固体医薬品の安定性評価-光 安定性を中心として - J-Stage

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Review J. Soc. Powder Technol., Japan, 44, 367-376 (2007) 固体医薬品の安定性評価-光 安定性を中心として- Evaluation of Stability of Solid Pharmaceutical Drugs: From the Viewpoint of Photostability 松田 芳久 Yoshihisa Matsuda The photolytic degradations of photolabile solid drugs are very complex and therefore difficult to quantitatively analyze the results because they are typical topochemical reactions differing from those in aqueous media. In this article, based on the results of several works performed by the authors, some essential and important problems and factors (e.g., effects of temerature, humidity, irradiation wave- length and intensity of light source, particle size, crystal forms) for rational evaluation of photostability of these drugs are presented and extensively discussed. Keywords: Photolabile drug, Photostability, Polymorph, Crystal form 1.は じめに 「くす り」 は 原 薬 の ま ま で 投 与 した り服 用 さ れ る こ と は な く,必 ず 製 剤 の 形 で 用 い られ る。 医 薬 品 の 製 剤 化 の 目 的 は,医 薬 品 の 安 全 性 や 安 定 性 を 十 分 に確 保 す る と と も に,患 者 に 投 与 さ れ る 際 に は 製 剤 と して の適 用 性(服 用性)を 考 慮 しつ つ,体 内で薬効を最大限に 発揮 させることにある。 ところで,最 近,高 度 な薬理活性を もつ優れた医薬 品 が 開 発 さ れ る に つ れ て,こ れ ら の製 剤 化 の 過 程 に お け る プ レ フ ォー ミュ レー シ ョン(予 備 処 方 化 設 計)の 重要性に対する認識がますます深まっている。製剤研 究 の 源 流 に 位 置 づ け ら れ る プ レ フ ォ ー ミ ュ レー シ ョ ン 段 階 で は,原 薬 の 基 本 的 な 物 性 で あ る 物 理 薬 剤 学 的 及 び 生 物 薬 剤 学 的 特 性 な ど を 明 らか に す る と と も に,望 ま し くな い 特 性 を 改 善 し,こ れ ら の 情 報 に 基 づ い た 最 適 な剤 形 の プ ロ トタ イ プ を 設 計 す る こ とを 目的 と して い る 。 医 薬 品 の 開 発 過 程 で は,一 般 に膨大 な化 合 物 の 中 か らス ク リー ニ ン グ に よ って ご く少 数 の 候 補 物 質 が選択 されるが,最 終剤形のいかんを問わず,化 合物 の 大 多 数 は 結 晶 状 態 で 取 り出 さ れ て い る状 況 に 鑑 み る と,結 晶や粉体状態での原薬の物性を詳細かつ的確 に把握 しておくことは,そ の後の開発計画を円滑に進 め る上 に お い て き わ め て 重 要 で あ る。 実 際 に,開 発 を 急 ぐあ ま り,プ レフ ォー ミュ レー シ ョ ン過 程 での検 討 が 不 十 分 と な り,思 わ ぬ 事 態 発 生 の た め に 開 発 計 画 に 狂 い を生 じた り,余 計な経費や時間を浪費してし ま っ た と い う話 は,時 々,耳 に す る と こ ろ で あ る 。 こ ため,米 国薬 方(USP)で は,製 のin vitro- invivo評 価を行う際の原薬の物理化学的特性の重要 性 が 強 調 され て い る。 した が っ て,適 切 な 情 報 の 収 集 とその解析 は,固 形製剤のような不均一系製剤の開発 に お い て は と く に 重 要 で あ る。 ま た,医 薬 品 を 一 つ の 有 機 化 合 物 と して 眺 め た 場 合,い ず れ も複 雑 な化 学構造 を も って いるの で,製 剤 工 程 中 や 製 剤 化 さ れ た 後 で も種 々 の環 境 因 子(機 械的 外 力,温 度,湿 度(水 分),酸 素,光 な ど)に 対 して 不 安 定 で あ り,化 学 的 あ る い は物 理 的 変 化 を き た す も の が 少 な くな い 。 特 に,前 者 の 場 合 に は,分 解 物 の 生 成による有効性の低下だけでなく副作用の発生の恐れ 2007年3月12日受 付 神戸薬科大学 (〒658-8558神 戸市 区本 山北 町4-19-1)TEL 078-441-7526 KobePharmaceutical University (Motoyama, Higashinada, Kobe 658-8558, Japan) <著者 紹 介> 昭 和39年京 都 薬科 大学 薬 学 部 卒 業。 昭和41年 京 都 大学 薬 学 部助 手,昭 和47年神 戸 女子 薬 科 大 学(現 神 戸薬 科大 学)講 師,助 教授 を 経 て昭和57年教授(製剤学)。薬 学 博士。粉 体 工 学 会評 議 員 。平 成18年定 年 。現 在,特 別 教 授,名 誉 教 授 。 専 門:結 晶 及 び粉 体 レベ ルか らみ た固体 医 薬 品 の安 定 性 評 価 と安定 化 の た め の製 剤設 計, 製 剤 工学 Vol.44 No.5 (2007) (35) 367

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解 説Review

J. Soc. Powder Technol., Japan, 44, 367-376 (2007)

固体医薬品の安定性評価-光 安定性を中心 として-

Evaluation of Stability of Solid Pharmaceutical Drugs:

From the Viewpoint of Photostability

松田 芳久Yoshihisa Matsuda

The photolytic degradations of photolabile solid drugs are very complex and therefore difficult toquantitatively analyze the results because they are typical topochemical reactions differing from those inaqueous media. In this article, based on the results of several works performed by the authors, someessential and important problems and factors (e.g., effects of temerature, humidity, irradiation wave-length and intensity of light source, particle size, crystal forms) for rational evaluation of photostabilityof these drugs are presented and extensively discussed.

