開

中国における「おもてなuサービスの活用

新日本製織コークス炉化学原料化法による廃ブラスチック処理技術の開発と事業化

一橋大学イノベーション研究センター編/東洋経済新報社

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飲酒運転ならびに未成年者の飲酒は法律で禁じられています。

妊娠中や授乳期の飲酒は胎児、乳児の発育に影響するおそれがあります:-適度の飲酒をお楽しみください。

一橋季刊2013WIN

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[特集]

産学連携を問うシーズとニーズの新たな結合をめざじてRssessmentoFIndustry-UniuersityCDllaborationinJapanToiuardfleiuCombin3tions

イノベーションを生み出すための手段として産学連挑への期待は大きい。研究資源が集中する日本の大学の「シーズ」と企業の「ニーズ」

が結合することで、新しいビジネスにつながる可能性がある。逆に大学がリードユーザーとなって、企業の技術を向上させ、ビジネスに結

びつけるケースもある。この10年間、TLOの導入、日本版パイ・ドール法の導入、国立大学法人化、各種研究助成、地域クラスターなと

のさまざまな制度改革が行われてきた。本特集では、産学連挑の成功事例である日本発の抗体医薬品「アクテムラ」の開発や小柴昌俊東

京大学特別栄誉教授のノーベル賞受賞にも貢献した浜松ホトニクスの技術開発力習得の事例やアンケート調査を通じ、産学連挑がイ/

ベーションの創出に与えた影響について検証を行うとともに、今後の産学連挑のあり方について展望する。

CONTENTS

2書

38

52

特集にあたって

[特集論文-I]

バスツール型科学者によるイノベーションヘの挑戦光触媒の事例

[特集論文一Ⅱ]

アクテムラとレミケードー抗体医薬品開発における先行優位性を決めた要因

[特集論文一Ⅲ]

浜松ホトニクスにおける研究開発力の源泉

[特集論文一Ⅳ]

産学連携とアクターとしてのアカデミアの意識アメリカの経験から学ぶ

赤池伸一

長岡貞男

馬場靖憲東京大学先端科学技術研究センター教授

七丈直弘文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センター上席研究官

鎗目雅東京大学公共政策大学院科学技術イノベーション・ガバナンス(STIG)特任准教授

原泰史一橋大学イノベーション研究センター特任助手

大杉義征一橋大学イノベーション研究センター特任教授

七丈直弘文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センター上席研究官

村田純一文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センター特別研究員

赤池伸一一橋大学イノベーション研究センター教授

小笠原敦文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センター長

-上山隆 大慶雁義塾大学総合政策学部教授

68

86

102

104

120

142

152

166

170

11。

138

[特集論文-V]

産学公連携コンソーシアムによるオーブン・イノベーション幹細胞技術の事例をもとにわが国の最適解を模索する

[特集論文一Ⅵ]

産学共同発明から見た産学連携資源投入、成果およびその波及効果

[経営を読み解くキーワード]

ソーシャル・マーケティング

[特別寄稿

仙石慎太郎京都大学物質一細胞統合システム拠点准教授

赤池伸一一橋大学イノベーション研究センター教授

細野光章文部科学省科学技術・学術政策研究所上席研究官

水越康介首部大学東京大学院社会科学研究科経営学専攻准教授

デジタル経済のための創造的次世代ヨー・ヨンジンテンプル大学フォックスビジネススクール教授

市民ベンチャー構築へ向けてアーバン・アップス.アンド・マップス・スタジオ・プログラムの事例から[特別寄稿]

知 識機動力経営野中郁次郎知識創造と機動戦の総合一橋大学名誉教授

雇瀬文乃一橋大学大学院国際企業戦略研究科鞘任鮒師

石井喜英

|更宣義堂中国における「おもてなし」サービスの活用

[No.109]新日本製織コークス炉化学原料化法による

廃プラスチック処理技術の開発と事業化

[コラム]日本経営学のイノベーション第4回(般終回)

知識創造理論の誕生[マネジメント・フォーラム]

成功する産学連携へ-"学"本来の存在意義を再認識すべき…岸本忠三大阪大学免疫学フロンティア研究センター 特任教授

[私のこの一冊]

日本人の精神的バックボーン『論語』

豊かな知恵を育むのに必要とされる健全な疑念と批判的姿勢藤原新書也『東京漂流』

アメリカ海軍予備役少佐(海兵・航空医療士官)

鈴木智子京都大学大学院経営管理研究部特定鮒

原田緑京都大学大学院経営管理教育部経営管理専攻専門職学位課程

青島矢一一橋大学イノベーション研究センター教授

鈴木修関西学院大学経営戦略研究科准教授

小川 進神戸大学大学院経営学研究科教授

[インタビュアー ]長岡貞男一橋大学イノベーション研究センター教授

赤池伸一一橋大学イノベーション研究センター教授

高橋文郎青山学院大学大学院国際マネジメント研究科研究科長・教授

-小笠原泰明治大学国際日本学部教授

139ビジネス・ケースオンデマンド販売のご案内

140ビジネス・ケースバックナンバー一覧

184次号予告・読者プレゼント&アンケート

『一橋ビジネスレビュー』の志

「一橋ビジネスレビュー」の前身は、1953年に一橋大学商学部附属産業経営研究施設の学内機関誌として創刊された「ビジネス

レビュー」であった。その後、日本企業の競争力が向上するに従い、欧米からの借り物の経営理論ではなく、日本発の理論的.実

証的研究が時代の要諦となった。1997年、産業経営研究施設がイノベーション研究センターに生まれ変わったのを契機に、この学

内誌を全国的な経営学研究誌とすべく、2000年に東洋経済新報社との戦略的提携によって新創刊されたのが本誌である。

したがって、創刊にあたっての想いは、「日本発の理論的・実証的経営研究をオールジャパンの研究陣で発信する」であった。「ノ

ーバード・ビジネス・レビューjがオールアメリカンの経営専門誌であるように、「一橋」の名を冠していても本誌は、経営知力

向上をめざすすべての人々に開かれたオールジャパンの専門誌である。そのことは、編築委員の顔ぶれからも理解されよう。ここ

での「一橋」は単なる固有名詞ではなく、現実のビジネスと研究者の学界をつなぐ「唯一の架け橋」という意味が込められている

のである。

21世紀はまさに経営の時代である。同じ産業に属していても、業績に際立った差が生じ、ローテク産業でも新しい技術やイノベ

ーティブなアイディアを駆使すれば屈指の高収益企業に変身できる。さらに、地球温暖化や資源高騰に始まる世界規模の経営課題

は、技術から経営効率に至るさまざまなイノベーション活動を要諭している。しかし、その戦略的意思決定は先進国に手本がある

わけでも、政府が導いてくれるものでもない。経営を担当する者があらゆる知識を総動員してしか実現しえないものなのである。

その意味で、経営の知的レベル(ビジネス・インテリジェンス)の向上が求められている。ビジネス・インテリジェンスには2つ

の意味がある。1つは備報収集能力であり、もう1つが知識創造にかかわる知的能力である。『一橋ビジネスレビュー」はまさに、

2つ目の知識創造分野を支援することを目標にしている。

短期的な悩報やノウハウものを提供するビジネス誌は、毎日毎週、巷に絶え間なく発刊されている。それらに対し、本誌はあえ

て年4回の発行を方針としている。読者に3カ月をかけて一冊の論文集をじっくりと読みこなしてほしいという想いからである。

『一橋ビジネスレビューj創刊の志は高い。しかし、現実の迎営にあってその想いが小さくなったり霞んだりするときがあるや

もしれない。そのときは、オールジャパンの読者や研究者からの忌禅のない批判をお願いしたい。

編集顧問

御手洗冨士夫(キヤノン株式会社代表取締役会長兼社長CEO

野中郁次郎(一橋大学名誉教授)