Keywords: Photolabile drug, Photostability, Polymorph, Crystal form

1. は じめに

「くす り」 は原 薬の ま まで投与 した り服 用 され る こ

とはな く,必 ず製 剤の形 で 用 い られ る。 医 薬品 の製剤

化 の 目的は,医 薬 品の安 全性 や安 定性 を十分 に確 保 す

る とと もに,患 者 に投与 され る際 には製 剤 と して の適

用性(服 用性)を 考 慮 しつ つ,体 内で薬 効 を最大 限 に

発揮 させ るこ とにあ る。

ところで,最 近,高 度 な薬理 活性 を もつ優 れ た医薬

品 が開発 される につれ て,こ れ らの製 剤 化 の過 程 にお

ける プ レフ ォー ミュ レー シ ョン(予 備 処 方化 設計)の

重要 性 に対す る認識 が ます ます 深 ま ってい る。製 剤研

究の 源流 に位置 づ け られ るプ レフォー ミュ レー シ ョン

段 階 で は,原 薬 の基 本 的な物 性 で ある物 理薬 剤学 的及

び生物 薬 剤学 的特 性 な どを明 らか にす る と ともに,望

ま し くない特 性 を改善 し,こ れ らの情報 に基 づ いた最

適 な剤 形 の プ ロ トタイ プを設計 す る こ とを 目的 と して

い る。 医薬 品 の 開 発 過 程 で は,一 般 に膨大 な化 合 物

の 中か らス ク リーニ ングに よ って ご く少数 の候 補物 質

が選択 され るが,最 終 剤形 の いかん を問 わず,化 合 物

の大 多数 は結 晶状 態 で取 り出 されて い る状 況 に鑑 み る

と,結 晶や 粉 体 状 態 で の原 薬 の物 性 を 詳細 かつ 的 確

に把握 して お くこ とは,そ の後 の開発 計画 を 円滑 に進

め る上 にお いて きわ めて重 要 であ る。 実 際 に,開 発 を

急 ぐあ ま り,プ レフ ォー ミュ レー シ ョ ン過 程 での検 討

が不 十 分 と な り,思 わ ぬ事 態 発 生 の た め に 開発 計 画

に 狂 い を生 じた り,余 計 な経 費 や時 間 を浪 費 して し

ま った とい う話 は,時 々,耳 にす る ところで あ る。 こ

の ため,米 国薬 局 方(USP)で は,製 剤 のin vitro-

in vivo評 価 を行 う際 の原薬 の物 理化 学 的特性 の重 要

性 が強 調 され て い る。 したが って,適 切 な情報 の収 集

とその解析 は,固 形製 剤 の ような不均 一 系製 剤 の開発

に おいて は と くに重要 で あ る。

また,医 薬 品 を一 つ の有 機 化 合 物 と して 眺 め た場

合,い ず れ も複 雑 な化 学構造 を も って いるの で,製 剤

工 程 中や製 剤化 され た後で も種 々の環 境 因子(機 械的

外 力,温 度,湿 度(水 分),酸 素,光 な ど)に 対 して

不 安定 で あ り,化 学的 あ るい は物 理 的変 化 を きたす も

のが少 な くな い。 特 に,前 者 の場合 に は,分 解物 の生

成 によ る有 効性 の 低下 だ けで な く副作 用 の発 生 の恐 れ

2007年3月12日 受 付

神 戸 薬 科大 学

(〒658-8558神 戸市 東 灘 区本 山北 町4-19-1)TEL 078-441-7526

Kobe Pharmaceutical University

(Motoyama, Higashinada, Kobe 658-8558, Japan)

<著者紹介>

昭和39年 京都薬科大学薬学部卒業。昭和41年

京都大学薬学部助手,昭 和47年 神戸女子薬科

大学(現 神戸薬科大学)講 師,助 教授を経

て昭和57年 教授(製 剤学)。 薬 学 博士。粉 体

工学会評議員。平成18年 定年。現在,特 別教

授,名 誉教授。

専門:結 晶及び粉体 レベルか らみた固体医薬

品の安定性評価と安定化のための製剤設計,

製剤工学

Vol.44 No.5 (2007) (35) 367

もあるため,製 剤研究における客観的な安定性の評価

及び,こ の結果に基づいた合理的な安定化のための製

剤設計や包装設計は,有 効性の改善や向上とともに必

須の要件である。

本稿では,広 範囲な安定性研究の中で報告例の極あ

て少ない固体医薬品の光安定性に焦点を絞り,筆 者ら

の研究成果を中心にして,安 定性評価におけるいくつ

かの問題点について解説する。

2. 安定性の考え方と評価条件

2.1 公定書における安定性の定義

医薬品は人の健康の維持と疾病の治療に深く関与 し

ているので,種 々の法律やガイ ドライン,ガ イダンス

等,薬 事行政機関によって厳しい規制と指導を受けて

おり,各 国(地 域)と も重要な医薬品については品質

の恒常性を担保するための規格を定めた公定書(薬 局

方)を 発行 している。前述のUSP1)で は有効期間内

での製剤の安定性に関する考え方が述べ られている

が,こ れによると安定性は次の五つの広範囲な観点か

ら取 り扱われている。

①化学的安定性(有 効成分の化学的純度の変化)

②物理的安定性(外 観,含 量均一性,溶 出性,分 散

性など)

③微生物学的安定性(無 菌性,微 生物の増殖に対す

る抵抗性,抗 生物質の力価の低下など)

④薬効学的安定性(保 存製剤の経時的バイオアベイ

ラビリティの低下など)

⑤毒性学的安定性(分 解生成物や異物による副作用

の発現,刺 激性など)

2.2安 定性の評価条件

前項の主として①及び②に関して,ICH(日 米EU

医薬品規制調和国際会議)で の合意に基づき,我 が国

においても安定性試験ガイドラインが厚生労働省によ

って改定された2)。本ガイドラインは,新 原薬と新製

剤について,世 界的規模での単一の規格及び試験方法

の設定を促進することを目的としている。これによれ

ば,原 薬及び製剤の製造承認申請にあたっては以下の

ような概要の試験が必要 となる。ただし,中 間的試

験,苛 酷試験は必要に応じて実施する。

①長期保存試験

目的:表 示された貯蔵条件下に原薬及び製剤が保

存された場合に,そ の有効期間にわたって

品質が維持されることを実証するために行

う。

保存条件: 25±2℃/60±5% RH又 は30±2℃

/65±5%RH

ロ ッ ト数: 3ロ ッ ト以上

試験 期 間: 最 終 的 には表 示す る有効 期 間以上 。 申

請 時 に は少 な くと も12ヵ 月

② 中間的試 験

保 存条件: 30±2℃/65±5%RH

ロ ッ ト数: 3ロ ッ ト以上

試験 期 間: 6ヵ 月以 上

③ 加速 試 験

目的:原 薬 及 び製剤 が その有 効期 間 にわ た って表

示 され た貯蔵 条件 に保 存 され た時 の安 定性

を,短 期 間 の試験 によ って予測 す る ことに

よ って,長 期 保存 試験 の結 果 を支持 す るた

め の デー タを得 るため に行 う。

保 存条 件: 40±2℃/75±5%RH

ロ ッ ト数: 3ロ ッ ト以上

試 験期 間: 6ヵ 月以 上

④苛 酷試 験

目的:生 成 の可 能性 が あ る分解 生成物 を 同定す る

と と もに,そ れ によ って分解経 路 や医薬 品

本来 の安 定性 を明 らか に した り,安 定性 試

験 に用 い る分析 方法 の適 合性 を確認 す るた

め に行 う。

保 存条 件:加 速 試験 の温 度条 件 よ りも10℃ ずつ

高 くな って い く温 度(例 えば,50℃,

60℃,・ ・)及 び適 切 な湿度(例 えば,

75% RH以 上)