黒川清(政策研究大学院大学教授/元・日本学術会議会長)

『一橘ビジネスレビュー』編集委員会

編集委員

離劇欝騰雛離鱗瀧鴛蝿撫同婆繍醗篭輔篭聯鵜#難藤蔭蕊繍筆,繕築デスク:佐々木浩生・中山英貨・佐藤敬マーケティング:吉田正志・和田明彦・大久保幹人広告:中島服順宣伝:加藤光彦・笠間勝久

校閲:松村端子・新井暁子・工内知子表紙イラスト:村田薦司本文イラスト:村田篤司・国分みなみ・あしはらたいじ

カバー・本文デザイン:佐藤倫朗(デナリパブリッシング)・坂m(グランドグルーヴ)・佐藤浩明(デジタルアーカイヴ)

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産学連携を問うシーーズとニー ラズの新たな結合をめざじてRssessmentofIndustry-UniuersityToiuardneiuCombinations

CollaborationinJap3n

【特集にあたって】

産学連携は日本経済のイノベーション力を高める上で

の期待が大きく、1990年代の終わりから日本でもその強

化のための施策が展開されてきた。しかし、手本となっ

たアメリカとの比較のなかで期待された成果をもたらし

ていないという批判も強い。本特集では、産学連挑が日

本経済の文脈のなかでどのようにイノベーションに貢献

しうるかを、事例研究と産学共同発lリJへの質問票調査を

もとに書かれた論文によって明らかにし、今後への示唆

を得ることをねらいとしている。

日本における産学連携は戦前からの歴史があり、大学

は殖産興業政策の重要な一翼を担っていた。戦後、アカ

デミアにおいて戦時中の軍需産業への協力に対する反省

から産学連携への抵抗感は強かったが、工学部を中心と

して卒業生と研究室との間の人的ネットワークを通じた

産学連携は行われており、高度成長の牽引に重要な役割

を果たしてきた。1970年代から1980年代には、大規模な

国家研究開発プロジェクトが産学連携に果たした役割も

大きい。

4-橘ビジネスレビュー2013WIN

一方、アメリカでは1970年代からの経済停滞から脱却

し産業競争力を強化するため、1980年代初期にパイ・ド

ール法、SBIR等の新たな産学連携施策が導入された。

これが情報技術やバイオテクノロジーによるアメリカ産

業の復活に貢献したと見られている。日本でも、1990年

代のバブル崩壊後の日本経済復活の処方菱の1つとし

て、アメリカを手本に、TLOの設立、日本版パイ・ド

ール制度の導入、産学連携をターゲットとした各種研究

助成、地域クラスター等の施策が行われた。また、日本

では2004年度より国立大学が法人化され、大学の制度改

革と産学連携施策が同時に進められたという特徴があ

る。しかしながら、アメリカの産学連携に比して、日本

のここ十数年の産学連携施策への一般的な評価は好意的

とはいえない。産学共同研究の件数や特許権保有件数は

拡大してきているが、大学から企業へのライセンスや

「大学発」ベンチャーの実績においてはアメリカと比j陵

して大幅に低い水準にあるからである。大学関連発明の

半分は産学共同発明であり、その多くは共同出願である

ために、実施にあたってライセンスやベンチャーの関与

はないが、日本の産学連携の重要な部分を担っている。

産学連携は、企業と大学という組織の目標、行動原

理、マネジメン1、等がまったく異なる主体が共同し、シ

ーズとニーズを結合して新たな知識を生み出し、イノベ

ーションにつなげる創造的活動である。本特集のキーワ

ードは「パスッール型」研究である。現実の課題解決を

目的としつつ、同時に根本原理に立ち返った研究を行う

バスツール型の研究が産学連携では非常に重要である。

本特集では、事例研究に加えて、アメリカの産学連携強

化における大学経営、先端領域における産学公パートナ

ーシップ、および、大規模質問票調査による産学共同発

明に関する研究を紹介する。

バスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦馬場靖憲・七丈直弘・鎗目雅

パスッール型科学者として東京大学の藤l鳴昭名誉教授

(現・東京理科大学学長)と橋本和仁教授に着目し、アカ

デミアの枠を超えた活動の歴史的展望を行うとともに、

データベースやインタビューなど多様な手法を駆使した

分析を通じて、光触媒技術の事業化における知識の交流

や共創のメカニズムを明らかにしている。新たな大学研

究者のあり方について重要な示唆を与える論文である。

産学連携により開発された関節リウマチの治療薬であ

るアクテムラとレミケードの研究開発過程について比較

分析している。両医薬品はそれぞれ産学連携によって同

時期に前臨床研究を終了しているが、アクテムラは薬価

制度上の制約からレミケードに比べて長い期間を要した

ことを明らかにし、要因を追求している。本論文では、

サイエンスを活用した先端的な医薬品の臨床開発のため

の日本の制度的問題を明らかにしている。

浜松ホトニクスにおける研究開発力の源泉七丈直弘・村田純一・赤池伸一・小笠原敦

浜松ホトニクスは、小柴昌俊特別栄誉教授のノーベル

賞受賞の対象となった研究の実験施設であるカミオカン

デの測定装置を開発製造したことで知られている。光技

術を利用した製品の世界的企業である同社の研究開発の

歴史をさかのぼり、インタビュー調査や特許分析を駆使

して、その成功要因を分析する。パスツール型企業であ

る同社のケーススタディーを通じて、今後の産学連携を

活用した企業のあり方について展望を示している。

産学連携とアクターとしてのアカデミアの意識上山隆大

日本のモデルとなっているアメリカの1980年代からの

産学連携の経験を、アカデミアや科学者の意識の変換と

いう視点から分析する。アメリカのアカデミアが優れた

大学経営者たちによって緩やかに体制が作られていった

過程を詳細に分析している。日本においては、政府主導

で産学連挑と大学改革が同時に進められ、大学の受け入

れ体制が十分に整っていなかった問題点を指摘している。

産学公連携コンソーシアムによるオーブン・イノベーショシ仙石慎太郎

幹細胞技術分野の事例をもとに、複数の企業、研究機

関および政府機関が参画する産学公連携コンソーシアム

がオープン・イノベーションに果たす役割について考察

する。本論文では、文部科学省、経済産業省等が主導す

るプロジェクトのマネジメントを詳細に分析することを

通じて産学公連携のダイナミズムを明らかにするととも

に、将来の展望を示している。

産学共同発明から見た産学連携赤池伸一・細野光章

産学共同研究プロジェクトに従事した企業および大学

研究者約7000人に対する大規模質問票調査を通じて、産

学|冊の知識の創造・融合・移転のプロセスを明らかにす

る。共同発明を通じた日本の産学連携は企業によるイノ

ベーションにとって重要な貢献をしていることを明らか

にしている。

各論文は最新の分析手法を結集して、企業と大学とい

う異なる主体の連携プロセスの解明に挑み、現実の企業

経営や政策に示唆を与えている。研究者のみならず、経

営者、技術者、行政官などの実務の一助となることを期

待している。

一橘大学イノベーション研究センター教護

赤池伸一

一橘大学イノベーション研究センター教護

長岡貞婆

一橋ビジネスレビュー2013WIN.5

RssessmentoFIndustry-UniuersityCDllaboratinninJapanノ.