ロ ッ ト数: 1ロ ッ ト

なお,加 速 試験6ヵ 月 の いずれ かの 時点 で規格 値 か

らの逸脱 又 は それ に相 当 す る明確 な品 質変化 が み られ

た場 合 には,中 間的 な条件 で試 験 を行 わ なけれ ばな ら

な い(中 間 的試 験)。 ま た,加 速 試 験 又 は中間 的試 験

によ る成 績 は,輸 送 中 に起 こ りえ る貯 蔵方法 か らの短

期 的な逸 脱 の影響 を評 価 す るため に利 用 され る。

⑤ 光安 定性 試験

1996年11月 にICHに お いて合意 された 「光 安定

性試 験 ガ イ ドライ ン」 に基づ い て,国 際的 に共通

した試 験が 実施 され て い る。

目的:新 原 薬及 び新 製剤 が,曝 光 に よ って許 容 で

きな い 変 化 が 起 こ らな い こ とを 示 す た め

に,こ れ らが 本来 有 す る光 に対 す る特性 を

評価 す る。

光 源:以 下 に示 す オプ シ ョンの光 源 のいず れか を

用 い る。

ア オ プ シ ョン1

368 (36) 粉体 工 学会 誌

Table 1 Kinetic equations for the most common mechanism of solid-state reactions

D65 (ISO 10997 (1993)に 規定 され て

い る屋 外 の昼光 の標 準光 源)又 はID65

(D65と 同 等 の室 内 の間 接 的 な昼 光 の標

準 光源)の 放射 基準 に類 似 の 出力 を示 す

よ うに設計 された光 源。

[例]昼 光色 蛍 光 ラ ンプ,キ セ ノ ン ラ ン

プ,ハ ロゲ ンラ ンプ等。

イ オプ シ ョン2

ISO 10997に 類 似 の 出 力 を示 す 白色 蛍

光 ラ ンプ及 び所 定 の近紫 外 ラ ンプ

光 照射:光 安定 性 を確証 す るた めの試 験(確 証試

験)で は,総 照 度 と して120万lx・h

以 上及 び総 近紫 外放 射 エ ネル ギー と して

200W・h/m2

ロ ッ ト数: 1ロ ッ ト

3. 固体反応速度論

3.1 反応速度式

溶液状態における薬物の分解については,分 解機構

と反応速度論に基づいた理論式が誘導されており,こ

れによって分解速度定数を定量的に算出することがで

きる。 しかし,固 体状態での薬物の分解(特 に後述す

る光分解)は トポケミカルな不均一系反応であり,分

子状態で存在する溶液中での反応よりも分解速度はは

るかに小さい。したがって,そ の分解を理論的に表す

速度式 も溶液状態の分解よりはるかに複雑である。こ

のため,理 論式の誘導が可能な場合には,こ れに従っ

て速度定数を求めることができるが,分 解に及ぼす要

因が複雑で分解機構が解明できない場合には理論式が

誘導できないため,種 々の実験式(経 験式)が 利用さ

れている。Table 13)に固体反応速度論において汎用

され て いる主 な理論 式 と実験 式 を示 す。 しか し,こ れ

らの理 論 は未 だ十分 に体 系化 され るまで には至 ってお

らず,広 く応用 で き る確 立 され た理論 は現 在 で も存 在

しない。 したが って,固 体状 態 での安 定性 を予 測 す る

場合 に,分 解機 構 を完全 に把 握 して数 値 的 な処 理 を行

うのは至難 の技 で あ る といえ る。

3.2 分解速 度 の温 度依 存性

光 分解 に おいて も分解 速度 の 温度依 存性 を把 握 して

お くことは,製 剤 の保 存条件 を設定 す る際 に重要 で あ

る。 分解 速度定 数 に及 ぼす 種 々の 因子 の うち,温 度の

影響 につい ては古 くか らア レニ ウス式Eq.(1)が 適用

され,医 薬品 の安 定性 予測 に おい て も極 め て有用 で あ

る ことが認 め られ て い るが,こ の式 は固体反 応 にお い

て も成立 す る。

Ink=-Ea/RT+lnA (1)

したが って,前 項 で述 べ た加速 試験 にお いて数水 準 の

温 度 条 件 に お け る分 解 速 度 定 数 が 得 られ れ ば,Eq.

(1)を 用 い て室温 下 にお け る安 定性 を予 測す る ことが

可能 であ る。 た だ し,こ の予 測 が で き るの はEq.(1)

の頻 度 因子A及 び活性 化 エネ ルギ ーEaが 実 験温 度範

囲 内で一 定 とみ なせ る場合 で あ るが,反 応機 構 や試料

の性 状 が変化 す れば これ らの値 も当然変 化す るので,

この関係 は成 立 しな くな る。例 え ば,極 め て低 い融点

(約48℃)を 示す 心不 全治 療薬 ユ ビデカ レノ ンの光分

解4)に おい ては,試 料 が最 初 か ら液 体状 態 に ある場合

には ア レニ ウス ・プ ロ ッ トは全 温 度範 囲 で良好 な直線

性 を示 したの に対 して,固 体試 料 の場合 には融 点以上

の温度領 域 で は融 解 して 液体状 態 とな るため に,融 点

に ほぼ等 しい46℃ 付 近 で傾 きの異 な る2本 の直 線 と

な る(Fig.1)。 この ため,こ れ らの直線 の傾 きか ら得

Vol.44 No.5 (2007) (37) 369

Fig. 1 Arrehenius plots for photolytic degrada-

tion in the solid-(○) and liquid-state

(●) samples of ubidecarenone

られ た 固体 状 態 及 び液体 状 態 に お け る活 性 化 エ ネ ル

ギ ー は,そ れ ぞれ27.9kJ/mol及 び13.1kJ/molと

な り,液 体状 態 の試料 の方 が 低 い値 を示す 。活 性化 エ

ネ ルギ ー にお いて両者 に相 違 が認め られ たの は,試 料

中での光 吸収 特性 の ほか に,反 応 に曝 され る分 子 の運

動性 も関係 して い るか らで あ る。 ま た,皮 膚潰 瘍治 療

薬 トレチ ノイ ン トコ フ ェ リル5)や,骨 ・カル シウム代

謝薬 メナ テ トレノ ン6)に つ いて は,活 性化 エ ネル ギ ー

はそ れ ぞれ11.2及 び2.46kJ/molで あ った 。 これ ら

の値 は溶 液 中 で の分 解 反 応(加 水 分解,酸 化 分 解 な

ど)に お け る数 値 に比 べ る と は るか に小 さ い。 さ ら

に,降 圧 薬 ニ フ ェジ ピン7)に つ いて も4水 準 の温度 条

件 下 にお け る分解 速 度定 数 の間 に は有 意 な相違 が認 め

られず,活 性化 エ ネル ギー は無視 で き る ことを踏 まえ

る と,光 分 解反 応 にお け る温度依 存性 は一 般 に極 めて

低 く,こ の ことは医 療現 場 で は薬用保 冷 庫 の中で も光

分解 が 容易 に進行 す るこ とを示 唆 して いる。

3.3 分 解速 度 の湿度 依 存性

固形製 剤 の変 質 の主 な原 因 と して は,保 存 中 の吸湿

に よる加 水 分解 や製 造工 程 の加熱 操作 にお け る熱 分解

な どが考 え られ る。 温度 に関 して は前 項 で述 べ た よ う

に分 解 速 度 定 数 との 間 に 明確 な関 数 関 係 が 成立 す る

が,湿 度 は種 々の メ カニ ズム に よ って薬 物 の分解 に影

響 を及 ぼ すため,分 解速 度 定数 に対 す る湿度 の影 響 を

一 般 的 に表 す ことがで き る式 はな い。 これ まで経 験 的

にEq.(2)が 用 い られて お り,睡 眠薬 ニ トラゼパ ム8)

や抗生 物 質で あ るペ ニ シ リン類9)な どの分解 が温 度及

び相 対湿度RHの 関数 と して整 理 で きる こ とが報 告 さ

Fig. 2 Semilogarithmic plots of the effect of

water vapor pressure on discoloration

rate constant for compacts containing

anatase form (○) and rutile form(●)

of TiO2

れ て い る。

Ink=-Ea/RT+lnA'+B・RH (2)

これ に対 して,Yoshiokaら10)は 消化 性潰瘍 治 療薬 臭

化 プ ロパ ンテ リンな どの固体 状態 で の加水 分解 速度 定

数 の湿 度依 存 性 につ いて,水 蒸気 圧Pを 導 入 したEq.

(3)に よ って説 明 で きる ことを報告 して い る。

Ink=-Ea/RT+lnk'+SlnP (3)

一 方 ,筆 者 らは消 化 性 潰 瘍 治 療 薬 フ ァモ チ ジ ン11)

や抗 ア レル ギ ー薬 メキ タ ジ ン12)に光 照射 した 際 に,

添 加剤 で あ る酸化 チタ ンの存在下 で湿度 の影 響 を受 け

て 着 色 変 化11)や 光 分 解12)を 起 こ す こ と を 確 認 した

が,こ れ らの場合 にお ける着色速 度 定数 や分 解速 度定

数 々 は水 蒸気 圧Pの 関数(Eq.(4))と して表 され,

これ らのパ ラ メー タは酸化 チ タ ンの種類(す な わ ち,

光 触媒 活 性 の違 い)に よ って影 響 の受 け方 が異 な る こ

とを認 め てい る。Fig.2に フ ァモチ ジンの場合 にお け

る結 果 を示 す。

lnk=1nk0+γ ・lnP (4)

この よ うに,相 対 湿 度 は温 度 に よ って変 化 す るの

で,湿 度 の 影響 を定量 的 に考察 す る場合 には,水 蒸 気

圧 の関数 と して整 理 す るのが合 理 的で あ る。

4. 固体 医薬 品 の光安 定性

4.1 光 安定 性 の評価 にお ける問題 点

光 に よ って変 化す る薬物 は多数 報告 されて い るが,

その分解 機 構 は極 めて複雑 で あ る。光 分解 は一 般 に複

雑 な分解 経 路 を示 し,多 数 の分解 物 を生成 す る場合 が

多 い 。 この た め,前 述 のICHに お け る光安 定 性 試 験

370 (38) 粉体 工学 会誌

法のガイドラインが最終合意されるまでは,光 安定性

情報に関する製薬メーカー各社の取扱いはまちまちで

あり,光 安定性評価のための実験条件は企業間で十分

な整合性が確認されているとはいえなかったのが実情

である。これらの状況は,原 薬の固体状態における光

安定性を評価する際に,以 下の難点が常に付きまとう

ことに関係 している。

1. 光による医薬品の物性変化は,粒 子表面又はそ

の近傍に限定された トポケミカル反応であるこ

2. 固体光化学反応には試料の大きさに起因する

scale effect(後 述)が 関係するために,必 然

的に溶液系におけるような普遍的な分解率を定

義できないこと

3. 光源によって照射強度や分光放射エネルギー分

布が異なること

4. 医薬品についても分子構造に起因 して光感受性

において波長依存性を示すこと

これらの問題点を考慮 して光安定性を評価する際に

留意すべき実験項目をあげると,① 光源の種類,② 光

源の強度及び分光放射エネルギー分布,③ 照射波長,

④積算照射量,⑤ 試料の形状,大 きさ(粒 子径),充

填密度,表 面状態など,⑥ 容器の素材(光 透過性)な

どとなり,安 定性評価に及ぼす実験条件は極めて多岐

にわたり,か つ複雑である。

4.2 光安定性

4.2.1 物理化学的安定性

a. 着色現象における波長依存性

固体医薬品の光に対する挙動として外観変化(着

色,変 色など)と 内部変化(化 学的変化)が あるが,

両者の間には何 らかの関係を有する場合が少なくな

い。したがって,肉 眼によって容易に確認できる外観

変化は第1選 択の評価項目として有用であるが,評 価

基準や表示法については未だ公的な統一見解が出され

るまでには至っていない。このような医薬品について

は,日 本薬局方では性状の項において,例 えば,"本

品は光によって(徐 々に)着 色する"な どという定性

的な表現に留まっているのが現状である。

筆者らはこれらの医薬品のなかから8種 類の試料を

選び,回 折格子型照射分光器によって300~475nm

の波長範囲(「 ガイ ドライン」中でオプション2に 該

当する波長領域)で 同一強度の単色光を波長ごとに照

射 し,こ の際の錠剤表面の着色の波長依存性を検討 し

た13)。この結果,着 色の程度や安定性に及ぼす波長の

影響は試料によって著しく異なることを認めた。光源

Fig. 3 The double-logarithmic plot for the color

change process under mercuryvapor

lamp (●) and fluorescent lamp (○)

Fig. 4 The double logarithmic plot for the color

change process based on the total irra-

diation intensity under mercury vapor

lamp (●) and fluorescent lamp(○)

が異なると分光放射エネルギーも異なるので,こ の

ことは,光 源の種類に依存 してこれ らの医薬品の着

色度の順位 も当然異なることを示 している。事実,

4種 類の光源のもとで曝光 させた場合の着色度の経

時変化は,こ れらの光源下で必ず しも一致 しなかっ

た。これらの結果から,光 安定性に関しては,温 度の

場合のように加速実験によって通常の照射条件下での

安定性を予測することは一般には困難であるといえ

る。

b. 加速試験による光安定性予測の可能性

筆者 らは光照射による着色度(色 差ΔE)の 経時変

化と照射時間tと の間に反応速度式に類似したEq.