[特集論文11]

バスツール型科学者によるの挑戦イノベーショ

光触媒の事例ChallenpeoFPasteurScientistsForInnouatlonflCaseoFPhotocatalyst

馬場靖憲東京大学先端科学技術研究センター教授β上zja逓J・""0?。』

七丈直弘文部科学省科学技術・学術政策研究所科学技術動向研究センター上席研究官S〃秘如八"lolii)。o

鎗目雅東京大学公共政策大学院科学技術イノベーシヨン・カバナンス(STIG)特任准教授】をrimeMasaru

先端素材分野のイノベーションには、大学と企業による知の共創が不可欠である。そして、科学の進歩ととも

に社会貢献を重視するパスツール型科学者が科学的知見をもとに多様な企業と連携して市場形成に必要なノウ

ハウを蓄積し、広く企業にコンサルティングを行い、研究開発コミュニティーを構築して挑戦することが望ま

しいと考えられる。本稿は、日本の産学連携がどのように企業のイノベーションへの挑戦を可能にしたか、光

触媒産業の立ち上げに大きく貢献した東京大学の藤I鳴昭(現・東京理科大学学長)・橋本和仁の事例を分析した。

6-橋ビジネスレビュー2013WIN

特集

産学連携を問う

象限」の議論が有名である(Stokes.1997)。科学者の研

究活動は科学的理解の高度化と社会への効用の提供とい

う2つの軸によって評価され、出現する4象限はその領

域で活動する代表的科学者の名前によって呼ばれる。す

なわち、純粋に科学フロンティアが追求されるニール

ス・ボーア領域、人工物の開発によって直接的に社会貢

献がめざされるトーマス・エジソン領域、科学進歩と社

会貢献を兼ね備えた研究活動が展開されるルイ・パスッ

ール領域、そして以上の3類型から除外される研究領域

からなる4象限である。

本稿は、酸化チタン光触媒という先端素材分野におい

て、論文出版を目的に研究に取り組む科学者と、研究に

取り組む段階でその実用化を意図する科学者の2つのタ

イプの科学者が存在することに注目する。そして異なる

タイプの科学者の間には、研究マネジメント、産学連挑

また、研究パフォーマンスにおいて相違点が認められる

事実に基づき、科学進歩とともに社会貢献を重視する後

者のタイプをパスツール型科学者としてその活動の諸特

性を明らかにする。筆者らは、光触媒分野において、企

業がパスツール型科学者と連携することによって、その

研究開発の生産'性を向上させることを明らかにした

(Babaetal..2009)。本稿では、パスツール型科学者か

どのように多様な企業に対し実効性あるコンサルテイシ

グを提供し、連携企業の製品上市に貢献し、研究開発コ

ミュニティーにおいてイノベーションへの挑戦を主導し

ているかを明らかにする。

本稿が着目する光触媒分野のパスツール型科学者とは

東京大学の藤|鳴昭名誉教授(現・東京理科大学学長)と

橋本和仁教授である。科学の基礎的理解に対する貢献と

して両教授の光触媒に関連する論文出版を見れば、藤|嶋

は182件、橋本は162件であり、同分野の最上位集団に位

置する。特に、平均被引用数で見れば橋本の光触媒関連

論文では66.7と、ほかの被引用数上位研究者に10ポイン

ト程度の差をつけている。同じく、社会的効用に対する

貢献として特許出願件数を見れば、日本国内における夫

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1 はじめに

近年、一国の産業社会に対する科学界からの貢献の重

要性が広く認識され、科学界の企業化で先行したアメリ

カの事例をモデルとして、特許ライセンシングによるス

タートアップを促進するための制度設計など、公的セク

ターの科学力によってイノベーションを実現するための

制度改革が世界規模で進行している。科学界と産業の結

びつきを強化するための施策が取られた結果、科学者の

企業家精神が顕在化し、現在、日本においても無視でき

ない数の科学者が、大学からのスタートアップ、特許申

請、産業への技術普及など、さまざまな形での企業活動

を行っている。

現状を直視するならば、科学者の活動を、自らの知的

好奇心に従って研究し、成果の発表によって科学界から

の認知を得るという動機(モチベーション)によって説

明し、個人の経済活動における金銭利得の動機と区別す

る二分法に限界があることは明らかである(Merton,

1973)。そもそも、企業家精神を持った科学者は、どの

ような動機から科学研究と産業貢献に取り組んでいるの

であろうか。このような設問に対して、近年、科学者の

動機は、伝統的な職業的認知・報酬と金銭利得に加え、

知的興味からのチャレンジと社会貢献から説明されると

いう見解が有力である(Sauermannetal..2010)。科学

者による特許の取得に関しても、従来、商業化が目的と

された特許出願が多様な動機によるものであり、バイオ

分野における特許取得は必ずしも金銭利益を目的として

おらず、特許は自ら開発した技術の社会還元を確実にす

るための手段であり、バイオ研究者の活動は社会貢献に

よって動機づけられているとされる。

科学者の動機に踏み込んでその活動を説明する研究と

しては、ドナルド・ストークスによる「パスツールの4

一橋ビジネスレビュー2013WIN.7

[特集鐘文-I]

パスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦

それに協力する大学はリスクを取って、独自の開発シナ

リオを立てざるをえない。以下に紹介する藤n鳴・橋本と

連携企業による光触媒の研究開発は、まさに製品開発に

おける仮説形成と試行錯誤の歴史であった。

藤III.&・橋本の光触媒研究は、藤|嶋が1969年に酸化チタ

ン電極と白金電極を使用した水の光分解という本多・藤

鴫効果を発見して開始された(FujishimaandHonda.

l972)。現象の発見から期待される水素のエネルギー源

としての可能性は産学の広範な関心を呼び、1970年代初

めから1980年代を通じて多くの研究者が実用化に向けた

研究開発を展|淵した。しかし、コストを勘案すると、自

然光を利用して経済性がある技術開発を進めることが難

しいことが次第に明らかになり、1980年代中頃から藤|鴫

研究室における酸化チタン電極研究の比重は急速に低K

した。

1980年代末、藤鴫研究室に招聡された橋本は、同研究

室で行われていた酸化チタン研究の流れに着目し、理論

的考察に基づき素材の表面に酸化チタンの薄膜をコーテ

ィングし、発生する活性酸素の有機物分解機能を利用す

る研究開発アジェンダを立てた。そして、マテリアルデ

ザインに関する研究開発を進めると同時に、橘本は具体

的な産業応用をめざして共同研究を行う企業を積極的に

探した。サニタリー企業としての東陶機器(TOTO》

は最初の連携パートナーであり、共同研究の成果とし

て、1992年の国際学会における酸化チタンの薄膜化に関

する発表、また、製品開発として1994年の抗菌タイルが

生まれた。さらに、藤嶋・橋本とTOTOの共同研究か

ら、1996年には酸化チタンをコーティングした素材に水

滴が付着したときに表面との接触角が限りなくゼロに近

づく超親水性機能が認められることが発見された

(Wangetal..1997)。超親水性の表面には水が均等に付

着し水滴が分散しないために濡れが起きた状態でも視界

の確保が可能になる。TOTOは同機能が持つ防曇性等に

産業応用の可能性を見出し、基本特許に加え多数の関連

特許を単独出願し、特許のライセンス供与に関して活発

触媒分野の特許出願に関して、2013年8月末までの公開

出願件数で藤I嶋が80件、橋本が75件の出願人となってお

り、個人出願件数の1,2位を占める。次に続く大学・

公的機関に所属する研究者の出願数は29件であり、藤

嶋・橋本の特許出願実績は突出している。さらに、両者

は、原著論文の出版に加え、産業界を主たる読者とする

光触媒の機能と利用方法に関する解説論文を多数発表し

ており(七丈・馬場、2007:馬場・鎗目、2007)、両教

授が社会ニーズを先取りしてその解決をめざすパスツー

ル型科学者として活動してきたことは明らかである。

一般的に、日本の大学システムにおいて、大学と連携

する企業が具体的な市場成果をもたらすことは少ないと

される。しかし、光触媒分野では、上記のパスツール型

科学者が科学的知見に基づいて技術の製品化に積極的に

取り組んだ結果、企業の試行錯誤を通じてさまざまな製

品が上市されている。具体的には、藤鴫・橋本によって

1990年代初頭に開始された酸化チタンの光触媒機能に着

目した産学連携はさまざまな分野で市場を創出してお

り、光触媒産業の市場規模は、2010年段階で1000億円を

超えていると推定される(光触媒工業会、2012)。

ⅡⅡⅡ

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2パスツール型科学者は

どのように振る舞うか

酸化チタン光触媒における研究開発の歴史

光触媒が属する先端素材分野は、イノベーションに関

して伝統的な素材分野と大きく異なる特性を持つ。従来

の素材分野において必要なのは、ユーザー産業が要求す

る一定水準の物質特性を持った素材の提供であり、研究

開発においては要求スペックを満たす製品を技術的に実

現すればよかった。一方、先端素材の場合、開発した素

材をどのような用途でユーザーに提供すれば新市場が立

ち上がるか不確実性が高く、研究開発に従事する企業と

8-橋ビジネスレビュー2013WIN

な知財戦略を展開した。

このようなTOTOの超親水性機能の発見とライセン

ス供与に関する活発な広報活動は産業界に大きなインパ

クトを与えた。その結果、1990年代中期以降、薄膜化し

た酸化チタンが示す分解・超親水性機能の産業化をめざ

して光触媒ブームが起こり、多くの企業が光触媒の研究

開発に参入した。藤嶋・橋本は、光触媒研究の普及と産

学連携の振興を目的に光機能材料研究会を立ち上げ、

1994年の第1回シンポジウムには40社を超える参加を見

た。光触媒ブームと研究活動の組織化によって、藤m

橋本と連携する企業は着実に増加した。しかし、1990年

代を通じて企業による特許出願件数が順調に増加する半

面、光触媒分野の製品上市にはさまざまな課題が残った。

パスツール型科学者の研究開発戦略

藤嶋・橋本はその研究において現象の一般的理解を進

めるという科学者に期待される本務を果たしながら、産

学連携を通じて社会ニーズを先取りする試みに本腰を入

れて取り組んできた。特筆すべきは、藤嶋・橋本が採用

した産学連携に関する基本方針である。すなわち、藤

嶋・橋本は、企業と共同して手がける研究開発が成功す

ると、光触媒からどのように産業応用につながる新機能

が実現されるか、常に企業の製品開発を視野に入れた具

体的なシナリオに基づいて研究開発を展開する。一般的

に、科学型イノベーションの場合、大学は産学連携を通

じて企業に科学的知識を提供し、企業は提供された知識

特集

産学連携を問う

をもとに製品化をめざすと考えられやすい。しかし、先

端素材分野において製品化の主導権を持つのはあくまで

も企業であり、藤嶋・橘本は、企業が開発する製品が実

際の使用環境においてどのように期待される効果を生む

か、現象に関する基本的知識を提供する。さらに、多様

な企業と連携することによって藤l嶋・椛本の産業化のた

めの暗黙知は着実に増加し、企業の製品化に対して過去

の経験から有益なアナロジーを提供し、企業の問題解決

を状況に応じて支援することが可能になる(Pavitt.

1998)。ユーザーニーズの理解が不可欠である先端素材

分野のイノベーションにおいて、産学に発生する双方向

の情報交換から光触媒の製品化に向けた汎用的なノウハ

ウが生まれ、藤|鴫・橋本は、広範な企業にコンサルティ

ングを提供するパスツール型科学者として機能すること

になる。

先端素材分野の産学連携において、どのようにユーザ

ーを満足させる機能を製品に盛り込むことが可能になっ

たか、大学と企業の果たした役割を藤嶋・橋本の事例に

基づいて紹介してみよう。まず、酸化チタン光触媒を産

業応用しようとすると、素材に照射される自然光に含ま

れるフォ1、ンの通が機能の発現におけるパフォーマンス

の上限を理論的に決定する。このような理解に基づき

大学研究者が理論計算を行うことによって、製品化のた

めにどのように光触媒を使えばよいか、マテリアルデ琴

インが決定される。楠本の計算からは、3次元空間を菱・

象として光触媒を利用しようとすると、エネルギー源と

してのフォトン量は過少であり産業化は難しいこと、そ

一橋ビジネスレビュー2013WIN.9

[特集論文-I]

バスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦

して、光触媒の機能から実用的な効果を上げるために

は、光触媒が働きかける対象を2次元面とすることが必

須条件であることが判明した。光触媒の産業応用を進め

るにあたって主要な役割を果たしたのは、素材の表面に

酸化チタンの薄膜をコーティングし、発生する活性酸素

の機能を利用するマテリアルデザインであった。

さらに、光触媒を企業の製品開発に利用しようとする

と、一般的なマテリアルデザインを個別企業が開発する

製品に付随する一連の市場・技術特性に応じて具体的な

製品コンセプトに落とし込む必要がある。もとより新技

術を導入して利益を得るためには、技術を利用するため

のビジネスチャンスを見出すことが必要であり、有益な

既存知識を持った人材を保有する企業がイノベーション

に対する相対・的な優位性を独得する(Shane,2000)。し

かし、過去の市場経験を通じてビジネスチャンスに通じ

た人材を豊富に持つ企業であっても、新規のマテリァル

デザインに基づいてどのように光触媒を有効利用するか

に関して、単独で問題解決にあたることは難しい。光触

媒の事例においては、産学が連携して初めて、マテリア

ルデザインを提示する大学とユーザーの製品ニーズを熟

10一橋ビジネスレビュー2013WIN.