(5)の 関係(た だし,k及 びnは 定数)が 広範囲に成

立することを確認 している13)。

Vol.44 No.502 (7) (39) 371

Fig. 5 Relationship between color difference

(ĢE) and percent decomposition of

carbamazepine polymorphs

d(ΔE)/dt=k(ΔE)n (5)

Eq.(5)を 積 分 す る とEq.(6)と な り,こ の 式 に 基

づ け ば 両 対 数 紙 上 でDEとtの 間 に は 直 線 関 係 が 成 立

す る こ と に な る 。

logΔE=[1/(1-n}]logt+[1/(1-n)]

×log [(1-n)k] (n≠1) (6)

一例 と して,光 に よ って黄 色 か ら暗黄 色 へ変化 す る

ニ フ ェジ ピ ン7)を,照 射 強度 と分 光放 射 エ ネル ギーが

異 な る水銀 ラ ンプ(400W)と 蛍 光灯(20W)で 照 射 し

た 場 合,Fig.3の よ うに,い ず れ の 光 源 につ い て も

Eq.(6)に 従 ってΔEとtの 間 に は良好 な直 線 関係 が

成立 したが,同 一 の照射 時 間後 で は測色 色差 計 で測定

した着色度(ΔE)に は当然極 めて顕 著 な差異 が認 め ら

れ た。 しか し,こ の デー タをニ フ ェジ ピ ンの着色 に関

係 す る300~500nmの 波長 範 囲 に お け る両 光 源 の積

算照 射 エ ネル ギ ー に換算 して プ ロ ッ トし直 す と,Fig.

4の よ うに両 直線 はほ ぼ 一致 した。 す な わ ち,同 一 の

医薬 品 につ いて は,そ の医 薬品 の着 色(又 は分解)に

関係 す る波長範 囲 に おけ る全 照射 エネ ルギ ーが 同 じで

あれば,た とえ光 源 が異 な って もほぼ 同一 水準 まで着

色 す る。 このよ うな関 係 が成立 す る場合 には,照 射 強

度 の 大 き い光 源 を 用 い た短 時 間 の加 速 試 験 の 結 果 か

ら,通 常 の光 源下 にお ける長 時間照 射 後 の着色 状態 を

概 略的 に推測 す る こ とが可 能 で あ る。

外観変 化 と化学 的変 化 の間 に密接 な関係 が成 立す る

場 合 もある。Fig.5は,多 形現 象(後 述)を 示 す抗 て

んか ん 薬 カ ルバ マゼ ピ ン14)の3種 類 の結 晶(Ⅰ ~ Ⅲ

形)を 圧縮 成 形 した錠 剤 に つ い て,光 照 射 した際 の

表 面 色 の経 時変化 と,FT-IR正 反 射 スペ ク トル法 に

Fig. 6 Relationship between % degradation

and % absorption of irradiated light

energy

よ って得 られ た検量 線 を用 い て非破 壊的 に算 出 した錠

剤 表面 にお け る2次 元 分解 率 の関係 を示 す。 両者 の間

には片 対数:紙上 でいず れ の結 晶形 につ いて も良好 な直

線 関係 が成 立 してお り,着 色度(色 差)の 変 化 によ っ

て化学 的安 定性 を推測 す るこ とが で きる。 また,こ の

結 果 は結 晶形 に よ って着色 の程 度 が異 な るこ と も示 し

て い る。

4.2.2 化 学 的安 定性

a. 光吸 収 と分解

物 質 に光 が吸収 され た場合,基 本 的 に は以 下 の四 つ

の現 象 の うち,一 つ だ けが起 こる とされて い る15)。

1. 吸 収 した分 子 が分解 す る。

2. 光 エ ネル ギ ーは,こ れが化学 的 に利 用 され るま

で保持 され るか,ま たは,分 解 の有無 にかか わ

らず他 の分 子 に伝 達 され る。

3. エネ ルギ ー は熱 に変換 され るが,反 応 は起 こ ら

ない 。

4. 吸 収 した分子 は種 々の波長 の光(蛍 光又 は リン

光)を 放射 す るが,反 応 は起 こ らない。

有 機 医 薬 品 の大 半 は,上 記 機構 の1.に 基 づ いて 分

解 す る。 しか し,こ れ ま で述 べ て きた種 々の 理 由に

よ って 固体状 態 に お ける光分 解 の定量 的評 価 は一般 に

は行 いに くく,か つ,再 現性 は必 ず しもよ くない。 し

たが って,信 頼 性 の よ り高 い デー タを得 るた め には,

粒子 をで き るだ け微 細化 し,か つ均一 に分 散 させ た状

態 で曝光 させ る必要 が あ る。

Fig.64)は ユ ビデ カ レノ ンの希 薄エー テル溶 液 を ガ

ラス板上 に滴下 した後,溶 媒 を蒸 発 させ,再 結 晶化 し

た微 細 な試 料 に200~500nmの 一 定 強 度 の単 色 光 を

372 (40) 粉体 工 学会 誌

Fig. 7 Time-courses of photostability of tretinoin

tocoferil at different illuminances by D65

fluorscent lamp.