知する企業の間に知識が共創され、ユーザーニーズを満

足させる製品コンセプトの誕生を見た。橋本とTOTO

の連携を例に挙げれば、光触媒の分解機能によってサニ

タリー製品の黄ばみを除去するという橋本のアイディア

に対して、黄ばみ除去だけでは商品力につながらず、脱

臭効果がなければ市場性は生まれないと主張したのは製

品市場に箱通したTOTOであった(岸、2003)。

さらに、先端素材を利用した製品開発を成功に導くた

めには、大学発のマテリアルデザインを個別市場に向Iす

た製品コンセプトに落とし込むために、企業によるさま

ざまな試行錯誤が必要になる。このような事情を受吟

て、藤l嶋・橋本は企業に対してマテリアルデザインに関

する指導を行うことに加え、継続的にコンサルティング

を提供し、製品開発に伴って発生するさまざまな問題の

解決を支援してきた。このように連挑関係を継続しトラ

イアル.アンド。エラー経験を共有することによって、

企業研究者の問題解決能力は着実に改善し、特定企業に

おいては光触媒の製品化のために中核的な役割を果たす

コア研究者が生まれる(Babaetal..2010)。後述するよ

うに、人材交流を通じて大学と緊密な連携を結ぶ企業に

特集

産学連携を問う

おいてコア研究者が生まれる傾向があり、開発に付随す

る問題解決が企業の手に余る場合、コア研究者は大学研

究者に助言を求めることになる。このような事情を反映

して、企業に自前の開発人材が育成され独自開発が進む

ようになっても、パスツール型科学者のコンサルティン

グが長く続く傾向がある。

一方、大学研究者の産学連携の背景には、先端素材に

見られる一連の技術特性からの連携動機がある。同分野

においては、大学のプロセス技術の開発能力には限界が

あり、理想的な形で技術開発を推進するためには大学を

補完してプロセス開発を担当する組織が必要になる

(Dosi.1988)。事実、橋本が酸化チタンを薄膜化して実

験を行う際に、開発した薄膜の質において問題点が残っ

た。対照的に、企業はプロトタイプを継続的に改良して

市場性のある製品を開発するため、本来的にプロセス開

発に対して強いインセンティブを持つoTOTOは光触媒

を利用して抗菌タイルを開発する際に、薄膜化のための

プロセス技術を豊富な研究開発費を投入することによっ

て実現した。このように、藤|鴫・橋本が積極的な産学連

携策を採用しなかったとすれば、開発リードタイムは長

期化し、最悪の場合、光触媒の薄膜化という大学の科学

研究に基づく技術開発は本格化段階を迎えることはなか

ったであろう。

て熱心であった。その結果、光触媒分野では大学をコー

ディネーターとする産学官連携によって広範な研究開発

ネットワークが形成され、それぞれの連携が試行錯誤を

経ることによって数多くの製品上市を生み出し、同分野

におけるイノベーションへの挑戦が着実に進んでいる。

当然ながら、研究開発コミュニティーの形成のため

に、公的支援が果たした役割はきわめて大きい。政策担

当者は光触媒を日本発の科学技術と見なし、同分野の研

究開発に対して積極的な政策支援を行った。近年におい

ては、同技術が地球環境問題等、将来の社会課題に対し

てキーテクノロジーとして働く可能性を認め、所管を異

にする複数の省庁が光触媒の研究開発に対・して政策支援

を展開している。')政策支援が光触媒の産業形成に果たし

た役割としては、1991年という研究開発の立ち上がり時

期にいち早く研究支援を行った神奈川科学技術アカデミ

-(KAST)があり、橋本は代表者として「光機能変換

材料」プロジェクトを主導した。光触媒に関する公的支

援としては、加えて科学技術振興機構(JST)と新エネ

ルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による支援が

あり、2007~12年度に実施されたNEDOの「循環社会構

築型光触媒産業創成プロジェクト」においては、可視光

応答型の光触媒技術開発と抗菌・抗ウイルス効果に関す

る病院・空港での実証試験に成功している。

本節では、大学と企業、また、公的機関が連携するこ

とによってどのように光触媒の研究開発コミュニティー

が構築されたか、産学官にわたる社会ネットワークの形

成プロセスを紹介する。分析手法としては、2010年代謡

期までに光触媒分野において出願された日本の全特許を

対象として、発明人による共同出願関係に着目して所属

組織を結び、組織単位の社会ネットワーク2)を作成L

た。分析の対象となった特許の出願件数の推移を図I

に、作成されたネットワークを図2に示す。

まず、分析対象となる光触媒分野における特許出願件

数の推移を見れば、1990年代半ばから、特許出願件数が

大きく上昇し始めていることがわかる。これは、藤鴫=

ⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡⅡ

3パスツール型科学者の

果たした役割

産学官にわたる研究開発ネットワークの形成

科学と技術にわたる旺盛な研究活動に加え、藤嶋・橋

本は光触媒に関する研究会である光機能材料研究会を組

織化し、光触媒研究の最新成果を広く紹介することに加

え、製品化に向けた開発事例を広く情報提供し、研究開

発人材の育成と研究開発コミュニティーの構築にきわめ

一橋ビジネスレビュー2013WIN.1]

[特集論文一I]

パスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦

図画 光触媒関連特許の出願件数の推移

(件>

1,400

1,200

1,000

800

600

400

200

’ロ’’197072747678808284868890929496982000020406081012(年

(出所)PATOLISデータベースをもとに加工。

|図21光触媒分野の特許共同出願ネットワー ク

!=

(注)図のノードは組織を示し、ノード間を結ぶ線はその両端に位置する組織に共同出願された特許が存在

することを示す。ノードは円によって示されており、その直径は関係を持つ組織の数(次数中心性).

色はノードの大域的な重要度(媒介中心性、●のノードほど媒介中心性が高い)を示している。

(出所)PATOLISデータベースをもとに作成。

12一橘ビジネスレビュー2013WIN

特集

産学連携を問う

|図31次数中心性の集中度に関する時系列変化

0.25

0.20

0.15

0.誰一

0.05

198082848688909294969820000204060810(年)

(出所)図2と同じ。

橋本が、光触媒研究の普及と産学連携の振興を目的に光

機能材料研究会を立ち上げ、KASTが光触媒に関する研

究支援を始めた時期とほぼ一致する。そうした動きを受

けて、多くの大学研究者や企業が光触媒に関する研究開

発に参入するとともに、特許出願件数は急激に増加し、

2000年代になると年間出願件数は1000件を超える水準に

まで至っているo2000年代後半になると、特許出願件数

はやや減少し、2010年には500件程度にとどまっている曇

次に、構築された社会ネットワークにおける勢力分布

の変化を見るために、中心性指標の集中度(centralization)

に着目してみよう。ここでは、直接つながる組織の数を

示す「次数中心性」の推移に注目する。なお、集中度か

高いほど特定ノードに勢力が集中していることを意I床す

る。図3からは、次数中心性の集中度が1986年にピーク

に達し、その後次第に低下していることが見て取れる毎

これは、初期段階には藤l鴫・楠本など少数の有力組織に

新規参入者が直接につながるケースが多かったが、その

後の研究開発コミュニティーの成長により、複数の有力

な組織が出現し、ネットワーク構造が集中型から分散型

に変化したことを示唆する。

続いて、ネットワークの構造において主要な位置を占

める5つの組織(藤嶋・橋本、TOTO、豊田中央研究所、

東京工業大学、産業技術総合研究所)を取り上げ、各組

織の中心性の推移を観察する。ここではネットワーク全

体から見た特定の組織の大域的影響力を示す指標の1つ

である媒介中心性に着目してその推移を示す(図4)ご

藤|嶋・橋本の中心‘性は1986年にピークを示すがその後い

ったん低下し、再度、1994年以降に急速に増加し、1999

年にピークに達した後は次第に減少している。同様に、

TOTOの中心性は1990年代後半に急増し、2000年代初頭

にピークを迎え、藤鴫・柿本に2~4年遅れて減少に転

じている。一方、産業技術総合研究所の中心性は1990年

代の後半において急激に高まり、1998年には藤嶋・橋本

を超え、さらに高位で安定的に推移している。

以上の分析結果をまとめれば、まず、藤嶋・楠本は、そ

の研究業績、また、先行して進める産学連携活動によっ

一橘ビジネスレビュー2013WIN.13

[特集論文-1]

パスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦

'1図4 媒介中心性の推移

0.08

0.07一

0.06

0.05

0.04

0.03

0.02

0.01

19808284868890929496982000020406081012(年)

(出所)図2と同じ。

て産業界からきわめて高い評価を狸得し、超親水性機能

による光触媒ブームを受けて企業パートナーを増加させ、

1990年代後半において研究開発コミュニティーにおける

ハブの地位を確立するに至った。一方、2000年代を迎え

光触媒分野への産業からの期待が本格化すると、産業形

成のための公的研究機関としての産業技術総合研究所の

役割が顕在化し、組織的な活動を通じて研究開発コミュ

ニティーにおける重要度が飛躍的に増加している。さら

に、製品化に先行し積極的な知財戦略を展開したTOTO

は、多くの組織と提携することを通じてコミュニティー

における存在感を増加させ、2000年代を迎えて大きな影

響力を持つに至っている。以上の事実は、①大学一公的

研究機関一企業間に情報共有の場が出現し、そこで光触

媒イノベーションに関する組織の壁を越えたネットワー

ク学習が機能した可能性(Powelletal..1996)、また、

②研究開発フェーズの進展に応じて、コミュニティーの

中心が、科学の進歩に寄与する大学から、産業振興の支

14一橋ビジネスレビュー2013WIN

援を本務とする公的研究機|卿や実際にビジネスに従事す

る民間企業へと移行しつつあることを示唆する。

産業形成に向けた製品上市の推進

ここで、藤I鴫・橋本の産学連携に関する特徴をまとめ

てみよう。①藤I嶋・橋本は光触媒の産業応用に本腰を入

れて取り組んでおり、できる限り多くの企業パートナー

と連挑し、理論から導かれたマテリアルデザインに基づ

いて各企業に光触媒産業への参入に関するコンサルティ

ングを提供してきた。②藤嶋・橋本研究室において光触

媒に関する学生の研究対象は基礎分野に限られていたた

め、応用研究の推進に関して企業から研究者を積極的に

受け入れてきた。③製品開発に関する藤鴫・橘本の助言

は企業から高く評価されており、藤嶋・橋本が提示する

製品コンセプトには、多くの場合、特許性が認められ、

特許が共同出願されている。一般的に、卒業生の就職な

どを通じて大学と企業がインフォーマルな関係を結び、

企業の研究開発能力の育成に貢献しつつ、タイミングを

見て共同研究の成果を製品化するのが日本における産学

連携の通例であった(FloridaandCohen.1999)。対照

的に、藤嶋・橋本の推進した産学連携は、光触媒の持つ

産業形成への可能性を実現するという明確な目的から立

ち上げられている。藤嶋・橋本と企業は互いを連携パー

トナーとして、製品化のための製品コンセプトを立ち上

げ、企業による試行錯誤を通じ、製品上市に至った企業

は連携を継続する一方、製品上市に至らない企業は産学

連携から退出している。

藤嶋・橋本と産学連携を実施した企業がどのように製

品上市を実現してきたか概観するために、産業形成が開

始された1990年代後半以降から2000年代初頭までの状況

を対象に実施した分析結果を紹介してみよう(馬場.鎗

目、2007)o"同調査においては、藤鴫.橋本との共同研

究によって特許の共同出願を行った25社について、①出

願期間(年数)、②共同出願特許件数、③共同執筆論文

数、④特許の製品化(主たる製品)に関する実績を観察

した。以上の作業によって、藤嶋・橋本と特許の共同出

願実績のあるパートナー企業から、大学と長期にわたり

共同研究を継続し、藤嶋・橋本との共同研究をベースに

年間1億円以上の規模の製品上市に至っているTOTO、

石原産業、日本曹達、東芝ライテック、YKK,盛和工

業の計6社が抽出された。残りの19企業には、共同研究

から出願した特許が製品化にまで至らず短期で連携を中

断した企業と、共同研究をベースにした製品の売り上げ

が2002年段階では本格化していない企業の2種類の企業

群が認められた。

産学連携の影響を時間的に見ると、藤|嶋.橋本との共

同研究の開始以前に光触媒分野で単独で特許出願をした

企業はなく、大学との共同研究によって初めて企業の特

許出願が開始されている。製品上市をした企業の場合、

藤嶋.橋本が産学連携を開始した初期段階に共同研究を

開始しており、共同出願が長期間にわたって継続されて

特集

産学連携を問う

いる。業種別に活動内容を紹介すれば、産業の上流に属

する企業として、光触媒の原料である酸化チタンの日本

における主要供給メーカーである石原産業が挙げられ

る。石原産業は、藤嶋・橋本との共同研究の進展ととも

に、新タイプの酸化チタン開発に加え光触媒コーティン

グ材を製品化した。中流に属する企業としては、元来、中

間材メーカーである日本曹達と、中流から下流へと広範

にビジネスを展開するTOTOの2社が存在する。藤鴫。

橋本研究室と1990年に他社に先駆けて産学連携を開始L

たTOTOは、抗菌タイルの製品化に向けて、タイル表面

に酸化チタンを燃成するプロセス技術を開発するなど、

光触媒の研究開発に関して明確な企業戦略を持っていた。

藤|嶋・橋本と連携関係を持つ下流企業としては、KAS'且、

プロジェクトに参加しトンネル用照明器具開発に貢献し

た東芝ライテック、TOTOからのライセンスを受け建材

用アルミパネルを開発したYKK、長期間に及ぶ開発を

JSTによる支援を受けて継続し、光触媒空気清浄機の製

品化に成功した盛和工業がある(馬場・鎗目、2007)。

一方、光触媒ブームと光触媒に関する研究会の組織化

を受けて、1990年代中期以降、多数の企業が藤嶋・橋本

と共同研究を開始した。このようなケースの場合、産学

連携は光触媒に関する論文発表、マスコミ発表、研究集

会での成果発表を契機として|刑始された。しかし、この

種の企業が共同研究を継続することはまれであり、しか

も、上市実績を持つ企業であっても、製品の市場投入

後、市場の形成に失敗しているケースが圧倒的に多いニ

この種の企業の場合、企業活動の多角化目的で光触媒技

術が利用される傾向があり、企業は製品市場、特にユー

ザーニーズに関する適切な既存知識を欠くため、製品ス

ペックの設定に失敗したと考えられる。

本稿は、光触媒分野のイノベーションの特性を分析す

るにあたり、サンプル企業のうち6社からなる製品上市

企業が、特許の共同出願に加えて藤鴫・橋本と論文の共

同執筆実綴を持つ事実に注目する。4)筆者らは、藤嶋≦

橘本という大学研究者と特許の共同出願に加え、論文の

一橋ビジネスレビュー2013WIN.15

[特集論文-I]

パスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦

共同執筆実績を持つ企業研:究者をコア研究者と呼び、コ

ア研究者が所属する企業の研究開発の生産性に有意な効

果を与えることを明らかにした(Babaeta1.,2006)。本

稿においては、コア研究者が所属する企業をコア企業と

呼び、コア企業がどのような経緯から製品上市をするに

至ったかの考察を進める。

そもそも、数多い特許出願パートナー企業のなかで、

特定企業はどのようにして藤嶋・橋本と論文を共同執筆

することになったのであろうか。本稿は、日本における

産学連携において、産学による共同執筆論文の出版が、

共同研究から生まれる研究成果の科学的水準に加え、共

同研究の経緯に見られる社会的関係から影響を受けた可

能性に着目する。具体的にいえば、日本において産学の

共同執筆論文は両者の緊密な社会関係によって実現され

る傾向があり、3分の1以上の共同執筆論文が、博士号

の取得目的を含む企業研究者の1年以上の長期派遣と数

週間~数カ月レベルの短期派過の成果から生まれている

(Hicksetal.1996)。実際に藤嶋・橘本の産学連携を観

察すると、コア企業との共同執筆論文は、2年にわたる

協力研究員としての在籍、または、最低3年にわたる社

16一橋ビジネスレビュー2013WIN

会人博士課程への在学という企業から大学への企業研究

者の長期派遣の結果として生まれている。

再説すれば、先端素材分野においては、企業のイノベ

ーションにつながる製品開発は、大学と企業の双方向で

の情報共有によって初めて可能になる。大学は科学的知

見に基づいたマテリアルデザインを企業に提供すること

に加え、企業から持ち込まれる問題の解決プロセスを通

じて企業支援のためのノウハウを蓄積し、企業パートナ

ーに対して技術・市場特性に応じたコンサルティングを

提供する。企業がパスツール型科学者によるコンサルテ

ィングを継続的に受けた結果として、企業にはコア研究

者が育成され、光触媒の研究開発コミュニティーに流通

する情報を製品化のために役立てる科学技術に対する吸

収能力(CohenandLevinthal.1990)が生まれる。藤嶋・

橋本と連携するコア研究者に対するインタビュー調査か

らは、コア研究者が企業の製品開発において発生する

数々の問題を解決し、プロジェクトの推進において重量

級のプロジェクトリーダー(ClarkandFujimoto.1991)