illuminances (lx): ●1000,△2000,◆3500,

□5000

波長ごとに照射した際に,光 エネルギー吸収率が分解

率に及ぼす影響を示す。両者の関係は片対数紙上で良

好な2本 の直線で示されたが,吸 収率が低い領域では

分解率は吸収率に対して極めて鋭敏に対応 したのに対

して,吸 収率が約43%を 超えると分解率の増加は鈍

化した。これは分解率の増加に伴う実質的な吸収率の

低下に起因しているためであると考えられる。また,

吸収率が30%以 下では実質的には分解は起こってい

ない。このことは,結 晶に光が吸収されても,光 エネ

ルギーは必ずしも分解に有効に利用されていないこと

を示唆しており,系 内の温度を上昇させるにとどまっ

ているものと推察された。

b. 光分解の速度論的取扱い

固体医薬品の光分解は不均一系反応の典型例の一つ

であり,利 尿薬フロセ ミド16)のように,分 解初期に

誘導期をもつような,光 に対して比較的安定な医薬品

では,Table 1に 示 した固体化学反応式が適用でき

る場合がある。しかし,筆 者らがこれまでに対象とし

てきた光に対 して(極 めて)不 安定な医薬品の大半

は,照 射直後に若干の急激な残存率の低下が認めら

れ,そ の後は見かけ上1次 反応過程で整理できた。こ

れ らに対 して,ト レチノイントコフェリル5)の よう

に,み かけ上2次 反応過程に従って分解が進行する場

合もある(Fig.7)。

c. 波長依存性

光分解と薬物分子の紫外可視部吸収特性との間には

密接な関係があり,そ の薬物の極大吸収波長から分解

に影響を及ぼす波長を推測することが可能である。ニ

フェジピン結晶7)では分解による残存率は380nm付

Fig. 8 Effect of wavelength on the photodeg-

radation of nifedipine after exposure

to light intensity of 5×104J/m2

○; nifedipine, □; nitroso-derivative,

△; nitro-derivative

近 で極 小 値 を示 し,500nm付 近 の可 視部 光 線 に よ っ

て も分 解す る ことが判 明 した(Fig.8)。 この結 果 は,

ニ フ ェジ ピ ン錠 の光 分 解 に及 ぼす 波長 の影 響 の しか

た17)にほぼ 一致 して いた。Fig.8に お いて380nm付

近 の臨 界波長 は,ニ フ ェジ ピン分 子 中の ニ トロ基 と ジ

ヒ ドロ ピ リジ ン環 に基 づ く特 徴 的 な 吸収 帯(325~

370nm)に きわめ て近接 して いた。 また,主 な分解物

であ るニ トロソ体 とニ トロ体 の うち,前 者 の生 成率 は

ニ フ ェジ ピンの 分 解 波 長 に 対 応 す るよ うな形 で380

nm付 近 に極大 値 を示 し,可 視部 で もかな り高 い レベ

ルで生 成 したの に対 して,後 者 は紫外 領域 の光 の みに

よ って選 択 的 に生成 し,420nm以 上 の可 視 光線 では

もは や生成 しなか った。 また,ト レチ ノイ ン トコフ ェ

リル も420nm付 近 で 極 大 分 解 率 を示 し,480nm付

近 の可 視光線 に よ って も分解 した。 この よ うに,分 解

に及 ぼす波長 の影響 は医 薬 品の 分子構 造 と密接 に関 係

し,ま ちま ちであ るの で,光 安定 性 の評価 は外 観変 化

の場合 と同様 に当然 の ことなが ら光 源の種 類 に よ って

異 な る こ とに な る。 したが って,光 安 定性 を適 切 に評

価 す るた めに は標準 光源 の設 定 はぜ ひ必要 で あ る。

d. 加速 試験 の可 能性

光分 解 にお いて加 速試 験 を行 うたあ に照 射強 度 の大

きい光 源 を利用 しな くて も,蛍 光 灯 を増設 す るか,ま

たは蛍 光灯 と試 料 間の距 離 を短縮 す る こ とによ って,

照 度 を任意 に調 節す る ことが可能 で あ る。 この場合,

光 源 が同 じで あれ ば,照 射 強度 は照 度 に比例 す る6)。

した が って,照 度 は温度 の場 合 に おけ る熱 エ ネル ギ ー

に対応 す る こ とにな り,分 解 速 度定数 の対 数値 と照 度

の逆数 の 間 にはFig,.9の よ うに ア レニ ウス ・プ ロ ッ ト

と同様 の 整理 が可 能 で あ る5,6,18)。この 結果 は,照 度

Vol.44 No.5 (2007) (41) 373

Fig. 9 Semilogarithmic plots of apparent

degradation rate constant against

the reciprocal of illuminance

を増大 す るこ とによ って短 時間 の実験 結 果 か ら通 常 の

照 射条 件下 にお ける安定 性 を定量 的 に予 測 す る ことが

で き るこ とを 明確 に示 して お り,光 に対 して不安 定 な

医薬 品 につ いて は本 法 の応 用性 は高 い と思 われ る。 な

お,医 薬 品分野 におい て は,蛍 光 灯 を光 源 とす る専用

の光安 定性 試験 器 が市販 され,汎 用 され て い る。

e. 結 晶性 及 び結晶 形 の影響

複雑 な分 子構 造 を もつ有機 医 薬品 の なか に は同一 の

化 学構 造 で あ って も結 晶構造 の異 な る もの が あ り,こ

れ を結 晶 多形 とい う。 これ は結 晶 内部 での 分子 配列 や

コ ンホ メ ー シ ョンの違 い に よ って 生 じる もの で あ る

が,最 近 で は医 薬品 の80%に 結 晶多 形 が存 在 す る と

い われ てお り,例 えば,フ ロセ ミ ドにつ いて は擬似 多

Fig. 10 Time-courses of the remaining per-

centage of forms A and B.

●, form A without light irradiation;

○, form A under light irradiation;

▼, form B without light irradiation;

▽, form B under light irradiation

形 も含 めて7種 類 の結 晶形 が確 認 され て い る19)。多形

現象 を示 す 医薬 品で は結 晶形 に よ って格 子 エネ ルギ ー

が異 な るの で,溶 解度 が異 な るこ とが知 られて い る。

一方,結 晶 内で の格子 配 列 に規則性 を もたな い非 晶質

は溶 解特 性 が大 き く改善 され る(し たが って,体 内 で

の吸 収性 の増 大 が期 待 で きる)場 合 が 多 く,利 用価値

は高 い が,そ の反 面 で はエ ネル ギー レベル が高 い ため

に種 々の環境 因 子 によ って結 晶へ の転 移 な どの物 理 化

学 的安定 性 や化学 的安 定 性 にお け る問題 点 が あ り,製

剤 化 に お い て難 点 を有 して い る。 この よ う な観 点 か

ら,固 形 製剤 を製 造 す る場合 には結 晶形 や結 晶性 の違

いは,溶 解 度 や溶解 速度 な どの物理 化 学 的特性 の みな

らず化学 的安 定 性 に も影 響 を及 ぼす ので,原 薬 結 晶の

Fig. 11 Effect of grinding on the solid-state photostability of α-and β-

forms of nicardipine hydrochloride

(○,●): α-form; (□,■): β-form. The open and closed symbols

represent intact and ground powder for 150min, respectively.

374 (42) 粉体 工学 会誌

Fig. 12 Effect of particle size on the photodegradation rate constant of

nifedipine powder and its tablet

a, powder; b, tablet

晶析 工程 や結 晶形 の 品質管 理 が極 めて重 要 で あ るが,

これ らの化学 的安 定性 に関 しては筆 者 らによ る研 究 以

外 に は報 告例 はほ とん ど見 当 た らない。

フロセ ミ ド結 晶のⅠ 形(安 定 形)は 過 酷照 射 条件 で

もほ とん ど着 色 せず,外 観 的 には安 定 で あ った が,他

の結 晶形 や擬 似多 形 は著 し く着 色 し,か つ結 晶 間 で有

意 な相違 が認 め られ た19)。筆者 らによ って確 認 され た

この よ うな光 安定 性 の相違 に着 目 して,Villiersら16)

はフ ロセ ミ ドの光 分解 反応 に核 形成 及 び核成 長過 程 か

らな る固体反 応 モデ ルを適 用 して解 析 した結 果,1形

とⅡ 形結 晶 の間 で速度 論 的パ ラ メー タに おいて 明確 な

差異 を認 め てい る。 また,筆 者 らは乳 がん治 療 薬 で あ

るクエ ン酸 タ モキ シフ ェ ンに つい て もA形 結 晶(安 定

形)は 光安定 性 に乏 しか ったの に対 して,準 安 定形 で

あ るB形 結 晶 は逆 に極 め て安定 で あ る とい う,対 照 的

な相 違 を認 め た20)(Fig.10)。

降 圧 薬 塩 酸 ニ カル ジ ピ ン21)には α形 と β形 の2種

類 の結 晶形 が存在 す るが,こ れ らを振動 ボール ミル に

よ って粉 砕 した試 料 は,い ず れ もほ ぼ非 晶 質 状 態 と

な った。Fig.11に 示 す よ うに,錠 剤表 面 で の2次 元

残存 率 の経 時変化 は結 晶 間で著 しく異 な り,み か けの

分解 速度 定数 は β形 の方 が α形 よ りや や大 きか った。

しか し,両 者 の差 異 は粉砕 によ って一層 拡大 され,β

形 の光安 定性 は顕 著 に低下 した。 これ は両者 の 粉砕 物

にお ける結 晶格子 配列 の ラ ンダ ムネ ス状 態 に起 因 す る

た めで あ り,融 解 熱 が低下 す る につれ て分解 速 度定 数

が増 大 した ことか ら,こ の薬物 は結 晶性 が低 下 す る ほ

ど熱 力学 的 に も光 化学 的 に も不 安定 にな る ことを 明確

に示 して い る。

f. 粒子 径 の影響

ニ フ ェジ ピ ンの結 晶 と これ を圧縮 成形 した錠剤 につ

いて,FT-IR正 反射 スペ ク トル法 に よ り2次 元 分解

速 度定数 を測 定 した18)(Fig.12)。 粒子 状試 料 の場 合 に

は,粒 子 径 の影響 は明 白であ り,粒 子径 が 増大 す るほ

ど速度定 数 は逆 に減少 し,み か け上,よ り安定化 す る

傾 向 を示 した。 これ に対 して圧 縮 成形 した場合 に は,

表 面が平 滑 で ある ため に粒 子径 の影 響 は完 全 に消去 さ

れ,粒 子 径 の いかん にか かわ らず速 度定 数 は一定 とな

った。 したが って,光 安定 性 を評 価す る際 に は,原 薬

レベ ル及 び剤 形 レベ ルの いず れ にお いて も先 に述 べ た

scale effectを 考 慮 す る ことが重 要 で あ り22),ど の よ

うな実験 系 を設定 す るか に よ って結 果 の評 価 が大 き く

異 な って くるこ とに十 分 に注意 す る必要 があ る。

5. おわ りに

光 に対 して敏感 な固体 医薬 品 の安 定 性 は,光 源側 に

関 係す る因子 に加 え て,試 験 条件 や試 料 の性状及 び粉

体物 性 に よ って かな り変動 す る可能 性 が あ るので,評

価 に際 して は十 分 な科 学 的妥 当性 を踏 ま えて行 う必要

があ る。 また,こ の よ うな医 薬 品の製 剤 開発 にお いて

は,プ レフ ォー ミュ レー シ ョン過 程 にお いて得 られ た

信 頼性 の高 い結果 に基 づ いて,安 定化 の ため の適切 か

つ合理 的 な製剤 設計 や包装 設 計 を行 うべ きで あ る。 な

お,こ れ らの製 剤 設 計 につ いて は,文 献23)を ご参 照

いた だ ければ幸 いで あ る。

Vol.44 No.5 (2007) (43) 375

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