としての役割を果たしたことが明らかになっている。製

品上市に至った企業においては、企業が大学と連携して

育成した研究人材を最大限に活用してイノベーションへ

の挑戦が実現されている。

さらに、製品上市に至ったコア企業の企業戦略を見る

と、こうした企業は本業分野の市場展開において光触媒

を利用している。先端素材分野においては、イノベーシ

ョンの実現のためにユーザーニーズを的確に製品に盛り

込むことが不可欠であり、そのためには企業がユーザー

と緊密な関係を構築していることが前提となる。光触媒

分野においても、企業は自社が長期にわたりビジネスを

展開した結果、ユーザーに関する固有の経験と知識を有

する分野において製品上市が見られる。対照的に、光触

媒を利用して経営の多角化を試みる場合、盛和工業が光

触媒フィルター開発から空気清浄機市場に参入するため

に8年かかったように、長期の開発期間が必要になる。

開発の長期化はプロセス技術開発に要したリードタイム

であるが、未知であった空気清浄機ユーザーとの情報チ

ャネルづくりのために必要な時間でもあった。関連して

いえば、企業が従来の藤|鴫・橋本との産学連携の延長線

上で進める光触媒に関する共同研究は目立った成果を挙

げておらず、一般的にも、既存の人脈に依存して行う産

学連携は、製品化の見地から効果が挙がらないことが知

られている(FloridaandCohen.1999)。

! まとめ

本稿は、日本の産学連携がどのように企業のイノベー

ションへの挑戦を可能にしているか、光触媒産業の立ち

上げに大きく貢献した東京大学の藤嶋・橋本の産学連携

を対象に事例を分析した。まず、本稿は、企業化する科

学者の行動動機に関する最近の研究動向を受けて、科学

の進歩とともに社会貢献を重視する科学者類型としての

パスツール型科学者がイノベーションにおいて果たす役

特集

産学連携を問う

割に着目した。実際のところ、長期にわたり公的セクタ

ーに属した日本の大学の研究者には、その研究開発の設

計・実施において、社会のために貢献するという行動動

機がすり込まれている側面があり、本稿が示したように

藤嶋・橋本の活動において顕著に見られたのは、単なる

研究のための研究をめざすことなく、その端緒から成果

の社会還元を意図した研究開発戦略であった。

産学連携におけるパスツール型科学者の可能性を示し

た後、本稿は、パスツール型科学者がどのようにして企

業のイノベーションへの挑戦に貢献しているか、藤鴫・

橋本の研究開発活動を歴史的に展望し、連携企業との活

動に関するデータベース分析とインタビュー調査により

分析を進めた。光触媒が属する先端素材分野では、イノ

ベーションのために大学と企業による知の共創が不可欠

であり、本事例からは、パスツール型科学者がその科学

的知見をもとに多様な企業と連携して製品化のためのノ

ウハウを蓄積し、広く企業にコンサルティングを提供す

ることによって、研究開発コミュニティーにおけるイノ

ベーションへの挑戦を主導している姿が明らかになった。

企業が産学連携によってイノベーションに挑戦する場

合、当然ながら企業の研究開発とプロジェク1、運営に関

して中核的な役割を果たす研究開発人材が必要になる。

本事例は、藤鵬・橋本と共同執華論文を出版するほど深

くコミットメントを持つ企業研究者は、イノベーションの

ために研究開発コミュニティーに流通する情報を有効活

用するための吸収能力を独得し、企業が推進するプロジ

ェクトにおいて重量級プロジェクトリーダーの役割を果

たすことを示|俊する。産学連携でこのような能力を持つ

コア研究者を育成するためには、大学におけるパスツー

ル型科学者の存在に加え、企業から大学への研究人材の

派遣に代表される大学と企業の緊密な連携が必要である。

産学連携によるイノベーションへの挑戦で先行する光

触媒分野で認められた事実は、大学と企業に対して一定

の含意を与える。第1に、日本の産学連携において、ノー

スツール型科学者の果たす役割の可能性が確認されたこ

・橋ビジネスレビュー2013WIN.17

[特集論文-I

パスツール型科学者によるイノベーションへの挑戦

とは重要である。近年、大学から企業への特許ライセン

スの供与等、大学から企業への技術移転による貢献が社

会的に期待されている。しかし、その種の技術移転が産

業育成に直接つながるのは医薬、ソフトウェアなど、限

られた分野であることが明らかになりつつある。光触媒

のケースが示すように、先端素材分野の場合、上流かち

下流にわたる多数の企業が複雑に提携して初めて新産業

が形成される。大学が提供する科学技術がイノベーシ室

ンを生むためには、関連する企業が継続的に複雑な問題

を解決することが必要になる。このような条件を満たす

ためには、大学が企業に適切なコンサルティングを継続

的に提供し、そのプロセスを通じて企業に必要な能力を

持つ研究開発人材を多数育成することが不可欠となる雪

第2に、企業が産学連携から製品上市に至るためには

企業は大学との連携に本腰を入れなくてはならない。評

判の高い大学発の技術に多角化目的で関心を示す産学連

携は失敗する確率が高く、本業分野で成功しようとする

場合においても、企業は大学との共同研究に深くコミッ

トしなければならない。イノベーションにつながる産学

連携とは、大学と企業の長期にわたる緊密な連携であ

り、本事例は、産学連携から成果を得るためには連携に

対する企業の不退転の取り組みが不可欠であることを示

している。

さらに、イノベーションに向けた産学連携のための大

前提は、その背景に活力ある研究開発コミュニティーか

存在することである。コミュニティーの構築には、大学

におけるパスツール型科学者の卓越した研究能力と研究

成果の社会還元に対するプロアクティブな姿勢が必要に

なる。パスツール型科学者の研究開発戦略が産学連携に

おける成功事例という形で顕在化することによって、新

産業の形成に関する産業界の期待が高まり、多くの企業

がコンサルティングを求めて大学に接触し、さらに公的

機関によるさまざまな支援が実現される。5)光触媒分野に

おけるイノベーションを評(illiするときに、藤Ilル・橋本の

卓越した研究能力が果たした科学的貢献に焦点をあわせ

18一橋ビジネスレビュー2013WIN

るのは十分でない。藤''1ル。橋本の製品コンセプトを上市

につなげたのはあくまでも企業であるから、むしろ光触

媒の事例は、大学におけるパスツール型科学者がイノベ

ーションに挑戦する企業の研究人材を育成すると同時

に、研究開発コミュニティーの椛築を主導したという点

で、日本の産学連携のベストプラクテイスというべきも

のであり、こうした藤l鴫・橋本の社会に向けた研究開発

活動からは学ぶべき点が多い。画

F~詞'弘二J1隼、

盃血

馬場靖憲(ばば・やすのり)

1952年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業、サ

セックス大学博士課程修了(Ph.D.)。サセックス大学

科学技術政策研究所(SPRU)リサーチ・フェロー、

文部科学省科学技術・学術政策研究所主任研究官、東

京大学人工物工学研究センター教授を経て、現職(同

大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻兼務)。主な著作:"Academic

EntrepreneurshipandExchangeofScientificResources:Material

TransferinLifeandMaterialsSciencesinJapaneseUniversities."(共著、

Ame"banSociologicaノReview)、「産学連携の実証研究」(東京大学出版

会)など多数。

七丈直弘(しちじよう。なおひろ)

1970年生まれ。東京大学理学部数学科卒業、同大学ナ

学院工学系研究科システム量子工学専攻修士課程・

博士課程修了。博士(工学)。同大学大学院情報学環准

教授、早稲田大学高等研究所准教授を経て、2012年

12月より現職。主な著作:「文化産業を支えるイノバ

Japanにおける技術と産業の連関」「電子情報通信学一シヨンーCoolJapanにおける技術と産業の連関」「電子情報通信学

会誌」96(1):2-5,「共引用クラスタリングによる研究分野の動的把握

に向けた試論」「情報知識学会誌J23(3):371-379。

鎗目雅(やりめ.まさる)

1969年生まれ。東京大学工学部化学工学科卒業。力i〆

フォルニア工科大学化学工学科修士課程修了(M.S.)o

マーストリヒト大学'MERIT-UNU/INTECH技術変イ号

の経済学・政策研究プログラム修了(Ph.D.)。東京大

学先端科学技術研究センター、文部科学省科学技術

学術政策研究所、東京大学大学院新領域創成科学研究科を経て、2013

年4月より現職。主な著作:FromEnd-of-PipeTechnologytoC/ean

形chnology:Environmen崎/Po/にyandTechnologicaノChangeinthe

Chlor-Aika"加dust〃加七¥panandEurope(VDMVerlag)など多数。

I注

l経済産業街関連では、2(103年から開始された新エネルギー・産業技

術総合開発機椛(NKDO)助成による「光触媒利ⅡI間機能住宅ノ11部

材プロジェクト」(都市温暖化防止など)に橋本がプロジェクトリー

ダーとして参加し、TOTO等企業メンバー7社を取りまとめている。

文部科学省|Ⅲ連プロジェクトとしては、光触媒関巡の職略的‘1]造研

究推進事業(CREST)の一環として2003年に5年計画で立ち上がっ

た「エネルギーの高度利用に向けたナノ櫛造材料・システムの創製」

プロジェクトにおいて、藤嶋が指抑を執っている。また、光触媒は

20(11年から5年間、科学研究澱補助金の特定領域研究の対象とされ、

藤嶋・橋本は「光;機能界而の学理と技術」プロジェクトに参加して

いる。

2特許共同出願ネットワークの櫛築の具体的な手法は次のとおりであ

る。1970年1月1日から2013年8月31日までに日本N特許庁に対し

て出願され、公開された特許のなかで、光触媒に関するものを以下

の方法で特諦データベースPATOLISを用いて抽出した。検索条件

は、PATOLISデータベースにおいて「光触媒」をキーワードとして

付与されたもの、あるいはi-TとしてBOlj;!,-)()2J(光触媒)、あるい

はB01D533()J(光によって反応する触蝶)が付与されたもの、と

した。これらの出願将紳に現れる「出願人」に蒜IIし、同一特iM:に

共に名前が現れる者同士を結んでネットワークを作成した。ネット

ワーク形成の過程を明らかにするために、「y年以前に出願された特

帥」によって上記の手法により柵成されるネッ1、ワークを「y年の

|参考文献

特集

産学連携を問う

共|司出願ネツ1、ワーク」とした。以下では、このネットワークにお

ける主要なネットワーク指標の時系列での変化を見ている。

3光触媒の属する先端素材分野においては、企業は共同研究の成果に

韮づいて特許を取得することが有益である。そのため、藤鴫.橋本

が何らかの形態で産学述挑を行うパートナー企業であっても、その

活動が特許の出願に及ばない企業は分析の対象外とした。また、一

般的に特定の特許から1つの製品が生まれると仮定するのは非現実

的であり、企業の出願特許と市場化された製品間に一義的な関連を

認めるのは難しい。しかし、本稿においては、特許と製品内容を企

業柵報と製品カタログによって粕恋して特許と製品のペアを作成し、

それを企業インタビューによって確認した。

4藤鯛・橋本は、TOTOあるいは石原産業との共同研究をもとにそれぞ

れ4編の共同執誰論文を発表し、その他4企業とは各1編の共同執

錐突紙を持つ。

5コミュニティーのネットワークが一度形成されると、悩報の流れが

その内部にとどまり、ネットワークの外部組織から学ぶことが難し

くなってしまい、ネットワークへ埋め込まれ過ぎてしまう(over-

embeddedncss)可能性が指摘されている(GulatiandGargiulo.

1999)。しかし、光機能材料研究会は最近に至るまで溌爽に新規会員

をmやしており、開催する光触媒シンポジウムにおいては、同分野

で顕著な功裁を挙げた研究者が従来の関係をIliiわず招待され講淡を

しているため、指摘された問題は発生していないと考えられる。

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